Showing posts with label okinawa. Show all posts
Showing posts with label okinawa. Show all posts

Monday, January 16, 2023

安里・志賀『なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか?』

スキマ時間にちらっとめくったのでメモ.といっても,正直読むに耐えないのでちゃんと読んでません.

安里長従, 志賀信夫 (2022) 『なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか?: 本土優先、沖縄劣後の構造』

  • (構造的)差別の定義が変?
    • 差別とはAだ,そしてAの原因は差別だ,と結論を定義しているに近い議論に見えた (ちゃんと読めば違うかも).
    • 差別とはあってはならないこととのことだが,その「あってはならない」かどうかを誰がどういった基準で判断するのかが不明.
      • 差別に限らず,他の要因が潜在的にあってもその可能性を潰すことなく自説を都合よく当てはめるようなところが目立ち,読者は置いてけぼり.
    • 人に対する差別と地域に対する差別は分けて議論したほうがよかったのではないか.
  • 知的誠実性に疑問.
    • 学者らしき人に,あなたの言うことは間違っているとやんわり指摘されたっぽい下りがあるが,それを真摯に受け止め検討した形跡がどこにもない.
    • 他にも強い違和感のある記述があったがどれだったか忘れてしまった.
  • 経済学的な議論では,根拠が薄弱?
    • (マル経しか知らなさそうな) 素人相手に目くじらを立てるのもなんだけど,経済学っぽいトピックの箇所はほとんどの場合根拠が書かれていない・論証不足・関連するliteratureの無知,と感じた.
      • 県民のwelfareが目的になっていないのが悪い,というものの,そんなのどこの地方自治体だってそんなもんであろうし,仮にbenevolentであっても筆者の望む帰結・政策につながる必然性はないのでは…など.
      • 経済学を箔付けのためには使わないでほしい (アマルティア・センと言ってみたかっただけじゃないか? など).
    • 素人という点では,全体的に文章構成が稚拙で話が見えないので読むのが苦痛.

樋口にムカついているというのは伝わってくる (それはわかる) が,説得力という面では五十歩百歩ではないかと思った.

Friday, November 25, 2022

沖縄経済史本の改訂版が出ます

『沖縄経済と業界発展』が売れ行き好調につき,第2版が若干の改訂を加えて出版されることになりました.ありがとうございます.

過去のブログ記事: 『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

ISBNが新しくなり,

978-4-906-68919-4

となっています.


私の担当箇所の差分は以下のようにマイナーなものです:

  • 初版で書いた部分は一切変更していません.
    • 加筆修正したい気持ちはありますが,それは別の機会にしたいと思います.
  • 2版では,初版では抜けていた,復帰後の議論を追記しています (60--62ページ).
    • これといって学術的新規性のある内容ではありません.
私の担当箇所以外でも,ところどころ追記やデータの更新が行われています.
もし初版を持っていないのであれば,改訂版をお買い求めいただければと思います.
12月には県内書店に,もう少し経つととAmazon.co.jpなどでも購入できるようになろうかと思います (電子では出ないと思われます).



Monday, August 29, 2022

沖縄の県民経済計算のR01改定,パート1

 沖縄県の県民経済計算の最新版 (令和元年度) がリリースされていたので,どこが変わっているか簡単にチェックしている.

県民経済計算は,毎年リリースされるたび驚くような幅の改定がどこかにあるので,去年までの常識が通用しないものである.実際,2018年の実質GDP成長率が1.5%から0.5%に低下していてびっくりする.

このエントリはとりわけ国際収支 (域際収支) 部分についてのマニアックな備忘録.パート2があるかはわからない.

1. 基準の改定

平成27年基準に変わった (去年まで平成23年基準).デフレーターの参照年は平成27暦年に変わった (去年まで平成23暦年).

2019年までの情報であり,Covid-19の影響はギリギリ軽微だと思われる.


2. 対外取引の項目が変わってる.

参考資料の「域外受取の推移」「域外支払の推移」では,いくつか変数が増えたり減ったりしている.気になったのは対外受取に間接税が新たに加わっていたことである.

従来は,

経常収支 = 経常取引(受) 総額」 - 経常取引(払)総額

 = 貿易・サービス収支 + 第一次所得収支 + 第二次所得収支

であった.しかし今年度からは,二番目の等号が成立しない.

経常収支 = 経常取引(受) 総額」 - 経常取引(払)総額 

 = 貿易・サービス収支 + 第一次所得収支 + 

第二次所得収支 生産・輸入品に課される税(控除)補助金 (中央政府)

へと修正されたようである.なお,ここでは国際収支の用語を用いているが,

貿易・サービス収支 = 移出(FISIMを除く) + FISIMの移出入(純)- 移入(FISIMを除く),

第一次所得収支 (昔の所得収支) = 域外からの要素所得(純),

第二次所得収支 (昔の経常移転収支) = 域外からの経常移転 - 域外への経常移転,

である.

この間接税の部分は,中央政府と地方政府の区別が今年から新たに加わっており,注意が必要である.マクロの入門テキストから類推されるように,

GDP = 雇用者報酬 + 営業余剰・混合所得 + 固定資本減耗 + 中央政府・地方政府の税-補助金,

なのだが,このうち中央政府分は域外に漏出し,

要素費用表示NI  = 市場価格表示NI (第一次所得バランス) - 地方政府の税-補助金

= 雇用者報酬 + 営業余剰・混合所得 + NFIA

となっている.


中央政府分の税・補助金は,移出品にかかる消費税の国税分?や関税,みたいなものを想像すればいいのだろうか? 酒税や航空機燃料税はどうだろう? もともと中央政府等への経常移転はあった (おそらく所得税・法人税) が.


この中央政府分の生産・輸入品に課される税ー補助金は,2155億円 (GDPの約5%,経常収支の約4倍, 輸出の約14%) あり,無視できない大きさである.


上の図は去年の経常収支(CA)と今年の経常収支,および今年の貿易サービス収支+2つの所得収支,をプロットしたものである.

従来は経常収支が黒字でだいたい横ばいだったものが,改訂版では直近では赤字・低下トレンドに見える,という違いがある.貿易収支やらとCAの乖離が中央政府間接税であるが,こちらは少しずつ拡大しているように見えなくもないが動きは小さい.


おそらく貿易収支は産連から適当に推計していて,為替レートやら交易条件やら金利やら価格の動きに対する反応がタイムリーには反映されないと思われる.


3. 資本移転等収支の項目が変わってる.

かつては

資本移転等収支 (昔のその他資本収支) = (参考)資本取引(受) - (参考)資本取引(払),

であった.今年の資料にも同じく(参考)資本取引の系列はあるが,定義が変わっている模様.つまり,

資本移転等収支 = うち域外からの資本移転 - うち域外への資本移転,

に変わっていた.このように計算しないと,以下が恒等的に成り立たなくなってしまう.

経常収支 + 資本移転等収支 = 金融収支

では,資本取引と資本移転の違いは何だろうか? これはヒントが県の資料になく,今はよくわからない.以前は,資本移転は国庫との取引で,資本取引はそこに小さい「その他」を加えたもの,であり無視してよさそうであった.しかし新基準では資本移転と資本取引のギャップがけっこう大きくなっており,特に2019年はギャップが1桁増えている (ネットで2147億円).沖縄振興予算規模の「その他」はその他じゃないだろう.軍関係とは違う模様.


資本移転等収支の改定自体はあまり大きな影響はなさそうである.土木工事のたぐいの移転は金額が動きようがないのかも.経常収支・金融収支の変化と並べてプロットすると次の通り:

経常収支の変化にともない,金融収支の動きも変化していることがわかる.ただし,資本移転等収支があるため,経常収支が赤字でも金融収支は黒字である.学生に教えにくいったらありゃしない.

なお,もともとこの資本移転等収支の部分は「資料の制約により民間部門の資本移転を推計していない。」と注記がある.が,民間部門の資本移転はたぶんあっても限られていると想像される.


4. まとめ

経常黒字だと思ってたら経常赤字になっていた (が金融収支は黒字のまま).中央政府の位置づけが新しい基準のもとで変わり,間接税が域外に出ていく部分を新たに加味したため.

資本移転等収支はよくわからないけど以前の基準より減っていて,直近だとそのギャップが2000億円以上あり理由が知りたい.


念の為,変な新聞が,沖縄県が独自に基準を変えて都合よく統計を操作してるように見えるよーみたいないい加減な報道をしないよう注意しておくと,中央政府等の位置づけを見直しているのは全国共通である.あと,経常収支が赤字だったら悪,と判断する国際マクロ経済学者はたぶんいない.

Tuesday, June 7, 2022

インタビューされました

先日インタビューを受け,記事にしていただきました.インタビューというよりゆるい雑談でとりとめもない感じではありますが.

HUB沖縄: これからの沖縄振興について今一度考えてみる 第6次計画を読み解く


沖縄振興政策はとくに専門でもなく,生半可な知識と考察で触れてやけどしているかもしれません.EBPMについて上から目線で偉そうに言ってますが地方政府には地方政府なりの事情があるとは思います.

インタビューを受けた後に西銘大臣ビジョンが出て,政府と県がバチバチやり合う政治イシューになっている感もありますが,私は政治に興味が薄くまた巻き込まれたくないという気持ちも強いですよろしくお願いします.


インタビューで話題にならなかったものの,言っておくべきことはもっとあったような気がするので以下思いつくままに私の感じ方を挙げておきます.専門じゃなく,無責任な思いつきレベルですが.

