Wednesday, June 23, 2021

沖縄でShecession?

講義で使おうかと思ったが結局没にしたネタを投稿する.

コロナ禍における労働市場の動きについて,去年ゼミで学生から「She-cession」なる表現を教えてもらった.女性の方が男性よりも苦しみがち,とのこと.休校で育児負担が重たくなった,女性の多いセクター・タスクほど自粛による打撃が大きかった,などの理由が考えられる. 

She-cessionは沖縄でも生じてるのだろうか.労働力調査と毎月勤労統計調査をさっと眺めてみた.

結論は,女性に負担が集中している様子は思ったよりも見えない,という話である.

1. 労働力調査では男女差はよくわからない

ひとまず労働力調査から.

大きなショックのせいで季節調整がややこしくなりそうなところだが,ひとまず今回は2004/1から2019/12のデータを使って季節調整を施し,2019年の調整と同じように2020/1以降の季節調整を行った.

就業者数を見ると,女性より男性の方がショック後に低下しているように感じる.特に20年4月頃.

沖縄の就業者数, 男女別. 季調値.

非労働力人口を見ると,男性は変動が大きくよくわからないが,少なくとも女性が急増したようには見えない.失職し非労働力人口に移行する動きは(大きいと思っていたものの)観察できないようである.

沖縄の非労働力人口, 男女別. 季調値.

完全失業率では,女性ではなく男性のほうが上昇しているようである.

沖縄の完全失業率, 男女別. 季調値. (図では2020/1=100に基準化していると書いているがこれは間違い.)


労働力調査を眺めていると,ジョブが破壊されたのは,男性の自営業という印象を受ける(図は省略).長引く自粛で零細な飲食店や土産物屋,レンタカー事業者などが店じまいした,というイメージだ.

一方,被用者なら,男女問わず,(私の印象では)思いの外,雇用は守られているのではないだろうか(時短などはあろうが).飲食店のシャッターと張り紙を見るととても悲しい気持ちになるし「沖縄経済厳しいな…」と感じることもあるが,みんながみんな飲食業で働いているわけではないのだ.シャッターのような目に見えやすい情報だけからマクロ的な動きを推測するのは難しいものである.

労働力調査は産業・年齢・職種などいろいろなブレイクダウンがわかるが,サンプルサイズが小さくノイズが大きいので,これ以上細かい何かは見えそうにない,という気もした.


2. 毎勤では男女差が見られなくもない

毎勤でも確認してみた.以下すべて2018/1--2021/3, 5人以上事業所のデータである.季節調整は行っていない.

なお,調査対象事業所の入れ替えのためか,年始などに大きなジャンプがしばしば見られる.どういった標本調査の設計か知らないが,額面通りに捉えないほうがよい気はする.

さっそく労働者数をプロット.男女で異なるトレンドをしていた.

沖縄の労働者数,男女別, 調査産業計 (本月末).

  • 労働者数で見ると,男性は増加トレンドにある一方,女性は2020年以降減少トレンドにある.一見すると"Shecession"のようである.
セクター別に見ると,異質性があるようだ.次の図は,女性の労働者数が多いセクターを適当に選んで労働者数をプロットしたものだ.
沖縄の女性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性の中でも,増加トレンドにあるように見える産業 (D 建設業) もあれば,横ばいの産業 (O 学習支援業) もある.
  • 打撃が大きそうな宿泊業(M75, 図右下)では,コロナ禍前まで増加し,コロナ禍で減少に転じた様子が見て取れる.
  • 一方,宿泊・飲食サービスというより広いくくりでみた場合(M, 2列目右)は逆に,コロナ前が底で,コロナ期に増加へ向かっている.
  • 小売業 (I-2 4列目真ん中) は,コロナ禍前は横ばい,コロナ禍で急減したのち回復中,という様子.
  • 意外と減っていたのは金融・保険業(J, 2列目真ん中)である.
  • セクター間の労働移動でショックを吸収している動きもありそう.だがこのデータではシリアスな分析はできない気がする.
  • 女性雇用の約3割を占める医療・福祉 (P 3列目右) は,コロナ禍前は減少,コロナ期に増加,という動きになっている.産業計 (TL 左上) でコロナ期に減っている分は,医療・福祉以外での減少が積み重なったものになろう.
こうしたセクター間の異質性は,男性と女性で異なる.
次の図は男性についてセクター別にプロットしたものだ.
沖縄の男性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性と違って,金融・保険業 (J) や小売業 (I2),サービス業(他に分類されないもの) (R) は増加傾向に見える.
  • 女性と違って,建設業 (D) はコロナ禍前は減少ぎみだったが,コロナ期には増加しているように見える.他で失職した男性が流れてくるような,という一種のセーフティネット産業になっているかもしれない.
なお,労働時間やマンアワーを見ると,男女差はあまり見えなくなる.
沖縄のマンアワー, 男女別, 調査産業計.
  • どこかで変なことが起こっているような…? あまり額面通りに受け取れない.


