Saturday, December 28, 2013

よいお年を

芭蕉の『野ざらし紀行』から木訥とした一句を.
年暮れぬ笠きて草鞋はきながら
そういうわけで年末年始は一層世俗を離れ放浪する.また来年.



今年は思うように研究が進まず苦しい一年であった(今年はaccept1本とsubmit中1本にとどまる).教育や雑務ではなく,つまらない研究こそが脅威だと痛感した.幸いにしてもっと注力したい研究トピックはいくつか湧いてきたところなので,早く次のステップに進まねばならない.

Friday, December 27, 2013

13年12月沖縄県主要指標

先月の記事: 13年11月沖縄県主要指標

スケジュール上は鉱工業生産は26日に公表予定だったが,なぜか他の指標と同じ27日にしれっと公表されていた.師走なり.

鉱工業生産(10月分)は,やや改善の兆し.しかしながら生産・出荷・在庫とも残念な状況のようだ.

沖縄の鉱工業生産, 2005年=100. 薄灰色が原数値, 黒がDECOMPでの季節調整値, 青がトレンド, ピンクが日本全国のトレンド (2010年基準). 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.

消費者物価指数(11月分)は上昇中.物価は少なくとも春先まではマイルドに上がり続けるかもしれない(後述).
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
ガソリンを投入している品目は高くなっている気がする.

完全失業率(11月分)は好調だったものを維持.女性の非正規雇用が割合として増えているような印象.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

有効求人倍率(11月分)も好調を維持.(先月はプログラムにミスがあり, 作図の際サンプルの分割に失敗していた) とはいえ,求人が増えている割に就職件数が横ばいという事情も大きい.ブラックブラックと騒がれてちゃなかなか雇えないよね.
沖縄のBeveridge curves, 2008/01--2013/11. 2011/12までは黒丸・オレンジの近似線, 2012/1以降は青白丸・緑の近似線. 出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況」, 沖縄県「労働力調査」


さて,今回は実質実効為替レート, 鉱工業生産, コアCPIの3変数SVARを回してみた.識別は素朴なCholesky分解を用いている(素人なので難しいことはできません).
さっそく,為替にショックを加えてみた:

コアCPI成長率(沖縄県)の応答. 95%信頼区間(水色点線)はbootstrap 100回で.

鉱工業生産(対数)の応答.


実質増価の影響がインフレ率には3ヶ月遅れでやってきてしかもしばらく持続するというのはなかなか興味深い.一方の鉱工業生産は困ったものだ.(沖縄県のアウトプットのproxyとしてもっといいものはないだろうか?)

13年12月家計調査

前回の記事: 13年11月家計調査

今月公表の家計調査(11月分)を眺める.出張中に新技Kalman filteringを覚えたので手習いに使ってみた.Gaussian random vectorsの分散はひとまず最尤法で推定してある(signal-to-noise ratio = 0.0243).

Kalman filtering:
沖縄県の名目消費支出(対数).青太線: Kalman filter, 赤点線: HP-filterのトレンド, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

Kalman smoothing:
沖縄県の名目消費支出(対数).緑太線: Kalman smoother.


プログラムを走らせてはみたものの,残差の正規性が怪しい(Shapiro-Wilk検定で1%有意に棄却; Kolmogorov-Smirnov検定では棄却できない).

具体的に何らかのモデルを想定しているわけではないので詮もない.

可処分所得もKalman filterにかけた.少し感動的だ:
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得(対数), 沖縄県. 青太線: Kalman filter, 赤点線: HP-filterのトレンド, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.


従来通りの作図だと以下の通りになる:
沖縄県の名目消費支出(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得(対数), 沖縄県. 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 総務省「家計調査」.




消費も所得も概して寒々しい様子である.毎勤の実質賃金指数も,夏頃から低下傾向が続いている.

前回も言及したが,今月も引き続き耐久消費財は伸び悩んでいる.ところが他の指標を見ると,住宅,自動車,家電などは9月頃から顕著に伸びている模様である.家調では見落としてしまう部分が大きいことには注意が必要である.



先日沖縄振興策が閣議決定されてから,県内上場企業の株価は軒並み好調のようだ(私は県内企業には投資しないしポジショントークにもならない).先月末に自民県連が辺野古容認に転じたあたりで予見した規模をはるかに上回る恒常財政ショックで驚いた(ただし先のことはそれほどcredibleではない気もする.行政上のキャパシティ不足にも直面しそうだ.結局儲かったのが地主と特定の建設会社だけ,にならないことを期待する).今回の決断は大きなマクロ経済ショックをもたらしそうだけど,同時に政治的,歴史的に禍根を残すことになるだろう.(私は政治に関心がないしことの善悪を判断する文章ではないので誤解なきよう)

Friday, December 20, 2013

国際経済学II, 第12回

講義内容:
  • 購買力平価の続き
    • 裁定取引するチャンスはたまにあっても頻繁にはない.柳の下のどじょうを追い求めるのは大変.
    • ビッグマック以外を使うのが賢明であるように思われる.
  • 金利平価
    • 外貨預金をする場合は金利だけでなく為替レートの変動にも気をつけよう.
    • 日本円をドルに換算する場合は,為替レートで割る.ドルを日本円に換算する場合は,為替レートをかける.記号だけだとイメージしにくいので,具体例を代入しつつ考えるとよい.

次回:
  • 来週は休講です.次は1月10日になります.
  • レジュメ6の用意をお願いします.これまでの話とマクロ経済学とのつながりを概観します.

コメントより:
  • 「徹夜明けでつらい」
    • 私もです.

Wednesday, December 18, 2013

経済政策II, 第12回

講義内容:
  • インフレの認知
    • 「庶民感覚」や「生活実感」といった曖昧な言葉でマクロ経済学を語ってはいけない.
    • マイルドなインフレ・デフレのコストはまだ十分に解明されていない.
  • フィッシャー方程式
    • 実質利子率 = 名目利子率 - (期待)インフレ率.
    • インフレに合わせて名目利子率も変化する.マクロ経済学を語る際には,こうした変化を織り込んで考える必要がある.
次回:
  • 次の講義は1月8日になります
  • インフレのコスト, 金融政策
  • レジュメ6を最後までカバーできるか不安になってきた…

国際経済学II, 第11回

(出張で更新が遅れました.)

講義内容:
  • 購買力平価
    • どこで買っても実質的には同じ値段(一物一価の法則)になるような為替レート.
    • 「1ドル=e円」など記号を使った表記にも慣れてほしい.混乱したら適当な数字を代入してゆっくり考えよう.
    • 購買力平価は国際ミクロと国際マクロの大きな分かれ目な気がする.
次回:
  • 金利平価
  • レジュメ6も用意しておいてください

コメントより:
  • 「円とドルの関係がよくわかった」
    • ニュースを見る目も変わってくるかもしれませんね.

Wednesday, December 11, 2013

経済政策II, 第11回

講義内容:
  • 労働市場:
    • 名目賃金の調整が十分ではないような短期的世界においては,物価が雇用に影響してくる.
    • 学歴間・学歴内の相克については,様々な研究がある.講義ではAlbrecht and Vroman (2002) を下敷きにした話を扱った.過剰教育については膨大な研究があるが,最近のサーベイだとLeuven and Oosterbeek (2011)がある.
    • 労働市場をシンプルな需要と供給のモデルで分析するには限界もある.仕事はあるのに失業が生じる,という現象も踏まえた分析ができるように,労働経済学では素朴な需要と供給だけでは見えない世界にもメスを入れている.
  • フィリップス曲線:
    • 政策運営をするにあたって,通常は失業とインフレにトレードオフがあると考えられている.
    • フィリップス曲線の探究とともにマクロ経済学は発展してきた.
次回:
  • レジュメ6まで用意しておいてください.
  • レジュメ7は作成中です.冬休み中にアップロード予定.

参考文献:
  • James Albrecht and Susan Vroman (2002) A Matching Model with Endogenous Skill Requirements, International Economic Review 43, 283-305. 
  • Edwin Leuven and Hessel Oosterbeek (2011) Overeducation and Mismatch in the Labor Market, in Handbook of the Economics of Education vol.4, eds. Hanushek, Machin and Woessmann, North Holland.

コメントより:
  • 「摩擦的・構造的失業は他で習ったのでとてもわかりやすかった」
    • 学んだ知識を活かせる機会があるとうれしいですね.
  • 「失業は本人だけの問題じゃない」
    • ので政府や中央銀行も失業問題には注意を払っています.沖縄県知事も,失業率を全国並みに下げよう,と公約に掲げていましたね.
  • 「あついのかさむいのかわかりませんね」
    • 年の瀬なのに窓全開だとは思いませんでしたね.

テキストなどについて雑感:
  • その昔後輩にあげた加藤 (2006) を再度入手せねば.DeJong and Dave (2011)を片手間に読むのは重たい.
  • 学部向け種本だとBall (2011)がよい感触.なんで和訳がないんだろう?
  • 今後の講義ではIS-LMやら期待やらオイラー方程式やらを大胆にすっ飛ばしてフィリップス曲線とテイラー・ルールを(触りだけ)教える予定.IS-MPについては,最近改訂されたD. Romerのノート(テキストではなく)がとてもよさそうだが,読む暇がない.
  • 金融政策は個人的関心から離れてしまうので学問的良心に悖るしつらい.

Saturday, December 7, 2013

国際経済学II, 第10回

講義内容:
  • 国際通貨システムの現代史
    • 20世紀にもなると国際政治と国際経済が密接に関わるようになる.
    • 昔は貴金属が貨幣の裏付けとしての役割を果たしていた.現在は貨幣を発行する政府・中央銀行への信認という,手に取れないし目に見えないものが貨幣の裏付けとなっている.
    • ニクソン・ショックが大きな変わり目.このあたりから日本の高度経済成長にも陰りが見えてくる.
    • あらゆる国が変動相場制になったわけではない.ユーロ圏,香港,シンガポール,その他様々な国がそれぞれに事情に応じて様々な形の為替システムを採用している.
    • 世界中が「ドルを持ちたい」と思うと,アメリカは経常赤字になる.こうした状況が続くと,ドルの価値が信頼できないものになっていき,世界中で「ドルを持ちたい」と思えなくなるかもしれない(Triffinのジレンマ).ブレトン・ウッズ体制が長続きしなかった原因のひとつとも.
 次回:
  • PPPの話.レジュメ5の用意をお願いします.
 アンケート結果:
  • 練習問題を解いた,という人はかなり少数派…でも解いた方はみな効果ありとの反応で,かつ実際に高得点を収めていた気がする.
  • 私自身はテストの成績アップを目標に勉強するような甲斐甲斐しいタイプではなく,練習問題や過去問を解くことは少なかった.あんまり偉そうなことは言えない.(授業とは無関係のテキストをどんどん読んで例題も必要に応じて解いてたけど.何かを身につけるには,自分の手を動かして例題を解くというプロセスが必要.)
  • 期末(1/31に予定)についてはまた考えます.ご協力ありがとうございました.

