Saturday, May 2, 2015

『沖縄の業界地図』 forthcoming!

前年度のゼミで作ったチャーミングな書籍が上梓されます.発売日は5月4日です.
cover

リンク
旋風起こすぜ.


以下,本書のアピールポイントを率直にまとめ,敷衍します.

新規性について
  • タイトル通り,書店の就活やビジネスのコーナーを毎年賑わす「業界地図」のローカル版です.全国版は東洋経済新報社,日本経済新聞社,成美堂出版などが出すものがいくつかありますが,特定地域に特化したものだと関西版(日本経済新聞社)があるのみのようです.ローカル版といっても全国版を縮小劣化させたものではなく,むしろアカデミア特有の目配りと遊び心に溢れた,読み応えのある書籍になっています.
  • 沖縄の企業を紹介した書籍はいくつかありますが,多くの産業を網羅し一望できるようなものはほとんどありません.貴重な例外として,琉球新報社編集局政経部『沖縄の企業と人脈』1999年,があります.新聞社が作るだけあって貴重で魅力的なインタビューが豊富ですが,県内有力企業とそのグループに取材対象が偏っており,また内容的にはoutdatedになりつつあります.東洋経済の『会社四季報 未上場会社版』はより最新の情報にアクセスできますが,沖縄県の企業は数えるほどしか収録されていませんし,業界の全貌や企業間の関係は見えてきません.
  • その昔沖縄国際大学の新城俊雄ゼミでは,企業にインタビューに行き,その経営戦略を分析した卒論集のようなものをインフォーマルながら刊行していたようです.テーマは似通っていますが,沖国本では学術研究としての色合いが強いのに対し,我々は一般のビジネスパーソンや学生が手軽に手に取れるカジュアルな雑誌を志向しています.実際に県内の書店やコンビニ(ファミマとローソン)でも手に取れます.また,沖国本では特定企業管理職の経営哲学やマーケティング戦略というミクロな事例に中心的な関心がありますが,我々の新刊には企業間の戦略的な相互依存関係や産業全体を見渡すマクロな分析など,幅広い視点からの議論がふんだんに盛り込まれている点で違いがあります.統計データを多く盛り込み,定量的に業界の全体像をイメージするための手がかりが多数仕込まれている点も白眉でしょう.我々は大学時代の思い出作りをしているのではなく,リスクを背負ってmarketableな商品を生み出し実際に販売するという真剣勝負をしています.
  • そのほか沖縄企業のmanagement practicesを紹介した事例研究モノや,企業人のインタビューや列伝,社史,などはいくつかありますし参考にしました.しかしながら私が調べた範囲では,800を超える企業を収録したものはかつてありませんでした.

重要性について
  • 沖縄を本拠地とする企業のほとんどは中小企業です.内地企業の支店を除けば,上場企業は数えるほどしかいません.そのため,ローカル企業についての情報にアクセスするのは容易ではありません.新聞記事や噂話で断片的に耳目に触れる程度です.
  • それでいて,人的ネットワークを重んじる風土もあってか,沖縄でビジネスをする上で企業間の関係についての情報を蓄えておくことは決定的に重要だとされています.県内でも有力企業の「系列」があり,市場での取引関係と密接に結びついています.当事者でなければ知り得ない情報に大きく依存した,不透明な市場環境という側面があります.
  • 地元で就職活動を行う学生は,信頼できかつ幅広い情報源を欠いている状況です.人生を決定的に左右する場であるにも関わらず,CMを流しているごく少数のBtoC企業しか知らず,極めて少ない選択肢にしか気づかない状態で就職活動をしなければならない学生は少なくありません.情報を生産することで,学生が地元でよりよい生活を営む可能性をどんなに広げられるでしょう.同時に,企業にとっても自社の精神やその結実を若い人材に広く認知させることからどんなに便益を享受することができるでしょう.
  • つまり,情報の価値は計り知れないほど大きいにも関わらず,埋もれてしまっている状況でした.埋もれた情報を掘り起こして可視化し,気軽に手に取れるようにしたことが本書最大の売りです.地元の企業だけでなく就職を意識した学生や潜在的な沖縄市場への参入者,そして最終消費者としての沖縄県民にとって,よりよい沖縄ライフを満喫できる手がかりを提供します.

