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Monday, February 8, 2016

マイナス金利と白川氏

地元の新聞に,マイナス金利とは「手数料がかかる」こと,などと解説されていて,あながち間違ってはいないけれどまるで意味がわからないだろうと思った.かくいう自分もまだ消化出来ておらず(専門外だし),思考整理用の雑多なメモを残す.

白川前総裁は退任する少し前の記者会見(2012年11月21日)でマイナス金利について次のように4つの論点を挙げている.
第 1 は、金利をゼロないしマイナスまで引き下げていった場合に、市場参加者がいざ必要というときに市場から資金調達ができるという安心感が なくなってしまうわけです。そうすると、経済に何かショックが加わった場合に、流動性調達に不安が生じるという問題があると思います。
第 2 に、金融機関からの預け金である中央銀行の当座預金に大幅なマイナス金利を適用すると、額面価値が保証され、かつマイナス金利が付かない銀行券に大規模なシフトが生じることになります。
第 3 に、金融機関がマイナス金利のコストを貸出金利に上乗せすることになり、結果的に企業が直面する金融環境が引き締まるという指摘もなされています。
第 4 に、金融機関は、中央銀行のオペに応じて資金を調達して当座預金に置くとコストがかかるわけですから、むしろオペに応じなくなるということになってくると思います。
論点2については今回の措置では銀行券で持ちすぎるとマクロ加算残高から控除することで対処しているようだ.しかしそれ以外の論点については未解決のように思われる.

論点4から,貨幣量ルールから金利ルール?への大きな変更と考えるのが自然だろう.量的拡大で十分だとした当初の目論見が順当に外れてなお引っ込みがつかなくなっている状況で,量の軸で名誉ある撤退の道を探らねばならない時期だったのかもしれない.たしかに非線形な付利スキームのほうが裁量の余地が大きそうではある.

昨年夏に思ったが,ふとしたショックに柔軟に対応できる政策手段を持たないと脆弱だ.論点1は,輪をかけてダウンサイドリスクを意識させることにもなりそうだ.

論点3については,貸出金利に上乗せできず銀行のリスクテイキング能力を弱めるほうがかえって金融仲介機能を弱め経済を傷めつけることになるような気もする.

マイナス金利と言っても,原油安による期待インフレ率押し下げ(による実質金利上昇)効果を打ち消すほど大きくはできない気がする.政策のベネフィットは短期的にも限定的かもしれない.

先月は,期待のコントロールやコミュニケーション政策に関してECBとの違いが浮き彫りになった.もともと期待形成についてどういう確率過程を想定しているのか判然としない政策ロジックであるが,現日銀は市場との対話を放棄したようでもある.

先月は都心で過熱気味な不動産市場を意識した政策変更を予想していたが,むしろ不動産に資本移動が起こっているようだ.沈んだイールドカーブを見ると次何が起こるか不安である.

引用した記者会見から3年強,結局出口は見えないままである.

Tuesday, February 2, 2016

経済政策II, 第15回, 2015

試験お疲れさまでした.こちらの採点結果も以下に示します.
平均71.2, 中央値70.5, 標準偏差15.2でした.まぁまぁですね.

財政政策の問題は,乗数効果とクラウディング・アウトについて記述してほしかったのですが,金融政策と混同したような解答が散見されました.

労働力率については,講義中に学んだM字カーブについて明確に記述してほしかったです.
男性との違いを意識すれば,M字が生じること,20代前半までを除き労働参加率自体が低いこと,の2点を書くことができるはずです.

グラフではM字のへこみそのものはそれほど大きくないようにも見えます.しかし,非正規雇用率のようなジョブの中身に一歩踏み込んで見ると,性差が歴然とあることがわかります.正社員として働き続けるのはまだまだ難しいのです.



次年度はこの講義はいったん不開講として,代わりに「社会経済統計学I」と「沖縄経済論」を持つ予定です.

社会経済統計学Iではいわゆるエコノメの基礎を学びます.少し羊頭狗肉ですが,みなさんがばりばり統計解析用のソフトウェアを回すことは想定しておらず,経済学の実証研究を紹介しながらデータ・リテラシーを磨くことを予定しています.概念としては,ランダム化,大数の法則,仮説検定,あたりを押さえたいところです.行動経済学で明らかにされてきたような,確率に対する認知の歪みなどもついでに紹介できれば.

沖縄経済論は具体的に何をするか未定ですが,開発経済学や空間経済学といった学問分野で積み重ねられてきた知見を紹介する予定です.沖縄経済の独自性や歴史的経緯などはそれほど集中的に取り上げないかもしれません.残念ながら私は沖縄経済の専門家ではありませんし,沖縄経済をめぐる先行研究を探しても自信を持って教えられるようなものがなかなか見つからないためです.

沖縄研究における最大の問題点は,研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保するような,peer reviewベースの仕組みが機能していないことだと思っています.沖縄経済研究を自称するものはいくつもありますが,我々プロが素直に受け入れられるような議論にはなっていないようです.経済学の最先端から50年は遅れているのではないでしょうか.アマチュアには経済学者や大学教員という肩書きにフリーライドしないでいただきたいものです.

Wednesday, January 20, 2016

経済政策II, 第13-14回, 2015

めっきりblogの存在を忘れていた.テスト前日なので更新.

講義内容
  • 労働市場のモデル
    • インフレ・デフレが労働の需給そのものに影響しなければ,均衡も結局動かない.
  • インフレーション
    • フィリップス曲線という経験則がある.通常は中央銀行はフィリップス曲線を所与として景気をコントロールしようとしている.
    • インフレは貨幣の持つ実質的な価値を下げることになる.ただし,それがどう経済に影響するかは,素朴な庶民感覚で判断していけない.
      • 教科書的には靴底コストやメニュー・コストといった煩雑さがインフレ・デフレのコストの代表例である.
      • ただし近年のデフレを巡る論争で特に焦点になっているのはそこではなく,名目金利の非負制約により実質金利を自然率と一致させられない,という点にあるようです.
    • 貨幣の役割
      • 欲望の二重の一致を回避し,取引決済を円滑にするためのかけがえのないインフラになっている.
      • 貨幣は預金も含む.取引決済に使えるのは現金だけではない.
      • 日銀の仕事について詳しくは,『日本銀行の機能と業務』やその他日銀の広報パンフレットによくまとまっているのでご覧あれ.かなり手強いが,白川前総裁の『現代の金融政策: 理論と実際』日本経済新聞出版社,も手元に置いておきたい.
    • 金融政策による景気の制御
      • 金利を動かし投資に働きかけることで,総需要を動かし景気を動かしている.ここでの議論はIS-LMモデルに基づいている.IS-LMは別途勉強してほしい.

