Thursday, July 31, 2014

14年7月沖縄県主要指標

前回のエントリ: 14年6月沖縄県主要指標

日銀那覇支店がいくつかの統計を公表停止するようだ.何かと使いづらいのでblogではほとんど言及していなかったものの,毎月興味深くチェックしていたので残念だ.

気分がすっかり研究モードなので,今月はごく簡単に整理するにとどめる.

鉱工業生産(5月分)は季節調整値だと意外に強い数字になっている.

沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド, 赤が全国. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.
消費者物価指数(6月分)は微増.耐久消費財の価格が落ち着いてきたようなのでちょっとした家具を買った.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %), 原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %), 原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

労働力調査(6月分)は玉虫色.給与が名目でも実質でも下がっているのだからもう少し雇用が増えてもいいと思うのだが.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

demographyの影響が気になるので,労働力人口のどれだけを55歳以上が占めているのかデータを整理した.
沖縄の労働力人口55歳以上割合の推移. 2005-2013年(暦年). 出典: 沖縄県「労働力調査」
  • 労働力人口は2005年から2013年にかけて約5.1% (3.3万人)増加している.
    • 男性は2.1%, 女性は9.2%, と大きなギャップがある.
  • ただし,55歳以上の労働力人口は同時期に約39.3%(4.6万人)も増加している.
    • 男性は32.9%, 女性は47.7%の増加.
  • そんなわけでグラフの通り,55歳以上のシェアは着実に上昇している.男女計では,55歳以上のシェアは18.0%から23.9%に上昇している.
2014年に入ってからは男女とも減少に転じていたが,今月公表分(6月)では反転.

沖縄の労働力人口55歳以上割合の推移, 2013年1月-2014年6月. 出典: 沖縄県「労働力調査」

2012年以降は,団塊の世代が65歳を過ぎいよいよ退職していく頃合いになる.人口ピラミッドの下の方にいる身としては不安もある.

Sunday, July 27, 2014

国際経済学I, 第15回, 2014

試験と採点が終わった開放感がたまらない.研究を専らとする時間を大切にしたい.(8月下旬はワークショップも予定中.髪型的につらい季節だが耐えたい.) 皆さんごきげんよう.
  • 受験者137人, 平均74.9, 中央値75, 標準偏差22.28.
  • 素点の分布は以下の通り.90点以上が28人,80-89点が28人であった.期末試験を受けて60点に満たない人は25人.
  • GPAと出席数以外に,期末の成績に影響しそうな変数は見当たらない. 
    • 講義内容の理解や授業参加というより,基礎学力が強めに反映されたかもしれない.
  • 最終的な成績分布は以下の通り.中間試験が平易だった分,好成績に落ち着いた学生は多い.昨年度よりも穏当だ.ただし,理由なく6回以上欠席している人はどんなに試験の結果が良くても不可にした.
  • 最終的な成績も,GPAと出席数以外に有意な関係を持つ変数は見当たらない.
  • 追試や救済は行わない.
間違いの多かった問題の略説 (追記: 役目を終えたので削除しました.)

今回のテストに限らず,「お金が回るようになる」という古いケインジアン的修辞を使う学生がたまにいるのが気になる.曖昧模糊としていながらなんとなくわかったつもりになれる危険な表現だと思う.

Thursday, July 24, 2014

経済政策I, 第15回, 2014

期末試験お疲れさまでした.いよいよ夏休みです,有意義に過ごして下さい.
  • 71人受験,平均79.75, 中央値82.5, 標準偏差25.36. 
  • 中間試験が難しかった分だけ易化した.文句なしの満点が2人,33人は90点以上である.
  • 得点分布は以下のように,90点以上の層がとても厚い.練習問題を解いたかどうかで大きく分かれたのだろうか.
  • GPAと出席数以外に,期末の成績に影響しそうな変数は見当たらない.
  • 中間試験や出席状況も加味した最終的な成績評価は以下の通り.Sが24人,Aが12人と,期末試験を受けた学生の約半分はA以上の予定.期末試験を受けたがあえなくFとなるのは13人(そもそも出席数が足りてない,中間試験未受験,なども含む).
  • 最終的な成績も,GPAと出席数以外に有意な関係を持つ変数は見当たらない.
  • 試験問題にも出題した通りの理由で,追試や救済は行わない.

