Thursday, December 10, 2015

経済政策II, 第9-11回, 2015

中間試験お疲れさまでした.得点分布は以下の通りです.

  • 71人受験, 平均80.18, 中央値81, 標準偏差17.6, となります.まぁまぁよかったのではないでしょうか.
  • 沖縄の経済成長について自由な論述を出しました.内容の出来不出来は問わずボーナス点を加える形にしていますが,めだった解答について思ったことを適当に述べます:
    • 「県内では内地企業ばっかりで沖縄に所得が残らない」
      • アネクドートとしてこうしたマル経タイプの議論が流布していますが,経済学的には論点設定の筋が悪いように感じます.プリミティブな原因を尋ねているのに,観察される実態を答えている,という点で適切な応答になっていません.(学生にそこまで求めていませんが.)
      • もし資本が流入しなければ賃金や就業はどうなっていたか,外資のテクノロジーをまねるチャンスになるのではないか,内地企業には県民を育てる誘因があるのではないか,交渉力が低い原因は何か,資本の所有権を持っていない理由は何か,などを子細に検討しないと功罪を問えないのでは.
    • 「基地があり土地が狭い.」「土地が広ければ農業が拡大して成長できるのでは」
      • 経済成長に関する研究で,土地の広さそのものこそが大事,という結論のものはきわめて少ないのではないでしょうか.基地の賛成・反対といった政治的思想・信条の議論は保留して,土地が広くなれば発展する,というのはロジックとしてはかなり弱いと思います.土地が広くなったら我々の知性や技術が高まるんですか? (人口密度や不動産価格や土地の所有権の分配が大事,という議論ならまだ理解する余地がありますが.)
      • 那覇市内の渋滞が深刻なのも土地が狭いと感じる一端かもしれません.ただ,渋滞は政策(交通・都市計画)の失敗ではないかとも思います.
      • 農業が発展しなければ成長できない,というのはろくに貯蓄していない未開の後進国などでは当てはまりそうですが,沖縄でも果たしてそう言えるのでしょうか?
    • 「やる気のある優秀な人が県外に出て行く」
      • スキルある人の活躍の場が乏しい,というのは私も憂慮するところであります.それと同時に,そういう人は出て行った方が本人のためにも社会のためにもなると思います.
        • 沖縄の場合unskilled laborの供給が多く,unskilled-biased technological changeが進んでいる,それがさらに技能蓄積を阻害しておりbrain drainも進行中,という印象があります.どこかでvicious cycleを断ち切らねばならないと思います.
    • 「輸送費用が高いのでハブを推進すればよい」
      • 日本は落ち目,という気持ちを持って東アジアの地図を眺めると,ハブというかただの辺境にしか見えないんですけどねぇ.
    • 「政府に頼りすぎ」
      • 政府が効果的にお金を使ってくれればよいのに,と思います.
ちなみに,個人的な直感では,教育と金融が二大ボトルネックだと思っています.突き詰めて科学的に検証したわけではないのであくまでも直感ですが.



講義内容
  • 45度線分析
    • 短期的には,総需要がGDPを決める.
    • 現実経済を簡単な方程式を使った数学的システムに還元し,それを分析する,というのが経済学で広く行われるアプローチである.
  • 労働市場の指標
    • 完全失業率や労働力率の定義を正確に押さえよう.
    • 完全失業率は「完全」な指標というわけではなく,数字から漏れる人々の姿にも想像を巡らせたい.
    • M字カーブの変化は,多様な働き方が広まって女性が働きやすくなっているという事実を反映している.
      • 家電の発展が女性の労働参加を促した,ということについてはGreenwood, Seshadri, and Yorukoglu (2005) "Engines of Liberation"などの議論がある.