コメントより
  • 「失業者がいないときはインフレでも人手不足で実質賃金は元に戻りそうだが,失業者がいるときは下がったままになりそう」
    • 非常に勘が良いですね.名目変数が市場メカニズムが想定するように動かないようなときには,インフレは実体経済にも影響が及びます.
  • 「インフレはよいと思っていたけど,実質的に貧しくなるので嫌いな人が多いのを初めて知った.でも市場メカニズムがうまく働けば,実質賃金は元に戻るので結局同じで,そんなに変わらないのかなと思った」
    • インフレ・デフレがなぜよい・悪いと言えるのか,多岐にわたる論点を丁寧に考える必要があると思います.一概にいいか悪いかの二者択一で判断しようとしないことが何より大切ではないでしょうか.
  • 「インフレの時は社会的にお金が回るので景気は良くなるのではないか?それともデフレのほうよいのか?」
    • 講義ではインフレは労働需要曲線にも労働供給曲線にも影響を及ぼさない,と暗黙に仮定していました.もしインフレで景気が良くなり,労働需要曲線が右方向 にシフトすれば,雇用・賃金におっしゃるようなポジティブな影響があると考えられますね.よいところに気がついたと思います.
    • ただ,インフレになるとお金が回るようになるかと言えば,私にはそれを正当化する理論がすぐには想像できないです.
      • (貨幣の流通速度が内生的に決まるモデルをよく知りません…)
    • 総需要・総供給モデルを学んだときにも注意喚起しましたが,「景気が良い→インフレになる」と「インフレになる→景気が良くなる」は意味が異なります.
    • デフレのほうがよいか,というとそうだという理論(フリードマン・ルール)がプロの間では一つのベンチマークだと思います.現在の日本にとってデフレのほうがよいか,については様々な議論があります.私自身はこれといって特定の信念や専門性を持っていないので何とも言えません.
  • 「インフレは経済でも財政でも上昇していることを表しているが,なぜそれが失業につながっていくのか?」
    • フィリップス曲線を頑健な関係だと認めれば,失業がインフレ率と密接な関係にあること想像が付きそうではないでしょうか.フィリップス曲線自体がどこから来ているのかを説明するのは少し厄介なので迂回させてください(たとえば価格を自在に変えられるわけではない企業の価格戦略が背後にあると考えられます).質問前半の意味はよくわかりませんでした.
  • 「インフレになると失業率はどうなるのか」
    • 下がるといいんですけどね.「失業→デフレ」という逆の因果関係もありえますし,データで検証するのは簡単ではないと思います.
  • 「M1などはものの取引以外にも使えるのか?」
    • 貨幣は単に取引決済をする以外にも使い道があります.価値を将来まで保存すること(価値保存機能)や性質の異なる財・サービスの価値を一つのモノサシで計れるようにすること(価値尺度機能)があると考えられています.
  • 「政府が赤字の場合,日銀はどこからお金を借りてくるのか?」
    • 政府が赤字をファイナンスする見込みがなくなった場合,お金を借りるというか,インフレが生じて貨幣を保有する主体から富を奪う,という形になるのではないかと思います.
  • 「紙幣などは年間いくらまで作ることができるのか?」
    • 実際のマネーの変化は,毎月日銀が公表しています(リンク: マネーストック統計, マネタリーベースと日本銀行の取引).M1からM3で見ると,およそ年率2~5%で増えているようです.
    • 限界でどのぐらいできるかというと,所詮はお札なので限界などなく,いくらでも刷ってばらまくことができる,とは言えます.ただし貨幣は貨幣でなくなるでしょうけど.
  • 「話が早すぎて難しかった」
    • 申し訳ないです.用意していた分をまるで消化できず焦ってしまいました.
  • 「あけましておめでとうございます.」「今年もよろしくお願いします」「テストに向けてがんばりたいと思います」
    • 今年度はあとわずかですがよろしくお願いします.


Thursday, December 17, 2015

経済政策II, 第12回, 2015

講義内容
  • 労働市場のモデル
    • 労働についても需要と供給の視点で分析する.
    • 均衡にすぐ到達するとは限らない.賃金が高止まりしてしまえば,いつまで失業が長引くかわからない.
  • 次回は比較静学の残りを倒して,レジュメ5に突入します.そろそろ今年度も佳境に入ってきましたね.

コメントより
  • 「名目賃金を下げるのではなく物価を上げる,つまり労働者の技術や生産性を上げることさえできれば,失業者はいなくなるのでしょうか? (実質賃金が下がる?)」 「労働需要を実質賃金で表すのは,名目の支払っている賃金ではなく,その人の能力(実質的な労働力?)を見て,どのような価値を生み出せるかを見ているという認識で大丈夫?」
    • 講義の先回りをしたコメントで,とても鋭いです.
    • 物価を上げる→名目賃金が動かなくても実質賃金が下がる→雇用増,という経路については次回紹介します.肝心の物価を動かす手段として金融政策があるよ,という話がさらにその次の回の議論になります.
    • 細かいことですが,「物価を上げる」 = 「技術や生産性を上げる」,ではありません.労働生産性が高まるような変化は,労働需要曲線を右側にシフトさせることで表すことができます.ロジックとしてはとても似ています.中級ミクロ経済学をしっかり学ぶと,その微妙な違いを知ることができるでしょう.
    • 実質的な労働力を見て,という理解でさしあたり大丈夫です.(より正確には,限界的な,という言葉も必要になりますが.)
      • ちゃんとやると時間切れになりそうなのであいまいな説明になってしまいましたが,今後は名目ベースでの議論にしてもよいのかもと思いました.まぁ来年度この講義は不開講になりますが.
  • 「賃金が高くなれば労働者も増えてよくなると思っていた.沖縄県は賃金も低く,労働者は増えると考えられるのだが,なぜ沖縄は失業者が多いのか.むしろ,最低賃金を上げた方が,労働者は増えやすいのか.」
    • 賃金は需給のバランスの中から結果的に決まる(内生)変数です.どういう原因で賃金が上がったか,によって善し悪しの判断は異なってくるかもしれません.
      • 今の政権は賃金を上げよう,と躍起になっているようですが,どういう政策ロジックを持っているのかわかりにくいと感じています.
    • 労働需要曲線を左にシフトさせていった状況を想像してみてください.均衡賃金は低くなり,失業者も増えそうな予感がしませんか? 労働需要が左側に位置する,つまり企業が労働者をそれほど欲していない,という理由はいろいろありそうです.生産性が低い,というのが最有力候補ですが.
    • 最低賃金を上げた方が雇用が増える,というシナリオはもちろん考えられます.求職者が職探しにいっそう努力するようになる,企業側の独占力を削ぐ,などです.一方で,若者や低技能者の雇用機会を奪いスキルの蓄積を妨げる,企業が人件費を価格に転嫁して物価が高まり実質賃金が下がる,など副作用もありえます.最終的には政治判断にゆだねざるを得ないですね.
    • 最低賃金は経済学と法学とで対立が生じやすいテーマの代表です.大内伸哉・川口大司 (2014) 『法と経済で読み解く雇用の世界(新版): これからの雇用政策を考える』有斐閣,はかなりおすすめ.
  • 「労働供給が変わらず労働需要が変われば均衡も変わるのか?」
    • 2つの曲線が交わるところを均衡としていますので,どちらかの曲線が動けばもちろん変わりますね.講義でやったように労働供給曲線が垂直だと均衡雇用量は変化しませんが,均衡賃金は変化しますね.
  • 「沖縄の最低賃金は677円→693円になりました」
    • ありがとうございます.来年は700円台に乗りそうですね.
  • 「最低賃金は名目賃金か?」
    • 制度的には名目(693円,とか)で定められています.ただし,この名目最低賃金率を決めるときに政府や審議会のメンバーはインフレ率も当然考慮しているのではないかと思います.
      • 政府の役割については,大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』 日本経済新聞出版社,が鋭い指摘をしています.(日本経済研究センターでその元となるコラムを読むことができます.)
  • 「供給のグラフは,どんなに賃金が上がっても下がっても垂直か?」
    • 現実には,どんなに賃金が変化しても労働供給が反応しない(垂直),ということはありえません.疑問はもっともです.講義で扱っているグラフは,均衡とその周辺だけを切り取って単純化したもの,と考えてください. 
    • 実際にグラフがどういう形状をしていると考えるのが自然なのか,はデータに聞いて確かめることになります.
  • 「均衡賃金は,上がったり下がったりする変化はあるか?」
    • 上がるかもしれないし下がるかもしれない,というシナリオを考えることは可能だと思います.ダイナミックなモデル化を行えば賃金の動きを複雑にすることは可能です.
    • 難しい定式化に挑む前に,シンプルなモデルの成り立ちを深く理解することを優先してください.
  • 「60歳までに1億かせぐってタイトルの本にもそのようなことが書かれていたのを思い出した」
    • 1億ぽっちだと目標がこぢんまりとしていませんか.
  • 「市場の多様性を実感することができた」
    • 今学んでいるモデルは,企業も労働者もみんな似たもの同士,という多様性の乏しい世界を暗黙に想定しています.想像力を自由に働かせると同時に,論理を丁寧にたどっていただけるとうれしいです.
  • 「2015年はお世話になりました.2016年もしっかりがんばりたいと思いますのでよろしくお願いします」
    • こちらこそお世話になりました.
  • 「今日はわかりやすかった」「とてもわかりやすかった」
    • ありがとうございます.

Thursday, December 10, 2015

経済政策II, 第9-11回, 2015

中間試験お疲れさまでした.得点分布は以下の通りです.