間違いの多かった問題の略説: (追記: 役目を終えたので削除しました.)

講義全体を通じての反省:
  • 試験的に昨年度と内容を大きく入れ替えたこともあり,次年度以降に向けて反省すべきところや自分の力不足を痛感するところも多かった.
    • 先のことまで考えろ,と教えたわりに,カバーしきれないほど盛りだくさんなレジュメを作成してしまった.もっと内容を取捨選択できたはず.
    • 中間試験のタイミングが悪かった.講義の進行に無駄が生じたし,履修取り消しが間に合わなかった学生も多かったかもしれない.
  • 自分の研究能力向上に役立つことを期待していたが,当てが外れたかもしれない.下手に欲を出さないことだ.
  • 個人的には国際経済学Iよりもこの講義のほうが学び甲斐があるし数学的な要求も緩やかだと思うのだが,受講者からするとどうなのか気になる.
  • この講義に限ったことではないが,もっと平易な言葉でゆっくり語れるようにトークを洗練させたい.学生のボキャブラリという羈絆に精神を消磨している.(我ながらこういう衒学的なスタイルから脱せないことに忸怩たる思いがある.)


Tuesday, July 22, 2014

紀『土佐日記』他

 旅の味わいはその人の教養を反映すると思う.(これは西田幾多郎かだれかが書いていたことでもあるが出典を失念してしまった.) 殊に歴史を知り古人らの結節点を知っていると感慨深い旅になる.夏休みに旅行する予定がある学生は,司馬遼太郎でもなんでもいいから現地に関する本を手にとってはいかがだろうか.(もちろん旅の楽しみ方は様々あってよいのだけれど.)

 この連休は四国を周遊した.旅に備えていくつか四国関連の知識を深めたので,簡単に読書メモを残す.以下すべて青空文庫から.
  • 紀貫之『土佐日記』
 内容的には四国とほとんど関係無かったのでこのタイミングで読まなくても良かった.注釈を抜きに読むと,細々としたウィットが汲み取りにくいのでなおさらだ.
 載っている和歌の多くはなんだか趣味が悪いと感じた.「いとをかしかし.」に女子学生と共通するセンスを感じた.

  • 種田山頭火『四国遍路日記』
 フリースタイル俳句をちりばめたお遍路日記.平安セレブとはまるで見ている世界が違う.犬に噛まれた,とか,いやでいやでたまらないけど行乞した,とかパンクすぎる.
 日を追うごとに変わっていく文体に,遍路の厳しさを思う.

  • 正岡子規『歌よみに与ふる書』
 愛媛最大のカリスマ文人による芸術論.「貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候」と紀貫之をぶった切り,無批判に古い者をありがたがるな,という.単にクリエイターのプライドを若気の至りで露骨に記したというわけではない.開国維新後,異国文化からの文学的挑戦に対応を迫られていた,という歴史的文脈を踏まえて読みたい.
 万葉集でも大伴家持や柿本人麻呂は技巧を弄するところがあるとは思うけれど.

