Showing posts with label book. Show all posts
Showing posts with label book. Show all posts

Monday, January 16, 2023

安里・志賀『なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか?』

スキマ時間にちらっとめくったのでメモ.といっても,正直読むに耐えないのでちゃんと読んでません.

安里長従, 志賀信夫 (2022) 『なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか?: 本土優先、沖縄劣後の構造』

  • (構造的)差別の定義が変?
    • 差別とはAだ,そしてAの原因は差別だ,と結論を定義しているに近い議論に見えた (ちゃんと読めば違うかも).
    • 差別とはあってはならないこととのことだが,その「あってはならない」かどうかを誰がどういった基準で判断するのかが不明.
      • 差別に限らず,他の要因が潜在的にあってもその可能性を潰すことなく自説を都合よく当てはめるようなところが目立ち,読者は置いてけぼり.
    • 人に対する差別と地域に対する差別は分けて議論したほうがよかったのではないか.
  • 知的誠実性に疑問.
    • 学者らしき人に,あなたの言うことは間違っているとやんわり指摘されたっぽい下りがあるが,それを真摯に受け止め検討した形跡がどこにもない.
    • 他にも強い違和感のある記述があったがどれだったか忘れてしまった.
  • 経済学的な議論では,根拠が薄弱?
    • (マル経しか知らなさそうな) 素人相手に目くじらを立てるのもなんだけど,経済学っぽいトピックの箇所はほとんどの場合根拠が書かれていない・論証不足・関連するliteratureの無知,と感じた.
      • 県民のwelfareが目的になっていないのが悪い,というものの,そんなのどこの地方自治体だってそんなもんであろうし,仮にbenevolentであっても筆者の望む帰結・政策につながる必然性はないのでは…など.
      • 経済学を箔付けのためには使わないでほしい (アマルティア・センと言ってみたかっただけじゃないか? など).
    • 素人という点では,全体的に文章構成が稚拙で話が見えないので読むのが苦痛.

樋口にムカついているというのは伝わってくる (それはわかる) が,説得力という面では五十歩百歩ではないかと思った.

Friday, November 25, 2022

沖縄経済史本の改訂版が出ます

『沖縄経済と業界発展』が売れ行き好調につき,第2版が若干の改訂を加えて出版されることになりました.ありがとうございます.

過去のブログ記事: 『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

ISBNが新しくなり,

978-4-906-68919-4

となっています.


私の担当箇所の差分は以下のようにマイナーなものです:

  • 初版で書いた部分は一切変更していません.
    • 加筆修正したい気持ちはありますが,それは別の機会にしたいと思います.
  • 2版では,初版では抜けていた,復帰後の議論を追記しています (60--62ページ).
    • これといって学術的新規性のある内容ではありません.
私の担当箇所以外でも,ところどころ追記やデータの更新が行われています.
もし初版を持っていないのであれば,改訂版をお買い求めいただければと思います.
12月には県内書店に,もう少し経つととAmazon.co.jpなどでも購入できるようになろうかと思います (電子では出ないと思われます).



Friday, March 19, 2021

『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

 沖縄の経済・経営史をまとめた本の1章を担当しました.どうぞご笑覧ください.

1950倶楽部編, 大城肇・與那原建・山内昌斗・大城淳 (2021) 『沖縄経済と業界発展ー歴史と展望ー』光文堂コミュニケーションズ

さっそく新聞でも紹介いただきました.

沖縄タイムス「県経済の歴史 「一冊」に凝縮 1950倶楽部 20日から発売」 2021年3月16日

琉球新報「沖縄の新社会人と就活生に必携の1冊 「1950倶楽部」が新刊を発行」2021年3月18日

 

概要

経済学者2名と経営学者2名が沖縄の過去を振り返る内容です.沖縄の企業がどこから生まれてどこへ行くのか,歴史的な展望を描きます.高校生や大学生向けの,非テクニカルな文章です.新聞2紙による歴史コラムも各所にあります.

この本は1950年創業の企業が集まった「1950倶楽部」の70周年記念として企画されました.ちなみに書籍の売上は全額寄付されるようで,私に印税は入りません.

 

執筆の経緯

弊学で担当している講義「沖縄経済論」の内容をどこかにアウトプットしておきたいと思っていたところに,執筆のお誘いをいただきました.

私は歴史能力検定1級日本史を持っている程度には歴史好きなのですが (高校生の頃は経済史の研究者になるつもりでした),経済史の研究者としてトレーニングしてきたわけではなく,アマチュアです.それでも,講義を通じていろいろ調べて考えたことは,英文査読誌でなくとも何らかの形にしておいたほうがよいだろうということで,恥を忍んで執筆することにしました.

当初は本の後ろの方にこっそり1章おまけで載せるようなつもりで引き受けましたが,いつの間にか第1章になってしまいました.


私の担当箇所

私は,個々の企業の歴史には触れず,よりマクロ的な視点から沖縄経済の歩みをたどっています. (本書自体は,個々の企業史をまとめた第2章が一番のウリです.)

淡々と歴史的事実を並べるというより,現代の経済学者 (の駆け出し) がどういった視点でものを見ているのかを伝えるような文章にしています.たとえば,逆因果や欠落変数バイアスをネチネチと潰していくところや,比較対象に目配りすること,インセンティブや人的資本に注目して説明しようとするところなどです.

当初は講義ノートと論文の間ぐらいの堅い,大部な原稿でしたが,編集を経てアカデミックな作法や厳密さを控えめにし,一般向けに寄せていきました.参考文献や脚註や専門用語をがっつり削ってあるため,読者によっては歯がゆいかもしれません.他方,余談もほぼすべて削ったので,本を読み慣れていない人にはまだ堅苦しいかもしれません.

経済学の理論を解説して沖縄での事例を紹介する,といった大学の講義っぽい構成 (たとえば横山『日本史で学ぶ経済学』みたいな) にしたかったのですが,時間と私の能力の都合で,だらだらとした編年体風の構成になってしまいました.次回作で構成を改善したいと思いますが30年後ぐらいになるかもしれません.

執筆していたのは去年の春頃で,感染症のせいで図書館も古書店もなかなか利用できず,いろいろ不自由しました.目を通したいものが増えるばかりで,積むことすらできていない積ん読が進みました.

 

私の章の内容

(1) 戦後のRGDPを見ると成長率のパスは驚くほど本土と似ている.この観察から,今貧しい最大の理由は,初期値の違い,ラフに言い換えれば歴史の違い,と言える.

(2) 琉球王国の中継貿易の様子を記述する.当時の貿易は沖縄県民を広く潤し育てるようなinclusiveなものではなかったのではという問題提起をする.

(3) 薩摩侵入後は,財政赤字に苦しむ,マルサスの罠に陥る,と散々である.士族 (血縁重視) と農民 (地縁重視) で,日本風なものと中国風なものとが混在するようになる.

(4) 明治維新後は,旧慣温存により日本式の近代化が遅れる.旧慣の善し悪しは論争があり,初期値の違いの一因と考えられるが,他方で平和的に制度移行をするための必要経費という側面もあったと考えられる.

(5) 戦後はアメリカの傘下で,基地依存輸入経済として復興を果たす.B円や米ドルを使った固定相場制を経験する.アメリカはシーツ善政のように,日中よりも沖縄を発展させる努力を払ったように見える部分もある.しかし復帰後・冷戦終結後も米軍基地の多くは残ったままで,政治的な軋轢を生んでいる.

なお,元ネタになった講義の資料は公開しています.

 

 既存の沖縄の歴史研究は他の日本経済史と似て,マルクス主義ならではの議論・問題意識が多く見られます.植民地は黒字か赤字か (西里・安良城論争) なんてボルシェヴィキかよ…みたいな.マル経だからだめだというわけではありませんが,私のような近代経済学の人が歴史を整理し直すのも新鮮で有用かと思います.

個人的には(1)がもっとも重要な指摘だと思っていて,initial valueをコントロールするのとしないのとで大きく違う,fixed effectの中身はそう簡単にわからない (外生的な変動に注目する必要),といった統計的事実を理解しないと,やすやすと偏見と短慮にまみれた感想文レベルの俺様沖縄経済論に陥ってしまうだろうと思います.沖縄の貧困は○の問題…みたいな血液型占いレベルの俗論が流行るぐらいですし.

ページ数と私の能力の都合で近現代が手薄になっていますが,そこは今後の課題にしたいと思います.とくに,米軍基地については私の定見のなさ・ノンポリさが目立つ気がします.すみません (私の文章を早合点した人に,基地賛成だの反対だの,政治的ななにかに利用されることは本意ではありません).その他論じたりない部分も多く残っていますがご容赦ください.

 

参考文献

岩波新書ほどではないですが,参考文献はかなり削りました.すべてではないですが,削ったもののうち影響されたものをここに載せておきます.

  • Galor, Oded, Omer Moav, and Dietrich Vollrath (2009) Inequality in landownership, the emergence of human-capital promoting institutions, and the great divergence. The Review of Economic Studies 76: 812 143̶179. 
    • 農民をエリートが搾取しているような社会では,エリートには人的資本を広く普及させるインセンティブが乏しい.これはわりと沖縄が明治維新後に工業化に遅れた理由としてしっくりくる説明な気がする.
  • 小野塚 知二 (2018) 『経済史 -- いまを知り,未来を生きるために』有斐閣
    • 評判がいいのでよく知らずに買ってみたらマル経でびっくりした.勉強不足で近経しか知らないので,マル経ベースの先行研究を読んでいく上で役立った.
  • 来間泰男 (2014) 『琉球王国の成⽴ 下: ⽇本の中世後期と琉球中世前期』⽇本経済評論社
    • 琉球王国は国というより商社,という発見はこの本で得た.
  • 高良倉吉ほか (2017) 『沖縄問題: リアリズムの視点から』中央公論新社
    • 本書執筆中に参照することはほぼなかったが,変な本が多い沖縄経済論壇では数少ないまともっぽい本 (ポジショントークは割り引く必要があるが).
    • 高良本は,「辺境性」がハンディ (自立経済構築の阻害要因) になっている,という地理ビューを持っている.
    • 私の場合,沖縄の地理的優位性についても言及してとリクエストがあり,最後に(ようやく自分の専門分野の)地理の話を付け加えた.私の考え方は,(1) Acemoglu-Robinsonみたいに,地理そのものは交絡がありすぎて経済成長への影響はわかりにくく,また一番大事な要因とは考えにくい,(2) 集積によるイノベーション促進は経済成長のエンジンになるはず(Kuznets, Bairochほかあまたの都市経済学) (だがFay-Opalなど成長なき都市化もあるかもしれない),(3) 重力モデルみたいに,貿易フローや賃金にも直接間接に影響する (文中では,Redding-Venablesを想定した説明をしている),といったものである.「地理的優位性」は市場ポテンシャルみたいに定量化できるとは思っているけど(実際計算したことはないものの),「辺境性」という固定効果でのお気持ち表明を試みているわけではない.
  •  武田晴人 (2019) 『日本経済史』有斐閣
    • 秩禄処分のくだりは,沖縄の旧士族層の解体周りの記述に役立った.
  • 真栄平房昭 (2003) 「琉球貿易の構造と流通ネットワーク」 豊⾒⼭和⾏ (編) (2003) 『⽇本の時代史18: 琉球・沖縄市の世界』吉川弘⽂館
    • 国際貿易にはエージェンシー問題がある,とアブナー・グライフやらの議論が先取りされていた.
  • 與那覇潤 (2011) 『中国化する⽇本: ⽇中「⽂明の衝突」⼀千年史』⽂藝春秋
    • 執筆当初は,この本のような中国化・日本化の視点で沖縄経済史を整理し直そうと考えていた.があまり真似しようとしても真似できず,中途半端なオマージュになってしまった.歴史系の先行研究は緻密な実証が主で,本書のような大きな話はなかなか語られてこず,適切な参考文献がなかった.
    • 私と同じような本を読んでいても,私よりずっと本質を読み取っていて,読解力の差を思い知らされる本.
  • 有間しのぶ 『その女、ジルバ』小学館
    • 校了後に読んだマンガ.執筆前に読めばよかったと思った.
    • 沖縄移民史については学術論文をいくつか読んだことがあったけど,移民についての知識と想像力がまだ足りておらず,しょーもない記述になってしまったのではと思わされた.
    • 以下ネタバレあり.このマンガは移民以外の部分も,学術的なバックグラウンドがあるようで (おそらく社会学) おもしろかった.主人公の同僚3人の描かれ方は印象的だ.3人とも会社・家族・近隣コミュニティといった中間集団からこぼれ落ちた存在であったが,1人は円満に結婚を決め (→家族),1人は地元に帰り (→近隣),伝統的なコミュニティに再び埋め込まれることになる.一方で残された主人公は(フォーマルな)会社とは決別し,非定型的な居場所と使命を見いだすことになる.社会学でいう後期近代?高齢化・未婚化・晩婚化が進む現代日本らしいテーマ.

