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Sunday, August 21, 2022

2022都市経済学講義メモ6

 講義メモシリーズ最終回.我ながらけっこう面白い講義になったと思うし,学生も課題が難しいという以外はわりと好感触っぽかったので,あと数年ブラッシュアップしたらカジュアルな本にでもまとめたいものである.新しい研究アイディアも一つ思いついたので,一段落したら取り組んでみたい.専門分野の講義をするのは楽しい.


7. housing and land markets

不動産の概観.砂原『新築がお好きですか?』が,経済学者の書いたものではないけれど,読み応えがあってよい.比較制度分析は今はあまり見かけない気はするが重要な視点だと思う.

Glaeser and Gyourko (2005) やSaiz (2010) を,ストック・フローアプローチを混ぜたようなモデルで紹介した.しかしモデルと現実の距離がけっこう遠く感じ,あまり好みではない.

嘉手納町が「人口が減ってる原因は住宅供給が足りないから」という趣旨のことを言っているみたいだけど,どういうモデルを想定してどう識別しているのだろう? 超過需要が需要減の原因とは? 負の供給ショック? 価格見て言ってるのかな?


7.2. Bubble

収益還元法を教えるついでに土地バブルについて話をした.

Bernanke, Gertler and Gilchrist (1999) などの金融アクセラレーターやOlivier (2000) の成長促進バブルもちらっと紹介しておく.

平成初頭にも都市経済学者の間では,そもそもあれはバブルだったのか (ファンダメンタルズの動きで説明できる部分も多かったのでは),金融政策だけが問題なのか,など深い議論が交わされていた.しかしその後どういった方向に議論がいったのだろうか…

GFC前夜,サブプライムのときは不動産バブルが大変だったという話をしたが,最近のCase-Shillerは当時をはるかに上回る価格上昇ぶりで,米国は住宅危機にあるようだ.住宅供給危機なのだろうか?


8. Transportation

8.1. Congestion externality

外部性やらピークロード・プライシングやらの話から始める.

で,混雑は他人の時間や体力を奪う,というだけでなく,健康被害もあるという研究を紹介した.

Currie and Walker (2011) は,ETC導入で料金所付近の混雑が緩和されることで,未熟児・低体重児が生まれるリスクが減った,というDiDをしている.政策含意が明らかで重要な研究だと思われるが,そんなに効果量は大きいのだろうかという気はする.

また,学生から質問があったが,なぜ比較群はもともと介入群より低出生体重児が多いのだろうか.混雑のボトルネックから離れている人たちはもっと低くてもいいはずである.本当に平行トレンドという形での比較可能性が正当化できる群なのだろうか.

講義資料を作った後に見つけた研究,Herrnstadt et al. (2021) はCurrie-Walkerと似た議論をしている.高速道路付近での風向きをチェックし,風下にいると (風上に比べて) 粗暴犯罪が増えるとのことである.風を日次でみるとたしかにそこそこランダムだと思われるので,おもしろいデザインだと思う.


8.2. addressing congestion

渋滞緩和政策をどう考えるか,という視点で議論を進めた.Wardropモデルを紹介し,インフラ投資の効果はシステム全体に波及するので,素朴なDiDはダメよ,という注意喚起をした.Braessのパラドックスは名前だけ紹介.

Robert Fogelの議論も紹介.ついでにDonaldsonみたいに,同質財の価格差や貿易シェアといった観測可能な情報から,観察できないものを埋めるような分析も紹介しようと思ったが,時間が足りず省略.


8.3. Mobility as a Service

スマートシティやMaaSといった最近の話題も紹介しておいた.MaaSはプラットフォームの理解なく事例を追いかけてもあまり意味がないと感じたので,両面市場も勉強しろと念を押して置いた.

MaaSの皮切りになったHeikkila論文は修士論文だったそうな.修論で大きなビジョンを提示するというのはなかなかできないなと思ったが,修論だからこそ大風呂敷を広げられるとも思った.

あと,交通はエンパワーメントとしての役割ももっているとも強調しておいた.AI, IoTなど技術は (上滑りなバズワードになりがちだが) 助けになると思われる.足が不自由でも,リモートワークで活躍できるようになるかもしれない.モビリティを (コスト・ベネフィットに見合った形で) 高めることはこれからの時代も重要な課題であり続けるだろう.


9. Conclusion

全体を振り返ると,実証全盛期のご時世を反映した講義となった.教科書には載っていない,大学じゃないと聞けない講義になったと思う.

学生の反応は,内容はおもしろいけど数学はちょっと…って感じであった.高校までに習う数学がほとんどだったと思うけど… (その後,高校で微分をやっていないことに気づいた).

久しぶりに対面講義中心で行った.BA.5が心配な時期ではあり自身が感染しなかったのは幸運だったと思うけれど (バイト先は学生の10%弱が対面試験を感染症のため受けられなかった…),なんやかんやで教室に来てもらうことは大事な気がする.あと,教室のプロジェクタが悲惨だったので,これだから地方国立は…と感じた.


終わった後,この分野に興味があるけど就職はどういうところがいいのか,という質問をもらった.公務員や不動産・交通以外にあんまりいいところが思いつかなかった.都市計画や建築や金融の人とは違った,都市経済学人材ならではの出口はないものだろうか.学士だと専門性では勝負できないとしても何か関連業界があるとうれしい…


後期は必修ミクロを担当予定である.正直ミクロは得意じゃないし好きでもないので…….


Reference

砂原庸介 (2018) 『新築がお好きですか?:日本における住宅と政治 (叢書・知を究める)』ミネルヴァ書房

Bernanke, Ben S., Mark Gertler, and Simon Gilchrist. "The financial accelerator in a quantitative business cycle framework." Handbook of macroeconomics 1 (1999): 1341-1393.

Currie, Janet, and Reed Walker. "Traffic congestion and infant health: Evidence from E-ZPass." American Economic Journal: Applied Economics 3.1 (2011): 65-90.

Herrnstadt, Evan, Anthony Heyes, Erich Muehlegger, and Soodeh Saberian. 2021. "Air Pollution and Criminal Activity: Microgeographic Evidence from Chicago." American Economic Journal: Applied Economics, 13 (4): 70-100. 

Olivier, Jacques. "Growth‐enhancing bubbles." International Economic Review 41.1 (2000): 133-152.

Monday, July 11, 2022

2022都市経済学講義メモ5

研究室のWi-Fiアクセスポイントが不調で,1週間ほどネットにつながらずいろいろと滞っている…

講義録続き.

6. system of cities

これまでは都市内の話.ここからは都市システムを俯瞰した話.

6.1. Rank-size rule

都市規模は正規分布のようにはなっていないよというよく知られた話.Oshiro and Sato (2021) でもこういう議論やってるよと軽く宣伝しておいた.

学生がExcelで作図できるようsizeとrankのデータセットも用意しておけばよかったと,終わった後で思った.


6.2. Central Place Theory

森先生のPNASも紹介しておいた.

財の「次元」ってなかなかピンとこない概念だけど,Hsuのような説明を匂わせるようにした.


7. Economies of Agglomeration

都市経済ならではのセクションであり,腕の見せ所である.Moretti本のようにMarshall型を現代的な解釈で紹介するといい気がしつつ,ベストセラー丸パクリだと寂しいので適宜工夫する.

地域特化・都市化という分類は正直あんまり好きではないなと思った.Nursery Cityって実証あるのかな.あとHHIは都市化の指標としてはいまいちだと思っている.

逆因果に注意しよう,というのはこれまでの講義で何度か言及してきたので,sortingについても議論を足した.De La Roca and Puga (2017) は,むしろsortingの効果は弱くて,都市でlearningした成果が地方に移動してもなお残る (ので静学的な集積経済が固定効果を入れると弱るように見える),という動学的な効果を強調していて,こちらもちらっと紹介した.

今まであまりよく考えていなかったが,集積の弾力性1%って,都市規模2倍で年収1%up,都市規模10倍で2%強upみたいなマグニチュードなので,とても微妙に感じる.さすがにもうちょいあるのではという気もする (地方で年収200万円の人は東京で300万円ぐらいあっても? (人口だけでなく資本装備率なども違うのでしょうが)).

あと,弾力性が4%のとき,都市規模2倍になっても4%は上がらず,2.811%しか上がらないような気がする (2^0.04 = 1.02811...).弾力性って100倍して解釈するとけっこうズレてしまうものなのか…?

以前Behrensかだれかが,Matching-Sharing-Learningの他にSignalingもあるのではというのを指摘していたが,出所が思い出せない.

講義には間に合わなかったが,Papageorgiou (2022) では,大都市は職業の選択肢が多く,マッチングの質が高まる,というlabor poolingのモダンな実証をしているようで,面白そう.

都市はバラエティ豊か,という話はいっそう重要な時代になってきている気がする.多様性については,沖縄はテレビ局の数も少ないよねみたいな例がわかりやすい気はする.

価格そのものは都市と地方と大差ないけど,選択肢が都市のほうが広い.そのため高所得者ほど都市の消費機会の恩恵を受けやすいようである (Handbury and Weinstein 2015; Handbury 2021).

昨日の参議院選挙で思ったことだが,この春郊外に引っ越したことで,徒歩圏内に投票所がないという状況を人生で初めて経験した.日本中どこでも (さすがに離島などは除くが) 投票はすぐそこでできるものだとばかり思い込んでいた.政治的な機会も,都市とそれ以外とで大きく差がつくようである.


Reference

Handbury, Jessie, and David E. Weinstein. "Goods prices and availability in cities." The Review of Economic Studies 82.1 (2015): 258-296.

Handbury, Jessie (2021) "Are Poor Cities Cheap for Everyone? Non-Homotheticity and the Cost of Living Across U.S. Cities." Econometric, aVolume 89, Issue 6, 2679-2715

Oshiro, Jun, and Yasuhiro Sato. "Industrial structure in urban accounting." Regional Science and Urban Economics 91 (2021): 103576.

Papageorgiou, Theodore. 2022. "Occupational Matching and Cities." American Economic Journal: Macroeconomics, 14 (3): 82-132. 

Roca, Jorge De La, and Diego Puga. "Learning by working in big cities." The Review of Economic Studies 84.1 (2017): 106-142.

Sunday, June 12, 2022

2022都市経済学講義メモ4

最近,Consumer Cityは「趣都」と訳すといいのでは,と思いついた.

それはともかく,講義メモの続き. 15回の講義で,用意したものすべてできなさそうな予感がしてきた. 

