Thursday, March 31, 2016

春休みの読書2016

転勤の季節,沖縄の業界地図に関する問い合わせが増えているようですが,増刷の予定はありませんし新しい版も出す予定は現時点ではありません.私の手元にももう残っていません.県内の主要な図書館には寄贈してありますので,図書館もご利用ください.



ここ数ヶ月の間に読んだ本のメモ.
研究者であることを辞めた単なる読書家だと思われてしまいそうだが,読書さえもせず老いさらばえるわけにもいかないので.(進捗は思わしくないですが研究が本業です汗)
  • 吉田伸生 (2006) 『ルベーグ積分入門』 遊星社
    • 測度論やフーリエ変換について,ヘタレ文系でもなんとかついていける程度にわかりやすくまとまっている.練習問題は自力ではまるで解けないが,略解があるのでじっくり読むとコンセプトを掴む助けになる.
  • JianJun Miao (2014) "Economic Dynamics in Discrete Time" MIT Press.
    • Stokey-LucasやLjungqvist-Sargentよりもこちらのほうが動学マクロの研究をフォローできるようになる気がするし読んでいて面白い.序盤は線形合理的期待モデル,マルコフ過程,DP,など動学システムの解法がエレガントにまとめられておりここ(あとAppendix)だけでも読んでおきたい(というか主にここしか読んでいない).Dynareってすごいなあ(押韻).
    • 計算ミスを確認しようと検索したら,古いバージョンのドラフトがPDFで落ちているのを見つけてしまった…
  • Michael Storper, Thomas Kemeny, Naji P. Mararem, and Taner Osman (2015) "The Rise and Fall of Urban Economies" Stanford University Press.
    • SFベイエリアとLAは初期条件が似てるのに違った成長経路をたどっている.これはなぜか,に経済地理学の視点から挑む.起業家の信念の部分が一番違うのではとのこと.
    • 経済学ベースの都市・地域科学の議論も綿密に検討されているものの,評価は少しフェアじゃない気もした.
  • James W. Hardin and Joseph M. Hilbe (2012) "Generalized Linear Models and Extensions" STATA Press.
    • StataでGLMを回す用.GLMの理論や運用上のかゆいところが知りたかったのだが,個人的にはあまり使い道がなかった.
  • 国友直人 (2011) 『構造方程式モデルと計量経済学』朝倉書店
    • 私では歯が立たなかった.
  • 小島寛之 (2006) 『完全独習統計学入門』 ダイヤモンド社
    • 売れてるみたいだけど,弊社の学生にとって学習しやすいマテリアルだとは思わなかった.類書に比べると手に取りやすい,という程度だ. 不偏性のない標本分散や変なコラムなど,わざとやっているのかもしれないが,違和感がある.(あと数式が汚い.)
  • 永井龍男 (1991) 『一個・秋・その他』 講談社
    • 老いをテーマにした,端正で渋い短編集.作中で筆者があっけらかんと種明かししてしまうので読んでいて調子が狂う.しかしとても面白かった. 主題とは関係ないところで,淡々と(鎌倉の?)町並みを描写するくだりがすばらしい.
  • 岡倉天心 (1906) 『茶の本』
    • 歴史的名著.元々は英文だが,和文の格調高さに心洗われる. 冒頭に,茶は衛生学であり経済学であり精神幾何学である,という旨の文章がある.ほんまかいな.
  • 折口信夫 (1923) 『琉球の宗教』
    • 短い論文.沖縄ではXという風習があるのでYではないか,みたいな根拠の薄い分析の積み重ねに見えるのは私が沖縄のインサイダーだからだろうか.
  • 井上達夫 (2015) 『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください: 井上達夫の法哲学入門』 毎日新聞出版
    • 法学の本を初めておもしろいと思った.本棚に並んでいるとダサいと思って電子書籍で購入したが,紙で読めばよかったと後悔した.
      • 私は正直なところ「右翼は幼稚,左翼はお花畑」という認識を持っていてどちらに対しても鼻白む思いで距離を置いているのだが,まさに私のような人に向けて書かれたかのように感じた.
    • 序盤からsocial choiceのにおいがすると思いながら読んでいたが,においどころか議論の核をなしていた.
      • 視点の反転可能性条件は,もっと仮定が必要だと思った.プレイヤー集合がより明確に定義されていたほうが読みやすかったかな.政党のように比較的少数で戦略的相互依存関係がある場合や,世代間で重複的対立がある場合,もう少し丹念な条件付けが必要ではないだろうか. 

数学,統計学,プログラミングはもともと勉強不足のため,休みが明けても鍛錬は続けねばならない.ただ,机上の独学だけでなく,実証のセミナーにもっと参加して達人たちの視点を直接学ばねばとも思う.たまには沖縄から外に出ねば.

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