Friday, July 18, 2014

国際経済学I, 第14回, 2014

講義内容
  • リプチンスキー定理
    • 賃金は労働の需給に左右される.
    • 部分均衡の素朴な直感は必ずしも正しくない.統計データでサポートされないこともある.
      • 日本の移民受け入れをめぐる実証研究については,中村他『日本の外国人労働力』に詳しい.
    • 労働供給が増えた場合,資本移動を通じて,新たに仕事が産み出されるかもしれない.
  • グローバル化と労働
    • 人や資源がチャンスを求めて産業の間や企業の間を動く.
    • グローバル化の波に乗れない企業は淘汰されていくかもしれない.
  • グローバル化と企業
    • 輸出入以外の形でも世界進出する企業が増えている.
次週
  • 簡単に講義全体をまとめた後,期末試験を実施します.レジュメを読み直す,練習問題を解く,などして備えて下さい.来週出席できない場合は事前に相談してください.
コメントより
  • 「労働供給が下がれば賃金はもっと低下するのでは?」
    • 労働供給が減ると,労働供給曲線は方向に動きます.ので他の条件が一定なら,均衡賃金は上がる.
  • 「保険会社まで海外進出しているとは」
    • アクサダイレクト,プルデンシャル,など外資系が日本で活動していたりもしますね.
  • 「イオンは海外を狙ってる.丸大,サンエーも早くグローバル化してほしい」
    • ローカルな企業にとっては容易なことではありませんね.大手コンビニでさえも海外進出は何十年とかけて挑む大きなプロジェクトです.
  • 「生産性の高い輸出企業に就職したい」「就職するときは多国籍企業を参考にしたい」
    • 県内には少ないですね.ポテンシャルはあると思いますが.
    • 大企業の末端として就職するのと,中小企業の中核を担うのとで,どちらがよいかは人それぞれだとは思います.有名企業ばかりに固執しないほうがよいとは思います.
  • 「グローバル化という言葉を少し違った意味で理解していた」
    • 定義が特に定まっていない,漠然とした多義語です.私は貿易取引を妨げる「壁」がなくなっていくプロセス,という意味でおおむね使っていますが,それ以外の意味も含む言葉ですね.
  • 「今日の講義は最初からのまとめみたいですごくわかりやすかった」
    • そろそろクライマックスなので前半戦で用意した伏線を次々と回収してみました.
  • 「自分の生活と経済学が密接に関わっていると感じる講義だ」 
    • そう感じて頂けると幸いです.自分にはどうせ関係がない,と思ってしまうと勉強するインセンティブは低下しがちですので.
  • 「替えがきくと就職できにくそう.誰もできない自分だけができるものを見つけたい」
    • そうですね.ただし,労働需要も大切ですので,誰もできないけど誰にも必要とされない(労働需要が少ない)人に成長すると損をするかもしれません.
  • 「試験がんばります」「試験難しそう」
    • 難易度は割り算がいくつか出る以外には中間試験と大差ない気がします.

参考文献
  • 中村二郎, 内藤久裕,神林龍,川口大司,町北朋洋 (2009) 『日本の外国人労働: 経済学からの検証』日本経済新聞出版社

Thursday, July 17, 2014

林『「沖縄シマ豆腐」物語』

引き続き読書メモ.
  • 林真司 (2014) 『「沖縄シマ豆腐」物語』 潮出版社
 島豆腐の歴史,文化,市場構造をまとめたエッセイ.海水,養豚,冊封貿易,など沖縄の食文化や歴史が島豆腐文化を支えていることがわかる.
 ゆるふわな内容なので,学生でも読みやすいはずだ.学生だけでなく,経済学のプロの関心も引く内容だ.ビジネスの細部まで記述してくれており,経済モデルに翻訳できそうな情報が多い.たとえば島豆腐生産は規模に関して収穫逓減なのかも,などと想像できて楽しい.また,貿易を通じて製法が伝達し波及する事例の一つとして,頭に入れておくと便利そうだ.
 ただ,筆者は経済学については理解が浅く,価格や競争を的外れなロジックで攻撃している.少し残念な気持ちになった.
 武庫川で沖縄人がひどい目に遭った,という話は武庫川の近くに長年住んでいた割にまるで知らなかった.明日伊丹空港に飛ぶので少し感慨深いものが去来するかもしれない.

Wednesday, July 16, 2014

経済政策I, 第14回, 2014

よく利用している近所のスーパーで,面識のない学生(バイト)に観察されていたことが判明した.仕事とプライベートがinseparableなのは精神衛生上よろしくない.
侘しい台所事情が筒抜けになっていると思うとやるせないので今夜は石垣牛を焼いている.