5. segregation and urban poor

日本だとあまり意識しないけど,segregation (特に人種) は都市の重要な問題である(が個人的には詳しくない).

5.1. agent-based Schelling

昔QuantEconを見ながらSchellingのsegregationを計算したことがあったので,それをさらっと紹介した.

ちょっとした差別意識があると,数世代後には大きな断絶ができることがある,という話.

人は集団への帰属意識を見出しやすいことや (Hargreaves Heap and Zizzo 2009だと,自分と違う集団を信頼しない),差別意識にもtipping pointがあることも紹介した.


5.2. urban poor 

貧困層が都市内で固まりスラムができる,といった問題も紹介.スラムの問題は社会学に学ぶことも多いと思われる (白波瀬 2017など).

Matt Kahnが最近書いていた本で紹介されていたけど,貧困地域は物価も高いそうだ.万引のリスクがあるから (+空間価格差別) とのこと.そういえば県内某貧困層向けスーパーは品質の割に高いよなーと思い当たるフシがあった.

ただし,モビリティ低い貧困層向けに独占力を行使する,というストーリーはDellaVigna and Gentzkow (2019) を思い起こすとなんとなく合わない気がする.

講義ではHeblich et al. (2021) を紹介した.汚染地域に貧困層が集まって,汚染が解消された後もそれが続くとのこと.


5.3. affordable housing

公営住宅やレント・コントロールなど,福祉政策としての住宅政策があることを紹介.ただし日本だと公営住宅は乏しく,家賃補助もほぼ普及していない.

価格を歪めるような政策はそもそも正当化が容易ではないことも,よくある効用最大化モデルで見ておいた.もちろん,現実が完全競争市場ではないこと,効率性がすべてではないことも注意すべきである.


5.4. CMTO

Chettyらの一連の研究では,internegerational mobilityに地域間変動がかなりあることが指摘されている (Opportunity Atlas).さらにChettyはいい場所に移住させてどうなるか評価しようとしているようだ(CMTO).

そういうわけで,MTO, CMTOを簡単に紹介しておいた.貧困や格差に経済学ではこう取り組むことができる,という一例である.

恵まれない人は,好きで希望のない場所に住んでいるわけじゃない.いい場所に住居を確保する能力 (ケイパビリティの一種?) が欠けていてそれを比較的低コストで埋められるなら,いい政策になると思われる.

とはいえ,Opportunity Atlasで推定されるmobilityは,次世代にも外挿できるのかが気になった.いい場所にはいい学校があったのかもしれないけれど,現代の子どもを移住させてもいい先生やいい校長はとっくの昔にいなくなっていていい設備は陳腐化しているかもしれない.(論文読んでないので未確認)


貧困層を富裕地に移動させるCMTOとは逆に,「中の上」ぐらいを貧困地域に移動させる例が,Cummingsら (2002)で報告されている.いわく,移住してきた人は住居の周りに「フェンス」を張って,周りとはほぼ交流しなかったそうだ.砂漠にオアシスはできたけど緑化はしなかったという感じ.social networkが形成されるインセンティブもよく考えないと,CMTOは思い通りに機能しないかもしれない.


Haltiwangerら(2020)のHOPE VIプロジェクトだと,移住によるいい効果は雇用機会改善 (空間ミスマッチ緩和?) によるようである.子供の育つ環境も大事だけど,親の経済的な安定性を高めることも重要な気がする.


Reference

Cummings, Jean L., Denise DiPasquale, and Matthew E. Kahn. "Measuring the consequences of promoting inner city homeownership." Journal of Housing Economics 11.4 (2002): 330-359.

DellaVigna, Stefano, and Matthew Gentzkow. "Uniform pricing in us retail chains." The Quarterly Journal of Economics 134.4 (2019): 2011-2084.

Haltiwanger, John C., et al. The Children of HOPE VI Demolitions: National Evidence on Labor Market Outcomes. No. w28157. National Bureau of Economic Research, 2020.

Hargreaves Heap, Shaun P., and Daniel John Zizzo. "The value of groups." American Economic Review 99.1 (2009): 295-323.

Heblich, Stephan, Alex Trew, and Yanos Zylberberg. "East-side story: Historical pollution and persistent neighborhood sorting." Journal of Political Economy 129.5 (2021): 1508-1552.

白波瀬 達也 (2007) 『貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死』 中央公論新社


Monday, August 5, 2019

経済学入門II・経済学I, 2019

諸事情で今年新しく持つことになったミクロの入門講義の雑多な振り返り.
  • 2つのクラスでAcemoglu-Laibson-Listのミクロ編を元ネタに使った.半年でカバーできたのは以下の部分.
    • Cahpter 1: 経済学の原則と実践
    • Chapter 3: 最適化
    • Chapter 4: 需要,供給,均衡
    • Chapter 7: 完全競争と見えざる手
    • Chapter 8: 貿易 [福祉のみ]
    • Chapter 9: 外部性と公共財 [法経のみ]
    • Chapter 13: ゲーム理論と戦略的振る舞い [福祉のみ]
  • 入門講義をスライドだけでやったのは個人的に初めての試みだった.レジュメ+板書よりカバーできる範囲が広まるものの,不正確な記述が増えるので教科書も合わせて読んでほしいという思いを強くした.ALLミクロは現時点では翻訳されていないので,学生が買って読める教科書ではないという点ではいまいちだったかも(訳されていても学生は買って読みそうにないが…).
  • ALLミクロはその他いくつかの理由で使いにくかった.まず,ネタがちょっと古い.たとえば「Facebookはタダか?」では今どきの学生はFacebookやってないので代わりにInstagramのデータを探してくる手間がかかるとか,「ベネズエラのガソリンは激安」ってハイパーインフレの真っ最中やんけとか.
  • 経験主義が大事,というわりに,エビデンスの例はわざわざ講義で時間使って紹介するほどじゃねーなというものが多かった気がする.ただ,結論めいたことを示す,というよりオープン・クエスチョンを挙げたり,自分でやったフィールド実験を紹介したりしており,学生が自分でコラムを読めば知的に刺激がありそうではあった.
  • 微妙に回りくどく,見通しが悪い.たとえば無差別曲線をスルーして予算制約だけで効用最大化問題を説明する,数学をすっ飛ばしてFOCを説明する,など,意図はわからないでもないがなんだか中途半端な印象がある.教える側がいろいろ補足する必要が,他の定番テキストに比べて大きい気がした.
  • とはいえ,Hotellingモデルでいう線分の真ん中あたりにある入門テキストの中では,行動経済学・実験経済学もよく組み入れられている点では随一であると思う(そりゃそうだ).今後改訂を重ねてもう少し使いやすくなることを期待.
  • コメントの中で,先生はAdam Smithが好きそう,みたいなのがあった.ALLミクロにはほとんどSmithは出てこない.私が勝手に何度もSmithを引き合いに出しただけなのだが,入門の題材にSmithはわりとハマりやすいと思った.とはいえ私はSmithの著作なんてまるで読んだこともなくたいして思い入れはないのだが….
  • 期末試験がひどいできだった…たくさんの恨みを買うことになりそう.
    • 教育の質を一定以上保証するためにも,ある程度譲れないラインがある(たとえば需要曲線を読解できる,など).そこに多くの人が到達できるようもう少しエクササイズをみっちりやってもよかった気はする.
  • 入門ミクロなんて誰がやっても同じでしょ,と思っていたけど,実際は教える側の力量がシビアに試される気がした.
  • 教職向けの科目を担当した都合で,教員採用試験の問題を初めて目にした.経済学に関しては悪問ばかりで眉をしかめた.素人が片手間に作っているのではないかと思われた.教採対策を意図した講義をするのはかえって不誠実な気がしたので,8割ぐらいは普通のミクロ入門を叩き込むことにした.

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年度末にメインで使っているパソコンが壊れ,予算の都合で買い換えられない状態が半年も続いてしまった.教育も研究も,特定のマシンと特定の予算に依存しすぎないように環境を考えねばならないと痛感.



Saturday, February 9, 2019

沖縄経済論2018 アップデート

沖縄経済論という個人的に気に入っている講義がある.講義と成績評価を終えて一段落したところで,振り返りのポストをしておく.
今年度の講義資料は私のウェブサイトにしばらく置いておく.前回からあまり変更はない.今回は受講者数に比べて教室が大きすぎて,若干やりにくかった.想定よりも2コマ分ほど時間が足りなかった…

近年は沖縄経済のことについて熟考する時間もないのだが,2年前の講義から微妙に変わったことについて雑多にメモをしておく.

1. 統計の信頼性

大学院を出たばかりの頃は,データorientedでない論文はいまどき見向きもされないよねと時代の空気を漠然と反映してイキっていたが,毎勤を中心に基幹統計の信頼性が大きく揺らいでいる昨今,集計データでなにかわかったようなことを言うむなしさも感じている.

私の講義は煎じ詰めれば,データをぼんやりながめるとこういうことが言えそうだよね,という話でしかない.データそのものがおかしいのであれば,ただの徒労にすぎない.最近のニュースはとても残念である.

2. 産業構造

昨年末に日銀那覇支店が「沖縄県の所得⽔準はなぜ低いのか(現状・背景・処⽅箋)」というレポートを公表し,私はそれを講義中にこき下ろしたw 最近続編も出てこちらも機会があればなにかコメントしたいと思う.

ともあれ,日銀の見解では,第三次産業のシェアの高さが,所得水準の低さや労働所得の低さと相関があるように見える,とのことである.
  1. 産業間の賃金・成長率格差
    1. 因果関係はいったんおいたとしても,製造業のほうが他の産業よりも賃金率や成長率が高い,というなら日銀の見解は理解できる.しかし,IT革命以後は製造業が唯一のリーディング産業というわけでなく,産業間の賃金格差も以前に比べるとずっと縮まっているように思う.単純に産業のシェアだけをみてどうこう言うのは(入門レベルの授業では私もやるけど)無理があると思う.
  2. 内生性
    1. 産業構造はpersistentながら,givenなものではないと思う.初歩的なリカード・モデルでは生産性が産業構造を規定するわけで,産業構造が何らかの原因とでも言いたいかのような日銀の議論は学部入門レベルさえすっ飛ばしたアマチュア向けのアマチュア理論だと思う.ちまたの評論家がそれをやるのは勝手だし,因果関係にまでは踏み込まない知的慎重さと無責任さはわかるのだが,高い給与と社会的地位をもらっている日銀マンがそれをやるのは正直どうかなと思う.
  3. 基地の影響
    1. 米軍基地のせいで第三次産業が「固定化」「肥大化」という議論をしばしば目にするが,これは論理の飛躍がありすぎると思う.昨今では医療福祉系の雇用・産出が伸びているが,これは本当に基地のせいなのだろうか?デモグラフィ要因が大きいと思うが.また,セクター間の移動が何十年単位でpersistentというエビデンスは多くないと思うのだが.