  • そもそも,沖振計の取りまとめに関わった関係者には敬意を持っています.計画を外野からバカにする意図はありません.あしからず.
  • 現職知事のイニシアティブはあまり見えない気がする.
    • SDGsや普天間基地の県外・国外移設が盛り込まれたあたりは政治家の声を感じるが.辺野古移設を食い止めたかったら北部の経済振興にもっと本腰入れたほうがいいんじゃないですかという印象もある.
    • 県の場合,長期計画を策定する企画部がガバナンスの軸になっていると勝手に思っている.しかし知事も企画部もそれほど強くはなく,いろいろな業界の有識者の意見を総花的にまとめるにとどまっているような印象 (ので前回計画よりページ数が大幅増量).草の根のボトムアップな計画とも言えるが,トップのマネジメント能力の不足とも…
      • 政府の仕事は公共財供給など市場失敗の是正…みたいな,大枠の政策思想があまり見えない.いろんな人の話を聞いて,各課で最近やってることをまとめました,という印象を受けた.
    • 「誰一人取り残さない」はもちろん大事な理念だけど,政治家は誰かは損するけれど社会全体のためになるので対立する利害を調整する,といった役目も担うべきではなかろうか.
  • EBPMを推進する資源は確保困難:
    • EBPMは河野太郎の影響と思われる.しかし,そういうあなたも性教育で貧困対策を,みたいな発言をしていて,それはエビデンスがある政策なんかいなとは思った (あるかもしれないけど).
    • 中央省庁でさえEBPMはなかなか進まない.地方政府には,せいぜいどこかのコンサルに投げてロジックモデルを作ってもらうぐらいしかできないかも.エビデンスをチェリーピックしたPBEMも横行しそう.
    • 修士号以上を持つ公務員・県議がいっぱいいれば違うのだろうけど,そういう人はもっといいjob opportunitiesが溢れていると思われるし,そういう人が県庁職員をやるのはミスマッチで資源の無駄遣いでさえある恐れも.
    • 公務員の人事制度も,専門的な評価と相性が悪そう.県庁職員はジェネラリストとしての資質も必要 (中央省庁よりはスペシャリスト色があるが).また,過去の政策がいまいちだった…なんて評価が下る可能性があることは嫌がるに決まっている.
    • そんなわけで,「地方政府の身の丈にあったEBPM」が必要だと思われるが,それは難題だと思われる.気合でなんとかなる問題ではないので,大臣がやれといってもすぐにはできないものである.
      • 記事だと公務員はエコノメを知らないバカと言ってるように聞こえるかもしれませんが,現存のリソースで少しずつ改善していけばいいのではぐらいの感覚でいます.
  • DX:
    • 振興計画にDXがんばるってたくさん書いてあるけど,Solowパラドックスを想起せざるを得ない.組織改革や有形無形の投資が不可欠だと思う.
    • 県だけがDXをがんばっていくわけじゃないので,全国平均以上の成長率をDXで達成するのは,それなりの戦略が必要であろう.オードリー・タン率いるデジタル庁相当の部署を県に創設してやるぜーぐらいのやる気と資源がないと掛け声倒れになるのでは.
    • もちろん,中小企業はPOS使っていてもろくにデータを整理すらできず会計情報を読めず意思決定に役立てていないところも多いかも.デジタルで生産性を高める余地はたくさんありそう.記録があれば地銀側で分析することもできるかもしれないけど,地銀マンに修士号以上を持つデータ分析人材は…
  • 成長率:
    • 毎年3%成長はちょっとねー?というのが第一印象.だが,インフレが来たり,Covid-19での落ち込みを基準にしたり,インバウンドがリバウンドすれば,名目成長率の目標自体はあっさり達成できるかもしれない.
    • それはそうと,県民経済計算のリリース日が年々遅くなっている気がする.企画部統計課がんばってください.
  • 東海岸サンライズ構想:
    • コンパクト+ネットワークという今どきの国土計画に真っ向から立ち向かうかのような,Eraihito-based Policy Makingという印象..
  • 西銘大臣ビジョン:
    • 予算の使途は (国と対立するような首長がいる) 県の自由にさせないよ,というところだろうか.歴史の教科書に載る場面を見ている気持ち.
    • 県の計画は県庁職員がまとめている(と思われる)のに対して,大臣ビジョンは聡明なキャリア官僚がまとめているように見える (霞が関パワポがきれいで印象的).
    • 「強い沖縄経済」にこれまで具体的な定義がなかった (と思う) ところ,ようやく域外競争力が強く,外部変化に強く,民間主導,という3要件が示された.しかし,移輸出できるけど外部の状況に左右されにくいってどうするんだろうか.でかすぎてaverage outできないほど強い企業が生まれないようにする,みたいな話じゃないといいけど笑
      • 「強い沖縄経済」は「Make America Great Again」感がすごいフレーズで,何を目指しているのか見えなかったけど,あえて示さなかったとすると私の想像以上に首相とその周囲は周到だなという気がした.




Saturday, January 29, 2022

ザル経済? パート1

最近報道で「ザル経済」が一つのキーワードになっているらしく,私も意見を聞かれることがある (あった).自分のためにも,いくつかぱっと思いついた論点を整理しておきたい.


1. 基本的な考え方

  • ミクロレベルの「ザル」 (特定の公共事業で県外企業が受注) と,マクロレベルでの「ザル」 (貿易収支バランス) は区別して議論する必要がある.
    • 後者の場合,貯蓄・投資のバランスから決まるもの,という動学的なフレームワークが不可欠だと思う.というか,地域間財政移転に伴う双子の赤字的な状況ではないかと疑っている.
    • 後者については,沖縄の場合県外からの純要素所得は労働所得も資本所得もプラス,金融収支もプラス,ということと整合的になるか考える必要がある.集計レベルでは,県外に資本所得が流出どころか,資本を県外に輸出して資本所得を稼いでいるポジションだろう.
  • 域内の「循環」や「漏れバケツ (leaky bucket)」 みたいな話はどちらかと言えばマクロの議論であり,個別の事業が適正・透明に遂行されたかというミクロな評価とは分けて議論すべきであろう.
    • 域内循環を高めるために県内企業の受注割合を高める…といったことを乱暴にやると,入札談合の温床になると懸念される.安直な排外主義は腐敗を招く.
    • 経済学者の多くは,「循環」そのものではなく経済厚生を重視していると思う.ので,どういった歪み・失敗があるかを特定する必要がある.
    • 循環を高めることが経済厚生の改善につながるとは言えない.地元でインプットを調達できることが望ましいとしても,それは輸送費用の節約や集積の経済や競争が理由であり,お金が回るからではない(なくてもよい).
    • 受注する県外資本にも競争がある.「中抜き」で楽してレントを得ているとは限らない.(マークアップがあったとしても,沖縄だけで問題になるという理屈は自明ではない.) 県民の所得と雇用を生み出すために県外企業の力が必要で,県外企業が正当な対価を受け取っているだけならば,それを叩くのは難しい.
    • 特定の産業で自給率を高めて輸入を減らしても,そのせいで他の産業の輸出が減って,マクロレベルでの「漏れ」を減らすことにつながらない可能性は十分考えられる.
  • 県民の生活水準の向上が目的だったとして,公共事業が合目的な政策手段かは問われてしかるべきである.現場では予算を消化することばかりが優先されているかもしれない.
    • 所得や雇用や生産性にどれだけ結びついたのか費用対効果を検証すべきである.しかしこうした政策評価は産業連関分析やロジックモデルでは (今どきの研究者を納得させることは) 難しいと思う.
      • 産連によるよくある「経済効果」はルーカス批判を回避できないどころか,価格も資源制約も反実仮想も民間投資のクラウディングアウトもへったくれもないような・・.
    • ワイズ・スペンディングが難しいのはわかるが,県内経済のボトルネックや歪みを緩和するためにお金を使ってほしい…
  • 県内の受注割合は,県内に落ちるお金の割合,を意味しない.
    • 県外企業が県内で労働者や資材を調達するかもしれない.大手ゼネコンは受注の多くを占めるが,外注も多いものである.
      • イオンにも県産食品は売っているし県民が多数働いている,サンエーにも移入財・サービス・県外資本のテナントはたくさんある.イオンは避けてサンエーやりうぼうに行こう,という類いの話は直感的におかしい (無論,地元ブランドを選好すること自体はよい).
    • 結局誰が便益を受けているのか,は自明じゃない.県外大手ゼネコンじゃなくて,建設場所周辺の県内在住地主が一番儲かっているかもしれない.
  • 産業構造の視点.
    • 県内調達を増やし県内建設業がより儲かるようになったとして,建設業に資源がシフトすると他の産業が縮小することになるのでは.Dutch diseaseみたいな話はやはり産連では出てこない(はず).
  • ひも付き援助.
    • 対外援助が,ドナー国から調達するようになっているなど「ひも付き」になっているせいで,思うような効果を挙げていない,という話は開発経済学で古くからあると思われる.公共事業が県外からの調達につながっているとして,それにまつわる論点はすでに軒並み出尽くしている気がする.援助全額がホスト国で使われるわけでなく,ドナー側でのアドミンのコストや調達コストが高くついてしまい現地には予算規模ほどには届かない,みたいな実情は現代でもある(と思うが専門外なので文献は知らない).
  • 分配の問題など,そもそもの目的が自明ではない.
    • 誰がレントを取るべきか,は分配の問題.パイを増やす問題と比べて,何が最適解なのかは自明ではない.語り得ぬ物には沈黙…と言うか,経済学だけではたいしたことは言えない(政治的信念が必要)ので個人的にはあまり触れたくないトピックである.
    • domesticとnationalのどちらを見るべきか,というのも特に答えのない問題.だが,県外に「漏れ」た所得をただの無駄,とみなすのはいささか視野が狭いのではないだろうか.
      • 県外に「漏れ」た所得は,県外の所得を増やし県の輸出需要を増やす,みたいな効果もあるはず.
    • 生産要素の所有権がどのように決まっているか,は大事な問題だと思うけど,どのように決まっているべきか,はちょっと話が大きくなりすぎる気がする.
      • 資本の所有権がないなら,貯蓄して投資して資本所得を稼げばよいという話になりそう.現時点でも県民は建設業ETFやREITに自由に投資できるのだから.


2. Brecher and Bhagwati 1981 JPE

域外からの所得移転が直感に反してネガティブになる,という議論はtransfer paradoxやcurse of foreign aidといった文脈と密接だと思う.専門外だが勉強も兼ねて,眺めた論文の簡単なメモを残しておく.この文脈は日本人経済学者 (八田先生や矢野先生など) も重要な貢献をしているので,そのうち気が向いたら引き続きメモをしたい.


BrecherとBhagwatiは,生産要素の所有権に注目してHOモデルを書いている.設定は単純で,国内にある$\bar{K}$のうち国民が持つ分が少ない(外資が国内で生産しているイメージ),といった状況を考えている.基本的にはただそれだけ.

この場合,「国内」でみれば援助で厚生改善したとしても「国民」でみれば援助が厚生悪化になる可能性が出てくる.TOTが変化したとき(Stolper-Samuelsonで)損する生産要素があるから (得する方の要素があってもその所有権がなければ…),というのがおおまかな直感.

  • 正確には論文9式.貿易の価格弾力性や変化前の貿易パターンに依存する.貿易パターンは要素賦存量で決まる.なお,「国民」の貿易パターンは,仮に「国民」の持つ要素だけで生産していれば,というものである.国内で見ればXを輸出してるかもしれないけど国民だけならXを輸入しYを輸出するはずだったということすらありえるよ,という感じ.


しかし現代の沖縄の文脈には直接援用できないモデルかもしれない.建設業は非貿易セクターなので.


Reference

  • Brecher, Richard A., and Jagdish N. Bhagwati. "Foreign ownership and the theory of trade and welfare." Journal of Political Economy 89.3 (1981): 497-511.


続く…かもしれない?

Wednesday, June 23, 2021

沖縄でShecession?

講義で使おうかと思ったが結局没にしたネタを投稿する.

コロナ禍における労働市場の動きについて,去年ゼミで学生から「She-cession」なる表現を教えてもらった.女性の方が男性よりも苦しみがち,とのこと.休校で育児負担が重たくなった,女性の多いセクター・タスクほど自粛による打撃が大きかった,などの理由が考えられる. 

She-cessionは沖縄でも生じてるのだろうか.労働力調査と毎月勤労統計調査をさっと眺めてみた.

結論は,女性に負担が集中している様子は思ったよりも見えない,という話である.

1. 労働力調査では男女差はよくわからない

ひとまず労働力調査から.