次の図はパートタイム労働者比率である.男女ともコロナ期に低下している.男女問わず,非正規雇用が不況の調整弁になっていたように見える.
沖縄のパートタイム労働者比率, 男女別. 調査産業計.


3. まとめ的な話

丁寧な統計的分析を行ったわけではないが,目で追える範囲では,She-cessionの顕著な証拠はなく,あるともないとも判断できない.データによって異なり,労働力調査だとなし,毎勤だとありそう,という感じ.
Shecessionというよりは,男性の自営業や,男女問わず非正規雇用が悲惨な目に遭っているように感じる.
また,女性といっても,産業によって動向は様々である.

結局わかんない,という結論ならこの記事はなんだったんだ…と思われるかもしれないが,冒頭に書いたようにこれは「没ネタ」なのである (すみません).
今回わかったのは(前から知ってたが),県が集めているデータではたいしたことはわからないということである.

もちろん,就業者数が思いの外男性以上に減ってないからといって,女性が楽だ,といったことを言いたいわけではないので注意してほしい.同じ離職でも,セーフティネットからこぼれ落ちてがちなシングルマザーは男性よりも苦境に陥りやすい,といったことは考えられる.

コロナ禍で離職ショックが起こったら,それに続き労使の交渉力が変わり,賃金にも影響しそうな予感はする.が面倒なので賃金については今回はスルーで.


かれこれ1年半コロナ禍を耐え生き延びた飲食店は,かえって地元の常連客の信頼が厚い,おいしい優良店というシグナルになるような気がしている(金策だけうまいゾンビ企業かもしれないが).ワクチン接種が進むまでもう少しがんばってほしい.

Friday, March 19, 2021

『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

 沖縄の経済・経営史をまとめた本の1章を担当しました.どうぞご笑覧ください.

1950倶楽部編, 大城肇・與那原建・山内昌斗・大城淳 (2021) 『沖縄経済と業界発展ー歴史と展望ー』光文堂コミュニケーションズ

さっそく新聞でも紹介いただきました.

沖縄タイムス「県経済の歴史 「一冊」に凝縮 1950倶楽部 20日から発売」 2021年3月16日

琉球新報「沖縄の新社会人と就活生に必携の1冊 「1950倶楽部」が新刊を発行」2021年3月18日

 

概要

経済学者2名と経営学者2名が沖縄の過去を振り返る内容です.沖縄の企業がどこから生まれてどこへ行くのか,歴史的な展望を描きます.高校生や大学生向けの,非テクニカルな文章です.新聞2紙による歴史コラムも各所にあります.

この本は1950年創業の企業が集まった「1950倶楽部」の70周年記念として企画されました.ちなみに書籍の売上は全額寄付されるようで,私に印税は入りません.

 

執筆の経緯

弊学で担当している講義「沖縄経済論」の内容をどこかにアウトプットしておきたいと思っていたところに,執筆のお誘いをいただきました.

私は歴史能力検定1級日本史を持っている程度には歴史好きなのですが (高校生の頃は経済史の研究者になるつもりでした),経済史の研究者としてトレーニングしてきたわけではなく,アマチュアです.それでも,講義を通じていろいろ調べて考えたことは,英文査読誌でなくとも何らかの形にしておいたほうがよいだろうということで,恥を忍んで執筆することにしました.

当初は本の後ろの方にこっそり1章おまけで載せるようなつもりで引き受けましたが,いつの間にか第1章になってしまいました.


私の担当箇所

私は,個々の企業の歴史には触れず,よりマクロ的な視点から沖縄経済の歩みをたどっています. (本書自体は,個々の企業史をまとめた第2章が一番のウリです.)

淡々と歴史的事実を並べるというより,現代の経済学者 (の駆け出し) がどういった視点でものを見ているのかを伝えるような文章にしています.たとえば,逆因果や欠落変数バイアスをネチネチと潰していくところや,比較対象に目配りすること,インセンティブや人的資本に注目して説明しようとするところなどです.

