Wednesday, July 31, 2013

13年7月沖縄県主要指標

先月の記事: 13年6月沖縄県主要指標


例によって鉱工業生産,CPI,完全失業率をプロットする.おおむね産出増・物価上昇・失業率低下,と順調である.ザ・財政政策という感がある.

まずは鉱工業生産指数.先月までは原数値にそのままHP-filterしていたが,今月はDECOMPで季節調整してからHP-filterにかけている.データの始期と直近部分で差が出る模様.
鉱工業生産, 2005年=100. 薄灰色が原数値, 黒がDECOMPで季節しばいたやつ, 青がトレンド, ピンクが日本全国のトレンド. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」
  • 順調.前年同期比で7.7%も上昇.
    • 木材やコンクリートなど,建設資材らしき品目が伸びている.

消費者物価指数はプロットの仕方を変えてみる.これまではCPIとコアCPI(exc.生鮮食品)の水準を見ていたが,今回はCPIとコアコアCPI(exc.酒類以外の食品とエネルギー. 外国でいうcore CPI)の前年同期比を見る.
那覇市のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
沖縄県のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
  • コアコアはCPIに比べ約2/3のウェイト. 消費支出の1/4ほどは食品で,1割弱がエネルギー,のため.
  • コアコアのほうがデフレぎみで変動も控えめ.
    • 食品・光熱費の物価上昇率が4%台だった2008年頃は差が顕著.
  • 今月はコアコア以外の指標(CPI総合, 生鮮食品を除いたやつ, 持家の帰属家賃を除いたやつ)はプラスに.
    • 電気・ガス・灯油が上昇中.(たしかに昨日久しぶりにマイカーに給油したらけっこう取られた気が…)
    • ただ,食品・エネルギーの分が為替レート(名目や実効実質)に影響を受けているかどうかはよくわからない.
  • インフレ率は季節性がほとんどない模様.需要やコストは季節変動するのに…価格硬直性?

完全失業率は男女とも不連続的な改善が見られる.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
  •  男女とも大幅に改善中.
    • 男性が5.6%(前年同期比-2.1%), 女性が4.0%(前年同期比-1.1%).  
    • 特に25-34歳男性が就職しまくりの模様.
  • 就業者が増えて離職者が減っている状態.非労働力人口は動きなし.
    • 医療・福祉や宿泊・飲食・サービスで雇用が顕著に増加.
      • 全国でも医療・福祉は顕著に伸びている.
    • 建設業の就業者数はさほど増えていないが,一般職業紹介状況を見ると求人は増加中.

建設業について:
  • 沖縄では建設ブームが到来しているようだ.ブログでまだ紹介していない諸々のデータからもそんな予感がしているが,たとえばローカル新聞では次のような記事がある:
  • 最新の毎勤では建設業(規模30人以上)のマンアワーは前年同期比では増加.賃金も少しずつ上昇している.
  • 沖縄振興特別推進交付金と消費税増税の駆け込み需要,が目下のところ要因とおぼしい.
    • 交付金の使途は何かと残念に思う.
  • ブームの要因は長続きしそうにはない.2014年春頃に一旦転換点を迎えそう?
    • VAT8%は予定通り進むとしても,15年10%は不透明になってきている気がする.
  • 私の建設業界知識は金本 (1999)で止まっているので,そろそろアップデートしたい.
    • 金本 (1999)はかなりの良書.特に松村先生の論考は鳥肌モノ.オークションやIOの研究者を中心に続きをやってくれないものかしらん.

参考文献:
  • 金本良嗣 (ed.) (1999) 『日本の建設産業: 知られざる巨大業界の謎を解く』日本経済新聞社

Monday, July 29, 2013

経済学入門I, 第14回

講義内容:

  • 貨幣の需給
    • 準備預金制度を中心に日本の金融システムは動いている.
    • 日銀は日銀当預にある預金(リザーブ)をコントロールしながら,マネーストック(貨幣供給)をコントロールし,ひいては物価水準をコントロールしている.
  • Googleのビジネスモデルは?
    • 俗にいうtwo-sided marketかな,という話をしましたが,典型的な例とはいえないようです.(Luchetta 2012)
    • 未読ですが,Anderson (2009)や依田(2011)が参考になりそうです.
    • 限界費用ゼロのデジタル世界は,入門講義で習う供給曲線では分析しにくい世界です.もう少し深くミクロ経済学を学習する必要がありそうです.
次週:
  • 金融市場の残り
  • 数日中にはレジュメ7をアップロードしますので用意願います.(追記: アップロードしました)
  • 課題の提出も忘れずに

参考文献:
  • Chris Anderson (2009) Free: The Future of a Radical Price, Hyperion. (高橋則明訳『フリー: 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』NHK出版)
  • Giacomo Luchetta (2012) Is the Google Platform a Two-Sided Market? Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=2048683 
  • 依田高典 (2011) 『次世代インターネットの経済学』岩波書店

Sunday, July 28, 2013

国際経済学I, 第15回

講義内容:
  • これまでのまとめ
    • 沖縄の比較優位は?
      • 地理的要因以外に拠り所を作りたい.未来を担うみなさんに期待.
        • 物流拠点としての整備は現在も進行中.直近のニュースでは,沖縄の倉庫賃料の低さを活かして,ヤマト運輸が那覇空港を拠点に外国に部品発送を開始した(ヤマトホールディングス)とか.
      • 自分中心の発想から抜け出すことが大事.貿易は相手があって成り立つものだから.(言い忘れた)
    • テストで測れないスキルも大事,という話で紹介した論文はSegal (2013)である.このあたりの議論はノーベル賞受賞者のJames J. Heckmanによる一連の研究が有名.(学生にaccessibleなものだとHeckman (2013)がお勧め. 短いので夏休みの読書にどうぞ.loveこそが稀少資源だ!)

素点の分布は以下の通り.


  • 受験者数53人, 平均59.8点,中央値57点, 標準偏差18.4.
  • 文句なしの満点もいた(ありがとう!)が,大半の人はしょっぱい結果である.
  • 最終的な評定は中間との加重平均+授業参加によって決める.
  • 恨みはないが救済する誘因もないわけで…

都合により,問題の解説は1週間ほど遅れる.申し訳なし.


