Thursday, July 16, 2015

15年度前期の読書記録

そろそろ夏休み.学生は休み中に本たくさん読んでください.

自分も本は継続的に読まないといけない.研究業務がメインなので新書すら通読するのはかなりキツイけど,最近読んだ本の一部を簡単にまとめる.
  • 久保拓弥『データ解析のための統計モデリング入門: 一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC』岩波書店
    • GLM入門.もう,きゃーすてき抱いてー,って感じの心地よいスマートさ.私は本書レベルの,中上級統計の知識や実戦経験がすっぽり抜けているので,読書の限界便益がとても高かった.本書に倣ってRを動かせばすぐ使えるようになる.
      • GLMは経済学界隈ではあまり見ない気がする(もちろん離散選択は死ぬほどあるが).Wooldridgeにはちょこっと載っている(追記: 山程載ってました)けど,GreeneやDavidson-MacKinnon, Baltagi, Hsiaoなどには載っていない.私も論文で使えるかというと…
      • ちなみに,MathematicaでもGeneralizedLinearModelFitでGLMはすぐ実装できる(誰得).
  • ガブリエル・ズックマン (2015) 『失われた国家の富』NTT出版
    • タックス・ヘイブンをめぐるラディカルな啓蒙的政策提言本.最近話題のギリシャは徴税のコンプライアンスが低すぎることも背景にあると思うので,こうした議論は貴重.私にとっては論調が過激で,暗殺されないか心配になってしまう.
    • 節税・脱税を踏まえた上での租税システムのよりディテールな設計については,Joel Slemrodの本を別途参照するとよいだろう.
    • Zucman (2013 QJE)はグローバル・インバランスやLucas Paradoxの議論をこれまでと違った角度から説明していてそのインパクトは無視できない.
  • Mark Taylor (ed.) (2010) Purchasing Power Parity and Real Exchange Rates, Routledge.
    • 購買力平価の実証をめぐる論文集.国際金融の門外漢的には,冒頭の展望論文がとてもためになった.
  • 森田果 (2014) 『実証分析入門: データから「因果関係」を読み解く作法』日本評論社
    • 先輩に勧められたものの,ぱらぱらめくった限り入門的すぎて新情報もないのであまりちゃんと読んでいない.しかし,ごつい数式をほとんど使わずに最近よく使われる手法を手短かつ直感的に解説しているあたり,とても深いレベルで本質をつかんでいる人にしか書けない本だと思う.数式は苦手だけどRubin的因果推論のエッセンスを知りたいという人にお勧めか.
    • 最近手に入れたImbens and Rubinも「An Introduction」を名乗っているけど,個人的にはこちらのほうがもう少し時間をかけて読む価値がありそう.
  • 吉村富美子 (2013) 『英文ライティングと引用の作法: 盗用と言われないための英文指導』研究社
    • コピペはダメ絶対,とはSTAP細胞事件を思い出すまでもなくこの業界に生きる人にとっては当たり前のことである.しかし,第一言語でない言語,典型的には我々にとっての英語,で論文を書く人にとって,自分の言葉だけで書くことは困難だ.こうした状況で他人の言い回しをトレースした文章を杓子定規に盗用だ,アカデミックなモラルに反している,と認定することは性急かもしれない.絶望的な表現力不足の中で論文を書こうとすれば,先行研究の表現を借用したり,文章をパッチワークにしたりするのは不可抗力な部分があるからだ.たしかに私もコーパスやグースカを使い倒しながら英語論文を書いており,冷汗三斗な問題である.
    • 本書は,語学を学習するプロセスとしての模倣と,学術的道徳に反する盗用との微妙な対立を整理しながら,いかに学生を指導すれば良いかをまとめている.学生を指導する立場になって日も浅く,またゴミ同然の英語力で論文を書く自分にとってはとてもためになった.
      • 第二言語に限らず,国語能力が不十分な学生がコピペさながらのレポートを出してくる問題にも応用できそう.
  • 吉村弘 (1999) 『最適都市規模と市町村合併』 東洋経済新報社
    • つまらない.俗に言う「データに語らせる」ってのは散布図に近似曲線を当てはめることではないと思う.
  • 大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』日本経済新聞出版社
    • 面白い最新の学術論文を肴にゆるやかな経済学トークをするシリーズ(?)の続きで,一般向けコラムの再録が主.一般向けとはいえ高度な手法もこっそり登場しており,読む側にとってはおいしいポイントがいくつもある.
    • 本書の約1/4は消費税制についての論点整理だ,日本では大竹先生のこれまでの論文が影響力ある参照点になっている気がするし私もおおむね似たスタンスであるが,もう少しモダンな最適課税論の成果を汲んだ議論があればよりよいと思った.
  • 大阪圭吉 (1937) 『坑鬼』 改造社
    • 昭和ミステリーの名作.この時代の資本主義像は邪悪だなあ.現代のブラック企業に置き換えると笑えないブラック・ジョークになりそう.

今日Handbook of Regional and Urban Economics vol. 5が届いた.2300ページ強あるけど分冊だから読みやすいぜ(棒読み).

NEGのピークだったvol. 4から10年強.テーマは昔の都市経済,特に住宅,に回帰し,手法は実証分析中心に大きく舵を切っている.研究者生命が絶たれないようにちゃんとキャッチアップしないと.

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