  • 71人受験, 平均80.18, 中央値81, 標準偏差17.6, となります.まぁまぁよかったのではないでしょうか.
  • 沖縄の経済成長について自由な論述を出しました.内容の出来不出来は問わずボーナス点を加える形にしていますが,めだった解答について思ったことを適当に述べます:
    • 「県内では内地企業ばっかりで沖縄に所得が残らない」
      • アネクドートとしてこうしたマル経タイプの議論が流布していますが,経済学的には論点設定の筋が悪いように感じます.プリミティブな原因を尋ねているのに,観察される実態を答えている,という点で適切な応答になっていません.(学生にそこまで求めていませんが.)
      • もし資本が流入しなければ賃金や就業はどうなっていたか,外資のテクノロジーをまねるチャンスになるのではないか,内地企業には県民を育てる誘因があるのではないか,交渉力が低い原因は何か,資本の所有権を持っていない理由は何か,などを子細に検討しないと功罪を問えないのでは.
    • 「基地があり土地が狭い.」「土地が広ければ農業が拡大して成長できるのでは」
      • 経済成長に関する研究で,土地の広さそのものこそが大事,という結論のものはきわめて少ないのではないでしょうか.基地の賛成・反対といった政治的思想・信条の議論は保留して,土地が広くなれば発展する,というのはロジックとしてはかなり弱いと思います.土地が広くなったら我々の知性や技術が高まるんですか? (人口密度や不動産価格や土地の所有権の分配が大事,という議論ならまだ理解する余地がありますが.)
      • 那覇市内の渋滞が深刻なのも土地が狭いと感じる一端かもしれません.ただ,渋滞は政策(交通・都市計画)の失敗ではないかとも思います.
      • 農業が発展しなければ成長できない,というのはろくに貯蓄していない未開の後進国などでは当てはまりそうですが,沖縄でも果たしてそう言えるのでしょうか?
    • 「やる気のある優秀な人が県外に出て行く」
      • スキルある人の活躍の場が乏しい,というのは私も憂慮するところであります.それと同時に,そういう人は出て行った方が本人のためにも社会のためにもなると思います.
        • 沖縄の場合unskilled laborの供給が多く,unskilled-biased technological changeが進んでいる,それがさらに技能蓄積を阻害しておりbrain drainも進行中,という印象があります.どこかでvicious cycleを断ち切らねばならないと思います.
    • 「輸送費用が高いのでハブを推進すればよい」
      • 日本は落ち目,という気持ちを持って東アジアの地図を眺めると,ハブというかただの辺境にしか見えないんですけどねぇ.
    • 「政府に頼りすぎ」
      • 政府が効果的にお金を使ってくれればよいのに,と思います.
ちなみに,個人的な直感では,教育と金融が二大ボトルネックだと思っています.突き詰めて科学的に検証したわけではないのであくまでも直感ですが.



講義内容
  • 45度線分析
    • 短期的には,総需要がGDPを決める.
    • 現実経済を簡単な方程式を使った数学的システムに還元し,それを分析する,というのが経済学で広く行われるアプローチである.
  • 労働市場の指標
    • 完全失業率や労働力率の定義を正確に押さえよう.
    • 完全失業率は「完全」な指標というわけではなく,数字から漏れる人々の姿にも想像を巡らせたい.
    • M字カーブの変化は,多様な働き方が広まって女性が働きやすくなっているという事実を反映している.
      • 家電の発展が女性の労働参加を促した,ということについてはGreenwood, Seshadri, and Yorukoglu (2005) "Engines of Liberation"などの議論がある.

コメントより
  • 「乗数効果が失敗した事例などはないか?」
    • 90年代前半,バブル崩壊後の日本はどうでしょうか.不良債権処理など金融市場の機能不全に優先して対処すべきところ,ケインズ的な財政政策ばかりが先行し,財政赤字を積み残し生産性成長を低迷させた,という議論もあります.
      • たとえば福田慎一 (2015) 『「失われた20年」を超えて』NTT出版,に丁寧かつ平易にまとめられています.
  • 「乗数効果は短期的な解決しかしていないのか? 増えた所得を使ってしまうとまた失業者に戻ってしまうのでは? 長期的解決策はないのか?」
    • とてもよい洞察です,感動しました.
    • ここのモデルは,ある時点のGDPの水準をその時点だけ引き上げる,と言っているだけで,来年以降どうなるかについては何の説明もありません.もう少し洗練されたプロ向けのモデルでも,長期的なトレンドを伸ばすかどうかという議論とは断絶があります.
    • 長期的にどうすれば,というのは経済成長論の議論になりまして,少し分野が違います.ワイル(2010)『経済成長』桐原書店,や,ジョーンズ (1999) 『経済成長理論入門 : 新古典派から内生的成長理論へ』日本経済新聞社,その他マクロ経済学の教科書にあたるよいでしょう.
    • 技術や知識を積み重ねていくことや資源を無駄なく使うことが長期的な成長につながる,というのが一般的理解ですが,そのためにどうすればという手段については様々な考え方があります.市場メカニズムを利用しつつ,素朴な市場メカニズムではうまくいかない部分は政府が補完しつつ,というのが現代経済学における典型的な発想だと思います.
  • 「政府が1兆円増やしても,自分たちも1兆円分増えるという意味か?」
    • 分配面がどうなるかはこのモデルからはわかりません.経済全体で集計して見れば,自分たちの所得も1兆円分増えます.
  • 「一次方程式が出てきて難しいなと思った.財政政策も難しかった」「連立方程式で少しつまづいた」「よく理解できた」「難しかったがなんとなく理解できたと思う.だが忘れてしまいそう」
    • 数学はサボるとすぐ忘れますね.中学高校時代の記憶がある若いうちに,数式込みの一歩進んだ経済学に触れておいてほしいと思います.
  • 「産休中だと非労働力人口? メルカリやユーチューバーは労働力人口?」
    • 講義では紹介していませんがよく気づきましたね.
    • 仕事自体は辞めずに出産や育児で一時休む場合は,「休業者」扱いになります.休業者は労働力人口(就業者の一部)としてカウントします.
    • ユーチューバーなども,一定以上稼いでいる場合は確定申告が必要で,働いているものと見なされるのではないでしょうか.ただ実際に統計データを集める時点では,うやむやになってしまいがちな予感はします.統計データには反映されないような,インフォーマルでアンダーグラウンドな世界があることには数字を見る上で注意が必要ですね.
  • 「完全失業者の条件「やる気」はどうやって調べるの?」
    • 自己申告になります.就活をしている,あるいはその結果待ち, という状況かどうかを尋ねます.ぼんやり就職したいなーと夢見ているだけではダメで,ハローワークに申し込んだとか,求人サイト経由で応募したとか,実際に行動した事実があるかどうかがポイントとなります.
  • 「就活はしていて仕事はあるが,企業側に断られた場合,この人は完全失業者? 仕事があるので完全失業者とは言えないと思った」
    • 講義で言う「仕事がある」とは,職業に就いている,という意味です.求人がある,という意味では使っていません.あいまいな表現ですみません.求人自体は失業者でも労働者でもありません.
    • 就活中で断られて未だに就職できていない人,は典型的な完全失業者になります.
    • 定義に照らし合わせながら,条件を満たすか考える,という思考実験は大切で,よいコメントだと思いました.
  • 「なぜ沖縄の失業者は多く全国は多いのか?このグラフから経済の関係はあるのか?」
    • 失業とマクロ経済政策はかなり密接です.これは今後の講義で出てきます.
    • 沖縄の失業率が高い理由はいろいろありそうですし大切な疑問だと思います.仕事の機会や情報にアクセスしづらい,他府県に移住するコストが高い,などもありますし,生産性が低く沖縄で操業しても儲からないので企業がおらず労働需要が少ない,という見方もできるかもしれません.複雑骨折みたいなものですね.
  • 「完全失業者とそうでない人の区別がわかった」「景気分析の要素の一つだと捉えた」「データが多くあってわかりやすかった」
    • データは自分の勝手な思い込みから自由になる手がかりとなるでしょう.
  • 「自分探しを早めに終え,早めの就職を心がけようと思う」
    • そうだね. 
  • 「男性は結婚が遅くてもいいと思う」
    • そうだね(涙)

