Sunday, November 10, 2013

内田『現代沖縄経済論』

ある方にサジェストされた本をようやく発見し,ぱらぱらと読んでみた.
  • 内田真人 (2002) 『現代沖縄経済論: 復帰30年を迎えた沖縄への提言』 沖縄タイムス社
 日銀那覇支店長(当時)が一般向けに沖縄経済を概観する書である.データや論文のリファレンスが充実しており,少なくとも私にとっては有用である.10年以上前の本だが,古びていない.それに,私とは経済観に差があって面白い.(共通する部分もあるが,それ以上にがありすぎて精読するのはいささか苦痛である.経済観だけでなくエコノメリテラシーの差も大きい.)

本書のデータを更新すれば卒論,手法を更新してもうちょっとがんばれば修論になるかもしれない.類書が少ないので,県の経済事情が気になる人は入手しておいて損はないだろう.

以下備忘録も兼ねて,その内容の一部を,私なりの言葉に翻訳しながら記しておく.


問題提起:
  • 復帰から30年,それなりにお金を使ってきた.こうしたお金の一部は政治・外交的に取ってきてたものだ.
  • しかし質の低い公共投資ばかり積み重ねており,市場メカニズムは機能不全.内地との格差は依然として大きい. 
    • (たしかに,最近の研究からも,沖縄ではpublic capitalがうまく使われていないことが推察される.cf. 宮川・川崎・枝村 2013)

沖縄経済の根本的な問題:
  1. 政府のグランドデザインに具体性がない.
  2. 3K(公共投資,観光,基地)という外需依存 → 競争・自助努力が弱い.
  3. 垂直的な政府間関係において,意思疎通が不十分.
  4. 物的・人的に閉鎖的.
    • 輸送費用が高いのは,規制も大きな原因.
  5. 人材育成がいい加減.労働市場でミスマッチ.

政府が将来のビジョンを具体的に示してくれないのが何よりまずい,と批判していることもあって,筆者自身は以下のように「具体的」なグランドデザインを提言している(ただし,沖縄に来てまだ2年なので先のことはよくわかりません,というエクスキューズもある):
  • キーワード: 
    • 観光; 情報通信; 高齢化; 環境
  • ポイント: 
    • 地理的なアドバンテージを活かしつつ経済自立のための構造改革を.
  1. 選択と集中
    • 比較優位である観光・情報通信・健康関連産業に集中投資.
    • 既存の事業は果断に廃止.
      • (市場メカニズムがうまくいってない,政府がビジョンを持って選択的に投資せよ,とはいかに)
  2. 沖縄自身の強みを活かすプロジェクトを考える
    • 他地域をそのまま模倣するのはおかしい.
    • 地域特性を活かす将来像が必要.
  3. 若年失業者を活用
    • 危機感がない若年失業者を働かせよ.情報通信などで.
  4. 具体的な戦略を立てて国際交流拠点を目指す
    • 人的・物的な交流,人材育成を促すべくハード・ソフトを整える.
    • 入域観光客数などの数値目標を立てる.
    • OISTや特区を成功させるために,まちづくりも変えていく.
    • 自由貿易地域がうまくいかない原因を分析する.
  5. ニッチに特化する
    • 沖縄ならではの事業があるはず
      • 情報通信: コールセンターやデータ保守
      • 福祉介護: あったかい
      • 建設: 護岸技術
      • 環境: 電気自動車特区をやってみては
  6. 民間金融機関の活動強化
    • 沖縄公庫強すぎ → 民間金融機能を強化せよ
    • 県民はリスク資産持たなさすぎ → 資産運用を多様化せよ

(筆者は「具体的」という言葉を多用しているが,その提言にどこまで具体性があるかはわからない.「具体的に考える必要」があるので,「具体的に考えよう」という「具体的な提案」をしている,という具合でどうにもconfusingである.
 私が具体的に提案するとしたら,まず「日銀那覇支店の持つ諸々の統計をcsvで一般公開すること」だ.)



他,財政・金融・労働・貨幣市場の話や,IT・観光の話がある.

たとえば,沖縄の失業問題を次のように分析している:
  • 失業の原因:
    1. 地元志向強すぎ
    2. 雇用創出力不足
    3. 労働人口増加.労働参加率は全国より低くさらに増えるポテンシャルあり.
    4. ミスマッチがシビア:
      1. 地域間移動が難しく,県外で就職できない
      2. 高度な技能・能力を持つ労働供給が不足
      3. 過度の公務員・教員思考
      4. 労働条件のミスマッチも.
    • 特に,Uターンで労働供給増加,が高失業の原因
      • (具体的な根拠は不明瞭.失業の原因の2/3はミスマッチ,という議論を引用しているし,何より上述の通り,労働市場の問題はミスマッチだとしていたはずだが…)
  • 対策:
    • Uターンさせない
      • (本書の中でもずば抜けてすごい理屈だ.)
別の箇所では,job separation rateだけでなくjob finding rateも高いと指摘している:
  1. 退職・転職にあまり抵抗を感じないアメリカ的な側面を持つ
  2. パート・転職が多いサービス業が主な産業構造
仕事を見つけやすいし,世帯主じゃないことも多いので失業のストレスも少ないとのことだ.



本論とは関係ないコラムが面白く,中でも,沖縄の物価が全国と比べて季節変動が少ないのは,気候の変動が少ないから(本当?),というのが一番おもしろかった.

(邪推になるが,結局沖縄はバカで意識の低い未開の土地,という意識がどこかにあるのかもしれない.他人を見下している暇があったらWooldridgeでも読めよと感じた.あ,これ現場では使えないですかそうですか.)

参考文献:
  • 宮川努・川崎一泰・枝村一磨 (2013) 社会資本の生産力効果の再検討, RIETI Discussion Paper Series 13-J-071.

No comments:

Post a Comment