 

謝辞

編集の意向で謝辞も本文から削りましたが,本章を執筆するにあたり,金城敬太氏に多くのコメント・示唆いただきました.ここに謝意を表します.講義でコメントや質問をいただいた学生たちにも感謝します.また,執筆の機会をいただき,上間優氏ら1950倶楽部のみなさまには深く感謝いたします.

もとより,私の文章は個人的見解であって,1950倶楽部各社とは無関係です.

Saturday, April 13, 2019

富川『アジアのダイナミズムと沖縄の発展: 新次元のビジネス展開』

読んでいてイライラした,という読書メモ.
  • 富川盛武  (2018) 『アジアのダイナミズムと沖縄の発展―新次元のビジネス展開』琉球新報社. [ Amazon ]
現役副知事が,県の立場から離れて研究者の視点から書いた,という沖縄経済本.研究者を名乗るなら相応の勉強をしてくれ,いっそのこと県政のプロパガンダだと開き直ってくれ・・と思った.

3D棒グラフにイライラしながらページをめくっていたが,次の記述でストレスがピークに達し,このブログを更新せざるを得なかった.
しかし,経済学は合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提しており,文化の異質性の概念が欠落し,同質性(ホモ)を前提に組み立てられている.唯一の物差しは貨幣タームである.人間の行動は,単に経済的要素のみによるのではなく,伝統,文化,宗教,風土という「エトス」によって決定される.それにもかかわらず,経済的合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提に展開したところに,これまでの経済分析の問題があった.人間,文化,風土の視点から見ると,沖縄が発展する可能性は大なるものがあると思われる. (p.37)
学部生でもわかる初歩的な誤解をばらまくのは勘弁していただきたい.
  • homo economicusのhomoは,「同質性」(ギリシャ語のhomos) でなく,「人間 」(ラテン語のhomō) の意ではなかったか(?).現代経済学は同質性を前提にして組み立てられてはいない.同質性を仮定するどころか,観察できない異質性があることを前提に分析するのは珍しくない時代である.
  • 「合理性」にはいくつかの解釈があるが,「経済人は合理性のみによって行動する」ものではないし,「エトス」は合理性と矛盾するものではなくそれを加味した分析は少なくない.
  • 「唯一の物差しは貨幣ターム」ではない.貨幣や余剰で考えてよい状況を支える仮定と,合理性や文化の異質性を捨象することは関係ない.オーソドックスなモデルは任意の財を価値基準財に設定することができるどころか貨幣が存在しない.

ここだけではなく本書全体に渡って,専門用語を適当に散りばめ(その用法は間違っているか不明瞭である),論理の飛躍だらけでほとんど何も言っていない文章で,素人をなんとなくわかった気にさせている.詐欺師の手口と大差ないと思う.

おかしなところはたくさんあるが,もうひとつ異常すぎて笑った箇所を指摘しておきたい.
・・・マクロ的な技術進歩を示す生産変動要因分析(産業連関分析)を用いて分析したい.・・・1975--2000年の比較をしてみよう.・・・技術進歩による生産増加は,全体でマイナス1兆8791億7700万円(1975年価格)となっており,技術進歩が見られない. (p.238)

根本的に分析が間違っているような..R-JIPではたしかに沖縄のTFP成長の寄与は他地域より極端に少ないようだが少なくともマイナスではない.現在NGDPは4兆円程度であるのにそのマグニチュードは...2005--2011年で見ても「技術進歩」による効果はマイナス521億円らしい(p.16).

「若いときから沖縄の振興に関する国,県等の委員会等に参加してきた」筆者には,次の振興計画を考える前に,破滅的な「技術進歩」を食い止められなかった責任を取られてはと思うのだがどうだろう.


Tuesday, April 2, 2019

伊神『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』ほか

もう少し読書メモ.
  • 伊神満 (2018) 『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』日経BP社. [ Amazon ]
2018年のベスト経済書らしく,とてもおもしろい.ジャーゴンを徹底的に噛みくだいて説明,ユーモアにあふれて例も豊富,入門書としてこれ以上の本はなかなかないと思う.

さすがは五大誌で,問いの設定が単に面白いだけでなく,分析の細部まで丹念に検討されている.原論文読んでない(弊学ではJPEの最新分は購読していない…)のでディテールはわからないが,Cournotを仮定(仮定を正当化しやすいカテゴリに注目)し,需要関数を推定できるIVを持ってきて(exclusion restrictionってそういう解釈でいいの?),FOCから限界費用を楽々バックアウトし(新製品の限界費用かなり低いけど現実的?),扱いやすくフィットもよいモデルができた,計算コストが大きい推定も突破できた,そして経営学的なストーリーを経済学的な方法論で批判的に検証できた,あたりが売りなのだと思う.

 クリステンセン(私は未読)のもやもやとしたストーリーのもやもやとした部分をたびたび批判しているが,時間不整合性を許容した(双極割引など)動学モデルを推定して,その効果よりカニバリゼーションがでかいことを示したようには見えなかったが….それほど差別化されておらずカニバリゼーションを内部化する効果が大きい新製品をリリースしているからには,状態を遷移するコストkappa (定数?) が低いはず,という話だが,kappaは時間不整合性のコストを測っているのだろうか? (時間不整合性を許容したモデルの挙動をそうでないモデルのkappaで表すことができるのだろうか?) (あとkappaは流動性制約と不確実性・不可逆性からくる,既存企業ほど様子見をする便益が高いというオプション価格分や,イノベーションのエフォートコストもひっくるめて捉えているように読める.)
kappaは市場構造にも大きく依存していると思われるので,定性的な議論を定量的に論駁したといってもHDD以外の世界については未解決(だしそれは論文の射程外)にとどまっているかなと.たとえば,昔の研究手法でがんばり続ける老教授(偉いと思う)は,自分の過去の論文を否定することになるから,というより新しい分析技術に能力的にキャッチアップできない(kappaが加齢とともに上昇)から,だと思われる.

  • 根井雅弘 (2009) 『経済学はこう考える』筑摩書房.  [ Amazon ]
  • 根井雅弘 (2011) 『20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ』筑摩書房. [ Amazon ]
ALLミクロことAcemoglu-Laibson-Listを読みながら講義資料を作っていて,経済思想史の話がほとんどない(スミスとハイエクがちょっと出てくるぐらい.もちろんパレートやピグーの名前はあるけど)ことが気になっている.
ALLミクロでは経済学的な問いとして「大学を出るのはペイするのか?」と大卒プレミアムの推定を挙げており,たしかにそれも大事な話で私も別の授業で毎年話をするのだが,経済学ってお金儲けの世知辛い話ばかりしている…と早合点されてしまいそうでなんだかなぁという感じである.

そんなわけで,入門講義ではスミスやマルクスやケインズやハイエクみたいなところも紹介するだけしようと思っている.そこで,変なことを教えないように,経済思想史のハンディな新書2冊をぱらぱら見た.2冊は連作で,『経済学はこう考える』はケインズとそれにつらなる人々を中心にし,『20世紀をつくった経済学』はシュムペーター・ハイエク・ケインズの3人に絞ったものである.いずれも,いかに自分がケインズなどの偉人を単純化し定形化し誤解していたかがわかって恥ずかしい限りである.

この2冊はジュニア向けということで,本当にハンディで,短時間でさらっと読めるところがよい.これが猪木『経済思想』や間宮『市場社会の思想史』だととてもいい本ではあるがうちの学生にはお勧めしにくい.

『20世紀をつくった経済学』のほうでは,シュムペーターが哲学者アンリ・ベルクソンからイノベーションの着想を得ていることが指摘されている.『経済学はこう考える』のほうでは,ケインズやマーシャルが狭い意味での経済理論ばかりでなく,歴史学や社会学などに深い教養を持ち,スケールの大きい思索をしていたことが指摘されている.精緻な数理モデリングや丹念なデータ分析はもちろん大事なのだが,それだけではいかんのだ.ALLやその他最近の入門書(神取除く)みたいに,経済学の歴史的な背景や哲学や問いをすっ飛ばしてしまうのもどうなのかなと思う.



以下は単なる思い出話.ちなみに,私自身が経済学に入門した頃に読んだ初めの一冊は(単なる歴史オタクだった高校生の頃眺めたワルラスや野呂栄太郎を除くと),
  • 酒井泰弘 (1995) 『はじめての経済学』有斐閣. [ Amazon ]
である.親父ギャグ満載でそれこそ親父世代の本で,読んだ当初はお子様扱いするんじゃねーという気持ちもあったが,ここで学んだものがミクロを理解する基盤になっているのは今でも感じるし,教える立場になって再読するととてもよい「入門の入門書」だと思った.経済学史上の偉人もたびたび紹介されている.「マルクスが死んだ年に,ケインズとシュンペーターと高田保馬が生まれた」みたいなコラムがあるぐらいだ.

あと大学に入った当初は,あまり知られていないタイトルだが
  • Susan J. Grant (2000) Stanlake's Introductory Economics. Longman. [ Amazon ]
を読んだ.こちらは無駄に分厚く読むのはしんどかったが,経済学者の偉人がたびたび紹介されている他,簡潔でいて悪くない練習問題が豊富だったりする.

