Monday, August 5, 2019

経済学入門II・経済学I, 2019

諸事情で今年新しく持つことになったミクロの入門講義の雑多な振り返り.
  • 2つのクラスでAcemoglu-Laibson-Listのミクロ編を元ネタに使った.半年でカバーできたのは以下の部分.
    • Cahpter 1: 経済学の原則と実践
    • Chapter 3: 最適化
    • Chapter 4: 需要,供給,均衡
    • Chapter 7: 完全競争と見えざる手
    • Chapter 8: 貿易 [福祉のみ]
    • Chapter 9: 外部性と公共財 [法経のみ]
    • Chapter 13: ゲーム理論と戦略的振る舞い [福祉のみ]
  • 入門講義をスライドだけでやったのは個人的に初めての試みだった.レジュメ+板書よりカバーできる範囲が広まるものの,不正確な記述が増えるので教科書も合わせて読んでほしいという思いを強くした.ALLミクロは現時点では翻訳されていないので,学生が買って読める教科書ではないという点ではいまいちだったかも(訳されていても学生は買って読みそうにないが…).
  • ALLミクロはその他いくつかの理由で使いにくかった.まず,ネタがちょっと古い.たとえば「Facebookはタダか?」では今どきの学生はFacebookやってないので代わりにInstagramのデータを探してくる手間がかかるとか,「ベネズエラのガソリンは激安」ってハイパーインフレの真っ最中やんけとか.
  • 経験主義が大事,というわりに,エビデンスの例はわざわざ講義で時間使って紹介するほどじゃねーなというものが多かった気がする.ただ,結論めいたことを示す,というよりオープン・クエスチョンを挙げたり,自分でやったフィールド実験を紹介したりしており,学生が自分でコラムを読めば知的に刺激がありそうではあった.
  • 微妙に回りくどく,見通しが悪い.たとえば無差別曲線をスルーして予算制約だけで効用最大化問題を説明する,数学をすっ飛ばしてFOCを説明する,など,意図はわからないでもないがなんだか中途半端な印象がある.教える側がいろいろ補足する必要が,他の定番テキストに比べて大きい気がした.
  • とはいえ,Hotellingモデルでいう線分の真ん中あたりにある入門テキストの中では,行動経済学・実験経済学もよく組み入れられている点では随一であると思う(そりゃそうだ).今後改訂を重ねてもう少し使いやすくなることを期待.
  • コメントの中で,先生はAdam Smithが好きそう,みたいなのがあった.ALLミクロにはほとんどSmithは出てこない.私が勝手に何度もSmithを引き合いに出しただけなのだが,入門の題材にSmithはわりとハマりやすいと思った.とはいえ私はSmithの著作なんてまるで読んだこともなくたいして思い入れはないのだが….
  • 期末試験がひどいできだった…たくさんの恨みを買うことになりそう.
    • 教育の質を一定以上保証するためにも,ある程度譲れないラインがある(たとえば需要曲線を読解できる,など).そこに多くの人が到達できるようもう少しエクササイズをみっちりやってもよかった気はする.
  • 入門ミクロなんて誰がやっても同じでしょ,と思っていたけど,実際は教える側の力量がシビアに試される気がした.
  • 教職向けの科目を担当した都合で,教員採用試験の問題を初めて目にした.経済学に関しては悪問ばかりで眉をしかめた.素人が片手間に作っているのではないかと思われた.教採対策を意図した講義をするのはかえって不誠実な気がしたので,8割ぐらいは普通のミクロ入門を叩き込むことにした.

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年度末にメインで使っているパソコンが壊れ,予算の都合で買い換えられない状態が半年も続いてしまった.教育も研究も,特定のマシンと特定の予算に依存しすぎないように環境を考えねばならないと痛感.