大きなショックのせいで季節調整がややこしくなりそうなところだが,ひとまず今回は2004/1から2019/12のデータを使って季節調整を施し,2019年の調整と同じように2020/1以降の季節調整を行った.

就業者数を見ると,女性より男性の方がショック後に低下しているように感じる.特に20年4月頃.

沖縄の就業者数, 男女別. 季調値.

非労働力人口を見ると,男性は変動が大きくよくわからないが,少なくとも女性が急増したようには見えない.失職し非労働力人口に移行する動きは(大きいと思っていたものの)観察できないようである.

沖縄の非労働力人口, 男女別. 季調値.

完全失業率では,女性ではなく男性のほうが上昇しているようである.

沖縄の完全失業率, 男女別. 季調値. (図では2020/1=100に基準化していると書いているがこれは間違い.)


労働力調査を眺めていると,ジョブが破壊されたのは,男性の自営業という印象を受ける(図は省略).長引く自粛で零細な飲食店や土産物屋,レンタカー事業者などが店じまいした,というイメージだ.

一方,被用者なら,男女問わず,(私の印象では)思いの外,雇用は守られているのではないだろうか(時短などはあろうが).飲食店のシャッターと張り紙を見るととても悲しい気持ちになるし「沖縄経済厳しいな…」と感じることもあるが,みんながみんな飲食業で働いているわけではないのだ.シャッターのような目に見えやすい情報だけからマクロ的な動きを推測するのは難しいものである.

労働力調査は産業・年齢・職種などいろいろなブレイクダウンがわかるが,サンプルサイズが小さくノイズが大きいので,これ以上細かい何かは見えそうにない,という気もした.


2. 毎勤では男女差が見られなくもない

毎勤でも確認してみた.以下すべて2018/1--2021/3, 5人以上事業所のデータである.季節調整は行っていない.

なお,調査対象事業所の入れ替えのためか,年始などに大きなジャンプがしばしば見られる.どういった標本調査の設計か知らないが,額面通りに捉えないほうがよい気はする.

さっそく労働者数をプロット.男女で異なるトレンドをしていた.

沖縄の労働者数,男女別, 調査産業計 (本月末).

  • 労働者数で見ると,男性は増加トレンドにある一方,女性は2020年以降減少トレンドにある.一見すると"Shecession"のようである.
セクター別に見ると,異質性があるようだ.次の図は,女性の労働者数が多いセクターを適当に選んで労働者数をプロットしたものだ.
沖縄の女性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性の中でも,増加トレンドにあるように見える産業 (D 建設業) もあれば,横ばいの産業 (O 学習支援業) もある.
  • 打撃が大きそうな宿泊業(M75, 図右下)では,コロナ禍前まで増加し,コロナ禍で減少に転じた様子が見て取れる.
  • 一方,宿泊・飲食サービスというより広いくくりでみた場合(M, 2列目右)は逆に,コロナ前が底で,コロナ期に増加へ向かっている.
  • 小売業 (I-2 4列目真ん中) は,コロナ禍前は横ばい,コロナ禍で急減したのち回復中,という様子.
  • 意外と減っていたのは金融・保険業(J, 2列目真ん中)である.
  • セクター間の労働移動でショックを吸収している動きもありそう.だがこのデータではシリアスな分析はできない気がする.
  • 女性雇用の約3割を占める医療・福祉 (P 3列目右) は,コロナ禍前は減少,コロナ期に増加,という動きになっている.産業計 (TL 左上) でコロナ期に減っている分は,医療・福祉以外での減少が積み重なったものになろう.
こうしたセクター間の異質性は,男性と女性で異なる.
次の図は男性についてセクター別にプロットしたものだ.
沖縄の男性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性と違って,金融・保険業 (J) や小売業 (I2),サービス業(他に分類されないもの) (R) は増加傾向に見える.
  • 女性と違って,建設業 (D) はコロナ禍前は減少ぎみだったが,コロナ期には増加しているように見える.他で失職した男性が流れてくるような,という一種のセーフティネット産業になっているかもしれない.
なお,労働時間やマンアワーを見ると,男女差はあまり見えなくなる.
沖縄のマンアワー, 男女別, 調査産業計.
  • どこかで変なことが起こっているような…? あまり額面通りに受け取れない.


次の図はパートタイム労働者比率である.男女ともコロナ期に低下している.男女問わず,非正規雇用が不況の調整弁になっていたように見える.
沖縄のパートタイム労働者比率, 男女別. 調査産業計.


3. まとめ的な話

丁寧な統計的分析を行ったわけではないが,目で追える範囲では,She-cessionの顕著な証拠はなく,あるともないとも判断できない.データによって異なり,労働力調査だとなし,毎勤だとありそう,という感じ.
Shecessionというよりは,男性の自営業や,男女問わず非正規雇用が悲惨な目に遭っているように感じる.
また,女性といっても,産業によって動向は様々である.

結局わかんない,という結論ならこの記事はなんだったんだ…と思われるかもしれないが,冒頭に書いたようにこれは「没ネタ」なのである (すみません).
今回わかったのは(前から知ってたが),県が集めているデータではたいしたことはわからないということである.

もちろん,就業者数が思いの外男性以上に減ってないからといって,女性が楽だ,といったことを言いたいわけではないので注意してほしい.同じ離職でも,セーフティネットからこぼれ落ちてがちなシングルマザーは男性よりも苦境に陥りやすい,といったことは考えられる.

コロナ禍で離職ショックが起こったら,それに続き労使の交渉力が変わり,賃金にも影響しそうな予感はする.が面倒なので賃金については今回はスルーで.


かれこれ1年半コロナ禍を耐え生き延びた飲食店は,かえって地元の常連客の信頼が厚い,おいしい優良店というシグナルになるような気がしている(金策だけうまいゾンビ企業かもしれないが).ワクチン接種が進むまでもう少しがんばってほしい.

Friday, March 19, 2021

『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

 沖縄の経済・経営史をまとめた本の1章を担当しました.どうぞご笑覧ください.

1950倶楽部編, 大城肇・與那原建・山内昌斗・大城淳 (2021) 『沖縄経済と業界発展ー歴史と展望ー』光文堂コミュニケーションズ

さっそく新聞でも紹介いただきました.

沖縄タイムス「県経済の歴史 「一冊」に凝縮 1950倶楽部 20日から発売」 2021年3月16日

琉球新報「沖縄の新社会人と就活生に必携の1冊 「1950倶楽部」が新刊を発行」2021年3月18日

 

概要

経済学者2名と経営学者2名が沖縄の過去を振り返る内容です.沖縄の企業がどこから生まれてどこへ行くのか,歴史的な展望を描きます.高校生や大学生向けの,非テクニカルな文章です.新聞2紙による歴史コラムも各所にあります.

この本は1950年創業の企業が集まった「1950倶楽部」の70周年記念として企画されました.ちなみに書籍の売上は全額寄付されるようで,私に印税は入りません.

 

執筆の経緯

弊学で担当している講義「沖縄経済論」の内容をどこかにアウトプットしておきたいと思っていたところに,執筆のお誘いをいただきました.

私は歴史能力検定1級日本史を持っている程度には歴史好きなのですが (高校生の頃は経済史の研究者になるつもりでした),経済史の研究者としてトレーニングしてきたわけではなく,アマチュアです.それでも,講義を通じていろいろ調べて考えたことは,英文査読誌でなくとも何らかの形にしておいたほうがよいだろうということで,恥を忍んで執筆することにしました.

当初は本の後ろの方にこっそり1章おまけで載せるようなつもりで引き受けましたが,いつの間にか第1章になってしまいました.


私の担当箇所

私は,個々の企業の歴史には触れず,よりマクロ的な視点から沖縄経済の歩みをたどっています. (本書自体は,個々の企業史をまとめた第2章が一番のウリです.)

淡々と歴史的事実を並べるというより,現代の経済学者 (の駆け出し) がどういった視点でものを見ているのかを伝えるような文章にしています.たとえば,逆因果や欠落変数バイアスをネチネチと潰していくところや,比較対象に目配りすること,インセンティブや人的資本に注目して説明しようとするところなどです.

当初は講義ノートと論文の間ぐらいの堅い,大部な原稿でしたが,編集を経てアカデミックな作法や厳密さを控えめにし,一般向けに寄せていきました.参考文献や脚註や専門用語をがっつり削ってあるため,読者によっては歯がゆいかもしれません.他方,余談もほぼすべて削ったので,本を読み慣れていない人にはまだ堅苦しいかもしれません.

経済学の理論を解説して沖縄での事例を紹介する,といった大学の講義っぽい構成 (たとえば横山『日本史で学ぶ経済学』みたいな) にしたかったのですが,時間と私の能力の都合で,だらだらとした編年体風の構成になってしまいました.次回作で構成を改善したいと思いますが30年後ぐらいになるかもしれません.

執筆していたのは去年の春頃で,感染症のせいで図書館も古書店もなかなか利用できず,いろいろ不自由しました.目を通したいものが増えるばかりで,積むことすらできていない積ん読が進みました.

 

私の章の内容

(1) 戦後のRGDPを見ると成長率のパスは驚くほど本土と似ている.この観察から,今貧しい最大の理由は,初期値の違い,ラフに言い換えれば歴史の違い,と言える.

(2) 琉球王国の中継貿易の様子を記述する.当時の貿易は沖縄県民を広く潤し育てるようなinclusiveなものではなかったのではという問題提起をする.

(3) 薩摩侵入後は,財政赤字に苦しむ,マルサスの罠に陥る,と散々である.士族 (血縁重視) と農民 (地縁重視) で,日本風なものと中国風なものとが混在するようになる.

(4) 明治維新後は,旧慣温存により日本式の近代化が遅れる.旧慣の善し悪しは論争があり,初期値の違いの一因と考えられるが,他方で平和的に制度移行をするための必要経費という側面もあったと考えられる.

(5) 戦後はアメリカの傘下で,基地依存輸入経済として復興を果たす.B円や米ドルを使った固定相場制を経験する.アメリカはシーツ善政のように,日中よりも沖縄を発展させる努力を払ったように見える部分もある.しかし復帰後・冷戦終結後も米軍基地の多くは残ったままで,政治的な軋轢を生んでいる.

なお,元ネタになった講義の資料は公開しています.

 

 既存の沖縄の歴史研究は他の日本経済史と似て,マルクス主義ならではの議論・問題意識が多く見られます.植民地は黒字か赤字か (西里・安良城論争) なんてボルシェヴィキかよ…みたいな.マル経だからだめだというわけではありませんが,私のような近代経済学の人が歴史を整理し直すのも新鮮で有用かと思います.

個人的には(1)がもっとも重要な指摘だと思っていて,initial valueをコントロールするのとしないのとで大きく違う,fixed effectの中身はそう簡単にわからない (外生的な変動に注目する必要),といった統計的事実を理解しないと,やすやすと偏見と短慮にまみれた感想文レベルの俺様沖縄経済論に陥ってしまうだろうと思います.沖縄の貧困は○の問題…みたいな血液型占いレベルの俗論が流行るぐらいですし.