当初は講義ノートと論文の間ぐらいの堅い,大部な原稿でしたが,編集を経てアカデミックな作法や厳密さを控えめにし,一般向けに寄せていきました.参考文献や脚註や専門用語をがっつり削ってあるため,読者によっては歯がゆいかもしれません.他方,余談もほぼすべて削ったので,本を読み慣れていない人にはまだ堅苦しいかもしれません.

経済学の理論を解説して沖縄での事例を紹介する,といった大学の講義っぽい構成 (たとえば横山『日本史で学ぶ経済学』みたいな) にしたかったのですが,時間と私の能力の都合で,だらだらとした編年体風の構成になってしまいました.次回作で構成を改善したいと思いますが30年後ぐらいになるかもしれません.

執筆していたのは去年の春頃で,感染症のせいで図書館も古書店もなかなか利用できず,いろいろ不自由しました.目を通したいものが増えるばかりで,積むことすらできていない積ん読が進みました.

 

私の章の内容

(1) 戦後のRGDPを見ると成長率のパスは驚くほど本土と似ている.この観察から,今貧しい最大の理由は,初期値の違い,ラフに言い換えれば歴史の違い,と言える.

(2) 琉球王国の中継貿易の様子を記述する.当時の貿易は沖縄県民を広く潤し育てるようなinclusiveなものではなかったのではという問題提起をする.

(3) 薩摩侵入後は,財政赤字に苦しむ,マルサスの罠に陥る,と散々である.士族 (血縁重視) と農民 (地縁重視) で,日本風なものと中国風なものとが混在するようになる.

(4) 明治維新後は,旧慣温存により日本式の近代化が遅れる.旧慣の善し悪しは論争があり,初期値の違いの一因と考えられるが,他方で平和的に制度移行をするための必要経費という側面もあったと考えられる.

(5) 戦後はアメリカの傘下で,基地依存輸入経済として復興を果たす.B円や米ドルを使った固定相場制を経験する.アメリカはシーツ善政のように,日中よりも沖縄を発展させる努力を払ったように見える部分もある.しかし復帰後・冷戦終結後も米軍基地の多くは残ったままで,政治的な軋轢を生んでいる.

なお,元ネタになった講義の資料は公開しています.

 

 既存の沖縄の歴史研究は他の日本経済史と似て,マルクス主義ならではの議論・問題意識が多く見られます.植民地は黒字か赤字か (西里・安良城論争) なんてボルシェヴィキかよ…みたいな.マル経だからだめだというわけではありませんが,私のような近代経済学の人が歴史を整理し直すのも新鮮で有用かと思います.

個人的には(1)がもっとも重要な指摘だと思っていて,initial valueをコントロールするのとしないのとで大きく違う,fixed effectの中身はそう簡単にわからない (外生的な変動に注目する必要),といった統計的事実を理解しないと,やすやすと偏見と短慮にまみれた感想文レベルの俺様沖縄経済論に陥ってしまうだろうと思います.沖縄の貧困は○の問題…みたいな血液型占いレベルの俗論が流行るぐらいですし.

ページ数と私の能力の都合で近現代が手薄になっていますが,そこは今後の課題にしたいと思います.とくに,米軍基地については私の定見のなさ・ノンポリさが目立つ気がします.すみません (私の文章を早合点した人に,基地賛成だの反対だの,政治的ななにかに利用されることは本意ではありません).その他論じたりない部分も多く残っていますがご容赦ください.

 

参考文献

岩波新書ほどではないですが,参考文献はかなり削りました.すべてではないですが,削ったもののうち影響されたものをここに載せておきます.