エクスキューズ
  • ゼミ活動の一環としてのプロジェクトであるため,内容に甘いところもいくつか残されています.私の力不足のためとしてあらかじめ陳謝せねばならないところがあります.
    • 速報性: おおよそ2014年度,特に14年12月頃までの情報に基づいています.発売にいたるまでの間にも情報が次々とアップデートされてしまいました.どうしても,新聞などと比べれば速報性は劣ります.
    • 正確性: 基本的に新聞や公式ウェブサイトなどで確認できる,信頼性の高い情報のみに基づいています.言うまでもなく,あくまでもacademic integrityを遵守することが最優先事項です.しかしながら,我々は財務データなど一次情報にアクセスできる立場でもなく,本書には不正確な情報が紛れ込んでいるかもしれません.そもそも中小企業についての情報の信憑性は大企業に比べればどうしても劣りますし,情報量も極めて限定されてしまいます.
    • 網羅性: なるべく多くの業界をカバーすることを目指しましたが,時間や人的リソースの限界から,有力企業であるにも関わらず十分に調べられなかった企業は数多く残されています.また,取材に協力していただきながら,出版に耐えうる記事にしきれなかった企業もあります.
      • 私は生まれも育ちも沖縄ですが,象牙の塔一丁目一番地在住であり,地元ビジネスのことはまるで知りません.監督する側の基礎知識・人脈の不足は否めません.
  • これらは次年度以降の課題としたいと思います.ゼミ生のインタビューにご協力いただける企業は随時募集しています.
  • 本書は私の本務校から資金的援助を頂戴しています.しかし言うまでもなく,本書は大学を代表するものではなく,あくまでも私たちが責任を持って世に問うものです.

教育の一環として
  • イノベーションの重要性はすでに人口に膾炙して久しいわけで,自らもイノベーションを起こさなければ示しが付きません.革新的アイディアを形にするという,我々の生きる経済にとって根源的に大切な活動を実際に経験するチャンスを提供した一年間だったと自負しています.
    • 今回はvariety expansionをしたので,今年度のゼミはquality ladderでいきたいと思います.
    • 研究面でのイノベーションをしてから物を言え,という意見はしかと受け止めます…言われなくてもやっとるわと言いたいところですがなかなか論文にまとめられずにいてつらい状況であります.もうしばらく見守ってください.
  • 私の本務校が,貴重な4年間を犠牲にしてまで卒業する価値のある大学であると胸を張って言えるようにしたいという思いもあります.

この冬~春にかけてこの本の編集作業ばかりに時間を取られていました.研究できないストレスの余り,体重がとんでもなく減ってしまいました.健康診断で「やせすぎ要観察」と言われる私がダイエットしても….
しかし命を削った分だけ面白い本ができたと確信していますのでぜひご購入を検討してください.(今後は改めて自分の研究にいそしみます.)