3. 中世沖縄のabsorptive capacity

琉球王国は交易で栄えたというのが世間一般の共通理解だと思うが,交易に不可欠な資本(遠洋航海可能な船舶)やスキル(語学)・信用(契約履行)はどこから来たのか,が2年前からの疑問である.
講義では,absorptive capacityやadoptionのインセンティブが低い&鉄や材木が取れないため,船舶を自給することが難しかった,というストーリーで話をした.

講義後,17世紀末には中国からの支援や優遇策が途絶えていたという議論を目にした.単に県民が学ばないアホだったというわけではないのかもしれない.

4. 沖縄の自立

以前と基本的なスタンスは変わっていない.古い世代の学者たちは,モラル・ハザードやソフトな予算制約式という概念を薄々わかってはいるがうまく言語化することができなかった,そのため「自立」というゆるふわワードに頼ったのではないか,と思う.


5. 米軍基地への依存

講義資料を作っていて気づいたのだが,「基地関係収入」と「基地関連収入」は行政・政治的には明確に区別がされている.こうした区別は馬鹿らしいと思われないのだろうか. (また,こうしたいかがわしい区別を明確にし批判した議論はこれまでに真摯になされてきただろうか?)

県がいう「基地関連収入」は軍用地料・軍雇用者所得・米軍等への財・サービスの提供を指す.いわば米軍基地向けの「貿易サービス収支 + 第一次所得収支」である.
一方,県の資料「沖縄の米軍及び自衛隊基地」における「市町村基地関係収入」は,軍用地からの地代収入 + 国からの補助金,という第二次所得収支(+α)に相当するものであろう.

県が基地への依存は5%ほどしかない,と主張する根拠は基地関係収入/県民総所得が5%
程度,というところにあるが,ここには沖縄振興予算や環境整備法・基地交付金に基づく所得移転はカウントされていない.現実的には内閣府の沖縄振興予算の増減が注目されているというのに.「基地関連収入」は政治的に偏ったアンフェアな(運用をされてしまっている)指標だと思う.
「自立」を標榜する人たちが沖縄振興政策のもとで予算を必要としない優遇措置(税率の減免)に明確に反対している姿は見ない.闇が深い.

6. キャッチアップ不在

沖縄と全国平均は,成長率が同じで初期値が違う,という性質がある.2年前はこうしたファクトを手軽にreconcileできる枠組みに思い当たらなかったが,単にAKモデルでよいと気づいた.

ただ,AKモデルのような素朴な世界がデータにぴったり当てはまる世界というのは,かえってデータのほうに問題があるのではないか,県民経済計算の作成プロセスに根本的な問題があるのではないか,という気にさせられる.

講義では教育的な配慮からSolowモデルを中心に教えているが,現実を描写する上でAKモデルのほうがよいとなるとそれはそれで教えにくいし困ったことになる.

7. 北谷

基地返還のポジティブな効果として北谷の発展が挙げられることがよくある.が,データをふんわりながめると,北谷は基地返還後に発展したというより,返還前から発展していた,というほうが正確な予感がする.要は逆因果であり,平行トレンドではないのである.発展しそうな地域だから返還したのであって,返還したから発展したとは言えない.ましてや他の基地を返還しても北谷のように発展する保証はない.

実質賃金が上がった下がったと,学部向け教科書に乗っている同時方程式の識別の問題をすっ飛ばして好き放題言っている人たちがたくさんいる世の中で,内生性を議論しても無力感があるが,県内で「知識人」や「学識者」や「経済界重鎮」として発言してる人でさえ独りよがりの議論をしてしまいがちなのは残念である.


Saturday, June 3, 2017

沖縄の業界地図2017 forthcoming

すでにテレビで取り上げていただきましたが,もうじき『沖縄の業界地図2017』が出ます.
    Qプラスリポート 大学生が作った“沖縄の業界地図”とは

明日から県内の書店に並び始めるようです.近日中にAmazonや楽天Booksなどオンラインでも買えるようになるようです.


こういう表紙です:

本の販促用ウェブサイトも用意しました.どういう本かチラ見できます.
    『沖縄の業界地図』特設ページ 
まだところどころ工事中ですが,時間のあるときにテコ入れします.学生がfacebookやtwitterでも広報活動をしているようですが温かく見守ってあげてください.

基本的に前著『沖縄の業界地図』(Link 特設ページ) のアップグレード版です.2年間の準備期間を経て,今回はところどころパワーアップしています.
  • ボリュームup… 掲載企業数が800社程度から約1300社へ,ページ数が118ページが160ページへと増えています.
    • ページ数が増えたせいで限界費用が高まり,価格もわずかばかり値上げいたしました.ご迷惑おかけします.
  • インタビューも充実… 前著に比べて企業に突撃インタビューした分が増えています.象牙の塔からはわからない企業の生の声をお楽しみください.
コンセプトは前著を踏襲しています.前著と重複するところも多々あり目新しさは霞んでいるかもしれませんが,前著を手に入れた方もぜひ手にとってご覧ください.


一方で,前著には載っていたけど今回は載っていない業界・企業もあります.何らかの恨みや含むところがあるわけではなく,単にこちらの能力の限界で調査し載せる余裕がなかっただけです.申し訳ありません.

本書は2015年度から2016年度にかけてのゼミ活動の成果であり,およそ2017年2月頃までに入手できた情報に基づいて書かれています.財務情報は主に15年度のものです.16年度の決算も次々発表されている時期ですが,最新のものというわけではないのでご注意ください.この冬・春は研究に時間を割いていたこともあってリリースが予定より若干遅くなりました.
(最後のページに執筆者一覧がありますが,年度が1年ずつ間違っていました…学生諸君,すみません.)

前著よりも教員の介入が減っています.学生にかなりの程度任せっぱなしにできたので助かりました.先行研究があるってすばらしい.プロの分析に期待している方には少し物足りないかもしれませんがご容赦ください.前著よりは都市経済学色が控えめになっています.

今回インタビューした中にとあるIT企業の社長がいます.彼のほうが私よりも正確にeconomicsの核心を語ってくれています.これにはとても驚きました.学生が書いてきた原稿はだいたい朱筆で埋め尽くされるのですが,このインタビューは私のほうではほとんど何も触っていません.教員の出る幕なしです.詳しくは直接手にとってご確認ください.


いったいどういう本なのか改めてちゃんと紹介したほうがいいようにも思いますが,前著と同じ路線なので,前著が出た頃の記事を参照ください.
    沖縄の業界地図forthcoming

今やたらめったら忙しくてちゃんと紹介する暇がないので,前著が出た直後に,我がゼミの紹介文として弊学の広報誌(15年の夏頃)に寄稿した文章をそのまま以下に載せます.


沖縄ビジネス界に旋風を起こす
多くの大学教員は「夏休みは仕事がなくていいはずよー」と言われた経験を持っている。たしかに、長期休暇がやってくると教員たちの淀んだ目が輝きを取り戻す。でもそれは暇を満喫できるからではなく、研究を専らにできるかけがえのない時間だからだ。研究者にとっては仕事がないどころかむしろ「かき入れ時」なのである。

夏休みほどではないにしても、ゴールデン・ウィークもワックワクな瞬間だ。毎日研究室に缶詰、ムフフ。でも、今年は研究以外にも楽しみがあった。五月四日、ゼミで作った書籍『沖縄の業界地図』が県内の書店やコンビニに並び始めたのである。

一年前の四月、春粧のみぎり、最初のゼミ。私は黒板にでかでかと「本」とだけ書き殴り、「今年の目標はこれ。本を作ろう。売れる本を作ろう。売ろう。」と昂然と宣言した。戸惑いを隠せない学生たちを尻目に、担当範囲やプレゼンテーション(と懇親会)のスケジュールを決めて、プロジェクトは動き出した。人手が必要なこともあり、豊川明佳先生のゼミと共同で進めることとした。

『沖縄の業界地図』は名前の通り、毎年書店を賑わす「業界地図」のローカル版だ。県内の様々な業界の勢力図が一望できるようになっている。企業人や就職活動中の学生を中心に、需要は間違いなくある。だが供給がなかった。全国的にもユニークな取り組みに挑む好機だ。

教員が果たすべき使命は、沖縄の未来を切り拓く人材を育むことだ。何か新しいアイディアを産み出し形にできるよう、創造力と実行力を鍛えねばならない。我々のゼミは、アイディアを実現するというイノベーティブな知的営為を学生が実体験する場になった。試行錯誤を繰り返すことを厭わず、未知の事態に慌てず、チームと歩調を合わせ、前向きに仕事に取り組む、新聞にも日々目を通す。こうした技能を楽しみながら伸ばす機会を提供することができたと自負している。

我々はただの思い出作りではなく、リスクを背負って市場に価値を問うという真剣勝負を仕掛けた。二千部を完売するのに一ヶ月とかからなかった。美栄橋ジュンク堂では三週連続ランキング一位を記録した。ありがたやー。売れるものを作ろうという目標は見事達成されたのである。



1stアルバムは初期衝動に溢れた伝説の激レア名盤,だけど2ndでいろいろ見失ってコケた,みたいなよくある若いバンドみたいにならないことを祈ります.
1stは沖縄に対する「新感覚」さが一つの魅力になっていました.今回は1stを踏襲しているので「新感覚」さは薄れているかもしれません.さしずめKing Crimsonの「ポセイドンのめざめ」でしょうか…?
(ちなみに今回音楽ネタがところどころ紛れてますが,全部学生の仕業です.本当です.)

なお,3rdは出しません.そろそろ別のイノベーティブなことに取り組みたいと思っています.何より研究にもっとエフォートを割きます.

Tuesday, February 7, 2017

沖縄の経済, 準備編5: 参考文献

タイトルがまだ「準備編」だけど成績評価を終えたところである.新規開設講義だったがなんとか終えることができた.本書いてとリクエストされたが,さすがにそれは遠慮したい.講義資料は,間違っているところもところどころあるけど,しばらく公開したままにしておく.

