Friday, December 18, 2015

国際経済学II, 第12回, 2015

来週は休講です.また来年お目にかかりましょう.ようやくつかの間の研究モードに突入できます.

講義内容
  • パススルー
    • 為替レートから価格への影響は様々.
  • Jカーブ
    • 貿易収支への影響も一様ではない.
講義中に触れた米利上げですが,実際の為替レートの動きはこんな感じでした:
17日4時(画像真ん中あたり)のタイミングで米利上げのアナウンスがあり,金利平価通り円安に触れています.ただ,翌日12時50分日銀補完措置導入時の個人投資家殺しな動きの方が目立ちますね…


コメント
  • 「将来の為替レートe'が上がると予想される,ということは,たとえば「1年後に金利を2%挙げる」などの発表があったとか海外投資が活発になりそうな要因が起こったなどか?」
    • とてもすばらしい洞察です.将来の金利も将来の為替レートに影響するわけですから,突き詰めて考えていくと,2年後,3年後,またその先の金利も,現在の為替レートに影響することになります.将来の金利がどう動いていくか,が大切なのです.
    • 将来の金利がどう動くかを予想するためには,投資も含めてマクロ経済全体を見通す思考が必要ですね.
  • 「原油価格が下がるとなぜ黒字に転換する手助けになるのか」
    • (輸入数量が大きく増えなければ)原油の輸入に支払う代金は減りますね.輸入が減れば貿易収支は増えるはず.
    • もちろん,原油の代わりに別の何かをもっと輸入するようになる,など副次的な効果がありますので,トータルで見て結局どうか,という点について一概には何も言えないと思います.
  • 「自分が株とかをしていなくても輸出や輸入があるので,生活に大きく関わっているとわかった」 
    • 生活に欠かせない電気にしても,原油や天然ガスを輸入して燃やしていますね.(私は最近電気代でひどい目に遭いました…!)
  • 「単純に円安になると外国に安く物が売れるので多く売ったり,値上げのチャンスがあると思っていたが,Jカーブ効果もあるとわかった」
    • 為替やマクロは,単純化して論じるには難しすぎると思います.
  • 「Jカーブで黒字に変わるにはどれくらいの期間がかかるのか? 輸出は先に契約していてすぐに伸びないと言っていたが,輸入もいっしょでは.」「円安でもすぐに貿易収支が黒字にならないのはなぜか」
    • 答えにくい,よいツッコミありがとうございます.諸説ありますが,為替レートや金利はすぐ動くのに,消費者や生産者はすぐ動けない,というタイムラグが悪さをしている,というのが説明の根幹にあるのではないかと思います.
    • 赤字の期間を特定するのはけっこう難しいです.3ヶ月ぐらいならある,とかいう研究もありますし,そもそもJカーブなど存在しない,という研究もあります.
  • 「来年もよろしくお願いします」
    • お願いします.
  • 「今日もクールでみとれてました」
    • アッー!

Thursday, December 17, 2015

経済政策II, 第12回, 2015

講義内容
  • 労働市場のモデル
    • 労働についても需要と供給の視点で分析する.
    • 均衡にすぐ到達するとは限らない.賃金が高止まりしてしまえば,いつまで失業が長引くかわからない.
  • 次回は比較静学の残りを倒して,レジュメ5に突入します.そろそろ今年度も佳境に入ってきましたね.

コメントより
  • 「名目賃金を下げるのではなく物価を上げる,つまり労働者の技術や生産性を上げることさえできれば,失業者はいなくなるのでしょうか? (実質賃金が下がる?)」 「労働需要を実質賃金で表すのは,名目の支払っている賃金ではなく,その人の能力(実質的な労働力?)を見て,どのような価値を生み出せるかを見ているという認識で大丈夫?」
    • 講義の先回りをしたコメントで,とても鋭いです.
    • 物価を上げる→名目賃金が動かなくても実質賃金が下がる→雇用増,という経路については次回紹介します.肝心の物価を動かす手段として金融政策があるよ,という話がさらにその次の回の議論になります.
    • 細かいことですが,「物価を上げる」 = 「技術や生産性を上げる」,ではありません.労働生産性が高まるような変化は,労働需要曲線を右側にシフトさせることで表すことができます.ロジックとしてはとても似ています.中級ミクロ経済学をしっかり学ぶと,その微妙な違いを知ることができるでしょう.
    • 実質的な労働力を見て,という理解でさしあたり大丈夫です.(より正確には,限界的な,という言葉も必要になりますが.)
      • ちゃんとやると時間切れになりそうなのであいまいな説明になってしまいましたが,今後は名目ベースでの議論にしてもよいのかもと思いました.まぁ来年度この講義は不開講になりますが.
  • 「賃金が高くなれば労働者も増えてよくなると思っていた.沖縄県は賃金も低く,労働者は増えると考えられるのだが,なぜ沖縄は失業者が多いのか.むしろ,最低賃金を上げた方が,労働者は増えやすいのか.」
    • 賃金は需給のバランスの中から結果的に決まる(内生)変数です.どういう原因で賃金が上がったか,によって善し悪しの判断は異なってくるかもしれません.
      • 今の政権は賃金を上げよう,と躍起になっているようですが,どういう政策ロジックを持っているのかわかりにくいと感じています.
    • 労働需要曲線を左にシフトさせていった状況を想像してみてください.均衡賃金は低くなり,失業者も増えそうな予感がしませんか? 労働需要が左側に位置する,つまり企業が労働者をそれほど欲していない,という理由はいろいろありそうです.生産性が低い,というのが最有力候補ですが.
    • 最低賃金を上げた方が雇用が増える,というシナリオはもちろん考えられます.求職者が職探しにいっそう努力するようになる,企業側の独占力を削ぐ,などです.一方で,若者や低技能者の雇用機会を奪いスキルの蓄積を妨げる,企業が人件費を価格に転嫁して物価が高まり実質賃金が下がる,など副作用もありえます.最終的には政治判断にゆだねざるを得ないですね.
    • 最低賃金は経済学と法学とで対立が生じやすいテーマの代表です.大内伸哉・川口大司 (2014) 『法と経済で読み解く雇用の世界(新版): これからの雇用政策を考える』有斐閣,はかなりおすすめ.
  • 「労働供給が変わらず労働需要が変われば均衡も変わるのか?」
    • 2つの曲線が交わるところを均衡としていますので,どちらかの曲線が動けばもちろん変わりますね.講義でやったように労働供給曲線が垂直だと均衡雇用量は変化しませんが,均衡賃金は変化しますね.
  • 「沖縄の最低賃金は677円→693円になりました」
    • ありがとうございます.来年は700円台に乗りそうですね.
  • 「最低賃金は名目賃金か?」
    • 制度的には名目(693円,とか)で定められています.ただし,この名目最低賃金率を決めるときに政府や審議会のメンバーはインフレ率も当然考慮しているのではないかと思います.
      • 政府の役割については,大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』 日本経済新聞出版社,が鋭い指摘をしています.(日本経済研究センターでその元となるコラムを読むことができます.)
  • 「供給のグラフは,どんなに賃金が上がっても下がっても垂直か?」
    • 現実には,どんなに賃金が変化しても労働供給が反応しない(垂直),ということはありえません.疑問はもっともです.講義で扱っているグラフは,均衡とその周辺だけを切り取って単純化したもの,と考えてください. 
    • 実際にグラフがどういう形状をしていると考えるのが自然なのか,はデータに聞いて確かめることになります.
  • 「均衡賃金は,上がったり下がったりする変化はあるか?」
    • 上がるかもしれないし下がるかもしれない,というシナリオを考えることは可能だと思います.ダイナミックなモデル化を行えば賃金の動きを複雑にすることは可能です.
    • 難しい定式化に挑む前に,シンプルなモデルの成り立ちを深く理解することを優先してください.
  • 「60歳までに1億かせぐってタイトルの本にもそのようなことが書かれていたのを思い出した」
    • 1億ぽっちだと目標がこぢんまりとしていませんか.
  • 「市場の多様性を実感することができた」
    • 今学んでいるモデルは,企業も労働者もみんな似たもの同士,という多様性の乏しい世界を暗黙に想定しています.想像力を自由に働かせると同時に,論理を丁寧にたどっていただけるとうれしいです.
  • 「2015年はお世話になりました.2016年もしっかりがんばりたいと思いますのでよろしくお願いします」
    • こちらこそお世話になりました.
  • 「今日はわかりやすかった」「とてもわかりやすかった」
    • ありがとうございます.

Sunday, December 13, 2015

国際経済学II, 第11回, 2015

教えるためにモダンな国際マクロを少しずつ独習しているが,様々なエージェントのBSが為替リスクにさらされているという事実をちゃんと考えることが大切なのだと感じる.

講義内容

  • 金利平価(カバー無し)
    • 金利差を利用して裁定取引できないように為替レートの動きが決まる.
    • 現実には裁定取引をするにはリスクが伴うし,そのリスクを許容できる能力にも限りがある.金利平価が厳密に成り立つわけではない.
コメントより
  • 「$i^*$が上がったときなぜ左辺の$i$も高くなるのかわからなかった」 
    • いえ,左辺$i$ (と$e'$) は動かないものとして考えてください.左辺を動かさずに等号を成り立たせるためには,右辺も変化しない必要があります.$1+i^*$が上がったときに同じ割合で$e$が上がれば右辺はトータルでみて変化せずに済みますね.
  • 「外国で運用する場合,金利だけでなく為替についても考える必要がある」 
    • 某同僚氏は為替リスクをヘッジせず外貨建て預金を持っていて大変なことになっていたそうです…
  • 「計算方法はわかったが少し難しかった.外国と裁定取引することが難しいこともわかった」
    • 難しいことをしなければ儲けることは難しいと思います.
  • 「計算は難しいがなんとなくメカニズムはわかった気がする」
    • 数式を頭に丸暗記するより,メカニズムを理解することのほうが大切です.
  • 「難しかったけどちゃんと理解できたのでよかった」「理解できた」
    • よかったです.
  • 「先生はどんな会社の株を持っているの?」
    • ラーメンのスープと同じく投資戦略はヒミツにするのがお約束ですが,特定の企業に執着しないようにはしています.
    • アカデミックな定石を知るには,バートン・マルキール (2011) 『ウォール街のランダム・ウォーカー (10th)』日本経済新聞出版社,が読みやすくておすすめです.


Thursday, December 10, 2015

経済政策II, 第9-11回, 2015

中間試験お疲れさまでした.得点分布は以下の通りです.

  • 71人受験, 平均80.18, 中央値81, 標準偏差17.6, となります.まぁまぁよかったのではないでしょうか.
  • 沖縄の経済成長について自由な論述を出しました.内容の出来不出来は問わずボーナス点を加える形にしていますが,めだった解答について思ったことを適当に述べます:
    • 「県内では内地企業ばっかりで沖縄に所得が残らない」
      • アネクドートとしてこうしたマル経タイプの議論が流布していますが,経済学的には論点設定の筋が悪いように感じます.プリミティブな原因を尋ねているのに,観察される実態を答えている,という点で適切な応答になっていません.(学生にそこまで求めていませんが.)
      • もし資本が流入しなければ賃金や就業はどうなっていたか,外資のテクノロジーをまねるチャンスになるのではないか,内地企業には県民を育てる誘因があるのではないか,交渉力が低い原因は何か,資本の所有権を持っていない理由は何か,などを子細に検討しないと功罪を問えないのでは.
    • 「基地があり土地が狭い.」「土地が広ければ農業が拡大して成長できるのでは」
      • 経済成長に関する研究で,土地の広さそのものこそが大事,という結論のものはきわめて少ないのではないでしょうか.基地の賛成・反対といった政治的思想・信条の議論は保留して,土地が広くなれば発展する,というのはロジックとしてはかなり弱いと思います.土地が広くなったら我々の知性や技術が高まるんですか? (人口密度や不動産価格や土地の所有権の分配が大事,という議論ならまだ理解する余地がありますが.)
      • 那覇市内の渋滞が深刻なのも土地が狭いと感じる一端かもしれません.ただ,渋滞は政策(交通・都市計画)の失敗ではないかとも思います.
      • 農業が発展しなければ成長できない,というのはろくに貯蓄していない未開の後進国などでは当てはまりそうですが,沖縄でも果たしてそう言えるのでしょうか?
    • 「やる気のある優秀な人が県外に出て行く」
      • スキルある人の活躍の場が乏しい,というのは私も憂慮するところであります.それと同時に,そういう人は出て行った方が本人のためにも社会のためにもなると思います.
        • 沖縄の場合unskilled laborの供給が多く,unskilled-biased technological changeが進んでいる,それがさらに技能蓄積を阻害しておりbrain drainも進行中,という印象があります.どこかでvicious cycleを断ち切らねばならないと思います.
    • 「輸送費用が高いのでハブを推進すればよい」
      • 日本は落ち目,という気持ちを持って東アジアの地図を眺めると,ハブというかただの辺境にしか見えないんですけどねぇ.
    • 「政府に頼りすぎ」
      • 政府が効果的にお金を使ってくれればよいのに,と思います.
ちなみに,個人的な直感では,教育と金融が二大ボトルネックだと思っています.突き詰めて科学的に検証したわけではないのであくまでも直感ですが.



講義内容
  • 45度線分析
    • 短期的には,総需要がGDPを決める.
    • 現実経済を簡単な方程式を使った数学的システムに還元し,それを分析する,というのが経済学で広く行われるアプローチである.
  • 労働市場の指標
    • 完全失業率や労働力率の定義を正確に押さえよう.
    • 完全失業率は「完全」な指標というわけではなく,数字から漏れる人々の姿にも想像を巡らせたい.
    • M字カーブの変化は,多様な働き方が広まって女性が働きやすくなっているという事実を反映している.
      • 家電の発展が女性の労働参加を促した,ということについてはGreenwood, Seshadri, and Yorukoglu (2005) "Engines of Liberation"などの議論がある.

コメントより
  • 「乗数効果が失敗した事例などはないか?」
    • 90年代前半,バブル崩壊後の日本はどうでしょうか.不良債権処理など金融市場の機能不全に優先して対処すべきところ,ケインズ的な財政政策ばかりが先行し,財政赤字を積み残し生産性成長を低迷させた,という議論もあります.
      • たとえば福田慎一 (2015) 『「失われた20年」を超えて』NTT出版,に丁寧かつ平易にまとめられています.
  • 「乗数効果は短期的な解決しかしていないのか? 増えた所得を使ってしまうとまた失業者に戻ってしまうのでは? 長期的解決策はないのか?」
    • とてもよい洞察です,感動しました.
    • ここのモデルは,ある時点のGDPの水準をその時点だけ引き上げる,と言っているだけで,来年以降どうなるかについては何の説明もありません.もう少し洗練されたプロ向けのモデルでも,長期的なトレンドを伸ばすかどうかという議論とは断絶があります.
    • 長期的にどうすれば,というのは経済成長論の議論になりまして,少し分野が違います.ワイル(2010)『経済成長』桐原書店,や,ジョーンズ (1999) 『経済成長理論入門 : 新古典派から内生的成長理論へ』日本経済新聞社,その他マクロ経済学の教科書にあたるよいでしょう.
    • 技術や知識を積み重ねていくことや資源を無駄なく使うことが長期的な成長につながる,というのが一般的理解ですが,そのためにどうすればという手段については様々な考え方があります.市場メカニズムを利用しつつ,素朴な市場メカニズムではうまくいかない部分は政府が補完しつつ,というのが現代経済学における典型的な発想だと思います.
  • 「政府が1兆円増やしても,自分たちも1兆円分増えるという意味か?」
    • 分配面がどうなるかはこのモデルからはわかりません.経済全体で集計して見れば,自分たちの所得も1兆円分増えます.
  • 「一次方程式が出てきて難しいなと思った.財政政策も難しかった」「連立方程式で少しつまづいた」「よく理解できた」「難しかったがなんとなく理解できたと思う.だが忘れてしまいそう」
    • 数学はサボるとすぐ忘れますね.中学高校時代の記憶がある若いうちに,数式込みの一歩進んだ経済学に触れておいてほしいと思います.
  • 「産休中だと非労働力人口? メルカリやユーチューバーは労働力人口?」
    • 講義では紹介していませんがよく気づきましたね.
    • 仕事自体は辞めずに出産や育児で一時休む場合は,「休業者」扱いになります.休業者は労働力人口(就業者の一部)としてカウントします.
    • ユーチューバーなども,一定以上稼いでいる場合は確定申告が必要で,働いているものと見なされるのではないでしょうか.ただ実際に統計データを集める時点では,うやむやになってしまいがちな予感はします.統計データには反映されないような,インフォーマルでアンダーグラウンドな世界があることには数字を見る上で注意が必要ですね.
  • 「完全失業者の条件「やる気」はどうやって調べるの?」
    • 自己申告になります.就活をしている,あるいはその結果待ち, という状況かどうかを尋ねます.ぼんやり就職したいなーと夢見ているだけではダメで,ハローワークに申し込んだとか,求人サイト経由で応募したとか,実際に行動した事実があるかどうかがポイントとなります.
  • 「就活はしていて仕事はあるが,企業側に断られた場合,この人は完全失業者? 仕事があるので完全失業者とは言えないと思った」
    • 講義で言う「仕事がある」とは,職業に就いている,という意味です.求人がある,という意味では使っていません.あいまいな表現ですみません.求人自体は失業者でも労働者でもありません.
    • 就活中で断られて未だに就職できていない人,は典型的な完全失業者になります.
    • 定義に照らし合わせながら,条件を満たすか考える,という思考実験は大切で,よいコメントだと思いました.
  • 「なぜ沖縄の失業者は多く全国は多いのか?このグラフから経済の関係はあるのか?」
    • 失業とマクロ経済政策はかなり密接です.これは今後の講義で出てきます.
    • 沖縄の失業率が高い理由はいろいろありそうですし大切な疑問だと思います.仕事の機会や情報にアクセスしづらい,他府県に移住するコストが高い,などもありますし,生産性が低く沖縄で操業しても儲からないので企業がおらず労働需要が少ない,という見方もできるかもしれません.複雑骨折みたいなものですね.
  • 「完全失業者とそうでない人の区別がわかった」「景気分析の要素の一つだと捉えた」「データが多くあってわかりやすかった」
    • データは自分の勝手な思い込みから自由になる手がかりとなるでしょう.
  • 「自分探しを早めに終え,早めの就職を心がけようと思う」
    • そうだね. 
  • 「男性は結婚が遅くてもいいと思う」
    • そうだね(涙)

Monday, December 7, 2015

国際経済学II, 第8-10回, 2015

やっと中間試験の採点が終わりました.得点分布は以下の通り.