講義内容:

  • 時間不整合性
    • 後になって手のひらを返す,と見透かされると,事前に決めた約束が思うように機能しなくなってしまう
    • 約束は守りますよ,とコミットし,実際に守る,というところを見せていく必要もある.
    • 政府が善意でやっていることがかえって仇になる,という意味で政府の失敗にもつながる.
  • フォーク定理
    • 一回こっきりの関係では終わらない場合,新たな戦略的関係の展望が開ける.

次週:

  • フォーク定理を補足した後,期末試験を実施します.
  • 練習問題をアップロードしておきました.適宜活用してください.
  • 試験および成績について,私は一切事後的な救済は行いません.もし何らかの事情があれば,試験前に相談してください.


コメントより:

  • 「経済を学ぶことで自信になった」
    • 微力ながら助けになれたのであれば光栄です.
  • 「心理学的」
    • ミクロ経済学ではいかに人が考え意思決定を行うかが永遠の一大テーマになっています.
  • 「テストがんばります」
    • 難しいかもしれませんが諦めずに挑んでください.

Monday, July 14, 2014

堀田『インドで考えたこと』他

久しぶりに読書メモ.台風の間に積ん読をいくつか消化できたのだ.

  • 堀田善衞 (1957) 『インドで考えたこと』岩波書店
 インドから思想,哲学,文学を考える.いつ面白くなるんだろうと思ってたら最後まで面白くはならなかった.一定以上の深度に考察を深めていくことが出来ない文系インテリの姿に焦慮を抱いた.(他人ごとではない.)

  • 福澤一吉 (2010) 『議論のルール』日本放送出版協会
 国会の党首討論やテレビの討論番組を素材にして,論理的で建設的な議論をするにはどうすればよいか考える.ビジネスマン(最近だと瀧本哲史など)が書くディベートのノウハウ本と違い,アカデミックな議論の積み重ねの中で培われた議論の作法を学ぶことができる.分量も軽く,内容は学生にはややハードだが,本blog読者層全般におすすめしたい.
 政治家や芸能人(テレビに出る芸能人的学者の多くも含む)の議論は議論とは呼べない.その場を取り繕う瞬発力はすばらしいが,論点は噛み合わず,根拠も論証も怪しげなまま突き進むばかり.私はこうした議論に対して違和感と嫌悪感をおよそ中学生の頃から漠然と感じていたのだが,もし思春期頃に本書と出会っていたら今よりもっと超然的なイヤなヤツに成長していたに違いない.
 本書を読んでいて,「説明する」という言葉の意味が我々と一般人とで異なることにようやく気づいた.試験問題やレジュメを作るときには注意せねばならない.

沖縄県の労働分配率

少し前の日経新聞に労働分配率(i.e., $wL/Y$)の国際比較が載っていたのをきっかけに,沖縄の労働分配率(2001-2011年)を計算してみた.いわゆるKaldor factsとして労働分配率は時間を通じてまぁまぁstableであることが知られているものの,近年では先進各国で少しずつ変化が見られるようになってきている.

労働分配率の定義にはいろいろありえるが,ここでは野田・阿部(2010)に倣って以下の指標を計算した.
\begin{align}\mbox{index 1} &= \frac{\mbox{県内雇用者報酬}}{\mbox{県民所得}}, \\
\mbox{index 2} &= \frac{\mbox{県内雇用者報酬} / \mbox{雇用者数}}{\mbox{県民所得} / \mbox{就業者数}}, \\
\mbox{index 5} &= \frac{\mbox{県内雇用者報酬} / \mbox{雇用者数}}{\mbox{県内総生産} / \mbox{就業者数}}.
\end{align}
ただし,野田・阿部と異なり,県内総生産は要素費用で表示(雇用者報酬+営業余剰・混合所得+固定資本減耗)した名目値を用いている(市場価格を用いても大差はない.県民所得も要素価格表示で.すべて名目値.)
沖縄県(青実線)と日本(黒点線)の労働分配率の推移.横軸は年度.出典:沖縄県「県民経済計算」「労働力調査」,内閣府「国民経済計算(2005年基準)」,総務省「労働力調査」.
  • どの指標で見ても,沖縄県の労働分配率(実線)は全国(点線)より低いようだ.産業構造の違い,資本財調達コストの違い,スキル構成の違い,測定誤差,などいろいろ考えられる.
  • どの指標で見ても,全国とおおむね似たような動きをしている.労働分配率が変化する理由は,およそ内地と同じであろう.
    • ただし2004年度頃は全国よりも急速に労働分配率が低下していたようだ.この時期には理由はよくわからないが沖縄の雇用者報酬が大きく減っている.