Wednesday, December 4, 2013

経済政策II, 第10回

講義内容:
  • 労働市場
    • 売り手と買い手の両サイドの事情を考える.
      • 高い賃金を稼ぎたいなら,需要と供給の両方を視野に入れながら,どういうキャリアを歩んでいくか熟慮する必要があるだろう.
    • 短期的には物価の動向も重要になる.金融政策を学ぶためにはここを押さえておく必要がある.
    • 賃金が下がるスピードはなかなか遅い.
      • しかし,とても詳細な統計データを使った最近の研究では,たしかに市場全体で見た賃金は硬直的だけど,新しく採用する労働者に対する賃金は硬直的ではない,ということが示されている(Haefke et al., 2013).賃金の下方硬直性だけが失業の原因ではなさそうだ.
    • 作図の際,実質賃金に800「円」などと書いてしまったが,ここでの単位は本来名目で表記してはいけない(たとえばお米2kg分,など財単位で測るべき).名目のほうがイメージしやすいこともあって,怪しげな説明になってしまっていることをお詫びしておく.

次回:
  • 労働市場続き
  • インフレの話 (レジュメ5以降も用意してください)
コメントより:
  • 「なぜ最近最低賃金が上がったのか?職に就いている人からの目線ではないか」
    • 最低賃金は(おそらく)どの地域でも毎年改訂されています.沖縄県では,以下のように年率1~2%ずつじわじわ上昇しています:
      • 09年: 629円
      • 10年: 642円
      • 11年: 645円
      • 12年: 653円
      • 13年: 664円 
    • 厚労省の官僚や経済学者だけでなく,法学者や産業界,労働組合などから様々な人を集めて審議し,こうした水準が決められています.彼らが失業者のことを無視しているわけではなく,経済学の簡素なモデルには現れてこないような,考えるべき他の大切な要素がいろいろあるのでしょう.
      • 最近では,最低賃金で働くよりも生活保護を受給する方がまし,という状況を変えて,働く誘因を作りたい,という事情もあるようです.
      • 実際に最低賃金で働いている層としては,家事・育児が一段落した主婦などが該当します.最低賃金で働いているからといって,世帯単位で見ると貧しいわけではなさそうです.彼・彼女らは票田として政治的にも重要なのでなかなか無視できないのかもしれません.
      • 働いている人(インサイダー)とそうでない人(アウトサイダー)との間には様々な壁があるかもしれません.
    • 最低賃金に関しては様々な研究が現在もなされています.大竹ほか(2013)は最新の研究成果をまとめています.私は日本の状況についてはあまり詳しくありませんので,関心があれば類書を当たってみてください.
  • 「仕事にも需要や供給があるとは思いもしなかった.他にもこのような関係があるのかな」
    • 需要と供給の関わり合いは,人間社会の至る所に登場します.
    • もちろん需給だけで決まらない部分も多いですし,需要・供給それ自体もとても複雑なので現実社会の分析はそれほど容易ではありません.
  • 「仕事の内容や環境も影響するかも」
    • 肉体的・精神的に厳しい仕事は労働供給に影響し,賃金にも影響すると考えられます.イヤな仕事にはそれ相応の高い賃金が支払われる,というのは補償賃金(compensating wage)といい,おっしゃるようなロジックは理論的にも現実的にもありそうです.いい洞察力ですね.
  • 「現実には賃金があっさり下がらないと知って,経済は難しいと思った」
    • 失業は古くから経済学の中心的な問題であり,簡単に解決できるようなヤワなものではありませんね.
  • 「図を書くのが少し楽しくなった」
    • うれしいコメントですね.グラフを使いこなせるようになれば,物事をすっきりと理解でき,よりいっそうかしこくなれると思います.
参考文献:
  • Christian Haefke, Marcus Sonntag and Thijs van Rens (2013) Wage rigidity and job creation, Journal of Monetary Economics 60, 887-899.
  • 大竹文雄・川口大司・鶴光太郎 (編集) (2013) 『最低賃金改革: 日本の働き方をいかに変えるか』日本評論社

Monday, December 2, 2013

13年11月沖縄県主要指標

先月の記事: 13年10月沖縄県主要指標

例によって,生産,物価,雇用を漠然と眺める.

鉱工業生産(9月分)は,原数値だと私の持つサンプル(04年1月~)の中で最小値(74.5).石油製品や印刷の下落が目立つ.木材の在庫も相変わらず.
沖縄の鉱工業生産, 2005年=100. 薄灰色が原数値, 黒がDECOMPでの季節調整値, 青がトレンド, ピンクが日本全国のトレンド (2010年基準). 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.

消費者物価指数(10月分)は上昇中.
那覇市のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
沖縄県のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
  • 生鮮食品が急上昇中(沖縄県で17.0%, 那覇市で11.9%).
    • 野菜の価格は,主婦/主夫の生活実感に訴えかけるものがありそう.支出額自体はたいしたことなくても,スーパーで通常真っ先に目にするものなので,想起容易性が強い気がする.政治的な不安定要素になりそう.
  • コアコアも少しずつプラスに向かいつつある.

完全失業率(10月分)は好調で,私が持つサンプル(03年1月~)の中で最小値(男女計で4.9%, 男性5.4%. 女性は2番目に最小の3.9%).男性は正規雇用が,女性はパート・アルバイトが増えている感がある.規模は小さいものの,近年農業部門の雇用が伸びているのも気になってきた.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
低失業・高欠員が続いている.一般職業紹介状況のデータ(10月分)からUV曲線を12年以前(オレンジ)と以後(緑)に分けてプロット:
沖縄のBeveridge curves, 2008/01--2013/10. 2011/12までは黒丸・オレンジの近似線, 2012/1以降は青白丸・緑の近似線. 出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況」, 沖縄県「労働力調査」
  • 失業率については,2012年夏頃に建設業で一挙に正規雇用が増えたのが転換点.公共投資交付金で田舎道をせっせと整備している頃だろう.
  • 建設業のハロワでの新規求人も同時期に伸び始めている.半年ほど遅れて政権交代とともに他の産業(特に飲食・宿泊・運輸・郵便など)も求人を増やし始めている.まだまだ雇用拡大がとどまる気配はない.
    • 今年の夏までは新設住宅着工戸数は全国と比べて振るわなかったものの,夏以降アパートなどがどしどし増えている模様. 道路以外の建設もようやく.
    • 建設みたいなnontradable部門でのブームで生産要素価格が上がると,tradable部門はキツくなりそうなものだけど…
  • 名目為替レートと財政政策は大事だな.詳しくはDGEモデルで分析する必要があるだろう.nominal rigidityがマターする世界で予測できない部分は大きい予感がするな.
    • 財政政策についてはimplementation lagsで裏目に出る気もする. 

ルーチンワークとして沖縄の統計を追い初めて約半年.講義の素材作成に役立つ程度のマクロ計量テクニックは身についてきたかもしれない.しかし今のところ研究に役立つ予感がまったくないのがたまらん.RじゃなくてPythonないしMatlabの修行をせねば.

Saturday, November 30, 2013

国際経済学II, 第9回

中間試験お疲れさまでした.以下,結果の概要と,間違いの多かった設問について簡単な解説を行います.

13年11月家計調査

先月の記事: 13年10月家計調査

家計調査(9, 10月分)を眺める.しかしこれまでと違い,2000年1月までさかのぼったデータを用いている.

 消費支出は停滞ぎみだが前年よりはよい.実質でも那覇市でも同様.
沖縄県の名目消費支出(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

 前年同期比では9月は10%程度, 10月は3%程度増加している.
名目消費支出のy-o-y成長率 (単位: %). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

  • 9月, 10月分について:
    • 9月の消費支出は好調であったが,生活が豊かになったというわけではなさそうだ.
    • 好調の主要因は,住宅の「設備修繕・維持」という項目が突出して伸びていたことだろう.「設備修繕・維持」を除くと,マイルドな増加にとどまる.
      • 今年は夏に台風が少なく,10月に台風が多かった珍しい気候であった.10月の「設備修繕・維持」は平常通りの水準に戻っている.台風ではなく単に外れ値だったのかもしれない.
    • 生鮮食品の物価が上がっていることもあり,食料支出は名目と実質で景色が異なる.(名目支出は増えているが実質はほどほど)
    • VAT増税確定が10月1日であったが,10月に耐久消費財の消費が急に増えた跡は見られない.
      • 年末の動向がいまいちだと厳しそう.
  • 新たに増やした2005年以前のデータについて:
    • これまでは谷底からスタートしたデータであった.0年代前半はすさまじい勢いで消費が縮小していた様子である.
    • 0年代を通じて,少子高齢化が目覚ましい.
      • 18再未満人員は減り,65歳以上人員は増えてきている.
      • 世帯主の年齢も,2000年平均で50.3歳だったものが,直近1年では54.6歳(那覇市では57.2歳)に高齢化している.
      • 論文を念頭に置いて分析する場合,demographicな移り変わりも無視できなさそうだ.

可処分所得は今年に入ってから芳しくないまま.貯蓄を取り崩しにかかっている.
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得(対数), 沖縄県. 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 総務省「家計調査」.

雇用(建設と介護が中心か)は回復しているけど生産と消費は弱いまま,というところ.毎勤の賃金もさえないし,雇用以外はいったんピークアウトか.円安は残っているが,観光もそろそろシーズンオフ.マクロ政策にもそろそろ転換点がやってきそうなムード.来年春頃までは順調かと思っていたが,少し悲観的になってきた(採点に疲れているせいかもしれない).

Wednesday, November 27, 2013

経済政策II, 第9回

中間試験お疲れさまでした.以下,結果の概要と,間違いの多かった設問について簡単な解説を行います.

