Saturday, March 7, 2020

新型コロナをめぐる雑感

いろいろ雑感.

連日ニュースを見て鬱々とするのは震災以来である.ストレス解消も兼ねてブログ更新.



新型コロナウィルスの影響で,MITでは海外出張が禁止されたらしい.沖縄のMITこと弊学でも海外渡航が当面禁止になり,私も海外出張がキャンセルになった.各方面にはご迷惑をおかけしました.(しかし代理店が問い合わせパンク中でまだ旅券がキャンセルできていない…)



先日プレジデントオンラインでどこかのコンサルが沖縄は観光収入が増えても観光関連産業の付加価値が増えないザル経済だ…という趣旨のザルな議論をしていたが,中国台湾韓国からの旅客が激減しても県経済への影響は軽微ということにならないかな.

しかし実際県経済への影響は軽微,というように見える試算はある.南西地域産業活性化センター (link: PDF) は詳細不明の構造モデル(NIAC計量経済モデル)を用いて,観光消費額-0.1兆円,名目県内総生産が-0.08兆円,と試算しており,県内総生産4兆円の2%程度しか打撃がない,という結論を導いている.
しかしこれは直近の日韓の入国制限うんぬんが入っていなさそうという以上に,学校の休校に伴う労働供給減少や,もろもろのイベント中止,県からの輸出への需要の落ち込み (たとえば電照菊みたいなところは今季は絶望的と思われる),雇用調整助成金など膨大な補償金をまかなう将来の税負担増,などもろもろの要因を加味していなさそうで,新型コロナのインパクトを過小評価しすぎている気はする.(実際「2~5月の入域観光客数、観光消費額の減少分のみが波及効果を含めて年間のGDPなどに及ぼす影響であること」と断り書きはある.)

一方沖縄県が公表している観光の波及効果では,観光消費額(0.8兆円)の約1.5倍の「経済波及効果」(1.2兆円)が生み出されているらしい.ざっくり言って沖縄経済の1/4は観光でできている.
仮に県外・国外の観光客が半減し観光消費額もほぼ半減すれば,0.6兆円が吹き飛ぶ計算になる.県内総生産4兆円の15%に相当する損失が観光だけで生じることになる.リーマンショックの比ではない.

個人的にはどちらも極端で現実は間ぐらいではないかと思っているが,しばらくは影響見極めモードである.



マスクやトイレット・ペーパーの買い占め・転売が「反社」と言われる風潮を見ると,少しもやもやするものがある.入門的な完備・完全競争のモデルだと裁定取引業者は需給のミスマッチを解消し,むしろいたほうがよい(が均衡では裁定取引する余地がなく業者は超過利潤を得ることができない)存在だと思われるからだ.

厚生上問題になりそうな点は,転売そのものというより買い占めのほうだろう.買い占めで供給量を絞るからこそ,独占的な高価格をつけられるようになる.独占価格はもちろん非効率なものだろう(そして妬みも買う).

では次の問題は,なぜ需要が高まったときに,本来の供給主体 (薬局など) でなく(往々にして匿名の)裁定取引業者がこうした行為を取るのか,であろう.
その答えは,薬局などは「評判」を気にしており機会主義的な行動ができない,というものになるだろう.一過性の需要ショックに便乗して「評判」を失うと,騒ぎが収まった後に損をする.匿名の裁定取引業者は個人で数十万円もうけたらラッキーで終わるが,薬局は数十万ぽっちのはした金のために消費者の信頼を失うことはできない.
薬局などは,評判を気にするからこそ,裁定取引業者が転売しているにも関わらず価格を据え置きにすることでかえって信頼を得ることができるので,それがまた裁定取引の余地を生み出してしまう.完全競争だと裁定取引は均衡から一時的に外れた状態だろうが,評判形成のメカニズムを考えると裁定取引が起こる均衡も出てくるかもしれない.

裁定取引業者は,情報の非対称性や不完備契約といった摩擦があるもとでも健全な市場取引を確保しようとする業界の努力を踏みにじっている,と考えられているのかもしれない.