 大学1年生の頃は講義の教科書以外に,学部向けVarianを読んでいた(マクロだとSamuelson-NordhausBaumol-Blinder (最近の版はSolowも加わっているらしい)).
Varianは,和訳でちゃんと伝わるかわからないが,文章の切れ味がすさまじい.ALLミクロは,対象読者が違うので比較するのはフェアでないが,Varianに比べるとかなり「だらしない」印象を受ける.
Varianには思想や哲学の話はまったく出てこないし,「エビデンス」もあまり出てこない(顕示選好はしっかりあるけど).18歳の頃はVarianが何を言っているのかよくわからないままページをめくっていたものの,中途半端なやさしい入門書ばかり読んでいたら博士課程まで行ってなかったと思う.
若いうちに,Varianぐらいガチなものと,酒井のような柔らかいものと,両方通っておいてよかったなと.

Saturday, March 23, 2019

安里『未来経済都市 沖縄』ほか

カリキュラムに振り回されて,次年度は授業準備でひどく忙しくなる予定.

忘れないうちに最近の読書記録を残しておく.
  • Richard Baldwin (2019)  "The Globotics Upheaval: Globalisation, Robotics and the Future of Work" Weidenfeld & Nicolson [ Amazon ]
 技術変化+グローバル化 ("globotics"と呼んでいる) というよくある話の一般人向け読み物.今起こっていることは変化のスピードが急速で,また不公平なものであり,社会を揺るがしている.この新たな産業構造変化を,フェアでequitableでinclusiveなものにしなければならない.AIに簡単に代替されない仕事は対人コミュニケーションが必要なものなのであろうから,フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取りやすい都市こそがいっそう経済の中心となる..というよくある話をつらつらと.
前著The Great Divergenceとスケール感は似ているが,前著に比べて理論・実証とも薄まった印象.

  • 安里昌利 (2018) 『未来経済都市 沖縄』日本経済新聞出版社. [Amazon]
県内のビジネスマンなら誰でも知ってる沖銀元会長が書いたコラム集.県内のビジネスマンなら誰でもどこかで小耳に挟んだことがあるような話をまとめたミニコラム集.こうした生きた話は象牙の塔の住人には書けない.沖縄に新たに転勤してきた県外人が読むとちょうどよいのではないだろうか.

ただ,個人的には話が薄すぎてそれほどおもしろいものではなかった.「おわりに」で筆者自身のキャリアが語られているが,沖縄経済時事の話よりもこちらのほうがよっぽどおもしろい.

おもしろくないのは,議論が浅く緩いためである.たとえば,シンガポールは資源のない小国だが「戦略的に国家運営を行ってきたことが背景に」あり,「「地の利」を活かして」「ヨーロッパへのゲートウェイ」となることができたため豊かである,そして沖縄は「同じように,さまざまな試作を実施することで,世界中の企業を誘致することができ」,「人口の流入によって国際都市を目指すことができ」,「シンガポール以上に大きな反映の可能性を秘めている」,とのことである.

シンガポールでうまくいった(ように見える)政策は本書で示唆されるように沖縄にも適用できるのだろうか.あまりリアリティを感じない.たまたまカンファレンスでシンガポールに行く途上の機内でゆるふわな文章を読んだのでとてもモヤモヤしてしまった.
  • 岩崎育夫 (2013) 『物語 シンガポールの歴史: エリート開発主義国家の200年』中央公論新社 . [Amazon]
ちなみにシンガポールの歴史についてはこの新書が読みやすくとてもおすすめ.中公新書の「物語○○の歴史」シリーズはだいたいハズレ無しだがその中でも出色の出来だと思う.

この手の本を一冊読んでおくだけど,シンガポールを真似して我々も発展しよう,などという素朴な思いつきを書籍として堂々と公刊するようなことにならなくて済むと思うのだが.

あと安里(やその他県内でよく耳目にする言説)では,LCCの使うリージョナル・ジェットは4000km圏内での飛行が主である中で,那覇空港から4000km圏内のマーケット・サイズが大きい(かつ日本国内である)ことを強調している.
たしかに現状はそうなのだろうが中長期的にはどうなのだろうか.将来的に4000km以上飛べる廉価な機体が普及すれば航空業界のゲーム・チェンジャーになるだろうし開発・導入するインセンティブはあるだろう.現時点でもAirAsiaは4000km以上飛べる機材を運行している.
また,同じ同心円を描くなら沖縄よりも台湾や香港の方がカバレッジが広い(たとえばジャカルタは那覇からは届かないが台北からは届く)上,英語・中国語が使え言語の壁も低い.
そもそも,市場アクセスという観点からは東南アジア以上に大陸中国のほうが今も近い将来も重要なのだから,中国をスルーした議論はあまり意味がないと思う.本土からは,沿岸部はもとより内陸部までLCCはすでに就航している.中国向け輸送において沖縄に格別な優位性があるとは考えにくいのだが.
輸送上のアドバンテージは素朴に地図上で同心円を眺めるだけではよくわからず,実際のバリュー・チェーンに合わせて考える必要がある気がする.
ハブはたくさん必要ないからハブなのであって,香港上海台湾をしのぐ立ち位置でなければハブとしての成功は限定的なものにとどまるのではないだろうか.

  • 佐々木彈 (2017) 『統計は暴走する』中央公論新社 [Amazon]
統計リテラシーを磨く本.とても刺激的で面白い.第一線で活躍する研究者が実証のペーパーをセミナーで見聞きするときに,どういった観点から攻めているのか垣間見ることができる.

  • Daron Acemoglu, David Laibson, and John A. List (2016) "Economics"  東洋経済新報社  [Amazon]
「ALL」こと一流経済学者たちの新しい入門テキスト.ミクロの入門講義を新たに担当する予定なので入手.早く和訳してくれないと教科書には指定できない…

経済学の三大原理「optimization / equilibrium / empiricism」から始まる.従来のテキストに比べてempiricismに重きが置かれ,新しい実証研究が多数紹介されている.授業の元ネタによさそう.
しかし,私が教えるクラスでは,最適化もデータ分析も消化不良に終わりそうな気がしている.ラグランジュ乗数法でごりごり解かせるわけではないので,数学的なハードルはそこまで高くないかもしれないが.
あと,若干寄り道が多いので実際の授業では内容をかなり取捨選択する必要がありそう.

empiricismの例で,付け値地代の推定が紹介されていて,単一中心都市モデルおじさんとしてはspark joyしたけど,授業の素材としてはかなり使いにくいものであった…

  • 本橋 智光 (2018) 『前処理大全: データ分析のためのSQL/R/Python実践テクニック』技術評論社  [Amazon]
前処理をいいコードと悪いコードを対比しながらつまびらかにしてくれる,ありがたい本.おかげでデータ・ラングリング能力が目に見えて向上した.後半には空間情報の扱い方も少しだけ載っている.例題はビジネス実務向けだが,研究者にも有用だ.SQL,R,Pythonのうちどれか1つ知っていれば読めるはず.


  • John Yinger (2018) Lecture Notes in Urban Economics and Urban Policy. World Scientific Publishing Co. [ Amazon
大学院向け都市経済学の講義ノート.箇条書きのスライドをそのまま本にした感じ.AMMなど伝統的な都市経済モデルベースで,代表的なトピックの理論と実証がまとめられている.本人のウェブサイトにアップされている講義資料を見たほうがいいような…

  • きはしまさひろ (2016) 『イラスト図解式 この一冊で全部わかるサーバーの基本』SBクリエイティブ. [ Amazon ]
サーバーについてお勉強.この本は見開きの半分はイラストになっていて,横文字が苦手なド素人にはとてもありがたい.イラストといっても,マンガでわかるなんとかみたいなオタクっぽいのじゃなく,無駄な情報がないのがよい.
わかりやすいといっても,馴染みのない横文字のオンパレードなのでサクサク読めるわけではない.普段から使っているサービスと対応付けながら少しずつ理解を重ねていく必要がある.

  • John D. Kelleher, Brendan Tierney (2018) "Data Science" MIT Press.
竹村先生の岩波新書赤と合わせて,この手の入門講義をするときには役立ちそう.勉強不足なビジネスマン向けの煽り本ではないところがよい.テクニカルな話はほとんどなく(NNを説明するためにちょっと一次方程式が出てくるぐらい),フィールドの空気感やエッセンスをほどよく広く浅くカバーしている.
(機械学習勉強するならこういう入門書はすっ飛ばして,Hastie, Tibshirani and Friedman (無理ならJames他)に目を通してから,DNNや強化学習を追加で学ぶのが早いと思われる.)
  • 西水美恵子 (2009) 『国をつくるという仕事』英治出版
開発の啓蒙書って意外に選びにくいのだが,これはかなりよい.学生に読んでほしい.

  • 小林多喜二 (1929) 『不在地主』 中央公論. [ Amazon ]
都市経済学者はタイトルだけで買いたくなる.が途中で飽きた…
プロレタリア文学.北海道を舞台に,不在地主という資本家(とそのエージェント)と労働争議で戦う小作農の話.

  • 濱下武志 (1996) 『香港: アジアのネットワーク都市』 筑摩書房. [ Amazon ]
これも途中で飽きた…返還前に書かれたもので古い.香港の「位置づけ」「枠づけ」をし直してばかりで,その新しい視点から具体的に何を発見できるのか,既存のliteratureにどういう形で貢献したのかが,回りくどくて全然頭に入ってこない.
remittanceの歴史を追いかけてきたという話はワクワクしたのだが…

Sunday, April 29, 2018

加藤ほか(編)『沖縄子どもの貧困白書』

さらに読書メモ.
  • 加藤彰彦ほか編『沖縄子どもの貧困白書』かもがわ出版, 2017年.
ここ数年沖縄では子供の貧困に関心が集まっている(なお,私は「子ども」表記は馴染めないので以下「子供」と記す).貧困研究で著名な阿部氏を始めとするチームでの調査が沖縄でなされ,子供の相対的貧困率が29.9%と衝撃の数字も出た.

この相対的貧困率を算出するにあたって,市町村が持つ税務データを収集している.せっかく大規模でリッチな個票データを集めたのだから,相対的貧困率という解釈が必ずしもstraightforwardでない指標を1つ弾き出すだけでなくもっと詳しく多面的に分析してくれよ,と思うが,この白書の中には相対的貧困率を作るのに苦心した話はあるがそれを使った分析は見られなかった.残念である.
公益性の高い学術研究には,センシティブな情報であってももっと利用できるようになればいいのに.たとえ公にできないとしても,ここで集めた情報にもとづいて貧困対策のRCTと追跡調査を行ったほうがよいと思う.

相対的貧困率を算出した調査とは別でアンケート調査を行っており,その結果を利用した分析も載っている.しかし紙面が限られていることもあり,統計データからは大して何も明らかにされていない.
(もちろん,このアンケート調査で示唆されているように,貧困がsocial exclusionのリスクを孕むことは重要である.データが持っているであろう情報が適切に抽出・プレゼンされていないと感じたということ.)