Tuesday, November 24, 2015

経済政策II, 第8回, 2015

連休も何かと忙しく採点にも作問にも着手できない…

講義内容
  • 租税・公債の仕組み
  • リカードの中立命題
    • 公債を発行しても,将来の税負担に備えて我々は貯蓄しなければならない.
  • SNAにおける政府部門
    • 租税はただの所得移転.マクロ的な視点を持たない一般人は,間違った理解をしていることが多い.
コメントより
  • 「公債を発行して今は増税しなくても済むけど,増税したら返すお金や利息が増えて大変では?」
    • 今増税するか,後で増税するか(今は公債発行でしのぐ),の2つの選択肢を比較しています.後で増税する場合は利息が増えて,返済する総額が増えますね.
  • 「公債償還に伴う利払い費は誰に対してか?国民に対して行われると理解している.よって利払い費は日銀を介して国民・銀行に,税収(日銀が得た利益は税収として徴収される)する.したがって,国民,銀行,日銀・政府に分配されると思った.ある意味で利払い費により貨幣供給をうながすか?」
    • コメントが難解ですがいくつか気になった点を整理します.
      • 政府は通常国民に公債を売っていますので,利子を払う相手も基本的には国民です.
      • 国庫の管理は日銀ではなく財務省が行っています.(ただし公債を誰がどれだけ持っているか,という所有権の所在は振替機関である日銀が管理しています.)
      • 日銀が得た資産運用益は国庫納付金として政府に還元します.いわゆるシニョレッジというやつですね.
      • 利息を払うと貨幣供給が増えるか,については一般には違うと思います.1億円分の利息を払うのに1億円分の税金を徴収したら,市場に流通するマネーの変化はプラスマイナス0円ですね.
  • 「公債になるといろんな用語が出てきて難しかったけど勉強になった」
    • 公債って言葉自体がなじみないですからね.
  • 「少子高齢化の中で,高齢者は年金や生活保護をもらい,若者の負担が大きすぎるのではないか.一人っ子政策を行ってきた中国は大変なのでは」「歳出の内訳がわかってよかった」
    • たしかに中国も高齢化に備えねばなりませんね.世代間の人口バランスもさることながら,一人っ子政策は男女比も偏らせているようです(男子が女子よりも多い!).
  • 「どうして増税が必要なのか世の中の仕組みが少しわかってきた」
    • 世代間の負担の分かち合いという視点も大切ですね.
  • 「教室がとても暑く換気もしていなかったのでとてもきつかった.本当に暑いときはクーラーを利用したい」
    • 最高気温が30度あったようです…本当に11月なんでしょうか.

Wednesday, November 11, 2015

経済政策II, 第7回, 2015

講義内容
  • 総需要・総供給モデルつづき
    • 政府が財政政策や金融政策を通じて総需要を調整し,景気をコントロールすることを総需要管理政策と呼ぶこともある.
    • 総需要曲線や総供給曲線の傾きによっては,政策効果が期待通りに発揮されないこともある.
    • 成長の基盤となる経済制度を整えることも前提として大切.
    • コストプッシュ中に総需要を増やすとけっこうなインフレになることも.
  • 財政
    • 政府にも予算制約がある.
    • 返せない,あるいは返さない方がまし,となったらデフォルトとなることもある.

コメントより
  • 「なぜ2つのグラフの形はこんなにいびつなのか?そして,このグラフから不況を見抜くのか?」
    • 直線のグラフは直感的にはわかりやすいですが,あくまでも現実を近似したもので,現実そのものではありません.
    • 理論上は,各曲線が垂直になる状況を表現することができます.ただ,こうした理論的基礎はちょっと難しいので講義ではカバーできません.マクロの教科書で理論的な背景を学べば,もう少し経済状況を豊かに想像できるようになると思います.
      • たとえば労働力や資本をフル稼働させていてこれ以上生産するのは容量オーバー,という状況では総供給曲線は垂直だと解釈できます.また,流動性の罠と呼ばれる状況(後半の講義でやります)(+かなりアドホックな仮定をおけば)では物価が動いても総需要は動かず,総需要曲線が垂直な状況を導出できます.
  • 「アベノミクスと言った政策の分析も個人見解という形でも導き出すことのできる要因になるのではないかと思った」
    • 文意がよくわかりませんが,いろいろ分析できる便利な道具ですので身につけておくとよいと思います.
  • 「シンガポールなど現在経済成長中の国は総需要・総供給をうまく使いインフレを起こしているということですよね?」
    • 多くの国では多くの政治家・官僚が総需要・総供給モデル的な考え方を理解しているのではないかと思います.
    • ついでにシンガポールでインフレが起こっているかどうかデータを見てみました(下図).インフレを起こしているというよりは,落ち着いた状態で制御できている,という印象です.
      日本とシンガポールのインフレ率比較. 出典: World Bank, World Bank national accounts data.
  • 「社会主義で経済がうまくいっている国ってあるんですか?」 
    • 日本(笑)
  • 「がんばったら報われる社会の方が人生が充実すると思います」
    • そうですね,若いうちはぜひがんばっていろんなものに挑戦してください.同時に,挑戦したけどあえなく失敗した人にもやさしくできるといいんですね.



経済政策II, 第6回, 2015

講義内容
  • 需要と供給,市場均衡
    • 不明な点は遠慮なく質問してください.
  • 総需要と総供給
    • インフレにも2種類ある.
    • このフレームワークだと,インフレ・デフレはあくまでも結果.より本源的な原因がどこかにある.
      • 「デフレが不況の原因」は,筋の悪い政治的宣伝文句だと感じる.(もちろんzero lower boundの脅威は知られているが…)

コメントより
  • 「シフトはどういうときにわかるのか?」
    • 価格以外の何らかの要因で需要・供給が動いた場合にシフトします. 需要や供給が増えたり減ったりする要因自体は山ほどあり,ケースバイケースで考えていくしかないと思います.
      • プロの場合,消費者や生産者がどういう状況に直面しているかを整理して,どういう制約の下でどういうインセンティブを持って意思決定しているか,定量的にはどうなのか,を考えます.
  • 「調べたみるとキャッチアップインフレもあり,それだけ経済は複雑なのだと思った」 
    • インフレと一口に言っても,様々な要因があります.世の中にはなんでもかんでもインフレ・デフレに還元しようとする人もいますが…
    • 日本のwikipediaは,経済学については偏った記述が多い気がします.
  • 「景気と物価の上下は必ずしも同じ方向にならないとわかった」 「よくわかった」
    • 単純なモデルなりに示唆するものは多いです.
  • 「習ったことがないところにきたのでしっかりと覚えたい」「去年国際経済学でやっていたが忘れていた」
    • 総需要・総供給モデルは初登場ですよ.
  • 「均衡は前期習ったのでもっと応用して」
    • 国際経済学Iではやりましたが経済政策Iではやっておりません…余裕がある方はマンキューでも読んでください.講義スピードが遅いなぁとは思っていますが…
  • 「ディマンド・プルやコスト・プッシュは初めて聞いた」「マクロの本に載っているのかなあ」
    • 政策論争の際にこの手の用語を目にすることがあります.もちろんマクロの教科書にもよく載っていますよ.高度な教科書にはあまり載っていませんが.

Wednesday, October 28, 2015

経済政策II, 第5回, 2015

週末は学祭ですね. お祭りで楽しむのもよいですが,後述するように,読書の秋になるといいですね.

講義内容
  •  SNAの続き
    • 名目成長率は,実質成長率とインフレ率に分けて(近似的に)考えることができる.名目/物価=実質,と分数で覚えるのと合わせて覚えておくと便利です.
    • 一人当たり,は要するに割り勘.
  • 需要と供給
    • もっと詳しく知りたいときはミクロの教科書を読んでください.図書館にたくさんあります.