本講義では様々な学術論文を下敷きにして,沖縄の経済について考える視座を紹介してきた.今回のエントリでは講義の流れを振り返りながら元となりそうな論文を紹介し,私の想定している枠組みの種明かしをしておく.
来年度この講義を不開講とするため,個人的な備忘録が必要だという事情もある.海外の大学ではシラバスに参考論文リストがどさっと並んでいることがよくあるが,それに近い役割も兼ねている.
ちょっと長い雑多なエントリになる.

Monday, November 7, 2016

沖縄の経済, 準備編4: 所得格差

国際学会の大舞台を目前に控え,若干の現実逃避と授業準備を兼ねて少し前に売れていた本,
  • 大久保潤・篠原章 (2015) 『沖縄の不都合な真実』新潮社
をぱらぱらめくっている.経済学に関する記述は飛躍が多くマル経テイストなので読むと何かと不満が溜まる.この手の本を種に沖縄経済論を語るアマチュアたちが論壇を賑わせてもいるようだ.

今回は,読んでいてもやもやした部分から一つレプリケーションをしたよ,というエントリ.沖縄の格差についてデータを確認し,大久保・篠原の記述は不十分であり,沖縄の格差はフローではなくストックが特徴的であることを見ていく.講義で紹介する時間はないのでブログで放出.


所得格差は縮んでいる

沖縄の所得格差に関して,第4章の「日本一の階級社会の実態」という節に以下のような記述がある(電子版で読んでいるためページ数はわからない).
 格差社会の実態を直近の統計から拾ってみましょう。総務省の全国消費実態調査によると、高くなるほど貧富の差があることを示すジニ係数が、沖縄は二〇〇九年度に〇・三三九と全国一です。〇・三三を上回るのは大阪、徳島、長崎、沖縄の四府県だけで、ここ一〇年来最悪です。…[中略]…平均所得は最低レベルなのに地方都市では最も金持ちが多い、すさまじい格差社会です。日本一高い失業率と日本一低い労働分配率が格差の象徴です。
短くまとめると
  • 沖縄はジニ係数で見る所得格差はワースト.
  • 全国消費実態調査が出典.
とのことだ.全国消費実態調査は5年に1度実施される統計で,家計調査と同じく家計の収支を把握するものだが,家計調査よりもサンプルサイズが大きく調査項目も詳しい.沖縄の二人以上世帯の場合n=715である.

折良くつい先月末に全国消費実態調査で最新(2014年)のジニ係数が公表された.私は格差を全国消費実態調査から読み取ろうとすること自体に少し違和感を覚えるが,見るだけ見てみよう.

二人以上世帯について直近15年分の所得のジニ係数の推移をプロットしたのが以下のグラフである.47都道府県+全国を一気にプロットしているのでどれがどれかわかりにくいが,やや太くて赤いものが沖縄,青いものが全国,その他都道府県がその他灰色である.
フローのジニ係数の推移.
  • 従来は大久保・篠原の指摘通り沖縄のジニ係数(赤線)はワーストであった.ところが最新のデータでは,沖縄のジニ係数は全国並に低下している.
  • 二人以上世帯のうち勤労者世帯に絞って見ても同様の傾向である.(水準はまだ高いが)
すなわち,大久保・篠原の言う沖縄の「格差社会」は直近5年間のうちに終止符を打っているように見える.彼らのロジックはもう賞味期限切れのようだ.


資産格差は大きい

所得格差が縮まったとはいえ,私は沖縄は格差社会ではない,と主張したいわけではない.私の認識では,沖縄は所得ではなく富について格差が大きい.これは最新のデータで見ても変わらない.
なお資産格差については大久保・篠原の第5章にも言及があり,私オリジナルの指摘ではもちろんない.

同じく全国消費実態調査には,所得についてだけでなく,資産(3種類)についてのジニ係数もまとめられている.さっそく見てみよう(以下すべて純資産についてのデータ).
貯蓄のジニ係数.

不動産のジニ係数.
耐久消費財のジニ係数.

  • どの資産を見ても,沖縄は資産格差が全国と比べ悪い.貯蓄と住宅については全国ワーストで,貯蓄格差はぶっちぎりである.不動産でのジニ係数は軒並み低下傾向にある全国と違い横ばいである.
  • 所得格差と違い,最新の状況は前回調査時点よりも悪化している.
2009年から2014年の間に所得格差は縮まったけれど富の格差が拡大している状況はどう理解すればよいだろうか.たとえば,次のような説明がありえる.
  1. デモグラフィ
    • 団塊の世代が退職する時期を迎え,高所得層は減ったが資産格差は持続している,という説明はありえる.貯蓄額の格差拡大は退職金が出たとすれば納得だ.
  2. 景気
    • アベノミクス当初は株高になったので,有価証券を保有する層にキャピタル・ゲインが転がり込んできたであろうことが考えられる.
    • いままで失業していたボトムの層が景気拡大に伴って就職でき所得格差は縮まったが,所詮は低賃金の非正規が多く資産格差を縮めるには至らない,のかもしれない.


公務員による支配?について

大久保・篠原第5章では,就業構造基本調査(注: 本文中には労働力調査(厚生労働省)とあるが誤記であろう.同じデータであろうものを用いてもコンマ以下の数字がなぜか合わないが…)も併用して所得分布を見て,高所得層が少なく低所得層が分厚いことを問題にしている.また,公務員の賃金所得を独自に推計し,少数の高所得者を代表するのは公務員だと主張している.

公務員は民間に比べて大卒が多い(2010年国勢調査だと,就業者に占める大卒以上シェアは全産業で17%,公務員で40%)わけで,学歴プレミアムや正規・非正規格差があれば官民に賃金格差があるのはある程度当然だ.官民格差は誇張され扇動的であるように感じる.
公務員の場合受験資格も緩く,機会の平等はそれなりに担保されている.棚ぼたやレントシーキングで不当に得た所得というわけではないだろう.収入源はがっつり捕捉されており脱税・節税も難しい.

行政職の平均年間給与は560万円程度(2015年4月, 新卒除く, 沖縄県人事委員会勧告より)で,ヒエラルキー的には公務員は中の上ぐらいではないだろうか.フリンジ・ベネフィットを含めても,おそらく公務員より電力会社のほうが安泰で高所得だ.公務員の給与程度では,一世代のうちに大きな資産を築き上げることは難しいであろう.
ちなみに就業構造基本調査(2012年度)では,雇用者のうち所得が900万円台あたり以上,世帯所得だと1250万円~1499万円以上が沖縄のtop 1%になる.夫婦ともに公務員でいい役職,というほどでないと上流階級とは言えない気がする.top 1%は主に医者,弁護士,経営者,内地大企業の支店管理職,一部の地主や投資家,タレント,あたりで構成されている気がする.


沖縄の公的部門が大きく,高度人材を(おそらく過剰に)集めている,というセクター間でのmisallocationは私は問題だと思っている.しかし「公が支配する社会経済体制」は言いすぎだと思う.公務員が低賃金の民間人を搾取しているかのようにも書かれているが,公務員の人件費は元を辿れば国からの財政移転から主に出ているし….
大久保・篠原のように観察される所得分布をながめるだけでは格差の原因や非効率性の源泉を(専門家が納得できる形で)突き止めることはできないだろう.



最後に付言しておくと,そもそも論になってしまうが,格差を地域内で捉える意味は私は勉強不足でよくわからない.
社会保障や税制を通じた制度的な再分配は国レベルで行われており地域単位でなすべきことと手段は限られている.(固定資産税は地方が課すものだけどおおむね全国と横並びだ.)
仮に沖縄が格差是正に熱心に取り組んだとすると,地域間で居住移転は自由なのだから(コストはかかるが),沖縄に低所得者が集中し,高い教育を受けた高所得者は県外に逃げ出してしまうだろう.結果的に同質的な低所得者が集まりジニ係数は低下しそうなものだ.でもそれは望ましい変化なのだろうか.
資産格差があると信用制約にひっかかる貧しい層が多く経済に悪影響を及ぼす予感もするが,金融市場は県内で閉じているわけではないので地域内格差が信用制約に与える影響は自明ではないかもしれない.(これは研究ネタにつながる話だろうか?)
人が格差を観察してから何らかのbeliefを形成し何らかの経済変数に影響する,その格差は身近な範囲しか見えない,といった議論はありそうだが,かなり難しい話になりそうである…


まとめ?

公務員の報酬体系に連動している私の所得をあげてくださいーー!!!(切実)

Tuesday, September 27, 2016

沖縄の経済, 準備編3: ボラティリティ

他の講義とは違い,沖縄経済論の講義資料はパスワードを設定せずに私のウェブサイト上で公開することにした.今年からスタートすることもありまるで練られていないが,適宜利用いただきたい.

講義準備をしながら非常に憂慮しているのは,沖縄研究においては研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保する仕組みが機能していないことだ.多くの研究はプロが素直に想像するようなpeer reviewに支えられていない.そのため,そもそも「研究」とみなせるクオリティのものがほとんどない.経済学のトレーニングをまともに受けていない方々が地元の新聞やTV(や大学の教壇)で俺様経済学を披瀝しているのが現状だ.こうした方々を祭り上げる側の見識も疑う.

ところがあいにく私は沖縄の研究をしているわけではなくその予定もない.沖縄経済の講義をするとなると自らの批判が自分に突き刺さってしまう.これではなんとも情けないので,せめて講義資料は一般公開しておくことにする.



今回も講義で省略することにした没ネタを紹介.

一人当たり県民所得の成長率がどれだけvolatileかを眺めてみよう.データ出典は内閣府「県民経済計算」である.

47都道府県,1972-2013年度の名目一人当たり県民所得の成長率(年率)を計算すると次の通り:

これらの系列を$\lambda=100$のHP filterでトレンド除去し,標準偏差を計算した.結果が以下の通り.47都道府県のうち沖縄は16番目に低い.(沖縄は小さくてショックに弱い,みたいな印象論を振りかざす人も見かけられるがむしろボラティリティは低い方である.)

こうして求めた成長のボラティリティは,
  1. 2013年度の一人当たり県民所得とは弱く正の相関.
  2. 1972年度の 一人当たり県民所得とはかなり弱く正の相関.
  3. 41年間の平均成長率と無相関.
  4. 2013年度の産業構造を見ると,第一次・第三次産業のシェアとは弱く負の相関,第二次産業のシェアとは弱く正の相関.
といったことがわかった.

