講義内容:
次週:- 集積の経済
- とてつもない規模の都市が誕生したり,あるいはすさまじいスピードで都市の人口が流出し衰退することがある.集積の外部性はこうした都市の栄枯盛衰を理解する鍵となる.
- はじめてのゲーム理論
- 囚人のジレンマ
- 最適な状態を実現するのは難しい.自分だけ抜け駆けするインセンティブもあるし,たとえ自分が抜け駆けしなくても相手が裏切るインセンティブを持っているからだ.
- ゲームのような「戦略的外部性」がある場合,個々人にとっての合理性が,社会全体で見た合理性と一致する保証はなくなる.外部性があると市場の失敗が発生しうるのである.
- 社会をよりよくするには,自分の身の回りのことだけを考えるのでなく,一歩引いた目線でゲームの構造を理解することが不可欠である.
- 期末テストを実施します.黒か青のボールペンを用意してください.
- とにかくしゃべり足りない!
- 囚人のジレンマを応用すると様々な経済政策について考察することができるようになる.せめてフリーライダー問題までカバーしたかった.
- ゲーム理論を使いながらミクロ経済学を学ぶには,梶井厚志・松井彰彦 (2000) 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』日本評論社,がお勧め.数式をある程度根気よく追うとかなり力がつくはず.
コメントより:
- 「迷子は互いに探しに出た方が遭遇確率が上がるらしい」
- たしかにそんな気もします. 見つかりにくい場所に滞在する時間を減らし,相手を見つけやすそうな場所に滞在する時間を増やすからでしょうか.
- 「最適反応 = 最も得をする選択をすること」
- もう少し厳密には,「相手の出方に応じて」最も得をする選択,です.
- 「経済についてよくわかった気がしました」
- これを機に学習を深めて行かれると幸いです.
- 「授業評価アンケートで高評価を得る恩恵はあるの?」
- 本学の人事の仕組みは私はわかりません.(たとえ知っていても公にはできない情報です.)
- もし大学の偉い人が「いい講義を増やして学生の満足度を高めたい」と思っても,各教員の各講義のクオリティや各講義に対する工夫と熱意をいちいち観察することはできません(そのためいわゆるエージェンシー問題が生じます).そこで,偉い人は講義の質,ひいては教員の努力水準を知るために,アンケートを通じて学生からなんとか情報を集めようとしているわけです.
- ところが,教員の教育業務のパフォーマンスをどうやって計測すればよいかは案外難しい問題です.
- たとえば「アンケートで高評価ならボーナス」という形で教員に努力するインセンティブを与えれば,教員はしぶしぶ(?)教育に時間と労力を割くようになるかもしれません.
- ところが,アンケートの評価を高めるためだけなら,学生におもねった緩い講義をするとよいことも知られています.たとえば,「受講者全員に優」という講義はたとえ何も得るものがないクソ講義でも大人気になりがちです.
- そんなわけで,「アンケートで高評価なら待遇改善」という業績評価スキームは,「数字上はすばらしい講義」を量産する可能性をどうにかしない限りうまく機能しない恐れがあります.教員の努力する方向を歪めてしまうと,社会的によくない帰結が待っているかもしれません.
- それに加え,計測した指標が不確定要因によって左右される場合にも,大学の偉い人にとって思い通りに行かない事態に陥ることがあります.
- たとえばアンケート結果のような主観的で曖昧な指標ではなく「学生がどれだけ成長したか」に基づいて教員にボーナスを与えるとします.たとえば○○検定に合格した,○○テストのスコアが上昇した,など,客観的な成果を利用するとしましょう.
- 「教員が努力すればするほど学生が成長する」ことはそれなりに正しそうに見えますが,実際には学生が成長して成果を残せるかどうかは運不運にも左右されます.がんばったけど試験本番ではうまくいかなかった,ということはありうるし,たまたま優秀な学生が多く履修していれば,教員が講義をがんばらなくても良い結果が得られるかもしれません.
- そのため,教員としては運不運によってボーナスの額が上下する状況に陥ります.たいていの教員は素人ギャンブラーとは違い,給与がむやみに変動することを望んでいません(リスク回避的といいます).そのため,学生の成長という不確実な指標で自分の給料が左右されることに抵抗し,所得変動リスクを引き受けるだけの対価を要求することになります.
- 大学に限らず,どんな職業でもいかに労働者のパフォーマンスを評価しいかに労働者の健全な努力を引き出すか,は重要な問題です.たとえば歩合制のような「成果主義」を導入すれば会社の利益を伸ばすことができるかどうかは,経営者ならずとも気になるところです.詳しくはE.P. Lazear (樋口美雄・清家篤訳) (1997) 『人事と組織の経済学』日本経済新聞社. やP. Milgrom and J. Roberts (奥野正寛ら訳) (1992)『組織の経済学』NTT 出版. その他労働経済学のテキストを参照ください.
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