採点を終えての雑感:
  • テストを想定した練習問題を事前に提供したほうがよかったかもしれない.
    • 何をどう勉強していいのかよくわからない,という人が多かったのかも.
    • しかし作問の限界費用は大きい.後期講義で練習問題を準備できるかどうかは今のところ自信なし.
  • 何より自分の無力さを感じる…

後期について:
  • 後期は国際マクロ・国際金融を扱う.
    • なるべく数学的テクニックは使わないが,文字式での四則演算(特に割り算),グラフの読み書き,といった初等数学は使用する.初等数学が苦手かつ苦手を克服する気がない人は,私と縁がなかったと思って履修登録を見送ったほうがよい.
  • おおむね前期と同じ要領で行う.(もちろん授業評価アンケートなどのフィードバックは随時改善に結びつけます.ご協力ありがとうございました.)
  • 半年間お疲れさまでした! よい夏休みを.

参考文献:
  • James J. Heckman (2013) Giving Kids a Fair Chance, The MIT Press.
  • Carmit Segal (2013) Misbehavior, Education, and Labor Market Outcomes, Journal of the European Economic Association 11, 743-779.

Thursday, July 25, 2013

13年7月家計調査

先月の記事: 13年6月家計調査

先月に引き続き,消費支出は低迷中.(今回は名目値だけ掲載.)
名目消費支出(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: MAで季節変動成分を除いた周期短めのトレンド, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
前年同期比は以下の通り:
名目消費支出のy-o-y成長率 (単位: %). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: MAで季節変動成分を除いた周期短めのトレンド, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
  • 沖縄ではどうも2013年に入ってから消費が右肩下がりで低迷中の模様.全国では横ばいの動きをしており,少し気になる.
  • 教育支出が前年同期比で-31.6%と,ここ3ヶ月連続して大きく縮小している.教育支出の減少が消費支出の減少に大きく効いているので,原因が気になる(標本構成の変化? 制度的変化? 教育の物価指数は高校無償化以後ほぼ動きなし).

勤労者世帯の可処分所得を見ると(長い目で見るとBGPに乗っているようだが)直近ではがた落ち:
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: MAで季節変動成分を除いた周期短めのトレンド, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
  •  4, 5月は前年同期比で-11%ほど可処分所得が減っているように見える.すぐ平均へ回帰するとは思うけど,要因は?
    • 将来のfundamentalsに関する大きなニュースって何かあったっけ…

小型不況の予感?今後の完全失業率の動きが気になるところ.

Wednesday, July 24, 2013

経済政策I, 第15回

講義内容
  • これまでのまとめ
    • 需要と供給のモデルや,ゲーム理論は物事を考え世の中を理解するための道具である.
    • 市場が常にうまくいくわけではない.ので何らかの形で政府がその機能を(代替ではなく)補完することが不可欠.
    • 政府がうまくやるには,我々の行動パターンを様々な角度から理解する必要がある.人の行動パターンをシステマティックに分析する上で経済学は有用である.

期末試験の結果:
  •  得点分布は以下の通り.


  • 平均は76.6点, 中央値は77点, 標準偏差は15.9. (受験者20人)
    • 上の図だと60点台に固まっているように見えるが実際はギリギリ70点という人が多い(最頻値も70点).
  • 中間試験と平均しつつ授業参加を足しつつ,とすると,本日試験を受けた人はみななんとか単位を獲得できる見込みである.ご安心を.
    • 単位や成績そのものは人生にとって何らエッセンシャルではない.講義を通じて何かしら得たものがあれば私としては幸甚の極みである.
  • どんな人が高いグレードを獲得できる講義なのかは恥ずかしながらわからずじまいである.期末の成績や総合成績は,中間試験の成績や出席状況などに左右されるとは限らないようである.
  • 追試などの救済措置は行わない.水平的公平性を期するためである.

