Friday, May 24, 2013

国際経済学I, 第6回

講義内容:
  • 小国開放経済
    • 現実を抽象化し,より本質的な部分だけ抜き出してきて考察する,という経済学的なアプローチの仕方を実践.
    • 財・サービスの流れを妨げる「壁」の役割に注目.
    • 小国と大国の違い
    • グラフを読む,理解する,という作業は難しく感じるかもしれない.慣れるまでは多少の辛抱も必要.たちどころに理解する必要はないので,焦らずゆっくり取り組もう
  • 利潤と利益の違い
    • 帰属家賃のように,たとえ実際にお金がかかっていなくても,実質的には費用と考えたほうが自然なことがある.経済学ではそうした費用も利潤にカウントする.
  • 出席数がすでにピンチな人は,履修キャンセルを検討するとよいだろう(取り消せるのは5月いっぱいだったっけ?).理由なく講義回数2/3以上出席していないと単位は認定しない,という履修規定は例外なく遵守するのであしからず.理由があれば欠席届を適宜出そう.
中間試験のお知らせ:
  • 6月7日(金)に予定.
    • 試験範囲: 5月31日までに学んだ範囲.
      • およそレジュメ1~2ぐらい. レジュメ3に入るかどうかは来週の講義次第.
    • 出題形式: 選択問題 + ちょっと論述,の予定.数式の計算は求めない(四則演算ぐらいはできたほうがよいと思うけど…).
  • カンニングはやめてください.もし発見したら厳しく取り締まらねばなりません.
出席カードの質問への回答:
  • Q: 「現在閉鎖経済の国はあるか?あったとしたらうまくいっているか?」
    • A1: モデルのような閉鎖経済は存在していない.
      • 世界から孤立ぎみな北朝鮮ですら中国・韓国と貿易取引が行われている.(cf. wikipedia)
      • 歴史をさかのぼれば,江戸時代には日本は鎖国しており,外国との取引が著しく制限されていた.
        • とはいえ字面通りに完全に孤立していたわけではなく,沖縄含め「四口」という4つの貿易ルートが存在していた.
      • 江戸時代を閉鎖経済とし,ペリーが来て開港したのを自由貿易開始のタイミング,と捉えるとイメージしやすいかもしれない.実際,江戸末期のデータを用いて貿易の効果を測った学術論文も存在する(Bernhofen and Brown 2004, 2005; Bernhofen et al. 2012など).
      • 閉鎖経済は,無人島で自給自足するロビンソン・クルーソーや,山ごもりをする大山倍達などのような極端な状況を意味する.沖縄の島嶼部もそれに近い生活が営めるが,水や電気を島の外から引いてくる前の閉鎖経済生活は,物質的には極めて貧しいものであった.
    • 「閉鎖経済」と「自由貿易」という2つの仮想的な状態を分析し比較するのは,「貿易の効果」を抽出するためである.現実には「貿易をするorしない」という極端な二者択一に迫られるわけではないものの,こうした仮想的な思考実験(シミュレーション)は現実への洞察を与えてくれる.
      • 漸進的に自由貿易へと向かっていく,というよりリアルな分析ももちろん可能であるし,たくさんなされている.
    • A2: もし閉鎖経済国家があったとしても,そこで豊かな生活は望むべくもない.将来にわたって持続的に我々が日々を幸せに送ることができることをもって"うまくいく"を定義すると,うまくいかないだろう.
      • たとえ個人レベルで仙人のような外界と隔絶した隠遁生活を送ることが可能であっても,国家レベルで閉鎖経済を営んでいくのは不可能だ.もし日本が何らかの異常事態によって突然閉鎖経済に移行した場合,リーマンショックや震災どころじゃない大混乱が生じるであろう.原油が輸入できなくなるだけでほとんどの産業は立ちゆかなくなる(cf. 堺屋太一の『油断!』という小説では原油の絶えた仮想世界が体験できる).平均寿命は40歳を下回るんじゃないかな.
      • 香港やシンガポールのように,対外的にオープンな国・地域のほうがむしろうまくいっているようにも見える.が,自由貿易と経済成長の関係はさほど単純ではなく,経済学が解明すべき重要テーマの一つである.
  • 未だに科目名を「国際政治学」や「国際政治経済学」などと間違えている人がいる.いやはや.

References:
  • Bernhofen, Daniel M. and John C. Brown (2004) A Direct Test of the Theory of Comparative Advantage: The Case of Japan. Journal of Political Economy 112, 48-67.
  • Bernhofen, Daniel M. and John C. Brown (2005) An Empirical Assessment of the Comparative Advantage Gains from Trade: Evidence from Japan. American Economic Review 95, 208-225.
  • Bernhofen, Daniel M., John C. Brown, and Masayuki Tanimoto (2012) A Direct Test of the Stolper-Samuelson Theorem: The Natural Experiment of Japan. mimeo.
  • 堺屋太一(1975)『油断!』日本経済新聞社.

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