Friday, June 19, 2015

国際経済学I,第9回, 2015

気づけば梅雨が明けてしまった.沖縄では夏と言っても,あらたふと青葉若葉の日の光,のような情景はまるで浮かばないのである.研究室にこもっている限り風情もへったくれもないのだけれど.

講義内容
  • 小国開放経済
    • 閉鎖経済の均衡と自由貿易下の均衡を比べることで,貿易の効果を抽出する.
    • 消費者の便益はすぐには目に見えないし,直感だけではその大きさもわからない.モデルを使うとそれが見えてくる.
      • 輸入にもメリットがあることを理解できない人は多い.貿易の利益を理解することは,アダム・スミスの時代から今日に至るまで経済学の中心的課題である.
    • 損をしそうな生産者は,建設的な努力とは別に,ロビー活動で抵抗を試みることがある.
  • 日本の輸入事情
    • 輸入との競争という観点での分析は,直近だとAcemoglu, Autor, Dorn, Hanson and Price (forthcoming) などがある.本講義ではすっかり無視している一般均衡効果や垂直的取引を考慮しても,輸入と競合すると雇用が失われてしまうようだ.(ただし日本に直接適用可能な結論かどうかは不明.)

コメントより
  • 「外国と貿易を行うことで均衡が下がり供給が上がるとわかった.輸出しているところで価格が上がると供給が下がるのか」
    • 意図するところがよくわかりませんでしたが,頭の中で比較静学をやってみることは大事だと思います.
    • 貿易を開始すると,国内生産は減りますが,輸入した分と併せると国内で流通する量は増えます.もし国際価格が上昇すれば,国内生産量が増えて,輸入は減り,国内需要量は減ります.
  • 「輸入費用を考えたらあまり輸入しない方がいいのでは」
    • ここでの国際価格は,輸入にかかる費用も含んだもの(CIF価格)だと考えてください.
    • 輸送費用がとても高く,輸入価格が国内価格$p^*$よりも高くなってしまう場合は心配しなくても輸入が発生しません.
      • 輸送費用の節約効果も分析できるモデルに拡張することは可能ですが,本質的な結論に変化はないと思います.
  • 「閉鎖経済よりも効率が良く物を輸出入できるんだと思った」
    • 輸出入を通じて効率の良い生産・消費ができる,という理解のほうが正確です.
      • 経済学において「効率」という言葉のニュアンスは日常用語とはズレています.ミクロの教科書などで別途学んでいただければ.
  • 「どちらかに不都合なことでも社会余剰がプラスになるのであれば貿易を行うべきだ」「国は損をしていると思ったが社会全体では得しているとわかった」
    • 損するグループへの補償も必要になりそうですね.
  • 「政治家たるもの,皆のために活動してほしいですね」
    • 利害が対立するときその折り合いをつけることは政治家の大切な役割ですね.
  • 「(1) 生産者が少なくなるのか気になった,(2) 農業をする人が減っているのは貿易が関係しているのか気になった」
    • 生産量が減る背後には,生産者が減る,生産に使う工場や土地を縮小する,などを想像するとよいと思います.
    • 貿易も関係していると思いますが,貿易以外の要因もありそうです.技術変化(製造業やサービス業のほうが儲かるようになる)や所得拡大(農産物への支出が相対的に減る)も見逃せないでしょうね.
  • 「日本の製品はいいものなので,もっとリーズナブルにすれば外国にも負けないのでは」
    • もちろんよいものをより安く作ることができればよいのですが,言うはやすしですね.
  • 「なぜ中国産は安いのか」
    • 突き詰めて考えると難問です.講義後半で学ぶような理論に基づいて考えると,労働生産性が低く,労働供給が豊富にある,というところでしょうか.
  • 「国産品は高くて買う気になれない.技術の進歩はしているが,必要とされないと意味がないと最近思う」
    • 疑似科学を都合よく利用する家電メーカーを私は必要としていないかなぁ.
  • 「生産額や輸入額なども知れてよかった」
    • 理論もデータも両方見ることが大切だと思います.これは研究者にとっても同じ.
  • 「新しく出てきたグラフは少しややこしいけど前に習ったことを利用すれば簡単にできるのでそこまで難しくはないと思った」
    • ミクロの授業をじっくりやってきた甲斐があります.
  • 「難しかった」
    • 次回はもっと…
  • 「遅れてくる人は遅刻扱いにしないの?」
    • 毎回朝から出席している方には申し訳ないですが,この講義の成績評価においては出席を重視していません.講義に参加しない分だけテストが解けなくなり成績に響きますので,出席を厳密にチェックする必要性をあまり感じていません.時間を守ることよりは内容を理解し咀嚼することを優先的に評価しています.
    • なお,筆跡からあからさまな代返だとわかれば点数を割り引いています.不正を許容しているわけではありません.私は疑わしきも罰するタイプです.


参考文献
Daron Acemoglu, David Autor, David Dorn, Gordon H. Hanson, Brendan Price (forthcoming) Import Competition and the Great U.S. Employment Sag of the 2000s. Journal of Labor Economics.

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