ページ数と私の能力の都合で近現代が手薄になっていますが,そこは今後の課題にしたいと思います.とくに,米軍基地については私の定見のなさ・ノンポリさが目立つ気がします.すみません (私の文章を早合点した人に,基地賛成だの反対だの,政治的ななにかに利用されることは本意ではありません).その他論じたりない部分も多く残っていますがご容赦ください.

 

参考文献

岩波新書ほどではないですが,参考文献はかなり削りました.すべてではないですが,削ったもののうち影響されたものをここに載せておきます.

  • Galor, Oded, Omer Moav, and Dietrich Vollrath (2009) Inequality in landownership, the emergence of human-capital promoting institutions, and the great divergence. The Review of Economic Studies 76: 812 143̶179. 
    • 農民をエリートが搾取しているような社会では,エリートには人的資本を広く普及させるインセンティブが乏しい.これはわりと沖縄が明治維新後に工業化に遅れた理由としてしっくりくる説明な気がする.
  • 小野塚 知二 (2018) 『経済史 -- いまを知り,未来を生きるために』有斐閣
    • 評判がいいのでよく知らずに買ってみたらマル経でびっくりした.勉強不足で近経しか知らないので,マル経ベースの先行研究を読んでいく上で役立った.
  • 来間泰男 (2014) 『琉球王国の成⽴ 下: ⽇本の中世後期と琉球中世前期』⽇本経済評論社
    • 琉球王国は国というより商社,という発見はこの本で得た.
  • 高良倉吉ほか (2017) 『沖縄問題: リアリズムの視点から』中央公論新社
    • 本書執筆中に参照することはほぼなかったが,変な本が多い沖縄経済論壇では数少ないまともっぽい本 (ポジショントークは割り引く必要があるが).
    • 高良本は,「辺境性」がハンディ (自立経済構築の阻害要因) になっている,という地理ビューを持っている.
    • 私の場合,沖縄の地理的優位性についても言及してとリクエストがあり,最後に(ようやく自分の専門分野の)地理の話を付け加えた.私の考え方は,(1) Acemoglu-Robinsonみたいに,地理そのものは交絡がありすぎて経済成長への影響はわかりにくく,また一番大事な要因とは考えにくい,(2) 集積によるイノベーション促進は経済成長のエンジンになるはず(Kuznets, Bairochほかあまたの都市経済学) (だがFay-Opalなど成長なき都市化もあるかもしれない),(3) 重力モデルみたいに,貿易フローや賃金にも直接間接に影響する (文中では,Redding-Venablesを想定した説明をしている),といったものである.「地理的優位性」は市場ポテンシャルみたいに定量化できるとは思っているけど(実際計算したことはないものの),「辺境性」という固定効果でのお気持ち表明を試みているわけではない.
  •  武田晴人 (2019) 『日本経済史』有斐閣
    • 秩禄処分のくだりは,沖縄の旧士族層の解体周りの記述に役立った.
  • 真栄平房昭 (2003) 「琉球貿易の構造と流通ネットワーク」 豊⾒⼭和⾏ (編) (2003) 『⽇本の時代史18: 琉球・沖縄市の世界』吉川弘⽂館
    • 国際貿易にはエージェンシー問題がある,とアブナー・グライフやらの議論が先取りされていた.
  • 與那覇潤 (2011) 『中国化する⽇本: ⽇中「⽂明の衝突」⼀千年史』⽂藝春秋
    • 執筆当初は,この本のような中国化・日本化の視点で沖縄経済史を整理し直そうと考えていた.があまり真似しようとしても真似できず,中途半端なオマージュになってしまった.歴史系の先行研究は緻密な実証が主で,本書のような大きな話はなかなか語られてこず,適切な参考文献がなかった.
    • 私と同じような本を読んでいても,私よりずっと本質を読み取っていて,読解力の差を思い知らされる本.
  • 有間しのぶ 『その女、ジルバ』小学館
    • 校了後に読んだマンガ.執筆前に読めばよかったと思った.
    • 沖縄移民史については学術論文をいくつか読んだことがあったけど,移民についての知識と想像力がまだ足りておらず,しょーもない記述になってしまったのではと思わされた.
    • 以下ネタバレあり.このマンガは移民以外の部分も,学術的なバックグラウンドがあるようで (おそらく社会学) おもしろかった.主人公の同僚3人の描かれ方は印象的だ.3人とも会社・家族・近隣コミュニティといった中間集団からこぼれ落ちた存在であったが,1人は円満に結婚を決め (→家族),1人は地元に帰り (→近隣),伝統的なコミュニティに再び埋め込まれることになる.一方で残された主人公は(フォーマルな)会社とは決別し,非定型的な居場所と使命を見いだすことになる.社会学でいう後期近代?高齢化・未婚化・晩婚化が進む現代日本らしいテーマ.

 

謝辞

編集の意向で謝辞も本文から削りましたが,本章を執筆するにあたり,金城敬太氏に多くのコメント・示唆いただきました.ここに謝意を表します.講義でコメントや質問をいただいた学生たちにも感謝します.また,執筆の機会をいただき,上間優氏ら1950倶楽部のみなさまには深く感謝いたします.

もとより,私の文章は個人的見解であって,1950倶楽部各社とは無関係です.

Wednesday, March 10, 2021

新型コロナをめぐる雑感5

 1月に東洋経済のダッシュボード(のGitHubリポジトリ)が更新停止したようなので,自分で沖縄の実効再生産数を計算するようにしている.といっても逆計算もMCMCもせず,事実上週次の変化率を見ているにすぎないのだが.

特にオチはないが,足下での感染状況を記録しておく.

1. 感染者数が減っても宣言を続行していた

沖縄県の新規感染者数とその7日移動平均. 3月9日分まで.

2度の緊急事態宣言(赤いところ)を比較すると,2度目は感染者数が低い状態でも宣言をしばらく解除せずにいたことがわかる(実際2月28日まで3週間延長した).

延長の理由は医療提供体制の逼迫が挙げられていたが,春の観光シーズンが来る前に感染ゼロを目指していたような予感はする.

 

2. Rtは宣言延長中にリバウンド

しかし,緊急事態宣言の延長期間中には実効再生産数はリバウンドを始め,いまや1を再び超えるようになっている.

沖縄県の実効再生産数 (報告日ベースの簡易版).3月9日分まで.
多くの人が免疫を持たない状況では,油断すると指数関数的に拡大してしまうことは今までと変わらない.梅雨時期には再び1日100人を超える新規感染者数となり慌てることになるのかもしれない.ワクチンも医療体制も算術級数的にしか増えないので.

 

3. 移動は宣言中の2月から増加トレンドへ

Appleの移動傾向レポートで沖縄のモビリティを確認すると,2月に入った頃から交通モードを問わず上昇傾向にある.

沖縄県の移動傾向指数.20年1月13=100.

県と那覇市とで大きな差はないがついでなので那覇市の分もプロットする.

那覇市の移動傾向指数.20年1月13=100.

2月上旬に緊急事態宣言が延長される方向であることが報道されていたが,だいたいその頃から県民は徐々に緊急事態宣言に従わなくなったのかもしれない.2週間ほど遅れて実効再生産数のリバウンドがやってきて,解除した今足下で微増が続いている,と理解できそうである.

緊急事態宣言を再延長するらしい東京では,沖縄と同じく2月上旬頃に上昇したものの,2月後半から3月まで横ばい,という印象.

特別区の移動傾向指数.20年1月13=100.

東京に比べて沖縄は宣言を遵守しない傾向があるのだろうか? (単に規範意識が低いと言いたいわけではないのであしからず)


4. 出口戦略

  藤井・仲田が指摘していてなるほどと思ったが,緊急事態宣言の解除は,金融政策の出口戦略と似た要素を持っていると思った.

金融政策と少し違うのは,宣言に強い拘束力がなく長期間持続可能でないことや,政策反応関数がよくわからないこと(や首長たちが期待形成を意識したコミュニケーション政策に長けていないこと)だろうか.

新型コロナウイルス感染症の場合,エージェントは近い将来すら見通しが立たない,という不確実性の高い状況である.緊急事態宣言の実施期間も感染動向も予見しにくい.簡単ではないにせよ,ショックの打撃を和らげるために,こうした不確実性を払拭できるよう努力できないだろうか.


Saturday, August 15, 2020

新型コロナをめぐる雑感4

引き続きとりとめもなくデータを眺める.時間のかかる計算をやっていて少し手持ち無沙汰なので.

沖縄はついに警戒レベル4に移行した.7月の第二波が来たばかりのときと,直近では,検査の方策が異なっていることもあり,「新規感染者数」の内訳に変化が見られる.

7月は「夜の町」らしく20代女性の感染者が目立っていたが,8月に入ってから(下の図1の一番上)はそうした極端な傾向が見られなくなった(とはいえ第一波に比べると若年層に多いように見えるが).

図1: 沖縄の新規感染者の年齢構成.男女別.8/14までのデータ.
 

いくつかの小学校で感染があり,10代未満の検査・陽性も増えているようである.

直近では,先月と異なり,中部・北部・離島にも広がっているとのことだ.そこで,都市雇用圏に似た地域区分で区切って,感染者数の地理的分布の時系列変化を見た.

図2: 沖縄の新規感染者数の地理的内訳.8/14までのデータ.

なお,宜野湾は中部保健所管内だと思われるがここでは那覇都市圏(那覇浦添都市圏)に入れた.中城も那覇都市圏だが,「中部保健所管内」に含まれており,ここでは沖縄都市圏に含まれていると思われる.otherwise (図右端の薄緑) は他府県や調査確認中.ここでの離島 (islands) は宮古・八重山のこと.久米島や慶良間などは南部保健所管内なので那覇都市圏に,伊江島などは北部にカウントしている.

 図にしてみると,7月と8月で微妙な変化が見て取れる.

  • 依然として感染の中心は那覇を中心とした南部エリアである (3/4程度).このエリアには沖縄の人口の約6割が住んでいるので,那覇界隈は人口比以上に感染が広がっていることがわかる.
  • 中部(オレンジ色)は第一波に比べるとまだ割合としては少ない方である (15%程度).7月頃は米軍経由の感染拡大が懸念されていたが,中部で脅威的な広がりを見せているわけではない.
  • 8月以降は宮古・八重山(左の青緑)や北部 (ピンク) にも広まっていることがわかる.
  • 7→8月で減ったのは,その他 (右端の薄緑) である.

 

月初Rtが高いと指摘したが,現在東洋経済のダッシュボードによると1.24 (8月13日時点) と,落ち着きを見せている (1以上なのだけど).まぁ足下の数字で一喜一憂するべきではないのだろうが.

Thursday, August 6, 2020

新型コロナをめぐる雑感3

前回ポスト新型コロナをめぐる雑感2の補足.
若年が多い理由の一つに
5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
と言及したが,たしかにこれがけっこう効いているようである. 検査の戦略・検査のキャパシティが第一波と大きく異なっている.
 なので,今のnew cases = 100人は,かつての100人と意味が違うのである.足下では,まだあわてるような時間じゃない,という感じ.
新規感染者が何人以上でレベル何,みたいな活動制限ガイドラインの閾値は,見直しが必要な気がする.あと,感染症の研究って,門外漢が片手間にやるもんじゃねーなという気がした.