同じ要領で, 資本所得が所得に占める割合も計算した.つまり,(1)-(3)式の定義で雇用者報酬を営業余剰・混合所得に置き換えたものを再計算した.結果は以下の通り.
沖縄県(赤実線)と日本(黒点線)の資本分配率の推移.横軸は年度.出典:沖縄県「県民経済計算」「労働力調査」,内閣府「国民経済計算(2005年基準)」,総務省「労働力調査」.
  • 当然ではあるが,労働分配率とは逆の動きをしている.固定資本減耗はless volatileだ.
  • 2004年度前後を除くと,おおむね沖縄県と全国の動きは似ている.また,沖縄県のほうが資本のシェアは高そうに見える.(内地資本の市場支配力が高い?)

参考文献:
  • 野田知彦・阿部正浩 (2010) 『労働分配率、賃金低下、非正規雇用増加の背景とその政策対応pp.3-46,pp.439-468』 in 樋口美雄編『バブル/デフレ期の日本経済と経済政策6 労働市場と所得分配』 慶應義塾大学出版会.

国際経済学I, 第13回, 2014

講義内容
  • 比較優位続き
    • 貿易がスタートすると,(比較優位の意味で)苦手な分野は縮小して,輸入に取って代わられる.他方で,苦手な分野に使われていた資源(労働)がより得意な分野に使われるようになる.
    • 比較優位(生産技術)が,貿易の流れを規定する.
    • 比較優位を無視した政策(性急な工業化など)は失敗する恐れもある.
    • 何かをやると,その裏では何かをやることができなくなる.経済学の学習を通じて,そういう根源的なトレードオフを意識できるようになってほしい.
  • 要素価格均等化定理
    • 労働が移動できず裁定取引ができないように見えても,財が移動していれば,特定の状況下では賃金が均等化してしまうかもしれない.財市場と労働市場はリンクしているのだ.
    • 賃金と一口に言っても現実には低い人から高い人まで様々で,データから検証しようと思うと一苦労する.
      • 有名な定理だけに多くの検証がなされてきた.残念ながら必ずしも支持されていない(最近だとBerrnard, Redding, and Schott 2013)ものの,定理の背景にある枠組みは広く受け入れられている(盲目的に信じられている,という意ではない).
次週
  • レジュメ4の残りをやれる範囲でやります.再来週はそれを踏まえて期末試験を行います.
  • 期末試験向けの練習問題をアップロードしました.好成績を収めたい方は挑んでみてはいかがでしょうか.
  • 期末試験に何らかの理由で参加できない場合,事前にご相談ください.
  • 来週の午後は講演会があるらしいのでご参加ください.