本白書は貧困現場のルポで充実している.他方で,貧困を生み出す背景についての経済学的な分析が欠けているのが残念である.それどころか,
新自由主義とは,経済のグローバル化が進むなか,民間企業がグローバル競争を勝ち抜くことに依拠して社会の基盤を維持しようと考え,企業が十全に活動を展開し利益を上げることができる条件を整えるべきであるとする考え方や,その考え方にもとづく諸施策のことです.(p.260)
などと頭が痛くなるような藁人形論法で,新自由主義が非正規雇用を増やし地方の教育や福祉を悪化させたと示唆されている.編集者の一人も
経済的利潤や能率,効果ばかりを求める動きも強くなってきています.基準に合わない,役立たないと人を切り捨てていく文化も,私たちのなかに生きています.(p.276)
と,セーフティネットを破壊するものとして経済活動(の一側面)を捉えている.貧困は疑いなく経済問題であり,経済学への理解が不可欠に思うのだが..


貧困の原因分析や貧困対策政策の評価が十分になされていないため,貧困対策への<提言>もちぐはぐに感じる.<提言> (なんだこの不等号は)を手短にまとめると以下の通り.
  1. 既存の支援策の周知
  2. 通学支援: 交通費補助
  3. 進学支援: 奨学金
  4. 雇用環境改善
  5. 乳幼児・シングル親支援
  6. 既存の支援策の整理
  7. 総括組織の強化
  8. 条例の策定
  9. 調査の継続

アンケート調査では食料を買えなかった経験を持つ子供がたくさんいる!とレポートされている(し沖縄の食料価格は全国より高いとも言及がある)一方で,なぜか<提言>では食費(や無条件現金給付)ではなく交通費の補助を挙げている.徒歩通学者や未就学児童にはほぼ無意味な上,就学や進学を妨げる制約条件をうまく緩和することが期待できるわけでもなく,特定業界への利益誘導の隠れ蓑にさえなる悪手ではないかと感じた.交通費が家計を圧迫しているとしても,子供のバス代よりも自家用車のランニングコストのほうが交通費の大宗を占めるのではないかと思うのだが.
白書の中にほとんど出てこない交通費への補助を明記する一方で,白書の中でたびたび言及されるソーシャル・ワーカーについては表立って言及されていない.ちぐはぐな印象を受ける.


対貧困政策には"More than good intentions"を心に留めておくべきだと思う.現場の悲惨さを目の当たりにして心動かされたとしても,それだけではうまく貧困を解決することはできない.私はMore thanの部分を知りたいのだけれどこの本の焦点はgood intentionsにあった.

Saturday, April 28, 2018

嘉数『島嶼学への誘い』

新年度の講義に備え,春休みに隙を見てめくっていた本のメモ.
  • 嘉数啓 (2017)『島嶼学への誘い: 沖縄からみる「島」の社会経済学』岩波書店. [Amazon]

経済学者として沖縄経済の振興に携わってきた人の本.その経験を活かして(官僚が好みそうな)島嶼型ビジネスモデルの数々を詳細に紹介している.

本書は沖縄経済について書かれた一般書の中ではきわめてまれなことに,背後に想定している理論モデルがある程度見えてくる本だ(文中に数理モデルが出てくるわけではない).「島嶼学」という聞きなれないタイトルだが,経済学を軸足に,島嶼経済,特に沖縄の持続可能な発展を目指した内容である.

すでに古希を回っていながら,比較的新しいliteratureにも目配りをし,近年に至るまで自身で論文も書かれている.入門書をかじっただけであたかも経済学のエキスパートかのようにマスメディアに駄文を垂れ流す者どもはこれを読んで恥じ入ったほうがいい.

とはいえ,いかんせん依拠する枠組が古すぎるように思う.データの取り扱い方はまるで訓練されていない我流である.経済学や統計学はここ数十年で大きな進歩を遂げており,もう少しキャッチアップしていただかなければ高い教育を受けた若い世代を説得することは難しいだろう.論文にもなっていると言っても,それが専門家同士のreviewをくぐり抜けられるクオリティでなければ,まっとうな学術的知見とは言えないと思う.

学術論文ではなく一般向けの本であることを差し引いても,議論が散漫に感じる.たとえば第5章はネットワークをテーマにした章で,最初にネットワーク外部性を紹介している.しかしその後ネットワーク外部性を考慮した分析から得られる経済学的知見はまるで出てこず「ネットワーク」という言葉の雰囲気から連想されるトピックが並ぶばかりである.中では素朴なグラビティ・モデルを回したとあるが(分析の詳細不明),おそらくネットワーク上で外部効果が波及することもなく単に無向な完全グラフで考えているだけにとどまっており,「ネットワーク」の分析というには誇大広告のような印象を受けた(し挙げている含意もネットワークと直接関係がない).
全体的に,十分に説得的な議論を積み重ねることのないまま次々と話が入れ替わり,結局何も証明されないのに何かがんばっている印象だけ残る.壮大な「序説」だけで肝心の本論がない.論点が次々と拡散していくので,批判を加えるには厄介だ.

ところどころ勇み足ぎみな筆者の主観も目につく.たとえば,小島嶼経済におけるsustainableな発展戦略として,(1) 複合的,(2) 循環的,(3) ユイマール,の3つを考えるべしと提案がある.(1)は1つのタスクに特化しないほうがよい,(2)は地産地消で廃棄物も活用するゼロ・エミッション,(3)は(参加制約を満たす範囲での)協業,ということ.
これらは試案のようで,「経済科学で理論実証的に証明できれば,間違いなくノーベル賞ものである(p.78)」とのことだ.素人を謀るようなことを軽々しく言わないでほしいし,本気で言っているのなら冷静になってほしい.せめて本書で整理している小島嶼経済の主要特性(遠隔性・海洋性・狭小性)との整合性を意識してほしい.ユイマールの精神で遠隔性を克服できれば世話はない.

筆者の政治的立場が露骨になるところもあり,「島を科学する」学問分野と称するにはいささか不用心ではないか.

枠組みが古い,と偉そうに噛み付いてみたものの,本書の理論的背景については(その論証手続きの今日的な説得性はひとまず置くとして)当たらずとも遠からずという印象はある.tyranny of distanceやhome market advantageについてはまさに空間経済学はモダンな分析道具を多く用意している.(みんなでもっと空間経済学を研究しよう!)

この本は,経済的自立についての議論が豊富である.これまで私は,経済自立という概念はどういった経済的歪みをどのように解消しどのように社会を改善するのかよくわからないアマチュアの無責任な政治的スローガン,という程度の認識でいた.本書ではしばしば「自立(律)」と書かれるが,概念がクリスタルクリアに洗練されていない感がバレバレで,現代経済学の批判に耐えられるだけの満足な理論的背景はないのだろうと思っている.

本書第6章ではまさに
経済自立の状況とは… [中略]… 「自ら稼いだ所得でもって自らの支出を賄うこと」である.
と経済学者が予算制約式をイメージしやすいように定義が書かれており,助かる(が厳密ではなく詳しい意味は不明であるしその意義も不明である.域外金融市場との取引を否定すると,消費を平準化できず厚生損失が生じるのでは.).
残念ながら,議論をするほどにだんだん雲行きが怪しくなっていく.自立しないと自立できない,という謎議論になっているところもある.論じている側が混乱しているように思う.定義から結論までの道のりが省略されすぎており,この行間を埋めるのは難しい.

本書では多くの紙面を割いて議論しているにもかかわらず,経済自立という概念が何らかの定型的な一般均衡モデルの中でどう位置づけられるのか,が見えてこない.自立がいったいどういう歪みをどういうロジックで解消するのか,どういう基準で誰にとって望ましい帰結をもたらすのか,どういった仮定に支えられているのか,がまるで見えない.首肯できるレベルのエビデンスもない.そんなわけで,ふんわりとした共感はできるが,学術的な賛同(と批判)は難しい.

経済学の切れっ端を寄せ集めたものが「島嶼学」ならなんと退屈な学問なのだろう.「自立」や「ネットワーク」という自然言語の持つ雰囲気ばかりが先行した印象論の域を出ていないと感じた.

上から目線で恐縮だが,筆者は(面識はないが)とても優秀な方だと思うのだけど,経済自立という視座を研究人生賭けて突き詰めてもあまり何も出てこなかったと思われる.私はその轍を踏むことは避けたい.



Saturday, June 3, 2017

沖縄の業界地図2017 forthcoming

すでにテレビで取り上げていただきましたが,もうじき『沖縄の業界地図2017』が出ます.
    Qプラスリポート 大学生が作った“沖縄の業界地図”とは

明日から県内の書店に並び始めるようです.近日中にAmazonや楽天Booksなどオンラインでも買えるようになるようです.


こういう表紙です:

本の販促用ウェブサイトも用意しました.どういう本かチラ見できます.
    『沖縄の業界地図』特設ページ 
まだところどころ工事中ですが,時間のあるときにテコ入れします.学生がfacebookやtwitterでも広報活動をしているようですが温かく見守ってあげてください.

基本的に前著『沖縄の業界地図』(Link 特設ページ) のアップグレード版です.2年間の準備期間を経て,今回はところどころパワーアップしています.
  • ボリュームup… 掲載企業数が800社程度から約1300社へ,ページ数が118ページが160ページへと増えています.
    • ページ数が増えたせいで限界費用が高まり,価格もわずかばかり値上げいたしました.ご迷惑おかけします.
  • インタビューも充実… 前著に比べて企業に突撃インタビューした分が増えています.象牙の塔からはわからない企業の生の声をお楽しみください.
コンセプトは前著を踏襲しています.前著と重複するところも多々あり目新しさは霞んでいるかもしれませんが,前著を手に入れた方もぜひ手にとってご覧ください.


一方で,前著には載っていたけど今回は載っていない業界・企業もあります.何らかの恨みや含むところがあるわけではなく,単にこちらの能力の限界で調査し載せる余裕がなかっただけです.申し訳ありません.

本書は2015年度から2016年度にかけてのゼミ活動の成果であり,およそ2017年2月頃までに入手できた情報に基づいて書かれています.財務情報は主に15年度のものです.16年度の決算も次々発表されている時期ですが,最新のものというわけではないのでご注意ください.この冬・春は研究に時間を割いていたこともあってリリースが予定より若干遅くなりました.
(最後のページに執筆者一覧がありますが,年度が1年ずつ間違っていました…学生諸君,すみません.)

前著よりも教員の介入が減っています.学生にかなりの程度任せっぱなしにできたので助かりました.先行研究があるってすばらしい.プロの分析に期待している方には少し物足りないかもしれませんがご容赦ください.前著よりは都市経済学色が控えめになっています.

今回インタビューした中にとあるIT企業の社長がいます.彼のほうが私よりも正確にeconomicsの核心を語ってくれています.これにはとても驚きました.学生が書いてきた原稿はだいたい朱筆で埋め尽くされるのですが,このインタビューは私のほうではほとんど何も触っていません.教員の出る幕なしです.詳しくは直接手にとってご確認ください.