検査の戦略は,多腕バンディット問題で言うところのexploitationを中心にやっていたようである.特に米軍周りを積極的に潰していったようだ.しかしexplorationに手が回らず,那覇の「夜の町」の発見が遅れた,という様子.
町丁目レベルなど高い空間解像度で感染場所を特定し, ベイズ最適化的な疫学調査をすると役に立つかもしれないとは思った.
(後知恵にすぎないが,「夜の町」は予測が不確実な場所というよりは新宿などの例を思えばexploitationしておくべき場所だった気も.)

検査するにしても,全員調べるのは大変だが,グループ検査 (wikipedia) などのアルゴリズムを使えばすばやく異常検知できるかもしれない.数学は,実装できれば,新型コロナ対策にも役立つと思われる.

性別については
なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).
と述べた.しかし,年齢別x性別で見ると,男女差が見える.

年齢構成は男女計だと
沖縄の感染者の年齢構成.8月5日分まで.
一方,男女を分けると,女性は特に20代に集中していることがわかる.男性は20--40代.
男女別.左が男性,右が女性.8月5日分まで.
「夜の町」でのアウトブレイクを反映していると考えられる.

が,男性の20--40代って店員?客?というあたりはあまりよくわからない.20代はホストかなという感じがするけど,30--40代のホストは多くないよね?でも夜の町でお金を落とせるほど稼いでるのかな?…と,実態がイメージできないでいる.




Monday, August 3, 2020

新型コロナをめぐる雑感2

ひとまず生存報告をば.
沖縄では緊急事態宣言が出て,弊学も閉鎖中です.私は今のところ無事ですが,県経済の見通しが悪すぎて胸が痛いです.
感染人数はまだ絶対数では少ないですが,医療機関や保健所はすでにキャパオーバーという感じのようです.



沖縄を襲っているCovid-19のうち,5月頃までのを第一波,7月以降のを第二波として,第二波はそれ以前と性質が異なっている.特に次の三点が気になっている.
  1. Rtが高い.
    • 東洋経済のダッシュボードによると,直近(8月1日時点)でRt=4.1.
    • 4連休・GoToの影響は出るならこれから.これまでの分は,東京などで働けなくなった水商売の人たちが沖縄に持ち込んだ側面が強い模様.
  2. 市中感染している模様.
  3. 若年層の感染が多い.
    • 沖縄のstopcovid19からデータを取得し,年齢の内訳をプロットした.
    • 図の上側("wave02") は下側("wave01")と比べて,00--30代の感染が大幅に増えている.
沖縄の感染者の年齢構成.7月27日分まで.

感染者が若くなったことには,いくつかの説明が考えられる (実態を知らないのでただの思いつき):
  1. 第二波では「夜の町」の中でも若年が集うエリア・店舗でクラスターが発生した.
  2. 第二波では高齢者の防疫対策が進んだ.
  3. 第二波では,第一波で経済苦に陥り,感染リスクを取って働かざるを得なくなった若年が増えた. 
  4. 第二波では,重症化しにくい若年ほど行動変容するインセンティブが弱かった.
  5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
若年に広がっているのは沖縄だけでなく全国でもそうなので,米軍からの(パリピ経由での)伝播,対面が避けられない仕事に就く若年低技能労働者が多い,などのように,沖縄固有の要因で説明するのは難しいと思われる.

10代以下の感染は多いが10代の感染はまだ少ないまま,であるのは興味深い.10代の子供がいるシングルマザーは「夜の町」で働けない…というわけではないと思うが.

なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).

そもそも,人と人との接触ってどうしてもスケールフリーでべきになりそうなものなので,足下の数字の解釈はかなり難しいと感じている.





 あと,第一波と違って,第二波はもういい加減耐えられない企業が急増するのではないだろうか.
観光立県の沖縄では,県内で感染抑制するだけでなく,内地・東アジア・基地内でも感染抑制に成功しない限り,Covid-19に対しては脆弱なままだ.
経済的打撃は目先だけのことでなく,中長期的にも悪化していると思われる.リスクを均すような保険も成立しなさそう….そろそろ廃業ラッシュが来そう.

感染爆発・医療崩壊は(たまにしか)しないけど終息もせずだらだら長期化する,というパスに乗っているような気がする.

ただ,これはこれで持続可能かというと微妙で,遠からず大きな変化(というか不満の爆発)があるような…?




先日ゼミ生と雑談中に,(1) 大学に着いてから手洗い・手指消毒したか,(2) COCOAインストールしたか,(3) 日々検温してるか,聞いてみたところ,ほぼ全員が全部ノーという悲惨な状況であった.そもそもCOCOAは知ってすらいない人が多い.


マスク手洗いなど行動変容でRtをもっと下げ,最悪強めの処置をすれば2ヶ月ぐらいで落ち着きを見せるだろうと思ってはいるが,県は2週間ぽっちでなんとかなると思っているようであった..

政治家は,集団免疫は目指さないとコミットするなど,将来の政策不確実性を減らすようにコミュニケーションしてほしい…



ところで,沖縄の貧困をダシにした,あやしげなオンラインサロン商法みたいな本がベストセラーになっているらしい.読んでないけど.

ちなみに若手のスターBalboniらの最近のペーパー"Why Do People Stay Poor?"は似たような問いに取り組んでいる.
彼女らは(1) obsやunobsによってpoor,(2) poorだからpoor (古典的な貧困の罠),という2つの仮説について,よく設計されたRCTで後者の可能性を検討し,たしかにそうした可能性がある(資産PPP表示USD504が境目)ことを示している.
「心の問題」のようなunobsの一つで貧困を説明できるとするのは無理があるんじゃないすかね.
学問のフロンティアは何周も先を行っている.

Sunday, June 28, 2020

戦前沖縄のGDPに関する富永推計について1

野暮用で調べ物をしている。
富永 (1995) で戦前の沖縄のGDPを推計していることに気づいた。しかしなにやらおかしな議論に感じたので、疑問点を備忘のため書き留めておきたい。
  • 富永斉 (1995) 『沖縄経済論』ひるぎ社
一部のチャプターは琉大の紀要に原典があるそうだが、電子で手に入らなかったこともあり未確認である。
あいにく細かく読んではおらず、以下はパラパラめくっての乱暴な感想。

1. 富永推計の概要

富永いわく、琉球処分後(1885年)の一人あたり県民所得は、全国の所得(データの都合で国民純生産を使っている)の75--80%程度だったとする。宮城 (2018a, b) などはこの推計に依拠して議論をしているし、高良 (2017) など歴史プロパーの文章でも引用されてる。

なぜ75--80%なのか。
  • 1930年代は全国比で35%程度である (と琉球政府が言っている)。
  • 実質成長率が年率1.3%程度である。
    • マルサスの罠で、人口成長率と実質成長率がほぼ同じ、実質一人あたりはゼロ成長、と考える。
  • 30年代から過去を外挿すると、1885年時点で75--80%程度の格差となる。 
    •  1885年時点で50%ぐらいの格差だと、産業革命期のイギリスを超える成長率になりおかしい。
といったところである。

2. 違和感

しっくりこない理由を挙げておく。
  • 実質成長率1.3%は、1920--40年の5年おきのデータ (n=5)を時間トレンドのみのOLSから求めている。うーん。
    • 1920--30年代はソテツ地獄や昭和恐慌の時期である。この時期に沖縄が長期トレンド上にあると想定し、直線でエイヤっと外挿するのは厳しいのではないか。
      • n=5だと、一つ観測が増えるだけで大きく結果が変わるだろう。75--80%という予測の幅は、予測直線をどこから伸ばすのかという恣意性から出てきている。統計的な予測誤差ではない。75--80%±50%ぐらいのざっくりした見込みにすぎないのでは。
    • 30年代が潜在水準を下回る状態だとすると、1885年時点の格差はもっと縮まる、場合によっては沖縄のほうが豊か、というおかしな結論になってしまうのでは。
  • 産業革命期イギリスの成長率を2%と言っているが、その根拠と思われるDeane-Cole推計は、Crafts (1985) and Crafts and Harley (1992)でかなり下方修正された。これは西洋経済史で広く知られていることのような。
    • 「イギリスより低いはず」という理屈に乗っ取ると、やはり1885年時点で沖縄のほうが全国より豊か、という変な結論になり得るのでは。
  • 全国より成長率が低いはずだ、という仮定が結論にほぼ直結してる。そしてこの仮定に十分な正当化がされていない。
    • 全国は産業革命で伸びた、沖縄は産業革命がなく伸びない、ではちょっと雑すぎる気が。イギリスでさえたいして伸びていないのに。
  • GDPデフレーターを全国と同じものを用いている。沖縄と全国で財のバスケットが似通っていればそれでいいのかもしれないが、たぶんそうではないだろう。
    • 当時は非貿易財がめちゃくちゃ多いはずなので、Balassa-Samuelsonみたいな議論は不可避だと思われる。
    • そもそもデフレーターはインプリシットに決まるものということをあまり理解されていない気が。
  • マルサスの罠がバインドしている根拠ってどこにあるのだろう。
    • subsistence levelの生活になることを回避すべく、昔の人々は出産抑制策を講じて生活水準を高めていた、というのが速見融ら歴史人口学の知見ではなかろうか。江戸~明治頃の沖縄に似たような人口成長抑制デバイスがあったのかはわからないが。重たい人頭税で堕胎や嬰児埋殺などはあったようだが(大浜 1971)。
  • 廃藩置県直前の様子 (松田道之の記録など) からすると、75--80%というのはやはり過大評価な印象があるがどうなんでしょ。
  • 歴史的データがはらむ測定誤差の問題にあまり詳細な批判的検討がなされていないように見える。

Reference
  • Crafts, N.F.R., 1985. British Economic Growth During the Industrial Revolution. Oxford University Press, Oxford.
  • Crafts, N.F.R., Harley, C.K., 1992. Output growth and the British Industrial Revolution: a restatement of the Crafts–Harley view. The Economic History Review 45, 703–770.
  • 大浜信賢 (1971) 『八重山の人頭税』 三一書房
  • 宮城和宏 (2018a) 「沖縄経済の成長と生産性に関する実証分析」 in 宮城和宏・安藤由美 編『沖縄経済の構造: 現状・課題・挑戦』編集工房 東洋企画
  • 宮城和宏 (2018b) "沖縄経済の成長, 生産性と 「制度」 に関する一考察." 地域産業論叢 14: 1-31.
  • 高良倉吉 (編) (2017) 『沖縄問題: リアリズムの視点から』中央公論新社

Saturday, March 7, 2020

新型コロナをめぐる雑感

いろいろ雑感.

連日ニュースを見て鬱々とするのは震災以来である.ストレス解消も兼ねてブログ更新.