Saturday, November 23, 2013

国際経済学II, 第8回

講義内容:
  • 為替レートの基礎知識
    • 為替レートは円の価値というより米ドル(外国通貨)の価値を表していると考えると混乱が少ないかもしれない.
      • より正確には,円で測った米ドルの相対的な価値,である.円と米ドルの交換比率,換金レート,というイメージ.
    • 「円安」「円高」などの表現は,頭ではわかってはいてもなかなか馴染みにくいものがあるかもしれない.惑わされないようにしよう.
  • 為替の予測不可能性
    • 変動が大きいだけでなく,いつどこに向かっていくか分からない.今までどう動いてきたか,という過去の流れは,将来どう動いていくかとほとんど関係がない.「波」や「流れ」が読めるとのたまうタイプのデイトレーダーは勉強不足の勘違い野郎である.
      • カオスすぎて経済学が歯が立たない,というわけではない.Engel and West (2005)のように,ある種の理論値が存在すればこそ,ランダムウォークのような振る舞いになるのかもしれない.次のレジュメでは,為替の理論を簡単に紹介する予定.
    • 外貨を持っているとそれだけ為替リスクに晒されることになる.先物取引や資産構成の調整を通じて,リスクに対処する必要がある.
次回:
  • 中間試験を予定.黒か青のボールペンで記述していただけると助かります.
参考文献:
  •  Charles Engel and Kenneth D. West (2005) Exchange Rates and Fundamentals, Journal of Political Economy 113, 485-517.

Thursday, November 21, 2013

学問と社会

恐ろしいことに,学問と社会というタイトルのオムニバス講義で一席ぶってきた.私の研究に対するスタンスが"beyond dilettantism"という言葉に集約されることもあってか,素人の素朴な直感や常識や信念をバッサリ否定するような調子になってしまった.

実は,専門家なら知っているが,素人はよく知らないものがある.素人が想定している以上に,専門家は物事をよく知らないということだ.専門家の知見が及ぶ範囲には限界がある.

Wednesday, November 20, 2013

経済政策II, 第8回

講義内容:
  • 労働市場の実態
    • 完全失業率の定義
      • 「失業率」といったときには通常,完全失業率のことを指す.
      • 完全失業率は名前に反して「完全な指標」というわけではない.働き方,生き方が多様化している中,時代の流れに対応した新たな指標も必要かもしれない.
    • フリーターやニートといった近年の若年労働者の問題は,失業率だけでは見えてこない.
    • 労働時間の変化も重要
      • 法律を変えるだけでは,政府の思い通りにならないことが多い.
  • 労働市場のモデル
    • 需要と供給の両面を考えていく.
    • 時間の都合上,供給曲線を垂直に描いている.右上がりにしてもかまわない.
次回:
  • 講義前半は普通に授業を進める.
  • 後半は中間試験を行う.短めの論述問題も出す予定.復習する,練習問題を解く,などしてとにかく頭を動かしておこう.
  • 言い忘れたが,テストはなるべく黒か青のボールペンで記入するように.シャーペンはなるべく使わないでほしい.
 コメントより:
  • 「法律改正でバブルが崩壊したようにも見える」
    • とてもいいポイントを突いてます.これまでの話のつながりが見えてくるようになったかもしれませんよ.
    • バブルの崩壊は,株価の下落が90年,地価の下落が91年頃から始まっています.崩壊のきっかけが何なのかは諸説あります.というのも,法律改正以外にもバブル崩壊のきっかけになりそうな事件がいくつも起こっているからです.
      • たとえば,リクルート事件,湾岸戦争,自民党敗北,といった政治的混乱もありました.また,89年には日銀が利上げするなど,金融政策の転換もありました.
      • 法律改正についても,土地基本法改正(89年)のように,より土地バブルと密接な関係がありそうなものが変わっています.
      • 結局どれが本当の原因か,は実際のデータと格闘して白黒付けることになります.が原因を特定することは最新の統計テクニックを使ってでさえもそう簡単にはいきません.
    • ちょうど明日(21日)の5限に「学問と社会」というオムニバス講義で,相関関係と因果関係の話をじっくりする予定です.ヒマがあればどうぞ.(宣伝)
  • 「すべての会社が法律を守っているわけではない.とても難しい問題だと思う」
    • 法律さえ整備すれば世の中うまくいく,というわけではないですね.個人のモラルに問題があるケースもありますが,法律の設計自体に欠陥があるケースも往々にしてあります.
    • 経済学者にはそういう事例を好む人が少なからずいて,法学者とよく敵対関係に陥るようです.
    • ちょうど明日(21日)の5限に同じ話をする予定です(再び宣伝).
  • 「ボールペンがつかなくなった」
    • テスト中にはそうならないように注意してください.

Friday, November 15, 2013

国際経済学II, 第7回

講義内容:
  • 国際収支
    • 貿易で稼ぐ,といってもその具体的な意味はなかなか解釈が難しい.
    • 国際収支統計は国民所得勘定と密接につながっている. 
      • 経常収支 = S - I.
      • 定義式を変形し解釈し直すことで,貿易と金融のマクロ的なつながりが見えてくる.
    • 経常収支は基本的には貿易・サービスの流れを捉えている.が日本や沖縄といった現実社会のことを考える際には所得収支の動向も無視できない.
  • 為替レート
    • 為替手形という金融取引上のアイテムを通じて,通貨の取引決済を行っている.
    • リスクは乗っかるものじゃなくて回避するもの.
    • ノーベル賞を取るような人たち(Robert C. MertonとMyron S. Scholes)が関わってるファンドですら手痛い失敗を経験している.

次回:
  • 為替の基礎,その変動

中間試験:
  • 11月29日に予定.
  • 近日中に私のウェブサイトに練習問題をアップロードする予定.もうしばらくお待ちあれ.
    • 11月17日追記: アップしました.ご確認ください.
  • 事後的な救済は行わない.採点・成績評価は公平を期する.なるべくいい点数が取れるよう努力してください.
 コメントより:
  • 「GDPの計算より為替の話がおもしろい」
    • ですよねー.
    • とはいえ理論的な背景を押さえておくことも大切ですよ.為替の話のディープな部分に踏み込んでいく際に,経常収支 = S - Iなどの恒等関係を頭にとどめておくことは不可欠です.
  • 「為替の話はとても身近なところにあったのですぐ頭に入ってきた」
    • 珍しい経験をお持ちですね.自分の生活圏とはほど遠い世界の話はなかなか頭に入ってこないものです,学習する上ではラッキーかもしれません.

経済政策II, 第7回

講義内容:
  • 政府支出の効果を巡る議論
    • 民間から資源を奪う,というクラウディング・アウトが起こりうる.
    • 需要を生み出せば所得を生み出し,さらに需要を生み出す,という好循環を生み出すきっかけになりうる.
      • こうした理論は実際の財政出動の根拠にもなってきた.
      • いくつかの仮定からガリガリ計算していった結果,「Y = G + (定数)」というシンプルな形の結論を得た.
        • 仮定の現実味はともかくとして,こうした計算は経済学のお約束として習熟しておきたい.詳しくはマクロの教科書を参照あれ.計算過程をかなり丁寧にフォローしたため長大な計算に見えるが,仮定→式を整理,という単純なステップを踏んでいるだけである.慣れてくると1分もあれば答えにたどり着けるようになる(はず).Practice!
        • 数学を使わずに「Gを増やせばYが増える」を誤解の余地なく主張することは案外難しい.
      • 直感を掴むには,三面等価を理解しておくことが不可欠.
    • 単純に今日のGDPさえ増えればそれでいいのか,という議論はまったくもってsensibleである.政治をやりたいわけでなければ,安易に財政政策を支持することやあるいは逆に否定することは慎み,もう少し詳細に経済学を学んだほうがよい.
  • 労働市場
    • 財・サービスとは需給の立場が逆転.
    • 労働を財・サービスのごとく扱うことはいろんな意味で問題があるかもしれない.がとりあえず可能な限りシンプルなレベルで分析を行う.
    • ミクロで習うような需要と供給のモデルにまったくもって不慣れな人は,別途勉強し直すとよいかも.
次回:
  • 労働市場の実際とモデル
中間試験:
  • 11月27日に予定.
  • 私のウェブサイトに練習問題をアップロードしている.ここからそのまんま出題するわけではないが,試験対策の材料として利用しよう.
  • 事後的な救済は行わない.採点・成績評価は公平を期する.なるべくいい点数が取れるよう努力してください.
コメントより:
  • 「今の経済のやり方が100%正しいとは言えない」
    • ほとんどすべての経済政策はプラスの効果とマイナスの効果両方持っています.様々な効果に目を配りつつ,特に大切な部分に焦点を絞る,マイナス効果を負担する人を説得する,といった難しい知的労働が,経済政策を考える上で必要になります.

Sunday, November 10, 2013

内田『現代沖縄経済論』

ある方にサジェストされた本をようやく発見し,ぱらぱらと読んでみた.
  • 内田真人 (2002) 『現代沖縄経済論: 復帰30年を迎えた沖縄への提言』 沖縄タイムス社
 日銀那覇支店長(当時)が一般向けに沖縄経済を概観する書である.データや論文のリファレンスが充実しており,少なくとも私にとっては有用である.10年以上前の本だが,古びていない.それに,私とは経済観に差があって面白い.(共通する部分もあるが,それ以上にがありすぎて精読するのはいささか苦痛である.経済観だけでなくエコノメリテラシーの差も大きい.)

本書のデータを更新すれば卒論,手法を更新してもうちょっとがんばれば修論になるかもしれない.類書が少ないので,県の経済事情が気になる人は入手しておいて損はないだろう.

以下備忘録も兼ねて,その内容の一部を,私なりの言葉に翻訳しながら記しておく.


問題提起:
  • 復帰から30年,それなりにお金を使ってきた.こうしたお金の一部は政治・外交的に取ってきてたものだ.
  • しかし質の低い公共投資ばかり積み重ねており,市場メカニズムは機能不全.内地との格差は依然として大きい. 
    • (たしかに,最近の研究からも,沖縄ではpublic capitalがうまく使われていないことが推察される.cf. 宮川・川崎・枝村 2013)

沖縄経済の根本的な問題:
  1. 政府のグランドデザインに具体性がない.
  2. 3K(公共投資,観光,基地)という外需依存 → 競争・自助努力が弱い.
  3. 垂直的な政府間関係において,意思疎通が不十分.
  4. 物的・人的に閉鎖的.
    • 輸送費用が高いのは,規制も大きな原因.
  5. 人材育成がいい加減.労働市場でミスマッチ.