4番目の産業構造については, Moro (2012, 2015)の議論を想定している.サービス業のシェアが高いとTFPやGDPのボラティリティが下がるとのことだ.日本の都道府県レベルでもたしかにそうした兆候は見られる.
たとえば第三次産業産出のGDPに占めるシェアとの相関を図示すると次の通り:

沖縄についてインプリケーションがあるかと言えば,あまりないかな…


References
  • Alessio Moro (2012)The structural transformation between manufacturing and services and the decline in the US GDP volatility. Review of Economic Dynamics 15, 402–415.
  • Alessio Moro (2015) Structural Change, Growth, and Volatility. American Economic Journal: Macroeconomics 2015, 7(3): 259–294.

Saturday, September 24, 2016

沖縄の経済, 準備編2: 子供の肥満

引き続きゆるふわデータエッセイ.講義で紹介するほどうまくまとまらなかったのでブログでネタ放出.

沖縄の男性は全国屈指のメタボ,と言われている.そのルーツは何だろうか.

文部科学省の学校保健統計調査を見れば,子供の身長・体重などについて都道府県別のデータが手に入る.沖縄と全国平均を比較してみよう.今回はそういうエントリ.

1. 沖縄には太った子供が多い
痩身傾向児の割合について年齢別にプロットしたのが以下のグラフである(H27年度).

9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.沖縄は貧しいのですべての年齢で痩せた子供が多いかとおもいきや,そうではないようだ.(標準偏差が不明であり有意な差かどうかは不明である).
なお男女別に見ても,多少のばらつきはあるものの,小学校高学年以降に差があるように見える.

肥満傾向児については以下のとおりである.
痩身傾向児と呼応しているようだ.9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.10歳以降に肥満が多くなるようだ.

以上のグラフからは,小学校高学年頃を境に沖縄県民は全国平均から乖離を始めることがわかる.太る方向にシフトするようだ.

2. 特定世代だけが太っているわけではない
痩身が少なく肥満が多い,のは世代効果とは言えなさそうだ.つまり,H27年度に10-15歳になる世代だけに固有の特徴とは言えない.
世代効果の有無を確認すべく,世代別に,全国との痩身・肥満出現率格差(= 沖縄の出現率 - 全国の出現率.上のグラフの赤線と青線の縦軸方向の差に対応.)を時系列で並べたものが次のグラフである.



スパゲティ状のグラフになっていてどれが誰かわからなくて恐縮だが,それぞれの折れ線はH27年度における年齢で見た世代を表している.
世代によってばらつきはあるものの,おおむねどの世代でも,痩身出現率は全国より低く(負の領域にありがち),肥満出現率は全国より高い(正の領域にありがち)ように見える.
(適当な信頼区間を作ったらほとんどの世代は全国と差がない,という結論になってしまうかもしれないが.)


3. 差が付くのは分布の裾野だけ
痩身・肥満の出現率に差があると言っても,サンプルサイズが小さくて外れ値が目立つだけかもしれない.
外れ値ではなく,体重の平均を見るとどうだろうか.以下のグラフは男女別に平均体重とその1σ区間をプロットしたものである.1σ区間に限って見ればどの年齢でも沖縄(赤)と全国(青)にほとんど違いはないと言える.

全国とはあくまでも分布の裾野の方で差が付いているようだ.沖縄の子供が平均的に太めの体格を持っているわけではない.

これらのデータからは示しようがないが,おそらく,遺伝的に太りやすいわけでもないだろう.社会的な要因で後天的に肥満児が生み出されている予感がする.
とりわけ,ごく一部の貧困世帯において,物質的にも精神的にもストレスの大きい生活が営まれているのかもしれない.およそ10歳頃から物心が付き,家庭や学校の酷さに気づき始めるのかもしれない.






あっという間に夏休みが終わってしまう.研究も講義準備もまるで進まない…


Monday, August 8, 2016

社会経済統計学I, 講評, 2016

レポートの提出ありがとうございました.様々なテーマで創意工夫を凝らしているようで面白く拝読しました.中にはいい卒論につながりそうなものもありました.
メールで簡単なコメントを返信しておきましたのでご覧ください.

[重要] ファイルをうまく送信できておらず,レポートを確認できない人が2人います.
成績登録期限までに返信に気づいてください….

レポートの内容面以外で,改善すべき気になるところを思いつくままに書き留めておきます.(というより愚痴を言って採点のストレス解消をします.)
  • 課題に応えていない.
    • 標本をExcelでいじってみよう,という趣旨の課題ですが,データもへったくれもない確率日記みたいなレポートが散見されました.こうした的外れなものは採点・評価しようがなくたいていは不可ないし可になっています.
    • 仮説を持て,とわざわざ指定しているのに,仮説がどこにも見当たらない人も多かったです.要求されていることから逃げては低い評価しか得られません.
  • 参考文献.
    • 参考文献は,先行研究を整理して自身のオリジナリティを明確にする上で不可欠なものです.また,研究成果の再現可能性を担保する意味でも重要です.ところが,参考文献自体がまったくない人や,URLだけ書くなど引用の作法が怪しい人がほとんどでした.引用の仕方はググれと言いましたが.
  • 孫引き.
    • 何らかのウェブサイトから取ってきたグラフを使っている人も多くいました.そのウェブサイト自身がどこからデータを取ってきたのかを見て,オリジナルの統計に直接アクセスするようにしてください.
    • テーマによって一次情報が二次情報よりも優れているとは限りませんが,より情報源に近い方から当たるのが望ましいと思います.
      • こうした情報の階層構造を理解していない学生がいる予感もするので,どこかでちゃんと情報ソースについて講義時間を割かねばならない気がしました.
  • 適切なグラフを選べていない.
    • クロスセクションのデータを折れ線グラフにして相関を読み取ろうとしている(しかも間違っている)ケースがけっこうありました.私も身に覚えがあるので大きな声ではいえませんが,散布図使いましょう.
  • 講義で学んだテクニックがまるで使われていない.
    • 記述統計もまとめろ,と念を押したのにほぼ全員が標準偏差すら書いてくれませんでした.半年かけて無駄な授業をした気さえします.
    • 一方で何人かは重回帰に取り組んでいろいろ考察を加えてくれました.よくがんばりました.
  • 時間を費やしていない.
    • 考えを巡らし試行錯誤する時間が不足しています.4月の最初の講義から課題を指定し,月1回程度リマインドし,分析には時間がかかることも周知し,締め切り1週間前ぐらいには出せるようにせよとも促しました.にもかかわらず,締め切り直前の数時間でしたやっつけ仕事のようなレポートが多く見られました.素人のにわか仕込みで通用するような生ぬるい授業はしていません.
    • 計画的に作業ができない人は学業でも仕事でも大成できないと思います.行動経済学の格好の研究対象というか…
  • 国語力が低い.
    • レポートは平均2ページ程度で,1ページしかないケースもけっこうありました.悲惨なものだとデータとグラフだけで文章さえありませんでした.とことん説明不足です.学術的なコミュニケーション能力が粗雑すぎます.
      • 私が普段読む学術論文は10~30ページが普通で,100ページ超えも珍しくありません.長いほど偉いわけではありませんが,問いや仮説の説明,その意義,先行研究のまとめ,用いるデータの説明,枠組みの説明,結果の説明と解釈,まとめ,など必要な項目を一通り書くだけで数ページはすぐ埋まるのではないでしょうか.
    • エコノメよりも先に国語を勉強した方がいいと思います.
  • 講義タイトルを間違えている.
    • 「社会経済統計学I」という長いタイトルではありますが,ここをあえて間違う不届き者がたくさんいました.曖昧なところを逐一調べる,という手間を惜しみすぎです.わからない言葉に出会ったら辞書をひく,という習慣さえない人なのだろう,と見下されてしまうことにもなるのでは.
今回悪質なコピペレポートが2件ありました.本人にメールで警告した上で不可としました.うんざりです.

個人的には今回初めてレポートによる成績評価を行いました.ソフトウェアを自分の手で動かす機会がないと統計学はまるで身につかないと思うからです(言うまでもなく講義に出席するだけで身につくわけがありません).ただ,レポートを書くという作業自体が学生には重荷のようでもありました.私が思うアカデミック・ライティングの常識がまったく通用せず,頭痛がしました.

学術論文はおろか論文に準ずるレポートもろくに読んだことがなければ,そもそもレポートを書きようがないのは仕方がない気もします.大学でレポートを書いてもろくにフィードバックはほとんどもらえず,どこがおかしくどうすれば改善できるのかもよくわからないのが普通です.たとえやる気があってもどうしていいかわからなければストレスが大きくうまく取り組めないのかもしれません.普通の大学生活を漫然と過ごしているだけではロジカルに書かれた小文を精読する機会がなさすぎるのではないでしょうか.夏休みを利用して,新書ぐらいは何冊か読んでいただきたいものです.

本来は大学がアカデミック・ライティングを教える機会を別に用意していればいいのでしょうが,そもそもまともな水準の学術論文を書いて(銃声)

Thursday, July 28, 2016

経済政策I, 第14回, 2016

夜間にひっそりと行っているこの講義については特に情報発信はしていなかったのですが,試験前なのと,最後の講義後にいただいた質問に回答するべく更新しておきます.

これまでの講義
  • ゲーム理論の入門的な知見を学びながら,ミクロ経済政策を考える練習をする講義であった.
  • 特に講義の中心となる問題が囚人のジレンマであった.重要な応用例をいくつか学び,それらを解決する方策はそう単純ではないことも学んだ.
    • 例: 公共財供給,共有地の悲劇,逆選択,投票によるモニタリング,入札談合.
    • 解決策: 課税,社会規範の形成,シグナリング,長期的関係,など.

前回講義でもらった質問:
  • 「談合で裏切れば相手を退出させられる場合,将来独占利潤が得られるようになる.このとき協調は維持できないのでは」
    • よいところに気がつきました.分析したい状況次第では,講義で紹介した例は当てはまりません.どういった状況を考えるにしても,一般論としては,協調するメリットに比べて裏切るメリットが大きくなれば,協調はより達成しにくくなると考えられます.
    • 相手を追い出すことに成功したとしても,市場を独占し続けられるかというとそう簡単にはいきません.別のプレイヤーが新規参入してくるかもしれないからです.

週末は出張のため,質問があっても回答できないかもしれませんがご了承ください.わからないことがあれば参考文献にあたってください.

社会経済統計学I, 15, 2016

面倒くさくなって途中で更新が止まりましたが,今週でこの講義は終わりです.参加してくださったみなさんありがとうございました.あとはレポートをお待ちしています.