ミスが目立った設問について略説:
  • 「日本の消費税は従量税方式?」
    • 消費税は従価税方式であり,税額は価格の5%として計算される.1単位につき税金いくら,という従量税ではない.
    • 消費税は平成16年から「総額表示」が義務づけられている.たとえば100円の財を販売する際には,税込みの金額105円を値札・チラシに表示しなければならない.(書籍は例外)
    • 物心ついた頃から総額表示に慣れている若い世代は,納税額やその仕組みに無自覚だったかもしれない.これがジェネレーション・ギャップか…(?)
  • 「応能負担・応益負担」や「垂直的公平性・水平的公平性」の区別
    • 「公平性」といっても,公平さは様々な切り口で評価することができる.それぞれの違いを押さえよう.
    • 縦方向(垂直)の比較と横方向(水平)の比較の違いは,下図のようなイメージ.所得を課税ベースとした場合,同じ所得の人なら,同じような負担をすべき(→所得補足率に差があると不公平感),というのが水平的公平性.一方,高い所得の人はそれ相応の負担が求められる,というのが垂直的公平性.
  • 「初中等教育サービスはどういう正の外部性をもたらすか?」
    • 外部性の定義上,価格メカニズムを通さずに作用する便益を考える必要がある.
    • 単に「教育を受けた人が何らかの形で成長するから」では不十分である.そのロジックでは「ラーメンを食べた人が満足感を得る」ので,ラーメンに補助金を与えよう,となりうる.しかしラーメンの価格が社会的な限界便益と限界費用を反映している限り,そうした補助金は資源配分を歪め非効率性を生み出すことになる.
    • 教育を受ける家計自身が教育から得る便益(成長できる,友達ができる,など)以外のメリットが社会に発生しているかどうか,発生しているとすればどういう経路か,を答える.
    • たとえば,教育水準の高い人は他人の教育水準を高めるきっかけを提供すると考えられる.
      • その一例として,教育水準の高い母親の元で育った子供は,教育水準の低い母親の元で育った子供よりも様々な側面で立派に育つ可能性が高まることが挙げられる.「母の教育→子供の成長」というよい影響があったとしても,子供がその見返りに母親にお金を支払うわけではない(老後の面倒を見るという形で恩返しをするのだが).
      • 「他の生徒・学生にもいい影響」「競争意識が芽生える」などのよい解答があった.クラスメイトや友達から影響を受けることをそのまんま「友達効果(peer effect)」と呼び,外部性の典型例である.「あいつには負けてられないな…」という闘争心が時に人を強くする.
    • あるいは,教育水準が著しく低い地域への旅行をイメージしよう.ちょっと道を聞こうとしたら話が通じず,ちょっと写真を撮ってもらおうとしたらカメラを持って行かれるかもしれない.つまり,基礎的な教育は円滑な社会を築く上で不可欠な土台になるのだ.
    • 他にも, 教育を受けた人は衛生に気を遣うため,感染症や伝染病を引き起こしにくい,といった外部経済もあるかもしれない.
    • 「教育水準が高い人を雇った企業の生産性が高まる」というような解答もいくつかあった.もし企業が教育水準向上による生産性向上の効果を賃金という労働の"価格"に十分に反映させるのであれば,教育は外部性を持つとは即断できない.他の従業員によい刺激を与えて企業全体で生産性が高まる,というときには他の従業員に対して正の外部性を与えていると言える.
    • 「安くなると助かる」などと補助金そのもののメリットを説明した解答も多かったが,これは設問の意図とずれている.
    • 問題の焦点を絞るべく初中等教育に話を限定したが,大学教育も同様に正の外部性があると考えられる.大学で学ぶことの社会的な意義を改めて考えるきっかけになれば幸いである.
      • たとえばMoretti (2004)では,都市に住む大卒が増えたら,同じ都市にいる中卒・高卒・大卒の賃金が上昇することを見いだしている.
  • 「税金で生産者価格がどう変化するか」
    • 消費者が支払う価格は上昇するが,政府に納める税金の分を差し引けば,生産者が実質的に受け取る価格は低下する.これは価格上昇に伴い消費者が需要を減らすからである.
      • ひっかけ問題のつもりはなかったのだが,生産者価格を問うているのに消費者価格を答える解答が多かった.設問の指示はよく読もう.
  • 「外部不経済が生じる場合の最適供給量を求めよ」
    • 下図の通り.供給曲線は人件費やテナント料といった生産者自身が直面しているコスト構造(限界費用)を反映している.しかし,社会全体を見渡したときには,外部不経済という,生産者自身が負担していないが社会に発生しているコストも加味する.
  • 「ナッシュ均衡はどれか」 
    • ナッシュ均衡の定義上,「戦略の組み合わせ」を答える必要がある.「(0,0)」などは「利得の組み合わせ」である.正確には「(多め, 多め)」 など.
    • 囚人のたとえ話では,どういう利害の構造が問題になっているのかを考えたい.たとえ話を文字通り受け取るのでなく,何を言わんとしているのか,一般化して本質的なところを抽出し理解しよう.
      • よくわからなかった人は,最適反応の意味を理解するところから始めよう.
      • 言葉の「定義」をなるべく正確に押さえることは勉強する上で重要である.
    • 2番目のゲームでは,「(てーげー, てーげー)」が社会的に最適になる.何も全力を尽くして脇目もふらずみんながんばることばかりが最適とは限らない.ライバルを出し抜こうとして互いに不毛な努力に資源を割いてしまう(ラットレース),という話.
  • 「二つのゲームではどういう問題が生じているか?また,どう解決すればよいか?」
    • どちらも共通して「囚人のジレンマ」が発生している.囚人のジレンマを解決しようとして政府が浅はかな介入をした結果,別の囚人のジレンマが生じる(一種の「政府の失敗」である),という深遠なストーリー.
      • もっと言えば前半のゲームは「共有地の悲劇」に相当する.みんながアクセスできる海洋資源を好き放題利用できる,というときには海洋資源が過剰に利用されてしまい,枯渇する(ウニ絶滅)可能性すら出てくる.
      • 環境問題を考える上でゲーム理論は重要な視点を提示しているのである.
    • 後半のゲームは「(総枠を決めるのではなく)漁協ごとに漁獲量を決めればよい」という解答がベストアンサー(すばらしい!).本モデルでは競争はこれといってメリットのないものであり,競争を誘発しないような仕組みをデザインすることが肝心である.
      • 話の元ネタである古宇利島では,船ごとに漁獲量を自主規制しているようである(琉球新報).
    • 「協調すればよい」という解答は確かにその通りであるしそのゆいまーる精神は将来活かしてほしい.しかし現実には因縁のライバルと仲良く話し合えないことも多々ある.それどころか世の中には他人の邪魔をするのが趣味のような人も大勢いる.人の善意や献身ばかりに頼れないような状況で頼りになるのはミクロ経済学に他ならない.

後期について:
  • 後期はマクロ政策がテーマである.総需要管理政策(財政政策・金融政策)だけでなく,経済成長周りの議論や社会保障もカバーしたい.
    • 時事問題はほとんど取り扱わない.そのため,たとえばアベノミクスの荒波をどう乗り切るか?といった関心を持って受講しても肩透かしに終わるであろう.学問的評価が定まっていない上,自分の専門ではない事柄について講義中に物申すことはしない.
  • 前期とおおむね同じ要領で進める予定である.(もちろん授業評価アンケートなどのフィードバックは随時改善に結びつけます.ご協力ありがとうございました.)
    • パソ室の印刷枚数制限に配慮して印刷枚数を削減できないか検討中.(少なくとも初回レジュメはこちらで印刷予定)
      • 排出権取引よろしく,印刷可能枚数を学生間でトレードできる市場を開設したらパレート改善になりそうだよね.取引費用さえ無視できれば.
  • 半年間お疲れさまでした!よい夏休みを.

参考文献:
Enrico Moretti (2004) Estimating the social return to higher education: evidence from longitudinal and repeated cross-sectional data, Journal of Econometrics 121, 175-212.


Monday, July 22, 2013

経済学入門I, 第13回

講義内容:
  • 労働時間による雇用調整
    • 週休二日制が導入されても,週あたり労働時間は減っていない可能性もある(Kuroda 2010).政府が法的に経済主体の行動を規制しようとしても,意図していない反応を引き起こし,当初の目的が十分果たされないことはしばしある.
    • 沖縄の平均週間就業時間は全国とさほど変わらない.南国のだらけたイメージは必ずしも正しくない.
    • ワーク・ライフ・バランスを巡る議論は,様々な労働・社会問題と結びついている.
    • 「ブラック企業は日本特有か?」という質問に講義中回答できませんでした.
      • ブラック企業(Sweatshop)は世界各国でも問題になっているようです.一方,過労死は英語でそのまま"Karoshi"とされるほど,日本に特徴的な概念のようです(似たような単語はあるかもしれません).
      • 中国では近年過労死(过劳死)が急増しているようです(eChinacities.com).ただし実数が増えているのか,従来から過労死はあったものの「過労死」という言葉を導入して初めて過労死だと認知できたケースが増えているのかはよくわかりません.
  • 摩擦的失業と構造的失業
    • 労働者や仕事の多様性も真剣に考えよう.
  • 金融市場
    • 欲望の二重の一致を克服する工夫として貨幣がある.貨幣そのものは消費の対象ではないことが,他の財・サービスと大きく異なる重要な特徴である.
      • 貨幣そのものへのあくなき欲求自体を否定するわけではありません.不況は消費と貨幣の限界代替率が…などという議論も…(cf. Ono 2001)
    • 二千円札は法的には歴とした貨幣であっても,沖縄以外では一般受容性に乏しい.
    • 「貨幣」といっても様々な測り方がありうる.現金の他に,M1は普通預金,M2+CDは銀行預金,M3は銀行以外の預金を含める,というイメージ.
次週:
  • 金融市場の続き.
  • 次のレジュメは近日中に公開できるよう準備します.