Friday, April 17, 2015

国際経済学I,第2回, 2015

今期は講義と学内業務がずいぶん増えてしまい,フライング五月病になりそう…

講義内容
  • グローバル化が進む要因
    • WTOが質の高いレポート(英語)を毎年刊行しており,それを眺めるのもよい.特に13年のレポートは,何が貿易に影響を与えるのかを学術的な成果に基づきながら整理している.
  • 沖縄の国際経済史
    • 沖縄の交易史は安里ほか (2010) に詳しい.
    • 貿易は単に物を交換するだけではない.情報や知識もついてくる.
    • 中継貿易でうるおった時期もあったが,長続きはしなかった.競争に敗れた先祖の轍を踏まないようにしたい.
連絡
  • 5月1日は水曜日日程のためこの講義はありません.
コメントより
  • 「貿易するには言語が必要だと思うが,日中でよく貿易できたなと思う」 
    • 古来日本のインテリは漢文を勉強していましたよね.インテリでなくても,貿易商は幼い頃から実践経験を積んでいたのかもしれません.
  • 「昔は中国と仲良かったのに今はたいして仲よくないのが残念」
    • 残念ですね.
  • 「歴史は昔学んだことがあって,復習できてよかった」「再び勉強したい」「沖縄はすごい!!」「今も変わらないと思う」「沖縄の現状はなぜだろう.歴史を学ぶと様々な疑問が出てくる.来週が楽しみ」
    • 知的好奇心の赴くままに歴史を勉強して頂けるとうれしいです.私は歴史は好きです,研究対象としない限り.
  • 「自ら生産するより,地理を活かして国際関係を強めていくと,次第に発展していくのかなーと思った」 
    • 最近の国際物流ハブ構想のことでしょうか.
  • 「国際化は最近だと思ってた」「近代のイメージがあった」
    • もちろん現代のものとは比にならないほど原始的な取引だったかと思いますが,現代まで続くような影響が残ることもあるようです.
  • 「沖縄の伝統工芸品が外国の影響を受けていたとは」「完全沖縄発祥だと思っていた」「昔は貿易で支えられていたんだな」
    • 日常的に英文を読んでいるので,むしろ外国と知的に断絶している状況が想像できなくなりつつあります.外の世界のものも貪欲に取り入れていきましょう.
  • 「沖縄は他国・地域への地理的なアクセスがよいのでは.戦争のとき沖縄が攻められて今も基地があるのも,位置がよいからと聞いたことがある」
    • 現代の基地問題でも,沖縄の戦略的価値は大切な論点の一つのようですね.(私は専門外です.)
    • ポテンシャルは高いかもしれませんが,他にもっと優れた場所があってもおかしくないようにも思いました.
  • 「官製貿易というが,民製貿易もある?」
    • 現代だと基本的には民間企業同士の取引がほとんどではないでしょうか.ただ,政府の監視や法的ルールから外れた貿易は密輸になってしまいます.民間の市場取引を円滑に執り行うためには政府の関与が不可欠です.
  • 「日本の輸入品は食糧だと思うけど,輸出しているのは何?」「なぜ日本は貿易取引量が少ないの? 技術があるのに.」
    • 日本の輸出品は自動車などの重化学工業製品が主力です.詳しい構成は財務省「貿易統計」をご覧下さい.
    • 他国との比較は,たとえばOECD Science, Technology and Industry Scoreboardで確認できます.なぜ少ないのかについては,これといって確信のある説明や適切な文献が思いつきません.すみません.北米以外との間で制度的・文化的な壁が依然として大きいのかもしれません.
  • 「沖縄の輸出入のデータは衝撃」「ここまで差があるとは思っていなかった.資源や技術がないからかはわからないけど,世界に認められるものを作っていないと感じた」「沖縄は赤字を黒字に変える方法を考えた方が良い」「昔は成功していたらしいのでそこから何かを学んで発展していければいいと思った」
    • 経常収支は後期の講義で簡単に学ぶ予定です.が沖縄の場合経済的な要因というよりは政治的な所得移転の役割が大きい気がしていますので,後期学ぶ内容と沖縄の事例とは少し距離があるかもしれません.
    • ミクロレベルでは,輸出市場に参入するためにはそれなりに高い生産性が必要,というのが研究者の間でコンセンサスとして確立されつつあります.他よりも生産性を高める努力が必要なのは言うまでもありません.
  • 「コンテナすごい」
    • いえーい.
  • 「グローバル化を簡単に言うと外の世界とつながりやすいということ?」 
    • はい.突き詰めて考えていくとそれだけでは不明瞭で不完全ですが,明瞭かつ完全無欠な定義など存在しませんし,定義は分析したい対象に応じて柔軟に設定したほうが建設的ですので,当面はそういうざっくりとした理解でOKだと思います.
  • 「グローバル化するとテクノロジーが進歩しやすくなるけどリーマン・ショックみたいな被害も受けやすくなる」
    • 特に金融取引のグローバル化はしばしそういう側面を持つかもしれません.
  • 「リーマン・ショックはやばいと思ったけど大丈夫だったので,マスコミは騒ぎすぎだと思った」
    • 100年に1度は十分やばいと思います.
    • マスメディアではご都合主義的に自説を牽強付会するような人が少なくないのでしょう.
  • 「内容がうまく分からなかった.次回はしっかりわかるようにしたい」
    • どこがよく理解できなかったか,具体的な質問をしていただければ解説し直すことは可能です.