やったこと:
  • 統計学・計量経済学の入門レベルの内容を学んだ.
    • 記述統計 … データはばらつきが大事.ばらつきの程度を捉える標準偏差,2変数間のばらつき方の関連性を捉える相関係数,などの概念は押さえておきたい.ヒストグラムを使って分布の全体像を眺めることも大事.
    • 確率論 … 確率分布・確率密度関数の読み取り方を押さえておきたい.代表的な分布として正規分布だけでなく,二項分布やポワソン分布も応用例とともに紹介した.
    • 漸近理論 … 大数の法則と中心極限定理.ランダム・サンプリングしたものをたくさん集めることが大事.
    • 仮説検定 … 仮説は観察されるデータと整合的かどうか判断する.p値を(あらかじめ定めておいた)有意水準と比較すると簡単.平均値の差の検定はExcelでできる.
    • 回帰分析 … 重回帰での推定・検定を修行してもらいたい.Excelだと手間はかかるが一応できる.
  • その他,いくつか経済学の論文も題材に取り上げた.Sen, Heckman, Kahnemanなどノーベル賞受賞者の他,Piketty, Levitt, Fryer, といったより若いスターたちの研究も紹介した.
  • この講義をやり抜けば,入門レベルの計量経済学の教科書なら自力で読み通せるようになり,学術的な議論も読める範囲が広がるのではないか.
できなかったこと:
  • シラバスに書いた計画のうち,回帰診断,DID,データビジュアライゼーション,は無理だった.データの見せ方については補足スライドをアップしたものの,送られてくるレポートを見る限りあまり伝わっていないようである….その他所々省略したところもあった(条件付き期待値,タイプ2エラー,など).
  • Excelによる実装例も紹介するよう努めたが,パソ室での実習もしたかった.
  • 他の講義(統計学入門など)とどれだけ差別化できたかよくわからない.
  • 正直なところ大半の学生には難しすぎる内容であった.もっと履修人数を絞りたかった.

 レポートについて
  • 講義中に注意した通り,剽窃・盗用に注意してください.アカデミアでは重罪です. 他人の分析と自分の分析を区別し,自分自身の手と頭で成し遂げたことは何か意識してください.
  • じっくり考え地道に試行錯誤した形跡が認められれば評価します.分析自体が拙くとも,トライしたことを評価します.一方,講義中寝てばかりいたような人が2, 3時間で仕上げたようなクオリティのものは不可にします.また,レポートの趣旨を誤解してまったく別の課題に取り組んだ場合も不可にします.もちろん悪質なコピペレポートには単位を認定しません.
  • 特別な事情(忌引きや入院など)がない限り締め切りを1分でも過ぎたら読まずに不可とします.事情で提出が遅れそうであればその旨連絡してください.
  • ファイルの送信ミスや,件名や本文がない無礼なメールが散見されます.メールの使い方やエチケットぐらい調べてください.
今週末は出張のため反応が遅れるかもしれませんがご了承ください.きめ細かいサポートも無理です.

Sunday, July 17, 2016

沖縄の経済, 準備編1: 成長経路

今年度後期から新しく「沖縄経済論」という講義を担当する予定である.あいにく私は沖縄経済の専門家ではないので,適任ではない.それでも,私より不適切な人が自分勝手な沖縄経済論をまき散らすよりはマシだろうと思い引き受けた.

大学で教えて恥ずかしくないような授業はせねばならない.かといって沖縄経済について学術論文を書く気はない(業界地図は研究論文ではない).そこで,授業の準備がてら,沖縄の経済についていろいろ調べ考えていることをこのブログにアウトプットすることにした.

以下何かとデータが出てくるが,所詮は講義用なので,すべて"eye-ball econometrics"である.きっちりした分析をする予定はないのであしからず.



少し前にとあるインタビューを受けて,沖縄経済についてざっくばらんに話をする機会があった.このとき,沖縄が貧しい理由を聞かれ,「戦争と占領だろう.人的・物的資本が破壊された.」という趣旨の回答をした.基地の存在そのものとは言えない,という文脈で,である.
今回のエントリはこの回答がどれほどもっともらしいかについてである.

沖縄の一人当たり実質県民所得をプロットすると次の通りである.
なお,沖縄のデータについては異なる基準の系列は接続せず別個にプロットしてある(講義の都合上).村上・藤澤と書かれた系列は,同僚の紀要論文から取ってきたデータである.詳しいデータ処理は後述の補論にて説明する.
一人当たり所得,沖縄 vs. 全国.
全国平均との格差が年々開いていることが見て取れる.沖縄はバブル崩壊以後ゼロ成長で停滞している.

同じデータを常用対数表示したものが次のグラフである.対数目盛なので,傾きが成長率に対応している.
一人当たり所得(対数),沖縄 vs. 全国.

全国と沖縄の成長率はおおむねシンクロしている(傾きが等しい)ことが目視で確認できる.石油危機・バブル崩壊という2つの転換点を境に,成長率が落ちている.

戦後沖縄が全国と同じ経済成長率で成長してきたのは興味深い.沖縄は全国と比べて特別有利でも不利でもないのである.


成長率が等しいので,(絶対水準で見た)格差は初期値の違いに帰せられる.冒頭で沖縄が貧しい理由が「戦争と占領」と述べたのはまさにこれである.沖縄は全国よりも低い位置から遅れてスタートしただけで,成長する環境自体は全国と変わらない,というわけだ.
既存の沖縄経済研究では,基地や産業構造や島嶼の特性などにフォーカスが当たることが多かったが,そうした要因をまったく無視しても沖縄の貧しさは簡単に説明できてしまうのである.
沖縄だけが特別な艱難辛苦にあえぎ続けている,という類いの理屈では観察される成長経路を説明しづらいのではないだろうか.
かたや地上戦によるおびただしい損害,および米軍統治で高度成長期がすっぽり抜け落ちた(しかも本土は1ドル360円だったけど沖縄はドルだった)ことが今も尾を引いている,という説明はまんざら私の勝手な妄想ではないと思うのだが.
  • ここでの「格差」は所得の差(=y_{全国} - y_{沖縄})についての議論である.
  • 格差を所得の比(=y_{沖縄}/y_{全国})で見た場合,当然格差は縮まりも広がりもしない.復帰後も現在もおよそ全国の7割程度である.

ただし,初期値が違うだけ,という説明で十分とは私も思っていない.共通因子の影響力が強く(unconditional beta) convergenceが沖縄で起こっているように見えない理由を特定する必要があるからだ.
要するにこういうことだ: 後発の地域がフロンティアに追いつくのは簡単だ.技術や知識は模倣できるし,資本の限界生産性は逓減するからである.それにもかかわらず沖縄は後発のアドバンテージを活かせていないのである.

そこで,本来問うべきは,なぜ沖縄は全国にキャッチアップできていないのか,なぜ沖縄は先端的な技術や知識を学習し身につけることに苦慮しているのか,なぜ沖縄は貯蓄して資本蓄積につなげられないのか,であろうと思う.

  • これに対する答えとして私が今漠然と持っている仮説は,イノベーションを担うべき高技能人材が内地に流出してしまうから,また,貧しい初期状態のせいで貯蓄・資本蓄積が進まないトラップに陥っているから,というものだ.
    • 後者の場合big pushが有効だが,前者の場合必ずしもそうではない.
    • 後者については,金融仲介機能の弱さが悪さをしている予感がしている.
  • 前者は,低技能労働集約的な産業(観光や建設)が発展しそこに偏向した技術進歩が進んでいるせいで高技能労働者が活躍する場が乏しいから,と考えている.
  • 初期条件はそれでも大事である.Mark Ravallionのpoverty convergence論文のように,初期に貧困が深刻だと成長が遅れるし成長してもなかなか貧困を減らせない,という可能性がある.

全国と呼応した成長経路になっていることは,取りも直さず沖縄は孤立した存在ではなく,日本経済とすっかり経済統合されていることを示唆しているようにも思う.閉鎖経済思考には限界があるだろう.共通因子の役割が大きくなる理論的根拠を考えるのは,一筋縄ではいかない.

既存の沖縄研究では,米軍基地の存在が何かと大きい.ところが,基地が存在するせいで経済成長率が潜在的な水準より低くなっている,という論証はまともになされていないようである.産業連関分析を用いて,基地の経済効果が何億円,という具合のoutdatedな話に始終している.
しかしながら「経済効果」はあくまでstaticな効果であり,そもそも経済成長率に与える影響を分析する枠組みではない.私がざっと見た限り,米軍基地が沖縄の発展を阻害しているかどうか,を説得的に示した先行研究はなかった.(基地問題に関心がないし巻き込まれたくないので自分ではやりたくない.基地の有無自体は外生的変動がなさすぎて,分析困難に思われる.)

なお,戦前の時点でも沖縄の所得は低いので,戦争と占領がなかったとしてもやはり格差はあっただろう.格差のより根源的な原因を突き止めるにはもっと昔にさかのぼらねばならない.(薩摩のせい,のようにあれもこれも他所のせいにするのは健全ではない気もするが…)

用いたデータについての補論:
  • 県民所得は県内総支出のデフレーターで実質化した.
  • 村上・藤澤のペーパーには県外からの純要素所得のデータがなかったので,「県内所得」に相当するものとして県内総生産-固定資本減耗-(間接税-補助金),と計算した.
  • 全国のデータのデフレーターは平成12年度基準の固定基準年方式に合わせた.異なる基準のデフレーターは,重複する部分の平均が等しくなるようにリンク係数を計算し,接続した.
  • 沖縄のデフレーターは75-80年が欠損値となっている.この区間は消費者物価指数(総合)と同じインフレ率と仮定して補完した.また,74-75年にかけてのインフレ率は全国と等しいと仮定して補完した.
  • 出典: 内閣府「県民経済計算」「国民経済計算」.総務省「人口推計」「消費者物価指数」.村上敬進・藤澤宜広(2009)「沖縄県における県民経済計算の長期時系列データ」沖縄大学法経学部紀要12.

さて,授業準備はここまでにして,本業に戻ります(汗)

Tuesday, July 5, 2016

国際経済学I, 第10回, 2016

五月病というか,ブログを書く時間とモチベーションを失っていたのでかなり久しぶりの更新.中間試験前にいったんまとめをするつもりでしたが間に合いませんでした,申し訳ありません.

中間試験の結果は以下の通りです.
  • 受験者93人,平均71.5, 中央値70, 標準偏差18.9. 
  • 得点分布は少しいびつです:

  • 受験したうち28人が60点未満でした.難易度は例年とさほど変わりませんが,3割程度の学生が不可になりそうな状況というのはワースト記録です.期末試験での奮闘を期待します.