  • 98人受験して,平均72.4, 中央値74, 標準偏差16.7, であった.
  • 満点が2人.すばらしい.
 悪くはないけど,ちょっと油断しすぎですね.せめてGDPや国際収支の恒等関係ぐらい覚えましょう.手応えなかった人は期末で挽回してください.

カンニング濃厚な答案が少なくとも2組(4人)見つかりましたが,普通に採点しても全員60点未満だったのでそのまま滅びるといいと思います.



講義ノート作成が追いつかない…

講義内容
  • 為替制度の歴史
    • 金本位制→ブレトン・ウッズ→変動為替相場制,という流れは最低限押さえておきたい.
    • ヨーロッパはハイレベルな統合に向かっている.通貨も一部を除き共通化.
      • EECをECCと間違って板書したかも? レジュメが正しいです.
  • 購買力平価
    • 為替レートは一物一価の法則が成立するような水準に落ち着くはず.だが,短期的にはあまり成り立たない.

コメントより
  • 「歴史でおすすめの本はある?」
    • ジャンルにもよります.経済史だと,猪木武徳 (2009) 『戦後世界経済史: 自由と平等の視点から』中央公論, あるいは,ジャレド・ダイアモンド (2000) 『銃・病原菌・鉄』草思社, アブナー・グライフ (2009) 『比較歴史制度分析』NTT出版,です.難解ですが(数式こそ出てこないですけど),最近亡くなったノーベル賞受賞者のダグラス・ノース (1994) 『制度・制度変化・経済成果』晃洋書房,あたりも.
    • 経済学から離れると,いろいろありますが以下の通りです.
      • 日本史:
        • 網野善彦の一連の著作,
        • 東京大学史料編纂所(2014) 『日本史の森をゆく: 史料が語るとっておきの42話』中央公論新社,
        • 服部英雄 (2014) 『蒙古襲来』山川出版社,
      • 西洋史:
        • 近藤和彦 (2014) 『民のモラル: ホーガースと18世紀イギリス』筑摩書房,
        • 角山栄 (1980) 『茶の世界史: 緑茶の文化と紅茶の社会』中央公論新社
        • 森田安一 (1998) 『スイス・ベネルクス史』山川出版社
      • 東洋史:
        • 歴史小説の部類に入りそうですが,三国志や史記列伝は教養として押さえておくとよいと思います.たくさんありますが誰が書いたものでもよいです.
  • 「固定相場の時代があったとは知らなかった」「世界の仕組みが第二次世界大戦以降に作られたものであることがわかった」
    • 固定相場ってのはこれまた不思議な制度なんですよね.
    • ブレトン・ウッズ会議はまだ戦時中(44年) ですけどね.
  • 「とてもよい知識となった」「歴史を学べた」「EMSやECははじめて聞くことで勉強になった」
    • よかったですね.
  • 「なぜイギリスはユーロを使用していないのだろう」「固定相場のメリットはあるのか」
    • 最適通貨圏の議論はレジュメ6で学びます.他のユーロ圏とは景気の動きが少し異なるようで.イギリスと一口に言っても,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドといった異質な地域を含んでいることもあるかもしれません.
  • 「金本位制の頃のレートはどう決めたのか気になった.なんとなくで決めると,物価の違いで貿易などがおかしくなりそうなので」
    • とてもいい線を突いたコメントです.レートは法律で定めてしまうので,政治家・官僚が決めていたわけですが,こうして決まるレートが市場で決まるレートと一致するとは限りません.貿易(経常収支)や物価・マネーストックを通じておかしくなるわけですが,このあたりのロジックを適当な経済モデル(マンデル・フレミング・モデルなど)抜きに説明するのは私には難しそうです.
  • 「大恐慌とリーマンショックは何が違うのか?」
    • 専門外なのでよくわかりませんが,原因も帰結も市場環境(特に金融市場と労働市場)も大きく異なるのではないでしょうか.
  • 「スーツ似合ってる!」
    • 普段もですよ!
  • 「スーパーとコンビニでは,同じ物を売っているけど値段が違うので,一物一価の法則が成り立っていないのではないか」
    • 一物一価が厳密に成り立つ世界というのはあくまでも高度に抽象化された理論上の話だと思っていただければ. 単純な理論にはスキマがあり,そこを埋めるのはとても大切です.よいコメントですね.
    • 同じ商品でも,購入までの所要時間などを加味すると「同じ物」とは言えないかもしれません.スーパーとコンビニの価格差は,輸送費用などによる裁定可能性の限界だけでなく,付随するサービスの違いも反映しているかもしれません.
  • 「基地の中と外とでは物の値段って違いますか?」
    • 売ってるメニュー自体にけっこう差がありますし,競争環境が異なるので比較は簡単ではないですね.私はあまり進入したことがないので実態はわかりません.
    • 購買力平価を愚直に解釈すると,基地の内外で価格差がないような水準に為替レートが決まっているはずです.
  • 「円の過小評価→爆買い,がわかった」
    • 安売りしているわけですな.
  • 「ビッグマックが他国より安いことは初めて知った.地元のマックにも外人が多いので納得した」
    • そうなんですね.
  • 「ビッグマックの例がとてもわかりやすかった」「レートでどれだけの差があるのかも非常に興味深かった」「聞いたことがある言葉の意味を改めて勉強できてよかった」
  • 「アベノミクスが始まり日本はインフレーションになってきていることがわかった.でもそれは日本が好況と言えるのか?」
    • 現段階では日本は期待されたほどインフレにはなっていません.また,好況らしい好況は消費増税前まででした.
  • 「復習しないとごちゃごちゃになってしまいそう」
    • 教科書も読むとよいですよ.

Tuesday, November 24, 2015

経済政策II, 第8回, 2015

連休も何かと忙しく採点にも作問にも着手できない…

講義内容
  • 租税・公債の仕組み
  • リカードの中立命題
    • 公債を発行しても,将来の税負担に備えて我々は貯蓄しなければならない.
  • SNAにおける政府部門
    • 租税はただの所得移転.マクロ的な視点を持たない一般人は,間違った理解をしていることが多い.
コメントより
  • 「公債を発行して今は増税しなくても済むけど,増税したら返すお金や利息が増えて大変では?」
    • 今増税するか,後で増税するか(今は公債発行でしのぐ),の2つの選択肢を比較しています.後で増税する場合は利息が増えて,返済する総額が増えますね.
  • 「公債償還に伴う利払い費は誰に対してか?国民に対して行われると理解している.よって利払い費は日銀を介して国民・銀行に,税収(日銀が得た利益は税収として徴収される)する.したがって,国民,銀行,日銀・政府に分配されると思った.ある意味で利払い費により貨幣供給をうながすか?」
    • コメントが難解ですがいくつか気になった点を整理します.
      • 政府は通常国民に公債を売っていますので,利子を払う相手も基本的には国民です.
      • 国庫の管理は日銀ではなく財務省が行っています.(ただし公債を誰がどれだけ持っているか,という所有権の所在は振替機関である日銀が管理しています.)
      • 日銀が得た資産運用益は国庫納付金として政府に還元します.いわゆるシニョレッジというやつですね.
      • 利息を払うと貨幣供給が増えるか,については一般には違うと思います.1億円分の利息を払うのに1億円分の税金を徴収したら,市場に流通するマネーの変化はプラスマイナス0円ですね.
  • 「公債になるといろんな用語が出てきて難しかったけど勉強になった」
    • 公債って言葉自体がなじみないですからね.
  • 「少子高齢化の中で,高齢者は年金や生活保護をもらい,若者の負担が大きすぎるのではないか.一人っ子政策を行ってきた中国は大変なのでは」「歳出の内訳がわかってよかった」
    • たしかに中国も高齢化に備えねばなりませんね.世代間の人口バランスもさることながら,一人っ子政策は男女比も偏らせているようです(男子が女子よりも多い!).
  • 「どうして増税が必要なのか世の中の仕組みが少しわかってきた」
    • 世代間の負担の分かち合いという視点も大切ですね.
  • 「教室がとても暑く換気もしていなかったのでとてもきつかった.本当に暑いときはクーラーを利用したい」
    • 最高気温が30度あったようです…本当に11月なんでしょうか.

Thursday, November 19, 2015

国際経済学II, 第6-7回, 2015

これまで生きてきて様々な災害や暴挙を見聞きしてきたが,今回はとりわけつらく感じた.音楽やスポーツや食事といった,文化的なものが標的となったせいもある.

理性的な対話が望めない狂信的異常集団,とはどうも思えない.彼らのインセンティブや置かれた環境を理解しないことには何とも語り得ないだろう.そこで慌てて池内恵 (2015) 『イスラーム国の衝撃』文藝春秋,を読んだ.たしかに彼らの計算高さを伺うことができる.(知っておきたかったファクトが一通り簡潔に整理されており,全体的に端正でとてもよい本だった.一般に,テレビやネットでお勉強するよりも,プロの本や論文をひとつ読んだ方がよいと思う.)



締め切りラッシュで忙しいため少し間が空いた.時間の使い方を少し間違えたら詰む予感がするほどピンチではあるが,中間試験前なのでいったん更新.

講義内容
  • 国際収支の実態
    • 経常収支の主な構成要素は貿易・サービス収支.ただ近年は所得収支も大きくなっている.
    • 原油の輸入動向は経常収支の動きに影響を強く持っている.
  • SNAと国際収支
    • 国際収支統計はSNAと整合的にデザインされている.
    • 経常収支の黒字・赤字は国際的なお金の貸し借りの問題であることがうかがえる.
  • 外国為替市場の基本
    • あまたの市場参加者が絶え間なく膨大な取引を繰り広げている.
    • 為替レートは外国通貨の(相対)価格,と考えると混乱しにくいはず.
    • フォーワード取引を使えば,為替変動リスクに対処できる.
    • 資産や負債を外貨建てで保有すると,為替変動リスクにさらされることになる.こうしたリスクは,資産・負債をマッチングさせることでリスクをバランスさせることで回避できる.

 コメントより
  • 「基軸通貨のメリット・デメリットは?」
    • よい質問でした.教室でお答えしたときは,(非ランダム)ネットワークの中心として基軸通貨が存在することとしないことの違いでもって説明しました.質問に答えたことにならなかった気もするので少し補足します.
    • 基軸通貨を持つ国にとってのメリットは,自国の通貨のままで国際取引が可能なことでしょう.為替変動リスクに直面せず済みます.貨幣の取引手段としての役割が強く発揮されます.
      • いわゆる通貨発行益も生じます.講義後にちらっと言った法外な特権(exorbitant privilege)について詳しくは,B. Eichengreen (2012) 『とてつもない特権: 君臨する基軸通貨ドルの不安』をご覧ください.
    • 参考書の橋本・小川・熊本『国際金融論をつかむ』の第7章にも詳細な議論がありますのでご参考に.
      • (私は専門でないので,P. Krugman (1995) "Currencies and Crises"に出てくる整理で理解が止まっています…)
  • 「ドルは基軸通貨で,英語も全国共通語とアメリカが中心に経済が動いていることがわかった」
    • たしかにそうなので英語で発信されている情報を理解できるよう勉強しましょう.
  • 「ヘッジファンドについてもっと知りたい」
    • オーソドックスな金融理論の勉強からしてみては.
  • 「日本にもヘッジファンドは存在するか?」
    • もちろん.ただ実態は私もよく知りません.
  • 「将来活用していけたらいいなと思った」 
    • 県内の企業に就職したとして,輸出入・為替と関わるチャンスはたくさんありますよ.
  • 「為替レートの意味がわかった」「計算は理解できた」
    • いいね!
  • 「為替レートはどのように決まるのか?」
    • それがわかれば苦労しません.が基本的な理論はレジュメ5で学びます.もっと詳しく,という場合は国際金融の教科書を読みましょう.
  • 「円高のときにいろいろ買ったことを爆買いの話で思い出した」
    • 円安になった今は,CDや洋書を買うのがためらわれます.
  • 「近いうちに台湾に行きますがどうですか?」 
    • 4, 5回行ったことがありますがおすすめです.都会も田舎も見所たくさん,コミュニケーションも取りやすく治安も良いです.日中台の国際関係史も勉強してからいきましょう.
  • 「テストでは高い点数をとれるように復習をしていきたい」「テストがんばります」
    • がんばってください.講義内容をマスターしていればなんとかなるような問題を作ります.

Wednesday, November 11, 2015

経済政策II, 第7回, 2015

講義内容
  • 総需要・総供給モデルつづき
    • 政府が財政政策や金融政策を通じて総需要を調整し,景気をコントロールすることを総需要管理政策と呼ぶこともある.
    • 総需要曲線や総供給曲線の傾きによっては,政策効果が期待通りに発揮されないこともある.
    • 成長の基盤となる経済制度を整えることも前提として大切.
    • コストプッシュ中に総需要を増やすとけっこうなインフレになることも.
  • 財政
    • 政府にも予算制約がある.
    • 返せない,あるいは返さない方がまし,となったらデフォルトとなることもある.

コメントより
  • 「なぜ2つのグラフの形はこんなにいびつなのか?そして,このグラフから不況を見抜くのか?」
    • 直線のグラフは直感的にはわかりやすいですが,あくまでも現実を近似したもので,現実そのものではありません.
    • 理論上は,各曲線が垂直になる状況を表現することができます.ただ,こうした理論的基礎はちょっと難しいので講義ではカバーできません.マクロの教科書で理論的な背景を学べば,もう少し経済状況を豊かに想像できるようになると思います.
      • たとえば労働力や資本をフル稼働させていてこれ以上生産するのは容量オーバー,という状況では総供給曲線は垂直だと解釈できます.また,流動性の罠と呼ばれる状況(後半の講義でやります)(+かなりアドホックな仮定をおけば)では物価が動いても総需要は動かず,総需要曲線が垂直な状況を導出できます.
  • 「アベノミクスと言った政策の分析も個人見解という形でも導き出すことのできる要因になるのではないかと思った」
    • 文意がよくわかりませんが,いろいろ分析できる便利な道具ですので身につけておくとよいと思います.
  • 「シンガポールなど現在経済成長中の国は総需要・総供給をうまく使いインフレを起こしているということですよね?」
    • 多くの国では多くの政治家・官僚が総需要・総供給モデル的な考え方を理解しているのではないかと思います.
    • ついでにシンガポールでインフレが起こっているかどうかデータを見てみました(下図).インフレを起こしているというよりは,落ち着いた状態で制御できている,という印象です.
      日本とシンガポールのインフレ率比較. 出典: World Bank, World Bank national accounts data.
  • 「社会主義で経済がうまくいっている国ってあるんですか?」 
    • 日本(笑)
  • 「がんばったら報われる社会の方が人生が充実すると思います」
    • そうですね,若いうちはぜひがんばっていろんなものに挑戦してください.同時に,挑戦したけどあえなく失敗した人にもやさしくできるといいんですね.