参考文献:
Sachiko Kuroda (2010) Do Japanese Work Shorter Hours than before? Measuring trends in market work and leisure using 1976–2006 Japanese time-use survey, Journal of The Japanese and International Economies 24, 481–502.
Yoshiyasu Ono (2001) A Reinterpretation of Chapter 17 of Keynes's general Theory: Effective Demand Shortage Under Dynamic Optimization, International Economic Review 42, 207-236.

Sunday, July 21, 2013

gains from trade in okinawa

Arkolakis et al. (2012)に従った定式化のもと,沖縄の貿易利益を試算してみた(実態は産業連関表をから輸入浸透度を計算しているだけ).つまり次の式を使ってautarkyと比較した:
\[\hat{W}_j = \hat{\lambda}_{jj}^{1/\varepsilon} .\]
ポイントは実質所得の変化$\hat{W}$が2つの十分統計量でキャプチャーできること.
  • $\lambda$: 域内財への支出シェア
  • $\varepsilon$: "trade elasticity." 定義は$\varepsilon_j^{ii'} = \partial \ln (X_{ij} / X_{jj} ) / \partial \ln \tau_{i' j} $で,典型的には$1-\sigma$.
沖縄の産業連関表(H17)から$\lambda$を計算し,$\varepsilon$に応じて$\hat{W}$をプロットしてみた.
Gains from trade in Okinawa (単位: %). 青が輸入から, 赤が輸移入から. 出典: 沖縄県「産業連関表」.
  • 外国との取引によるゲインは1%あるかないかで,内地との取引からはたかだか10%.
    • 輸入の場合,$\lambda = 0.957$で, $\varepsilon = -2$のとき2.16%, $\varepsilon = -5$のとき0.87%, $\varepsilon = -10$のとき0.44%, となっている.
    • 移入も含めた場合,$\lambda = 0.770$で,$\varepsilon = -2$のとき12.25%, $\varepsilon = -5$のとき5.09%, $\varepsilon = -10$のとき2.58%, となっている.
  • 日本も他国と比べると貿易利益が少ない方だが,沖縄はもっと少ない?
ただし本エントリはcross-industry variationを無視した計算をしている(cf. Ossa 2012).しかし鉱業や石油などは輸入しないとどうしようもなかったり.

あとは$\varepsilon$を識別できるような外生ショックがあるといいね.

Reference:
  • Costas Arkolakis, Arnaud Costinot, and Andrés Rodríguez-Clare (2012) New Trade Models, Same Old Gains? American Economic Review 102, 94-130.
  • Ralph Ossa (2012) Why Trade Matters After All, NBER Working Paper 18113.

Friday, July 19, 2013

国際経済学I, 第14回

講義内容:
  • Rybczynski定理
    • 要素価格均等化が成立している状態では,移民受け入れ(労働供給増)は賃金低下に結びつかない.
    • 産業間での資本移動が謎解明のポイント.
      • 自由参入条件や産業間の生産要素移動は,特殊要素モデルでも重要な役割を果たしていた.
  • 頭脳流出
    • 日本だと医者の数%しか移民にならないが,インドだと医者の10%以上が出て行ってしまっている.(Bhargava et al. 2011)
    • しかし流出のメリット・デメリットはいまだによくわかっていない部分も多い.
      • 沖縄では能力が高い人材は流出超過な気がする.
      • 私のようにUターンする移民は,能力がいまいちだからこそ戻ってきたタイプである可能性が(cf. Borjas and Bratsberg 1996)…自己研鑽を怠らずに地元に貢献したいところ.
  • FDI, タスク単位のoffshoring
    • 輸出・輸入とは違ったグローバル化の形.
      • 本日の某講演会では,翻訳作業を外注して裁定取引をする話も出ましたね.
    • マニュアル化できるような単純作業に従事していた労働者には厳しい時代になりつつある.途上国労働者のほうがそうした作業に比較優位を持っているかもしれない.
    • 80年代以降の国際経済学はこうした動きに対応して膨大な知見を積み重ねてきている.
次週:
  • 期末テストを実施します.試験範囲はレジュメ3以降とします(中間でカバーしなかったレジュメ2後半は出題しません).なるべくボールペンで解答してください.
コメントより:
  • 「スキルを身につけていないと,将来賃金が少なくなってしまうのかな」
    • 高賃金がほしければ自分を磨くのが不可欠ですね.運にも大きく左右されますが.
  • 「テストでがんばりたい」
    • ぜひともよい結果を残してください.
  • 「送金の金額がすごい」
    • 先進国に住んでいるとなかなか気づかない動きですね.世銀によれば,タジキスタンはGDPの47%もの送金を受け取っているようです(2011年).
  • 「移民が来たからと言ってその国で働く人たちの賃金は下がることはあまりない」
    • 「移民は脅威」とは限りませんね.むしろ新しい仕事を生み出してくれるかもしれません.
    • 移民の議論は入ってくるのも不安だし,かといって出て行く(特に高技能労働者)のも不安,という感覚がつきまといます.こうした不安な感覚はそれなりに自然なものですが,自然なだからといって正しいわけではありません.
  • 「日本の失業者はびっくりするぐらい多いけど,それ以上に外国でたくさん雇っていることにびっくり.将来はもっと増えそう.」
    • この流れはしばらく続きそうですね.何らかの形で流れに乗るべく知恵を絞るといいですね.


参考文献:
  • Bhargava, Alok, Frederic Docquier, and Yasser Moullan (2011) Modeling the Effects of Physician Emigration on Human Development, Economics and Human Biology 9, 172-83.
  • Borjas, George J., and Bernt Bratsberg (1996) Who Leaves? The Outmigration of the Foreign-Born, Review of Economics and Statistics 78, 165-176.