コメントより
  • 「サービス業だったら生産はできても支出は難しくないか?あと,企業が生産した分のお金はどうなるの?」
    • ここでの「支出」は,誰かがそのサービスに対して支出している,という意味です.難しいも何も,生産していればそれと同時に誰かが支出しています.
      • ここでサービスを支出しているのは,サービス業者自身とは限りません.国内の誰かが支出しています(輸出の場合は国外の誰かになりますが).
    • 「生産した分のお金」が何を指すのかよくわかりません.所得面の議論を思い出すと,付加価値は誰かの所得に帰属します.
  • 「GDPデフレーターや労働生産性は実態を把握する重要な要素であると感じた」 
    • 特に労働生産性を高めるにはどうすればよいかは深く考える必要があると思います.
  • 「4年生ですが来年の講義で統計学が学べたらいいと思っています」「たしかに同じことをやっている感じ.統計学やりましょう(笑)」「来年の講義を増やしてほしい!経済政策をさらに深めた講義はすごく面白そう」「確かに入門が多めで同じことを習う機会が多い」「地域経済学は面白そう.そのような応用もあったら勉強も楽しくなると思う」
    • 様々なご意見ありがとうございます.発展的な内容にも関心を持っていただきうれしいです.検討します.
    • 計量経済学に相当する科目があるといいとは思いますが,数学を迂回するとなると何がどこまで教えられるのかなかなか見当が付かないですねぇ.
  • 「やったことあるような内容でつまらなかった感じ.もっと実用的なのをしてほしい」 「実務的な内容がかなり盛り込まれた講義があれば面白いと思う」
    • 私は実務家ではありませんので,現場の知識を教えることはできません.政治の世界とも縁がないし関わり合いたくもないので,今後ともそういう話は無理です.フィールド実験の結果などはかいつまんで説明できそうですが…
  • 「本を読む習慣をつけたい.先生はどう習慣づけたのか?どの時間を使って読む工夫をしているのか?」
    • 最近ブームの教育経済学では,幼い頃に親が絵本を読み聞かせた経験などが大事との話もあるようです.将来子育てするときは小さい頃,特に小学校に就学する前に愛情を注ぐといいですね.親の協力・家庭環境も大事です.
    • 大学生になってから習慣づけるにはどうすれば,とはなかなか難題ですが,読書を楽しむことが第一だと思います.好きこそ物の上手なれです.新しい考え方や知識に触れ,自分が成長できる感覚をつかんでいただければと思います.
    • 楽しめるようになるまでは砂を噛み続けるような拷問かもしれません.それを乗り越える方法にこれといって正解はないかもしれませんが,たとえばやさしい本でもいいからまずはたくさん読んではいかがでしょうか.私の経験では,小学生の頃に1000ページぐらいある西遊記を読破したのが自信になった覚えがあります.内容はよくわからなくてもとにかく分厚いものを読んで,少し大人になった気分を味わったのが今につながっている気もします.中学生の頃は,読みやすくて分量がある司馬遼太郎などをひたすら読みました.まずは分量をこなして,達成感を味わい、読書の抵抗感をなくし,語彙力を高めなければと思います.その中で,人生を衝撃的に変えるような本との素敵な出会いを果たしてください.
      • 長い本でなく,短編をたくさん読むのもよいと思います.
    • 私の場合,大学受験を通じて国語の読解力を強化できたのも大きく役に立ちました.難しい本を読むには,それなりの作法を習得する必要があります.ただたくさん読むだけでなく,読み方も覚えねばならないと思います.論理的な読解の仕方は中学・高校では必ずしも教わりません.自分で適切な参考書を見つけて挑戦する必要があると思います.難しい本が読めるようになると,読書の幅も広がり,読書だけでなく様々な知的活動をいっそう楽しめるようになると思います.
      • 多くの方はロジカルな構造を読み取る能力をまるで鍛えていないという印象を持っています.まだまだみなさんの吸収能力は未開花です.世界の面白さを感じ取る力はやり方次第で伸ばせます.当然,伸ばすともっと人生は面白くなります.
    • 私の場合,読書を楽しむどころか愛してますね.愛や情熱も大事です.中学生の頃は,将来失敗して貧困のどん底に陥っても,家族友人から見放されても,本さえ読めれば人生を豊かに過ごすことができるだろう,という展望を持っていました.究極的には読書だけが救いになりえると思って,読書にすがるより他なかったんです.今も昔も根暗で悲観的でして.また,本も読まずにテレビやパソコンにかじりつきながら日々を無為に過ごす大人にはなりたくないな,とも思っていました.知性ある大人になりたい,というあこがれが人生設計の中に漠然とあったような気もします.こうして,読書をするのが当たり前だと認識するようになりました.今の私が十分に知的かと言われると困りますが,習慣をつけるための一般的なアドバイスとしては,将来どういう自分になりたいか,どういう自分になる可能性があるか,そこに本は必要か,を改めて考えるとよいでしょう,となります.経済学や数学の教科書などは,楽しいからというよりは,将来絶対必要だから読む,という義務感で読んだものも多いです.読書が必要であることを自分なりに納得できるとよりよいと思います.
      • 大学生の頃は,服や食事はなるべく節約するが読書に金を惜しんではならない,という俺ルールも課していました.食事は消費ですが,読書は消費でもあり投資でもあります.読めば読むほど雪だるま式に大きくなり,必ずいつか元は取れるという確信を抱いています.
    • 研究の道に進んでからは,研究と関係がない本はあまり読めなくなりました.本に載るようなことをやらねばならないので.それでも寝る前に気持ちに余裕がある限り,少しずつ読むようにしています.会議中も(自粛).
いかん,読書ネタに熱くなってしまった.

Thursday, October 22, 2015

経済政策II, 第4回, 2015

Mathematicaライセンスをリニューアルする.高い出費だ.こんな高いソフト誰が好んで使うのだろうか?
価格もさることながら,実証研究の勃興に伴い経済学界隈でのMathematicaユーザーは漸減中な気がする.PythonやRの層の厚さを見ると,ちょっと勝ち目がない.

そんな中,この夏はMathematicaテクが当社比でかなり向上した.スイッチングコストがみるみる高まっている.ここはMathematica振興のためにノートか何かに自分のテクニックをまとめておいてもよい気がする.需要ありますかね?「応用経済理論研究のためのマセマティカ」みたいなドキュメント?



講義内容
  • 今日から教室が3-102に変更となりました.間違えないよう注意してください.
  • マクロ指標の確認
    • 景気に連動して様々な市場が動いていることがわかる.一般均衡的な思考が必要.
  • SNA
    • GDPの定義はいつでもどこでも使うので理解しておこう.

コメントより
  • 「どんな政策で名目GDP600兆円にするんですか?」
    • いい質問で思わず笑ってしまいました.私が知りたいぐらいです.
      • 政策ルールそのものにコミットするのはとても難しい,という印象を受けましたがこの分野のプロの方々はどう考えているのでしょう?
    • 具体策は首相官邸ホームページなどから直接確認しておくとよいと思います.政府の施策は新聞・テレビでも日々論評されていますが,あくまでも選択的で断片的な情報でしかありません.
  • 「サービス業に付加価値はあるのか?塾でたとえると,生徒側が払っている学費が付加価値になっているの?」 
    • これもよい質問です.サービス業の付加価値や生産性を計測するのは案外難しいことです.
    • ビジネスではないボランティアなどを除けば,付加価値はどの産業でも発生します.学費は売上高の主要な構成要素だと思いますが,付加価値はそこから中間投入を差し引いたものです.
      • 生徒が得た充実感や成長の「価値」は,必ずしも学費(価格)と一致しません.ミクロで需要を勉強するとよいかも.
    • 塾のような教育サービスの場合,中間投入(たとえば電気代は電力産業から購入したものとして付加価値から差し引きます)はとても少なく済みます.
      • 産業連関表にいわく,「教育・研究」産業は不動産産業に次いで中間投入率が低い(24.4%, 2011年)そうです.文系や小・中等教育の場合もっと少ないと思います.
      • 教科書を生徒に買わせる場合,出版業(情報通信業)からの中間投入にカウントされるんでしょうか? ここは私もよくわかりません.
  • 「何度もやる内容ってことは大切な前提の話だと思う」「復習になった」「たくさん学んだ」
    • 統計の基本的仕組みはマクロ経済を体系立てて矛盾なく理解する上でとても役に立つ,と感じています.私の講義を聴いているだけだとなかなかこの境地に達することは難しいかもしれませんが…
      • (理論だけをやっていればindex number problemなんかつゆも知らずにつつがなく過ごしていた気がする.)