いったいどういう本なのか改めてちゃんと紹介したほうがいいようにも思いますが,前著と同じ路線なので,前著が出た頃の記事を参照ください.
    沖縄の業界地図forthcoming

今やたらめったら忙しくてちゃんと紹介する暇がないので,前著が出た直後に,我がゼミの紹介文として弊学の広報誌(15年の夏頃)に寄稿した文章をそのまま以下に載せます.


沖縄ビジネス界に旋風を起こす
多くの大学教員は「夏休みは仕事がなくていいはずよー」と言われた経験を持っている。たしかに、長期休暇がやってくると教員たちの淀んだ目が輝きを取り戻す。でもそれは暇を満喫できるからではなく、研究を専らにできるかけがえのない時間だからだ。研究者にとっては仕事がないどころかむしろ「かき入れ時」なのである。

夏休みほどではないにしても、ゴールデン・ウィークもワックワクな瞬間だ。毎日研究室に缶詰、ムフフ。でも、今年は研究以外にも楽しみがあった。五月四日、ゼミで作った書籍『沖縄の業界地図』が県内の書店やコンビニに並び始めたのである。

一年前の四月、春粧のみぎり、最初のゼミ。私は黒板にでかでかと「本」とだけ書き殴り、「今年の目標はこれ。本を作ろう。売れる本を作ろう。売ろう。」と昂然と宣言した。戸惑いを隠せない学生たちを尻目に、担当範囲やプレゼンテーション(と懇親会)のスケジュールを決めて、プロジェクトは動き出した。人手が必要なこともあり、豊川明佳先生のゼミと共同で進めることとした。

『沖縄の業界地図』は名前の通り、毎年書店を賑わす「業界地図」のローカル版だ。県内の様々な業界の勢力図が一望できるようになっている。企業人や就職活動中の学生を中心に、需要は間違いなくある。だが供給がなかった。全国的にもユニークな取り組みに挑む好機だ。

教員が果たすべき使命は、沖縄の未来を切り拓く人材を育むことだ。何か新しいアイディアを産み出し形にできるよう、創造力と実行力を鍛えねばならない。我々のゼミは、アイディアを実現するというイノベーティブな知的営為を学生が実体験する場になった。試行錯誤を繰り返すことを厭わず、未知の事態に慌てず、チームと歩調を合わせ、前向きに仕事に取り組む、新聞にも日々目を通す。こうした技能を楽しみながら伸ばす機会を提供することができたと自負している。

我々はただの思い出作りではなく、リスクを背負って市場に価値を問うという真剣勝負を仕掛けた。二千部を完売するのに一ヶ月とかからなかった。美栄橋ジュンク堂では三週連続ランキング一位を記録した。ありがたやー。売れるものを作ろうという目標は見事達成されたのである。



1stアルバムは初期衝動に溢れた伝説の激レア名盤,だけど2ndでいろいろ見失ってコケた,みたいなよくある若いバンドみたいにならないことを祈ります.
1stは沖縄に対する「新感覚」さが一つの魅力になっていました.今回は1stを踏襲しているので「新感覚」さは薄れているかもしれません.さしずめKing Crimsonの「ポセイドンのめざめ」でしょうか…?
(ちなみに今回音楽ネタがところどころ紛れてますが,全部学生の仕業です.本当です.)

なお,3rdは出しません.そろそろ別のイノベーティブなことに取り組みたいと思っています.何より研究にもっとエフォートを割きます.

Saturday, April 8, 2017

後期の読書2016

いろいろ忙しく各所で不義理にしています申し訳ありません.生存報告も兼ねて学期が変わる前にblogをいったん更新.

----

教科書をご恵投いただきました,ありがとうございます.
  • 小川光,家森信善 (2016) 『ミクロ経済学の基礎 【ベーシック+】』中央経済社. [Amazon]
入門ミクロのテキストはいろいろと目を通していますが,これは私好みどんぴしゃりの内容です.例も練られており,使いやすさ抜群です.他の「ベーシック+」シリーズと違ってカラー印刷なので読みやすさも抜群です.学生におすすめしておきます.

----

更新のついでに,ここ約半年の読書メモを記しておく.普段は論文の読み書きが主なので所詮はゆるふわ読書にとどまっている.

もともと営利目的のblogではないが,今回試験的にAmazonのアフィリエイト付きにしてみた.定期的に更新する金銭的インセンティブになるかもしれない.アフィリエイトが嫌いな方もいるだろうから,画像抜きのリンクのみにしてある.私にコーヒー代ぐらい恵んでもいいよという奇特な方は[Amazon]と書かれたリンクをクリックしてお買い物をお願いします.

  • Thomas Gray (1751) An Elegy Wrote in a Country Church Yard and The Eton College Manuscript. [Amazon]
墓場派なる18世紀イギリスの詩人の代表作エレジー.名もないちっぽけな人生の中にある尊厳を端正に描きあげる.Fair science frown'd not on his humble birthとのことだ.
(まったく関係ないけど,大阪堀江にあった暗黒音楽専門店graveが昨年閉店してしまったようですね.お疲れさまでした.)

  • 金子智朗(2009)『「管理会計の基本」がすべてわかる本』秀和システム. [Amazon]
管理会計をまったく知らないので流し読みしてみた.本自体は初学者にとってとてもわかりやすいと思うけど,経済学畑の者にとってはもっと数学でゴリゴリ一般化した議論をしてくれたほうが見通しが良い.

  • Robert C. Feenstra (2015) Advanced International Trade: Theory and Evidence 2nd ed. [Amazon]
大学院向け定番教科書の改訂版.2003年の初版に比べ,比較的最近の主要なモデル(の簡易バージョン)の解説が増強されており,初版をそこそこ読んだ人でも買い直すのはありだと思う.

  • Alain de Janvry and Elisabeth Sadoulet (2015) Development Economics: Theory and practice. [Amazon]
開発経済学のわりと新しい学部向けテキスト.包括的で読みやすくいい感じ.前年度担当した沖縄経済論はこのテキストに随所で影響を受けている.

  • 曽道智, 高塚創 (2016)『空間経済学』東洋経済新報社. [Amazon]
理論NEGのコンパニオンとして,本書は10年以上マストアイテムの地位を占め続けると思う.
  • 清田耕造 (2016) 『日本の比較優位: 国際貿易の変遷と源泉』慶應義塾大学出版会. [Amazon]
伝統的な貿易理論の実証.プロでなくても読めるように構成されている.見習って私も大きなテーマに挑戦したい.

  • 原田隆之 (2015) 『入門 犯罪心理学』筑摩書房. [Amazon]
犯罪心理学の胸躍るサーベイになっている.心理学は経済学とエビデンス重視の姿勢を共有しており,話が早い.重回帰あたりまで理解していれば一般学生でも楽しく読めるはず.典拠となる論文で使用しているであろうデータがしばしリッチすぎる気がする.

  • 永田靖 (2003) 『サンプルサイズの決め方』朝倉書店. [Amazon]
書名通り検出力に絞った教科書.説明がとても丁寧.手元に置いておきたい.

  • 津田博史, 吉野貴晶 (2016)『株式の計量分析入門 ―バリュエーションとファクターモデル』朝倉書店. [Amazon]
かなり微妙.実務家との距離を感じる.

  • 半澤誠司, 武者忠彦, 近藤章夫, 濱田博之(2015) 『地域分析ハンドブック: Excel による図表づくりの道具箱』ナカニシヤ出版. [Amazon]
地方公務員が使いそうなグラフが作れるようになる.講義で使えるような使えないような微妙な感じ.

  • 旦部幸博 (2016) 『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』講談社. [Amazon]
コーヒーを取り巻く科学が幅広くかつ簡潔にまとめられている.家庭焙煎の下りなど,筆者の知的探求が微笑ましい.

  • ロバート・L. ウォルク (2012) 『料理の科学(1): 素朴な疑問に答えます』楽工社. [Amaozn]
The Washington Post誌に連載されて人気を博した食品科学のコラム集.目からウロコが出まくる.つい誰かに教えたくなるサイエンス小ネタが目白押しだ.専門家が社会にフィードバックする際,こういうコミュニケーションのやり方は参考になると思う.

  • 森川正之 (2016) 『サービス立国論』日本経済新聞出版社. [Amazon]
一般向けに書かれているのですらすら読める.何より森川先生ご自身の生産性の高さを見習わないと…

新年度は学生を使ってもっと教養的な読書がしたいところ.

--

私が赴任してきて最初の年に担当した世代の学生はまっすぐいけば先月卒業を迎えました.出張のため卒業式には出られませんでしたが,ご卒業おめでとうございます.今後の活躍を期待します.

Thursday, March 31, 2016

春休みの読書2016

転勤の季節,沖縄の業界地図に関する問い合わせが増えているようですが,増刷の予定はありませんし新しい版も出す予定は現時点ではありません.私の手元にももう残っていません.県内の主要な図書館には寄贈してありますので,図書館もご利用ください.



ここ数ヶ月の間に読んだ本のメモ.
研究者であることを辞めた単なる読書家だと思われてしまいそうだが,読書さえもせず老いさらばえるわけにもいかないので.(進捗は思わしくないですが研究が本業です汗)
  • 吉田伸生 (2006) 『ルベーグ積分入門』 遊星社
    • 測度論やフーリエ変換について,ヘタレ文系でもなんとかついていける程度にわかりやすくまとまっている.練習問題は自力ではまるで解けないが,略解があるのでじっくり読むとコンセプトを掴む助けになる.
  • JianJun Miao (2014) "Economic Dynamics in Discrete Time" MIT Press.
    • Stokey-LucasやLjungqvist-Sargentよりもこちらのほうが動学マクロの研究をフォローできるようになる気がするし読んでいて面白い.序盤は線形合理的期待モデル,マルコフ過程,DP,など動学システムの解法がエレガントにまとめられておりここ(あとAppendix)だけでも読んでおきたい(というか主にここしか読んでいない).Dynareってすごいなあ(押韻).
    • 計算ミスを確認しようと検索したら,古いバージョンのドラフトがPDFで落ちているのを見つけてしまった…
  • Michael Storper, Thomas Kemeny, Naji P. Mararem, and Taner Osman (2015) "The Rise and Fall of Urban Economies" Stanford University Press.
    • SFベイエリアとLAは初期条件が似てるのに違った成長経路をたどっている.これはなぜか,に経済地理学の視点から挑む.起業家の信念の部分が一番違うのではとのこと.
    • 経済学ベースの都市・地域科学の議論も綿密に検討されているものの,評価は少しフェアじゃない気もした.
  • James W. Hardin and Joseph M. Hilbe (2012) "Generalized Linear Models and Extensions" STATA Press.
    • StataでGLMを回す用.GLMの理論や運用上のかゆいところが知りたかったのだが,個人的にはあまり使い道がなかった.
  • 国友直人 (2011) 『構造方程式モデルと計量経済学』朝倉書店
    • 私では歯が立たなかった.
  • 小島寛之 (2006) 『完全独習統計学入門』 ダイヤモンド社
    • 売れてるみたいだけど,弊社の学生にとって学習しやすいマテリアルだとは思わなかった.類書に比べると手に取りやすい,という程度だ. 不偏性のない標本分散や変なコラムなど,わざとやっているのかもしれないが,違和感がある.(あと数式が汚い.)
  • 永井龍男 (1991) 『一個・秋・その他』 講談社
    • 老いをテーマにした,端正で渋い短編集.作中で筆者があっけらかんと種明かししてしまうので読んでいて調子が狂う.しかしとても面白かった. 主題とは関係ないところで,淡々と(鎌倉の?)町並みを描写するくだりがすばらしい.
  • 岡倉天心 (1906) 『茶の本』
    • 歴史的名著.元々は英文だが,和文の格調高さに心洗われる. 冒頭に,茶は衛生学であり経済学であり精神幾何学である,という旨の文章がある.ほんまかいな.
  • 折口信夫 (1923) 『琉球の宗教』
    • 短い論文.沖縄ではXという風習があるのでYではないか,みたいな根拠の薄い分析の積み重ねに見えるのは私が沖縄のインサイダーだからだろうか.
  • 井上達夫 (2015) 『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください: 井上達夫の法哲学入門』 毎日新聞出版
    • 法学の本を初めておもしろいと思った.本棚に並んでいるとダサいと思って電子書籍で購入したが,紙で読めばよかったと後悔した.
      • 私は正直なところ「右翼は幼稚,左翼はお花畑」という認識を持っていてどちらに対しても鼻白む思いで距離を置いているのだが,まさに私のような人に向けて書かれたかのように感じた.
    • 序盤からsocial choiceのにおいがすると思いながら読んでいたが,においどころか議論の核をなしていた.
      • 視点の反転可能性条件は,もっと仮定が必要だと思った.プレイヤー集合がより明確に定義されていたほうが読みやすかったかな.政党のように比較的少数で戦略的相互依存関係がある場合や,世代間で重複的対立がある場合,もう少し丹念な条件付けが必要ではないだろうか. 