Wednesday, July 17, 2013

経済政策I, 第14回

講義内容:
  • 集積の経済
    • とてつもない規模の都市が誕生したり,あるいはすさまじいスピードで都市の人口が流出し衰退することがある.集積の外部性はこうした都市の栄枯盛衰を理解する鍵となる.
  • はじめてのゲーム理論
    • 囚人のジレンマ
      • 最適な状態を実現するのは難しい.自分だけ抜け駆けするインセンティブもあるし,たとえ自分が抜け駆けしなくても相手が裏切るインセンティブを持っているからだ.
      • ゲームのような「戦略的外部性」がある場合,個々人にとっての合理性が,社会全体で見た合理性と一致する保証はなくなる.外部性があると市場の失敗が発生しうるのである.
      • 社会をよりよくするには,自分の身の回りのことだけを考えるのでなく,一歩引いた目線でゲームの構造を理解することが不可欠である.
次週:
  • 期末テストを実施します.黒か青のボールペンを用意してください.
やり残したこと:
  • とにかくしゃべり足りない!
  • 囚人のジレンマを応用すると様々な経済政策について考察することができるようになる.せめてフリーライダー問題までカバーしたかった.
  • ゲーム理論を使いながらミクロ経済学を学ぶには,梶井厚志・松井彰彦 (2000) 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』日本評論社,がお勧め.数式をある程度根気よく追うとかなり力がつくはず.

コメントより:
  • 「迷子は互いに探しに出た方が遭遇確率が上がるらしい」
    • たしかにそんな気もします. 見つかりにくい場所に滞在する時間を減らし,相手を見つけやすそうな場所に滞在する時間を増やすからでしょうか.
  • 「最適反応 = 最も得をする選択をすること」
    • もう少し厳密には,「相手の出方に応じて」最も得をする選択,です.
  • 「経済についてよくわかった気がしました」
    • これを機に学習を深めて行かれると幸いです.
  • 「授業評価アンケートで高評価を得る恩恵はあるの?」
    • 本学の人事の仕組みは私はわかりません.(たとえ知っていても公にはできない情報です.)
    • もし大学の偉い人が「いい講義を増やして学生の満足度を高めたい」と思っても,各教員の各講義のクオリティや各講義に対する工夫と熱意をいちいち観察することはできません(そのためいわゆるエージェンシー問題が生じます).そこで,偉い人は講義の質,ひいては教員の努力水準を知るために,アンケートを通じて学生からなんとか情報を集めようとしているわけです.
    • ところが,教員の教育業務のパフォーマンスをどうやって計測すればよいかは案外難しい問題です.
      • たとえば「アンケートで高評価ならボーナス」という形で教員に努力するインセンティブを与えれば,教員はしぶしぶ(?)教育に時間と労力を割くようになるかもしれません.
      • ところが,アンケートの評価を高めるためだけなら,学生におもねった緩い講義をするとよいことも知られています.たとえば,「受講者全員に優」という講義はたとえ何も得るものがないクソ講義でも大人気になりがちです.
      • そんなわけで,「アンケートで高評価なら待遇改善」という業績評価スキームは,「数字上はすばらしい講義」を量産する可能性をどうにかしない限りうまく機能しない恐れがあります.教員の努力する方向を歪めてしまうと,社会的によくない帰結が待っているかもしれません.
    • それに加え,計測した指標が不確定要因によって左右される場合にも,大学の偉い人にとって思い通りに行かない事態に陥ることがあります.
      • たとえばアンケート結果のような主観的で曖昧な指標ではなく「学生がどれだけ成長したか」に基づいて教員にボーナスを与えるとします.たとえば○○検定に合格した,○○テストのスコアが上昇した,など,客観的な成果を利用するとしましょう.
      • 「教員が努力すればするほど学生が成長する」ことはそれなりに正しそうに見えますが,実際には学生が成長して成果を残せるかどうかは運不運にも左右されます.がんばったけど試験本番ではうまくいかなかった,ということはありうるし,たまたま優秀な学生が多く履修していれば,教員が講義をがんばらなくても良い結果が得られるかもしれません.
      • そのため,教員としては運不運によってボーナスの額が上下する状況に陥ります.たいていの教員は素人ギャンブラーとは違い,給与がむやみに変動することを望んでいません(リスク回避的といいます).そのため,学生の成長という不確実な指標で自分の給料が左右されることに抵抗し,所得変動リスクを引き受けるだけの対価を要求することになります.
    • 大学に限らず,どんな職業でもいかに労働者のパフォーマンスを評価しいかに労働者の健全な努力を引き出すか,は重要な問題です.たとえば歩合制のような「成果主義」を導入すれば会社の利益を伸ばすことができるかどうかは,経営者ならずとも気になるところです.詳しくはE.P. Lazear (樋口美雄・清家篤訳) (1997) 『人事と組織の経済学』日本経済新聞社. やP. Milgrom and J. Roberts (奥野正寛ら訳) (1992)『組織の経済学』NTT 出版. その他労働経済学のテキストを参照ください.

Tuesday, July 16, 2013

24年就業構造基本調査, 沖縄

cf. 過去のエントリ: 沖縄の非正規雇用

就業構造基本調査が5年ぶりにアップデートされた.さっそく簡単に眺めてみた.(出典は以下すべて総務省「就業構造基本調査」より)

まずは雇用者数(役員除く)に占める非正規雇用者の割合を見る(単位: %):

男女計, 年齢別. 青=2012年沖縄, オレンジ=2007年沖縄, 灰=2012年日本.

男, 年齢別. 青=2012年沖縄, オレンジ=2007年沖縄, 灰=2012年日本.


女, 年齢別. 青=2012年沖縄, オレンジ=2007年沖縄, 灰=2012年日本.

  • 男女とも5年前よりも非正規雇用者のシェアは軒並み上昇している.
    • 25-29歳女性は52.5%へと前回調査時よりも低下している.非正規雇用者数は絶対数でも減っている(約2%)し,それ以上に分母の雇用者数が増加(約8%増)している.
    • 全国もおおむね同様の動きをしている.
  • 20-24歳のコホートが特に厳しい様子である.正規雇用にありつけるのが3~4割って….
  • 前回調査(2007年10月時点)だと,リーマン・ショック前で全国的に景気がよかった2006年頃の就職市場を大きく反映していると思う.ので,5年前より悪化して見えるのは驚くべきことではないのかも.
労働力調査との比較:
  • 労働力調査の完全失業率で見る分には,2007年よりも2012年のほうが改善している.
    • 07年平均は7.4%(男8.1%, 女6.3%) → 12年平均は6.8% (男7.7%, 女5.8%).
  • 非正規雇用は完全失業者には含まれないことを思いだそう.完全失業率の改善は必ずしも雇用環境の改善を意味しないのである.
    • 女性は非正規雇用が増えまくりだと思っていた(労働力調査では,就業時間が35時間未満の女性がここ数年急速に伸びている)が,若年に関しては思ったよりはマイルドな変化であった.