経済政策II, 第6回, 2015

講義内容
  • 需要と供給,市場均衡
    • 不明な点は遠慮なく質問してください.
  • 総需要と総供給
    • インフレにも2種類ある.
    • このフレームワークだと,インフレ・デフレはあくまでも結果.より本源的な原因がどこかにある.
      • 「デフレが不況の原因」は,筋の悪い政治的宣伝文句だと感じる.(もちろんzero lower boundの脅威は知られているが…)

コメントより
  • 「シフトはどういうときにわかるのか?」
    • 価格以外の何らかの要因で需要・供給が動いた場合にシフトします. 需要や供給が増えたり減ったりする要因自体は山ほどあり,ケースバイケースで考えていくしかないと思います.
      • プロの場合,消費者や生産者がどういう状況に直面しているかを整理して,どういう制約の下でどういうインセンティブを持って意思決定しているか,定量的にはどうなのか,を考えます.
  • 「調べたみるとキャッチアップインフレもあり,それだけ経済は複雑なのだと思った」 
    • インフレと一口に言っても,様々な要因があります.世の中にはなんでもかんでもインフレ・デフレに還元しようとする人もいますが…
    • 日本のwikipediaは,経済学については偏った記述が多い気がします.
  • 「景気と物価の上下は必ずしも同じ方向にならないとわかった」 「よくわかった」
    • 単純なモデルなりに示唆するものは多いです.
  • 「習ったことがないところにきたのでしっかりと覚えたい」「去年国際経済学でやっていたが忘れていた」
    • 総需要・総供給モデルは初登場ですよ.
  • 「均衡は前期習ったのでもっと応用して」
    • 国際経済学Iではやりましたが経済政策Iではやっておりません…余裕がある方はマンキューでも読んでください.講義スピードが遅いなぁとは思っていますが…
  • 「ディマンド・プルやコスト・プッシュは初めて聞いた」「マクロの本に載っているのかなあ」
    • 政策論争の際にこの手の用語を目にすることがあります.もちろんマクロの教科書にもよく載っていますよ.高度な教科書にはあまり載っていませんが.

Wednesday, October 28, 2015

経済政策II, 第5回, 2015

週末は学祭ですね. お祭りで楽しむのもよいですが,後述するように,読書の秋になるといいですね.

講義内容
  •  SNAの続き
    • 名目成長率は,実質成長率とインフレ率に分けて(近似的に)考えることができる.名目/物価=実質,と分数で覚えるのと合わせて覚えておくと便利です.
    • 一人当たり,は要するに割り勘.
  • 需要と供給
    • もっと詳しく知りたいときはミクロの教科書を読んでください.図書館にたくさんあります.

コメントより
  • 「サービス業だったら生産はできても支出は難しくないか?あと,企業が生産した分のお金はどうなるの?」
    • ここでの「支出」は,誰かがそのサービスに対して支出している,という意味です.難しいも何も,生産していればそれと同時に誰かが支出しています.
      • ここでサービスを支出しているのは,サービス業者自身とは限りません.国内の誰かが支出しています(輸出の場合は国外の誰かになりますが).
    • 「生産した分のお金」が何を指すのかよくわかりません.所得面の議論を思い出すと,付加価値は誰かの所得に帰属します.
  • 「GDPデフレーターや労働生産性は実態を把握する重要な要素であると感じた」 
    • 特に労働生産性を高めるにはどうすればよいかは深く考える必要があると思います.
  • 「4年生ですが来年の講義で統計学が学べたらいいと思っています」「たしかに同じことをやっている感じ.統計学やりましょう(笑)」「来年の講義を増やしてほしい!経済政策をさらに深めた講義はすごく面白そう」「確かに入門が多めで同じことを習う機会が多い」「地域経済学は面白そう.そのような応用もあったら勉強も楽しくなると思う」
    • 様々なご意見ありがとうございます.発展的な内容にも関心を持っていただきうれしいです.検討します.
    • 計量経済学に相当する科目があるといいとは思いますが,数学を迂回するとなると何がどこまで教えられるのかなかなか見当が付かないですねぇ.
  • 「やったことあるような内容でつまらなかった感じ.もっと実用的なのをしてほしい」 「実務的な内容がかなり盛り込まれた講義があれば面白いと思う」
    • 私は実務家ではありませんので,現場の知識を教えることはできません.政治の世界とも縁がないし関わり合いたくもないので,今後ともそういう話は無理です.フィールド実験の結果などはかいつまんで説明できそうですが…
  • 「本を読む習慣をつけたい.先生はどう習慣づけたのか?どの時間を使って読む工夫をしているのか?」
    • 最近ブームの教育経済学では,幼い頃に親が絵本を読み聞かせた経験などが大事との話もあるようです.将来子育てするときは小さい頃,特に小学校に就学する前に愛情を注ぐといいですね.親の協力・家庭環境も大事です.
    • 大学生になってから習慣づけるにはどうすれば,とはなかなか難題ですが,読書を楽しむことが第一だと思います.好きこそ物の上手なれです.新しい考え方や知識に触れ,自分が成長できる感覚をつかんでいただければと思います.
    • 楽しめるようになるまでは砂を噛み続けるような拷問かもしれません.それを乗り越える方法にこれといって正解はないかもしれませんが,たとえばやさしい本でもいいからまずはたくさん読んではいかがでしょうか.私の経験では,小学生の頃に1000ページぐらいある西遊記を読破したのが自信になった覚えがあります.内容はよくわからなくてもとにかく分厚いものを読んで,少し大人になった気分を味わったのが今につながっている気もします.中学生の頃は,読みやすくて分量がある司馬遼太郎などをひたすら読みました.まずは分量をこなして,達成感を味わい、読書の抵抗感をなくし,語彙力を高めなければと思います.その中で,人生を衝撃的に変えるような本との素敵な出会いを果たしてください.
      • 長い本でなく,短編をたくさん読むのもよいと思います.
    • 私の場合,大学受験を通じて国語の読解力を強化できたのも大きく役に立ちました.難しい本を読むには,それなりの作法を習得する必要があります.ただたくさん読むだけでなく,読み方も覚えねばならないと思います.論理的な読解の仕方は中学・高校では必ずしも教わりません.自分で適切な参考書を見つけて挑戦する必要があると思います.難しい本が読めるようになると,読書の幅も広がり,読書だけでなく様々な知的活動をいっそう楽しめるようになると思います.
      • 多くの方はロジカルな構造を読み取る能力をまるで鍛えていないという印象を持っています.まだまだみなさんの吸収能力は未開花です.世界の面白さを感じ取る力はやり方次第で伸ばせます.当然,伸ばすともっと人生は面白くなります.
    • 私の場合,読書を楽しむどころか愛してますね.愛や情熱も大事です.中学生の頃は,将来失敗して貧困のどん底に陥っても,家族友人から見放されても,本さえ読めれば人生を豊かに過ごすことができるだろう,という展望を持っていました.究極的には読書だけが救いになりえると思って,読書にすがるより他なかったんです.今も昔も根暗で悲観的でして.また,本も読まずにテレビやパソコンにかじりつきながら日々を無為に過ごす大人にはなりたくないな,とも思っていました.知性ある大人になりたい,というあこがれが人生設計の中に漠然とあったような気もします.こうして,読書をするのが当たり前だと認識するようになりました.今の私が十分に知的かと言われると困りますが,習慣をつけるための一般的なアドバイスとしては,将来どういう自分になりたいか,どういう自分になる可能性があるか,そこに本は必要か,を改めて考えるとよいでしょう,となります.経済学や数学の教科書などは,楽しいからというよりは,将来絶対必要だから読む,という義務感で読んだものも多いです.読書が必要であることを自分なりに納得できるとよりよいと思います.
      • 大学生の頃は,服や食事はなるべく節約するが読書に金を惜しんではならない,という俺ルールも課していました.食事は消費ですが,読書は消費でもあり投資でもあります.読めば読むほど雪だるま式に大きくなり,必ずいつか元は取れるという確信を抱いています.
    • 研究の道に進んでからは,研究と関係がない本はあまり読めなくなりました.本に載るようなことをやらねばならないので.それでも寝る前に気持ちに余裕がある限り,少しずつ読むようにしています.会議中も(自粛).
いかん,読書ネタに熱くなってしまった.

Saturday, October 24, 2015

国際経済学II, 第5回, 2015

追記: 学祭のため一週間空きます.

講義内容
  • 国際収支表
    • 経常収支 = 金融収支,で理解するとよい.
      • 実際には誤差は大きい.大きすぎて理解に苦しむ.
    • 経常収支は貿易(や要素所得)の動きを記録するところ.貿易がアンバランス(輸出=輸入じゃない)になると,経常収支が黒字や赤字になる.
    • 金融収支は金融資産の動きを記録するところ.純資産が増える動きは黒字.
      • 基準改訂前に覚えた昭和生まれにとっては混乱しやすいところ…説明する分にはBPM6のほうが直感的で楽.
    • 双子の赤字については講義中に説明したタイムラインが間違っていました.来週訂正します.
  • 来週はレジュメ4に入るかもしれません.用意しておいてください.

コメントより
  • 「経済がプラスにいけばいくほど金も増え,豊かになる.逆は赤字な経済が生まれる.これが単純にわかった気がする」 
    • ところがアメリカは経常赤字続きですが豊かですね.何を持って豊かとするのか,もう少し慎重に考える必要がありそうです.
  • 「ちんすこうのイラストがウインナーに見えます…」
    • たしかに…今度はタルトか何かに挑戦します.
  • 「よくわかった.もっと詳しく知ってみようと思った」「難しい.おさらいしないとおいていかれそう」
    • 金融取引をイメージできないとなかなか難しいところがあるかもしれません.

Thursday, October 22, 2015

経済政策II, 第4回, 2015

Mathematicaライセンスをリニューアルする.高い出費だ.こんな高いソフト誰が好んで使うのだろうか?
価格もさることながら,実証研究の勃興に伴い経済学界隈でのMathematicaユーザーは漸減中な気がする.PythonやRの層の厚さを見ると,ちょっと勝ち目がない.

そんな中,この夏はMathematicaテクが当社比でかなり向上した.スイッチングコストがみるみる高まっている.ここはMathematica振興のためにノートか何かに自分のテクニックをまとめておいてもよい気がする.需要ありますかね?「応用経済理論研究のためのマセマティカ」みたいなドキュメント?



講義内容
  • 今日から教室が3-102に変更となりました.間違えないよう注意してください.
  • マクロ指標の確認
    • 景気に連動して様々な市場が動いていることがわかる.一般均衡的な思考が必要.
  • SNA
    • GDPの定義はいつでもどこでも使うので理解しておこう.

コメントより
  • 「どんな政策で名目GDP600兆円にするんですか?」
    • いい質問で思わず笑ってしまいました.私が知りたいぐらいです.
      • 政策ルールそのものにコミットするのはとても難しい,という印象を受けましたがこの分野のプロの方々はどう考えているのでしょう?
    • 具体策は首相官邸ホームページなどから直接確認しておくとよいと思います.政府の施策は新聞・テレビでも日々論評されていますが,あくまでも選択的で断片的な情報でしかありません.
  • 「サービス業に付加価値はあるのか?塾でたとえると,生徒側が払っている学費が付加価値になっているの?」 
    • これもよい質問です.サービス業の付加価値や生産性を計測するのは案外難しいことです.
    • ビジネスではないボランティアなどを除けば,付加価値はどの産業でも発生します.学費は売上高の主要な構成要素だと思いますが,付加価値はそこから中間投入を差し引いたものです.
      • 生徒が得た充実感や成長の「価値」は,必ずしも学費(価格)と一致しません.ミクロで需要を勉強するとよいかも.
    • 塾のような教育サービスの場合,中間投入(たとえば電気代は電力産業から購入したものとして付加価値から差し引きます)はとても少なく済みます.
      • 産業連関表にいわく,「教育・研究」産業は不動産産業に次いで中間投入率が低い(24.4%, 2011年)そうです.文系や小・中等教育の場合もっと少ないと思います.
      • 教科書を生徒に買わせる場合,出版業(情報通信業)からの中間投入にカウントされるんでしょうか? ここは私もよくわかりません.
  • 「何度もやる内容ってことは大切な前提の話だと思う」「復習になった」「たくさん学んだ」
    • 統計の基本的仕組みはマクロ経済を体系立てて矛盾なく理解する上でとても役に立つ,と感じています.私の講義を聴いているだけだとなかなかこの境地に達することは難しいかもしれませんが…
      • (理論だけをやっていればindex number problemなんかつゆも知らずにつつがなく過ごしていた気がする.)

Sunday, October 18, 2015

沖縄の安定所別求人倍率: ライカム効果のゆくえ?

折に触れよく聞かれるのが,イオン琉球の大型ショッピングモール沖縄ライカムができた影響だ.3000人ほど新たに労働需要が生まれ,何かいい影響があると県民の多くに期待されているらしい.アンケートだと,人を雇うのも大変になった,とのことである(link: 琉球新報2015年9月26日 「求人難しく」64% ライカム影響飲食店調査).

残念ながら,出店が外生的なものと見なせない以上,その因果効果を評価するのは原理的に困難である.このブログエントリでは,因果推論の困難さはわきまえた上で,地域間のバリエーションを眺めてみたい.(現実逃避をしている.)

地域別に雇用情勢を把握すべく,一般職業紹介状況を使う.安定所別(那覇・沖縄・名護・宮古・八重山の5つ)に数字がわかるからだ.

ライカムが何かしら中部地区の労働市場にエクストラな影響を与えているのであれば,ライカムが着工された2014年2月28日,オープンした2015年4月25日,あたりを目印に沖縄安定所で何らかの特徴的な動きが観察できるはずだ.ただし今回は私のデータ整備能力の都合上,2014年4月以降のみに着目する.

次のグラフは,有効求人倍率の前年同月差の推移である.縦棒が,ライカム開業時期(4月)に対応する.沖縄安定所は赤い太線で,他の安定所は凡例の通りである.
沖縄の有効求人倍率の前年同月差. 出典: 沖縄労働局「一般職業紹介状況」.

  • 開業時期前後で,沖縄安定所で目立った変化は見られない.
  • 着工後,那覇安定所(青線)と比べて目立った成長は見られない.
という2点が見て取れる.ライカムが中部地区で逼迫度を高めた様子はまったく見当たらない.

充足率(= 充足数 / 有効求人数),つまり求人を出したうちどれだけマッチできたか,の前年同月差が次のグラフである:
沖縄の充足率の前年同月差. 出典: 沖縄労働局「一般職業紹介状況」.
  • 開業直前の3月は,沖縄安定所・那覇安定所ともに充足率が急落している.しかし,4月以降は元のトレンドに戻っているように見える.
    • もちろん,変動が大きいためあまり多くのことは言えない.
オープニング・スタッフを中部で集めても足りず,那覇エリアからも急遽雇った,という可能性はある.一方,中南部全体にライカムとは別の一時的なショックが生じた,という可能性もある.充足率で見ても,開業の影響はとても微妙であることがわかる.

まとめると,ライカム開業が沖縄の労働市場に目に見える変化をもたらしてはいないことがわかった.せいぜいオープニング時に雇いにくくなっただけのようである.開業後に持続的な影響を与えているとも考えにくい.センセーショナルな開業で県民のマインドを好転させたのかもしれないが,実体経済への影響は現時点では限定的であるように思う.

ありえる解釈として,ライカムが他企業の雇用をクラウドアウトしたのかもしれない.ちまたの「経済効果」には注意が必要だ.
(私のここまでの考察もまったくシリアスなものではないので,話半分に受け取ってほしい.)

Friday, October 16, 2015

国際経済学II, 第2-4回, 2015

多忙につき,まとめての更新です.すみません.

講義内容
  •  データの概観
    • 貿易,資本,為替,金利,がこの講義の主役.
    • グラフを見るときはトレンドを見るべし.
  • 資本移動の深化と金融危機
    • ときには資本移動が経済を攪乱することがある.
  • SNAの基本
    • GDPや経常収支や金融収支はフローなので混乱しないように.
    • 名目と実質も区別したい.物価はPPPを学ぶときに再登場する予定.
  • 来週はレジュメ3に進みます.あらかじめ用意してください.