コメントより
  • 「機会費用や比較優位は義務教育に取り入れるべき」
    • 中等教育においてどういう経済学を教えるべきかはけっこう議論の分かれるところです. 個人的には,経済学を学ぶバックボーンとなる英数国をみっちりやるべきだと感じます.
  • 「比較優位という単語は知っていたが,その意味を深く勉強できてよかった」
    • この講義で最も理解してほしい概念が比較優位ですので,こちらもうれしいです.
  • 「貿易をすることで社会はよりよい方向に進むんですね!」
    • そうあるといいですね.
  • 「貿易を縮小するとどうなるんですか?」
    • 貿易がどういう理由で縮小したかにもよりますかね.データで検証するのも容易ではなさそうです.
  • 「要素価格均等化定理が成立する理由が知りたい」
    • レジュメの補注では詳細を説明しています.講義では時間の都合上,イメージをお伝えするにとどめるかもしれません.
  • 「要素価格均等化は表で表すと分かるかも」
    • 整理して理解していただくとよいですね.
  • 「外国の食品安全を強化すべき」
    • 衛生や環境の問題を国際貿易と絡めて考えるとなかなか厄介なことになります.巧妙な非関税障壁にもなりえますしね.安易に結論を出さずいろいろ調べてみては.
  • 「計算は出さないでくださいーーーーーーー」
    • 出します.
  • 「割り算がたくさん出てきて大変でした」
    • 講義のスピードに追いつけなくても良いので,焦らず落ち着いて考えて下さい.
  • 「計算が出たからといって先生が謝るのはおかしいと思う.経済学だから,計算が出るのは当たり前だと思う.」
    • 泣けるコメントありがとうございます.
    • 数学が全くできない人は,単に個人の怠慢だけが原因ではないはずです.しかるがゆえに,小学生レベルの算数すら理解できないのは怠けてきたお前が悪いんでしょ,と突き放すのは忍びないと感じています.再三に渡る履修取り消し警告にもめげずに,数学は苦手ながらこの講義に何か大事なものを求めて履修している学生がいるかもしれない,と想像すると,受講生の学力に合わせて講義内容を適切に調整しきれない申し訳無さを感じます.
    • 微分や凸最適化を学ぶ講義「経済数学」を開講して,もう少し深いレベルで体系的に専門科目を学ぶチャンスを用意したいですね.公務員試験の経済学に対応しやすくもなるでしょう.
      • ただし本学部にとって経済学教育こそが特化すべき比較優位かどうかは検討の余地があります.
      • 現実問題として本学で経済学をしっかり勉強するには,一定以上の学力とモチベーションを持つ有志の学生数名で集まり,教員を巻き込んで自主ゼミなどインフォーマルな勉強会を開くのが現時点では唯一の最適解ではないかと思います.
      • 経済数学を学ぶ経路を増やすべく,図書館に経済数学本を地道にリクエストしているところです.
参考文献
  • Andrew B. Bernard, Stephen J. Redding, and Peter K. Schott (2013) Testing for Factor Price Equality with Unobserved Differences in Factor Quality or Productivity, American Economic Journal: Microeconomics 5, 135--163.

Wednesday, July 9, 2014

経済政策I, 第13回, 2014

台風のせいで出席できなかった方には申し訳ないですが,普通に講義を進めました.台風の被害は火災保険である程度対応できますが,講義を欠席したダメージは同じ講義を受けている真面目な友達がいないと軽減できないので厄介ですね.

講義内容

  • 後ろ向き帰納法
    • 後ろの問題を先に処理する.
    • 点と線を使ってゲームの流れを整理したものがゲームの木である.これを読解できるようになろう.
  • サマリア人のジレンマ
    • 困った人を助けずにはいられない政府がいれば,それに甘えるインセンティブが生じる.

次週

  • レジュメ4の残りをやります.来週カバーしたところまでを試験範囲とします.レジュメで用意した分全てはできないかもしれません.

コメントより
  • 「実際には利得が変化するので必ずその答えになるとは限らないけども」
    • 現実にそのまま当てはめると危険な目に遭うかもしれません.注意してください.
  • 「後ろ向き帰納法は面白い」
    • 実践できるといいですね.
  • 「経済政策の本って売ってますか? 研究室に聞きに行っていいですか?」
    • 参考図書はレジュメ1で紹介しているとおりです.いくつかは図書館にも入れてもらっています.
    • オフィスアワーは金曜1限に設定しています.こちらの都合次第ではありますが他の時間でも対応します.
  • 「練習問題は作りますか?」
    • 予定はしています.ただしアップロードにはもうしばらく時間がかかるかもしれません.

台風で休講になると喜ぶのはなぜだろう.離散的なcake-eating problemの応用で考えられそうですがいかがなものか.

Saturday, July 5, 2014

国際経済学I, 第12回, 2014

講義内容

  • 比較優位続き
    • 生産性の比が大事.
    • 絶対優位のある仕事がない人も比較優位のある仕事はある.絶対優位がない人でも,分業を通じて社会を豊かにするのに貢献できるのだ.