参考文献:

  • 安里進・高良倉吉・田名真之・豊見山和行・真栄平房昭 (2010) 『沖縄県の歴史 (第2版)』 山川出版社
  • World Trade Organization (2013) "World Trade Report 2013: Factors shaping the future of world trade," WTO Publications.


Wednesday, April 15, 2015

経済政策I, 第2回, 2015


講義内容
  • 実証 vs. 規範
    • 区別して論じることが大切.
    • 経済学ではどちらのアプローチも深く掘り下げられているものの,後者のややこしい議論はいったん脇に置いて前者の分析を進めるタイプの研究者が多いように感じる.(ただし前者がより重要だという先験的な根拠はない.)
  • 自然主義的誤謬
    • 事実そのものから規範的な結論を導くことはできない.論証をするときにはその形式にも注意が必要.
  • 効率性 vs. 公平性
    • 価値観が対立することはよくある.経済学だけではこの対立に決着を付けることができない.本当に大切な決断をするときには,他の何かも必要になる.
連絡
  • 来週あたり教室変更があるかもしれません.
  • 5月1日は休講にします.
  • 次回はレジュメ2に突入すると思います.
  • 履修登録は今週末で締め切りになります.履修するかどうかは慎重に検討してください.

コメントより
  • 「自然主義的誤謬は自分でもよくやる」「よく見かける」「たまにいる」「気をつけたい」
    • 意図的にこうした間違いを犯す人もいますので騙されないように.
  • 「イエスかノーかで答えられないものを細かく考えさせられる授業.深い思慮を身につけたいし,講義はとてもタメになる」「自分自身の価値観を養うことが大切だと思った」「理由付けにはきちんと論理的な考え方を反映するようにしたい」
    • 個人的には,答えを焦らず慎重に考えを深めるようにしています.しかしそのせいで,判断が遅れ後悔する瞬間もありました.イエス・ノーがよくわからない不透明な状況でも果断に決められるようになりたいとも思っています.
  • 「経済学はより効率的に考えるものだと思っていたので驚き」
    • とてもnuancedな問題です.効率性を重視するのは確かですし,効率性を捨ててまで他の何かを優先するというときにはよほど深刻な事情が要求されます.一方,効率性だけが大切ではない,ということ自体にはおそらくほとんどの経済学者が合意すると思います.
      • 効率性だけを追い求めても,実践的な政策課題を解決できるチャンスは極めて少なくまた難しいものです.(たとえばStiglitz and Rosengard 2015. 最近新しくなったんですねこの本.)
  • 「遊びが学問に活かされることもあると思うと楽しくなった」
    • 学問は暇を持て余した神々の遊びという側面も.
  • 「1日は講義がよかった」
    • 申し訳ないです.
  • 「マーシャルかっこいい」「いい話だー」
    • ですね.
  • 「駅の話めちゃくちゃ楽しかった」「けっこう面白かった」「少し楽しい」
    • 簡単な例ですが,学問の限界点が垣間見える地平まで連れて行ったつもりです.楽しんでもらえて幸いです.
  • 「AとBの周りの事情も見て判断したい.だが他の考え方・見方も参考にしたい」
    • よい考えだと思います.政策を議論するときには,客観的な判断材料を増やし,様々な角度から検討したいものですし,自分以外の考え方にも謙虚に耳を傾けたいものです.
  • 「金持ちの近くに建てればよいと思っていた」
    • どうりで我が家は交通の便が悪かったのか…
新学期は慌ただしいですねぇ.

