Sunday, August 21, 2022

2022都市経済学講義メモ6

 講義メモシリーズ最終回.我ながらけっこう面白い講義になったと思うし,学生も課題が難しいという以外はわりと好感触っぽかったので,あと数年ブラッシュアップしたらカジュアルな本にでもまとめたいものである.新しい研究アイディアも一つ思いついたので,一段落したら取り組んでみたい.専門分野の講義をするのは楽しい.


7. housing and land markets

不動産の概観.砂原『新築がお好きですか?』が,経済学者の書いたものではないけれど,読み応えがあってよい.比較制度分析は今はあまり見かけない気はするが重要な視点だと思う.

Glaeser and Gyourko (2005) やSaiz (2010) を,ストック・フローアプローチを混ぜたようなモデルで紹介した.しかしモデルと現実の距離がけっこう遠く感じ,あまり好みではない.

嘉手納町が「人口が減ってる原因は住宅供給が足りないから」という趣旨のことを言っているみたいだけど,どういうモデルを想定してどう識別しているのだろう? 超過需要が需要減の原因とは? 負の供給ショック? 価格見て言ってるのかな?


7.2. Bubble

収益還元法を教えるついでに土地バブルについて話をした.

Bernanke, Gertler and Gilchrist (1999) などの金融アクセラレーターやOlivier (2000) の成長促進バブルもちらっと紹介しておく.

平成初頭にも都市経済学者の間では,そもそもあれはバブルだったのか (ファンダメンタルズの動きで説明できる部分も多かったのでは),金融政策だけが問題なのか,など深い議論が交わされていた.しかしその後どういった方向に議論がいったのだろうか…

GFC前夜,サブプライムのときは不動産バブルが大変だったという話をしたが,最近のCase-Shillerは当時をはるかに上回る価格上昇ぶりで,米国は住宅危機にあるようだ.住宅供給危機なのだろうか?


8. Transportation

8.1. Congestion externality

外部性やらピークロード・プライシングやらの話から始める.

で,混雑は他人の時間や体力を奪う,というだけでなく,健康被害もあるという研究を紹介した.

Currie and Walker (2011) は,ETC導入で料金所付近の混雑が緩和されることで,未熟児・低体重児が生まれるリスクが減った,というDiDをしている.政策含意が明らかで重要な研究だと思われるが,そんなに効果量は大きいのだろうかという気はする.

また,学生から質問があったが,なぜ比較群はもともと介入群より低出生体重児が多いのだろうか.混雑のボトルネックから離れている人たちはもっと低くてもいいはずである.本当に平行トレンドという形での比較可能性が正当化できる群なのだろうか.

講義資料を作った後に見つけた研究,Herrnstadt et al. (2021) はCurrie-Walkerと似た議論をしている.高速道路付近での風向きをチェックし,風下にいると (風上に比べて) 粗暴犯罪が増えるとのことである.風を日次でみるとたしかにそこそこランダムだと思われるので,おもしろいデザインだと思う.


8.2. addressing congestion

渋滞緩和政策をどう考えるか,という視点で議論を進めた.Wardropモデルを紹介し,インフラ投資の効果はシステム全体に波及するので,素朴なDiDはダメよ,という注意喚起をした.Braessのパラドックスは名前だけ紹介.

Robert Fogelの議論も紹介.ついでにDonaldsonみたいに,同質財の価格差や貿易シェアといった観測可能な情報から,観察できないものを埋めるような分析も紹介しようと思ったが,時間が足りず省略.


8.3. Mobility as a Service

スマートシティやMaaSといった最近の話題も紹介しておいた.MaaSはプラットフォームの理解なく事例を追いかけてもあまり意味がないと感じたので,両面市場も勉強しろと念を押して置いた.

MaaSの皮切りになったHeikkila論文は修士論文だったそうな.修論で大きなビジョンを提示するというのはなかなかできないなと思ったが,修論だからこそ大風呂敷を広げられるとも思った.

あと,交通はエンパワーメントとしての役割ももっているとも強調しておいた.AI, IoTなど技術は (上滑りなバズワードになりがちだが) 助けになると思われる.足が不自由でも,リモートワークで活躍できるようになるかもしれない.モビリティを (コスト・ベネフィットに見合った形で) 高めることはこれからの時代も重要な課題であり続けるだろう.


9. Conclusion

全体を振り返ると,実証全盛期のご時世を反映した講義となった.教科書には載っていない,大学じゃないと聞けない講義になったと思う.

学生の反応は,内容はおもしろいけど数学はちょっと…って感じであった.高校までに習う数学がほとんどだったと思うけど… (その後,高校で微分をやっていないことに気づいた).

久しぶりに対面講義中心で行った.BA.5が心配な時期ではあり自身が感染しなかったのは幸運だったと思うけれど (バイト先は学生の10%弱が対面試験を感染症のため受けられなかった…),なんやかんやで教室に来てもらうことは大事な気がする.あと,教室のプロジェクタが悲惨だったので,これだから地方国立は…と感じた.


終わった後,この分野に興味があるけど就職はどういうところがいいのか,という質問をもらった.公務員や不動産・交通以外にあんまりいいところが思いつかなかった.都市計画や建築や金融の人とは違った,都市経済学人材ならではの出口はないものだろうか.学士だと専門性では勝負できないとしても何か関連業界があるとうれしい…


後期は必修ミクロを担当予定である.正直ミクロは得意じゃないし好きでもないので…….


Reference

砂原庸介 (2018) 『新築がお好きですか?:日本における住宅と政治 (叢書・知を究める)』ミネルヴァ書房

Bernanke, Ben S., Mark Gertler, and Simon Gilchrist. "The financial accelerator in a quantitative business cycle framework." Handbook of macroeconomics 1 (1999): 1341-1393.

Currie, Janet, and Reed Walker. "Traffic congestion and infant health: Evidence from E-ZPass." American Economic Journal: Applied Economics 3.1 (2011): 65-90.

Herrnstadt, Evan, Anthony Heyes, Erich Muehlegger, and Soodeh Saberian. 2021. "Air Pollution and Criminal Activity: Microgeographic Evidence from Chicago." American Economic Journal: Applied Economics, 13 (4): 70-100. 

Olivier, Jacques. "Growth‐enhancing bubbles." International Economic Review 41.1 (2000): 133-152.

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