コメントより
  • 「乗数効果が失敗した事例などはないか?」
    • 90年代前半,バブル崩壊後の日本はどうでしょうか.不良債権処理など金融市場の機能不全に優先して対処すべきところ,ケインズ的な財政政策ばかりが先行し,財政赤字を積み残し生産性成長を低迷させた,という議論もあります.
      • たとえば福田慎一 (2015) 『「失われた20年」を超えて』NTT出版,に丁寧かつ平易にまとめられています.
  • 「乗数効果は短期的な解決しかしていないのか? 増えた所得を使ってしまうとまた失業者に戻ってしまうのでは? 長期的解決策はないのか?」
    • とてもよい洞察です,感動しました.
    • ここのモデルは,ある時点のGDPの水準をその時点だけ引き上げる,と言っているだけで,来年以降どうなるかについては何の説明もありません.もう少し洗練されたプロ向けのモデルでも,長期的なトレンドを伸ばすかどうかという議論とは断絶があります.
    • 長期的にどうすれば,というのは経済成長論の議論になりまして,少し分野が違います.ワイル(2010)『経済成長』桐原書店,や,ジョーンズ (1999) 『経済成長理論入門 : 新古典派から内生的成長理論へ』日本経済新聞社,その他マクロ経済学の教科書にあたるよいでしょう.
    • 技術や知識を積み重ねていくことや資源を無駄なく使うことが長期的な成長につながる,というのが一般的理解ですが,そのためにどうすればという手段については様々な考え方があります.市場メカニズムを利用しつつ,素朴な市場メカニズムではうまくいかない部分は政府が補完しつつ,というのが現代経済学における典型的な発想だと思います.
  • 「政府が1兆円増やしても,自分たちも1兆円分増えるという意味か?」
    • 分配面がどうなるかはこのモデルからはわかりません.経済全体で集計して見れば,自分たちの所得も1兆円分増えます.
  • 「一次方程式が出てきて難しいなと思った.財政政策も難しかった」「連立方程式で少しつまづいた」「よく理解できた」「難しかったがなんとなく理解できたと思う.だが忘れてしまいそう」
    • 数学はサボるとすぐ忘れますね.中学高校時代の記憶がある若いうちに,数式込みの一歩進んだ経済学に触れておいてほしいと思います.
  • 「産休中だと非労働力人口? メルカリやユーチューバーは労働力人口?」
    • 講義では紹介していませんがよく気づきましたね.
    • 仕事自体は辞めずに出産や育児で一時休む場合は,「休業者」扱いになります.休業者は労働力人口(就業者の一部)としてカウントします.
    • ユーチューバーなども,一定以上稼いでいる場合は確定申告が必要で,働いているものと見なされるのではないでしょうか.ただ実際に統計データを集める時点では,うやむやになってしまいがちな予感はします.統計データには反映されないような,インフォーマルでアンダーグラウンドな世界があることには数字を見る上で注意が必要ですね.
  • 「完全失業者の条件「やる気」はどうやって調べるの?」
    • 自己申告になります.就活をしている,あるいはその結果待ち, という状況かどうかを尋ねます.ぼんやり就職したいなーと夢見ているだけではダメで,ハローワークに申し込んだとか,求人サイト経由で応募したとか,実際に行動した事実があるかどうかがポイントとなります.
  • 「就活はしていて仕事はあるが,企業側に断られた場合,この人は完全失業者? 仕事があるので完全失業者とは言えないと思った」
    • 講義で言う「仕事がある」とは,職業に就いている,という意味です.求人がある,という意味では使っていません.あいまいな表現ですみません.求人自体は失業者でも労働者でもありません.
    • 就活中で断られて未だに就職できていない人,は典型的な完全失業者になります.
    • 定義に照らし合わせながら,条件を満たすか考える,という思考実験は大切で,よいコメントだと思いました.
  • 「なぜ沖縄の失業者は多く全国は多いのか?このグラフから経済の関係はあるのか?」
    • 失業とマクロ経済政策はかなり密接です.これは今後の講義で出てきます.
    • 沖縄の失業率が高い理由はいろいろありそうですし大切な疑問だと思います.仕事の機会や情報にアクセスしづらい,他府県に移住するコストが高い,などもありますし,生産性が低く沖縄で操業しても儲からないので企業がおらず労働需要が少ない,という見方もできるかもしれません.複雑骨折みたいなものですね.
  • 「完全失業者とそうでない人の区別がわかった」「景気分析の要素の一つだと捉えた」「データが多くあってわかりやすかった」
    • データは自分の勝手な思い込みから自由になる手がかりとなるでしょう.
  • 「自分探しを早めに終え,早めの就職を心がけようと思う」
    • そうだね. 
  • 「男性は結婚が遅くてもいいと思う」
    • そうだね(涙)

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