政府が将来のビジョンを具体的に示してくれないのが何よりまずい,と批判していることもあって,筆者自身は以下のように「具体的」なグランドデザインを提言している(ただし,沖縄に来てまだ2年なので先のことはよくわかりません,というエクスキューズもある):
  • キーワード: 
    • 観光; 情報通信; 高齢化; 環境
  • ポイント: 
    • 地理的なアドバンテージを活かしつつ経済自立のための構造改革を.
  1. 選択と集中
    • 比較優位である観光・情報通信・健康関連産業に集中投資.
    • 既存の事業は果断に廃止.
      • (市場メカニズムがうまくいってない,政府がビジョンを持って選択的に投資せよ,とはいかに)
  2. 沖縄自身の強みを活かすプロジェクトを考える
    • 他地域をそのまま模倣するのはおかしい.
    • 地域特性を活かす将来像が必要.
  3. 若年失業者を活用
    • 危機感がない若年失業者を働かせよ.情報通信などで.
  4. 具体的な戦略を立てて国際交流拠点を目指す
    • 人的・物的な交流,人材育成を促すべくハード・ソフトを整える.
    • 入域観光客数などの数値目標を立てる.
    • OISTや特区を成功させるために,まちづくりも変えていく.
    • 自由貿易地域がうまくいかない原因を分析する.
  5. ニッチに特化する
    • 沖縄ならではの事業があるはず
      • 情報通信: コールセンターやデータ保守
      • 福祉介護: あったかい
      • 建設: 護岸技術
      • 環境: 電気自動車特区をやってみては
  6. 民間金融機関の活動強化
    • 沖縄公庫強すぎ → 民間金融機能を強化せよ
    • 県民はリスク資産持たなさすぎ → 資産運用を多様化せよ

(筆者は「具体的」という言葉を多用しているが,その提言にどこまで具体性があるかはわからない.「具体的に考える必要」があるので,「具体的に考えよう」という「具体的な提案」をしている,という具合でどうにもconfusingである.
 私が具体的に提案するとしたら,まず「日銀那覇支店の持つ諸々の統計をcsvで一般公開すること」だ.)



他,財政・金融・労働・貨幣市場の話や,IT・観光の話がある.

たとえば,沖縄の失業問題を次のように分析している:
  • 失業の原因:
    1. 地元志向強すぎ
    2. 雇用創出力不足
    3. 労働人口増加.労働参加率は全国より低くさらに増えるポテンシャルあり.
    4. ミスマッチがシビア:
      1. 地域間移動が難しく,県外で就職できない
      2. 高度な技能・能力を持つ労働供給が不足
      3. 過度の公務員・教員思考
      4. 労働条件のミスマッチも.
    • 特に,Uターンで労働供給増加,が高失業の原因
      • (具体的な根拠は不明瞭.失業の原因の2/3はミスマッチ,という議論を引用しているし,何より上述の通り,労働市場の問題はミスマッチだとしていたはずだが…)
  • 対策:
    • Uターンさせない
      • (本書の中でもずば抜けてすごい理屈だ.)
別の箇所では,job separation rateだけでなくjob finding rateも高いと指摘している:
  1. 退職・転職にあまり抵抗を感じないアメリカ的な側面を持つ
  2. パート・転職が多いサービス業が主な産業構造
仕事を見つけやすいし,世帯主じゃないことも多いので失業のストレスも少ないとのことだ.



本論とは関係ないコラムが面白く,中でも,沖縄の物価が全国と比べて季節変動が少ないのは,気候の変動が少ないから(本当?),というのが一番おもしろかった.

(邪推になるが,結局沖縄はバカで意識の低い未開の土地,という意識がどこかにあるのかもしれない.他人を見下している暇があったらWooldridgeでも読めよと感じた.あ,これ現場では使えないですかそうですか.)

参考文献:
  • 宮川努・川崎一泰・枝村一磨 (2013) 社会資本の生産力効果の再検討, RIETI Discussion Paper Series 13-J-071.

Saturday, November 9, 2013

国際経済学II, 第6回

講義内容
  • 双子の赤字
    • 経常赤字で最も有名なのはアメリカ.
    • アメリカは金融市場が発達していることもあり,世界中から投資が集まっているという側面もある.(cf. Caballero, Farhi and Gourinchas 2008; Mendoza, Quadrini, and Ríos‐Rull 2009)
  • 経常収支 + 金融収支 = 0.
    • 外国に対して持つ資産が増えたら金融収支は赤字(マイナス)になる,という直感に反しやすいポイントを押さえよう.
    • 所得収支は,資本や労働を外国に「輸出」し,それらが稼いでお金を持ち帰ってくる分を捉えています.ので財の輸出と同様に経常収支にプラスで記録し,稼いだお金の分は金融収支にマイナスで記録します.
次回:
  • 国際収支統計の残り
  • 為替の基礎知識と為替変動への対処
コメントより:
  • 「国際収支の仕分けの仕方がとてもややこしかった」
    • 説明がグダグダですみません.
    • 経常収支が貿易取引(輸出入)を,金融収支が対外的な金融取引(貸借)を捉えるもの,というポイントを押さえてさえいただければ.
参考文献:
  • Caballero, Richard J., Emmanuel Farhi, and Pierre-Olivier Gourinchas (2008) An Equilibrium Model of "Global Imbalances" and Low Interest Rates, American Economic Review 98, 358-393.
  • Mendoza, Enrique G., Vincenzo Quadrini, and José‐Víctor Ríos‐Rull (2009) Financial Integration, Financial Development, and Global Imbalances, Journal of Political Economy 117, 371-416.

Wednesday, November 6, 2013

経済政策II, 第6回

講義内容:
  • 日本財政
    • 公務員を目指す人は何らかの形で勉強しておくといいかも.
  • リカードの中立命題
    • 負担を先送りしても,その分負担は重くなる.現在負担(租税)するのと負担を先送りする(公債)とを比べると,どちらが有利というわけでもない.
      • 調達手段を議論するよりも,お金の具体的な使い道を議論する方に政治のリソースを割いてほしい.
    • いつか増税されることがわかっているなら,早いうちから備えるべきかもしれない.
    • 中立命題は,実際に誰が負担するか,という公平さについては何も主張していない.
    • 中立命題は,ダイナミックな最適化という現代マクロのスピリットに支えられている.しかしながら,現実味抜群の命題というわけではない.むしろ中立命題が成立するためには様々な極端な仮定が必要である.
  • 財政を設計し運営していくときには,損をする人・得をする人について丁寧に考えていく必要がある.
  • SNAと租税の話
    • マクロで見ると,租税は支出じゃなくて所得移転.
    • 民間と政府の貯蓄が,投資の原資になっている.
次回:
  • 政府支出の話
  • 労働市場の話 (レジュメ4の用意をお願いします)
  • これはまずい,と思った人は,復習するなり,参考書を紐解くなり,履修取消を検討するなり適宜対処してください.
    • レジュメ3がこの講義で数学的に一番しんどい部分になる予定です.
 コメントより:
  • 「税金はだるいが我々の生活を陰で支えている.その役割がわかってよかった」
    • 誰かから取って誰かに渡すことを所得の再分配と言います.再分配(特に社会的弱者に渡すこと)は社会をうまく切り盛りしていく上で不可欠な要素です.
  • 「消費税が上がって消費や経済の流れも大きく変わってくる,注目していきたい」
    • いいポイントを突いていますね.可処分所得やその見通しが変われば消費や投資も動きます.消費税は景気に大きく影響する可能性がありますし,政治面でも波乱要因になりがちです.Y = C + I + G, に直接出てこないからといって無視していいわけではありません.

Saturday, November 2, 2013

県内建設業ランキング


2012年度における建設業者146社の完成工事高が新聞(タイムス, 新報)に載っていた.

ランキングを見ると対数を取ってプロットしたくなるものである.

沖縄県建設業完成工事高ランキングとrank-size rule. 出典: 東京商工リサーチ沖縄支店.

こうして見ると,中堅(4位~24位ぐらい)どころでけっこうな乖離があるような雰囲気だ.パレート分布のshapeパラメータは1からそこそこ離れているようにも見える.


前年度のデータと重ねてみた:

2012年度のデータは完成工事高10億円以上の企業だけを見たデータである.分布の形状を捉える上で,truncationの影響は無視できないようだ(勉強になった).


(RSSではショートバージョンを配信する設定にしてみた.うっとうしかったら元に戻す.)

Thursday, October 31, 2013

13年10月沖縄県主要指標

先月の記事: 13年9月沖縄県主要指標

はじめに,県内企業の業況判断を3つの指標で見てみよう(今回初の試みになる).
沖縄県内企業の景況感. 点線は原系列, 実線は季節調整値. 黒線: 沖縄公庫のD.I., 青線: 内閣府沖縄総合事務局のB.S.I., 紫線: 日銀那覇支店のD.I..  出典: 沖縄振興開発金融公庫「県内企業景況調査」, 内閣府「法人企業景気予測調査」, 日本銀行「県内企業短期経済観測調査結果(短観)」.
  • サンプルが大きいのは沖縄公庫で,300~400社ほどが回答している.日銀と総事局だと100社強の回答.
    • 昔は公庫の調査には1000社ほど回答していたようだが…検出力を高める便益が費用に見合わなかったのだろう.
  • リーマンショック以来の不況は,日銀・総事局のデータだと2012年頭頃には脱出している.公庫のデータだとそこから1年遅れで脱出というところ.
    • これまでのエントリでも眺めてきたように,労働市場も2012年頃から潮目が変わってきている.
    • 財政政策かなぁ.
  • 季節調整前のデータだと,今年のQ3はどの指標で見ても大躍進している.

以下はこれまでと同様に,最近公表された指標をだらだら眺める.

鉱工業生産(8月分)は横ばい.今年前半の盛り上がりは消えたまま.
沖縄の鉱工業生産, 2005年=100. 薄灰色が原数値, 黒がDECOMPでの季節調整値, 青がトレンド, ピンクが日本全国のトレンド (2010年基準). 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.

今年の3月頃から,木材の在庫が積み上がっているようだ.
沖縄の鉱工業在庫, 2005年=100. 黒が季調済み鉱工業在庫, 青が木材・木製品工業の在庫. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」.
  • 生産は増えたが出荷がいまいち?
    • 建設ラッシュと整合的?
    • 住宅や家具のような耐久消費財のインプット市場に変化?