次週

  • レジュメ4の用意をお願いします.ややこしい算数は現在のレジュメで終わりです.
  • 期末テストは25日に予定しています.

コメントより
  • 「ここに物質などが入ってきたらややこしくなりそう」
    • 鋭いですね.変数をひとつ増やすと分析は飛躍的に難しくなります.
    • レジュメ4では物質(資本)も入れたモデルを簡単に紹介する予定です.
  • 「いかに機会費用の低いことを考えるかが作業効率を上げるポイントだと思った」
    • 個人としての作業効率というより,チーム・社会としての作業効率で考えられるとよりよいです.
  • 「今日のはすごくわかりやすくて機会費用のことがすごく理解できた気がする」「前回難しかった数学がやっと分かった」「なるほど」
    • 絶対的に「得意」でなくてもよい,という基本的なメッセージを理解していただければ幸いです.
  • 「貿易に拡張すると難しい」 「いつもより難しかった」
    • 聞きなれない用語が増えてしまい申し訳ないです.次年度はもう少し平和なレジュメにします.
  • 「1/2は1より小,4/3は1より大.」
    • そんな感じでOKです.
  • 「試験で計算は出るの?難しいよ」
    • 比較優位の概念が割り算と不可分なため,残念ながらごく簡単な割り算は要求することになりそうです.
  • 「テストのためにノートを取るようにした」「テストがんばりたい」
    • ノートを取りながら授業を受けるのはオススメです.

経済政策I, 第12回, 2014

講義内容

  • 逆選択とその解決策
    • タイプが混在しているからといって紹介したシナリオ通りに逆選択が必ず生じるわけではない.
    • 情報を正しく伝えるには,時にはコストをかける必要がある.
    • 年金の逆選択問題を実際に検証するのは難しいものの,大石 (2007) などがある.
  • 統計的差別
    • 完全には通じ合えないから,簡便なものの見方をしてしまう.時には非効率な状況をも招く.
    • 問題の本質は情報のあり方であって,精神や倫理観の欠如ではないかもしれない.
  • 両性の争い
    • 来週以降は,手番が大事なゲームを考えたい.

次回
  • 期末テストは23日の予定です.

コメントより
  • 「クーラーなんとかして」
    • 教室内から室温をコントロールできないんですよね.
      • ありがたくも事務方に頼んでくれた学生がいたようですが解決には至らなかったようです.
    • 室温や在室人数をモニターして自動的に室温調整をしてくれるようなスマートな設備に投資するといくらかかるんでしょうね.
  • 「統計的差別がわかった」
    • 対策は難しいですね.
  • 「好きなタイプは?」
    • ご覧のとおり選べる立場ではありません.
参考文献
  • 大石亜希子 (2007) 『公的年金加入における逆選択の分析』千葉大学公共研究

Tuesday, July 1, 2014

沖縄県のマッチング関数


日本労働研究雑誌収録の神林・水町 (2014) にならいつつ,沖縄県のマッチング関数を試算してみた.


次のようなOLSを回してmatching functionを計算する:
\begin{equation}h_{ym} = \alpha + \beta_1 v_{ym} + \beta_2 u_{ym} + \sum_i \gamma_i d_i + \varepsilon_{ym}, \end{equation}

就職件数$h$, 有効求人数$v$, 有効求職数$u$ (いずれも対数, 季調値), は2008年1月から2014年5月分まで沖縄県「一般職業紹介状況」から取得した.$y$は年, $m$は月のindex, $d_i$は年次ダミーである.マッチングの効率性は定数項(というかダミー)の部分で測られる.神林・水町 (2014)と違い,月次ダミーは省いた(あまり本質的な違いにはならないと思う)

OLSの結果:

Coefficients:
             Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept)  -0.74972    2.59545  -0.289   0.7736    
v             0.57635    0.12443   4.632 1.69e-05 ***
u             0.28379    0.19641   1.445   0.1531    
ydummy(2008)  0.09609    0.04521   2.126   0.0372 *  
ydummy(2009)  0.08228    0.03558   2.313   0.0238 *  
ydummy(2011) -0.10751    0.04443  -2.420   0.0182 *  
ydummy(2012) -0.08565    0.03671  -2.333   0.0226 *  
ydummy(2013) -0.14951    0.05634  -2.654   0.0099 ** 
d.year14     -0.18516    0.07463  -2.481   0.0156 *  
---
Signif. codes:  0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1

Residual standard error: 0.05906 on 68 degrees of freedom
Multiple R-squared:  0.3571, Adjusted R-squared:  0.2814 
F-statistic: 4.721 on 8 and 68 DF,  p-value: 0.0001243

神林・水町 (2014) と違い$u$の係数が有意でないが,$v$の係数は似ているように見える.