コメントより
  • 「趨勢,乖離,はなんて読むの?」
    • すうせい,かいり,です.ご質問助かります.
  • 「グラフは中学生でも読めるし,もっと短くしてもよかったのでは.」「初歩的だった」
    • たしかに少々遅すぎたかもしれません.受講者の学力に幅がある中で,なるべく多くの人にわかるように,という意識があります.
  • 「グラフを読み取るときはトレンドを使ってみたい」 「トレンドを使うとなんとなく理解できた.わかりやすかった」
    • ありのままにすべて見ようとするのではなく,まずは楽に理解できるところまで単純化してください.
  • 「日本円は世界では使えない」
    • せめて東アジアでは使えるようになってほしいものですね.
  • 「輸出が多いとは知っていたが,外国にお金を貸しているとは知らなかった」
    • およそ表裏一体の関係にあることです.
  • 「株で一番大きな会社ってどこですか?」
  • 「GDPの「中間投入451兆円」とはどういうお金か?」「中間投入とは?」
    • 講義中の例で言うと,粘土50万円,に相当します.
    • それそのものを消費するわけではなく,消費する財(最終財)を作るために使われるものを中間投入財と呼びます.
  • 「GDPが増えることの利点って?」
    • 所得が増えて豊かな消費生活が営めるようになることでは. 
    • GDPが何であって何でないかを考えるとよいかもしれません(たとえばGDPそのものは格差や地下経済や環境の質などは計っていない) .
  • 「GNPは中学校の頃までその言葉で倣っていただけに衝撃」
    • 中等教育はまだ20年以上前の世界なんですねぇ.
  • 「他の講義で習った」「復習になった」
    • 基本事項なので丁寧にやっています.
  • 「政府の取り分がもう少し少なくなればと思った」
    • 我々の取り分が増えるように税金が使われていればよいのですけどね.
  • 「国際収支統計は貿易による収支の統計をとったものか?」
    • 鋭いですね,貿易も含めた国際取引の統計です.
  • 「国民の経済活動が全部計算して表されることは非常に興味深かったしすごいことだと思った.今回学んだことを,今後の人生にいかせていければと思う」
    • 勉強した経験はなんであれ人生に活きると思いますよ.
  • 「先週は病欠でした」
    • 出席数が気になる場合,欠席届や診断書があれば提出してください.



この講義とは直接関係ないが,今期大学院向けの国際経済学ではガチの勉強をしている.先週はAnderson and van Wincoop 2003の構造グラビティと,Arkolakis他による十分統計量アプローチを学んだ.次回はMelitz 2003の予定.わりかしガチ.

そういえばMelitzってちゃんと読んだことなかったなと思って開いてみたら,院生時代の自分が細部までしっかり読んだ形跡が残っていた.どれだけ耄碌しているのだ私は…

似たような記憶は微分方程式の教科書でもあった.まったく身についていないし別段意欲を持って解く理由もないのに,練習問題を解いていった形跡が確かに残っている.恐怖さえ覚える.

継続は力なりということだろうか.どんなに努力しようとも,3年怠ればただのディレッタントである.専門知は,減耗率も高い.自分が積み重ねたという事実さえ忘れてしまう.

ノーベル賞はその遙か果ての果てにあって私には見えない.Deatonの業績にはほとんど不案内だけれど,敬意と祝福を送りたい.


経済政策II, 第1-3回, 2015

出張・体調不良などで更新が遅れました.このブログでは講義の振り返りや,いただいたコメントへの返信,補足説明などを行っています.

講義内容
  • ガイダンス
    • マクロ経済政策について標準的知識を学ぶ.
    • 成績評価は試験2回で.
    • 講義資料はウェブで配布中.印刷にコストはかかりますが,教科書を1冊買わされるより安いと思っていただければ.
  • 政策の目標
    • 万人が納得するゴールはなかなか設定できない.実践上はどこかで妥協が必要になるだろう.
      • みんなの意見を最大公約数的にまとめようとすると,「一億総活躍」のように,昭和の記憶を呼び起こす以外にこれといって具体的な主張のない,何とでもとれるようなフワフワしたものになってしまう.
  • マクロ政策の背景
    • 「三本の矢」「新三本の矢」とキャッチコピーがついているけど,どれも普通のマクロ政策パッケージの延長線上にある.まずは基本を押さえることからはじめよう.
    • 日本の財政赤字は世界でも珍しい状況.世代間の対立も生じる.
    • キャッチアップのプロセスが終わった後に成長率が低下するのは自然.ただそれにしては低成長が続きすぎている模様.
  • マクロ指標
    • フローとストックの区別を意識しよう.GDPはフローの指標.
    • 名目と実質の違いは,物価が鍵.

コメントより
  • 「グラフを見ることでたくさん感じることや学ぶことがあり勉強したくなった」 「この講義はさらなる考察力の向上につながると感じたので,充実した学習に取り組むように努めたい」「たくさん学びついて行けるようがんばります」 
    • がんばりましょう.講義に参加するだけでなく教科書を読破するといいですよ.
  • 「累進課税で成長悪化,とのことだがどこが悪くなるのか?」
    • 私が「成長」というとき,一人あたり実質GDP成長率の動きを指します.生産も所得も消費も伸び悩む,というイメージを持っていただければ.
  • 「平等って難しい」「幸せって難しい.」「全員が納得する政策はないかもしれない」「一つ一つ経済政策を通じて解決していこうと努力する今の社会はいいと思う.だけど,すべての人が幸せになるとは限らないので,とても難しいと思った」
    • その通りでして.
  • 「多数決は絶対ではないと初めて知った」
    • 多数決を盲進することはかえって民主的でない事態を招く可能性もあります.
  • 「実力によって見合う給料を決めてほしいので,安定よりも競争派.しかし逆の人もいるので,妥協点を見つけるのがよい」
    • 実力に見合う給料に決まると世の中はもう少し効率的になる,というのが伝統的な経済学ですが,実際にはどうでしょうか.万人が納得する,という状況はないでしょうねぇ.
  • 「プロ野球選手が1億稼いだとしたら課税でどのぐらいかかりますか?」 
    • わかりません.控除があるので4割そっくりそのままは納めません.
  • 「やはり少し難しい」「今まで経済系の講義は難しかったけど先生の講義には素人にもわかりやすい」
    • 難しいなりに継続していると,成長して私の話が通じやすくなるのかもしれません.
  • 「若年失業率のグラフで,上がった下がったがわからなかった」
    • 軸を確認しましょう.
  • 「アベノミクスの中身は,イメージだけでなく具体的な内容の話があると覚えやすい」
    • おっしゃるとおりですが,具体的な論点に踏み込むととてもテクニカルになってしまいます.中途半端に単純化して伝えようとすると,たとえば「お金をばんばん刷る」などと言うと,かえって深刻な誤解を招くリスクがあります.
  • 「名前だけ知っているアベノミクス」「名前だけ知っている三本の矢」
    • ニュースのキーワードそのものではなく,金融政策や財政政策の基本的な仕組みを知っておくことが大事だと言いたかったのです.
  • 「財政赤字をかかえている中で東京オリンピック開催することでさらに財政赤字になるのではないですか.また,年金・社会保障は私たちが老いた頃には少子高齢化のためもらえないのではないですか」
    • 鋭い.
  • 「年金は希望者だけだったらいいのに」
    • 若者がそう感じるのは無理もないですね.
  • 「若者の声を反映できるような制度があるといいですね」
    • 選挙権年齢が引き下げられましたね.
  • 「企業が人を雇えなかった場合,消費者がいない場合,財政はどうなるの?」 
    • 話が飛んでいて答えにくいですが,人を雇えない企業は賃上げなど待遇改善をするか,待遇改善する目途を立てられなければ市場から撤退するかですね.
  • 「給料が上がっても物価が同じだけ上がったら実質的には上がっていない,というのはおもしろい」
    • 経済学を勉強していない人はよく錯覚します.
  • 「図8(物価)の3つのグラフは,将来どのような動きをするのが望ましいのか?」 
    • 今の政府は,将来もっと物価が上昇してくれるとうれしいと考えているようですよ.経済学者によっても濃淡ありますが,インフレ率は通常0~4%程度で安定して推移する状況が望ましいと考えられているようです.
  • 「去年国際経済学IIでやったけど忘れていた」
    • そろそろ思い出してくださいね.
  • 「教室が狭く座る場所がなくて外で聞いていた.広い教室で集中して学びたいので教室変更できないか?」
    • 気づかずに失礼しました.現在調整をお願いしています.

Sunday, September 27, 2015

国際経済学II, 第1回, 2015

例によってこのblogでは講義の概要,アナウンス,質問・コメントへの返答などを行います.質問・コメントはいただいたものすべてには返信しませんが,ありがたくすべて読んで参考にしています.今後ともどしどしお寄せください.

講義内容
  • ガイダンス
    • 私の他の講義とおおむね同じ流れ.
    • 成績は主にペーパーテストに基づき評価する.
    • 教科書は指定しないが,教科書・本をたくさん読むこと自体は大事.講義資料はウェブで配信中
    • 内容はおおむね去年と同じ.今年は例年よりも基礎学力が心許ない人向けの配慮を拡充している.ふりがなを多めに振ってみたり,分数の計算ルールを確認してみたりという具合だ.
      • 分数やわり算は,世界を相対的に捉える操作だ.1/2も50/100も同じ.このあたりの直感をつかんでおいてほしい.為替レートも相対的なものだ.
        • 相対価格という概念は経済学ではほとんど空気のように当たり前なのだけど,他の学問,たとえば経営学ではほとんど出てこない概念のような気がする.とても不思議だ.
    • 12月25日は休講とする.
  • 東アジアと国際金融
    • アジア通貨危機は国際経済学にとってもターニング・ポイントとなった事件.
    • 失敗から学ぶことが大事.

コメントより
  • 「サブプライム危機が何かはじめて知った」 「知っていることも多かったが,裏のお金の流れなどは知らなかった」
    • 講義中に気づきましたが,サブプライム問題が表面化した頃はみなさん中学生だったんですね…昭和は遠くなりにけり.
    • 「裏のお金の流れ」はプロにもなかなか知り得ないもので,比較的最近解明されつつある最先端の話です.たとえばAzis and Shin (2015).
      • このクオリティの本が無料なのはとてもありがたい.
  • 「たくさんの危機を乗り越えても次々に危機が起こってしまうことがわかった」
    • 危機を理解することと危機を未然に防ぐことにはギャップがありますからね.病気の予防は難しくても,いざ病気になったときの治療は日々改善しているかもしれません.
  • 「貿易はすごく大切なことだと思うけど,もし世界中の国の資源を共有できたら世界の経済は平均的にうるおうことができるのかなと思った」
    • フリーライダー問題が生じて世界の経済はかえって平均的に悪化する可能性も,と思いました.
  • 「数学がとても苦手なので自前で勉強し本講義にのぞみたい」
    • 少しでも苦手を克服できるといいですね.もし講義のスピードについていけなくても,講義後にゆっくり時間をかけて考えるようにしてください.
  • 「国際的な内容を学んで少しは世の中の勉強をしていきたいです」
    • 座学もよいですが,実際に海外に出かけるのもよいですね.
  • 「前期休みが続いて自信がなかったが,ちゃんと勉強したのが成績に評価されて嬉しかった.」 
    • 深く理解していただきこちらこそ感謝しています.
  • 「前期は落としたけど後期は絶対がんばります」「後期もよろしく」
    • 前期と難易度はだいたい同じだと思います.今度こそがんばってください.
  • 「前期受講していなかったので他の人よりも努力しないといけないのでがんばりたい」
    • 前期受けていなくても,モチベーションさえあれば大丈夫だと思います.
  • 「今日はとてもおもしろい授業だったので国際経済学が改めておもしろい講義だと思った」
    • でしょー?
  • 「久しぶりの授業だったのでねむかった」
    • こらー!


夏休みが終わった現実を受け入れるのにはもう少し時間がかかりそう.

参考文献
  • Iwan J. Azis, and Hyun Song Shin, 2015, Managing Elevated Risk Global Liquidity, Capital Flows, and Macroprudential Policy—An Asian Perspective. Springer-Verlag Singapur

Friday, September 18, 2015

15年8月沖縄県主要指標

権威あるジャーナルというわけではないが,改訂要求が来た.しかしなかなか着手できない.学会・セミナー報告の準備に追われているのである.

今春に急減した体重が再び減り始めた.ストレスはダイエットに効果的だ.後期講義の準備にまで全然手が回らないのだけど大丈夫かな.

前回の記事: 15年6月沖縄県主要指標

今回は賃金を除き全体的に現状維持かやや悪化という印象である.賃金はジャンプしている.足元で先行きの不透明感が増していることを思うと,下方に改定しづらい変数をこのタイミングで上げちゃってもいいのかな…と思う.


鉱工業生産(6月分)は引き続き軟調である.
沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」.

消費者物価(7月分)はゼロ前後で推移.コアCPIが4ヶ月連続マイナスなのもおしゃれ.あと数ヶ月は上昇するような気もするけど.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

労働力調査(7月分)はやや悪化.男性は特に,労働参加率が下がって失業率が上がっている.女性の場合,非労働力人口から就業者に急速にシフトする動きが見られる.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

毎月勤労統計調査(6月分)の名目賃金率は,大幅な賃上げが特に女性に見られる.
沖縄の名目賃金率, 前年同期比(単位: %). 男性は青, 女性は赤. 規模5人以上. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 女性の場合,水準でいうと,前年比で時給50円アップ,というイメージ.目に見えて大きい.そこまで物価上がっていないんだけど.
  • 女性が多いセクター,卸売・小売業,宿泊業・飲食業,医療・福祉,だけ取り出して見てみても,まんべんなく賃金が上昇しているようである.
    • 卸売・小売は15年1月から,その他は14年7月からプラス成長に向かっている.
  • これだけ変わると,労働集約的でかつ賃金改定機会が乏しく,コスト上昇を販売価格に転嫁もできない中小企業は倒産するところも多いのではないだろうか.上述の通り,当面は景気に楽観的になれない状況でこういう数字はどうなのかなとも思う.国レベルでは,チャイナ・ショックに始まり,現政権のpolitical capitalがみるみる減っていて不透明性が高まっている.
  • かたや,パートタイム比率は上昇しつつあるようでもある.生活防衛も兼ねて主婦が働き出したとか?
直近は,沖縄よりも全国や世界の基本的な統計をじっくり見た方がよいと思う.

昨夜のFOMCは8割方利上げだと思っていた…深夜3時に中継を見ていたら,1分前に近所でサイレンが鳴り出してびっくりした.

Friday, August 7, 2015

地域開発論, 2015年

非常勤がだいたい一段落した.
  • 今年度縁あって自分の専門領域に近い講義内容を担当することとなった.一連のliteratureを体系的に眺め直した経験は,自分の研究にもよい影響をもたらしたはずだ.ただ,学習しにくい雑然とした講義だったかもしれない.自分が学生の立場なら履修しないかもしれないと思うと,出席も取っていないのに毎朝参加してくれた学生たちに頭が上がらない.
  • 琉大生のペーパーテスト能力を過信していた.素点だとほぼ全員良以下,ってのはさすがに鬼すぎた模様.平均90点ぐらいのつもりで作っていたのだけど誰も信じてくれなさそうだ.常勤の講義と違ってあまり学生のリアクションを確認せずにおいたが,コミュニケーションをサボると不幸が起こる.普段の受講態度がとても真面目で熱心に見えたこともあって油断した.
    • 非常勤は,学生の育成にコミットするインセンティブが常勤に比べて低い.intrinsicな動機(と高度な専門性)をもってしっかり授業をする非常勤の方はとても貴重だと思ったし,教員の人事・給与をめぐるインセンティブ設計って本質的に大事だとも思った.
      • 私はほとんどgift giving(≒余計なお世話)のつもりでやっていました.
  • 自動車通勤というものをはじめて経験した.new urban economicsモデルは正しい.
  • 一般に地域経済系の講義は,理論と実証をまともに修めてすらいないアマチュアが自分勝手な「学問」を教える場になりがちだ.そうしたいかがわしい講義と差別化することにこだわりすぎた気がする.もう少し淡々と講義できればよりよいと思った.

このblogをチェックしている人がどれだけいるか不明だが,試験を少し解説しておく.

  • 基盤産業モデル

 このモデルには,「雇用増→人口増」と「人口増→雇用増」の2つの効果が入っている.これらは互いに増幅し合う.話は単純だが,この連鎖的メカニズムをちゃんと答えられた人は数人しかいなかった.

人口は
$N = \frac{a+b(c+L_A)}{1-bd}$
と解ける.$a$が増えたらどうなるの?という質問は,$\mathrm{d} N / \mathrm{d} a = 1/(1-bd) > 0$, を考えれば良い.微分をしなくても,分子を見れば$a$が増えれば$N$が増えるであろうことはすぐわかるはず.$L_B$についても同様.
$a$が増えた以上に人口が増える($\mathrm{d} N / \mathrm{d} a >1$)のは,人口増→雇用増→人口増→雇用増→…,と連鎖するからだ.
$L_B$は,求めた$N$を$L_B=c+dN$に代入すればよい.
(経済数学って必修だよね? 素朴な連立方程式すら解こうとしない人多すぎね?)

このモデルを適当に拡張すると,直感に反するような結果も出てくる.テストで出した拡張モデルでは,失業率が高まると人口が増えて雇用量は変化しない,という不思議な結果が得られる.当てずっぽうな解答では正解できないはず.
ただし,このモデル自体が変ではあるので,結果の現実的妥当性までは問わなかった.

高齢者の地方移住支援,というストーリーは実際に「日本版CCRC」の一環として動き出しつつあるらしい.(link: まち・ひと・しごと創生本部)


  • 都市システムモデル

基本的には,内点解の条件である, $U(L_U) = U_R$, を満たす点に着目しながら考えればよい.移住しても効用が高まらないのだから,誰も移住するインセンティブはなく,均衡と呼べる.
カタストロフィだけ異常に正答率が高かったのがなんだかツボ.