次に,所得分布を正規雇用と非正規雇用に分けてプロット.
雇用者の所得分布. 青=非正規, オレンジ=正規. (単位: 万円, %).
  • 正規-非正規間の所得格差は歴然.
    • 非正規雇用の85.1%は年収200万円以下,69.1%は年収150万円以下.
    • 正規雇用の85.9%は年収150万円以上,72.5%は年収200万円以上
  • よく知られているように,どちらも正規分布ではない(Kolmogorov-Smirnov検定にもかけてみた).
    • 正規雇用の分布に注目すると,250-299万円に谷があり,twin peakな密度関数になっていることが見て取れる(所得税率が変わる閾値は330万円でありちょっとズレている).ここに谷があるのは全国も同様.(労働経済学者さんなぜだか教えて!)
  • 注: 正規雇用になるかどうかは各人の持つスキルにも依存している.上のグラフを見て雇用契約形態そのものが所得格差の源泉であると解釈するのは早計である.
    • たとえば,「非正規⇒低所得」なので「政府が労働市場に介入して非正規雇用を正規雇用にすればよい」,などとは言えない.「低スキル⇒低所得」と「低スキル⇒非正規」というチャンネルが重要な場合,非正規雇用を正規雇用に転換しても労働者が持つスキルが上がるとは限らず,所得も上がらないしそもそも仕事に就けないような事態に陥るかもしれない.
未婚の男女に絞って見ると,次の通り.
沖縄の未婚男女の所得分布. 青=男性, オレンジ=女性. (単位: 万円, %).
  • 未婚男性の79.7%は年収300万円以下で,87.3%は年収400万円以下
  • 婚活の際に「年収400万以上じゃなきゃイヤ」と主張することさえ結構なシンデレラであるようだ.専業主婦として暮らしていけるのは本当に一握りの様子.
    • 婚活はランダムサーチなわけがない.ので普通の合コン・街コンでは年収400万円以上の異性と出会う確率は10%もないと思うし,首尾よく捕まえられる確率はもっと低いはず.
    • もちろん現在年収400万なくても,将来400万円以上になりうる人はもう少し多い(現在400万以上稼いでいる男性は15歳以上男性の25.5%).
    • 私のポジションはというと…キャピタルゲイン次第でしょうか.
  • 高い付加価値を生み出すことができる若者が活躍する機会がほとんどないのかと思うとげんなりするよ.
    • ただの大卒ではない「エクセレントな大卒」が少ないのが現状であり問題だと思う(skilled emigrationによるbrain gainの効果はいかほどか?).もっと分布の右裾が分厚くなってほしい.



次に,高卒と大卒がどういう産業に就いているのかを見た.
産業別有業者 / 有業者 (単位: %).
  •  上から,正規雇用者のシェアが高い順に産業を並べてある.
    • たとえば非正規雇用/正規雇用の値は,一番上の電気・ガス・熱供給・水道業は14.3%, 一番下の宿泊・飲食サービス業では71.0%, となる.
  • おおむね,大卒は正規雇用が多い産業で働いており,高卒は非正規雇用が多い産業で働いている.つまり,大卒のほうがより安定した職を提供できる産業に就いているようである.
    • 高卒有業者の24.6%は運輸・郵便・建設・製造業に就いている.これらの産業は正規雇用の割合も比較的高い.
    • 高卒は宿泊・飲食といった非正規メインで離職率も高い産業に進むケースが多いようだ.
    • 大学生の進路として人気な「公務員」や「先生」の道を実際に歩む人は意外と多いようである.
    • 大卒になると,金融・保険・教育など,知性が不可欠な産業に進むチャンスが拓けるようだ.



最後に,いわゆるM字カーブが観察されるはずの有業率(=有業者/15歳以上人口)を見てみた.
沖縄の有業率, 2007年と2012年, 男女.
  • 女性は若年層(25-29歳と35-39歳)で有業率が上昇している.
    • 30-34歳で出産のためいったん下がる,というM字っぽさが出てきている.
    • 2007年は有業率の底が35-39歳にあるわそもそもM字に見えないわで特殊であった.
    • ただし40-44歳(バブル崩壊時に青春を迎えた世代?)にもう一つ谷ができており,依然としてM字感に乏しい


Excel 2010が凍りまくるので今日はとりあえずここまで.

中島『国際金融とオープンマクロ経済学』

後期講義に備えて読んだ本のメモ.というよりタイピング疲れのせいか指関節に激痛があり,読書するより致し方ない.

中島善太 (2002) 『国際金融とオープンマクロ経済学』東洋経済新報社
  • 国際マクロの中級テキスト.レベルはKrugman-Obstfeld-Melitzよりちょっと硬めという趣.
  • 本学学生にはあまりお勧めできない.中堅大学ゼミでの輪読向けか.
    • Obstfeld-Rogoffあたりをさくさく読めるレベルの人には分かり良いのだが.
  • 筆者のBOJでのキャリアを生かし,貨幣供給周りの記述に気合が入っている.しかし一般読者にはご利益は少なめ.
  • エビデンスは申し訳程度しかなく,ひたすらモデルを眺める構成になっている.数学に基づいた経済学的テクニックの展開は抑制されているものの,数学が苦手な人には依然理解しにくいはずである.
  • モデルは70-90年代の経済学を反映した感じ.オールド・スクールなIS-LMをworkhorseとして使っているわけではない.入門講義の種本としては悪くない.
  • とかくスノビズムがうっとおしい.(人ごとではないが…)

Saturday, July 13, 2013

国際経済学I, 第13回

講義内容:
  • 特殊要素モデル
    • 貿易が産業間を移動できない人に与える影響
    • 移民受け入れの影響
  • Heckscher-Ohlinモデル
    • 労働の自由移動 → 賃金均等化,は想像しやすい.しかし,たとえ労働が移動できなくても,財が自由移動(自由貿易) → 賃金均等化,は直感に反する結論かもしれない.
    • 世界は価格を通してつながっているのである.
    • ただし定理が成り立つためには極端な仮定が必要である.それゆえ,そのまま現実に当てはめるのはナンセンス.
次週
  • 残り&講義全体のまとめ.