参考文献
  • Joseph E. Stiglitz and Jay K. Rosengard (2015) Economics of the Public Sector. WW Norton & Co. (藪下史郎訳『スティグリッツ公共経済学』東洋経済新報社)

Friday, April 10, 2015

国際経済学I,第1回, 2015

下の方のポストにも書いてある通り,このblogでは講義のフォローなどを行っている.オープンにしても恥ずかしくない内容を教えるという意味もある.

本講義に関するエントリーにはtradeとlectureというラベルをつけておく.必要に応じて活用していただければ幸いである.

講義内容
  • 講義概要
    • グラフを読むなど基礎的な数学力は要求する.
    • レジュメはウェブからダウンロードしてね.
    • 内容は昨年度とほとんど変わらない.
  • 大卒プレミアム
    • 大学生活の中で何かを掴もう.
    • 分業や特化を通じて,誰にでも社会に建設的に貢献できることを国際経済学は教えてくれる(予定).
コメントより
  • 本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中に取り上げることもあります.ご了承ください.教員の話を鵜呑みにせず批判的に聞くことは大切だと思います.どんどん疑問を持ちましょう.
  • 「大学進学率が上がっていて,まったくできない(眠ってたりやろうとしない)大学生もいるから,格差は縮まっていると思っていた」
    • よい洞察ですね.大卒の(相対的な)供給量は増えていますし,それは学歴間賃金格差を縮小するような効果を通常持つでしょう.最近流行のピケティ『21世紀の資本』にも,教育の普及が格差を縮めると言及があるそうです(私は未読です).しかし,社会はそれ以上のスピードで変化しているのかもしれません.
    • 翻訳はまだされていないようですが,Goldin and Katz (2010) などが労働市場の需給バランスの観点から整理をしています.
  • 「春休みに海外インターンシップに参加して刺激を受けたが,現実も思い知った.今大学生に必要な知識・能力・スキルは何でしょうか?」 
    • 必要なものは将来何をしたいかによって様々です.私にはわかりません. でも海外に飛び出すほどの行動力やその経験を省みる能力は大切だと思います.
    • 一般論としては,幅広い教養や,深い論理的思考能力,語学を含むコミュニケーションスキル,自己管理能力,挫折にめげない忍耐力,など挙げればきりがないほどあります.今はあまり役に立たないと思うようなスキルが将来思わぬ形で役立つこともあります.何をどう活かすかはみなさん次第です.よくわからないうちはいろんなジャンルの本を読むとよいように思います.
    • 個人的な経験では,情熱を傾けられる何かを見つけることが大切なのではと思っています.高いモチベーションを維持する能力と言えるでしょうか.
  • 「能力はあっても経済的に厳しく大学に行けない人はどうか.あるいは大学生活をテキトーに過ごして何もせず卒業した人は「能力がある」と言えるのか?」「大卒は能力がある証拠という表現は絶対か」
    • 高い能力を持っていたとしても,それを他人に知らしめるのはそう簡単ではありません.たとえ能力はあっても,高卒であるというだけで第一印象が悪くなることはあります.また,「能力がない」人でも,「能力があるように見せかける」ことはある程度可能ですね.
    • 経済学で「情報の非対称性」と呼ばれる問題の典型例です.人の持つ能力を正しく評価するのは難しいことなのです.
      • とはいえ,能力の低さは遅かれ早かれ露見しますし,逆に第一印象が悪くても挽回することは可能です.
        • 何もせずにのんびり過ごす時間もそれはそれで必要だと思いますよ.それだけだと寂しいですけどね.
    • 絶対にそうだ,という話ではありません.学歴は完全なシグナルとしては機能していませんので,例外は多々あります.あくまでも,可能性が高いと見なされる,という程度のものです.慎重に解釈して下さい.
  • 「専門的スキルを持つ専門卒が,特に知識や技術のない大卒よりも収入が低いのはなぜか」
    • シグナリング的には,元々稼得能力が低い人が専門に集まっているという仮説が立てられるでしょう.また,大卒のほうが時代の変化とともに自分のスキルを更新していくことができるのかもしれません.知識はどんどん新しくなりますので,学校で身につけた専門知があっという間に使い物にならなくなることは珍しくありません.その他いろいろな理由を考えてみてください.うまくまとめていけば卒論にもなるのでは.
  • 「iPhoneの生産国はどこになるのだろう」
    • 私の携帯には,カリフォルニアでデザインして中国で組み立てた,と書いてあります.
    • 原産地の決め方は,脱税や節税とも関連し実務上大切な論点になります.基本的には,どこで決定的な加工をしたのか,に注目します.
  • 「iPhoneの利益はどこにいくのだろう」
    • 利益の分配を正確に知るのは難問で,学術的にも大切なテーマです.
    • ある研究によれば,総コスト178.96ドルのうち中国での組み立てには6.5ドルしか費やしていないようです.(いくらなんでもこの数字は過小評価されているように思いますが.)
  • 「大学の講義もそのうち機械に取って代わられるのだろうか? 完全にそうならなくてもそういう傾向は見られるので気になる」
    • 私自身は受けたことがありませんが,世の中にはDVDを流してばっかりの講義もあるようで,そうした講義はすでに取って代わられているとも言えるかもしれませんね.自前ではヘボい講義しか提供できないような大学は将来潰れていくかもしれません(スター教員には一攫千金のチャンスとなるかもしれません).一方,生講義やゼミには機械ではなかなか出せない魅力があると思いますので,プロフェッショナルな教員の需要がゼロになることはないでしょう.我々教員も安穏としてはいられません.
      • (教育業務負担が減り研究業務に専念できるようになればいいのに…)
  • 「現実は厳しい」
    • 手助けしてくれる人もいますよ.
  • 「国際経済学を学ぶ意義があまり見えてこなかった」
    • 我々にとってグローバル化という現象は他人事ではなく,もう少ししっかり理解しておきましょう,というところでしょうか.説明に舌足らずなところがありました.
  • 「受けやすそうな授業だが,話の中身は?だらけ」
    • ミクロ経済学を別途勉強するともっと話が通じやすくなると思います.
  • 「卒業できるようがんばります」「正直経済は苦手だけどがんばります」「非常に有意義な時間を過ごし学ぶことが出来た」「納得」「びっくり」「半期よろしく」
    • いろいろとよろしくお願いします.