設問が少しぼんやりしていて申し訳なくも思うが,正確性を期すとかえって難解になってしまうもので,勘弁してほしい.


  • 全体的な雑感

「一を聞いて十を知る」という俚諺がある.10通り考えるかどうかはともかく,Aを一つ教わったら,それを一般化すればA'になり具体例としてA''になることも,BやCが演繹・類推できることも,DやEではないことも,Aの前提条件F, GのうちどれがAを本質的に支えているのかも,頭の中でひと通り検討するのが普通ではないのだろうか?
教わったことはトレースできるけどその応用も批判もできない,というのは寂しすぎるぜ.


はあーーー,台風ってなんで洗車した直後に来るんでしょう.

Wednesday, July 29, 2015

経済政策I, 第14回, 2015

試験おつかれさまでした.

今回仕掛けたボーナスゲームは,残念ながら81人受験した中で,高得点にチェックをつけた人が回答者の20%を上回る30人いました.したがって,全員のボーナス点はゼロです.残念!これぞ共有地の悲劇.
(普通の囚人のジレンマゲームと少し違い,成績が十分よくてボーナスなしでもSの可能性が高い人は,低得点にチェックしてもよいと思いました. )


とはいえ,ボーナスなしでも平均点は十分高く,ちゃんと勉強すれば難しくないと思います.60点未満の人はそれなりの理由があるのでは.
  • 平均75.1, 中央値76.5, 標準偏差16.4. 満点は6名いた.

ボーナスゲームで高得点にチェックをつけた人がどういう人なのか,簡単なlogitとprobitを回してみた.結果,
  1. GPAが低い人は高得点を選びやすい,
  2. 欠席が少ない人は高得点を選びやすい,
  3. 期末自体のスコアや性別ダミーは無関係,
ということがわかった(一連の診断は行っていない.観察できない個人特性も無視.).
GPAが低い人ほど平均的にはフリーライダーになりやすいというのはなんとなく直感的である.しかし出席数が多い人ほど非協力的な戦略を選びやすいのはなぜかよくわからない(なお,出席数は期末のスコアにも有意に効かない).

ともあれ,約6割の人が協力的な戦略を選んだことに驚き.本学の学生は実に牧歌的だという印象を受けた.次年度は初回講義で同じことをやり,比較群を作ってはどうかなぁ.

Tuesday, July 28, 2015

国際経済学I,第14回, 2015

テストお疲れさまでした.補講も台風の中にも関わらずたくさんの方に出席いただきありがとうございました.

難易度はおおよそ例年通りかやや易化というところでしたが,苦戦した人が多かったようです.あまり手応えがないテストだったのではないでしょうか.その中でも満点は1名いました.
素点の分布は以下の通りです.
  • 平均が67.4点,中央値が69点,標準偏差が17.4.
  • 適当に重回帰したときに,出席回数が例年と違って有意にならなかった.女子ダミーは例年通り有意ではない.

中間試験はもう少しよかったので,適当に平均して授業参加点を足せば3/4強程度の人は合格ラインを越えるのではないでしょうか.


できが悪かったところに一部コメント:
  • 関税を課すと,消費者価格だけでなく生産者価格も上昇する.消費者が11000円払って買うときは,国内生産者も11000円で売れるはず.レジュメにも同様の箇所があり簡単な問題だと思っていたが,ほとんどの人が間違えていた.
  • 関税の余剰分析は,レジュメ・練習問題を理解していればむずかしくないはず.特にトリッキーな設問ではない.
  • 機会費用の計算は,試験直前にやったのにも関わらずできが悪かった.割り算でつまづいている人多すぎ.
  • 輸出する品目は,比較優位があるものになる.

採点というルーチン・ワークをやっていると,このまま自分の創造性が枯渇しまうのではないか,というような強迫観念に囚われてしまう.あまり時間はかけたくないものだ(マジメにやってますが).

Thursday, July 23, 2015

経済政策I, 第13回, 2015


講義内容
  • 展開形ゲームの均衡を求める
    • タイミング的に後ろのノードから考えよう.
  • 時間不整合性
    • 事前と事後とで話が食い違ってしまうことがある.そこにつけいる隙が生まれる.

コメントより
  • 「人のインセンティブは,逆方向に働きがちだと思った」
    • 自分の思い通りになるとは限らないとは思います.
  • 「どうせ誰かがやるからいいだろう,といった考えを持つ人がいるが,そんな人をつくらないような策を考えるようにしたい」
    • 問題のすべてを属人的な要因に押しつけず,フリーライダーが生じるような制度的土壌があるのか,あったならばどうすればよいのか,を考えるようにするとよいと思います.
  • 「今を生きるより今を楽しむほうがキリギリスらしい(笑)」
    • お,おう.
  • 「講義で飛ばしたところも面白そうだったので学びたいですが…自分で読んでみます」
    • 読んでみてわかりにくいところは教えてください.
  • 「複数の均衡を求めることは難しい」
    • そうですね.でも,展開形ゲームの部分では均衡は一つしかないケースしか扱っていませんが….
  • 「半年間お疲れさまでした!」
    • こちらこそ!
  • 「期末に向けてしっかり勉強します!!」「いい点が取れるようにがんばりたい」
    • がんばって!!
  • 「理解できた」
    • おう.

国際経済学I,第13回, 2015

前述の通り,台風で休講になりましたが, 期末テストのスケジュールはシラバス通り次回実施します.

講義内容
  • 比較優位と貿易
    • 労働は限りある資源.これを無駄なく活用するためには,なるべく「得意」な産業で働いてもらうとよさそう.
    • 各国は比較優位のある財を輸出することになる.
    • 貿易は分業を通じて両国を豊かにする.ゼロサムゲームではなく,みんながwin-winになるチャンスがある. 
  • 要素価格均等化定理
    • 労働移動ができなくても,財が移動できるなら賃金が均等化してしまう.貿易を通じて我々の労働環境も外界とリンクしている.
      • テクニカルには,生産技術が同一で要素集約度逆転がなく,財市場と生産要素市場の数が一致…など現実に当てはめにくい前提条件が多い定理である(証明の骨子はレジュメの通り).
  • 多国籍企業
    • FDIは年々増加している.この波に乗っかりたい.

コメントより
  • 「沖縄は最低賃金だが,もし自由貿易が行われ輸出が増えれば最低賃金も上がるか?」
    • 最低賃金は財市場の需給バランスだけで決められているわけではないのでなんとも言えません.
    • 自由貿易をすれば賃金が上がるか,という質問は,学問的に答える価値のあるよい問いかけだと思います.一般論としてはなんとも言えません.最低賃金すれすれの労働者たちの賃金が短期的には厳しいものになる可能性も十分あると思います.
  • 「沖縄では社員が少なくアルバイトが多いので最低賃金が少なくないのかと思った」
    • 現象としては,賃金が低い非正規雇用の割合が高いのは正しいと思います.ただ,その真の原因が何なのかはもっと深く考える必要があるでしょう.
  • 「沖縄は他府県と比べて賃金が安いので,この賃金格差はなくならないのかなと思った」
    • 他府県並みの生産性があればよいのですけどね.
  • 「自由貿易で貧困国とも賃金格差がない世界になったらいいと思った」
    • たとえ貿易とは関係なくとも,より多くの人が貧困から抜け出せることができればすばらしいと思います.
  • 「労働移動ができて裁定取引可能な一国内においても,賃金格差が生じていると思った.これも理論上のことか?」
    • 講義で紹介した話の背後で想定しているような素朴な理論だと,賃金格差は生じません.なので,理論が依って立つ前提条件のどこか(労働移動が完全に自由,など)に,現実の近似として不適切なものが紛れ込んでいると考えられそうです.現実と照らし合わせながら仮定を疑う,という批判精神はとても大切だと思いますので,鋭い質問だと思いました.賃金格差がなぜ生じているのかを理解することはとても大切なテーマでもあります.
    • 労働移動が自由な状況でも(観察される)賃金に地域間格差がある状況を表現する経済理論はいくつも捻り出すことができます.
      • 「理論」という言葉の意味するところが,研究者とみなさんとで若干食い違いがあるかもしれません.経済学において「理論」は唯一無二のものではなく,もう少し広い意味で用いています.(経済理論は,何らかの整合的な論理体系をもって現実を抽象化しその本質を明らかにするもの,という程度の意味合いに私は捉えています.)
  • 「比較優位は大事なことだと思った.自分に絶対優位があったとしても,その中でも苦手なものがあるはずで,相手が得意でなくても任せた方が生産性が高まるはず.これは日常や仕事にも使えそう.」 「比較優位を持った企業・国がそれを生産した方が効率もいいし経済も良くなると思った」
    • すべてを自前でやらなくてもよいしやらないほうがよいかもしれない,という話を頭のどこかに入れておいてください.
  • 「グラフを見ながら説明があってもなかなか難しく,正直あまり理解できなかった」
    • どこが飲み込めなかったのかもう少し具体的に教えていただければ.
    • 講義後半は少し急ぎ足だったので,説明不足なところはあったかと思います.テストでは講義中に重点的に説明した部分を中心に出題しますので,枝葉の部分の理解にあまり時間を割かなくてもかまいません(もちろんすべてを完璧にするのが望ましいですけど)
  • 「特に難しいところもなかったので期末でいい点とれるようにしたい」「しっかり復習して備えたい」
    • がんばってください,期待してます.
  • 「半年間ありがとうございました!」
    • こちらこそ! いつもコメントありがとうございました.

Thursday, July 16, 2015

15年度前期の読書記録

そろそろ夏休み.学生は休み中に本たくさん読んでください.

自分も本は継続的に読まないといけない.研究業務がメインなので新書すら通読するのはかなりキツイけど,最近読んだ本の一部を簡単にまとめる.
  • 久保拓弥『データ解析のための統計モデリング入門: 一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC』岩波書店
    • GLM入門.もう,きゃーすてき抱いてー,って感じの心地よいスマートさ.私は本書レベルの,中上級統計の知識や実戦経験がすっぽり抜けているので,読書の限界便益がとても高かった.本書に倣ってRを動かせばすぐ使えるようになる.
      • GLMは経済学界隈ではあまり見ない気がする(もちろん離散選択は死ぬほどあるが).Wooldridgeにはちょこっと載っている(追記: 山程載ってました)けど,GreeneやDavidson-MacKinnon, Baltagi, Hsiaoなどには載っていない.私も論文で使えるかというと…
      • ちなみに,MathematicaでもGeneralizedLinearModelFitでGLMはすぐ実装できる(誰得).
  • ガブリエル・ズックマン (2015) 『失われた国家の富』NTT出版
    • タックス・ヘイブンをめぐるラディカルな啓蒙的政策提言本.最近話題のギリシャは徴税のコンプライアンスが低すぎることも背景にあると思うので,こうした議論は貴重.私にとっては論調が過激で,暗殺されないか心配になってしまう.
    • 節税・脱税を踏まえた上での租税システムのよりディテールな設計については,Joel Slemrodの本を別途参照するとよいだろう.
    • Zucman (2013 QJE)はグローバル・インバランスやLucas Paradoxの議論をこれまでと違った角度から説明していてそのインパクトは無視できない.
  • Mark Taylor (ed.) (2010) Purchasing Power Parity and Real Exchange Rates, Routledge.
    • 購買力平価の実証をめぐる論文集.国際金融の門外漢的には,冒頭の展望論文がとてもためになった.
  • 森田果 (2014) 『実証分析入門: データから「因果関係」を読み解く作法』日本評論社
    • 先輩に勧められたものの,ぱらぱらめくった限り入門的すぎて新情報もないのであまりちゃんと読んでいない.しかし,ごつい数式をほとんど使わずに最近よく使われる手法を手短かつ直感的に解説しているあたり,とても深いレベルで本質をつかんでいる人にしか書けない本だと思う.数式は苦手だけどRubin的因果推論のエッセンスを知りたいという人にお勧めか.
    • 最近手に入れたImbens and Rubinも「An Introduction」を名乗っているけど,個人的にはこちらのほうがもう少し時間をかけて読む価値がありそう.
  • 吉村富美子 (2013) 『英文ライティングと引用の作法: 盗用と言われないための英文指導』研究社
    • コピペはダメ絶対,とはSTAP細胞事件を思い出すまでもなくこの業界に生きる人にとっては当たり前のことである.しかし,第一言語でない言語,典型的には我々にとっての英語,で論文を書く人にとって,自分の言葉だけで書くことは困難だ.こうした状況で他人の言い回しをトレースした文章を杓子定規に盗用だ,アカデミックなモラルに反している,と認定することは性急かもしれない.絶望的な表現力不足の中で論文を書こうとすれば,先行研究の表現を借用したり,文章をパッチワークにしたりするのは不可抗力な部分があるからだ.たしかに私もコーパスやグースカを使い倒しながら英語論文を書いており,冷汗三斗な問題である.
    • 本書は,語学を学習するプロセスとしての模倣と,学術的道徳に反する盗用との微妙な対立を整理しながら,いかに学生を指導すれば良いかをまとめている.学生を指導する立場になって日も浅く,またゴミ同然の英語力で論文を書く自分にとってはとてもためになった.
      • 第二言語に限らず,国語能力が不十分な学生がコピペさながらのレポートを出してくる問題にも応用できそう.
  • 吉村弘 (1999) 『最適都市規模と市町村合併』 東洋経済新報社
    • つまらない.俗に言う「データに語らせる」ってのは散布図に近似曲線を当てはめることではないと思う.
  • 大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』日本経済新聞出版社
    • 面白い最新の学術論文を肴にゆるやかな経済学トークをするシリーズ(?)の続きで,一般向けコラムの再録が主.一般向けとはいえ高度な手法もこっそり登場しており,読む側にとってはおいしいポイントがいくつもある.
    • 本書の約1/4は消費税制についての論点整理だ,日本では大竹先生のこれまでの論文が影響力ある参照点になっている気がするし私もおおむね似たスタンスであるが,もう少しモダンな最適課税論の成果を汲んだ議論があればよりよいと思った.
  • 大阪圭吉 (1937) 『坑鬼』 改造社
    • 昭和ミステリーの名作.この時代の資本主義像は邪悪だなあ.現代のブラック企業に置き換えると笑えないブラック・ジョークになりそう.

今日Handbook of Regional and Urban Economics vol. 5が届いた.2300ページ強あるけど分冊だから読みやすいぜ(棒読み).

NEGのピークだったvol. 4から10年強.テーマは昔の都市経済,特に住宅,に回帰し,手法は実証分析中心に大きく舵を切っている.研究者生命が絶たれないようにちゃんとキャッチアップしないと.

Wednesday, July 15, 2015

経済政策I, 第12回, 2015

おそらく8.5章あたりは時間の都合上講義ではカバーしきれないかもしれません.試験には講義でやったところまでを出題します.
8.5章では,O'Donoghue-Rabin式のセルフ・コントロール問題を取り扱っています.たとえ試験と関係なくても,レジュメ中に挙げた参考文献,特にムッライナタンやカーネマンなどを読むとよいでしょう.

講義内容
  • 展開形ゲームの見方
    • ゲームの木からストーリーを読み取れるようにしよう.
  • 後ろ向き帰納法
    • タイミング的に最後のゲームから解いていく.
    • 脅し文句がハッタリか本気かどうかは,インセンティブに注目して見抜くべし.

コメントより
  • 「最後の問題もう一度説明して」「さいごいみわからん」「均衡を出すまでは難しい」
    • 来週も似たゲームをやります.もう一度自分でも考えてみてください.
    • 最後の例のように具体的なストーリーが特にない場合でも,ゲームの木の構造から機械的に均衡を特定できるように,解く方法論を身につけてください.
  • 「後ろ向き帰納法を習っていて,楽しいというかワクワクした.どういうときに使えるか考えるのが楽しく感じる」
    • わくわくする講義でなによりです.たとえば詰め将棋で使えそうですね.
  • 「中学数学でやった樹形図に似ている」 
    • そうそう,樹形図です.
  • 「強盗がお金を取るにはどうすれば? 刺す方が利得が高くなるケースならそうなりそうだが.」
    • 拒否されたら必ず刺すとあらかじめコミットするとよい,というのが次週のポイントです.ただ,ご推察の通り,難しい問題になります.
  • 「間違った先読みをしていた.相手の立場になってみればナッシュ均衡が探せる」
    • 相手のインセンティブも考えるクセをつけましょう.
    • 現実には刺してくるタイプの人もいますので,ケース・バイ・ケースでちゃんと対処してくださいね.
  • 「シグナリングの解釈を少し誤解していた.ありがとうございます」
    • いえいえ.

Monday, July 13, 2015

国際経済学Iの補講のお知らせ

先週10日台風で休講になった分,7月25日(土曜)の2限に補講を行います.教室は通常と同じくH-102です.

シラバスでは24日(金曜)に期末試験を予定していましたが,試験日程は変更しません.当面のスケジュールは,
  • 17日: 通常通り講義
  • 24日: 期末試験
  • 25日: 補講
となります.