数学,統計学,プログラミングはもともと勉強不足のため,休みが明けても鍛錬は続けねばならない.ただ,机上の独学だけでなく,実証のセミナーにもっと参加して達人たちの視点を直接学ばねばとも思う.たまには沖縄から外に出ねば.

Thursday, November 19, 2015

国際経済学II, 第6-7回, 2015

これまで生きてきて様々な災害や暴挙を見聞きしてきたが,今回はとりわけつらく感じた.音楽やスポーツや食事といった,文化的なものが標的となったせいもある.

理性的な対話が望めない狂信的異常集団,とはどうも思えない.彼らのインセンティブや置かれた環境を理解しないことには何とも語り得ないだろう.そこで慌てて池内恵 (2015) 『イスラーム国の衝撃』文藝春秋,を読んだ.たしかに彼らの計算高さを伺うことができる.(知っておきたかったファクトが一通り簡潔に整理されており,全体的に端正でとてもよい本だった.一般に,テレビやネットでお勉強するよりも,プロの本や論文をひとつ読んだ方がよいと思う.)



締め切りラッシュで忙しいため少し間が空いた.時間の使い方を少し間違えたら詰む予感がするほどピンチではあるが,中間試験前なのでいったん更新.

講義内容
  • 国際収支の実態
    • 経常収支の主な構成要素は貿易・サービス収支.ただ近年は所得収支も大きくなっている.
    • 原油の輸入動向は経常収支の動きに影響を強く持っている.
  • SNAと国際収支
    • 国際収支統計はSNAと整合的にデザインされている.
    • 経常収支の黒字・赤字は国際的なお金の貸し借りの問題であることがうかがえる.
  • 外国為替市場の基本
    • あまたの市場参加者が絶え間なく膨大な取引を繰り広げている.
    • 為替レートは外国通貨の(相対)価格,と考えると混乱しにくいはず.
    • フォーワード取引を使えば,為替変動リスクに対処できる.
    • 資産や負債を外貨建てで保有すると,為替変動リスクにさらされることになる.こうしたリスクは,資産・負債をマッチングさせることでリスクをバランスさせることで回避できる.

 コメントより
  • 「基軸通貨のメリット・デメリットは?」
    • よい質問でした.教室でお答えしたときは,(非ランダム)ネットワークの中心として基軸通貨が存在することとしないことの違いでもって説明しました.質問に答えたことにならなかった気もするので少し補足します.
    • 基軸通貨を持つ国にとってのメリットは,自国の通貨のままで国際取引が可能なことでしょう.為替変動リスクに直面せず済みます.貨幣の取引手段としての役割が強く発揮されます.
      • いわゆる通貨発行益も生じます.講義後にちらっと言った法外な特権(exorbitant privilege)について詳しくは,B. Eichengreen (2012) 『とてつもない特権: 君臨する基軸通貨ドルの不安』をご覧ください.
    • 参考書の橋本・小川・熊本『国際金融論をつかむ』の第7章にも詳細な議論がありますのでご参考に.
      • (私は専門でないので,P. Krugman (1995) "Currencies and Crises"に出てくる整理で理解が止まっています…)
  • 「ドルは基軸通貨で,英語も全国共通語とアメリカが中心に経済が動いていることがわかった」
    • たしかにそうなので英語で発信されている情報を理解できるよう勉強しましょう.
  • 「ヘッジファンドについてもっと知りたい」
    • オーソドックスな金融理論の勉強からしてみては.
  • 「日本にもヘッジファンドは存在するか?」
    • もちろん.ただ実態は私もよく知りません.
  • 「将来活用していけたらいいなと思った」 
    • 県内の企業に就職したとして,輸出入・為替と関わるチャンスはたくさんありますよ.
  • 「為替レートの意味がわかった」「計算は理解できた」
    • いいね!
  • 「為替レートはどのように決まるのか?」
    • それがわかれば苦労しません.が基本的な理論はレジュメ5で学びます.もっと詳しく,という場合は国際金融の教科書を読みましょう.
  • 「円高のときにいろいろ買ったことを爆買いの話で思い出した」
    • 円安になった今は,CDや洋書を買うのがためらわれます.
  • 「近いうちに台湾に行きますがどうですか?」 
    • 4, 5回行ったことがありますがおすすめです.都会も田舎も見所たくさん,コミュニケーションも取りやすく治安も良いです.日中台の国際関係史も勉強してからいきましょう.
  • 「テストでは高い点数をとれるように復習をしていきたい」「テストがんばります」
    • がんばってください.講義内容をマスターしていればなんとかなるような問題を作ります.

Thursday, July 16, 2015

15年度前期の読書記録

そろそろ夏休み.学生は休み中に本たくさん読んでください.

自分も本は継続的に読まないといけない.研究業務がメインなので新書すら通読するのはかなりキツイけど,最近読んだ本の一部を簡単にまとめる.
  • 久保拓弥『データ解析のための統計モデリング入門: 一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC』岩波書店
    • GLM入門.もう,きゃーすてき抱いてー,って感じの心地よいスマートさ.私は本書レベルの,中上級統計の知識や実戦経験がすっぽり抜けているので,読書の限界便益がとても高かった.本書に倣ってRを動かせばすぐ使えるようになる.
      • GLMは経済学界隈ではあまり見ない気がする(もちろん離散選択は死ぬほどあるが).Wooldridgeにはちょこっと載っている(追記: 山程載ってました)けど,GreeneやDavidson-MacKinnon, Baltagi, Hsiaoなどには載っていない.私も論文で使えるかというと…
      • ちなみに,MathematicaでもGeneralizedLinearModelFitでGLMはすぐ実装できる(誰得).
  • ガブリエル・ズックマン (2015) 『失われた国家の富』NTT出版
    • タックス・ヘイブンをめぐるラディカルな啓蒙的政策提言本.最近話題のギリシャは徴税のコンプライアンスが低すぎることも背景にあると思うので,こうした議論は貴重.私にとっては論調が過激で,暗殺されないか心配になってしまう.
    • 節税・脱税を踏まえた上での租税システムのよりディテールな設計については,Joel Slemrodの本を別途参照するとよいだろう.
    • Zucman (2013 QJE)はグローバル・インバランスやLucas Paradoxの議論をこれまでと違った角度から説明していてそのインパクトは無視できない.
  • Mark Taylor (ed.) (2010) Purchasing Power Parity and Real Exchange Rates, Routledge.
    • 購買力平価の実証をめぐる論文集.国際金融の門外漢的には,冒頭の展望論文がとてもためになった.
  • 森田果 (2014) 『実証分析入門: データから「因果関係」を読み解く作法』日本評論社
    • 先輩に勧められたものの,ぱらぱらめくった限り入門的すぎて新情報もないのであまりちゃんと読んでいない.しかし,ごつい数式をほとんど使わずに最近よく使われる手法を手短かつ直感的に解説しているあたり,とても深いレベルで本質をつかんでいる人にしか書けない本だと思う.数式は苦手だけどRubin的因果推論のエッセンスを知りたいという人にお勧めか.
    • 最近手に入れたImbens and Rubinも「An Introduction」を名乗っているけど,個人的にはこちらのほうがもう少し時間をかけて読む価値がありそう.
  • 吉村富美子 (2013) 『英文ライティングと引用の作法: 盗用と言われないための英文指導』研究社
    • コピペはダメ絶対,とはSTAP細胞事件を思い出すまでもなくこの業界に生きる人にとっては当たり前のことである.しかし,第一言語でない言語,典型的には我々にとっての英語,で論文を書く人にとって,自分の言葉だけで書くことは困難だ.こうした状況で他人の言い回しをトレースした文章を杓子定規に盗用だ,アカデミックなモラルに反している,と認定することは性急かもしれない.絶望的な表現力不足の中で論文を書こうとすれば,先行研究の表現を借用したり,文章をパッチワークにしたりするのは不可抗力な部分があるからだ.たしかに私もコーパスやグースカを使い倒しながら英語論文を書いており,冷汗三斗な問題である.
    • 本書は,語学を学習するプロセスとしての模倣と,学術的道徳に反する盗用との微妙な対立を整理しながら,いかに学生を指導すれば良いかをまとめている.学生を指導する立場になって日も浅く,またゴミ同然の英語力で論文を書く自分にとってはとてもためになった.
      • 第二言語に限らず,国語能力が不十分な学生がコピペさながらのレポートを出してくる問題にも応用できそう.
  • 吉村弘 (1999) 『最適都市規模と市町村合併』 東洋経済新報社
    • つまらない.俗に言う「データに語らせる」ってのは散布図に近似曲線を当てはめることではないと思う.
  • 大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』日本経済新聞出版社
    • 面白い最新の学術論文を肴にゆるやかな経済学トークをするシリーズ(?)の続きで,一般向けコラムの再録が主.一般向けとはいえ高度な手法もこっそり登場しており,読む側にとってはおいしいポイントがいくつもある.
    • 本書の約1/4は消費税制についての論点整理だ,日本では大竹先生のこれまでの論文が影響力ある参照点になっている気がするし私もおおむね似たスタンスであるが,もう少しモダンな最適課税論の成果を汲んだ議論があればよりよいと思った.
  • 大阪圭吉 (1937) 『坑鬼』 改造社
    • 昭和ミステリーの名作.この時代の資本主義像は邪悪だなあ.現代のブラック企業に置き換えると笑えないブラック・ジョークになりそう.