  • Galor, Oded, Omer Moav, and Dietrich Vollrath (2009) Inequality in landownership, the emergence of human-capital promoting institutions, and the great divergence. The Review of Economic Studies 76: 812 143̶179. 
    • 農民をエリートが搾取しているような社会では,エリートには人的資本を広く普及させるインセンティブが乏しい.これはわりと沖縄が明治維新後に工業化に遅れた理由としてしっくりくる説明な気がする.
  • 小野塚 知二 (2018) 『経済史 -- いまを知り,未来を生きるために』有斐閣
    • 評判がいいのでよく知らずに買ってみたらマル経でびっくりした.勉強不足で近経しか知らないので,マル経ベースの先行研究を読んでいく上で役立った.
  • 来間泰男 (2014) 『琉球王国の成⽴ 下: ⽇本の中世後期と琉球中世前期』⽇本経済評論社
    • 琉球王国は国というより商社,という発見はこの本で得た.
  • 高良倉吉ほか (2017) 『沖縄問題: リアリズムの視点から』中央公論新社
    • 本書執筆中に参照することはほぼなかったが,変な本が多い沖縄経済論壇では数少ないまともっぽい本 (ポジショントークは割り引く必要があるが).
    • 高良本は,「辺境性」がハンディ (自立経済構築の阻害要因) になっている,という地理ビューを持っている.
    • 私の場合,沖縄の地理的優位性についても言及してとリクエストがあり,最後に(ようやく自分の専門分野の)地理の話を付け加えた.私の考え方は,(1) Acemoglu-Robinsonみたいに,地理そのものは交絡がありすぎて経済成長への影響はわかりにくく,また一番大事な要因とは考えにくい,(2) 集積によるイノベーション促進は経済成長のエンジンになるはず(Kuznets, Bairochほかあまたの都市経済学) (だがFay-Opalなど成長なき都市化もあるかもしれない),(3) 重力モデルみたいに,貿易フローや賃金にも直接間接に影響する (文中では,Redding-Venablesを想定した説明をしている),といったものである.「地理的優位性」は市場ポテンシャルみたいに定量化できるとは思っているけど(実際計算したことはないものの),「辺境性」という固定効果でのお気持ち表明を試みているわけではない.
  •  武田晴人 (2019) 『日本経済史』有斐閣
    • 秩禄処分のくだりは,沖縄の旧士族層の解体周りの記述に役立った.
  • 真栄平房昭 (2003) 「琉球貿易の構造と流通ネットワーク」 豊⾒⼭和⾏ (編) (2003) 『⽇本の時代史18: 琉球・沖縄市の世界』吉川弘⽂館
    • 国際貿易にはエージェンシー問題がある,とアブナー・グライフやらの議論が先取りされていた.
  • 與那覇潤 (2011) 『中国化する⽇本: ⽇中「⽂明の衝突」⼀千年史』⽂藝春秋
    • 執筆当初は,この本のような中国化・日本化の視点で沖縄経済史を整理し直そうと考えていた.があまり真似しようとしても真似できず,中途半端なオマージュになってしまった.歴史系の先行研究は緻密な実証が主で,本書のような大きな話はなかなか語られてこず,適切な参考文献がなかった.
    • 私と同じような本を読んでいても,私よりずっと本質を読み取っていて,読解力の差を思い知らされる本.
  • 有間しのぶ 『その女、ジルバ』小学館
    • 校了後に読んだマンガ.執筆前に読めばよかったと思った.
    • 沖縄移民史については学術論文をいくつか読んだことがあったけど,移民についての知識と想像力がまだ足りておらず,しょーもない記述になってしまったのではと思わされた.
    • 以下ネタバレあり.このマンガは移民以外の部分も,学術的なバックグラウンドがあるようで (おそらく社会学) おもしろかった.主人公の同僚3人の描かれ方は印象的だ.3人とも会社・家族・近隣コミュニティといった中間集団からこぼれ落ちた存在であったが,1人は円満に結婚を決め (→家族),1人は地元に帰り (→近隣),伝統的なコミュニティに再び埋め込まれることになる.一方で残された主人公は(フォーマルな)会社とは決別し,非定型的な居場所と使命を見いだすことになる.社会学でいう後期近代?高齢化・未婚化・晩婚化が進む現代日本らしいテーマ.

 

謝辞

編集の意向で謝辞も本文から削りましたが,本章を執筆するにあたり,金城敬太氏に多くのコメント・示唆いただきました.ここに謝意を表します.講義でコメントや質問をいただいた学生たちにも感謝します.また,執筆の機会をいただき,上間優氏ら1950倶楽部のみなさまには深く感謝いたします.

もとより,私の文章は個人的見解であって,1950倶楽部各社とは無関係です.

Wednesday, March 10, 2021

新型コロナをめぐる雑感5

 1月に東洋経済のダッシュボード(のGitHubリポジトリ)が更新停止したようなので,自分で沖縄の実効再生産数を計算するようにしている.といっても逆計算もMCMCもせず,事実上週次の変化率を見ているにすぎないのだが.

特にオチはないが,足下での感染状況を記録しておく.