2010年を0に基準化した上で,暦年ごとのマッチング効率性を,何も考えずに計算した95%信頼区間とともにプロットした.
沖縄のマッチング効率性の推移. 2010年=0.


2012年頃からおかしいと思っていたものの,もう少し前から変化が生じているようにも見える.外側に動いたUV曲線が元に戻る日はいつになるんだろう.


ついでに$\beta_1 + \beta_2 =1$をWald検定してみた.

Linear hypothesis test

Hypothesis:
v  + u = 1

Model 1: restricted model
Model 2: match ~ v + u + ydummy(2008) + ydummy(2009) + ydummy(2011) + 
    ydummy(2012) + ydummy(2013) + d.year14

  Res.Df     RSS Df Sum of Sq      F Pr(>F)
1     69 0.23822                           
2     68 0.23717  1 0.0010448 0.2996 0.5859


一次同次という帰無仮説は棄却できない.

$u$や$v$がそのまんまだと何かとダメっぽいので2SLSをいくらか試してみたが,あまりうまくいかなかった.本ブログに時間を使いすぎるのは慎みたいのでこのあたりで店じまい.


Reference
  • 神林龍・水町勇一郎 (2014) 「労働者派遣法の政策効果について」 日本労働研究雑誌 642, 64--82.

14年6月沖縄県主要指標

前回のエントリ: 14年5月沖縄県主要指標

相変わらず季節調整はよくわからないので何も考えずにパッケージ頼りの調整値で.

鉱工業生産(4月分)は消費税増税後にしては落ち込みが軽微に見える.
沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド, 赤が全国. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.


消費者物価指数(5月分)は先月と大差なく,上昇基調が続いている.東大の日次指数とはだいぶ様子が違う気が.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %), 原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %), 原数値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

労働力調査(5月分)はやや悪化へ.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
  • 労働市場から出て行く男性が目立つ.

以下では,1年生ゼミ用に作成したグラフを,生煮えのままだが,せっかくなのでいくつか掲載しておく.テーマは非正規雇用.

2013年頃を底にして,労働投入の中身が,非正規雇用から正規雇用へと戻りつつあることを確認したい.
正規雇用と非正規雇用の総実労働時間の比率. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
正規雇用と非正規雇用の出勤日数の比率. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 以上は,intensive marginによる調整を非常に雑に見たもの.
  • 労働量についてフルタイムとパートタイムの比を取ると,労働時間で見ても,出勤日数で見ても,2012年頃から低下(非正規が相対的に増)し,2013年頃から上昇(正規が相対的に増)してきたことがわかる.
    • 労働時間だと,2010年頃から2013年頃にかけて非正規雇用の比重が大きくなっていた.
    • 増税に伴う調整コストは正社員の残業で対応したのかも.
賃金については,正規雇用の相対賃金は2010年頃から低下していたようだ.
正規雇用と非正規雇用の決まって支給する給与比率. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
正規雇用と非正規雇用の「決まって支給する給与 / 総実労働時間」比率. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.

  • この間パートタイム労働者比率が下がっていたわけではない.むしろ男性は上昇.
  • また,男性から女性に仕事が移っているので,フルタイムの相対供給は減っているはず.
どう理解したものか.フルタイムに入職しやすくなった→パートのアウトサイドオプションが高まった,とか.
正規雇用と非正規雇用の入職率格差は次の通り,ここ1年で縮まりつつある:
正規雇用の入職率 - 非正規雇用の入職率. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.