Friday, October 16, 2015

経済政策II, 第1-3回, 2015

出張・体調不良などで更新が遅れました.このブログでは講義の振り返りや,いただいたコメントへの返信,補足説明などを行っています.

講義内容
  • ガイダンス
    • マクロ経済政策について標準的知識を学ぶ.
    • 成績評価は試験2回で.
    • 講義資料はウェブで配布中.印刷にコストはかかりますが,教科書を1冊買わされるより安いと思っていただければ.
  • 政策の目標
    • 万人が納得するゴールはなかなか設定できない.実践上はどこかで妥協が必要になるだろう.
      • みんなの意見を最大公約数的にまとめようとすると,「一億総活躍」のように,昭和の記憶を呼び起こす以外にこれといって具体的な主張のない,何とでもとれるようなフワフワしたものになってしまう.
  • マクロ政策の背景
    • 「三本の矢」「新三本の矢」とキャッチコピーがついているけど,どれも普通のマクロ政策パッケージの延長線上にある.まずは基本を押さえることからはじめよう.
    • 日本の財政赤字は世界でも珍しい状況.世代間の対立も生じる.
    • キャッチアップのプロセスが終わった後に成長率が低下するのは自然.ただそれにしては低成長が続きすぎている模様.
  • マクロ指標
    • フローとストックの区別を意識しよう.GDPはフローの指標.
    • 名目と実質の違いは,物価が鍵.

コメントより
  • 「グラフを見ることでたくさん感じることや学ぶことがあり勉強したくなった」 「この講義はさらなる考察力の向上につながると感じたので,充実した学習に取り組むように努めたい」「たくさん学びついて行けるようがんばります」 
    • がんばりましょう.講義に参加するだけでなく教科書を読破するといいですよ.
  • 「累進課税で成長悪化,とのことだがどこが悪くなるのか?」
    • 私が「成長」というとき,一人あたり実質GDP成長率の動きを指します.生産も所得も消費も伸び悩む,というイメージを持っていただければ.
  • 「平等って難しい」「幸せって難しい.」「全員が納得する政策はないかもしれない」「一つ一つ経済政策を通じて解決していこうと努力する今の社会はいいと思う.だけど,すべての人が幸せになるとは限らないので,とても難しいと思った」
    • その通りでして.
  • 「多数決は絶対ではないと初めて知った」
    • 多数決を盲進することはかえって民主的でない事態を招く可能性もあります.
  • 「実力によって見合う給料を決めてほしいので,安定よりも競争派.しかし逆の人もいるので,妥協点を見つけるのがよい」
    • 実力に見合う給料に決まると世の中はもう少し効率的になる,というのが伝統的な経済学ですが,実際にはどうでしょうか.万人が納得する,という状況はないでしょうねぇ.
  • 「プロ野球選手が1億稼いだとしたら課税でどのぐらいかかりますか?」 
    • わかりません.控除があるので4割そっくりそのままは納めません.
  • 「やはり少し難しい」「今まで経済系の講義は難しかったけど先生の講義には素人にもわかりやすい」
    • 難しいなりに継続していると,成長して私の話が通じやすくなるのかもしれません.
  • 「若年失業率のグラフで,上がった下がったがわからなかった」
    • 軸を確認しましょう.
  • 「アベノミクスの中身は,イメージだけでなく具体的な内容の話があると覚えやすい」
    • おっしゃるとおりですが,具体的な論点に踏み込むととてもテクニカルになってしまいます.中途半端に単純化して伝えようとすると,たとえば「お金をばんばん刷る」などと言うと,かえって深刻な誤解を招くリスクがあります.
  • 「名前だけ知っているアベノミクス」「名前だけ知っている三本の矢」
    • ニュースのキーワードそのものではなく,金融政策や財政政策の基本的な仕組みを知っておくことが大事だと言いたかったのです.
  • 「財政赤字をかかえている中で東京オリンピック開催することでさらに財政赤字になるのではないですか.また,年金・社会保障は私たちが老いた頃には少子高齢化のためもらえないのではないですか」
    • 鋭い.
  • 「年金は希望者だけだったらいいのに」
    • 若者がそう感じるのは無理もないですね.
  • 「若者の声を反映できるような制度があるといいですね」
    • 選挙権年齢が引き下げられましたね.
  • 「企業が人を雇えなかった場合,消費者がいない場合,財政はどうなるの?」 
    • 話が飛んでいて答えにくいですが,人を雇えない企業は賃上げなど待遇改善をするか,待遇改善する目途を立てられなければ市場から撤退するかですね.
  • 「給料が上がっても物価が同じだけ上がったら実質的には上がっていない,というのはおもしろい」
    • 経済学を勉強していない人はよく錯覚します.
  • 「図8(物価)の3つのグラフは,将来どのような動きをするのが望ましいのか?」 
    • 今の政府は,将来もっと物価が上昇してくれるとうれしいと考えているようですよ.経済学者によっても濃淡ありますが,インフレ率は通常0~4%程度で安定して推移する状況が望ましいと考えられているようです.
  • 「去年国際経済学IIでやったけど忘れていた」
    • そろそろ思い出してくださいね.
  • 「教室が狭く座る場所がなくて外で聞いていた.広い教室で集中して学びたいので教室変更できないか?」
    • 気づかずに失礼しました.現在調整をお願いしています.

Monday, February 2, 2015

経済政策II, 第15回, 2014

試験お疲れさまでした.
遅くなりましたが恒例の結果発表.
  • 受験者数41人,平均75.1, 中央値77.5, 標準偏差19.1.
  • 分布が奇妙.
  •  中間・期末両方とも受け,出席も足りていれば単位はなんとかなっているのではないでしょうか.

この講義に限らず私の試験では,講義を聞いて理解しているか,を中心に問うています.講義で学んだことを使って解答できないかもう少し考えてほしかったです.

一部解説 (追記: 役目を終えたので削除しました.)

Thursday, January 15, 2015

経済政策II, 第14回, 2014

疲労困憊で講義後に一瞬気絶しました.(たまにランニングしているせいもありますが)体重が落ちている気もします.

講義内容
  • インフレ・デフレ
    • シンプルな総需要・総供給モデルだと,デフレはあくまでも結果.近年の政策論争はとてもねじれたところから出発している印象を受ける.
  • フィリップス曲線
    • 理論でも実証でも,不景気・高失業とデフレには相関がしばしば観察される.
    • 曲線上の点なら,政策的に選べる.しかし曲線から乖離したところへは,金融政策だけで移動するのは困難.金融政策はパワフルだけど万能ではない.
      • ただし,現在の日銀はこれをやろうとしている.この試みが成功したかどうかはまだ学術的に決着が付いていない.(というより専門外なのでよく知らない.ゼロ金利脱却後にどうなるかを確認しないうちに勝利宣言しても不毛に思うけど.)
  • インフレのコスト
    • 「インフレで実質的な所得が下がる」や「インフレで貸し手が実質的には損をする」という議論には,暗黙のうちに根拠の弱い仮定が置かれている.
    • インフレに応じて名目金利が上がることをフィッシャー効果と言う.
      • プロの世界でも,インフレの厚生費用は関数形にも大きく依存するしうまく捉えられない,という印象がある(私はプロではない).
次週
  • 期末試験を予定.健闘を祈ります.
  • 貨幣の役割,準備預金制度のあらまし,などをカバーする予定でしたが時間切れでした.9章は試験には出しません.時間管理能力がなくてすみません.