1. 感染者数が減っても宣言を続行していた

沖縄県の新規感染者数とその7日移動平均. 3月9日分まで.

2度の緊急事態宣言(赤いところ)を比較すると,2度目は感染者数が低い状態でも宣言をしばらく解除せずにいたことがわかる(実際2月28日まで3週間延長した).

延長の理由は医療提供体制の逼迫が挙げられていたが,春の観光シーズンが来る前に感染ゼロを目指していたような予感はする.

 

2. Rtは宣言延長中にリバウンド

しかし,緊急事態宣言の延長期間中には実効再生産数はリバウンドを始め,いまや1を再び超えるようになっている.

沖縄県の実効再生産数 (報告日ベースの簡易版).3月9日分まで.
多くの人が免疫を持たない状況では,油断すると指数関数的に拡大してしまうことは今までと変わらない.梅雨時期には再び1日100人を超える新規感染者数となり慌てることになるのかもしれない.ワクチンも医療体制も算術級数的にしか増えないので.

 

3. 移動は宣言中の2月から増加トレンドへ

Appleの移動傾向レポートで沖縄のモビリティを確認すると,2月に入った頃から交通モードを問わず上昇傾向にある.

沖縄県の移動傾向指数.20年1月13=100.

県と那覇市とで大きな差はないがついでなので那覇市の分もプロットする.

那覇市の移動傾向指数.20年1月13=100.

2月上旬に緊急事態宣言が延長される方向であることが報道されていたが,だいたいその頃から県民は徐々に緊急事態宣言に従わなくなったのかもしれない.2週間ほど遅れて実効再生産数のリバウンドがやってきて,解除した今足下で微増が続いている,と理解できそうである.

緊急事態宣言を再延長するらしい東京では,沖縄と同じく2月上旬頃に上昇したものの,2月後半から3月まで横ばい,という印象.

特別区の移動傾向指数.20年1月13=100.

東京に比べて沖縄は宣言を遵守しない傾向があるのだろうか? (単に規範意識が低いと言いたいわけではないのであしからず)


4. 出口戦略

  藤井・仲田が指摘していてなるほどと思ったが,緊急事態宣言の解除は,金融政策の出口戦略と似た要素を持っていると思った.

金融政策と少し違うのは,宣言に強い拘束力がなく長期間持続可能でないことや,政策反応関数がよくわからないこと(や首長たちが期待形成を意識したコミュニケーション政策に長けていないこと)だろうか.

新型コロナウイルス感染症の場合,エージェントは近い将来すら見通しが立たない,という不確実性の高い状況である.緊急事態宣言の実施期間も感染動向も予見しにくい.簡単ではないにせよ,ショックの打撃を和らげるために,こうした不確実性を払拭できるよう努力できないだろうか.


Saturday, August 15, 2020

新型コロナをめぐる雑感4

引き続きとりとめもなくデータを眺める.時間のかかる計算をやっていて少し手持ち無沙汰なので.

沖縄はついに警戒レベル4に移行した.7月の第二波が来たばかりのときと,直近では,検査の方策が異なっていることもあり,「新規感染者数」の内訳に変化が見られる.

7月は「夜の町」らしく20代女性の感染者が目立っていたが,8月に入ってから(下の図1の一番上)はそうした極端な傾向が見られなくなった(とはいえ第一波に比べると若年層に多いように見えるが).

図1: 沖縄の新規感染者の年齢構成.男女別.8/14までのデータ.
 

いくつかの小学校で感染があり,10代未満の検査・陽性も増えているようである.

直近では,先月と異なり,中部・北部・離島にも広がっているとのことだ.そこで,都市雇用圏に似た地域区分で区切って,感染者数の地理的分布の時系列変化を見た.

図2: 沖縄の新規感染者数の地理的内訳.8/14までのデータ.

なお,宜野湾は中部保健所管内だと思われるがここでは那覇都市圏(那覇浦添都市圏)に入れた.中城も那覇都市圏だが,「中部保健所管内」に含まれており,ここでは沖縄都市圏に含まれていると思われる.otherwise (図右端の薄緑) は他府県や調査確認中.ここでの離島 (islands) は宮古・八重山のこと.久米島や慶良間などは南部保健所管内なので那覇都市圏に,伊江島などは北部にカウントしている.

 図にしてみると,7月と8月で微妙な変化が見て取れる.