期末は8月5日に予定しております.そろそろ他の科目と合わせて試験勉強を始めてはいかがでしょうか.

解答の返却・解説は行いません.気になる方は直接お尋ねください.

Tuesday, May 10, 2016

国際経済学I, 第2-3回, 2016

講義内容
  • グローバル化の進展
    • 陰謀論は疑ってかかるべし.
  • 琉球王国と貿易
    • 外交を交えた公的貿易だったことが今との大きな違い.
    • 貿易は単にモノ・カネを運ぶだけでなく,情報も運んでいく.
  • 数学の準備
    • 一次方程式$y=ax+b$は絵的には直線になるようなxとyの関係.
  • 入門ミクロ
    • 以後考えるモデルでは,登場人物はみなプライス・テイカーと仮定する.

コメントより
  • 「沖縄は各自治体で県産品を作っていると思うが,どうして輸出が少ないのか疑問に思った.もっと沖縄ブランドを発信すべき」
    • 県産品に対する需要が少ない,移輸出するコストが高い,という2点が主なハードルになっているのではないでしょうか.特産品はライバルが多く市場が小さいですから.
  • 「琉球王国時代の経済の中心はどこだったか」
    • 那覇港とその周辺には当時交易で栄えた形跡がありますよ.阿麻和利のいた勝連も,貿易で発展したと聞いたことがあります.
  • 「海外の貿易=発展のための材料だと考える.貿易がなければ琉球は発展できなかったし,日本も海外との貿易がなければ今より豊かではないと思った」「貿易の大切さがわかった」
    • (市場の歪みがあるので)必ず発展するとは限りませんが,発展の足がかりになるでしょうね. 
  • 「現在でも波及効果があるんじゃないか」
    • そうですね.それどころか先端的な産業ほど情報が伝わりやすくそのメリットも大きいかもしれません.
  • 「中国の影響はやっぱりでかい」
    • 首里城なんかはまるで和式じゃないですしね.
  • 「貿易はお金やものの取引の事という固定観念があった」
    • 取引の副産物も大事ですね.
  • 「命がけで商売をしていた昔の人たちってすごい!!!」
    • そうですね.でも現代であっても命がけの覚悟でやらないと!
  • 「沖縄の産業は観光がメインで移出入はとても多くなっていると思ったが,移出が移入を大きく下回っている上減っているというのが正直ショックだった」
    • データで補足されていない観光収入は少なくないような気もしますが,
  • 「沖縄の地の利を活かして貿易がもう一度盛んになればいいな」
    • 地の利(market potential)が他の地域よりも高いかどうかはあまり確信が持てないところではあります.
  • 「別の講義で倭寇が貿易に関わっていると聴いており,結びついた」
    • 中世の海は面白い話がいっぱいありますねぇ.
  • 「日本経済だけでなく世界のことにも興味があるので,少しでも自分で考えられるようにしたい」
    • 興味に従って本をたくさん読みましょう.
  • 「リーマンショック以後輸入額が輸出額を上回っているのは円高の影響か」
    • 為替レートも大切ですが原油の動向の方が大きい気がします.
  • 「意外と興味がわいた」「いろいろ知りたいと思えるような授業だった」「勉強になった」「わかりやすかった」「ありがとうございました」
    • こちらこそ.
  • 「クーラーをつけてほしい」
    • 指摘ありがとうございます.前にいると気づかないので助かります.
  • 「すみません寝ちゃいましたm(_ _)m次から気をつけます」
    • 今の若者が古典的な顔文字を使っていることに驚きました. 
    • 理解できなくて寝てしまう,でないことを祈ります.
  • 「グローバル化は教育でも進んでいて,経済や教育にも影響を及ぼしていると感じた」
    • この講義では狭い意味で用いますが,グローバル化という現象はとても複雑で多面的なものですね.我々はそのまっただ中に生きています.
  • 「自分は台湾人なので初めて聞いた.面白かったと思う」
    • せっかくですから沖縄の歴史や文化も学んでいってください.
  • 「ミクロを取ってないのでとてもがんばらないとなって思った」「数学を復習しようと思った」「わかりやすかったがこれからレベルが上がっていくと思うので遅れないようにがんばる」
    • この講義では難しいミクロ・数学の知識は必要ありませんが,講義の範囲を超えた内容も各自勉強しておくべきだと思います.
  • 「沖縄関連のクイズを出します!北谷町アラハ公園は巨大な船の遊具があるということで有名です.その船は何の船でしょうか?」 
    • それは間違いなくうわなにをするqあwせdrftgyふじこ…これぞせんさーしっぷ,なんつって.
  • 「正解はイギリスの船でしたー.ではなぜイギリス?」
    • 全然わかりませんが,よもやあなたの指導教員が関係してません?
  • 「一次方程式を覚えていてよかった」「経済学で使うので基礎を押さえておきたい」
    • 忘れないようにしましょう.
  • 「試験でグラフの問題を出すなら何問?」 
    • 中間試験ではたくさん出る気がします.
  • 「台風が来ると野菜の値段が上がるとよく聞くが,そのシステムが市場システムだということを改めて理解した」
    • 私は逆に,台風のとき思ったより価格は動かないなという印象を持っていますが,台風に限らず農産物や海洋資源の価格は気候に大きく左右されるようですね.
  • 「自分で価格を決められる人はなんていうのか」 
    • プライス・メイカーと呼ばれることもありますが,他の表現(「価格支配力を持つ企業」など)のほうをよく目にします. 
  • 「嫌われてると言っていましたが,私は先生の授業のやり方は好きですよ.わかりやすくて楽しい」 
    • ありがとうございます.みなさんの愛がほしくて仕事しているわけでもないので多少は仕方ないと思っています. 
  • 「意味はわかるが国経でも必要か?」
    • 必要ないことをやるほど講義計画に余裕はありませんよ.
  • 「英語だけでもイメージで何かを理解できた」 
    • 経済学用語には堅苦しい訳語が多く,最初は取っつきにくいと思います.英語の方がストレートでわかりやすいこともありますね.
  • 「二次方程式などグラフなど出てきて難しいと思った」 
    • 二次方程式は出てませんね. 
  • 「グラフが書けなかった」「難しく大変だった」「覚えていなくて勉強不足を実感した」 
    • かなりの学生が自力で書けなかったように見えました.勉強不足だと感じたらすぐ勉強しましょう.


Thursday, April 21, 2016

国際経済学I, 第1回, 2016

今年度もよろしくお願いします.

このblogでは講義のフォローなどを行っています.オープンにしても恥ずかしくない内容を教えるという意味もあります.(blogに書いていない講義もありますがそちらで恥ずかしい内容をやっているというわけではありません.)

講義内容
  • 講義の概要
    • グラフの読解や一次方程式の理解といった簡単な数学の知識は使う.
  • 大卒プレミアム
    • 大学生活の中で何かを掴もう.
    • 能力を高めるメリットは大きくなっている.という一方,分業や特化を通じて,誰にでも社会に建設的に貢献できることを国際経済学は教えてくれる(予定).
本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中に取り上げることもあります.ご了承ください.教員の話を鵜呑みにせず批判的に聞くことは大切だと思います.どんどん疑問を持ちましょう.

コメントより
  • 「自動運転ができるようになればいいと思っていたが失業するかもしれないなどと考えたことは今までできなかった.様々な角度から見られるようにしたい」 
    • 時事ネタを見聞きするときも,その背景や含意を豊かに想像できるようになりたいものですね.
  • 「いずれ人間が働かなくなる時代がくるのかもしれないと思った」
    • 今でもろくに働かないおっさんはたくさんいますが…
    • いわゆる「シンギュラリティ」はいつか来るかもしれませんね.
  • 「日本のホテルでロボットが導入されたのを見て変化を感じた.グローバル化は,夏休みにアジアの方々とバイトして低賃金長時間労働を見ていた.」
    • 雇い主が法律に引っかかっていないことを祈ります.
  • 「自分の価値を高めて供給の少ない貴重な人材になり,高い需要に応えられるようになれたらいい」「使える人材になりたい」「これからもたくさん勉強したい」「たくさん本を読んだり資格を取ったりしたい」「特別何かしたいというわけでもなく迷っているがとりあえず行動して卒業したい」「自分は能力があるわけじゃないのでせめて大学に通ったことで大きく成長できたらいいなと思った」「英語など自分の武器がほしい」「絶対卒業したい」
    • 需要と供給の考え方が身についている方もいるようでなによりです.
    • おのおののペースで焦らずこつこつとがんばってください.
  • 「肩書きに頼らず,それに見合った能力を身につけないといけないと思った」
    • 肩書き以上の能力を身につけましょう. 弊学卒という肩書きの価値をもっと高められるようにしてください.
  • 「大卒でもデメリットが大きければ今やめたほうがいいんだなとちょっと悩んだ」 「改めて考えさせられた」
    • 熟慮した上で,後々後悔しない選択をしてください.
  • 「社会に出るのが遅れているという不安があった.だが今日の話を聞いて自信が付いた.がんばった甲斐があったと思う」
    • 就活でこけないように気を抜かずがんばってください.
  • 「高卒の友人からおごってもらったりして正直就職すれば良かったかなと思うが,今日の話を聞いて大学をがんばって卒業して自分の能力も高めたいと思った」
    • 無事卒業・就職できたら恩返しをしましょう.
  • 「一回しかインターンシップに参加してないのでもっといろいろ挑戦したい」 
    • インターンに参加した経験から何が自分に足りないのかがわかっていれば,それを埋められるようにしてはいかがでしょうか.
  • 「ミクロは取ってないが来年取る」
    • 授業を取らなくても教科書を買えばいつでも勉強できますよ.
  • 「国際経済学に強くなりたい」
    • その意気や良し,です.教科書を読みましょう.
  • 「他国の経済活動に興味があって,それを学んで自分に取り込んでいきたいと考えている」
    • あまり海外ビジネスの事例を紹介することはありません.図書館で「ジェトロセンサー」「ハーバードビジネスレビュー」などを探して読んでみるといいかもしれません.
  • 「わかりやすくて興味ある」「丁寧」「楽しい」
    • 次回以降はあまり楽しい内容ではありません.
  • 「テストの形式は?」
    • 例年は記号の選択,作図,短めの論述,などを出しています.計算問題はほぼありません.
  • 「出席点は感想を書いて出せばいいの?」
    • そうです.感想や質問などを自由に書いていただければと.
    • 講義中に受講者のみなさんの意見や質問を聞く機会は少ないので,出席カードと本ブログを通じてコミュニケーションを図りたいと思います.
  • 「留学生なので文法に間違いがあるかもしれない.申し訳ない」
    • この講義では言語能力は不問です.文法ミスで減点することはありません.ミスを恐れないでください.
    • 話を聴き取りきれない場合,参考書を読むなどして補うようにしてください.質問も歓迎です.
  • 「本学も今年からコンピュータで休講案内を出すようになったのはグローバル化の影響」
    • 休講通知はもっと前からウェブで確認できましたしグローバル化の議論は直接関係ないですね.
  • 「もう何回目の受講かわかりませんけど今度こそがんばります」
    • 早く卒業してください.

