Monday, April 25, 2022

2022都市経済学講義メモ2

講義メモの続き.

 3. 都市の定義

「都市」が市町村のような行政区分と一致する保証はない.「市町村」は国際比較可能な単位でもなく,国・地域によってサイズや統治機構はさまざま.都市雇用圏など適当な定義で画定していく必要がある.都市雇用圏はCBSAのように国際比較可能な単位であることがうれしい.


理論上は,労働市場や非貿易財の市場が清算される範囲,を都市とみなすと自然だと考えられる.同じ都市の中で需給が一致する.名護市民が那覇で野菜買わないみたいな話で,日々の消費生活は都市の中で完結する.土地市場も,労働市場が完結する範囲で閉じると推察される.そういうわけで都市雇用圏や通勤圏は,通勤フローを使って郊外を特定し,一つの都市圏とみなす.

  • 市場が単一・統合されているかの視点から都市を定義することもできるかもしれない.グローバル化・市場統合を地域間価格差から分析するような話 (Williamson & O'Rourkeなど) もあるし,通勤や貿易のフローではなく価格の情報を使って都市を画定してみたい気持ちを昔から持っている.
    • 国と地域の違いは,人口移動のしやすさ (国際経済だとRicardo-HOなど人口移動や資本移動がないモデルが標準),という解釈が一般的だと思う.価格でなく人流で定義すること自体が問題だとは思わない.


DIDは,密度,隣接,総人口の3条件で検出する.密度を見るのは農村や山林を落としたいため,隣接や総人口を見るのはゲーテッド・コミュニティやマンションなど局所的な高密度を落としたいため,と考えられる(はず).

金武町金武は密度4400人/km2, 人口5300人でDIDの条件をギリギリ満たしている例になる.ついでに金武町は2015年にはうるま市の郊外として沖縄市都市雇用圏に加わるなど,変化が見られる場所である.


都市雇用圏では満足できないので独自の定義・アルゴリズム・データで画定していくような研究 (足立ほか,Fujishima et al.) も紹介した.


都市の定義を考えることで,「東京」って何だろう,という引っかかりができるとよい.シンガポール(や香港)のような都市国家は周辺も含めて都市なのでは,という応用例も.


Reference

Adachi, Daisuke, et al. "Commuting zones in Japan." Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI) (2020).

Fujishima, Shota, et al. "The size distribution of ‘cities’ delineated with a network theory‐based method and mobile phone GPS data." International Journal of Economic Theory 16.1 (2020): 38-50.


Sunday, April 24, 2022

2022都市経済学講義メモ1

 新しく「都市経済学」という半期の専門科目を持つことになり,講義資料をいちから作成している.講義のストラクチャーを独り言のようにしてメモに残す.


1. 特色

都市経済学の既存の定番テキストは,すぐれた理論家たちが書いていることもあり,理論の比重が大きい.講義では実証研究(結果というよりデザイン)を紹介し,実証マインドも育てていく.

学生はラグランジュ乗数法あたりまで知っていて統計学は必修のようなので(経済学以外の専攻だとだめそうだが),難易度は佐藤先生の『招待状』と高橋先生の間ぐらいを目指す.


2. ガイダンス

都市は学際的な分野である.今どきの経済学的なアプローチは,最適化・均衡・経験主義が他分野との違いである.本講義も今どきの流れに乗る.


伝統的な都市経済学 (AMMも当時はNew Urban Economicsと呼んだそうな) は,土地利用の秩序を簡素なモデルで表現することに大きな関心があった.Von Thunen『孤立国』が元祖で,Fujita and Ogawa (1982) はこの流れの金字塔的作品である.


AMMのような枠組みでは,アクセシビリティが鍵である.不動産の価格は土地や住宅という希少で異質な資源を配分するシグナルである.アクセスの良い場所は高まる効用を打ち消すように (∵ 空間均衡) して住宅価格が高まり,高い住宅価格を支払ってもよいという人が住むようになる,など.そういう次第で,アクセスと家賃にトレードオフが生じる.