  • 依然として感染の中心は那覇を中心とした南部エリアである (3/4程度).このエリアには沖縄の人口の約6割が住んでいるので,那覇界隈は人口比以上に感染が広がっていることがわかる.
  • 中部(オレンジ色)は第一波に比べるとまだ割合としては少ない方である (15%程度).7月頃は米軍経由の感染拡大が懸念されていたが,中部で脅威的な広がりを見せているわけではない.
  • 8月以降は宮古・八重山(左の青緑)や北部 (ピンク) にも広まっていることがわかる.
  • 7→8月で減ったのは,その他 (右端の薄緑) である.

 

月初Rtが高いと指摘したが,現在東洋経済のダッシュボードによると1.24 (8月13日時点) と,落ち着きを見せている (1以上なのだけど).まぁ足下の数字で一喜一憂するべきではないのだろうが.

Monday, August 10, 2020

Industrial Structure in Urban Accounting

国際学術雑誌への採録が決まりました.私の経歴の中では一番いい憧れのジャーナルなので喜ばしいです.なにかとお世話になった共著者にはここでも深く感謝を述べておきたいと思います.

Jun Oshiro and Yasuhiro Sato, Industrial Structure in Urban Accounting, Regional Science and Urban Economics.
https://doi.org/10.1016/j.regsciurbeco.2020.103576

そういえばレプリケーション用のファイルも送ったはずなんですけどElsevierのページに見当たらないです..

大学院生の頃に企画してからこうして載せるまでかれこれ約8年かかりました.大変.
サクラダファミリア化する前に行き場が決まってよかったです.

この間様々な人にコメントや励ましをいただきました.ありがとうございました.

8年といっても,最初の数年のうちにほとんど内容は固まり,残り数年はひたすら頑健性のチェックをやっていました.
得るものも多かったですけど,消耗の多い長旅だったように感じます.


Main points:
  • We try to sophisticate an urban accounting method in terms of (1) incorporating sectoral variation, (2) external validity (by using Japanese data), (3) internal validity (by correcting computational errors), and (4) understanding what causes the post-war population movement in Japan.
  • We find that `wedge' in local labor markets plays a major role in accounting for the spatial variation in regional population in Japan.
    • Labor wedge can be interpreted in several ways. Instead of interpreting what that represents, we stress which channel explains obs variation.
    • Changes in manufacturing sector seem important.
    • Regional variation in labor market distortion leads to concentration, rather than dispersion, of population.
  • It has an implication for policy making for designing urban system.

Thursday, August 6, 2020

新型コロナをめぐる雑感3

前回ポスト新型コロナをめぐる雑感2の補足.
若年が多い理由の一つに
5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
と言及したが,たしかにこれがけっこう効いているようである. 検査の戦略・検査のキャパシティが第一波と大きく異なっている.
 なので,今のnew cases = 100人は,かつての100人と意味が違うのである.足下では,まだあわてるような時間じゃない,という感じ.
新規感染者が何人以上でレベル何,みたいな活動制限ガイドラインの閾値は,見直しが必要な気がする.あと,感染症の研究って,門外漢が片手間にやるもんじゃねーなという気がした.

検査の戦略は,多腕バンディット問題で言うところのexploitationを中心にやっていたようである.特に米軍周りを積極的に潰していったようだ.しかしexplorationに手が回らず,那覇の「夜の町」の発見が遅れた,という様子.
町丁目レベルなど高い空間解像度で感染場所を特定し, ベイズ最適化的な疫学調査をすると役に立つかもしれないとは思った.
(後知恵にすぎないが,「夜の町」は予測が不確実な場所というよりは新宿などの例を思えばexploitationしておくべき場所だった気も.)

検査するにしても,全員調べるのは大変だが,グループ検査 (wikipedia) などのアルゴリズムを使えばすばやく異常検知できるかもしれない.数学は,実装できれば,新型コロナ対策にも役立つと思われる.

性別については
なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).
と述べた.しかし,年齢別x性別で見ると,男女差が見える.

年齢構成は男女計だと
沖縄の感染者の年齢構成.8月5日分まで.
一方,男女を分けると,女性は特に20代に集中していることがわかる.男性は20--40代.
男女別.左が男性,右が女性.8月5日分まで.
「夜の町」でのアウトブレイクを反映していると考えられる.

が,男性の20--40代って店員?客?というあたりはあまりよくわからない.20代はホストかなという感じがするけど,30--40代のホストは多くないよね?でも夜の町でお金を落とせるほど稼いでるのかな?…と,実態がイメージできないでいる.