試験範囲は,中間試験の範囲以降から,17日にカバーするところまでとします.

Wednesday, July 8, 2015

経済政策I, 第11回, 2015

今春から立て替えていた科研費数十万円がようやく支払われたので我が家はデフォルトを免れました.

講義内容
  • 逆選択
    • 悪いタイプが生き残ってしまい,よいタイプを取引する市場が成立しなくなってしまう.売り手にとっても買い手にとっても望ましくない状況を改善するためには,工夫が必要で,ときには少なくないコストもかかる.
  • 統計的差別
    • 相手のことを観察できないときに生じる問題を緩和するべく,観察できる情報を利用することがある.結果として,根拠のない偏見とは違った形で,差別が生じる.
  • 練習問題2やレジュメ4もアップロード済みです.

コメントより
  • 「有償の保証でも逆選択対策になるのか? 有償の場合保証なしにしてしまうことがあったが,有償でも保証がないよりはマシなのかと思った」
    • 無償か有償か,というよりは安いか高いか,がより本質的だと思います.0円でなくても保証内容に比べ安ければ,品質を担保するものになるでしょう.
      • 保証プランがいくつかあってその中から選べる,という状況では,企業側がスクリーニングを仕掛けていると考えられそうです.これも非対称情報の下で生じ得る現象です.
    • その昔「ソニータイマー」なる都市伝説があったのを思い出しました.
  • 「データから危機を察知して未然に防ぐ力は大きい」
    • 保険数理や金融工学などはまさにそうした発想が根っこにあるのではないでしょうか.もちろん外挿はとても難しい問題で,限界はあるんですけどね.
  • 「データを使うことで効率よくなりそうだけど,エラーや統計的差別のような難しい問題も起こるのだと感じた」 
    • 確率は我々にとって身近でありながらとても理解しにくく間違って使ってしまいやすいものです.しっかり勉強するといいと思います.
    • 統計的差別は本当に難しい繊細な問題だと思います.あまり深く論じられずすみません.
  • 「シグナリングは他の講義でも習った.日常にも見つけられそう.」
    • シグナリングもひとつのコミュニケーション能力だと思います.(チープトークであってもコミュニケートできることはありますが.) 社会に出る前に鍛えましょう.
  • 「シグナリングは経験があったのですぐ理解できた.経済学は難しいイメージがあったが,実は生活に関係するのでとても面白い!」
    • 難しいのは確かだと思いますけど面白いですよ!
  • 「中間は手応えがなかったので期末はがんばりたい」 
    • がんばってください.私が作るテストは難しいようです.

Monday, July 6, 2015

国際経済学I,第11回, 2015

次週は台風が来る可能性がある.今手がけている論文×2がどちらも好調なので,休みだとかえって助かる….

欧州は政治的台風まっただ中のようだ.思うところはいろいろあるけど,ともあれしばらくはリスクオフ.

講義内容
  • 比較優位
    • 分業の本質は,絶対優位ではなく比較優位にある.

コメントより
  • 「分担しないケースで販売に使う時間が2人合わせて45分 → 残りの15分は料理の時間?」
    • 2人合わせて全部で120分あるので,75分料理していることになります.
  • 「所属の団体で「できない」と言う人のものも全部か抱えようとしていた.比較優位を無視していると言われ気づかされた.うまく分担すれば私の負担も減るのではないか」
    • できないなりにやれることを任せましょう.そして自分が得たメリットを相手に還元しましょう.
  • 「逆数とは?」
    • $x$の逆数は$1 \div x$,つまり$1/x$のことです.(ただし$x \neq 0$.) 分母と分子を「逆」にしたもの,ということ.たとえば2/3の逆数は3/2です.
  • 「機会費用を比べればよい」
    • そうです.
  • 「どんな人でも分業すれば無駄を少なく作業することができる」
    • 無駄を減らすのに貢献できるのですね.
  • 「比較優位を理解できた」
    • すばらしい.

Thursday, July 2, 2015

15年6月沖縄県主要指標

久しぶりにこのシリーズ.沖縄の景気動向を定期的にチェックしているので,その一端を紹介している次第である.

前回ポスト: 15年2月沖縄県主要指標

およそ14年度は増税の影響もあり沖縄は景気拡大にブレーキがかかった時期であったと思う.15年度に入って,12-13年度頃のような成長が再び見られるかが今年度気になるところだ.

日銀那覇支店の県内金融経済概況では,4月から消費増税をめぐる記述が一掃された(コアCPIのところには記述がある).労働市場も引き続き逼迫しているようである.先月あった弊学のオープンキャンパスも盛況であった.株高・円安で,スラックはかなり減ってきた.トレンドにベットするようなタイプが抱きそうな見通しはよさそうだ.

以下では,生産,物価,労働,の指標をざっくり眺める.

 鉱工業生産(4月分)は年度末に停滞していた.4月に出荷・在庫が悪化しており,当面は軟調になりそうだ.(ただ,政府支出が増えるなど拡大し続ける材料はある.)
沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド, 赤が全国. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.
  • なんとなくボラティリティが高まっているようにも見えるけれど,GARCHでは微妙だった.
消費者物価(5月分)は消費増税が一巡し,0%前後で推移し続けている.0.5%あたりに達していてもおかしくないと思っていたけれど,そうはいかなかった.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
労働力調査(5月分)は,15年度に入る頃からややポジティブ.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
  • 15年2月に女性の失業率が急上昇しているが一時的なものであったようだ.飲食・宿泊・サービスあたりから若い層が抜けていったように見える.ただ,毎勤ではこうした変化はすぐに観察できないので,たまたまであろう.
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
  • 労働参加率はおおむね従来通りだが,15年度に入ってから女性の参加率が急上昇している.非労働力人口から労働力人口に転換している模様.
少しずつデータが集まってきたので,労働力率については25-54歳だけに絞った系列も図示してみた.
prime working age (25-54歳)の労働参加率, 男性(青), 女性 (赤), (単位: %). 出典: 沖縄県「労働力調査」.

  • 全国と比べると,男性は水準が低く,女性は水準が高い.
  • 男性はわずかに低下トレンドにある.上の全年齢のグラフで低下トレンドであったのは,高齢化の影響だけではないかもしれない.
    • 14年以降全年齢では上昇しているのに,prime ageではそうでもない.老年が退職を遅らせているのだろうか?
毎月勤労統計調査(4月分)から賃金率を求めた.例によって, 名目賃金率 = きまって支給する給与 / 総実労働時間. (一般労働者) と定義している.今回は沖縄県のコアCPIでデフレートした実質の賃金率も合わせてプロットしてある(大差はない).

沖縄の賃金率, 前年同期比(単位: %). 男性は青, 女性は赤. 規模5人以上. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 女性の賃金が目立って上昇している.女性労働供給が増えている中で,これはすごい.

直近の日銀那覇支店の県内金融経済概況では,現金給与総額(3月)が前年を下回ったという新たな記述が足されており,真意が気になったので毎勤のデータをプロットしてみた.
沖縄の名目現金給与総額, 前年同期比(単位: %). それぞれ男女計, 一般労働者, パートタイム労働者. 規模5人以上. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 男女計やフルタイムの労働者に注目すると,3月の前年同期比は0に近いとはいえプラスである.最近はむしろ下げ止まりぎみだ.どういうことだろう?
    • 家計調査の可処分所得だとガッツリ減っているのだけれど.
  • パートタイマーについては,13年夏頃をピークに減少していた状況がまだ続いている.
    • 14年度における変化率は幾何平均して-3.8%であった.
ライカム(4月開業)以後の動きが観察できるのは,来月以降になる.

Wednesday, July 1, 2015

国際経済学I,第10回, 2015

更新を忘れていた….



講義内容
  • 小国開放経済における輸入関税
    • 需要が減り国内供給が増えて輸入が減り関税収入が発生する.このあたりの変化をひとつずつ整理して,どれもなるほどと納得してもらいたい.
    • 余剰の分析も,自分で一度整理して考えてほしい.
    • 税収は,長方形の面積($=$たて$\times$よこ)を使って考える.

コメントより
  • 「社会余剰が減るのに関税をかけるのは,生産者保護の他にも理由があるのか」
    • 前回の講義で軽く紹介しましたが,関税は輸入価格を引き下げて自国に有利にする効果(交易条件効果)も持ちます.その他,企業の立地を引きつける(関税回避型FDI)効果もありますし,外国との戦略的な関係の中で裏切られたとき相手に罰を与える目的で課されることもあります.
    • 政府は必ずしも自国の社会的余剰を最大化する存在ではありません.政治が絡むと,社会余剰を減らしてでも関税を課すことがありえます.
  • 「輸出する場合,輸出量はどこになるのか」 
    • 図解しました.なぜこうなるかは自分で考えてください.
  • 「死重損失がわかった」「グラフは理解できた」
    • 人の行動を不用意に変えると,目に見えない損失が生じます.
  • 「関税はあまりいらない感じがした」
    • 先週の講義でも紹介しましたが,ラッセル『寓話で学ぶ経済学: 自由貿易はなぜ必要か』あたりもご覧あれ.
  • 「グラフを書くとわかるが,納得できないところもある感じがする」「難しかった」
    • 極度に単純化されたモデルであり,現実に大切な部分を大幅に捨象しているのは確かです.それでもなお,モデルが抽出している,より本質的なことが何かを深く考えるとよいでしょう.

MathematicaRを行ったり来たりしていて混乱中Mathematicaはもう少しエコノメ系のパッケージ(とユーザーフレンドリーさ)が充実していると助かるのに.

経済政策I, 第10回, 2015

近々レジュメ4もアップします.講義の進度に合わせて講義計画を練り直し中です.

講義内容
  • 規範の形成
    • 協調して利害の対立を乗り越える装置として,社会規範やモラルができた,という考え方もできる.租税のようなフォーマルな制度だけが,社会の非合理性を解決する手段ではない.
  • 2種類のエラー
    • 白を黒と誤診することと,黒を白と誤診することは定性的に異なる.両方とも軽減しようと思えば,判断材料を増やす必要がある.

コメントより
  • 「タイプIエラーとタイプIIエラーがトレードオフの関係にある,というのは意外だった.考え方が変わると感じた.」
    • 開眼する瞬間が訪れる講義になったと思うとこちらとしてもうれしいです.
  • 「2つのエラーが五分五分になることはないか?」
    • とても特殊な状況ではあるかもしれませんが,五分五分にしなければいけない理由はありません.裁判の例だと,歴史的経緯も踏まえ,タイプIエラーを防ぐことのほうをより重視しているようでしたね.
  • 「どちらがどちらのエラーなのか間違えないようにしたい」「理解できるようにしたい」「わかった」
    • 仮説検定という手続きを学ばないと,どちらがどちらか区別するのは難しいと思います.この講義ではどちらか区別できなくてもOKで,区別があるということさえ理解していただければ結構です.
  • 「普通に生活しているうえでは考えたこともなかったが,考えてみると確かにそうなるという感じ」
    • 統計的意思決定理論を勉強しましょう! (私もしたい)
  • 「どちらのエラーもやってはいけない」
    • もちろん,両方のエラーを起こさないようにすることができればそれが望ましいです.がどこかで,どちらか片方を犠牲にしないともう片方のエラーを小さくすることができない,というトレードオフに直面することになるでしょう.
  • 「試験も終わったけどこれからもがんばる」
    • がんばりましょう.

Saturday, June 27, 2015

国際経済学I,第11回, 2015

このペースだとレジュメ4が全然説明できなさそうな予感…まずい.

講義内容
  • 貿易協定
    • 多角的なGATT/WTOから,FTA/EPAにトレンドが変わりつつある.
  • 分業と絶対優位
    • アダム・スミスの議論はたしかに直感的だが,必ずしも正しくない.


コメントより
  • 「幼稚産業を保護するのもいいのではないか」
    • 将来本当に成長するという保証はないですね.衰退産業に人や資源を押しとどめ続ける被害とのトレードオフがあります.
  • 「日本は保護貿易をしてコンピューター産業やテクノロジーが強くなったと聞いたことがある.保護貿易とは,関税を高くかけることか?期限を決めて貿易をしないことか?」
    • 保護貿易には様々な形があります.高い関税を課すこともその一つですし,一時的に輸入制限することもその一つです.講義中には数量割当も紹介しました.
    • 保護貿易で強くなったという説得的な実証研究は知りません.日本政府による政策が特定の産業を強くしたとは言えない,という研究はいくつか知っているのですが…(たとえば三輪・ラムザイヤー 2002, Ohashi 2005, Esteban-Pretel and Sawada 2014).
  • 「月収20は大きく,不平等な感じがした」
    • 20という数字自体は話をシンプルにするためのもので,現実にその水準というわけではありません.誤解を招く言い方ですみませんでした.
  • 「実際に関税をかけていない国はあるか?」
  • 「分業・特化の話は勉強になった.それ以外にも今日の講義は学ぶことが多くあった」
    • 残りの講義は分業と特化のメリットをくどくどと説きます.
  • 「少し難しかった」
    • グラフでつまづいているのであれば,消費者余剰や生産者余剰を再確認してみては.
  • 「少し勉強してみたいと思った」
    • 少しと言わずたくさん…
参考文献
  • 三輪芳朗・J.マーク ラムザイヤー (2002) 『産業政策論の誤解―高度成長の真実』東洋経済新報社
  • Julen Esteban-Pretel and Yasuyuki Sawada (2014) On the role of policy interventions in structural change and economic development: The case of postwar Japan. Journal of Economic Dynamics & Control 40, 67--83.
  • Hiroshi Ohashi (2005) Learning by doing, export subsidies, and industry growth: Japanese steel in the 1950s and 1960s. Journal of International Economics 66, 297--323.

経済政策I, 第9回, 2015

講義内容
  • 公共財
    • 囚人のジレンマやチキンゲームに似た状況が生じる.いずれにせよ均衡では公共財は十分に供給されない.
    • 公共財の応用例は身近に山ほどある.解決策はケースバイケースになるが,問題の構造を体系的に把握できるようになることが解決の一助となるかもしれない.
  • 共有地の悲劇
    • 公共財との違いは,競合性を持つこと.広い意味での「混雑」が問題になる状況.
    • 公共財と同じく,フリーライダーが非効率性を引き起こす(過剰に利用する).
  • 租税の役割
    • 個人で供給できないなら,政府が供給してはどうか.

コメントより
  • 「共有資源のうち,魚は増えるけど,石油のように増えないものも共有資源になるか?」
    • 競合性と非排除性を持っていれば共有資源になります.増えるか増えないか(再生可能か否か)は共有資源の定義とは直接関係ありません.
  • 「自分のためでなく,相手のために未来のために行動できる社会になってほしい」
    • 隗より始めましょう.
  • 「メカニズムはすごく単純だけど社会には難しい人もいて,社会を運営するのはとても大変だと感じた」
    • 大変だからこそやる価値があるんですよ.
  • 「気づかないうちに,もしくは悪いなとは思っていても,日常的にやってしまうものだと思った.話し合いでどうにかすることもあるようだが,自分が一番かわいいのでそれだけだと限界が来そう.税という制度はすごい.」
    • 利害の対立を克服して協力を実現できるような仕組みを作ることは経済学の大きなテーマです.
  • 「強制的に導かせる方法がよく使われているなぁと感じた」
    • 強制するのはあまりエレガントではないですけどね.
  • 「ナッシュ均衡を知ることで資源の枯渇や税金の役割も説明できるので面白いと思った」
    • ありがとうございます.
  • 「身近でわかりやすかった」
    • ありがとうございます.
  • 「テストでナッシュ均衡がわからなかったけど復習で理解したのでよかった」
    • テスト前だったらもっとよかったですね.
  • 「点数が知りたい」
    • 質問者は満点でしたよ.講義を生ぬるく感じていらしたら,市販の教科書でよりハイレベルな内容をぜひ独習してください.

経済政策I, 第8回, 2015

出張やらなんやらで更新するのを忘れていました.

中間試験は次のような得点分布になっています.中間層が少ない.
平均73.3, 中央値77, 標準偏差17.7, というところです.満点が3人もいました,すごい.しかし約1/4は60点未満です.

解説は省略します.昨年度よりもナッシュ均衡を探すエクササイズを増やしたのが功を奏したのか,比較的よくできるようになったと思います.昨年度は半分近くが60点未満だったので…

Friday, June 19, 2015

業界地図の近況

新聞などでも取り上げていただき,売れ行きは予想以上に好評です.ジュンク堂やリブロでトップの座に輝いたのがハイライトでした.現時点ではほぼ完売状態のようです.ありがとうございました.

先週ライカムの書店に10冊程残っているのを確認しましたが,他どこで入手可能なのかは私は把握していません.
増刷の予定はありませんし,電子化する予定も現在のところありません.県内の主要な図書館には献本してあるので,どうしても読みたいという方は図書館をご利用するのも一つの手です.入手できなかった方々は来年度にご期待ください.

