Tuesday, September 27, 2016

沖縄の経済, 準備編3: ボラティリティ

他の講義とは違い,沖縄経済論の講義資料はパスワードを設定せずに私のウェブサイト上で公開することにした.今年からスタートすることもありまるで練られていないが,適宜利用いただきたい.

講義準備をしながら非常に憂慮しているのは,沖縄研究においては研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保する仕組みが機能していないことだ.多くの研究はプロが素直に想像するようなpeer reviewに支えられていない.そのため,そもそも「研究」とみなせるクオリティのものがほとんどない.経済学のトレーニングをまともに受けていない方々が地元の新聞やTV(や大学の教壇)で俺様経済学を披瀝しているのが現状だ.こうした方々を祭り上げる側の見識も疑う.

ところがあいにく私は沖縄の研究をしているわけではなくその予定もない.沖縄経済の講義をするとなると自らの批判が自分に突き刺さってしまう.これではなんとも情けないので,せめて講義資料は一般公開しておくことにする.



今回も講義で省略することにした没ネタを紹介.

一人当たり県民所得の成長率がどれだけvolatileかを眺めてみよう.データ出典は内閣府「県民経済計算」である.

47都道府県,1972-2013年度の名目一人当たり県民所得の成長率(年率)を計算すると次の通り:

これらの系列を$\lambda=100$のHP filterでトレンド除去し,標準偏差を計算した.結果が以下の通り.47都道府県のうち沖縄は16番目に低い.(沖縄は小さくてショックに弱い,みたいな印象論を振りかざす人も見かけられるがむしろボラティリティは低い方である.)

こうして求めた成長のボラティリティは,
  1. 2013年度の一人当たり県民所得とは弱く正の相関.
  2. 1972年度の 一人当たり県民所得とはかなり弱く正の相関.
  3. 41年間の平均成長率と無相関.
  4. 2013年度の産業構造を見ると,第一次・第三次産業のシェアとは弱く負の相関,第二次産業のシェアとは弱く正の相関.
といったことがわかった.

4番目の産業構造については, Moro (2012, 2015)の議論を想定している.サービス業のシェアが高いとTFPやGDPのボラティリティが下がるとのことだ.日本の都道府県レベルでもたしかにそうした兆候は見られる.
たとえば第三次産業産出のGDPに占めるシェアとの相関を図示すると次の通り:

沖縄についてインプリケーションがあるかと言えば,あまりないかな…


References
  • Alessio Moro (2012)The structural transformation between manufacturing and services and the decline in the US GDP volatility. Review of Economic Dynamics 15, 402–415.
  • Alessio Moro (2015) Structural Change, Growth, and Volatility. American Economic Journal: Macroeconomics 2015, 7(3): 259–294.

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