今日Handbook of Regional and Urban Economics vol. 5が届いた.2300ページ強あるけど分冊だから読みやすいぜ(棒読み).

NEGのピークだったvol. 4から10年強.テーマは昔の都市経済,特に住宅,に回帰し,手法は実証分析中心に大きく舵を切っている.研究者生命が絶たれないようにちゃんとキャッチアップしないと.

Friday, June 19, 2015

業界地図の近況

新聞などでも取り上げていただき,売れ行きは予想以上に好評です.ジュンク堂やリブロでトップの座に輝いたのがハイライトでした.現時点ではほぼ完売状態のようです.ありがとうございました.

先週ライカムの書店に10冊程残っているのを確認しましたが,他どこで入手可能なのかは私は把握していません.
増刷の予定はありませんし,電子化する予定も現在のところありません.県内の主要な図書館には献本してあるので,どうしても読みたいという方は図書館をご利用するのも一つの手です.入手できなかった方々は来年度にご期待ください.

「コースの予想」を知識としては持っていても,価格・数量の決定は難しいなと感じました.何もかも手探りな状況でマキシミン的な戦略(赤字は出さない)を選んだのですが,結果的にはペシミスティックだったとも思いました.フランク・ナイト的な議論でいうと,私は起業家には向かないようです.

巻頭で私のインタビューがありますが,ここではオイラー方程式や技能偏向型技術変化を念頭に話をしています.ちまたには入門書を読んだだけでいっぱしの経済評論家を気取っちゃうような一知半解や,経済学なんて社会経験を積みながら新聞を読んでいればだいたいわかると豪語するような痛い方々も少なくないのですが,曲がりなりにも本格的な修行を積んだ身らしく彼ら彼女らと一線を画した視点を提供できるところを示さねばいけないなという思いがにじみ出たかもしれません.手に取ったビジネスパーソンの方々はどう感じたものでしょうか.

なお,本書の補足・訂正もネット上で行っています.必要に応じてご確認ください.

Saturday, May 2, 2015

『沖縄の業界地図』 forthcoming!

前年度のゼミで作ったチャーミングな書籍が上梓されます.発売日は5月4日です.
cover

リンク
旋風起こすぜ.


以下,本書のアピールポイントを率直にまとめ,敷衍します.

新規性について
  • タイトル通り,書店の就活やビジネスのコーナーを毎年賑わす「業界地図」のローカル版です.全国版は東洋経済新報社,日本経済新聞社,成美堂出版などが出すものがいくつかありますが,特定地域に特化したものだと関西版(日本経済新聞社)があるのみのようです.ローカル版といっても全国版を縮小劣化させたものではなく,むしろアカデミア特有の目配りと遊び心に溢れた,読み応えのある書籍になっています.
  • 沖縄の企業を紹介した書籍はいくつかありますが,多くの産業を網羅し一望できるようなものはほとんどありません.貴重な例外として,琉球新報社編集局政経部『沖縄の企業と人脈』1999年,があります.新聞社が作るだけあって貴重で魅力的なインタビューが豊富ですが,県内有力企業とそのグループに取材対象が偏っており,また内容的にはoutdatedになりつつあります.東洋経済の『会社四季報 未上場会社版』はより最新の情報にアクセスできますが,沖縄県の企業は数えるほどしか収録されていませんし,業界の全貌や企業間の関係は見えてきません.
  • その昔沖縄国際大学の新城俊雄ゼミでは,企業にインタビューに行き,その経営戦略を分析した卒論集のようなものをインフォーマルながら刊行していたようです.テーマは似通っていますが,沖国本では学術研究としての色合いが強いのに対し,我々は一般のビジネスパーソンや学生が手軽に手に取れるカジュアルな雑誌を志向しています.実際に県内の書店やコンビニ(ファミマとローソン)でも手に取れます.また,沖国本では特定企業管理職の経営哲学やマーケティング戦略というミクロな事例に中心的な関心がありますが,我々の新刊には企業間の戦略的な相互依存関係や産業全体を見渡すマクロな分析など,幅広い視点からの議論がふんだんに盛り込まれている点で違いがあります.統計データを多く盛り込み,定量的に業界の全体像をイメージするための手がかりが多数仕込まれている点も白眉でしょう.我々は大学時代の思い出作りをしているのではなく,リスクを背負ってmarketableな商品を生み出し実際に販売するという真剣勝負をしています.
  • そのほか沖縄企業のmanagement practicesを紹介した事例研究モノや,企業人のインタビューや列伝,社史,などはいくつかありますし参考にしました.しかしながら私が調べた範囲では,800を超える企業を収録したものはかつてありませんでした

重要性について
  • 沖縄を本拠地とする企業のほとんどは中小企業です.内地企業の支店を除けば,上場企業は数えるほどしかいません.そのため,ローカル企業についての情報にアクセスするのは容易ではありません.新聞記事や噂話で断片的に耳目に触れる程度です.
  • それでいて,人的ネットワークを重んじる風土もあってか,沖縄でビジネスをする上で企業間の関係についての情報を蓄えておくことは決定的に重要だとされています.県内でも有力企業の「系列」があり,市場での取引関係と密接に結びついています.当事者でなければ知り得ない情報に大きく依存した,不透明な市場環境という側面があります.
  • 地元で就職活動を行う学生は,信頼できかつ幅広い情報源を欠いている状況です.人生を決定的に左右する場であるにも関わらず,CMを流しているごく少数のBtoC企業しか知らず,極めて少ない選択肢にしか気づかない状態で就職活動をしなければならない学生は少なくありません.情報を生産することで,学生が地元でよりよい生活を営む可能性をどんなに広げられるでしょう.同時に,企業にとっても自社の精神やその結実を若い人材に広く認知させることからどんなに便益を享受することができるでしょう.
  • つまり,情報の価値は計り知れないほど大きいにも関わらず,埋もれてしまっている状況でした.埋もれた情報を掘り起こして可視化し,気軽に手に取れるようにしたことが本書最大の売りです.地元の企業だけでなく就職を意識した学生や潜在的な沖縄市場への参入者,そして最終消費者としての沖縄県民にとって,よりよい沖縄ライフを満喫できる手がかりを提供します.

エクスキューズ
  • ゼミ活動の一環としてのプロジェクトであるため,内容に甘いところもいくつか残されています.私の力不足のためとしてあらかじめ陳謝せねばならないところがあります.
    • 速報性: おおよそ2014年度,特に14年12月頃までの情報に基づいています.発売にいたるまでの間にも情報が次々とアップデートされてしまいました.どうしても,新聞などと比べれば速報性は劣ります.
    • 正確性: 基本的に新聞や公式ウェブサイトなどで確認できる,信頼性の高い情報のみに基づいています.言うまでもなく,あくまでもacademic integrityを遵守することが最優先事項です.しかしながら,我々は財務データなど一次情報にアクセスできる立場でもなく,本書には不正確な情報が紛れ込んでいるかもしれません.そもそも中小企業についての情報の信憑性は大企業に比べればどうしても劣りますし,情報量も極めて限定されてしまいます.
    • 網羅性: なるべく多くの業界をカバーすることを目指しましたが,時間や人的リソースの限界から,有力企業であるにも関わらず十分に調べられなかった企業は数多く残されています.また,取材に協力していただきながら,出版に耐えうる記事にしきれなかった企業もあります.
      • 私は生まれも育ちも沖縄ですが,象牙の塔一丁目一番地在住であり,地元ビジネスのことはまるで知りません.監督する側の基礎知識・人脈の不足は否めません.
  • これらは次年度以降の課題としたいと思います.ゼミ生のインタビューにご協力いただける企業は随時募集しています
  • 本書は私の本務校から資金的援助を頂戴しています.しかし言うまでもなく,本書は大学を代表するものではなく,あくまでも私たちが責任を持って世に問うものです.

教育の一環として
  • イノベーションの重要性はすでに人口に膾炙して久しいわけで,自らもイノベーションを起こさなければ示しが付きません.革新的アイディアを形にするという,我々の生きる経済にとって根源的に大切な活動を実際に経験するチャンスを提供した一年間だったと自負しています.
    • 今回はvariety expansionをしたので,今年度のゼミはquality ladderでいきたいと思います.
    • 研究面でのイノベーションをしてから物を言え,という意見はしかと受け止めます…言われなくてもやっとるわと言いたいところですがなかなか論文にまとめられずにいてつらい状況であります.もうしばらく見守ってください.
  • 私の本務校が,貴重な4年間を犠牲にしてまで卒業する価値のある大学であると胸を張って言えるようにしたいという思いもあります.

この冬~春にかけてこの本の編集作業ばかりに時間を取られていました.研究できないストレスの余り,体重がとんでもなく減ってしまいました.健康診断で「やせすぎ要観察」と言われる私がダイエットしても….
しかし命を削った分だけ面白い本ができたと確信していますのでぜひご購入を検討してください.(今後は改めて自分の研究にいそしみます.)

Wednesday, February 18, 2015

佐藤『都市・地域経済学への招待状』ほか

アメリカに行ってきた.都市経済学の扱う問題は,アメリカに行かないとなかなかイメージが掴めないものだ.

今回の旅ではUberがとんでもなく便利だと実感した.交通後進国沖縄でも早く使えるようになってほしい.

