Wednesday, July 24, 2013

経済政策I, 第15回

講義内容
  • これまでのまとめ
    • 需要と供給のモデルや,ゲーム理論は物事を考え世の中を理解するための道具である.
    • 市場が常にうまくいくわけではない.ので何らかの形で政府がその機能を(代替ではなく)補完することが不可欠.
    • 政府がうまくやるには,我々の行動パターンを様々な角度から理解する必要がある.人の行動パターンをシステマティックに分析する上で経済学は有用である.

期末試験の結果:
  •  得点分布は以下の通り.


  • 平均は76.6点, 中央値は77点, 標準偏差は15.9. (受験者20人)
    • 上の図だと60点台に固まっているように見えるが実際はギリギリ70点という人が多い(最頻値も70点).
  • 中間試験と平均しつつ授業参加を足しつつ,とすると,本日試験を受けた人はみななんとか単位を獲得できる見込みである.ご安心を.
    • 単位や成績そのものは人生にとって何らエッセンシャルではない.講義を通じて何かしら得たものがあれば私としては幸甚の極みである.
  • どんな人が高いグレードを獲得できる講義なのかは恥ずかしながらわからずじまいである.期末の成績や総合成績は,中間試験の成績や出席状況などに左右されるとは限らないようである.
  • 追試などの救済措置は行わない.水平的公平性を期するためである.