同時に,「アクセスも悪いし家賃も高い」「アクセスがよく家賃も低い」ようなものは均衡にならない,という予測も立つ.そうした住民は最適化に失敗している (ように分析者が見える) からだ.

Hamilton (1982) は,AMMの理論から予測される通勤距離が,実際の通勤距離の1/8程度しかないことを日米のデータで指摘した.8倍は誤差というには大きいだろうということで,過剰通勤パズル (wasteful (excess) commuting) と呼ばれる.

  • 学生には理論と実証の緊張関係を意識してほしい.
  • 個人的にはHamiltonの計算はあやふやで解釈が難しい (結局どういう仮定に依拠した数字なのかぱっと見わからないのも気になる) ように感じる.それでも,エクイティ・プレミアム・パズルなどのように,モデルの限界がわかればこそその後の発展につながるものである.
  • もうひとつ個人的には,AMMは均衡外の調整過程が非現実的すぎると昔から感じている.このあたりを利用してうまいことパズルを作れないだろうか…

過剰通勤パズルを説明する要素はいくつも考えられるが,ひとつは,人々は通勤経路を最適化できない,というものである.最短経路問題はそう簡単に人力では解けないし,Googleマップは,そのルートを実際通るときの安全性までは教えてくれない.

Larcom et al. (2018) は,ストライキによる駅閉鎖を外生的な変動にして,通勤経路を見直さざるを得なかった人とそうでない人を比較した.結果,人々(の5%ぐらい)が通勤経路を最適化できていなかったことを示した.つまり,通勤経路をたまたま見直したら,もっといい経路を見つけ,ストライキが終わった後も新しく開拓したルートを選び続けた,というストーリーである.

  • こうした最適化のエラーは,路線図が歪んでいる場所ほど大きい,とのことである.たしかに,路線図はデザインの都合で実際の地図とは対応していないものである(山手線が真円でも等間隔でもないのに路線図は…,など).
  • Larcomらの論文は,事前のパラレルトレンドがかなり説得的に見えることが一つの強みである.


Reference

Fujita, Masahisa, and Hideaki Ogawa. "Multiple equilibria and structural transition of non-monocentric urban configurations." Regional science and urban economics 12.2 (1982): 161-196.
Hamilton, Bruce W., and Ailsa Röell. "Wasteful commuting." Journal of political economy 90.5 (1982): 1035-1053.
Larcom, Shaun, Ferdinand Rauch, and Tim Willems. "The benefits of forced experimentation: striking evidence from the London underground network." The Quarterly Journal of Economics 132.4 (2017): 2019-2055.

Saturday, April 2, 2022

移籍しました

2022年4月1日より県内で異動することになりました.

前職には思い出と愛着が多々あり,離れるのが惜しいところです.27歳で着任してから9年間という,私のキャリアの重要な期間を,充実したものとすることができました.

新しい環境で気持ちを新たにし,研究・教育に尽くして参ります.今後とも変わらぬご指導ご鞭撻のほどお願いいたします.


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前職は優秀な若手を積極的に採用しており,楽しい快適な職場です.研究に専念しやすい希有な環境だと思います.沖縄は花粉もありません.jrecinより経済学の公募が出ていますので,ふるってご応募いただければ幸いです.


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メールアドレスは,既存のものとユーザー名は変わらず,ドメインがgrs.u-ryukyu.ac.jpに変わります.

個人用メモ:
Gmailで大学のウェブメールを送受信できるようにするには,WebMailの国別認証制限でUSを許可する必要あり.

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長期金利の雲行きが…という状況でいろいろ思うところはありますが,家を買いました.向こう数十年は沖縄にロックインされると思います.

ただいま引っ越しの準備中です.あいむ・こんぽーじんぐ!