社会経済統計学I, 1-2, 2016

新年度何かと慌ただしいですが,とりあえず更新.


今期から新しくこの講義を担当することになりました.私は統計の専門家ではありませんが,一定以上のスキルは持っているかと思いますのでご安心ください.前任者が何をやっていたかわかりませんが,私なりに大切だと思うことを教えます.

この講義はデータを使った議論について行けるようなリテラシーを身につけることが主眼です.また,統計学を使って経済問題に取り組む際に注意すべきポイントを学んでいきます.ちまたで流行のデータサイエンティストを養成するわけではありませんし,この講義を履修してもただちに就職に有利になるわけではありません.プログラムをどっさり書くような人でなくても有用な知見を伝授したいと思います.
高校までに学ぶ数学もふんだんに使いますので,履修する際は注意してください.講義では壺からボールを取り出したりします.MS Excelもある程度使う覚悟をしていてください.簡単ではありませんがこつこつ勉強しましょう.

講義では,記述統計,推測統計 ,といった統計学・エコノメのベーシックをざっくり学びます.単に数学的事実を確認するだけでなく,できるだけ経済学での応用例も紹介していきたいと思います.
ただし,講義でカバーできる範囲はそれほど多くありませんので,自分で別途教科書を読み進めることを強く勧めます.単位を取るためというより,自分の知性を磨くためにです.
ただし,学生に合ったレベルで面白くて信頼できるテキストはなかなかないので,背伸びして挑む必要があるかもしれません.

個人的には初めてパワポを使った講義をします.グラフはうまく板書できないし,板書だとペースが遅くなりがちだからです.しばらくこのスタイルを試します.

社会経済統計学IIは今年度不開講です.次年度開講するかどうかも未定です.さしあたり半期で完結する内容で講義計画を構想しています.(もし通年開講するなら,前期は理論中心,後期はExcelなどでの実践を中心にしたいと思います.)

現時点では,重回帰を卒論などで実戦投入できるようにすることを到達目標に据えています.ところがいざ教えるとなってようやく気づきましたが,OLSを理解するには高度な前提知識が必要です.急ぎ足ながらこうした知識を一つずつ乗り越えていく予定です.15回の講義でここまで行けるかあまり自信はありません.
もちろん単にExcelで近似線を引いたり,p値を見て最もらしいことを言ったりするだけならそれほど難しくはありません.しかしそうした表層的な理解は無意味どころかかえって有害にも思います.富士山の山頂にヘリコプターで行くよりも,8合目までで引き返したとしても自力で一歩ずつ登ろうとする経験の方が人生の糧になるのではないでしょうか.

教えることこそたくさんありますが,定義,定理,証明,を繰り返すような講義だと全滅するかと思いますので,適宜有名な論文を紹介して脱線したいと思います.さじ加減は実際講義を進めながら調整していきます.

講義内容
  • 概要
    • 数学を当たり前のように使うので注意.
    • ここ数十年で統計スキルへの需要は大きく変わっている.今のうちに学んでおくべき.
    • 成績はレポートの出来次第.
  • 統計学の仕事
    • スープの味見,に相当することを丁寧に考えていく.
  • missing women
    • 簡単な数字を用意するだけでも,説得力と含蓄がある議論ができる.
  • 数学の基本
    • 集合はベン図でイメージしよう.
    • Σはたし算.

本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中に取り上げることもあります.ご了承ください.教員の話を鵜呑みにせず批判的に聞くことは大切だと思います.どんどん疑問を持ちましょう.

コメントより
  • 「統計学は経済だけだと思っていたがいろいろな科目に使われていて驚き」
    • 使った者勝ちみたいなところもあります.
  • 「村上先生の統計学取っといてよかったーーーーーーー」
    • せやな.
  • 「とても難しいと思うが将来使えることだと思うので一生懸命ついて行けるよう努力したい」「数学は得意ではないがチャレンジしてみようと思う」
    • やる気に応えられるように私もがんばります.
  • 「データを使ったレポートや議論ができるようになりたい」「大切さがわかった」
    • 一生使える強みにできればいいですね.
  • 「久しぶりに数学やって楽しかった.丁寧に教えてくれてありがとう」
    • 楽しんで勉強していただければ私も嬉しいです.
  • 「とても数学が苦手なのでとても不安であるがついていきたい」
    • 現時点では7番目の講義資料までアップロードしています.軽く眺めてみて履修するかどうか決断されてはいかがでしょうか.講義内容の性格上,数学は避けて通れません.
    • どうにも乗り越えられない壁がある場合,図書館でなるべく簡単な数学の本を探して通読してみてください.
  • 「黒板ちょっと見づらい」「暗くて字が見えにくかった」
    • やはり.板書時は電気をつけるようにします. 

Tuesday, February 2, 2016

経済政策II, 第15回, 2015

試験お疲れさまでした.こちらの採点結果も以下に示します.
平均71.2, 中央値70.5, 標準偏差15.2でした.まぁまぁですね.

財政政策の問題は,乗数効果とクラウディング・アウトについて記述してほしかったのですが,金融政策と混同したような解答が散見されました.

労働力率については,講義中に学んだM字カーブについて明確に記述してほしかったです.
男性との違いを意識すれば,M字が生じること,20代前半までを除き労働参加率自体が低いこと,の2点を書くことができるはずです.

グラフではM字のへこみそのものはそれほど大きくないようにも見えます.しかし,非正規雇用率のようなジョブの中身に一歩踏み込んで見ると,性差が歴然とあることがわかります.正社員として働き続けるのはまだまだ難しいのです.



次年度はこの講義はいったん不開講として,代わりに「社会経済統計学I」と「沖縄経済論」を持つ予定です.

社会経済統計学Iではいわゆるエコノメの基礎を学びます.少し羊頭狗肉ですが,みなさんがばりばり統計解析用のソフトウェアを回すことは想定しておらず,経済学の実証研究を紹介しながらデータ・リテラシーを磨くことを予定しています.概念としては,ランダム化,大数の法則,仮説検定,あたりを押さえたいところです.行動経済学で明らかにされてきたような,確率に対する認知の歪みなどもついでに紹介できれば.

沖縄経済論は具体的に何をするか未定ですが,開発経済学や空間経済学といった学問分野で積み重ねられてきた知見を紹介する予定です.沖縄経済の独自性や歴史的経緯などはそれほど集中的に取り上げないかもしれません.残念ながら私は沖縄経済の専門家ではありませんし,沖縄経済をめぐる先行研究を探しても自信を持って教えられるようなものがなかなか見つからないためです.

沖縄研究における最大の問題点は,研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保するような,peer reviewベースの仕組みが機能していないことだと思っています.沖縄経済研究を自称するものはいくつもありますが,我々プロが素直に受け入れられるような議論にはなっていないようです.経済学の最先端から50年は遅れているのではないでしょうか.アマチュアには経済学者や大学教員という肩書きにフリーライドしないでいただきたいものです.

Monday, February 1, 2016

国際経済学II, 第14-15回, 2015

結局更新は期末試験に間に合いませんでした.試験日程で混乱があったことも改めてお詫び申し上げます.

今回は採点に秘密兵器を投入したこともあり,例年よりカンニングが多く検出されました(言い逃れできないやつだけで5組11人検出しました).中には中間でも私の他の科目でもチートしていた常習犯もいます.最終的な成績は,見た側も見せた側もFにしています.不服があれば申し立ててください.

学問の世界では,一般社会以上に正直さと誠実さが求められます.人を欺くのは簡単ですが,真理を探究する場を破壊することにつながります.いかなる事情があっても不正は許されない行為だと思います.最近妙な手記を出版した人に対するアカデミアの怒りを思い起こしてください.

得点分布は次の通りで, 0点にある塊はカンニング組です.

平均が71.4で中央値が78点でした.十分ではないにせよけっこうよいと思います.中間でいまいちだったけど期末でがんばったような人も多かったようです.
最後の問題(金利平価から予測される為替レートの動き)は設問に曖昧なところがあり,曖昧な解答が多く採点できませんでした.「為替レートが増える/減る」といったまるで伝わらない表現を取る人がこんなに多いとは思いませんでした.

この講義では国際マクロの基礎知識を足早にカバーしてきました.あまり多くのトピックはカバーできませんでしたが,さらに深い学習をする土台を作れたら幸いです.
一歩進んだ勉強をしたい場合,さしあたりIS-LMやマンデル・フレミングが出てくるマクロの教科書を読むとよいと思います.応用分野に挑む前にベーシックなマクロの知識を体得しておくべきです.


少し前の講義のコメントより
  • 「単純に考えると円安は自国にポジティブだが,他国に打撃なのであまりできないとわかった」
  • 「金融政策によって世の中成り立っていることがわかった」
    • 我々が貨幣を使って生活している以上,金融政策は大事ですね.この講義では趣旨がずれるのであまり深く議論できませんが.
  • 「EUみたいに通貨が決まっていた方が他の国に行きやすくていいなと思った」
    • 独自通貨を持つことの費用便益を考えねばなりませんねぇ.
  • 「知識として自分自身で理解することができた」
    • 考える力を高められるといいですね.
  • 「ゼミでよろしくお願いします」 
    • どういう方が来るか楽しみです.応募者が定員より多かったので,適当に乱数を生成して一番高かった人から選びました.
  • 「先生の話は聞きやすくわかりやすいので来年も受講します」
    • 水曜の3限に新しい講義を開講予定ですが,かなり難しい内容を扱うので履修は注意してください.
  • 「あけましておめでとうございます.大城先生も良い年であるようにお祈り申し上げます.」
    • あけましておめでとうございます.
  • 「成人祝いはいつでも受け付けますよ!」
    • 大人をたかってはいけません.