Monday, September 8, 2014

夏休みの読書

夏の研究ガツガツモードに突入しているので一般書からは普段以上に遠ざかっているものの,旅行の合間などに気分転換も兼ねてライトな本をいくつか読んだ.以下メモ.
  • 岩田康成 (2007) 『実況岩田塾: 図バっと!わかる決算書』 日本経済新聞出版社
本学学生でも手の届くような会計入門.池上彰方式と呼ぶべきか,その説明ではよくわからないか新たな疑問がわくかするだろう,と思う箇所で登場人物に「わかりやすい」と言わせるようなところがある.
個人的には,内容そのものより,何をどこまで犠牲にしてどう教えるべきかが参考になった.やさしくしすぎると本質を踏み外しやすいし,わかりやすいだけでも不十分だ.他山之石.

  • 久田友彦 (2007) 『中小企業財務の見方超入門 (第二版)』 銀行研修社
琉銀マンが中小企業財務の見方をLive感ある文体でやさしくレクチャーしている.粉飾や資金繰りについて説明が濃い.地銀での法人営業を志す人に限らず,銀行のモニタリングをかいくぐりたい中小企業も読むとよさそうである.
現場の知識を現場に行かずに速習でき便利である.ただし簿記二級相当の標準的な知識を身につけてから読んだ方がよいと思う.
中には,覚えられないだろうから必要なときに索引からこのページを探してね,という趣旨の文言も登場するのだが,残念ながら本書に索引は付いていない.不便である.
中小企業を相手にするときに比率分析はボラ大きすぎて使えない,とのこと.そんなに攻撃しなくてもと思うし,使えない理由はもっと別のところにある気もする.

  • ロバート・キヨサキ (2000) 『金持ち父さん貧乏父さん』 筑摩書房
有名な一般向け金融本.自己啓発系疑似科学といったところか.普通の経済理論に翻訳・訂正しながら読むのは費用対効果に合わない.本書の煽りに乗るほど未熟ではないつもりだが,不愉快すぎて途中で断念.ボトムラインはあながち間違っていないと思うが,まどろっこしくかつ軽薄すぎて読むに堪えないパートが多すぎる.

  • 尾藤正英編 (1974) 『日本の名著16: 荻生徂徠』 中央公論社
主著(政談,弁道,弁明,学則など)が現代語訳され,かつ解説も充実している.訳は平易.こういう本を読むチャンスが年をとるごとに急速に減っている.
朱子学(やそれがプッシュする大学)は自分や家族のことをしっかりやってれば(正の近隣外部性が伝わっていって)天下泰平,というどこか素朴ワルラシアンに通じる世界観を持っているが,朱子学(およびその流れを汲み幕府初期を支える林家)を攻撃する徂徠はもう少しパターナリスティックで国家主義的なところがあり,個人を取り巻く制度にフォーカスしている.享保の改革を支える政談は和製経済学の源流でもあり,現代の経済学者にもアピーリングな一冊と言えよう.

政談は現代からすると床屋談義の域を出ないが,財政赤字,インフレ,金融取引の法整備,および江戸のurbanizationに悩む徳川幕府の姿がかいま見える.myopicで衒示的な過剰消費をsustainableな形で抑制しインフレを抑えるにはどうすれば,という問いに,制度(法ではなく礼)をちゃんと定めようと論じている.
理想の経済政策を求めて堯舜に回帰する様は,ケインズなどにヒントを求める「経済学者」を思い出し残念な気持ちになるものの,研究のヒントはいくつも眠っていそうだ.とりわけ「旅宿の境界」をめぐる議論は,武士の都市化・戸籍制度・コメの一般物価に対する相対価格・裁定取引・エンゲル則・税制など,モデルの材料を多分に含んでいる予感がする.

  • 伊東忠太 (1923)『建築の本義』萬里閣書房
青空文庫収録.建築ってなんだろう,という問題への短い雑感である.一部引用する:
建築の本義、夫は永久の懸案である。我輩は今俄に之が解決を望まない、ただいつまでも研究をつゞけて行き度い、世に建築てふ物の存在する限り、いつまでも論議をつゞけて行き度い。今日建築の根本義が決定されなくとも深く憂ふるに及ばない。安んじて汝の好む所を食へ、然らば汝は養はれん。安んじて汝の好む家に住へ、然らば汝は幸福ならん。
ここで言う「建築」は任意の関心事に置き換えることができるだろう.


最近本学図書館に数学・統計学を中心に経済学関係の書籍を多数配架していただいたところでもあるし,学生にも夏休みを利用していろいろ挑んでほしいなあ.

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