Saturday, June 15, 2013

国際経済学I, 第9回

講義内容:

  • 開放経済における生産者補助
    • 生産者を守ることを優先するにしても,直接生産者を助ける政策のほうが関税政策よりもマシかもしれない.関税こそが国内生産者を守るという目的を達成する上でベストな政策手段である,と主張することは容易ではない.
  • 非伝統的関税政策
    • 自由な貿易取引を妨げるような政策は関税以外の形態をしていることも多い.
    • 先進国ではすでに関税は軒並み低水準になっているので,近年の貿易交渉ではこうした非関税障壁をいかに扱うかに関心が移っている.
  • 国際協調
    • 関税は貿易相手国から利益を奪うという側面を持つ.関税政策は国境や国籍を越えた視野で設計できないか考える必要がある.自国の,しかも特定のグループの利益だけを取り上げた議論は説得力に欠ける.
      • 国際経済学の講義で本当に学んでほしいのは,ある種のグローバルな視野である.農家と伝統を守るんだあ!というのは結構だが,その裏でもっと貧しい途上国の農家から這い上がるチャンスを奪っているかもしれない,と想像力を働かすことができるようになりたい.貿易相手はみな血も涙もない金の亡者,というイメージは明らかに偏っている.
    • 一国の自主性に委ねていてはうまくいかないことがほとんどであるので,WTOのような超国家的な枠組みが必要とされている.(「関税自主権」を持ったからといって豊かで誇り高き国家になれるわけではない.扇動的な議論に踊らされないように注意.)
    • しかしWTOがあればすべて解決,というほど現実は単純ではない.世界は今もあるべき姿を模索中である.
    • TPPはあまりに政治性が強く,私から何か物申すことはできない.また,農業など特定の産業を攻撃することが講義目的ではないので勘違いしないように願う(むしろ私は沖縄の農家・漁師を尊敬してやまない).
  • 特化と絶対優位
    • 個々人に与えられた時間は有限である.一つの仕事に専念し,できた成果を取引する,という「分業」が社会を豊かにする秘訣である.これはアダム・スミスがピン工場のたとえを用いて以来の常識.
      • 具体的に誰がどの仕事をどれだけやるのか,チームでどうやって分業の利益をまとめ上げるか,といった話も重要になってくる.が講義では考えるヒントを提示するに留める.
来週:
  • 比較優位
    • 昔習ったことがある,というコメントを頂いた.うれしい限りであるし,実際に人生の中で活かして欲しい概念である.
  • 次週はレジュメ4も準備するようにしてほしい.
    • HOモデルを教えるのは断念したので,生産可能性フロンティアも講義では触れないことにする.(一次関数さえ理解できれば十分理解可能な話なのだが…)部門間移動やゼロ利潤条件は特殊要素モデルで扱う.HOはFPEの結論だけかいつまんで紹介するに留める.(生産可能性集合をC-Flexible Set Orderとして捉え直し…とかいう話はいつやればいいんですか?)
  • レジュメ5以降はモデル分析は(なるべく)行わない予定である.数学が苦手で仕方ない人も安心してほしい.
その他:
  • 経済政策Iでも中間試験を終え,およそ学生の知的レベルを把握することができた.期末試験はもう少し学生のレベルに合わせていく予定である.(がんばらなくてもなんとかなる,という意味ではない)

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