参考文献
Claudia Goldin, and Lawrence F. Katz (2010) The Race between Education and Technology. Belknap Press.

Wednesday, April 8, 2015

経済政策I, 第1回, 2015

今年度もよろしくお願いします.沖縄はいよいよ夏ですね.

本blogでは講義内容のおさらい,補足,アナウンスなどを行う.blogまでチェックしないと単位が取れないということはないので,いちいち見ていなくても問題はない.  本講義に関するエントリーにはmicropolicyとlectureというラベルをつけておく.必要に応じて活用していただければ幸いである.

講義内容
  • 概要説明
    • 教室変更のアナウンスがあるかどうか随時確認を.
  • なぜ経済政策?
    • 問題意識を広く持とう.意識を持つだけでなく,問題解決に貢献できるようになろう.
  • 自由と経済政策
    • 個人の自由を尊重することが社会にとってよい帰結をもたらすときと,そうでないときがある.
      • 時間の都合上詳しい話はしていないが,気になる人はレジュメやミクロの教科書を参照あれ.
    • 自由を最大限尊重し政府の介入を忌避する制度もあれば,自由の負の側面を深刻に捉え積極的に政府が介入する制度もある.どちらの制度が正しいと容易に結論づけられるものではなく,複眼的に検討することが大切だと思う.

このblogでは出席カードにいただいたコメントに,すべてではありませんが,返信しています.ご了解下さい.

