Thursday, December 17, 2015

経済政策II, 第12回, 2015

講義内容
  • 労働市場のモデル
    • 労働についても需要と供給の視点で分析する.
    • 均衡にすぐ到達するとは限らない.賃金が高止まりしてしまえば,いつまで失業が長引くかわからない.
  • 次回は比較静学の残りを倒して,レジュメ5に突入します.そろそろ今年度も佳境に入ってきましたね.

コメントより
  • 「名目賃金を下げるのではなく物価を上げる,つまり労働者の技術や生産性を上げることさえできれば,失業者はいなくなるのでしょうか? (実質賃金が下がる?)」 「労働需要を実質賃金で表すのは,名目の支払っている賃金ではなく,その人の能力(実質的な労働力?)を見て,どのような価値を生み出せるかを見ているという認識で大丈夫?」
    • 講義の先回りをしたコメントで,とても鋭いです.
    • 物価を上げる→名目賃金が動かなくても実質賃金が下がる→雇用増,という経路については次回紹介します.肝心の物価を動かす手段として金融政策があるよ,という話がさらにその次の回の議論になります.
    • 細かいことですが,「物価を上げる」 = 「技術や生産性を上げる」,ではありません.労働生産性が高まるような変化は,労働需要曲線を右側にシフトさせることで表すことができます.ロジックとしてはとても似ています.中級ミクロ経済学をしっかり学ぶと,その微妙な違いを知ることができるでしょう.
    • 実質的な労働力を見て,という理解でさしあたり大丈夫です.(より正確には,限界的な,という言葉も必要になりますが.)
      • ちゃんとやると時間切れになりそうなのであいまいな説明になってしまいましたが,今後は名目ベースでの議論にしてもよいのかもと思いました.まぁ来年度この講義は不開講になりますが.
  • 「賃金が高くなれば労働者も増えてよくなると思っていた.沖縄県は賃金も低く,労働者は増えると考えられるのだが,なぜ沖縄は失業者が多いのか.むしろ,最低賃金を上げた方が,労働者は増えやすいのか.」
    • 賃金は需給のバランスの中から結果的に決まる(内生)変数です.どういう原因で賃金が上がったか,によって善し悪しの判断は異なってくるかもしれません.
      • 今の政権は賃金を上げよう,と躍起になっているようですが,どういう政策ロジックを持っているのかわかりにくいと感じています.
    • 労働需要曲線を左にシフトさせていった状況を想像してみてください.均衡賃金は低くなり,失業者も増えそうな予感がしませんか? 労働需要が左側に位置する,つまり企業が労働者をそれほど欲していない,という理由はいろいろありそうです.生産性が低い,というのが最有力候補ですが.
    • 最低賃金を上げた方が雇用が増える,というシナリオはもちろん考えられます.求職者が職探しにいっそう努力するようになる,企業側の独占力を削ぐ,などです.一方で,若者や低技能者の雇用機会を奪いスキルの蓄積を妨げる,企業が人件費を価格に転嫁して物価が高まり実質賃金が下がる,など副作用もありえます.最終的には政治判断にゆだねざるを得ないですね.
    • 最低賃金は経済学と法学とで対立が生じやすいテーマの代表です.大内伸哉・川口大司 (2014) 『法と経済で読み解く雇用の世界(新版): これからの雇用政策を考える』有斐閣,はかなりおすすめ.
  • 「労働供給が変わらず労働需要が変われば均衡も変わるのか?」
    • 2つの曲線が交わるところを均衡としていますので,どちらかの曲線が動けばもちろん変わりますね.講義でやったように労働供給曲線が垂直だと均衡雇用量は変化しませんが,均衡賃金は変化しますね.
  • 「沖縄の最低賃金は677円→693円になりました」
    • ありがとうございます.来年は700円台に乗りそうですね.
  • 「最低賃金は名目賃金か?」
    • 制度的には名目(693円,とか)で定められています.ただし,この名目最低賃金率を決めるときに政府や審議会のメンバーはインフレ率も当然考慮しているのではないかと思います.
      • 政府の役割については,大竹文雄 (2015) 『経済学のセンスを磨く』 日本経済新聞出版社,が鋭い指摘をしています.(日本経済研究センターでその元となるコラムを読むことができます.)
  • 「供給のグラフは,どんなに賃金が上がっても下がっても垂直か?」
    • 現実には,どんなに賃金が変化しても労働供給が反応しない(垂直),ということはありえません.疑問はもっともです.講義で扱っているグラフは,均衡とその周辺だけを切り取って単純化したもの,と考えてください. 
    • 実際にグラフがどういう形状をしていると考えるのが自然なのか,はデータに聞いて確かめることになります.
  • 「均衡賃金は,上がったり下がったりする変化はあるか?」
    • 上がるかもしれないし下がるかもしれない,というシナリオを考えることは可能だと思います.ダイナミックなモデル化を行えば賃金の動きを複雑にすることは可能です.
    • 難しい定式化に挑む前に,シンプルなモデルの成り立ちを深く理解することを優先してください.
  • 「60歳までに1億かせぐってタイトルの本にもそのようなことが書かれていたのを思い出した」
    • 1億ぽっちだと目標がこぢんまりとしていませんか.
  • 「市場の多様性を実感することができた」
    • 今学んでいるモデルは,企業も労働者もみんな似たもの同士,という多様性の乏しい世界を暗黙に想定しています.想像力を自由に働かせると同時に,論理を丁寧にたどっていただけるとうれしいです.
  • 「2015年はお世話になりました.2016年もしっかりがんばりたいと思いますのでよろしくお願いします」
    • こちらこそお世話になりました.
  • 「今日はわかりやすかった」「とてもわかりやすかった」
    • ありがとうございます.

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