「コースの予想」を知識としては持っていても,価格・数量の決定は難しいなと感じました.何もかも手探りな状況でマキシミン的な戦略(赤字は出さない)を選んだのですが,結果的にはペシミスティックだったとも思いました.フランク・ナイト的な議論でいうと,私は起業家には向かないようです.

巻頭で私のインタビューがありますが,ここではオイラー方程式や技能偏向型技術変化を念頭に話をしています.ちまたには入門書を読んだだけでいっぱしの経済評論家を気取っちゃうような一知半解や,経済学なんて社会経験を積みながら新聞を読んでいればだいたいわかると豪語するような痛い方々も少なくないのですが,曲がりなりにも本格的な修行を積んだ身らしく彼ら彼女らと一線を画した視点を提供できるところを示さねばいけないなという思いがにじみ出たかもしれません.手に取ったビジネスパーソンの方々はどう感じたものでしょうか.

なお,本書の補足・訂正もネット上で行っています.必要に応じてご確認ください.

国際経済学I,第9回, 2015

気づけば梅雨が明けてしまった.沖縄では夏と言っても,あらたふと青葉若葉の日の光,のような情景はまるで浮かばないのである.研究室にこもっている限り風情もへったくれもないのだけれど.

講義内容
  • 小国開放経済
    • 閉鎖経済の均衡と自由貿易下の均衡を比べることで,貿易の効果を抽出する.
    • 消費者の便益はすぐには目に見えないし,直感だけではその大きさもわからない.モデルを使うとそれが見えてくる.
      • 輸入にもメリットがあることを理解できない人は多い.貿易の利益を理解することは,アダム・スミスの時代から今日に至るまで経済学の中心的課題である.
    • 損をしそうな生産者は,建設的な努力とは別に,ロビー活動で抵抗を試みることがある.
  • 日本の輸入事情
    • 輸入との競争という観点での分析は,直近だとAcemoglu, Autor, Dorn, Hanson and Price (forthcoming) などがある.本講義ではすっかり無視している一般均衡効果や垂直的取引を考慮しても,輸入と競合すると雇用が失われてしまうようだ.(ただし日本に直接適用可能な結論かどうかは不明.)

コメントより
  • 「外国と貿易を行うことで均衡が下がり供給が上がるとわかった.輸出しているところで価格が上がると供給が下がるのか」
    • 意図するところがよくわかりませんでしたが,頭の中で比較静学をやってみることは大事だと思います.
    • 貿易を開始すると,国内生産は減りますが,輸入した分と併せると国内で流通する量は増えます.もし国際価格が上昇すれば,国内生産量が増えて,輸入は減り,国内需要量は減ります.
  • 「輸入費用を考えたらあまり輸入しない方がいいのでは」
    • ここでの国際価格は,輸入にかかる費用も含んだもの(CIF価格)だと考えてください.
    • 輸送費用がとても高く,輸入価格が国内価格$p^*$よりも高くなってしまう場合は心配しなくても輸入が発生しません.
      • 輸送費用の節約効果も分析できるモデルに拡張することは可能ですが,本質的な結論に変化はないと思います.
  • 「閉鎖経済よりも効率が良く物を輸出入できるんだと思った」
    • 輸出入を通じて効率の良い生産・消費ができる,という理解のほうが正確です.
      • 経済学において「効率」という言葉のニュアンスは日常用語とはズレています.ミクロの教科書などで別途学んでいただければ.
  • 「どちらかに不都合なことでも社会余剰がプラスになるのであれば貿易を行うべきだ」「国は損をしていると思ったが社会全体では得しているとわかった」
    • 損するグループへの補償も必要になりそうですね.
  • 「政治家たるもの,皆のために活動してほしいですね」
    • 利害が対立するときその折り合いをつけることは政治家の大切な役割ですね.
  • 「(1) 生産者が少なくなるのか気になった,(2) 農業をする人が減っているのは貿易が関係しているのか気になった」
    • 生産量が減る背後には,生産者が減る,生産に使う工場や土地を縮小する,などを想像するとよいと思います.
    • 貿易も関係していると思いますが,貿易以外の要因もありそうです.技術変化(製造業やサービス業のほうが儲かるようになる)や所得拡大(農産物への支出が相対的に減る)も見逃せないでしょうね.
  • 「日本の製品はいいものなので,もっとリーズナブルにすれば外国にも負けないのでは」
    • もちろんよいものをより安く作ることができればよいのですが,言うはやすしですね.
  • 「なぜ中国産は安いのか」
    • 突き詰めて考えると難問です.講義後半で学ぶような理論に基づいて考えると,労働生産性が低く,労働供給が豊富にある,というところでしょうか.
  • 「国産品は高くて買う気になれない.技術の進歩はしているが,必要とされないと意味がないと最近思う」
    • 疑似科学を都合よく利用する家電メーカーを私は必要としていないかなぁ.
  • 「生産額や輸入額なども知れてよかった」
    • 理論もデータも両方見ることが大切だと思います.これは研究者にとっても同じ.
  • 「新しく出てきたグラフは少しややこしいけど前に習ったことを利用すれば簡単にできるのでそこまで難しくはないと思った」
    • ミクロの授業をじっくりやってきた甲斐があります.
  • 「難しかった」
    • 次回はもっと…
  • 「遅れてくる人は遅刻扱いにしないの?」
    • 毎回朝から出席している方には申し訳ないですが,この講義の成績評価においては出席を重視していません.講義に参加しない分だけテストが解けなくなり成績に響きますので,出席を厳密にチェックする必要性をあまり感じていません.時間を守ることよりは内容を理解し咀嚼することを優先的に評価しています.
    • なお,筆跡からあからさまな代返だとわかれば点数を割り引いています.不正を許容しているわけではありません.私は疑わしきも罰するタイプです.


参考文献
Daron Acemoglu, David Autor, David Dorn, Gordon H. Hanson, Brendan Price (forthcoming) Import Competition and the Great U.S. Employment Sag of the 2000s. Journal of Labor Economics.

Monday, June 8, 2015

国際経済学I,第8回, 2015

中間試験お疲れ様でした.例年よりも易化したと思います.
平均点が72.86点で,標準偏差が15.8点でした.得点分布は以下の通りです.第一四分位が60点なので,受験者のうちちょうど3/4の人は合格点になっています.満点も1名いました.



おおむねよくできていたので解説は省略します(多忙すぎます).

Wednesday, June 3, 2015

経済政策I, 第7回, 2015

来週は創立記念日のため休講です.

講義内容
  • ナッシュ均衡エクササイズ
    • お互いに最適反応になっている場所を探そう.
    • 一方的に逸脱するインセンティブを持たないことも確認できる.そのため,一度均衡に至ったら,誰もそこから行動を変えようとせず,その状態が続くだろうと考えられる.
    • 均衡が複数ある場合,どの均衡が実際に実現するかはわからない.モデルでは考慮していない何らかの要因がそれを決めるかもしれない.
  • 公共財
    • 公共財 = 非競合性 + 非排除性, という定義に照らし合わせて考えよう.
    • ナッシュ均衡では公共財は十分に供給されない.非排除性という性質が,ただ乗りするインセンティブを生み出すから.
  • 練習問題もアップロード済みです.試験に備えてください.

コメントより
  • 「5.4.の右下のゲームで(U, R)がナッシュ均衡になる理由がわからない.解説お願い」
    • (U, R)から一方的に逸脱するインセンティブがあるかどうか確認してみましょう.
      • プレイヤーA: 相手がRのとき,U以外の戦略を選ぶとどうなるか → Mだと4, Dだと2, の利得 → Uを選ぶ(利得8)のがベスト.
      • プレイヤーB: 相手がUのとき,R以外の戦略を選ぶとどうなるか → Lを選ぶと6 → Rを選ぶ(利得6)ときと変わらない → プレイヤーBにとってはどちらを選んでも結果は変わらないので,あえてナッシュ均衡から逸脱する理由はない.
      • 以上から,どちらのプレイヤーにとっても,自分から戦略を変える積極的な理由はないことが言えます.なのでナッシュ均衡と呼べます.
    • プレイヤーBにとっては,相手がUのときの最適反応はLまたはRになっています.同ページ左真ん中側のゲームと同様に,最適反応は1つとは限りません.
  • 「ナッシュ均衡はだいたい最悪な状態なのか?」
    • 最良の状態に一致する保証はありませんが,「だいたい最悪」になってしまう必然性もありません.自分で適当な利得表を書いてみて確かめてみてはどうでしょうか.
    • 最悪かどうかではなく,より望ましいシナリオがあるかどうか,のほうが政策的には重要です.
  • 「ナッシュ均衡を探すのは難しい」「練習が必要」「複数あると難しく感じる」「全然意味がわからなかった,理解するまでに時間がかかりそう」
    • 慣れが必要です.利得表の読み方,最適反応やナッシュ均衡の定義,など基本に立ち返って考え直してみてください.
    • わからないのは恥ずかしいことでないので,機会を見て練習問題を解くか質問するかしてください.
  • 「難しいところはなかった」「全部わかった」
    • 飲み込みが早いですね.
  • 「フリーライダーにならないように気をつけたい」
    • 公共財の実例を他にもいくつか考えてみるとよいと思います.
  • 「公共財を供給されるようにするにはどうすれば?また利得をいじるのか?」
    • 対策についてはテスト明けの講義でいくつか紹介する予定です.
    • おっしゃるとおり,利得表自体を書き換えるのも一つの手です.プレイヤーが直面するインセンティブの構造を打破するのはたしかに効果的です.その具体的な手段はいくつかあります.
    • 協力しない人を攻撃する,協力したら褒め称える,などは実社会にも観察される対処法です.
      • 以前も述べましたが,この講義で繰り返しゲームをカバーするかどうかはまだ考え中です.

最近Mathematicaばかり回している.もはや,大学目の前にあるATMを見ただけで,解を探索するためのコードを連想する.ほとんど病気.
いろいろ使っていると,こんなことまでできるんだ,と感動することも多いけど,他のソフトウェアも学習した方が研究の幅が広まってよい気がする.

Friday, May 29, 2015

国際経済学I,第7回, 2015

投稿して1年強放置されている論文の行く末が気になる季節になってきた. 天気も悪く,少し気が滅入る.

講義内容
  • 余剰の読み取り方
    • さしあたり,どこの面積になるのかを押さえよう.
  • 小国開放経済モデルの設定
    • 貿易がスタートすると,生産や消費のパターンも変化する.その帰結を分析する技を身につけていく.
    • 小国はプライス・テイカーに似ている.外国の価格は所与としているのである.

コメントより
  • 「満足度を図で表せるということで,市場の動きを目で見てわかると思った」 
    • 余剰という概念は,市場の動きそのものというよりはその規範的な帰結です.
    • グラフを使って考える御利益は次週以降に明らかになる予定です.
  • 「余剰の図形は覚えやすかった」 
    • 覚えてくださいね.
  • 「閉鎖貿易って?」
    • 書き間違えましたか? 閉鎖経済です.
  • 「閉鎖経済は国としてのメリットはあるのか?」
    • 来週以降,貿易がもたらすメリットを学びます.貿易にメリットがあれば,貿易をしないことにはデメリットがあるとも言えます.
  • 「輸入の場合国内生産者が苦しむが,輸出の場合は逆のことが起こる.国内で希少になり値上がりして消費者が苦しむ.」
    • すばらしい洞察で,これから学ぶモデルではまったくその通りです.
  • 「国内生産者が負けないよう関税をかけたりするだろうから,国際価格のまま売られることは考えにくい.そうなると国内生産者がいなくなってしまうかも.ブランド化して差別化を図って売ることもできると思うが…」
    • 関税の分析はレジュメ2の後半でやります.
    • 価格競争に陥らないように差別化するのは大切ですね.ただ,ここではまったく差別化のされていない同質な財のみを分析します.
      • なお,オーソドックスな枠組みだと,差別化の有無それ自体はさほど結論に影響しません.
  • 「自由貿易の有無など,特別で複雑な状況が生じたらいっそう貿易が困難になる」
    • 貿易について分析することは困難になるかもしれません.
  • 「小国の仮定が面白かった.大国が何かすると変わってくるのは面白い」
    • 小国のケースを分析する場合でも,もし大国にしたらどうなりそうか,ということまで想像を巡らせるといいですね.
  • 「いろいろ貿易のことがわかってためになった」 
    • モデルを使って改めて理解する,という作業がこの講義のハイライトのひとつになります.
  • 「復習してテストがんばりたい」「テストが不安です」
    • 健闘を祈ります.
  • 「唐突なタメ口にビックリした」
    • 記憶にねーな.

Thursday, May 28, 2015

経済政策I, 第6回, 2015

私はゲーム理論家ではありませんが,ご冥福をお祈りします.

講義内容
  • ゲームのルールを変える
    • 利得表自体が変わればゲームの結果も変わりうる.望ましくない結果を変えたければ,ゲームの仕組み自体に手を入れることも必要.しかし,闇雲にやってもうまくいかない可能性がある.ゲームの構造を見抜くことが大事.
  • 最適反応とナッシュ均衡
    • 支配戦略の議論が「相手の出方にかかわらず…」というものだったのに対して,今度は「相手の出方に応じて…」となっている.
連絡
  • 中間試験用の練習問題をアップしました.
    • 試験範囲は次回やる範囲までとします.

コメントより
  • 「ナッシュのニュースを見たとき驚いた.まだ生きていたんだ!」
    • 伝説的偉人と同時代に生きていたと思うとなんとなくうれしいものですね.特にナッシュはノーベル賞受賞者の中でも別格の存在でした.
  • 「じゃんけんやPKは同時に行動を起こすので,相手の反応を見て行動することにはならないのでは」「後出しは強い」
    • 相手の行動を見て自分の行動を決めることはできません.(同時手番ゲームと言います.) 後出しができるわけではありません.しかし,事前に考えをこらしておくことはできるでしょう.
    • ポイントは,「もし相手がこういう行動を取ったとしたら」と仮想的な状況を考えることです.実際に相手を観察してから決めるのではなく,相手が仮にこうしたらどうすべきか,を整理しています.
      • 「もしAならばB」という仮定法を使った議論をしています.Aが現実に起こるものだとは限りません.「もし」を使って論理的に考える技術を伸ばしましょう.
  • 「囚人のジレンマから抜け出すために,最適反応をすることで,自分の利益が最大化できる」
    • これは間違いです. 最適反応を選んで自分の利益を最大化しようとしたら,かえってうまくいかなくなる(自分の利益が最大化できない),というのが囚人のジレンマです.
    • ナッシュ均衡は,何らかの望ましい状況を記述するものではありません.(適切な知識と情報を持つ合理的な)プレイヤーたちが取るであろう行動を記述するものです.
  • 「被支配戦略がいまいち理解できなかった.得をしないものを選ばなければいいのか?」
    • 得をしないものをあえて選ぶ理由が(今考えている状況下では)ありません.
    • 得をしないものを選ばないものとして無視としたら,じっくり検討すべきシナリオを減らすことができます.
  • 「ナッシュ均衡は理解できた.が本当はもっと奥が深いと思うので次回からもがんばる」
    • その通り,奥が深いんですよ.
  • 「最適反応は生活の中で意識せずとも使っているなと思った」
    • フロイトよろしく,無意識を意識すると面白いですね.
  • 「最適反応は,すごく当たり前のことなのでわかった.ナッシュ均衡は聞いた感じ難しそう」
    • ナッシュ均衡は来週以降もっと実例を見ていきます.
  • 「最適反応は単純な感じだけどちゃんとした戦略なんだと勉強になった」
    • 文字通り,最も「ちゃんとした」戦略ですよ.
  • 「まだ支配戦略・被支配戦略を理解するのは難しい」
    • ナッシュ均衡をいったん勉強した上で,改めて支配戦略の議論に戻ると理解しやすくなると思います.
  • 「しぶしぶ行動に移すしかない,という例だと少しだけ理解できた.」
    • その通りです.
  • 「もっと勉強してできるようになりたい」「よくわからなかったので復習してから質問したい」「簡単そうで意外と難しい」
    • ぜひ.
  • 「お疲れ様です」
    • ありがとうございます.

国際経済学I,第6回, 2015

いよいよ梅雨入りですね.湿気との戦いが始まっています.

講義内容
  • 均衡の比較静学
    • 需給バランスが動くと価格も動く,というのがメッセージ.
    • 需要曲線が動くか,供給曲線が動くと,需要量と供給量が一致する場所(均衡)が変化する.均衡の変化に注目すれば,価格や取引数量の変化が一目瞭然となる.
      • どういう解釈ができるのかを自分なりに考えてみよう.
連絡
  • 中間テスト用の練習問題をアップしました.
    • 試験範囲は次回やった内容までとします.

