Wednesday, December 4, 2013

経済政策II, 第10回

講義内容:
  • 労働市場
    • 売り手と買い手の両サイドの事情を考える.
      • 高い賃金を稼ぎたいなら,需要と供給の両方を視野に入れながら,どういうキャリアを歩んでいくか熟慮する必要があるだろう.
    • 短期的には物価の動向も重要になる.金融政策を学ぶためにはここを押さえておく必要がある.
    • 賃金が下がるスピードはなかなか遅い.
      • しかし,とても詳細な統計データを使った最近の研究では,たしかに市場全体で見た賃金は硬直的だけど,新しく採用する労働者に対する賃金は硬直的ではない,ということが示されている(Haefke et al., 2013).賃金の下方硬直性だけが失業の原因ではなさそうだ.
    • 作図の際,実質賃金に800「円」などと書いてしまったが,ここでの単位は本来名目で表記してはいけない(たとえばお米2kg分,など財単位で測るべき).名目のほうがイメージしやすいこともあって,怪しげな説明になってしまっていることをお詫びしておく.

次回:
  • 労働市場続き
  • インフレの話 (レジュメ5以降も用意してください)
コメントより:
  • 「なぜ最近最低賃金が上がったのか?職に就いている人からの目線ではないか」
    • 最低賃金は(おそらく)どの地域でも毎年改訂されています.沖縄県では,以下のように年率1~2%ずつじわじわ上昇しています:
      • 09年: 629円
      • 10年: 642円
      • 11年: 645円
      • 12年: 653円
      • 13年: 664円 
    • 厚労省の官僚や経済学者だけでなく,法学者や産業界,労働組合などから様々な人を集めて審議し,こうした水準が決められています.彼らが失業者のことを無視しているわけではなく,経済学の簡素なモデルには現れてこないような,考えるべき他の大切な要素がいろいろあるのでしょう.
      • 最近では,最低賃金で働くよりも生活保護を受給する方がまし,という状況を変えて,働く誘因を作りたい,という事情もあるようです.
      • 実際に最低賃金で働いている層としては,家事・育児が一段落した主婦などが該当します.最低賃金で働いているからといって,世帯単位で見ると貧しいわけではなさそうです.彼・彼女らは票田として政治的にも重要なのでなかなか無視できないのかもしれません.
      • 働いている人(インサイダー)とそうでない人(アウトサイダー)との間には様々な壁があるかもしれません.
    • 最低賃金に関しては様々な研究が現在もなされています.大竹ほか(2013)は最新の研究成果をまとめています.私は日本の状況についてはあまり詳しくありませんので,関心があれば類書を当たってみてください.
  • 「仕事にも需要や供給があるとは思いもしなかった.他にもこのような関係があるのかな」
    • 需要と供給の関わり合いは,人間社会の至る所に登場します.
    • もちろん需給だけで決まらない部分も多いですし,需要・供給それ自体もとても複雑なので現実社会の分析はそれほど容易ではありません.
  • 「仕事の内容や環境も影響するかも」
    • 肉体的・精神的に厳しい仕事は労働供給に影響し,賃金にも影響すると考えられます.イヤな仕事にはそれ相応の高い賃金が支払われる,というのは補償賃金(compensating wage)といい,おっしゃるようなロジックは理論的にも現実的にもありそうです.いい洞察力ですね.
  • 「現実には賃金があっさり下がらないと知って,経済は難しいと思った」
    • 失業は古くから経済学の中心的な問題であり,簡単に解決できるようなヤワなものではありませんね.
  • 「図を書くのが少し楽しくなった」
    • うれしいコメントですね.グラフを使いこなせるようになれば,物事をすっきりと理解でき,よりいっそうかしこくなれると思います.
参考文献:
  • Christian Haefke, Marcus Sonntag and Thijs van Rens (2013) Wage rigidity and job creation, Journal of Monetary Economics 60, 887-899.
  • 大竹文雄・川口大司・鶴光太郎 (編集) (2013) 『最低賃金改革: 日本の働き方をいかに変えるか』日本評論社

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