コメントより:
  • 「要素価格均等化に驚き」
    • 経済学における有名な理論的帰結の一つです.がリアリティはさほど感じませんよね.
  • 「自由貿易は労働の自由移動を含意するのか?」(質問の意図はこれでよいですか?)
    • 本講義では「自由貿易」は「(市場A, B間で)財について一物一価が成立する状態」と定義しています.ので,自由貿易は「(市場A, B間で)労働が自由に移動できる」ことや「賃金が均等化する」ことを直接意味しているわけではありません.
    • 「市場間の賃金格差がどうなるか(賃金が均等化するかどうか)」という観点では,財の自由移動(=自由貿易)が労働の自由移動の代わりになる,と解釈することは可能です.
  • 「テスト勉強のコツを教えて」
    • 本講義のテストの場合,レジュメを理解することが最優先です.余力があれば適宜参考文献で挙げているような国際貿易のテキストもご覧ください.
    • 一般には,ポイントとなるロジックを抽出して自分なりに再構成することが大切だと思います.つまり,教わったまま,言われるがままに表面的な暗記をするのではなく,どういう論理的つながりを学んだのかを自分の言葉で説明できるようにすることが必要です.
      • たとえば,本講義の内容を「経済学を知らない人でも理解できるように平たく説明する」ことができるようになれば,深く理解したことになります.
    • 付言するならば,テスト勉強は後回しにしないことが大切です.テストの日に「寝てないわーつらいわー」「勉強してないわーきついわー」とミサワ的スタンスを誇示する事態に陥らないでください.
  • 「そろそろテストなんでがんばる」
    • 中間がうまくいった人もそうでなかった人も悔いの残らぬようにがんばってください.
  • 「後期のゼミは何するの?」
    • テーマ演習は不開講(の予定?)です.

Thursday, July 11, 2013

経済政策I, 第13回

講義内容:
  • ピグー税
    • 価格メカニズムを尊重しつつ,人の行動をよい方向に誘導.
    • 経済厚生の分析は,これまでの分析テクニックを総動員している.ちょっとややこしいが落ち着いて考えればよい.
  • なぜ価格メカニズムか
    • 早い者勝ち方式やくじ引きではうまくいかない.本当に欲している人が誰かわからないときには,駐車ライセンス割り当ても容易ではない.
  • 外部性 → 様々な経済現象を理解するヒントに
    • りんご園と蜂蜜農家 → M&A
    • ネットワーク外部性 → WindowsやLINEがすさまじい市場シェア獲得

次週:
  • 外部性の残り(集積の経済!)
  • ゲームと政策(中途半端なところで終わってしまう予感…)
コメント:
  •  「価格のメカニズムについてよくわかった」
    • 「お金で解決」と言うとどうにも不誠実なイメージが付きまといます.しかし欠点ばかりではないというのは経済学の大切なメッセージです(もっとも,手放しで称賛すべきものでもありませんが).
  • 「バンドワゴン効果が大きく社会を動かすかも.マンガだとONE PIECEとか.」
    • 話題に困ったときのONE PIECEの鉄板感はすごいですよね.
    • 純粋な内容の良さ以外の要素も需要に影響するようです.
  • 「スノッブ効果は私がよくそうなってしまいます」
    • わたしもですのでまねしないでください.

Monday, July 8, 2013

経済学入門I, 第12回

講義内容:
  • 資産価値と割引現在価値
    • 現在の100万円と1年後の100万円は等価値ではない.
    • 1%の変動でも「たったの1%」とは言えないことがある.
  • 労働市場
    • 失業者の能力・努力不足ばかりが失業の原因ではない.需給の両サイドから考察しよう.
    • 完全失業率の定義
    • 完全失業率だけからは見えてこない問題(フリーター・ニート)
    • 沖縄県労働市場の特徴
次回:
  • 来週15日は公休.
  • 22日にはレジュメ5だけでなくレジュメ6も用意してください.
期末レポート:
  • 29日までに提出願います.

沖縄の預貸バランス, 6月

県内金融機関の預金・貸出金ストックを見ると,内地とさほど変わらないような傾向が見て取れる(意外だった):
沖縄五行庫の実質預金(黒), 貸出金(青). (単位: 億円) 出典: 日本銀行那覇支店.
実質預金と貸出金の差額.
  • 90年代半ばから貸出のトレンドが見るからに変化.GDPの推移を彷彿とさせる動きだ.一方預金はどんどん増加.
    • 資金の借り手が本当にいないのだろう.余った預金はおそらく日米の公債へ.地銀の金利リスク…
    • 貯蓄>投資である一方で,沖縄の純移出はマイナス.民間が使わない分の資金は政府が使っているという状態である,と理解できよう.
    • 貯蓄が県内の資本蓄積に結びついてないというのは根深い問題だね.
  • バブル崩壊後に預貸ギャップは一時逼迫.しかし99年頃には元のトレンドへ回帰.
  • 2009年頃から預金はさらに増加. 
  • 直近では,建設業や不動産業を中心に貸出は増加中.
  • (そもそも県内五行庫の定義は?琉銀・沖銀・海銀・信金・MHBK,とするとゆうちょ・沖縄公庫・労金は取りこぼすことに)
以下妄想:
  • 借り入れ制約がシビア → 将来の見通しが暗いときに預金する誘因up?
    • 特に近年は家計よりもむしろ企業が預金を増やしているようである.外部資金調達のコストが上がっていると考えると自然かな.
  • 近年は沖縄の土地資産の価値は(全国とは逆に)上昇している.
    • 土地の担保価値up → financial friction緩和 → 成長! …となればいいね.
    • ただし企業が保有する土地よりもむしろ家計が保有する土地の価値が目立って上昇中.企業の信用力upにはすぐには結びつかない動きかもしれない.
  • 技術や所得のキャッチアップを妨げている要因は,人的資本のレベルが低すぎることと,金融仲介機能が弱すぎること,の2つだと漠然と感じている.

Saturday, July 6, 2013

語感トレーニングなど

最近の読書メモ.

中村明 (2011) 『語感トレーニング: 日本語のセンスをみがく55題』岩波書店
  • 日本語の痒いところをひたすら攻める本.微妙なニュアンスの違いを明らかにする中で,言葉を使って他者とコミュニケーションを図る上での勘所が帰納的に浮き上がってくる.
  • 豆知識が満載で,つい使ってみたくなるような面白さがある.試験勉強と違い,二度と使わない情報を暗記する退屈さはない.(辞書を読むような単調さはある)
  • 言葉がいかに非中立的なニュアンスをはらんでいるかが如実に分かる.かたや経済学ではxやyやfなどと抽象的な記号を用いることが通例である.日常言語が持つバイアスから距離をおき,より本質的なロジックに議論を集中することができるというメリットは大きいと改めて実感する.
  • 外国語についても本書同様の繊細なニュアンスの違いがあるはずだが,非ネイティブがそれを学び使いこなすにはかなりの努力が必要.日本語の本を読んで,かえって最近サボりぎみだった英語の勉強をせねば,と奮い立つこととなった.
  • まれに挿入されるふりがながよい.編集者の力量に敬服する.
  • 一定以上のボキャブラリと教養を持つ学生にオススメ.