コメントより
  • 「増税で供給が下がるのがちょっとわからなかった」
    • 税金が払えずつぶれてしまうような企業が出てくる,とイメージしてみてはいかがでしょうか.詳細は先週解説済みです.
  • 「需要・供給だけでなくそれを取り巻く環境も価格の要因となっているとまでわかった」 
    • 価格はあくまでも需要と供給で決まりますが,需要や供給は様々な環境を反映しています.
  • 「価格と取引量が同じ方向に動かないグラフもあるので気をつけたい」
    • 様々な可能性があることを理解してください.また,なんでもありえるからこそ,なにかを観察したときにその背後で何が起こっているのかを突き止めるのは難問になりそうだということにも思いをはせていただければ.
  • 「グラフを利用することで世の中の経済が見えてくるんだなと改めて思った」 「使いこなすことができれば,世の中の動きを理解できそう」「ただの2つの直線でこんなことまでわかるのはすごいと思う」
    • 売り手と買い手が登場するような場面ではいつも,需要と供給の考え方を当てはめられないかどうか考えるとよいと思います.驚くほど多くの場面で当てはめられます.
  • 「久しぶりにやったので難しく感じた」「理解するのはやっぱ難しい」「なんとなく理解できた」
    • 数学的には,均衡は連立方程式の解になっています.連立方程式を理解しておくと,経済学も理解しやすくなるでしょう.
  • 「グラフを書くとき,自分が思っていたのと逆だったところがあった」
    • 正しいほうのグラフがなぜ正しいのかを理解していただければ幸いです.
  • 「説明はわかるがグラフだけ見ても難しい.もっとグラフに集中したい」
    • 次回以降はグラフがさらに複雑化します.グラフの読解に不安があれば早めに解消しましょう.
  • 「グラフを使った方が理解しやすくて良い」
    • そうですね,言葉だけで理解しようとするとかえってこんがらがると思います.
  • 「グラフをたくさん書いていく内に,書き方も内容も理解できるようになって少し自信がついてきた」
    • よかったです.繰り返し手を動かすことはとても大切.
  • 「講義前半で前回の復習をやっていたのでよかった」 
    • しかし昨年より若干進度が遅いのが気になっています.
  • 「テストも近いのでがんばります」「テストかなり難しいんじゃないかと不安になった」
    • 例年テストは難しいと評判です.
  • 「遅刻者が多すぎてアレなので,テスト難しいことを期待します」
    • 標準化された内容をカバーする講義ですので,出席だけは適当にクリアしつつ,市販の教科書で自習するような学び方を排除しません.ただし,出席点自体は低く,ある程度の努力が必要なテスト問題を用意しますので,手を抜いた分のツケは自分で払うことになるでしょう.
  • 「アップロードする方法を教えて」
    • ユーチューバーにでもなるんですか?
    • 講義資料なら私のサイトでダウンロードできます.閲覧時には講義中にアナウンスしたパスワードを用いてください.

Thursday, May 21, 2015

経済政策I, 第5回, 2015

本を出すと何かと大変だ.出版を生業にしている方々を改めて尊敬する.

Adobe AcrobatがPro DCにアップデートされてから困った事態が発生している.PDFにセキュリティをかけるときに「互換性のある形式」が「Acrobat 6.0およびそれ以降」しか選べなくなってしまった.しかし私がLaTeXで作るPDFは「Acrobat 5.0およびそれ以降」でないとセキュリティをかけたとたんにPDFファイルが破損する(理由は不明)ことが多いのだ(たまに破損しないことがあるがやはり原因不明.同じtexファイルをコンパイルしても破損するときとしないときがあるし,Hello, World!だけでも破損するので,コーディングのせいではないと思う.W32TeXの旧マシンでも,TeX Live 2013の現行マシンでも生じるので,ディストロの問題でもない.).
そういうわけで,古いAcrobatが入ったマシンでないとセキュリティ付きPDFを作成できないでいる.講義資料を作成する上でとても不便である.解決策がまるで見つからないし対策する時間がない…



講義内容
  • 財政再建の先送り
    • 今回見た例では,囚人のジレンマと構造はまったく同じ.
    • 人間,苦しいことは後回しにしてしまいがちである.戦略的環境の下では,こうした事態が合理的に引き起こされてしまう可能性がある.
  • 支配戦略と被支配戦略
    • これは選ぶしかないだろう,という戦略と,これだけは選んではいけない,という戦略.
  • 繰り返し消去
    • 被支配戦略は,合理的なプレイヤーなら最終的にそれを選ぶわけがない(もっとよい戦略がある).こうした選択肢を排除していくことで,合理的なプレイヤー同士で行われるゲームの帰結を導くことができることがある.

コメントより
  • 「最後なぜ戦略「上」を考えないのか?」
    • 相手が必ず「左」 → 「上」と「中」 を比べると,「中」のほうがよいから,です.説明が少し足りませんでした.
  • 「両プレイヤーは支配戦略または被支配戦略を持っているのか?」
    • いつも持っているとは限りません.こうしたケースを分析する手法は次の章で学びます.
  • 「多くの分野で使える考え方」 
    • ぜひ使ってください.
  • 「少し混乱した」「難しかった」「むずかしい~」「難しかったけど少し理解できた」「後半途中からわからなくなった!!」「選択肢が増えると表の読解も難しくなる」「囚人のジレンマよりは難しかったが,内容自体はそんなに難しくはなかった」「ゆっくり考えてみると楽しくできた」「落ち着いて考えるとわかることがたくさんある」「内容は難しかったが説明はわかりやすかった」「練習が必要」「よくわかった」 
    • 私も講義中にヤバそうだと思いました.定義と照らし合わせながらじっくり考えてみてください.
    • 表を読み解くのは一苦労ですが,我々は日常的にも似たような考え方をしているかもしれませんよ.あり得ないシナリオははじめから考慮しない,というのが基本線です.
  • 「数学推理好きなので面白かった」
    • 経済学に向いているタイプかもしれませんね.ゲーム理論は理詰めで考えることが特に要求される分野である気がします.
  • 「ゼミでやったことを復習している感じ」
    • 市販の参考図書などで次々と新しいトピックも自習してください.
    • あまり講義のネタがないのはご容赦ください.
  • 「どれから消していけばいいのか一人で見つけるのは難しい」
    • たしかに.戦略の中から2つ選んできて比較していきますので,今回のケースでは計4パターン比較する必要があります.4パターンぐらいなら,有限の計算時間で終わらせることができるでしょう.場合分けをいとわない忍耐力は大切です.
  • 「テストの問題形式はどうなるの?」
    • 未定です.履修者数が多いので長文の論述などは課しません.

Friday, May 15, 2015

国際経済学I,第5回, 2015

講義内容
  • 入門ミクロ: 供給
    • 需要と比較対照しながら理解しよう.
  • 均衡
    • 需要量 = 供給量,となるところ.このときの価格が均衡価格.
    • 均衡はあくまでも想像上の産物で,現実には観察できない.しかし,誤差を伴いつつも,現実経済は均衡の周りにいる,と考えてみよう.



コメントより
  • 「均衡価格 = 相場,と認識してよいか?」
    • 相場という言葉には曖昧なところがありますが,大まかなイメージとしてはそれでかまいません.モデル上はすべての消費者・生産者がまったく同じ価格に直面します.
  • 「価格が安いときに生産量が少ないのはなんとなく理解できる.しかし生産量が少ないと平均費用が高くなるために大量に作った方が利益が出るのでは.」
    • とても鋭い質問ですね.生産量が少ないときに規模の経済が働くようなとき(俗に言うS字型生産関数)にはそのような思惑が生じるかもしれません.
      • ブログで一から解説するには少し難物になりますので,中級レベルのミクロの教科書,たとえばヴァリアン(2007)『入門ミクロ経済学』勁草書房,などに挑戦してください.
    • 手短に概略を述べます.ご指摘のように,規模の経済が働く限り,企業は生産量を増やし利益を増やしにかかるでしょう.でも規模の経済によるうまみがいつまでも続くわけでなく,どこかで生産量が増えるにつれ平均費用が上昇するようになる転機が訪れます.講義で扱うような右上がりの供給曲線は,この転機を迎えた後の部分だけを見ていることになります.
      • 十分な需要がある限り,この転機を迎える前に企業が生産をやめてしまうことはありません.もっと生産すればもっとコスト削減できて儲かるのは明らかなので,生産をやめて儲ける機会を逃すようなことは考えにくいのです.なので,そもそも規模の経済が働いた状態のまま生産することはありません(要は,二階条件を満たしません).
      • 需要がそれほど多くない場合はそういうわけにもいきません.いつまでも転機が来ず,とにかく規模の経済が強烈に働いているような企業もいるかもしれません.しかしこうした企業をプライス・テイカーと仮定するのは適切でなくなってしまいます.こうした企業を分析するには,講義で学ぶものとは別の道具が必要になります.
  • 「市場での価格は需要と供給の均衡で決まり,その相場を見て需給が決まっていくプロセスだと理解した」
    • そうですね.
  • 「現実はもっと複雑な要因があり,もっと細かいグラフになる気がする」
    • 場合によっては簡単に図示できない事態になるかもしれませんね.
  • 「価格次第で経営は大きく変わるんだなと,価格の重要性がわかった」
    • 価格は単に企業の経営を左右するという以上に,経済学上きわめて重要な役割を果たします.
  • 「均衡という状態は,理想的な状態?」
    • 特殊な状況(完全競争)の下では,理想的(効率的)な状態になります.なお,この講義では,均衡が理想的になる状況のみを分析します.均衡の善し悪しについて詳細は,ミクロ経済学で学ぶことができます.
  • 「増税で供給が減るのは大変.気になる.」
    • 経済学では,供給(や需要)が減ること自体よりも,それによってムダが生まれることをとても気にします.増税とは逆に減税したり補助金を出したりすることで供給を増やせばよいのかというと,そう簡単でもない予感がしませんか?
  • 「『沖縄の業界地図』の価格はどういう理由で決めたのか?」
    • 赤字を出すリスクを小さくしつつ,なるべく儲けが出るように決めました.特に需要量と出版社・印刷会社との分配の仕方について様々なシナリオを検討するべく,プログラムを組んでシミュレーションを走らせながら決めました.需要予測をするときには,他の沖縄本やビジネス雑誌の価格帯,想定される顧客の所得水準や書籍への支出性向なども参考にしました.また,シミュレーションでは算定しませんでしたが,我々の商品が経済学でいうところの公共財・耐久財としての性質も持つことにも配慮しました.私はビジネスの経験が皆無で,だいたいこの程度のことしか考慮できませんでした.
      • このクオリティだと5000円ぐらいしてもいいんじゃない?というような声も聞こえます.950円はお買い得ですよ!!!!
  • 「『沖縄の業界地図』が思っていたよりもとても本格的で気になる」
    • 今すぐ買うべし.
  • 「需要と供給の流れを覚え,人が求めている商売をすれば上がると思う.でも必ず下がってくると思うので,安定した商売が大切だと思った.」
    • 需要が大きくかつ安定している商売をしたいですね.
  • 「何回もやることで頭に入るので無駄ではない!むしろためになった」「書き方がわかってよかった」 「少し習ったことあるけど忘れてた」「供給という言葉は聞いたことがあり懐かしいと思った」「最初はグラフは難しくてややこしかったけど,意外にわかりやすくて簡単なのかと思った」「供給は需要に似ているから理解しやすかった」
    • 忘れずにマスターしてください.紙とペンがなくても頭の中でイメージできるようにしたいものです.
  • 「グラフは書けたけど内容はあんまり意味わからなかった」「書けるように復習したい」「正直言って難しい.テストまでにはマスターしたい」
    • この講義に関しては数学的な議論は不可避です.がんばって追いついてください.
  • 「為替の話はよくわからなかった」
    • 詳しくは後期の講義でやります. 為替の話がわからなくても現時点では問題ありません(わかるに越したことはないです).
  • 「均衡について深く学べてよかった」「均衡の説明がわかりやすく興味深い」「均衡は高校でもやった」
    • 均衡という概念を(批判的に)受け入れると,経済学の理解が進むでしょう.

ちょっと進捗が遅い気がする.研究モードから授業モードに気持ちを切り替えるのが難しい…

Thursday, May 14, 2015

経済政策I, 第4回, 2015

講義内容
  • 囚人のジレンマ
    • この単純な例から得られる洞察は計り知れない.
    • 利己的にふるまうことが,社会にとって望ましい結果をもたらすとは限らない.こういう状況では熟慮された何らかの経済政策で誰かをもっと幸せにする余地があるはずだ.
    • 信頼したくても相手が裏切るかもしれないし,相手も自分が裏切るかもしれないと思っているかもしれないし,自分が裏切るかもしれないと思っていることを相手に読まれていることを踏まえて考えていることまで読まれるかもしれないし,さらにそう思っているかもしれないことを相手も読んでいるということも読んでいるということまで読まれているかもしれないし…と推論の果てまで思考をこらし始めるとグルグルとわけがわからないことになるかもしれない.ゲーム理論はこうした状況をも扱うことができるように構築され,また改良され続けている.
  • 利得表の読み方
    • ゲームはプレイヤー・戦略・利得からなる.この3つに着目して整理しよう.

コメントより
  • 「自分が囚人だったらと考えると複雑な気分だった.別の角度から物事を考えるにはとてもいい方法だと感じた」
    • プラトンよろしく,我々は洞窟の奥に囚われていて,真理の片鱗をぼんやりと認識しているだけなのかもしれません.知的に閉ざされた状態から脱したいものですね.
  • 「相手も同じことを考えている場合もあるので,自分の思い通りにならない.相手の裏をつくような戦略,または互いの利得が合致できるような戦略が必要になっていくのかなと思った」
    • 裏をつくより,抜け駆けして裏をつくようなインセンティブがないですよ,という状況をお互いに作り出すとよいかもしれません.
  • 「身近なことにもこの理論は当てはめることができると思った」「いろんな例を見ていきながらマスターしていきたい」
    • 例は連休前にいくつか挙げたとおりですが,今後の講義でもたくさん出てきます.
  • 「自分なら自白すると思う.先生だったらどちらを選ぶ?」
    • 普通の人よりは利己的に行動していますのでおそらく自白します.でも相手が絶世の美女なら答えは変わるでしょう.
      • 社会的利益に反するにも関わらず利己的に行動する人を見ると,とてもガッカリします.自分のことは棚に上げてそう思っているのでやはり私は自分勝手なのだと思います.
    • 実験経済学という分野で,人間が実際のところ何を考えどういう状況で何を選ぶのか,を検証する試みが行われています.
  • 「高校の頃友人3人と講座をサボったとき,他の2人に自白されみんな怒られた.自己中や利益追求は悪いだけではないです.」
    • リアル囚人のジレンマは珍しい経験ですね.
  • 「わかったし表も読めるようになった」「単純だけど考えないと難しかった」
    • 表の読解はコツをつかめば単純です.でもそのメッセージを深く考えるのは単純ではないですし大切ですね.
  • 「知ってはいたが,二人とも否認すればよいと思っていた.両方のプレイヤーに裏切るインセンティブがあり,相手を信用できるに,二人とも自白してしまうということでとてもおもしろいなと思った」 「話し合うか事前に決めておけばよい感じになると思った.それでも自分のためだけを考えると難しい問題になると思う.相手を信頼し思いやる気持ちがあればうまくいくのであれば,そのための政策を考えていくのが大切だと思った」
    • 我々が日常的にイメージする「信頼関係」が具体的にどういう意味を持っているのか,改めて考え直すヒントをゲーム理論は提供しているのかもしれません.
  • 「結局人は自分が得するように選択をするんだなぁー」「相手のことを思っていれば自白しないのでは」
    • 人間はある程度は利他的に行動します.でも,自分を犠牲にしてでも人のために何かをするというのは難しいですし,他人に犠牲を強いることはなおさら難しいと思います.
    • 利己性はとても古くから大きな哲学的課題として人類の前に立ちはだかっています.たとえば児玉聡(2012)『功利主義入門: はじめての倫理学』筑摩書房,は読みやすく経済学ともリンクしており面白かったです.
  • 「信頼関係がない限り難しいので,ほとんどの場合で囚人のジレンマは成り立ちそうだと感じた」
    • 罠にはまったまま抜け出す術を見いだせないような状況は多くあるでしょうね.
  • 「懐かしい」「久しぶりに思い出すことができた」「2年のときに習ったけどカンペキに忘れていた」「1年生の頃に習っていた」「何かの本で学んだことがある」「よくわかった」「おもしろいのでもっと知りたい」
    • 私が初めて学んだのは高校生の頃でしたが当時はよく理解できませんでした.
  • 「ライアーゲームと似ている」 
    • 途中で読むのをやめちゃったので….
  • 「パターンが多くおもしろかった」
    • 場合分けはとても大切な知的作業です.苦にせず挑んでほしいです.
  • 「業界地図の本は役立ちそう」
    • お役に立てれば光栄です.様々な仕掛けが施されているので,読み手の読解能力も問われるかもしれません.
  • 「元ネタは芸人ですか?」
    • 特定のモデルはいません.