消費者物価指数(9月分)は,総合では引き続き上昇中.
那覇市のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
沖縄県のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
  • 全国ではコアコアが約5年ぶりにマイナスを脱したところ.しかし沖縄はまだまだ微妙にデフレを引きずっている.
  • 生鮮食品は魚介も野菜も上昇している.
    • 前年同期比で那覇市12.6%, 沖縄県8.2%の上昇. 
    • 最近はスーパーで買い物するときに,青野菜の値段が数十円アップしているような感覚があり,学部時代を思い出す.
  • ガス代が上がっていてコアCPIはプラス成長.
    • 飲食店などのコスト構造の中で,ガスはどのようなポジションなのだろうか.ガス価格上昇が財価格に転嫁されるのは少し想像しにくい.(価格よりは量や品質で調整するのかも.)
  • なんにせよ2%の期待インフレにはほど遠い状況が続いている.予期せざるデフレーション?

そして労働市場.完全失業率(9月分)は男女とも改善しているが,ジョブマーケットから退出した人が多そうだ.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
  • 就業者数が減り(前月差-0.8万人),非労働力人口が増えている(前月差+2.2万人).完全失業者が減っている(前月差-1万人, 前年同月比-20%)とはいっても,求職→就職というモードチェンジではなさそうだ.
    • 非労働力人口の中で,「通学」や「家事」よりも「その他」という項目が増えている(男性は).インフォーマル雇用やニートが増えているかも?
      • 「その他」が増えているのは若年だけではないが.
    • 男性の自営業主と,女性の家族従業者が顕著に減っている.一家離散の危機?
  • 若年雇用はポジティブ.男女計15~24歳には前月比で次のような変化が見られる:
    • 完全失業者が減
    • 非労働力人口は不変
    • パート・アルバイトは減
    • 中小企業を中心に,正規雇用が増加

一般職業紹介状況のデータ(9月分)からUV曲線を作成.先月までと違った要領で作図してある:
  1. 2008年1月までデータをさかのぼって見た.(先月は2009年1月以降のデータだった)
  2. 縦軸と横軸を入れ替えた.
  3. DECOMPで季節調整.
沖縄のBeveridge curves, 2008/01--2013/09. 2011/12までは黒丸・オレンジの近似線, 2012/1以降は青白丸・緑の近似線. 出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況」, 沖縄県「労働力調査」
  • 有効求人倍率(季調値)は復帰後最高水準の0.57に.
    • 復帰前の63年7月に記録した0.76という異常値が私の持つデータの中での最大値.記録更新なるか.
      • 記録を更新したところでリアルな何かが変わるわけではないのだが.
  • UV曲線に沿って低失業高欠員に動いているだけでなく,UV曲線自体が外側にシフトしているように見えてきた.(今まではなんだったんだ)
    • 線の引き方は他にもありえる.(instrumentsが必要だが…)
    • でもマッチング効率の悪化が,景気回復に隠れて見えなかったとすると怖い話だ.

Shimer (2005)を手本にしつつUV曲線を定義し直し沖縄のmatching functionを推定してみようと思ったけど,利用可能なデータでは新たに失業状態へと移ったグループとそうでないグループを区別する術がなく(job finding rateが計算できない)挫折.どうしたものか.


学祭のためしばらく連休.研究を進めよう.

Wednesday, October 30, 2013

経済政策II, 第5回

講義内容:
  • 国民所得勘定
    • 生産,分配,支出,という3つの視点で経済活動を捉える.
    • 三面等価はマクロ経済学における最重要概念である.
  • 日本の財政
    • 財政の持続可能性については財政学者を中心に様々な研究が蓄積されている.
      • 講義中に紹介した論文はArai and Ueda (forthcoming)である.選挙で「経済成長すれば増税しなくても大丈夫」など主張する政治家は多いが,楽観的に過ぎるのかもしれない.
      • 他の研究に当たる場合,内閣府の「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」に収録の加藤 (2009)の図1-6などを参考に探すといい.
      • 20年以上前から研究者が破綻を警告してきたことは,(1) 研究者は嘘つきだ,と解釈することもできるかもしれない.しかしたとえば10年後に実際に破綻したとき,(2) 経済学は30年後の未来を予測できるんだ,と解釈できる日が来るかもしれない.
      • いずれにせよ我々は将来について深刻な不確実性を抱えている.

次回:
  • 財政の話

コメントより:
  • 「数式がたくさんでてきて難しい」
    • 足し算やかけ算を駆使して物事を定義する,というのはたしかに経済学で初めて目にするアプローチかもしれません.慣れるまではかなり苦痛かも…
    • ただ,数学的な表現を活用することは,システマティックに物事を整理し理解する上で現在人類に利用可能な中で最良の手段だと思います.いきなりすべてを理解することは難しいかもしれませんが,なんとか食らいついていくうちに思考能力はかなり向上するはずです.

参考文献:
  • Real Arai and Junji Ueda (forthcoming) A Numerical Evaluation of the Sustainable Size of the Primary Deficit in Japan, Journal of the Japanese and International Economies.

Friday, October 25, 2013

国際経済学II, 第5回

講義内容:
  • 国民所得勘定
    • 生産,分配,支出,という3つの視点で経済活動を捉える.
    • 三面等価はマクロ経済学における最重要概念である.
      • しかし,我々が対象とする,経済活動が国際的に入り組んだ状況では,「生産 = 所得」の部分で食い違いが起こる.
      • 名目GDP(生産)と名目GDI(所得)が一致していても,実質GDPと実質GDIが一致するとは限らない.対外的な購買力(交易条件)に変化があると,貿易を通じて実質的な所得に差が出てくるからである.
      • 詳しくはよりアドバンストな学習をする際に考えると良い.
    • 実際の数字を概観
      • 純輸出はけっこう小さい.が重要じゃないわけではない.
  • 国際収支表
    • 現代の国際マクロ経済の動きを掴むには,お金の流れを体系的に把握することが不可欠.国際収支の仕組みを理解するのはその前提条件として大切.
    • 基準が2008年に改訂された.講義ではニューバージョンを解説.
      • 国際収支表をより深く理解する必要がある場合,古いバージョンに基づいた解説ではあるが,日本銀行国際収支統計研究会 (2000) が最も手元に置いておきたい一冊になる.
      • vintage化した知識をアップデートするのはなかなか大変.自分も年を取った…と慨嘆したいところだが,そもそも自分こそ新しい知識を生み出し周りに勉強させる側であって愚痴を言っている場合ではない.
次回:
  • 学祭で休講になります.
  • レジュメ4も用意しておくとよいでしょう.

コメントより:
  • 「沖縄のGDPなどはどこで調べれば?」
    • 沖縄県統計資料WEBサイト」で県が諸々の公式統計をまとめています.ここから「県民経済計算」などをたどっていけば,講義中にちょくちょく紹介するような数字が得られます.
    • 総務省などの中央省庁が公表しているデータ(たいていの統計はe-Statにまとめられています)でも,「都道府県別」というくくりでまとめられていることがあります.
    • 民間企業や独法(出版社やシンクタンクなど)も都道府県別でデータを作成・公表していることがあります(無料とは限りません).
  • 「沖縄の貿易赤字は止められないのか? 世界でどうにかした案はないか?」
    • 「貿易赤字は悪,貿易黒字は善」とは限りません.
      • たとえば,たしかに貿易黒字だけど,安く買いたたかれているだけ,といった状況もありえます.
      • 貿易赤字を食い止めることを優先するとかえって別の歪みが生じることもあります.
      • 貿易は自国の商品を一方的に売りつけるものではなく,互いに「交換する」ものです.貿易黒字は我々をより豊かに,より幸せにする手段であっても,目指すべき目的となるとは限りません.
    • 貿易赤字から黒字へと転換した具体例を実際に示しておきます.次のグラフはデンマークのデータです:
    • デンマークの対外ポジション (単位: %). 出典: Lane and Milesi-Ferreti (2007)
      • 経常収支がおおまかに貿易の黒字・赤字を捉えるフローの指標です.
        • 90年を境に,経常赤字(貿易赤字)から経常黒字(貿易黒字)へと転換しています.
      • 対外純資産は,貿易で積み上げてきた資産・負債を捉えるストックの指標です. 
        • 80年代後半頃から上昇し始め, 最近では純債務国から純資産国へと転換している様子が見て取れます.
    •  同様に,ノルウェイとカナダのデータも示しておきます.
    • ノルウェイの対外ポジション (単位: %). 出典: 同上.

      カナダの対外ポジション (単位: %). 出典: 同上.
    • これらの国で具体的にどういう転換が起こったのかは私は詳しく存じません.これをヒントにしてご自身で調べてみてください.
    • 地域レベルのデータでも探せばいろいろ出てくると思います.が寡聞にしていい例は思いつきません.
    • 沖縄の移出・輸出を増やしたい,と復帰以来各所で議論されていますが,現実は甘くないようです.
      • 沖縄の主要な輸出産業は,観光関連産業になります(サービスを輸出).他に沖縄が輸出できるのは,泡盛や一部の農産品など,自然を活かした商品が多そうです.しかしこれらは規模の経済が働きにくく,また外国で経済成長が進んでも需要がなかなか増えない(需要の所得弾力性が低い)タイプの商品かもしれません.
      • 一方で,人知を凝らし洗練された商品はなかなか見当たらない気がします.
      • 輸出を増やすには,売れる物を作り,遠方にいる顧客のハートを掴み,生産・流通プロセスの無駄を省かねばなりません.これらは究極的には,自然環境や政府ではなく我々自身が深慮と機転をもって生み出していくものだと思います. 
      • 開発経済学の分野で類似の議論が積み重ねられています.「輸入代替政策」などのキーワードを頼りに調べてみるとよいでしょう. 
        • Todaro and Smith (2011)という有名な教科書には「輸入代替で工業化,という戦略がたいてい失敗したのはみんなが認めるところ」といった記述があります.安易に輸出促進を目指してもなかなかうまくいかないようです.