コメントより
  • 「政府が介入すれば安心でき信頼できるとイメージしていた.が裏目に出て失敗する事もあると聞き驚いた」 「知識のある人がない人を騙すような政治が横行していると以前から感じていた.」
  • 「政府の介入にも限度があり,見極めが大事.安倍政権に文句ばかり言っていたけど,政策をすべて成功させるのはいかに難しいか学んだ.」
    • 銀の弾丸(silver bullet)は存在しない,という言い回しがありますが,世の中スッキリ解決できるような易しい問題ばかりではありませんね.でも,批判すべきところはしてもよいのでは.
  • 「個人の自由は社会にとってよいのか悪いのか,犯罪は本当に悪いのか.昔いろいろ考えたことがあった」「ほどよい自由がよいなと思う」
    • 思想・哲学の授業ではないのであまり深入りしませんが大切なテーマだと思います.法哲学やミクロ経済学で膨大な研究の積み重ねがありますので,自分の頭でぼんやり考えるだけでなく,いくつか本を手にとってみてはいかがでしょうか.
  • 「中国やマレーシアあたりはどうなんだろうと気になった」
    • 言及し忘れましたが,マハティール・ビン・モハマド(マレーシア)や最近亡くなったリー・クアンユー(シンガポール)など,東アジアは開発独裁と呼ばれるタイプの独裁体制が敷かれていました.次回補足します.
  • 「いろんな主義があるから国同士の対立が収まらないんだな」 
  • 「勉強すればするほど高い地位を築くことが必ずしもできるわけではないが,生きる上で就職する上で必ず自分の糧になると思っている」
  • 「興味を持った」「意外と知らないことがたくさんある」「がんばりたい」「とてもおもしろい」「半年間よろしく」「社会の仕組みについて理解できるようになりたい」「たくさん本を読んで勉強したい」
    • よろしくお願いします.がんばりましょう.



Friday, March 13, 2015

石油・石炭製品と沖縄の実質GDP

学術論文になりそうにはないが政策的には意味のありそうな発見をしたので,社会貢献の一環として記しておく.誰かがすでに気づいていることなのかもしれないが,もっと知られて良いと思う.

概要
  • 沖縄県の実質県内総生産(以下,実質GDP)は,世界同時金融危機や東日本大震災にも関わらず好調に伸び続けている.
  • しかし,これは計算手続き上のイレギュラーなエラーによるものであり,実際は深刻な打撃を被っている可能性が高い.エラーは石油・石炭製品で生じている.
説明
  • 石油・石炭製品のアウトプットが2008年に急激に落ち込み,名目ではマイナスになっている(-373百万円).
  • これに応じて,デフレーターもマイナスになっている(-2.2).
  • 連鎖方式の妙というべきか,翌年2009年のデフレーターは2.7となっている.これは2007年(63.2)や2005年(91.7)と比べ数十分の一の水準である.
  • 物価が数十分の一に低下したため,石油・石炭製品の実質アウトプットが数十倍に跳ね上がり,1兆円のオーダーで実質アウトプットが増えた.(産業別のGDPデフレーターはインプリシットに求めていないのか?) .これは沖縄県の実質GDP約4兆円に比べあまりにも大きすぎる変動であり,リーマン・ショック(2008年)の影響をくらますのに十分であった.

関連するグラフを並べてみよう.出典は注記がない限り沖縄県「県民経済計算」である.

1. 石油・石炭製品の名目アウトプット

名目産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
 2008年度にマイナスになっている.元凶はこれか.

2.石油・石炭製品のデフレーター
デフレーター. H17暦年連鎖価格. 横軸は年度. ただし全国のデフレーターは暦年, 出典: 内閣府「県民経済計算」.

常識的には考えられない変動をしている.数字も並べておくと以下の通りだ.
  2005年 91.7
  2006年 65.6
  2007年 63.2
  2008年 -2.2
  2009年 2.7
  2010年 3.0
  2011年 2.6
変化率じゃなくて実数である.