新型コロナウィルスの影響で,MITでは海外出張が禁止されたらしい.沖縄のMITこと弊学でも海外渡航が当面禁止になり,私も海外出張がキャンセルになった.各方面にはご迷惑をおかけしました.(しかし代理店が問い合わせパンク中でまだ旅券がキャンセルできていない…)



先日プレジデントオンラインでどこかのコンサルが沖縄は観光収入が増えても観光関連産業の付加価値が増えないザル経済だ…という趣旨のザルな議論をしていたが,中国台湾韓国からの旅客が激減しても県経済への影響は軽微ということにならないかな.

しかし実際県経済への影響は軽微,というように見える試算はある.南西地域産業活性化センター (link: PDF) は詳細不明の構造モデル(NIAC計量経済モデル)を用いて,観光消費額-0.1兆円,名目県内総生産が-0.08兆円,と試算しており,県内総生産4兆円の2%程度しか打撃がない,という結論を導いている.
しかしこれは直近の日韓の入国制限うんぬんが入っていなさそうという以上に,学校の休校に伴う労働供給減少や,もろもろのイベント中止,県からの輸出への需要の落ち込み (たとえば電照菊みたいなところは今季は絶望的と思われる),雇用調整助成金など膨大な補償金をまかなう将来の税負担増,などもろもろの要因を加味していなさそうで,新型コロナのインパクトを過小評価しすぎている気はする.(実際「2~5月の入域観光客数、観光消費額の減少分のみが波及効果を含めて年間のGDPなどに及ぼす影響であること」と断り書きはある.)

一方沖縄県が公表している観光の波及効果では,観光消費額(0.8兆円)の約1.5倍の「経済波及効果」(1.2兆円)が生み出されているらしい.ざっくり言って沖縄経済の1/4は観光でできている.
仮に県外・国外の観光客が半減し観光消費額もほぼ半減すれば,0.6兆円が吹き飛ぶ計算になる.県内総生産4兆円の15%に相当する損失が観光だけで生じることになる.リーマンショックの比ではない.

個人的にはどちらも極端で現実は間ぐらいではないかと思っているが,しばらくは影響見極めモードである.



マスクやトイレット・ペーパーの買い占め・転売が「反社」と言われる風潮を見ると,少しもやもやするものがある.入門的な完備・完全競争のモデルだと裁定取引業者は需給のミスマッチを解消し,むしろいたほうがよい(が均衡では裁定取引する余地がなく業者は超過利潤を得ることができない)存在だと思われるからだ.

厚生上問題になりそうな点は,転売そのものというより買い占めのほうだろう.買い占めで供給量を絞るからこそ,独占的な高価格をつけられるようになる.独占価格はもちろん非効率なものだろう(そして妬みも買う).

では次の問題は,なぜ需要が高まったときに,本来の供給主体 (薬局など) でなく(往々にして匿名の)裁定取引業者がこうした行為を取るのか,であろう.
その答えは,薬局などは「評判」を気にしており機会主義的な行動ができない,というものになるだろう.一過性の需要ショックに便乗して「評判」を失うと,騒ぎが収まった後に損をする.匿名の裁定取引業者は個人で数十万円もうけたらラッキーで終わるが,薬局は数十万ぽっちのはした金のために消費者の信頼を失うことはできない.
薬局などは,評判を気にするからこそ,裁定取引業者が転売しているにも関わらず価格を据え置きにすることでかえって信頼を得ることができるので,それがまた裁定取引の余地を生み出してしまう.完全競争だと裁定取引は均衡から一時的に外れた状態だろうが,評判形成のメカニズムを考えると裁定取引が起こる均衡も出てくるかもしれない.

裁定取引業者は,情報の非対称性や不完備契約といった摩擦があるもとでも健全な市場取引を確保しようとする業界の努力を踏みにじっている,と考えられているのかもしれない.

Monday, January 27, 2020

資本減耗率の地域間格差と沖縄の経済成長


沖縄の成長がなぜいまいちか,は従来から様々な議論がある.本エントリは,資本減耗率がその一因ではないか,という話.(というかざっくばらんなアイディアメモ.)

私は以前から,沖縄は資本減耗率が他地域よりも高いのでは,という漠然とした予感を持っていた.台風は多く,湿気もひどい.町中の建物は那覇の都市部を除きボロボロだし,車は定期的に洗車しないと塩害でやられてしまう.沖縄は持ち家比率が低いが,所得・資産が少なく借入制約がキツいという理由もあろうが,メンテナンスのコストが高く耐用年数が短い,という事情もあるかもしれない.


Hsiang and Jina (2015 AER p&p)では,熱帯のサイクロン(台風含む)が資本減耗率に影響し,それが経済成長率に影響することを指摘している.

Hsiang & Jina 2015, Figure 1.
上図は論文の図1である.赤い部分ほどサイクロンの平均風速が高い地域になり,沖縄は赤い部分に含まれる.この図を見るとと,サイクロン・ドリブンで減耗率が高くなり,資本蓄積のスピードを遅らせそうな予感がしてくる.
雪国は雪国で資本減耗率が上がるというより資本稼働率が低くなりそうな気もするが,地理的条件が低成長に寄与する一つのチャンネルが何やら見えてくる.

地域レベルの資本ストックのデータを作るときには,減耗率の地域間格差は考慮されていない.たとえばRIETIのR-JIPデータベースだと,全国版と同じ(産業別)減耗率を仮定している模様(詳細未確認).
R-JIP 2017で,実質資本ストック/マンアワーをプロットすると,下図の通り.
都道府県別のK/L. 2012年,産業計.
全国が真ん中あたりにある黒棒で,沖縄は上から3番目のオレンジ色だ.
沖縄が全国3位の資本豊富地域とは考えにくいよね…

R-JIPを使って都道府県別に成長会計をやると,沖縄はTFP成長の寄与度が際だって低くなるらしい
あまりに極端なので計測エラーではないかと受け止めていたが,エラーの源泉は資本減耗を過小評価し資本ストック成長を過大評価しているため,と考えるとある程度しっくりくるかもしれない.

Reference
  • Hsiang, Solomon M., and Amir S. Jina. 2015. "Geography, Depreciation, and Growth." American Economic Review, 105 (5): 252-56.
  • 徳井丞次他 (2013) 「都道府県別産業生産性(R-JIP)データベースの構築と地域間生産性格差の分析」RIETI Discussion Paper Series 13-J-037.

Saturday, April 13, 2019

富川『アジアのダイナミズムと沖縄の発展: 新次元のビジネス展開』

読んでいてイライラした,という読書メモ.
  • 富川盛武  (2018) 『アジアのダイナミズムと沖縄の発展―新次元のビジネス展開』琉球新報社. [ Amazon ]
現役副知事が,県の立場から離れて研究者の視点から書いた,という沖縄経済本.研究者を名乗るなら相応の勉強をしてくれ,いっそのこと県政のプロパガンダだと開き直ってくれ・・と思った.

3D棒グラフにイライラしながらページをめくっていたが,次の記述でストレスがピークに達し,このブログを更新せざるを得なかった.
しかし,経済学は合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提しており,文化の異質性の概念が欠落し,同質性(ホモ)を前提に組み立てられている.唯一の物差しは貨幣タームである.人間の行動は,単に経済的要素のみによるのではなく,伝統,文化,宗教,風土という「エトス」によって決定される.それにもかかわらず,経済的合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提に展開したところに,これまでの経済分析の問題があった.人間,文化,風土の視点から見ると,沖縄が発展する可能性は大なるものがあると思われる. (p.37)
学部生でもわかる初歩的な誤解をばらまくのは勘弁していただきたい.
  • homo economicusのhomoは,「同質性」(ギリシャ語のhomos) でなく,「人間 」(ラテン語のhomō) の意ではなかったか(?).現代経済学は同質性を前提にして組み立てられてはいない.同質性を仮定するどころか,観察できない異質性があることを前提に分析するのは珍しくない時代である.
  • 「合理性」にはいくつかの解釈があるが,「経済人は合理性のみによって行動する」ものではないし,「エトス」は合理性と矛盾するものではなくそれを加味した分析は少なくない.
  • 「唯一の物差しは貨幣ターム」ではない.貨幣や余剰で考えてよい状況を支える仮定と,合理性や文化の異質性を捨象することは関係ない.オーソドックスなモデルは任意の財を価値基準財に設定することができるどころか貨幣が存在しない.

ここだけではなく本書全体に渡って,専門用語を適当に散りばめ(その用法は間違っているか不明瞭である),論理の飛躍だらけでほとんど何も言っていない文章で,素人をなんとなくわかった気にさせている.詐欺師の手口と大差ないと思う.

おかしなところはたくさんあるが,もうひとつ異常すぎて笑った箇所を指摘しておきたい.
・・・マクロ的な技術進歩を示す生産変動要因分析(産業連関分析)を用いて分析したい.・・・1975--2000年の比較をしてみよう.・・・技術進歩による生産増加は,全体でマイナス1兆8791億7700万円(1975年価格)となっており,技術進歩が見られない. (p.238)

根本的に分析が間違っているような..R-JIPではたしかに沖縄のTFP成長の寄与は他地域より極端に少ないようだが少なくともマイナスではない.現在NGDPは4兆円程度であるのにそのマグニチュードは...2005--2011年で見ても「技術進歩」による効果はマイナス521億円らしい(p.16).

「若いときから沖縄の振興に関する国,県等の委員会等に参加してきた」筆者には,次の振興計画を考える前に,破滅的な「技術進歩」を食い止められなかった責任を取られてはと思うのだがどうだろう.


Saturday, February 9, 2019

沖縄経済論2018 アップデート

沖縄経済論という個人的に気に入っている講義がある.講義と成績評価を終えて一段落したところで,振り返りのポストをしておく.
今年度の講義資料は私のウェブサイトにしばらく置いておく.前回からあまり変更はない.今回は受講者数に比べて教室が大きすぎて,若干やりにくかった.想定よりも2コマ分ほど時間が足りなかった…

近年は沖縄経済のことについて熟考する時間もないのだが,2年前の講義から微妙に変わったことについて雑多にメモをしておく.

1. 統計の信頼性

大学院を出たばかりの頃は,データorientedでない論文はいまどき見向きもされないよねと時代の空気を漠然と反映してイキっていたが,毎勤を中心に基幹統計の信頼性が大きく揺らいでいる昨今,集計データでなにかわかったようなことを言うむなしさも感じている.

私の講義は煎じ詰めれば,データをぼんやりながめるとこういうことが言えそうだよね,という話でしかない.データそのものがおかしいのであれば,ただの徒労にすぎない.最近のニュースはとても残念である.

2. 産業構造

昨年末に日銀那覇支店が「沖縄県の所得⽔準はなぜ低いのか(現状・背景・処⽅箋)」というレポートを公表し,私はそれを講義中にこき下ろしたw 最近続編も出てこちらも機会があればなにかコメントしたいと思う.