参考文献:
  • Todaro, Michael P., and Stephen C. Smith (2011) ``Economic Development (11th ed.)" Prentice Hall. (OCDI開発経済研究会訳『トダロとスミスの開発経済学』ピアソン桐原)
  • 日本銀行国際収支統計研究会 (2000) 『入門国際収支: 統計の見方・使い方と実践的活用法』 東洋経済新報社

Wednesday, October 23, 2013

経済政策II, 第4回

講義内容:
  • 「物価」の測り方も様々.
    • どういったアイテムの価格をどう計算するか,でけっこうな違いが出ている.
  • 「給料」の測り方も様々.
    • 雇用者報酬は,手取りの分以外(企業側が払ってる分の健康保険など)も含まれている.そういうわけで我々の実感よりは数字が大きくなる.
  • マクロ指標を眺めながら,日本経済の歩みを概観
    • 日米のバブルがターニングポイントになっているように見える.
    • 「景気がいい/悪い」という次元で経済を捉えるのは底が浅すぎる.同じ「景気がいい」でも内実は様々.
  • GDPの定義
    • 生産活動を中心にマクロ経済を捉える指標.
    • 生み出した価値こそが所得や消費の源泉になる.
次週:
  • レジュメ3の用意もお願いします
  • SNAの残り,財政の話
 コメントより:
  • 「GDPの意味がわかった」
    • より高い付加価値を生み出すことを目指して成長していきましょう.
  • 「暑かった」
    • 換気しましょう.
    • それにしても私の講義日はなかなか台風が直撃してくれませんね.

Monday, October 21, 2013

13年10月家計調査

前回の記事: 13年9月家計調査

毎度のごとく,家計調査(8月分)を眺める.事務作業が大詰めなので今回もごく簡単に.

消費支出は上昇へ転じている.(実質でも同様)
名目消費支出(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

名目消費支出のy-o-y成長率 (単位: %). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

  • ここのところ減りまくっていた教育支出も,授業料アップでどかんと増加(前年同期比で258%)しているようだ.変動大きすぎ.
  • 名目消費支出は前年同期比で8.3%増加しているが,(名目消費支出-教育支出)だと3.2%増加(季節調整値だと3.3%)にとどまる.まだまだ厳しい.


 可処分所得は下げ止まりつつあるが,雲行きは依然として怪しい.

二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
  • 直接税と社会保険料が増えてきているわけではない.
  • 流動性低めの金融資産をあんまり持っておらず,株高の恩恵を受けていない世帯が多いのかもしれない.
    • 家調では金融資産や貯蓄のフローもわかる ようだが,データを整備するのが面倒くさいしサンプリングバイアス大きそうだし解釈もよくわからないので当面は触れないことにする.

 家調は他の指標とずいぶんと雰囲気が異なる.これについて少し前に何か思うところがあったのだが,すっかり失念してしまった…

Friday, October 18, 2013

国際経済学II, 第4回

講義内容:
  • マクロの数字を読むための基礎知識:
    • 名目と実質を区別しよう
      • 通貨が異なる国の間で実質GDPなどを比較するには,物価だけでなく為替レートも調整する必要がある.物価と為替を調整するには,レジュメ5で学ぶ購買力平価の考え方を使うと便利だ.実際,世銀やOECDで世界各国のデータを探せば,PPP(購買力平価)で評価した指標を見つけることができる.
    • 一人あたりで見ると,マクロの数字もイメージしやすくなる. 
    • 物価の違いを考慮したければ物価で割る,人口規模の違いを考慮したければ人口で割る.割り算は大切だ.
  • 国民所得勘定
    • 生産,分配,支出,という3つの視点で経済活動を捉える.(支出については次回)
    • GDPは付加価値の総和.
    • 新しく生み出した価値こそが我々の所得の源泉になっている.
次回:
  • レジュメ3の用意もお願いします
  • GDPの話の残り
  • 国際収支統計を理解する

コメントより:
  • 「GDPは日本の景気を知る大事なデータだと感じた」
    • よりリアルタイムに景気を反映する統計データは他にもいくつかあります.内閣府がまとめている景気動向指数はその一つです.
  • 「説明がわかりやすい」
    • ありがとうございます.でもちょっと進行が遅い気もしています.
  • 「都道府県によって賃金や物価に違いがあるのはなぜか?賃金や物価を均等化させることはできるのか?」
    • とてもよい質問ありがとうございます.
      • レジュメ5で触れる購買力平価の考え方ともつながります.
      • この問いを突き詰めていくと立派な学術論文にもなり得ます.ご質問は「地域間格差を解消するにはどうすれば?」といったディープな問いとも直結しているでしょう.
    • 要は取引費用が存在するということですが,私の専門分野でもあるのでもう少し長めに説明してみます.
    • もし「どこでもドア」を誰もが気軽に使える状況であれば,賃金や物価の地域間格差はなくなるはずです.いわゆる裁定取引がやり尽くされるからです.
      • つまり,物価に差がある限り,安い地域で仕入れて高い地域でそれを売れば,楽してぼろ儲けできます.高賃金地域にいる企業は,賃金の低い地域から労働者を連れて来れば人件費を大幅削減できるでしょう.
      • しかし,このように楽してぼろ儲けできる状況は,あったとしても長続きしません.物価の安いところでは物価が上がり,物価の高いところでは物価が下がっていくことになり,格差はそのうち消滅していきます.
    • 現実にはご指摘の通り物価に大きな差があります.これは「どこでもドア」が存在しないからです.つまり,物を運ぶ,人を移動させる,にはコストがかかるわけで,上述のような裁定取引を十分行うことができないのです.
    • 輸送費用が高すぎて,運ぶことが現実的でない商品はたくさんあります.
      • たとえば,六本木ヒルズを那覇市に運んでくることができないように,住宅や土地は動かせません.他にも,サービス業の多くは運べません.沖縄にいながらにして渋谷のヘアサロンで供給される美容サービスは利用できないのです.
    • このように,貿易できない商品がある場合,地域間で物価の水準やその動きに差が出てきます.
      • たとえば国際マクロにおいてはバラッサ・サムエルソン効果が有名です.
    • 東京のような大都市で地価や賃金が高いのは,人や企業がわんさか集まり住んでいるからこそ生じるプラスアルファの何かがあるからです.
      • 都市経済学では,このプラスアルファの何かを,集積の経済と呼びます.
    • 物価や賃金の格差をなくす,というのはこの世に輸送費用(や情報の不完全性)がある限り無理でしょう.
      • もしかしたら強引に政治的なコントロールをすればそうした無茶ができるかもしれませんが,法や統計が把握できない地下経済では政府の思い通りにならない取引が行われるかもしれません.
        • 経済学者は輸送費用がまったくないという非現実的な世界をシミュレーションすることもできます.たとえばBehrens et al. (2011).
      • 物価や名目賃金に地域格差があったとしても,人々が自由に住む場所を選べる場合,実際に住んでいるところが結局は本人にとって一番幸せ,という状況になります.
        • 日本だと,戦後,特に70年代頃から実質的な幸せ度(効用)で見た地域間格差は縮まりつつあるそうです.(Nakajima and Tabuchi 2011)
        • ただし,ある種の外部性や不完全性があれば,みんながみんな不幸な場所に住んでいる,という状況は理論上はあり得ます.
参考文献:
  • Kristian Behrens, Giordano Mion, Yasusada Murata, and Jens Südekum (2011) Spatial Frictions, CEPR Discussion Paper #8572.
  • Kentaro Nakajima and Takatoshi Tabuchi (2011) Estimating Interregional Utility Differentials, Journal of Regional Science 51, pp. 31--46.




独り言:
  • レジュメ6以降何をしようか悩ましい.割り算と一次関数以上の高度な数学を封印した状態でどこまでいけるのか.コンシューマーゲームのやりこみにありそうな,初期レベルプレイのようなものを感じる.
    • 初期レベルで学べる国際マクロってどのあたりが面白いんだろう…投機アタックか最適通貨圏かな.
    • 当初はMetzler図をやろうと思っていたが,学生にアピールしにくい気がしている.
    • もっと大胆に内容をカットしなければ.

Wednesday, October 16, 2013

経済政策II, 第3回

講義内容:
  • 時系列データを読む
    • トレンドに注目しよう.
    • トレンドを見抜くには,直線をどう当てはめられるか考えるのも手.
  • マクロ経済の循環
    • 財市場,労働市場,金融市場,と様々なルートでマクロ経済はつながっている.
    • つながっているせいで, 大変にややこしい.
    • ややこしい関係を一つ一つ解きほぐしていこう.
  • マクロで数字を見る上ための基礎知識:
    • ストックとフローを区別しよう
      • フローしか見ないのはダメ.なので,経済政策の政策目標としてGDPしか見ないのもやはりダメ.
    • 名目と実質を区別しよう
      • 給料をそのまま読んだものは名目.給料を「マンション何ヶ月分」に換算すると実質になる.
      • 実質給料は, 給料の持つ「実質的な購買力」を表すことになる.
次回:
  • レジュメ3も用意しておきましょう
  • マクロのデータを見る.
  • GDPの定義を押さえる.
コメントより:
  • 「経済は家計と企業と政府のサークルでなっている」
    • 社会は人と人とのつながりでできているわけです.
    • つながる接点が市場(しじょう)になります.
  • 「実質の計算の仕方・概念がわかった」
    • 旅行に行ったときなど,似たような計算は日常的にも無意識のうちにやっているかもしれません.
  • 「この講義のおかげで他の経済学の科目を安心して受けられる」
    • 感無量です! 期待を裏切らないようがんばります(難しくなりすぎない範囲で).
  • 「よろしくお願いします!」
    • こちらこそお願いします!