たまには読書エントリも.
  • 佐藤泰裕『都市・地域経済学への招待状』有斐閣, 2014.
    • 都市経済学の教科書はそれなりに充実しているものの,地域経済学はそうではない.これらの分野を統一的に扱っており,地域経済系の講義にも役立つテキスト.面白い定理をわかりやすく記述しており,教え甲斐がありそうだ.
    • 内容的には東大都市経済学の衣鉢を継ぐかのような正統派モノになっている.レベル的には(ミクロと経済数学が必修な)普通の経済学部で使えそうだ.あと10年は定番教科書として定着しそう.ただ,教員側の行間を埋める能力は試される.
    • 献本ありがとうございました.次年度新たに持つ予定の講義で指定教科書にいたします.
  • 矢作弘 (2014) 『縮小都市の挑戦』 岩波書店.
    • デトロイト・トリノのケーススタディ.特にデトロイトはなまじ有名なだけによく知らないまま持論を牽強付会する論者が多く見られるが,本書では実際生じている問題の多面的な複雑さを日本語で一望できありがたい.行政と開発のガバナンス,居住の層化,空きロットの調整,などはいずれ日本の都市でも直面する重要課題になるのではないか.反転の兆しが見えるあたりは少し感動的だ.
    • 元日経記者らしい視野の広さと簡潔な文章もよい.なかなかの労作.
    • 都市のshrinkは今に始まったことではないが,増え続ける遊休地の研究は都市計画のほうで最近ブームのようだ.経済学でも昔からやられているはずだ(金本先生の教科書にあるし,少子高齢化+都市経済の分析自体は珍しくない)けど最近はどうなんだろう.ゾーニングのやり直し,資産価値の毀損,治安の悪化,など,実践上喫緊の課題は少なくなさそうだ.一昔前は日本の家が狭いことが問題視されていたのにね.
  • 堤未果 (2008) 『ルポ 貧困大国アメリカ』岩波書店.
    • 読点ごとに論理を飛躍させるのはやめてほしい.「暴走」や「破綻」をしているのは筆者のほうだろう.
    • 「世界的な経済学者」と紹介されている人,Google Scholarで査読論文がヒットしないんだけどなぁ.
  • 有馬哲夫 (2011) 『ディズニーランドの秘密』 新潮社
    • 本家ディズニーランドに行く前に読みたい.テーマパークのコンセプトやそこに込められた思い入れを知ることが出来る.ただちょっと冗長.
    • 自分はCalifornia Adventure Parkのほうに行ってしまった.罰が当たったのか,乗っていたジェットコースターが緊急停止してしまった.sudden stop!
  • 岩田規久男『国際金融入門 (新版)』岩波書店, 2009.
    • 現副総裁.戦後の日本経済をマンデル・フレミングの枠組み内で解釈しようとして無理が生じている.こういう本が国際金融の定番入門書として紹介されていることに違和感を覚える.
  • 服部哲也 (2014) 『統計と確率の基礎 (第3版)』学術図書出版社.
    • 数理統計.今年度読んだ本の中で一番かも.学部のときに読んでおきたかった.
  • Uri Gneezy and John A. List (2013) The Why Axis: Hidden Motives and the Undiscovered Economics of Everyday Life, PublicAffairs. (『その問題,経済学で解決できます.』2014年,東洋経済新報社)
    • この業界にいたらどこかで小耳に挟んだことのある話が多い.けれどとても挑戦的で面白かった.経済学が退屈だと思っている人にこそ,経済学の最先端ではどういう問題意識とどういう手法でどういう試みがなされているかを知ってほしい.

教育業務の後片付けをしたらやっと研究に専念する時間を捻出できそう.なかなかキツイ状況である.

Monday, September 8, 2014

夏休みの読書

夏の研究ガツガツモードに突入しているので一般書からは普段以上に遠ざかっているものの,旅行の合間などに気分転換も兼ねてライトな本をいくつか読んだ.以下メモ.
  • 岩田康成 (2007) 『実況岩田塾: 図バっと!わかる決算書』 日本経済新聞出版社
本学学生でも手の届くような会計入門.池上彰方式と呼ぶべきか,その説明ではよくわからないか新たな疑問がわくかするだろう,と思う箇所で登場人物に「わかりやすい」と言わせるようなところがある.
個人的には,内容そのものより,何をどこまで犠牲にしてどう教えるべきかが参考になった.やさしくしすぎると本質を踏み外しやすいし,わかりやすいだけでも不十分だ.他山之石.

  • 久田友彦 (2007) 『中小企業財務の見方超入門 (第二版)』 銀行研修社
琉銀マンが中小企業財務の見方をLive感ある文体でやさしくレクチャーしている.粉飾や資金繰りについて説明が濃い.地銀での法人営業を志す人に限らず,銀行のモニタリングをかいくぐりたい中小企業も読むとよさそうである.
現場の知識を現場に行かずに速習でき便利である.ただし簿記二級相当の標準的な知識を身につけてから読んだ方がよいと思う.
中には,覚えられないだろうから必要なときに索引からこのページを探してね,という趣旨の文言も登場するのだが,残念ながら本書に索引は付いていない.不便である.
中小企業を相手にするときに比率分析はボラ大きすぎて使えない,とのこと.そんなに攻撃しなくてもと思うし,使えない理由はもっと別のところにある気もする.

  • ロバート・キヨサキ (2000) 『金持ち父さん貧乏父さん』 筑摩書房
有名な一般向け金融本.自己啓発系疑似科学といったところか.普通の経済理論に翻訳・訂正しながら読むのは費用対効果に合わない.本書の煽りに乗るほど未熟ではないつもりだが,不愉快すぎて途中で断念.ボトムラインはあながち間違っていないと思うが,まどろっこしくかつ軽薄すぎて読むに堪えないパートが多すぎる.

  • 尾藤正英編 (1974) 『日本の名著16: 荻生徂徠』 中央公論社
主著(政談,弁道,弁明,学則など)が現代語訳され,かつ解説も充実している.訳は平易.こういう本を読むチャンスが年をとるごとに急速に減っている.
朱子学(やそれがプッシュする大学)は自分や家族のことをしっかりやってれば(正の近隣外部性が伝わっていって)天下泰平,というどこか素朴ワルラシアンに通じる世界観を持っているが,朱子学(およびその流れを汲み幕府初期を支える林家)を攻撃する徂徠はもう少しパターナリスティックで国家主義的なところがあり,個人を取り巻く制度にフォーカスしている.享保の改革を支える政談は和製経済学の源流でもあり,現代の経済学者にもアピーリングな一冊と言えよう.

政談は現代からすると床屋談義の域を出ないが,財政赤字,インフレ,金融取引の法整備,および江戸のurbanizationに悩む徳川幕府の姿がかいま見える.myopicで衒示的な過剰消費をsustainableな形で抑制しインフレを抑えるにはどうすれば,という問いに,制度(法ではなく礼)をちゃんと定めようと論じている.
理想の経済政策を求めて堯舜に回帰する様は,ケインズなどにヒントを求める「経済学者」を思い出し残念な気持ちになるものの,研究のヒントはいくつも眠っていそうだ.とりわけ「旅宿の境界」をめぐる議論は,武士の都市化・戸籍制度・コメの一般物価に対する相対価格・裁定取引・エンゲル則・税制など,モデルの材料を多分に含んでいる予感がする.

  • 伊東忠太 (1923)『建築の本義』萬里閣書房
青空文庫収録.建築ってなんだろう,という問題への短い雑感である.一部引用する:
建築の本義、夫は永久の懸案である。我輩は今俄に之が解決を望まない、ただいつまでも研究をつゞけて行き度い、世に建築てふ物の存在する限り、いつまでも論議をつゞけて行き度い。今日建築の根本義が決定されなくとも深く憂ふるに及ばない。安んじて汝の好む所を食へ、然らば汝は養はれん。安んじて汝の好む家に住へ、然らば汝は幸福ならん。
ここで言う「建築」は任意の関心事に置き換えることができるだろう.


最近本学図書館に数学・統計学を中心に経済学関係の書籍を多数配架していただいたところでもあるし,学生にも夏休みを利用していろいろ挑んでほしいなあ.

Tuesday, July 22, 2014

紀『土佐日記』他

 旅の味わいはその人の教養を反映すると思う.(これは西田幾多郎かだれかが書いていたことでもあるが出典を失念してしまった.) 殊に歴史を知り古人らの結節点を知っていると感慨深い旅になる.夏休みに旅行する予定がある学生は,司馬遼太郎でもなんでもいいから現地に関する本を手にとってはいかがだろうか.(もちろん旅の楽しみ方は様々あってよいのだけれど.)

 この連休は四国を周遊した.旅に備えていくつか四国関連の知識を深めたので,簡単に読書メモを残す.以下すべて青空文庫から.
  • 紀貫之『土佐日記』
 内容的には四国とほとんど関係無かったのでこのタイミングで読まなくても良かった.注釈を抜きに読むと,細々としたウィットが汲み取りにくいのでなおさらだ.
 載っている和歌の多くはなんだか趣味が悪いと感じた.「いとをかしかし.」に女子学生と共通するセンスを感じた.

  • 種田山頭火『四国遍路日記』
 フリースタイル俳句をちりばめたお遍路日記.平安セレブとはまるで見ている世界が違う.犬に噛まれた,とか,いやでいやでたまらないけど行乞した,とかパンクすぎる.
 日を追うごとに変わっていく文体に,遍路の厳しさを思う.

  • 正岡子規『歌よみに与ふる書』
 愛媛最大のカリスマ文人による芸術論.「貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候」と紀貫之をぶった切り,無批判に古い者をありがたがるな,という.単にクリエイターのプライドを若気の至りで露骨に記したというわけではない.開国維新後,異国文化からの文学的挑戦に対応を迫られていた,という歴史的文脈を踏まえて読みたい.
 万葉集でも大伴家持や柿本人麻呂は技巧を弄するところがあるとは思うけれど.

Thursday, July 17, 2014

林『「沖縄シマ豆腐」物語』

引き続き読書メモ.
  • 林真司 (2014) 『「沖縄シマ豆腐」物語』 潮出版社
 島豆腐の歴史,文化,市場構造をまとめたエッセイ.海水,養豚,冊封貿易,など沖縄の食文化や歴史が島豆腐文化を支えていることがわかる.
 ゆるふわな内容なので,学生でも読みやすいはずだ.学生だけでなく,経済学のプロの関心も引く内容だ.ビジネスの細部まで記述してくれており,経済モデルに翻訳できそうな情報が多い.たとえば島豆腐生産は規模に関して収穫逓減なのかも,などと想像できて楽しい.また,貿易を通じて製法が伝達し波及する事例の一つとして,頭に入れておくと便利そうだ.
 ただ,筆者は経済学については理解が浅く,価格や競争を的外れなロジックで攻撃している.少し残念な気持ちになった.
 武庫川で沖縄人がひどい目に遭った,という話は武庫川の近くに長年住んでいた割にまるで知らなかった.明日伊丹空港に飛ぶので少し感慨深いものが去来するかもしれない.

Monday, July 14, 2014

堀田『インドで考えたこと』他

久しぶりに読書メモ.台風の間に積ん読をいくつか消化できたのだ.

  • 堀田善衞 (1957) 『インドで考えたこと』岩波書店
 インドから思想,哲学,文学を考える.いつ面白くなるんだろうと思ってたら最後まで面白くはならなかった.一定以上の深度に考察を深めていくことが出来ない文系インテリの姿に焦慮を抱いた.(他人ごとではない.)

  • 福澤一吉 (2010) 『議論のルール』日本放送出版協会
 国会の党首討論やテレビの討論番組を素材にして,論理的で建設的な議論をするにはどうすればよいか考える.ビジネスマン(最近だと瀧本哲史など)が書くディベートのノウハウ本と違い,アカデミックな議論の積み重ねの中で培われた議論の作法を学ぶことができる.分量も軽く,内容は学生にはややハードだが,本blog読者層全般におすすめしたい.
 政治家や芸能人(テレビに出る芸能人的学者の多くも含む)の議論は議論とは呼べない.その場を取り繕う瞬発力はすばらしいが,論点は噛み合わず,根拠も論証も怪しげなまま突き進むばかり.私はこうした議論に対して違和感と嫌悪感をおよそ中学生の頃から漠然と感じていたのだが,もし思春期頃に本書と出会っていたら今よりもっと超然的なイヤなヤツに成長していたに違いない.
 本書を読んでいて,「説明する」という言葉の意味が我々と一般人とで異なることにようやく気づいた.試験問題やレジュメを作るときには注意せねばならない.