ともあれ,日銀の見解では,第三次産業のシェアの高さが,所得水準の低さや労働所得の低さと相関があるように見える,とのことである.
  1. 産業間の賃金・成長率格差
    1. 因果関係はいったんおいたとしても,製造業のほうが他の産業よりも賃金率や成長率が高い,というなら日銀の見解は理解できる.しかし,IT革命以後は製造業が唯一のリーディング産業というわけでなく,産業間の賃金格差も以前に比べるとずっと縮まっているように思う.単純に産業のシェアだけをみてどうこう言うのは(入門レベルの授業では私もやるけど)無理があると思う.
  2. 内生性
    1. 産業構造はpersistentながら,givenなものではないと思う.初歩的なリカード・モデルでは生産性が産業構造を規定するわけで,産業構造が何らかの原因とでも言いたいかのような日銀の議論は学部入門レベルさえすっ飛ばしたアマチュア向けのアマチュア理論だと思う.ちまたの評論家がそれをやるのは勝手だし,因果関係にまでは踏み込まない知的慎重さと無責任さはわかるのだが,高い給与と社会的地位をもらっている日銀マンがそれをやるのは正直どうかなと思う.
  3. 基地の影響
    1. 米軍基地のせいで第三次産業が「固定化」「肥大化」という議論をしばしば目にするが,これは論理の飛躍がありすぎると思う.昨今では医療福祉系の雇用・産出が伸びているが,これは本当に基地のせいなのだろうか?デモグラフィ要因が大きいと思うが.また,セクター間の移動が何十年単位でpersistentというエビデンスは多くないと思うのだが.


3. 中世沖縄のabsorptive capacity

琉球王国は交易で栄えたというのが世間一般の共通理解だと思うが,交易に不可欠な資本(遠洋航海可能な船舶)やスキル(語学)・信用(契約履行)はどこから来たのか,が2年前からの疑問である.
講義では,absorptive capacityやadoptionのインセンティブが低い&鉄や材木が取れないため,船舶を自給することが難しかった,というストーリーで話をした.

講義後,17世紀末には中国からの支援や優遇策が途絶えていたという議論を目にした.単に県民が学ばないアホだったというわけではないのかもしれない.

4. 沖縄の自立

以前と基本的なスタンスは変わっていない.古い世代の学者たちは,モラル・ハザードやソフトな予算制約式という概念を薄々わかってはいるがうまく言語化することができなかった,そのため「自立」というゆるふわワードに頼ったのではないか,と思う.


5. 米軍基地への依存

講義資料を作っていて気づいたのだが,「基地関係収入」と「基地関連収入」は行政・政治的には明確に区別がされている.こうした区別は馬鹿らしいと思われないのだろうか. (また,こうしたいかがわしい区別を明確にし批判した議論はこれまでに真摯になされてきただろうか?)

県がいう「基地関連収入」は軍用地料・軍雇用者所得・米軍等への財・サービスの提供を指す.いわば米軍基地向けの「貿易サービス収支 + 第一次所得収支」である.
一方,県の資料「沖縄の米軍及び自衛隊基地」における「市町村基地関係収入」は,軍用地からの地代収入 + 国からの補助金,という第二次所得収支(+α)に相当するものであろう.

県が基地への依存は5%ほどしかない,と主張する根拠は基地関係収入/県民総所得が5%
程度,というところにあるが,ここには沖縄振興予算や環境整備法・基地交付金に基づく所得移転はカウントされていない.現実的には内閣府の沖縄振興予算の増減が注目されているというのに.「基地関連収入」は政治的に偏ったアンフェアな(運用をされてしまっている)指標だと思う.
「自立」を標榜する人たちが沖縄振興政策のもとで予算を必要としない優遇措置(税率の減免)に明確に反対している姿は見ない.闇が深い.

6. キャッチアップ不在

沖縄と全国平均は,成長率が同じで初期値が違う,という性質がある.2年前はこうしたファクトを手軽にreconcileできる枠組みに思い当たらなかったが,単にAKモデルでよいと気づいた.

ただ,AKモデルのような素朴な世界がデータにぴったり当てはまる世界というのは,かえってデータのほうに問題があるのではないか,県民経済計算の作成プロセスに根本的な問題があるのではないか,という気にさせられる.

講義では教育的な配慮からSolowモデルを中心に教えているが,現実を描写する上でAKモデルのほうがよいとなるとそれはそれで教えにくいし困ったことになる.

7. 北谷

基地返還のポジティブな効果として北谷の発展が挙げられることがよくある.が,データをふんわりながめると,北谷は基地返還後に発展したというより,返還前から発展していた,というほうが正確な予感がする.要は逆因果であり,平行トレンドではないのである.発展しそうな地域だから返還したのであって,返還したから発展したとは言えない.ましてや他の基地を返還しても北谷のように発展する保証はない.

実質賃金が上がった下がったと,学部向け教科書に乗っている同時方程式の識別の問題をすっ飛ばして好き放題言っている人たちがたくさんいる世の中で,内生性を議論しても無力感があるが,県内で「知識人」や「学識者」や「経済界重鎮」として発言してる人でさえ独りよがりの議論をしてしまいがちなのは残念である.


Sunday, May 27, 2018

沖縄の県民経済計算の改訂 2018

先月県民経済計算の最新版が公表された.
        [link] 沖縄県統計資料ウェブサイト 県民経済計算
FAQが新たに追加されており,中の人達の苦労が忍ばれる.

今回のエントリでは,新しい県民経済計算では去年までと比べてどう変わったかを眺めていく.昨年度の分(平成26年度県民経済計算, 以下H26版と呼ぶ)のデータと新しいデータ(H27版)とを比較していきたい.全体的には,思ったよりも変わっていた,という印象を受けた.

1. 2008SNAへの移行

国民経済計算が2008SNAに移行したことに合わせて,県民経済計算も2008SNAに準拠するべく標準方式が新しくなった.たとえばR&Dを投資に計上する,産業分類が変わる,など,の変更がある.また,支出サイドのGDPデフレーターはH26版では固定基準年方式であったが,H27年版では連鎖方式に変更されている.

基準が変わったことを受けて,H27版では,2006年度まで遡及して改訂されている.

2. 実質GDPが大きく変わった

目を引くのは実質GDPの改訂だ.次のグラフは改訂前後の実質GDP水準を並べたものである.青い方が新しいH27版.
実質GDP(支出サイド, 市場価格)の改定前後比較. 単位: 兆円.

  • 水準も成長率も,改定前と大きく違った印象を受ける.
    • 念のため,GDPデフレーターの基準年がそもそも違う(H17年とH23年)ので,水準が変わること自体に大きな意味はない.
  • ここでは支出サイドで見ているが,生産サイドで見てもそれほど変わらない(後掲).

成長率(対数差分, 以下同様)で見ると次の通り.
実質GDP(支出サイド, 市場価格)成長率の改定前後比較. 

  • 2011年度以前の成長率が下方修正されている
    • 最も下げ幅が大きいのは2010年.実に-3.7%も下方修正された.
    • 2012年はマイナス成長になっている(+1.1%から-0.8%).
  • しかし直近(13--14年)ではほとんど差がない.足元では連鎖価格と固定価格の違いが出にくいのかも.

支出側は固定価格から連鎖価格に移ったという大きな変化がある.一方で生産側のGDPはH26版でも連鎖価格を採用していた.生産側から実質GDPの比較も確認しておこう.
実質GDP(生産サイド, 市場価格)の改定前後比較. 単位: 兆円.
実質GDP(生産サイド, 市場価格)成長率の改定前後比較. 

  • 生産サイドから見ても,概ね下方修正されているように感じる.
    • ただし2011, 2013年の成長率は若干の上方修正となっている.


3. 石油・石炭産業が大きく変化

以前このブログで沖縄の県民経済計算は怪しい,特に石油・石炭製品の実質生産が怪しい,という議論をした.
        [link] 石油・石炭製品と沖縄の実質GDP
改めてこの産業のreal outputを見てみる.
石油・石炭製品の実質GDPの改定前後比較. 単位 億円.

  • H27版では笑えるぐらい大胆な下方修正がなされている.というより,昨年度までの石油・石炭製品の総生産が異常であり,それがまともになった,という印象を受ける.
    • そもそも4兆円のGDPに対して石油製品が4千億円を占める,という状況がおかしかった.いつから沖縄は石油化学大国になったのかしら.

成長率に直してみる(なお,負の値を取る時期はlog(x)でなく-log(-x)で計算した).
石油・石炭製品の成長率の改定前後比較.

  • 成長率で見れば,2014年を除き,ほとんど差がない
  • 上で見たような大胆な下方修正は,水準が5--10倍程度差があること(と,変化の振れ幅がやたら大きいこと)で生じていると言える.
    • 2008SNAで計算方法が若干変わったことで付加価値が若干変わったせいかもしれない.
    • H26版の「県民経済計算の推計方法」では,製造業の中間投入額を計算する際に,本来は間接費を足すべきところ逆に引いているように書かれている.単なるタイポかもしれないが,もし今回このミスを直したとすれば,間接費の分inputが増えoutputは減るので,水準が下方修正されることにつながる.


動きがおかしい石油・石炭製品セクターを無視した場合,集計の実質GDPはどうなるだろうか.単純に実質GDPから石油・石炭製品の実質GDPを差し引いてみた.(なお,連鎖方式の実質GDPでは加法整合性を満たさないのでこの引き算は厳密に言えば意味をなさない.)
石油・石炭製品を除く実質GDPの改定前後比較. 単位: 兆円.
  • 両系列からはかなり違った印象を受ける.
    • H26版では,リーマン・ショック以降に沖縄経済(石油・石炭製品除く)が大きな不況に陥っていたこと,2014年にようやくショック以前のトレンドに戻ったことが示唆される.他方でH27版では,石油・石炭製品のサイズが小さくなったため,こうした動きは見えなくなった.
    • H26版では東日本大震災で大きくショックを受けているが,H27版ではそこまでひどくはない.

これを成長率に直すと以下の通り.
石油・石炭製品を除く実質GDP成長率の改定前後比較.

  • H27版では分散が小さくなったように見える.
世界同時金融危機や東日本大震災のインパクトをどれだけと見積もるかにもよるかもしれないが,石油・石炭製品という異常値を除いて見たほうがなんとなく実感に合うような気はする.

4. 違いは物価にあり

実質では大きく下方修正がなされていることを見た.一方で名目変数には大きな修正はない(面倒くさいのでグラフは省略).変わったのは物価指数である.

GDPデフレーター(支出側)の違いを眺めよう.水準を合わせてプロットすると次の通りである.なお,前述の通りH26版はH17年基準の固定価格方式であるのに対して,H27版はH23年基準の連鎖方式である.

GDPデフレーター(支出サイド)の改定前後比較.

  • 古い方の基準では,がっつりデフレ傾向が見られた.ところがH27版ではそこまでひどくなさそうだ.
変化率に直してプロットすると次の通り:

インフレ率の改定前後比較.

  • 正の相関はありそうだが,水準と分散に違いがあるように見える.ざっくり見て,H27版のほうがインフレ率が高く,その分散は小さい.
  • 修正幅が目立つのは2010年である(-3.8%から-0.4%).インフレ率が大幅に上方改定されたことに呼応し,この時期の実質GDPやその成長率は下方修正されている(上述).
    • 2010年におけるインフレ率改定の内訳はどうか.C, I, GでいうとCが最も上方修正されている.Cの中では,「娯楽・レジャー・文化」が大きく上方修正(+13.3%)されており(実質消費の伸びがもともと高すぎた(+32.5%)ところ下方修正された),ここで差がついていると思われる.