沖縄インテリと日本語についてのメモ:
  • 沖縄の「知識人」が使う表現技法(特に体言止め)には独特の偏りがあるように最近感じる.
    • さらに言えば,沖縄の先哲の文章よりも,地方紙の文章に近い気がする.
  • 沖縄研究は恐ろしいほど膨大な研究が蓄積されている.しかし閉じた範囲内でしか通用しない特殊性の強いliteratureではないかと思う.それどころか特殊性こそ学問の本質,という趣すらある.
  • 言語学に詳しい誰かに,ジャーゴンの違いを越えた地域性を整理してほしいなぁ…

青木靖明 (2008)『大学生の羅針盤: 迷える大学生のために』大原出版
  • ただのポジション・トーク.カルトの勧誘と大差ない.こういう露骨に偏向した情報にとことん批判をぶつけられるような確たる教養を身につけたいものである.
  • とはいえ大学の講義に関してステークホルダー間でミスマッチがあるのは事実である.
  • 別段目的意識もなくただ与えられたカリキュラムをなぞっているだけだとつまらないのは当たり前だと思うけどな.最低限のrequirementを越えた先で何かを掴まないと.

Friday, July 5, 2013

国際経済学I, 第12回

講義内容:
  • これまでのおさらい
  • 特殊要素モデル続き
    • 労働の自由移動 → 賃金均等化
    • 産業間労働移動があると,価格上昇ほどには賃金は上がらない.高い賃金を求めて求職が殺到し,賃金に低下圧力が働くからである.
    • 相対価格$P_X / P_Y$を動かさないようなインフレ・デフレは,実体経済には影響がない.生産のあり方は変わらず,単に名目賃金がインフレ率と同じ割合で変化するだけ.
    • 貿易開始で(相対)価格が上昇する産業(輸出産業)では,生産の拡大が生じる.残りの産業では反対に生産が縮小する.
次週:
  • つづき.産業間を移動できない労働者について.
  • おそらくレジュメ5に入ります.
 期末:
  • 7月26日に期末テストを予定.中間試験と同じような要領で行う.
  • 出席率に注意.何らかのやむを得ない事情があって欠席しているのであれば随時欠席届を出しましょう.
コメント:
  • 「価格が倍になる変化は平行移動では表せない」
    • モデルの背後にある数学と整合的に作図するため,少しややこしいことになっています.頭の中でざっくりイメージする分には平行移動で十分です.
  • 「賃金と価格に関係性がある」
    • 企業の利潤は収入と費用の差です.価格は収入に,賃金は費用に関わってきます.自然と,利潤の最大化をもくろむ企業の意思決定は,価格にも賃金にも影響されることになります.
  • 「やっぱスペシャリストのほうが稼げるな」
    • どちらがより有利なのかは,理論上はなんとでも言えます.のでデータに聞いてみましょう.
    • たとえばCustódio et al. (2013)では,アメリカのCEO(代表取締役)の報酬を調べています.いわく,ジェネラリストタイプのCEOのほうがスペシャリストタイプのCEOよりも高い報酬を得ているようです.特に,経営難に陥り,リストラやM&Aといった仕事が必要になった企業では,様々な企業を渡り歩いてきたジェネラリストこそが必要とされるとか.
Reference:
  • Cláudia Custódio, Miguel A. Ferreira, and Pedro Matos (2013) Generalists versus specialists: Lifetime work experience and chief executive officer pay, Journal of Financial Economics 108, 471-492.

Wednesday, July 3, 2013

経済政策I, 第12回

講義内容:
  • 外部性
    • 市場の失敗を引き起こす(死重損失が発生する).
  • 交渉が市場の失敗を解決する糸口となりうる.
    • 非効率的な状況が発生している場合,いわゆるwin-winの関係を構築する余地がある.互いに得をするような交渉ならなんとか実現できるかもしれない.
    • コース定理のおもしろいところは,誰に権利があっても最適な配分が達成できるところである.権利を明確にして,取引の俎上に載せることが政府の果たすべき役割の第一歩であるだろう.
      • ただし,分配の公平性について考慮しなくてよいわけではない.権利を持っているほうが補償金をもらえる分有利になるので,実際には,どちらに権利を与えるべきか,も無視できない問題となる.
      • 政府や法制度は,市場の失敗を補完するような役割を果たすことができる.
    • 問題によっては,交渉が容易でないこともある.
      • ステークホルダー(関係者)が多いと交渉は困難だ.たとえば環境汚染は利害関係者が広範にわたりがちだ.隣のマンションに騒音被害,といったより身近な状況でも,マンションの住人全員が利害関係者となると案外大変.
      • 現在の世代がまだ生まれてもいない将来の世代に外部性を及ぼしている場合もあるだろう(現在サンゴ礁を破壊した影響は将来の沖縄人にも及ぶ,など).生まれていない以上少なくとも本人とは交渉できない.
  • 限界便益,限界費用など専門用語の堅苦しさは否めないが,惑わされずに,諦めずに学習を続けてほしい.わけわかんねーというときには質問ないし自習を.
次週:
  • 外部性の続き
  • レジュメ5の用意をお願いします.
テスト:
  • 7/24に期末テストを予定.中間試験と似た感じにします.どうしても出席できない事情があれば事前に相談を.その他要望があれば出席カードなどを通じてコメントを.
コメント:
  • 「身近でわかりやすい」
    • 外部性には卑近な事例もありますし,大きな外交問題に発展するような事例もあります.どこかに応用できるといいですね.
  • 「すこしずつわかってきた」
    • わかる,というのは何ともおもしろく贅沢な瞬間だと思います.

Tuesday, July 2, 2013

経済学入門I, 第11回

講義内容:
  • 成長モデル
    • グラフの見た目はシンプルながら,経済の動きを驚くほど豊かに記述することが可能である.
    • 複数均衡という概念を学んだ.悪い均衡からよい均衡へ移行するのは簡単ではない. 
 次週:
  • 労働市場再び.
  • レジュメ5の用意をお願いします.
  • 別途課題を配布する予定です.