コメントより
  • 「授業と関係ないが,大学を中退して就職する友人が複数いて悩ましい.中退して就職するのと,大学を卒業してから就職するのとではどちらのほうがよいと思うか? 中退しているのに就職できてうらやましいと思った」
    • 時と場合によるので,中退が吉と出るか凶と出るかを一概に断ずることは出来ません.たとえば早稲田大学では,普通に卒業する奴は三流で,中退してやっと一流になれるという俗諺もあります.
    • 残念ながらうちは早稲田ではありません.入学したという事実だけでは,秀でた能力を持っていると証明することはできません(シグナリングにならない).むしろドロップアウトすることで,たとえば以下のような悪印象を伝えてしまうかもしれません:
      • 授業についていくだけの基礎学力が足りないのではないか.
      • 大学生活をエンジョイするためのコミュニケーション能力が足りないのではないか.
      • 高い目標を設定し,前向きに努力を継続するような根気強さがないのではないか.
      • 自分を律することができず,時間や締め切りを守れなかったり,健康状態や精神衛生を健全に保つことができなかったりするのではないか.
    • また,就職できてもそのまま終身雇用というわけではありません.大卒に比べてドロップアウトは解雇されやすいかもしれません.再就職も簡単ではないでしょう.
    • 一方で,こうしたデメリットを上回るだけのメリットがあればドロップアウトもひとつのよい転機になるでしょう.
      • 大学で学んだことがまるで生かせない仕事であれば,早めに働き始めたほうが有利に働くこともあるでしょう.たとえばトラック野郎がマクロ経済学を勉強しても仕事に直接活かせるものはほとんどないでしょう.
      • あるいは,今は景気が良いので就職しやすいが,来年は景気がきっと悪くなるはずだから来年の就活まで待っていられない,という確信があれば就活の時期を早めるのもありでしょう. 労働市場に出るタイミングは重要です.
        • 仮にご友人の経験通り「景気が良ければ,大卒でなくてもOK」が成り立つとしても,「景気にかかわらず,大卒でなくてもOK」とは言えませんね.
    • なお,以上は私の勝手な想像であり,エビデンスに基づいたアドバイスではありません.労働経済学を勉強した上で自分の責任と信念で判断していただけるとありがたいです.
    • 個人的には,大学を卒業するメリットは,労働市場で報われることよりもむしろ,学問を通じて知的に成熟できることにこそあると思います.知的好奇心と無縁の人生を歩むことは,金銭的に貧しいことよりもはるかに恐ろしいです.おっしゃるように大学卒業は就職の必要条件ではありませんが,就職だけを目的としない気概を持ってほしいと思いますし,自分の人生にとって本当に必要な何かに時間と労力を注ぐことができる機会を最大限活用してほしいと思います.
  • 「インフレの方がいいと思った.日本はいったいいつになったら完全にインフレになるのかなと思ったり」
    • 日銀に質問してください.
  • 「最近ニュースでは,モノの値段が上がっているとよく見るが,総需要は増えてない気がするし,所得も変わっていない気がする.実際に物価だけが上昇することはあるか?」
    • 物価や所得の動きは,感覚や気持ちだけでは捉えられないと思います.たとえ統計データを見てもそう簡単にはわからないものです.ニュースの煽りに乗らないようにしましょう.
    • 実際に沖縄の所得の動きを数字で確認してみましょう.縦棒が,2012年11月のタイミングを表します(日銀総裁交代後の金融緩和は13年4月にスタートします).
    • 沖縄の男性の名目所得(決まって支給する給与), 単位: 万円. 黒線が季節調整値,青線がトレンド.薄い線が原数値.出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.

      沖縄の女性の名目所得(決まって支給する給与), 単位: 万円. 黒線が季節調整値,青線がトレンド.薄い線が原数値.出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
      • 13年夏頃までは賃金が上昇したように見えますが,それ以降はいまいちのようですね.
    • このグラフだけだとわからないことが多いので, 所得の変化率を見てみましょう.
      沖縄の名目所得の変化率とインフレ率.青実線が男性の所得,赤点線が女性の所得,緑がインフレ率(那覇市の消費者物価指数).すべて前年同期比,単位 %. 出典: 沖縄県「消費者物価指数」
      • 2010年~2013年頃までは,男性の名目賃金とインフレの動きは連動しているように見えます.インフレに応じて名目賃金も調整されるかも,という話と整合的ですね.しかし,13年夏頃~14年夏頃(消費増税決定前のアベノミクス初期)は,物価と賃金が逆の動きをしているようです.(最近は賃金がプラス成長圏内に戻ってきています.)
      • 結局のところ,単純に記述統計だけを見て安易な結論を得るのは難しいようです.
    • 元々のご質問はインフレだけ生じて実質的には豊かにならない・むしろ貧しくなることはあるか,ということですが,十分ありえる話ではないでしょうか.ただしそれが常とは限らないと思います. 
  • 「インフレが悪いと言われているが,企業が賃金を上げたり,名目金利がインフレに応じて動いたりすると,実際はそうでもないとわかった」
    • ナイスな要約能力ですね.
  • 「沖縄の成人式ってどう思いますか?」
    • 参加したいけどおっさんなのでできません.
    • 10代が人生のピークにならないように願います.

Wednesday, January 7, 2015

経済政策II, 第13回, 2014

今年もよろしくお願いします.


準備が遅くなりましたが,レジュメ5練習問題2はアップロード済みなので用意して授業に臨んで下さい.

講義内容
  • 労働市場の指標いろいろ
    • 完全失業率,労働力率(労働力人口比率),など指標の定義を正確に理解しておこう.
    • どういう人が完全失業者ではないのか,を考えると理解が進むはず.
    • 労働市場でも需要と供給は大切.
    • レジュメ7.4~7.7章は時間の都合上省略.テストにも出題しない.

コメントより
  • 「完全失業率 = 仕事をしていない人 / 成人,だと思っていた」
    • 専門用語は定義を正しく押さえるのが大切です.日常用語としての「失業」は「完全失業」とは食い違います.
  • 「沖縄は失業率がひどいなと思った.沖縄で職に就くのは厳しいと思いますか?」
    • 人によります.やりたい仕事にもよります.福祉や建設など人手不足の業界もありますが,平均的には全国と比べて厳しいでしょうね.個別の事情は就職支援課かキャリア教育の先生に聞いてください.
    • 就職すること自体を目的とするのではなく,人生を通じて何を成し遂げたいのかを考えるといいと思います.
    • キャリア形成の支援も様々あります(たとえば沖縄県キャリアセンター)ので,適宜利用して下さい.


過労ぎみで心の余裕がないので,しばらくブログの更新は手を抜きます.

Wednesday, December 17, 2014

経済政策II, 第12回, 2014

体調を崩していて申し訳ありません.

講義内容
  • 乗数効果の数理と解釈
    • 需要を産み出すことで,余っている人たちに生産活動をする機会を産み出すことができる.これが乗数効果と呼ばれる好循環を生む.
      • 政府はその最初の一声を挙げる役割を果たすことが出来る.これが財政政策を積極的に評価する一つの理論的基礎になる.
      • ただし現代ではそのロジックは甘すぎてあまり通用しない.
  • 完全失業率とは
    • 定義を押さえよう.たとえば「我々が1年以内に失業する確率」(これは離職率と呼んだほうがよい)などではないので誤解しないように.また,「完全失業者」は我々が想像する失業者のイメージと食い違うところもある.
    • 労働する最低年齢を決めているのは子供の権利条約だと口が滑ったが,正しくは最低年齢条約と労働基準法.訂正&お詫び.
      • 今年のノーベル平和賞は,子供,特に女子の教育機会を訴える人が受賞した.『わたしはマララ』は未読だがよい本らしい.
      • 児童労働は,一時的にキャッシュが得られるという便益はあれど,将来の稼得能力が低下するという費用がかかる.(児童労働と競合する非技能労働者の賃金も下がるかもしれない.) アルバイトに大幅に時間を割いている・割かざるを得ない高校生・大学生を目にする機会が増えたこともあり,個人的には気になる問題である.
次回
  • 今年の本講義は今日で最後である.来週は土曜日日程である.次回は1月7日になるので間違えないように.
  • レジュメ4は半分までしかカバーしない予定.レジュメ5も近日中にアップロードするので,印刷するなどして用意してほしい.

コメントより
  • 「計算するところがとても大変だったけど少しわかりやすかった」「けっこう難しかった.次の復習で完璧にしたい」
    • 今回の講義の目的は,無理にでも背伸びをしたらどこまで見えるか,を示すことでした.現時点ですぐさま理解するのは難しいと思いますが,キャパシティ自体を伸ばすことにつながればと思います.
  • 「成人式は希望休2回しか取れなかった」
    • バイトはあまり交渉力を持たないのが普通ですね.次回講義では非正規雇用もちょっとだけ取り上げます.