5. まとめ

最新の県民経済計算が去年と比べてどう変わったか見てきた.主な変更点は,
  • インフレ率がやや上方修正され,実質GDP成長は下方修正された.
  • 外れ値が目立たなくなった(石油・石炭製品の生産や娯楽・レジャー・文化の消費).
  • こうした改定は微修正と言うには大きすぎる気がする.(成長率が-3.7%下方修正って…)
といったところだろうか.こうした改定となった原因が具体的に何であるか,は恥ずかしながら不明である.

Y以外の系列については時間があれば動向を眺めてみたい.ぱっと見た印象では,なんだか直感に合わない数字も少なくないなと感じた..

統計は知的なインフラである.県民経済計算はもう少し信頼できるようにならないものか.足元の成長率を見て一喜一憂したり県レベルで機動的なマクロ政策を打ったりすることはほとんどないにせよ,現状では政治・行政が経済動向をモニタリングしたり結果にコミットしたりすることもままらない気がする.

Saturday, May 26, 2018

公募: 経済学

弊学で公募が出ました.詳細はJREC-INでご確認ください.昨年度も同様の公募をかけました(当時の私のブログ記事: 公募: 計量経済学)が,あいにく不調に終わってしまいました.

昨年度に引き続き,実証分析に強い方を募集しています.標準的な経済学の範疇であれば,分野は特に問いません.

個人的には,当然のことですが,研究能力が高い人に来ていただきたいと思っています.弊学は凡百の教育大学と違い,研究活動を尊重していただけます.居心地はそれなりによいです.ご応募お待ちしております.

Monday, April 30, 2018

国勢調査における「不詳」と沖縄

最新の国勢調査で,人口移動に関するデータを眺めている.今回のエントリは,沖縄には「不詳」に分類されている輩が多すぎる,という話.

総務省国勢調査では5年前の居住地についての情報が集められている.ところが,5年前の居住地が「不詳」となっている人も少なくない.「不詳」の正体は何なのだろうか.

小池・山内 (2014) では, 2010年の国勢調査で「不詳」についてレポートしている.
  • 2005年以前と比べて「不詳」が急増している.
  • 地域,年齢,就業状態によって「不詳」の割合が異なる.
    • 大都市圏で高い.沖縄や高知も高い.
    • 若者は高い.
    • 分類不能の産業,分類不能の職業,で高い.
といったことが指摘されている.

以下2015年の国勢調査で不詳について見ていく.特に何を明らかにするわけでもなく,どこに不詳が集まっているかを眺めるだけ.

1. 都道府県レベル
47都道府県別に不詳割合を計算する.
現住地による5年前の常住地について,
総数(常住者) = 現住所 + 自県内 + 転入 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」
という関係が成り立つ.ここでは右辺にある2つの「不詳」の合計が,左辺に占める割合を「不詳のシェア」と呼ぼう.なおサイズ的には,後者の移動状況自体が不詳な者が多い.
計算結果が以下の図である.

  • 沖縄は東京大阪に次ぐ全国3位の13.7%である. なお,全国平均は8.8%である.
都会だとオートロックで調査員が入れないマンションがたくさんあり詳細不明,という人がたくさんいてもなんとなく納得できる.しかし沖縄はそうした事情だけでは説明できない何かがありそうな気がする.

2. 市町村レベル
市町村レベルのデータでも同様に不詳シェアを計算する.市町村の場合,現住地による5年前の常住地について,
総数(常住者) = 現住所 + 自市区町村内 + 自市内他区 + 県内他市区町村 + 他県 + 国外 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」
= 5年前の常住地による人口総数 + 転入 - 転出 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」 ,
が成り立つ.ここでも,不詳2つの和が左辺の常住者総数に占める割合を不詳シェアとして計算した.

全国の市区町村でヒストグラムを作ると以下の通り.


薄くて見えにくいやつが沖縄県内41市町村の分布.全国と極端に変わった気配はないようにも見えるが,全国よりもシェアが高い地域が多いようにも見える.

沖縄県内の各市町村について見る(下図)と,都市部に不詳が集中していることがわかる.
  • トップは那覇市でなく沖縄市であった.実に4人に1人(24.7%)が不詳
  • 島嶼部はおおむね低い傾向にあるが,竹富町がけっこう高い.
本島にあっても,「誰誰さんは○○家の××」 みたいな話がよく出てくるような小さい町村は不詳が少ない傾向にある.
図2 県内市町村別の不詳のシェア.

図3 不詳シェアの地図(やっつけ)

3. 外国人?
不詳というと,外国人が多いせいではないか,と疑う人がいるかもしれない.沖縄市,宜野湾市,北谷町など米軍基地が近そうな場所で不詳が多いように見えるのも気になる.

そこで,「推計人口」から2015年10月1日時点での総人口のうち,外国人が占めるシェアを計算し,不詳との相関を見た(下図).
図4 外国人が多くても不詳は増えないかも.
 外国人の割合が高い市町村であっても,不詳のシェアが大きくなるとは限らないようである.
不法入国がどれだけあるかは知りようがないものの,外国人が多いコミュニティでは国勢調査の精度が落ちる,とは少なくとも県内に限っては言えない

4. 人口の流動性?
小池・山内(2014)によると,人口移動の活発な地域ほど不詳割合が高くなることが知られているそうだ.東京大阪のような都市部で不詳が急増するのはそのせいかもしれない.沖縄ではどうだろうか.

次のように人口のモビリティの指標を定義する.
モビリティ =(転入 + 転出) / (常住者 - 不詳)
分子は純転入でなく,グロスの人口移動を捉えている.
作成したモビリティの指標と不詳シェアの相関を見たのが次の図.
図5 人口の流動性と不詳は関係なさそう.
小池・山内(2014)と違って,移住が活発な地域ほど不詳が増える傾向は見られない
むしろ負相関に見えるのは,沖縄の場合,不詳が少ない島嶼部でモビリティが高い傾向があるからである.しかし島嶼部を除いたサンプルで見ても,依然として人口移動のボリュームと不詳にはあまり関係がなさそうであった.

5. まとめ
沖縄は全国と比べて5年前の居住地が不詳の人たちが多いようである.不詳は県内都市部に広く分布しているようであるが,それ以上の特徴はすぐにはわからない.
不詳となる原因はいくつか考えられるが,外国人が多い地域,転入・転出が多く人の移動が流動的な地域,という説明だけでは不十分そうである.アンダーグラウンドに生きる人たちや,統計調査に非協力的な人たちが他府県よりも多めに存在しているのかもしれない.

なお,若年は不詳になりやすいこともあり,若年が多い地域は不詳シェアも高い.とはいえ,説明できる変動はそれほど大きくない.

結局謎のままだが,とりあえずこのへんで.

Reference
  • 小池司朗・山内昌和 (2014) 「2010年の国勢調査における「不詳」の発生状況: 5年前の居住地を中心に」人口問題研究 70-3(2014.9)pp.325~338

Sunday, April 29, 2018

加藤ほか(編)『沖縄子どもの貧困白書』

さらに読書メモ.
  • 加藤彰彦ほか編『沖縄子どもの貧困白書』かもがわ出版, 2017年.
ここ数年沖縄では子供の貧困に関心が集まっている(なお,私は「子ども」表記は馴染めないので以下「子供」と記す).貧困研究で著名な阿部氏を始めとするチームでの調査が沖縄でなされ,子供の相対的貧困率が29.9%と衝撃の数字も出た.

この相対的貧困率を算出するにあたって,市町村が持つ税務データを収集している.せっかく大規模でリッチな個票データを集めたのだから,相対的貧困率という解釈が必ずしもstraightforwardでない指標を1つ弾き出すだけでなくもっと詳しく多面的に分析してくれよ,と思うが,この白書の中には相対的貧困率を作るのに苦心した話はあるがそれを使った分析は見られなかった.残念である.
公益性の高い学術研究には,センシティブな情報であってももっと利用できるようになればいいのに.たとえ公にできないとしても,ここで集めた情報にもとづいて貧困対策のRCTと追跡調査を行ったほうがよいと思う.

相対的貧困率を算出した調査とは別でアンケート調査を行っており,その結果を利用した分析も載っている.しかし紙面が限られていることもあり,統計データからは大して何も明らかにされていない.
(もちろん,このアンケート調査で示唆されているように,貧困がsocial exclusionのリスクを孕むことは重要である.データが持っているであろう情報が適切に抽出・プレゼンされていないと感じたということ.)

本白書は貧困現場のルポで充実している.他方で,貧困を生み出す背景についての経済学的な分析が欠けているのが残念である.それどころか,
新自由主義とは,経済のグローバル化が進むなか,民間企業がグローバル競争を勝ち抜くことに依拠して社会の基盤を維持しようと考え,企業が十全に活動を展開し利益を上げることができる条件を整えるべきであるとする考え方や,その考え方にもとづく諸施策のことです.(p.260)
などと頭が痛くなるような藁人形論法で,新自由主義が非正規雇用を増やし地方の教育や福祉を悪化させたと示唆されている.編集者の一人も
経済的利潤や能率,効果ばかりを求める動きも強くなってきています.基準に合わない,役立たないと人を切り捨てていく文化も,私たちのなかに生きています.(p.276)
と,セーフティネットを破壊するものとして経済活動(の一側面)を捉えている.貧困は疑いなく経済問題であり,経済学への理解が不可欠に思うのだが..


貧困の原因分析や貧困対策政策の評価が十分になされていないため,貧困対策への<提言>もちぐはぐに感じる.<提言> (なんだこの不等号は)を手短にまとめると以下の通り.
  1. 既存の支援策の周知
  2. 通学支援: 交通費補助
  3. 進学支援: 奨学金
  4. 雇用環境改善
  5. 乳幼児・シングル親支援
  6. 既存の支援策の整理
  7. 総括組織の強化
  8. 条例の策定
  9. 調査の継続

アンケート調査では食料を買えなかった経験を持つ子供がたくさんいる!とレポートされている(し沖縄の食料価格は全国より高いとも言及がある)一方で,なぜか<提言>では食費(や無条件現金給付)ではなく交通費の補助を挙げている.徒歩通学者や未就学児童にはほぼ無意味な上,就学や進学を妨げる制約条件をうまく緩和することが期待できるわけでもなく,特定業界への利益誘導の隠れ蓑にさえなる悪手ではないかと感じた.交通費が家計を圧迫しているとしても,子供のバス代よりも自家用車のランニングコストのほうが交通費の大宗を占めるのではないかと思うのだが.
白書の中にほとんど出てこない交通費への補助を明記する一方で,白書の中でたびたび言及されるソーシャル・ワーカーについては表立って言及されていない.ちぐはぐな印象を受ける.


対貧困政策には"More than good intentions"を心に留めておくべきだと思う.現場の悲惨さを目の当たりにして心動かされたとしても,それだけではうまく貧困を解決することはできない.私はMore thanの部分を知りたいのだけれどこの本の焦点はgood intentionsにあった.