ミスが目立った設問について略説:
  • 「日本の消費税は従量税方式?」
    • 消費税は従価税方式であり,税額は価格の5%として計算される.1単位につき税金いくら,という従量税ではない.
    • 消費税は平成16年から「総額表示」が義務づけられている.たとえば100円の財を販売する際には,税込みの金額105円を値札・チラシに表示しなければならない.(書籍は例外)
    • 物心ついた頃から総額表示に慣れている若い世代は,納税額やその仕組みに無自覚だったかもしれない.これがジェネレーション・ギャップか…(?)
  • 「応能負担・応益負担」や「垂直的公平性・水平的公平性」の区別
    • 「公平性」といっても,公平さは様々な切り口で評価することができる.それぞれの違いを押さえよう.
    • 縦方向(垂直)の比較と横方向(水平)の比較の違いは,下図のようなイメージ.所得を課税ベースとした場合,同じ所得の人なら,同じような負担をすべき(→所得補足率に差があると不公平感),というのが水平的公平性.一方,高い所得の人はそれ相応の負担が求められる,というのが垂直的公平性.
  • 「初中等教育サービスはどういう正の外部性をもたらすか?」
    • 外部性の定義上,価格メカニズムを通さずに作用する便益を考える必要がある.
    • 単に「教育を受けた人が何らかの形で成長するから」では不十分である.そのロジックでは「ラーメンを食べた人が満足感を得る」ので,ラーメンに補助金を与えよう,となりうる.しかしラーメンの価格が社会的な限界便益と限界費用を反映している限り,そうした補助金は資源配分を歪め非効率性を生み出すことになる.
    • 教育を受ける家計自身が教育から得る便益(成長できる,友達ができる,など)以外のメリットが社会に発生しているかどうか,発生しているとすればどういう経路か,を答える.
    • たとえば,教育水準の高い人は他人の教育水準を高めるきっかけを提供すると考えられる.
      • その一例として,教育水準の高い母親の元で育った子供は,教育水準の低い母親の元で育った子供よりも様々な側面で立派に育つ可能性が高まることが挙げられる.「母の教育→子供の成長」というよい影響があったとしても,子供がその見返りに母親にお金を支払うわけではない(老後の面倒を見るという形で恩返しをするのだが).
      • 「他の生徒・学生にもいい影響」「競争意識が芽生える」などのよい解答があった.クラスメイトや友達から影響を受けることをそのまんま「友達効果(peer effect)」と呼び,外部性の典型例である.「あいつには負けてられないな…」という闘争心が時に人を強くする.
    • あるいは,教育水準が著しく低い地域への旅行をイメージしよう.ちょっと道を聞こうとしたら話が通じず,ちょっと写真を撮ってもらおうとしたらカメラを持って行かれるかもしれない.つまり,基礎的な教育は円滑な社会を築く上で不可欠な土台になるのだ.
    • 他にも, 教育を受けた人は衛生に気を遣うため,感染症や伝染病を引き起こしにくい,といった外部経済もあるかもしれない.
    • 「教育水準が高い人を雇った企業の生産性が高まる」というような解答もいくつかあった.もし企業が教育水準向上による生産性向上の効果を賃金という労働の"価格"に十分に反映させるのであれば,教育は外部性を持つとは即断できない.他の従業員によい刺激を与えて企業全体で生産性が高まる,というときには他の従業員に対して正の外部性を与えていると言える.
    • 「安くなると助かる」などと補助金そのもののメリットを説明した解答も多かったが,これは設問の意図とずれている.
    • 問題の焦点を絞るべく初中等教育に話を限定したが,大学教育も同様に正の外部性があると考えられる.大学で学ぶことの社会的な意義を改めて考えるきっかけになれば幸いである.
      • たとえばMoretti (2004)では,都市に住む大卒が増えたら,同じ都市にいる中卒・高卒・大卒の賃金が上昇することを見いだしている.
  • 「税金で生産者価格がどう変化するか」
    • 消費者が支払う価格は上昇するが,政府に納める税金の分を差し引けば,生産者が実質的に受け取る価格は低下する.これは価格上昇に伴い消費者が需要を減らすからである.
      • ひっかけ問題のつもりはなかったのだが,生産者価格を問うているのに消費者価格を答える解答が多かった.設問の指示はよく読もう.
  • 「外部不経済が生じる場合の最適供給量を求めよ」
    • 下図の通り.供給曲線は人件費やテナント料といった生産者自身が直面しているコスト構造(限界費用)を反映している.しかし,社会全体を見渡したときには,外部不経済という,生産者自身が負担していないが社会に発生しているコストも加味する.
  • 「ナッシュ均衡はどれか」 
    • ナッシュ均衡の定義上,「戦略の組み合わせ」を答える必要がある.「(0,0)」などは「利得の組み合わせ」である.正確には「(多め, 多め)」 など.
    • 囚人のたとえ話では,どういう利害の構造が問題になっているのかを考えたい.たとえ話を文字通り受け取るのでなく,何を言わんとしているのか,一般化して本質的なところを抽出し理解しよう.
      • よくわからなかった人は,最適反応の意味を理解するところから始めよう.
      • 言葉の「定義」をなるべく正確に押さえることは勉強する上で重要である.
    • 2番目のゲームでは,「(てーげー, てーげー)」が社会的に最適になる.何も全力を尽くして脇目もふらずみんながんばることばかりが最適とは限らない.ライバルを出し抜こうとして互いに不毛な努力に資源を割いてしまう(ラットレース),という話.
  • 「二つのゲームではどういう問題が生じているか?また,どう解決すればよいか?」
    • どちらも共通して「囚人のジレンマ」が発生している.囚人のジレンマを解決しようとして政府が浅はかな介入をした結果,別の囚人のジレンマが生じる(一種の「政府の失敗」である),という深遠なストーリー.
      • もっと言えば前半のゲームは「共有地の悲劇」に相当する.みんながアクセスできる海洋資源を好き放題利用できる,というときには海洋資源が過剰に利用されてしまい,枯渇する(ウニ絶滅)可能性すら出てくる.
      • 環境問題を考える上でゲーム理論は重要な視点を提示しているのである.
    • 後半のゲームは「(総枠を決めるのではなく)漁協ごとに漁獲量を決めればよい」という解答がベストアンサー(すばらしい!).本モデルでは競争はこれといってメリットのないものであり,競争を誘発しないような仕組みをデザインすることが肝心である.
      • 話の元ネタである古宇利島では,船ごとに漁獲量を自主規制しているようである(琉球新報).
    • 「協調すればよい」という解答は確かにその通りであるしそのゆいまーる精神は将来活かしてほしい.しかし現実には因縁のライバルと仲良く話し合えないことも多々ある.それどころか世の中には他人の邪魔をするのが趣味のような人も大勢いる.人の善意や献身ばかりに頼れないような状況で頼りになるのはミクロ経済学に他ならない.

後期について:
  • 後期はマクロ政策がテーマである.総需要管理政策(財政政策・金融政策)だけでなく,経済成長周りの議論や社会保障もカバーしたい.
    • 時事問題はほとんど取り扱わない.そのため,たとえばアベノミクスの荒波をどう乗り切るか?といった関心を持って受講しても肩透かしに終わるであろう.学問的評価が定まっていない上,自分の専門ではない事柄について講義中に物申すことはしない.
  • 前期とおおむね同じ要領で進める予定である.(もちろん授業評価アンケートなどのフィードバックは随時改善に結びつけます.ご協力ありがとうございました.)
    • パソ室の印刷枚数制限に配慮して印刷枚数を削減できないか検討中.(少なくとも初回レジュメはこちらで印刷予定)
      • 排出権取引よろしく,印刷可能枚数を学生間でトレードできる市場を開設したらパレート改善になりそうだよね.取引費用さえ無視できれば.
  • 半年間お疲れさまでした!よい夏休みを.

参考文献:
Enrico Moretti (2004) Estimating the social return to higher education: evidence from longitudinal and repeated cross-sectional data, Journal of Econometrics 121, 175-212.


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