経済政策II, 第11回, 2014

更新し忘れていた.

講義内容
  • SNAにおける租税
    • 税金は支出ではなく所得移転.我々の可処分所得が減った分は政府のところに行く.
      • もし税金によって家計や企業が行動を変えたり,政府が使い道を誤ったりする場合は,税金によって資源が浪費されることになります.
  • SNAにおける政府支出
    • クラウディング・アウトの可能性が古来指摘されている.
    • しかし,不況期においては話が変わってくる.

次回
  • 乗数効果を学ぶ.
  • 終わったらレジュメ4に入る.しかしこのままいくと今年度は金融政策をまったく教えられない気がするので,レジュメ4は半分ぐらいしかカバーしない.レジュメ5は現在作り直し中である.年内にはアップロード予定.

コメントより
  • 「苦手な数学が多く出てきたので確かに大変だった気がする」
    • 次週はもっと難しいやつが出てきます.
    • 数学とはいっても,足し算・引き算しか使っていません.

Saturday, December 6, 2014

経済政策II, 第10回, 2014

講義内容
  • 経済政策と経済成長
    • 根本的なレベルで経済政策がうまくいっていないと,長期的には破滅的な結果を招くかもしれない.
    • どうすれば成長できるのかは依然として難問である.
  • 財政
    • プライマリー・バランス赤字が続いており,どこかで変化が不可欠.
  • 中立命題
    • 増税を延期しても借金が消えるわけではない.将来負担が降ってくるなら,それに備えて今のうちから節約する必要があるだろう.資金調達のタイミングをズラしても,我々の生涯所得が増えるとは限らないのである.
次週
  • 45度線モデルをやる予定.この授業の中では数学的にやや高度なトピックになるので覚悟を…

コメントより
  • 「(租税も公債も)理論上は変わらないということだが,今生活がかかっている国民からは増税の方が反発は強そうだなと思った」
    • そうなんですよね.ここは本当に悩ましく難しいポイントです.財政学の中心的な課題につながっています.
    • 我々の素直な感情としてはそうなのですが,政治家にはそうした国民感情を踏まえた上で増税を回避したり,負担があたかもないかのように「イリュージョン」を仕掛けるインセンティブがあるかもしれません.
    • 本来は中立命題がどういう仮定の下で成り立つものなのか,現実にはなぜ成り立たないのか,を丁寧に理解していく必要があります.
    • そしてまさに「今生活がかかっている」(借り入れ制約に服している)国民にとっては,中立命題は通常成り立ちません.とても鋭い洞察だと思います.
  • 「公債がどういうものかがなんとなく分かった」
    • 直接取引に携わることはほぼないかと思いますが,たとえば銀行に預金すれば,間接的に公債に投資することになります.公債の仕組みを知っておくと自分の資産がどうなっているのかもざっくり把握できるようになるかもしれません.
  • 「公債を減らすかどうかも中立命題で変わらないことが分かった」
    • もしかしたらやや誤解があるかもしれません.
      • 財政赤字は,これまでに発行してきた公債(フロー)が積み重なったストックの変数です.ストックとフローの区別に敏感になりましょう.
    • 中立命題が主張しているのは,仮に財政赤字を1兆円減らすとして,「1兆円税金で取る」選択肢と「1兆円新たに公債を発行すること(→財政赤字は結局減らない)」選択肢を比べると,負担は変わらない,ということです.公債で借り換えしても結局いつかは1兆円+利息の分だけ税金を取らねばならないのです.

Thursday, November 27, 2014

経済政策II, 第9回, 2014

試験に出した平均労働生産性のグラフ,何回見てもホラーだと思うのでblogにも再掲する(ただし言うまでもなく地域間で数字を比較するには細やかな留意が必要である)
沖縄と南九州の就業者一人当たり実質GDP. 出典: 内閣府「県民経済計算」 05年基準.
週末のARSCシンポジウムで,建設的な学術的議論がなされることを期待したい.

中間試験の講評:
  • 45人受験,平均80.02, 中央値82, 標準偏差16.66.
  • 以下の得点分布からもわかるように,約6割の学生がSまたはA評価.このままだとFの可能性がある人は期末で挽回を.
  • 国際経済学IIの反省(?)が活かされた.
以下ミスが多かった問題を簡単に解説.(追記: 役目を終えたので削除しました.)

参考文献
  • 香西泰 (2001) 『高度成長の時代』 日本経済新聞社

Wednesday, November 19, 2014

経済政策II, 第8回, 2014


講義内容
  • 総需要・総供給分析
    • インフレにも2種類ある.総需要によるもの(ディマンド・プル)と総供給によるもの(コスト・プッシュ).
    • 曲線の形状によって,効果の大きさが変わってくる.
      • 現代でも,総供給を動かす方に力点を置くか総需要を動かす方に集中するかを対立軸にして激論が交わされることがある.
      • こうした対立を理解しておくと,政治の流れを掴めるかもしれない.
    • 横軸が名目GDPではなく実質GDPなのは,実質が数量的な変数だからである. 「年収300万円」(名目)ではなく,「自動車3台分の年収」 (実質),というイメージ.実質と名目の区別はこの講義では何度も出てくる重要事項.
次回
  • 中間試験を予定.少なくとも欠席しないように.欠席している友人がいれば一声かけよう.
  • 出席できない事情があれば試験実施前に相談を.
コメントより
  • 「非弾力的な曲線を動かさないといけない」「どんなに曲線を動かしてもただデフレになるだけな場合がわかった」
    • 講義中に弾力性という専門用語を使うのは避けていましたが,よくご存じで.
    • 我々は曲線そのものを現実に観察することができません.そのため結局現実はどうなっているのかについては,学者の間でも見解の相違があります.
  • 「インフレ・デフレがわかった」
    • このモデルを頭に入れておくだけで様々な議論を整理することができるようになるでしょう.ただ,総需要や総供給がどこから出てきたのかをマスターするまでにはけっこう長い道のりを越えねばなりません.
  • 「来週までに復習しようと思った」
    • ぜひぜひ.
  • 「GDP,財政政策,金融政策,成長戦略,鼻」
    • 芥川?

Friday, November 14, 2014

経済政策II, 第7回, 2014

追加緩和は,財政当局とのゲームを動かした感がありますねぇ.

講義内容
  • 均衡と比較静学
    • 需給が一致するポイントに注目しよう.
  • 総需要と総供給
    • 需要と供給のアナロジーをもって,マクロの動きを見てみる.
 次回
  • マクロの需給を考える.時間があればレジュメ3に入る.
  • 中間試験用の練習問題を作成・アップロード済み.

コメントより
  • 「需要と供給のどちらかが0になったらどんなグラフになるのか? たとえば閉店セールとか」
    • よい質問ありがとうございます.例外的ケースを考えるのはとても大切な思考実験だと思います.
    • 閉店セールは通常の企業活動とは違った問題を解かねばならないので,プライス・テイカー企業の供給曲線ではあまりうまく表せない気がします.あえてやるなら,「価格はもはやいくらでもよいので,一定量売りさばきたい」と考える企業の供給曲線は,垂直な供給曲線で表せそうです.たとえば下図を見て下さい.図のように供給曲線が垂直に変化すると,普段なら超過需要が生じるような水準まで均衡価格が下がっていくことが読み取れそうです.

    • 供給が少なすぎて取引が成立しないケースの例を図示します(下図の右側).学部の男女比が偏りすぎていてなかなか彼女が出来ない,という感じでしょうか.
    • 反対に需要が少なすぎて,価格ゼロ,つまりタダでも取引が成立しないケースの例を図示します(下図の左側).たとえば空気は,生存には必要だがそこら中にあるので,お金を払わなくても吸うことができています.
    • 需要量ゼロや供給量ゼロは,垂直な需要曲線や供給曲線を縦軸にビタッとくっつければ図示できます.
左: 全部買ってもまだ余る.右: 足りなさすぎて市場では価格が付かない.

  • 「ありがとうございました」
    • こちらこそ.
  • 「GDP…ごめんね・ドメスティック・プーさん」
    • 山田くーん,これ一枚持って行きなさい.