Monday, August 3, 2020

新型コロナをめぐる雑感2

ひとまず生存報告をば.
沖縄では緊急事態宣言が出て,弊学も閉鎖中です.私は今のところ無事ですが,県経済の見通しが悪すぎて胸が痛いです.
感染人数はまだ絶対数では少ないですが,医療機関や保健所はすでにキャパオーバーという感じのようです.



沖縄を襲っているCovid-19のうち,5月頃までのを第一波,7月以降のを第二波として,第二波はそれ以前と性質が異なっている.特に次の三点が気になっている.
  1. Rtが高い.
    • 東洋経済のダッシュボードによると,直近(8月1日時点)でRt=4.1.
    • 4連休・GoToの影響は出るならこれから.これまでの分は,東京などで働けなくなった水商売の人たちが沖縄に持ち込んだ側面が強い模様.
  2. 市中感染している模様.
  3. 若年層の感染が多い.
    • 沖縄のstopcovid19からデータを取得し,年齢の内訳をプロットした.
    • 図の上側("wave02") は下側("wave01")と比べて,00--30代の感染が大幅に増えている.
沖縄の感染者の年齢構成.7月27日分まで.

感染者が若くなったことには,いくつかの説明が考えられる (実態を知らないのでただの思いつき):
  1. 第二波では「夜の町」の中でも若年が集うエリア・店舗でクラスターが発生した.
  2. 第二波では高齢者の防疫対策が進んだ.
  3. 第二波では,第一波で経済苦に陥り,感染リスクを取って働かざるを得なくなった若年が増えた. 
  4. 第二波では,重症化しにくい若年ほど行動変容するインセンティブが弱かった.
  5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
若年に広がっているのは沖縄だけでなく全国でもそうなので,米軍からの(パリピ経由での)伝播,対面が避けられない仕事に就く若年低技能労働者が多い,などのように,沖縄固有の要因で説明するのは難しいと思われる.

10代以下の感染は多いが10代の感染はまだ少ないまま,であるのは興味深い.10代の子供がいるシングルマザーは「夜の町」で働けない…というわけではないと思うが.

なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).

そもそも,人と人との接触ってどうしてもスケールフリーでべきになりそうなものなので,足下の数字の解釈はかなり難しいと感じている.





 あと,第一波と違って,第二波はもういい加減耐えられない企業が急増するのではないだろうか.
観光立県の沖縄では,県内で感染抑制するだけでなく,内地・東アジア・基地内でも感染抑制に成功しない限り,Covid-19に対しては脆弱なままだ.
経済的打撃は目先だけのことでなく,中長期的にも悪化していると思われる.リスクを均すような保険も成立しなさそう….そろそろ廃業ラッシュが来そう.

感染爆発・医療崩壊は(たまにしか)しないけど終息もせずだらだら長期化する,というパスに乗っているような気がする.

ただ,これはこれで持続可能かというと微妙で,遠からず大きな変化(というか不満の爆発)があるような…?




先日ゼミ生と雑談中に,(1) 大学に着いてから手洗い・手指消毒したか,(2) COCOAインストールしたか,(3) 日々検温してるか,聞いてみたところ,ほぼ全員が全部ノーという悲惨な状況であった.そもそもCOCOAは知ってすらいない人が多い.


マスク手洗いなど行動変容でRtをもっと下げ,最悪強めの処置をすれば2ヶ月ぐらいで落ち着きを見せるだろうと思ってはいるが,県は2週間ぽっちでなんとかなると思っているようであった..

政治家は,集団免疫は目指さないとコミットするなど,将来の政策不確実性を減らすようにコミュニケーションしてほしい…



ところで,沖縄の貧困をダシにした,あやしげなオンラインサロン商法みたいな本がベストセラーになっているらしい.読んでないけど.

ちなみに若手のスターBalboniらの最近のペーパー"Why Do People Stay Poor?"は似たような問いに取り組んでいる.
彼女らは(1) obsやunobsによってpoor,(2) poorだからpoor (古典的な貧困の罠),という2つの仮説について,よく設計されたRCTで後者の可能性を検討し,たしかにそうした可能性がある(資産PPP表示USD504が境目)ことを示している.
「心の問題」のようなunobsの一つで貧困を説明できるとするのは無理があるんじゃないすかね.
学問のフロンティアは何周も先を行っている.