Tuesday, October 15, 2013

国際経済学II, 第3回

講義内容:
  • 国際マクロの数字を概観
    • モノの流れとカネの流れは表裏一体.詳しくはレジュメ3で.
      • お金が外に出ていく,といっても,タダで出て行っているわけじゃない.
    • お金の動きを理解するためには,金利の動きに注意する必要がある.
      • 金利の低いところで借りて高いところで運用すると,儲かるかもしれない.
      • が,こうした動きがあると,為替も動く.また,為替が動くと国際金融の流れも変わる.
  • 国際マクロの課題
    • 金融もグローバル化が進んでいる.特に戦後はそのスピードが著しい.
      • ホーム・バイアスはあるが,少しずつ解消されつつある.
    • ところがこうしたグローバル化はメリットばかりではない.グローバルにお金が動いているからこそ起こるような金融危機も経験してきた.
    • 国際マクロ・国際金融という学問分野にとって,こうした非常事態を理解し,対処し,予防することは重要な責務である.
  • フローとストック
    • フローは,時間の流れの中で起こったもの.
    • ストックは,それまでの積み重ね.
    • マクロを理解するには,フロー・ストック両方の視線が必要.とりあえずはこの区別ができるようになろう.
次回:
  • レジュメ3も用意しておいてください.
    • SNAの仕組み

コメントより:
  • 本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中にも取り上げることもあります.ご了承ください.
  • 「フローやストックの例がわかりやすかった」
    • ありがとうございます.
    • フローとストックの区別は,時間的な視野を持ってマクロ経済を見つめる第一歩になります.
  • 「日本は景気回復してるけど,借金は返せるの?」
    • 日本国全体で見た場合,日本は外国に借金しているどころか外国にお金を貸しています(レジュメ1の図17).貸した分の利払いを外国からもりもり回収している状態です.
    • 一方,日本国「政府」はご存じの通り借金しています.
      • ご指摘のように,景気が回復したりインフレになったりすると,税収が増え,政府の借金を返す能力がアップします.かといってそれだけで安心できるようにはならないでしょう.
        • 財政赤字の議論は経済政策IIという講義でもう少し丁寧に概観する予定です.
        • 詳細は財政学の教科書にあたってください.最近では,『経済セミナー』という雑誌の最新号で,政府債務特集が組まれています.図書館にもあるので手にとってはいかがでしょうか.(完全に理解するのは難しいですが,そもそも経済学者の間でも論争の多い難しいテーマでもあります)
    • 「金融のグローバル化 → リスクはあるがリターンもありそうですごい」
      • 世界的に有名な投資家ウォーレン・バフェットなどは,グローバル化の波に乗って巨万の富を築き上げています.
      • お金の動きはダイナミックで面白いですね.

    他:
    • 今年のノーベル賞は金融のボス3人が獲得しました.特にFamaのアイディアは私の思考回路に大きく影響しています.
    • 受賞を逃したあまたの研究者にも敬意を!

    Wednesday, October 9, 2013

    経済政策II, 第2回


    講義内容:
    • マクロ経済学の歴史の概観
      • 70年代頃から,人間行動を真剣に捉えるようになってきた.人間行動を分析するために,ミクロ経済学的な手法が積極的に取り入れられていった.
      • 普通の学生はそれよりも古い時代の経済学を中心に学んでいる.たしかに,マクロ経済の動きを体系的に把握するだけならそれでも十分収穫がある.しかし,政策的な含意を得るまで踏み込んで考えるにはそれだけでは不十分だ.
      • 講義では,テクニカルな議論は省略しつつも,新しい時代の経済学が何を見いだしてきたのか,そのエッセンスを伝える予定.
    • 数学の準備
      • 記号は,物事を最もわかりやすく効率的に伝えるための道具である.慣れないうちは取っつきにくいが,慣れたら記号抜きに議論するほうが難しいと気づくはず.少しずつでいいので,xやyといった抽象的な表現に馴染んでほしい.
      • 経済学は,モデル (model) を基にして分析する.モデルは何らかの数式が綾なす数学的関係の集まりである.経済学は,現実をありのままに分析するのではない.現実にフィットするような簡素なモデルを作り,そのモデルをいじくり倒すことで現実への洞察を得る.
      • 一次関数のような単純なものであっても,使い方次第では我々が思っている以上に有用である.

    来週:
    • レジュメ2の用意をお願いします.
      • マクロのグラフを概観する
    • 単位はともかく,試験は激ムズらしいです.なるべく勉強したくない人やGPAを気にする人は履修する際注意してください.

    コメントより:
    • 本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中にも取り上げることもあります.ご了承ください.
    • 「数学・経済学難しすぎ!」
      • 私も勉強し始めた頃はまったくわけが分かりませんでした.難しいと感じるのは無理もありません.
      • 参考文献に挙げているようなテキストを紐解いてみる,教員に質問する,など,必要に応じて補完してください.
      • 具体的にどこがわからなかったとコメントいただければ,改めて可能な限り説明いたします.
      • 「イージーだが曖昧で底が浅い講義」ではなく「小難しいけど学ぶ価値のある講義」を展開する予定です.履修登録するかどうかは熟慮してください.
    • 「経済学を学ぶ上で,数学を知っておかないと途中からついていけなくなる」
      • 数学を使えるに越したことはありません.が,数学を極力回避したとしても,経済学の勘所を理解することは可能です(相応の努力は必要です).数学を使った議論は見た目こそいかついですが,そこには惑わされずに,結局のところ何が大切なポイントなのかを意識して学習してください.
      • 本講義では,グラフを読み書きする能力を要求します.ガリガリ計算するわけではありませんが,グラフとじっくり向き合ってその意味するところを深く考えるトレーニングは不可避です.グラフなんて一切見たくない,という場合は途中からついていけなくなる可能性が高いです.
        • 現時点でそうした能力に不安があっても,講義になんとかしてついてこればそうした能力を著しく伸ばすことができるはずです.
      • 数学的な知識が必要になったときは,その都度簡単にではありますが講義中ないしレジュメで解説します.本講義を履修するために必要なのは,数学的な前提知識よりも,経済学に対する熱意と具体的な努力です.
      • 経済学を学ぶために改めて数学を一からやり直す必要はありませんしそもそもそんな時間はありません.必要に応じて必要なところだけやり直せば十分です.
      • 経済学の醍醐味は,中学・高校で学ぶような数学さえ扱えれば山ほど味わうことができます.数学を学ぶ価値は甚大です.
    • 「経済学の授業は数学がメイン.計算問題を解く授業をしてみては?」
      • 数学をマスターするには練習が不可欠,ということを踏まえたうれしいコメントです.
      • 本講義とは別に,中学・高校で学ぶような数学をやり直す講義があるといいなとは日々感じます.そこで学んだものはすべての経済学系科目およびその後の人生で活きるからです.
      • しかし残念ながら,私の講義中にガッツリ数学をやる予定は当面ありません.市販の教科書にはたいてい練習問題がついていますので,物足りない場合はそれにトライしてください.そこでわからないところは個別に質問いただければ対応します.
      • 実は,数学の基礎をやさしく解説するような特別レジュメをこっそり準備中です.しかし私の生産性が低いゆえに,本年度中に日の目を見ることはなさそうです.乞うご期待…
    • 「ケインズ派の経済学は経済政策のガイドには使えない」
      • そんなことない,と主張する経済学者もいます.有名どころでは,ノーベル賞受賞者のPaul Krugmanのような歴史の残る天才もいます.このあたりは議論がねじれやすい微妙なところです.
      • いろいろな立場はありますが,いずれにせよ政策運営をする際に経済学者の40年以上にわたる知的営為をことごとく無視するのはナンセンスだと思います.
        • 巷間にはそうした不誠実な議論が満ちあふれています.注意してください.
    • 「経済学の歴史はあまり知らなかったのでおもしろかった」
      • ありがとうございます.これからも「合コンでは絶対使えないおもしろトーク」をできるよう修行します.

     私のある恩師の名言に「数学はビビったら負け」というのがあります.裏を返せば「数学はやったもん勝ち」だとも思います.最初から器用にこなせる人はいません.途中であれやこれや言い訳を見つけて退却していくのも結構ですが,落ち着いて挑めばなんてことないかもしれません.「やればできる」と自分に言い聞かせてトライし続けてほしいですし,私はみなさんは「やればできる」ポテンシャルを持っていると信じています.

    Friday, October 4, 2013

    国際経済学II, 第2回

    講義内容:
    • 一次関数の基本
      • 一次関数は思いの外強力である.
      • 現実をありのままに見るのではなく,大事な部分だけを大胆に抽象化して考えよう.抽象化した数学的な関係を,経済学ではモデルと呼ぶ.
      • モデルを作れば,新しく人口5000人の町ができたらどうなるか?といったシミュレーションすらも可能になる.こうした思考実験は現実経済を理解する上でとても役に立つ.
      • 今回は例題を解いてもらった.話を聞いたり文章を読んだりするだけでなく,手を動かしアウトプットすることは大切.「練習」なので,現時点でできなくてもまったく問題ない.
      • 経済学では記号を使った表現を多用する.記号を使ったほうが便利で理解しやすいからだ.慣れるまで辛抱してほしい.
    • 時系列データ
      • マクロ経済学はミクロ経済学以上に「時間」の概念がポイントになる.
      • まずはトレンドに注目しよう.
    • 国際 + 金融
      • 国境をまたぐ取引では,異なる通貨のやりとりが不可避 → 外国為替の知識が必要.
    • 国際マクロ経済学の主要なデータを概観:
      • 金融収支 (financial account) は従来「資本収支」と呼ばれていたものに相当する(厳密には一致しない).勉強するときには言葉に注意が必要.
      • 「金融収支 < 0」 = 「お金の流出 > お金の流入」 = 「外国に“貸し”を作っている」
      • 為替レートは通貨の交換比率.パチスロの「メダル1枚 = 20円」や麻雀の「1000点 = 100円」と似ている.

    次回:
    • レジュメ2の用意をお願いします.
    • 履修登録は慎重に.テストは激ムズと評判です。

    Thursday, October 3, 2013

    13年9月沖縄県主要指標

    前回のポスト: 13年8月沖縄県主要指標, 13年7月一般職業紹介状況

    やはり忙しいので手短に.もっとさくっとVARを回せる渋い大人になりたい.

    まずは鉱工業生産(7月分).年頭の水準(DECOMP季調値で1月=95.3, 7月=94.2)に戻ってきたが,少し下がりすぎな印象も.
    沖縄の鉱工業生産, 2005年=100. 薄灰色が原数値, 黒がDECOMPでの季節調整値, 青がトレンド, ピンクが日本全国のトレンド. 出典: 経済産業省「鉱工業指数」

    先月気にしていた石油製品工業は壊滅.大丈夫か?
    沖縄の石油製品工業(青線がトレンド, 2005年=100).出典:沖縄県「鉱工業指数」.


    次に消費者物価指数(8月分).All itemだとプラスのインフレ率に.
    那覇市のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
    沖縄県のCPI(灰色)とコアコアCPI(青)の前年同期比のトレンド(単位: %). 薄い色が原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
    内地よりは沖縄の方がわずかながらインフレぎみかなという印象.


     最後に労働市場を見る.2011年頃からの改善トレンドは変わらない.完全失業率(8月分)は前月より悪化しているが,労働参加率が上昇していることも見逃せない.

    沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

    沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
    • 非労働力人口が減って労働参加率が上昇している.
      • 労働力人口/15歳以上人口 = 59.6%. (男女計), は前年同期比で約1%上昇している.
      • 完全失業者には含まれないタイプの失業が減っていればいいね.
    • 15-34歳あたりの若年層の労働環境もじわじわ改善中.
    • そのうち13年前半の好況が反映されていくのでは.

    一般職業紹介状況のデータ(8月分)から.失業uは悪化しているが,vacancy rateの水準もまだまだ高いことがわかる.
    沖縄のBeveridge curve, 2009/01--2013/08. 出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況」, 沖縄県「労働力調査」
    有効求人倍率は復帰以降,89年に並ぶ最高水準,とのことなので時系列で見てみよう.
    沖縄の有効求人倍率. 灰色太線がDECOMPでの季節調整, 薄い灰色が原数値. 出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況」.
    • バブルじゃないといいね.
    • サービス・小売・宿泊などの部門で求人が増えている.短観でもこれらの産業はかなりポジティブであった.(今月の短観は全体的にポジティブだ)

    2011年頃から,非製造業部門を中心に沖縄の景気は拡大しているようだ.日銀の雇用人員判断DIでも,以下のように非製造業を中心に今年に入ってから人手不足感が目立ってきている.
    出典: 日本銀行那覇支店「県内企業短期経済観測調査結果(短観)」

    夫れこうした部門で労働生産性が急速に高まっているのだろうか?はたまた
      震災ショックが一段落 & LCC就航 → 観光客増加 → 観光関連産業で雇用増加,
    という経路だろうか?

     スカイマーク含むLCCのインパクトは重要かもしれない.ピーチやバニラの参入で観光サービスの輸出にかかる輸送費用が今よりさらに低下していけば,来年の消費税増税頃までは活況を呈することになるだろう.その傍ら,観光客のハートを掴めない低生産性小売店などは,input priceが上昇して憂き目を見るかも.

    Wednesday, October 2, 2013

    経済政策II, 第1回

    例によって,本blogでは講義内容のおさらい,補足,アナウンスなどを行う.RSSなどを活用して,適宜チェックしてほしい.とはいえblogまでチェックしないと単位が取れないということはないので,いちいち見ていなくても問題はない.講義ではしゃべり足りないところも多いので,ブログを書いてちょっとしたストレス解消をしている次第である.

    本講義に関するエントリーにはmacropolicylectureというタグをつけておく.必要に応じて活用していただければ幸いである.

    講義内容:
    •  講義概要
      • ディープな勉強をする機会を提供する
        • 単位がほしいだけなら履修取消をお勧めする
        • 時間をかけて取り組む価値あるレジュメを提供する
      • 救済措置なし 
        • 「卒業がかかってるんですー」などと来ても取り合わない.
        • 疾病や傷害など,特別な事情があれば遠慮なく申し出てほしい.
      • オフィスアワーは金曜1限
        • 気軽に利用してほしい.
        • ただし,私に限らず大学教員は見た目ほどヒマではないので,配慮するように.
      • 勉強の仕方
        • まずはレジュメを熟読することから.自分の言葉で説明できるよう咀嚼すること.
      • レジュメの準備
        • 3回目以降のレジュメは各自プリントアウトなりなんなりして用意するように.私が印刷するのは本日配布した分のみ.
        • パスワードを聞き逃した人は私か誰かに聞くように.パスワードはネット上(LINE含む)で公にしないように.
    • マクロ経済政策を学ぶとは
      • なかなか役に立たない.けど面白いよ!
      • 経済を俯瞰するような視点を持とう.身近な問題ばかりではないからこそ,学習する中で新鮮な発見があるかもしれない.
      • カルトじゃないので,様々な意見がありえる.それらがオープンかつ理性的に議論していること自体が大事.
      • 「有識者」や「エコノミスト」や「経済学者」に踊らされるな! 知的な誠実さを忘れるな! 
    • 「三本の矢」
      • 歴史に残る壮大な実験が進行中.
      • オーソドックスなマクロ政策を理解するのが先決.私の持論などは語らない(専門じゃないし).
    • 財政赤字
      • "シャットダウン"のような茶番劇真っ最中の国もある.お金がないと政府は動けない.
      • 政府の借金は我々個人の借金とは性質が異なる.ある程度丁寧に勉強する必要がある.
      • 財政赤字がヤバくなって機能不全に陥った国では,若者を中心に仕事がなくなったり重税にあえいだりするかもしれない.
    • 成長戦略
      • 新たなアイディアを生み出していく力が大事.それを支える経済制度 (institutions) も大事.
      • 政策として何ができるか,経済成長のメカニズムを理解した上で考えていこう. 

    次週:
    • レジュメ2も用意してください.
      • 数学のおさらい
      • SNAの理解

     参考文献補足:
    • マクロの(分厚い)教科書をじっくり時間をかけて読むとよい.

    Sunday, September 29, 2013

    A Snapshot of Big Mac

    購買力平価に基づく為替レートの図を作成した(講義資料の没ネタである).
    名目円ドルレートの推移. PPPレートはCPI総合(日本は2010年基準, USは1982-84基準)を利用して,2004年1月を基準に. 出典: 総務省, BLS, The Economist.
     BigMacレートは13年7月時点で1ドル=70.2円と高い.(日本のビッグマックが安すぎるのか?安すぎるとすればなぜか?ちなみに円ウォンレートだと乖離はもっと小さい)

     ビッグマックの代わりにKindle Fire HD 8.9 (16GB)を使い"Kindle指数"を計算すると,1ドル=87.3円となる(日本で24800円, USで284ドル).これは多くの日本企業の想定レートと同様,上図のCPIベース購買力平価に近い水準だ.(ただし私も普段使っている32GB版だと1ドル=94.9円となる. 価格弾力性の違い?)

     一方,"iPad with Retina display指数"の場合,1ドル=99.8円と,現在の円相場(1ドル=98.2円)とかなり近い値となっている.(ただしiPadの価格は49800円, 499ドルとそれぞれfocalnessがありそうな数値なので,PPPを計算する財としてはKindle以上に相応しくないかもしれない.)

     上の図からは,現在の円がundervaluedかどうかは何も言えない.しかし何かをきっかけに通貨安に転機が来たらいろいろと大変そうである.

    (注: 投資は自己責任で)


     最近所得収支の動向が気になっている.何か思考の土台となる良いモデルはないだろうか.Momota-Futagami?

    Friday, September 27, 2013

    国際経済学II, 第1回

    私事になるが,私はこの夏休みからそれなりのコストをかけて英会話教室に通っている.アラサーにもなると,勉強するにはお金もかかるし時間的な機会費用も高い,脳みその吸収能力は絶望的,と自分の能力を磨く余裕はほとんど消滅する.学生は極めて低い限界費用で学ぶことができるのでうらやましい限りだ.

     国際経済学IIに関するblog記事には,openmacroというラベルを貼っておく.必要に応じて利用してほしい.

    本日の内容:
    • 講義概要
      • ディープな勉強をする機会を提供する
        • 単位がほしいだけなら履修取消をお勧めする
        • 時間をかけて取り組む価値あるレジュメを提供する
      • 救済措置なし 
        • 「卒業がかかってるんですー」などと来ても取り合わない.
        • 疾病や傷害など,特別な事情があれば遠慮なく申し出てほしい.
      • オフィスアワーは金曜1限
        • 気軽に利用してほしい.
        • ただし,私に限らず大学教員は見た目ほどヒマではないので,配慮するように.
      • 勉強の仕方
        • まずはレジュメを熟読することから.自分の言葉で説明できるよう咀嚼すること.
      • レジュメの準備
        • 3回目以降のレジュメは各自プリントアウトなりなんなりして用意するように.私が印刷するのは本日配布した分のみ.
        • パスワードを聞き逃した人は私か誰かに聞くように.パスワードはネット上(LINE含む)で公にしないように.
    • 国際マクロを学ぶとは
      • ゲームのルールを学ぶことからスタート.すぐに勝てるようになるわけではないので過度な期待は禁物.
      • ルールを違反しまくる「知識人」は多い.ルールを知らないと無闇に騙され翻弄されるかも.
        • 「勉強不足でも成功している人がいる」 と「勉強しないほうが成功する」には大きな違いがあるので注意.
    • 数学
      • 講義中にかけ算・わり算・グラフの読み書きを懇切丁寧に教えるほどの時間はない.ので各自フォローアップするか,恥ずかしがらずに誰かに教わること.
      • グラフをうまく使えば,大量の情報を直感的に処理することができるようになる.

    次回:
    • 一次関数をおさらい
    • グラフを使って,国際金融論の世界を眺める

    参考文献補足:
    • 同志社大学の田中靖人先生がご自身のウェブで国際経済学のテキストを公開されている.お金をかけなくても勉強するためのリソースはたくさん手に入れることができる.
    • 英語でよければ,Stephanie Schmitt-Grohe and Martin Uribe (2013) ``International Macroeconomics"が無料で公開されている中でお勧め.
    • 為替取引に興味があれば,まずはUBS銀行東京支店外国為替部 (2004) 『プロ投資家のための外国為替取引』日経BP社,あたりをさらりと読むとよいだろう(バカっぽい記述も多いがご愛敬).ただしギャンブル気分で為替に手を出すのはあまりお勧めしない.

    Friday, September 20, 2013

    13年9月家計調査

    先月の記事: 13年8月家計調査

    忙しいので簡単に.今日発表の7月分あたりからの諸指標には結構注目しているが,沖縄の景気循環は内地からけっこうなラグもあり解釈が難しい.

    消費支出は前年同期比ではそこそこ悪化(名目は-6.5%).
    名目消費支出(対数). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
    名目消費支出のy-o-y成長率 (単位: %). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.

    可処分所得は下げ止まりつつある.前年同期比では-10.0%とまだまだdisappointingであるが,前年がたまたまよかった風でもある.
    毎勤の実質賃金指数では,6月頃は下り坂にさしかかっているところだが.7月分はもう少し伸びるかもしれない.
    二人以上の世帯のうち勤労者世帯の名目可処分所得. 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.
    名目可処分所得のy-o-y成長率 (単位: %). 青線: HP-filterのトレンド, 黒太線: DECOMPでの季節調整値, 灰色: 原系列. 出典: 沖縄県「家計調査」.