3. 実質GDPと,実質GDPから石油・石炭製品を除いたもの
実質産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
石油・石炭製品の分をそっくりそのまま抜き去った分(赤線)と併せてプロットした.金融危機や大震災で大打撃を受けている様子が見て取れる.

前年比に直すと次の通りである.
実質産出の変化率. 単位: %. 横軸は年度.
石油・石炭製品を除いた系列だと,2009年度は-25.44%,2011年度は-33.51%のマイナス成長である.しゃれにならない.

4. 名目GDPと,名目GDPから石油・石炭製品を除いたもの

名目産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
名目産出の変化率. 単位: %. 横軸は年度.

実質で見るとパニックが起こりかねないが,名目GDPだと緩やかに成長している様子がうかがえる.

5. 鉱工業生産指数における化学・石油製品
沖縄の鉱工業指数. H22基準. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」.
県民経済計算以外で石油製品部門の動向を見ておく.2008年から2011年にかけての間に極端な構造変化は生じていないように見える.


6. 販売電力量と実質GDP (2015年3月13日追記)
販売電力量合計 vs. 実質GDP. 出典: 電気事業連合会「電力統計情報」.

これは講義資料用に用意していたグラフである.沖縄電力の販売電力量をプロットし,実質GDPと比較している.もしエネルギー消費量が沖縄の経済活動と強く相関があれば,実質GDPの代理指標の一つとして使えるだろう.

グラフでは,金融危機以降沖縄の電力消費量が伸び悩んでいる様子が見て取れる.この間省エネが急速に進んだ可能性はあるものの,実質GDPを鵜呑みにするのは危険だと考えるのが自然だろう.


まとめ
  • エラーがありそうでかつ沖縄県経済にとってマイナーな部門を取り除くと,実質GDPのとてつもない落ち込みが観察された(図3).
  • 公式の実質GDPは,リーマン・ショック以降の沖縄マクロ経済の動きをまるで捉えられない.本来の姿を過大に評価している.



今からちょうど2年前沖縄に赴任したときから腑に落ちなかったものがやっと解消された.とはいえ,知的好奇心は満たされても,喜んではいられない.

ただのヒューマンエラーにしては奇妙だ.2007年11月に南西石油がPetrobrasに買収されたことが影響したのだろうか?

Monday, March 9, 2015

15年2月沖縄県主要指標

とても久しぶりにこのシリーズ.四半期ごとでよい気もする.


前回のエントリ:  14年10月沖縄県主要指標

県内企業業況判断(14年Q4)は予想を下方修正した様子がうかがえる.総事局BSIと沖縄公庫DIだと,およそとんとんである.
沖縄県内企業の景況感. 点線は原系列, 実線は季節調整値. 黒線: 沖縄公庫のD.I., 青線: 内閣府沖縄総合事務局のB.S.I., 紫線: 日銀那覇支店のD.I., オレンジ線: おきぎん経済研究所.  出典: 沖縄振興開発金融公庫「県内企業景況調査」, 内閣府「法人企業景気予測調査」, 日本銀行「県内企業短期経済観測調査結果(短観)」, おきぎん経済研究所「おきぎん企業動向調査」.

鉱工業生産(12月分)は年末に躍進している.
沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド, 赤が全国. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.
  • 沖縄の鉱工業生産指数は,食料品工業のウェイトが4割強,窯業・土石製品工業のウェイトが2割弱を占めている.金秀グループを想像すればよいのだろうか.全国の鉱工業生産と違い,広い裾野の産業連関を捉える指数ではないと思う.
  • 食品加工と窯業土石を併せてプロットすると次の通りである.
産業別,沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. いずれも季節調整値.出典: 沖縄県「鉱工業指数」.
  • 特に窯業・土石製品工業は鉱工業生産と近い動きをしているようだ.季調値のcross correlationを計算するとたしかに±約8ヶ月は正の相関があるようだ.(季節調整なしだと,窯業が4ヶ月程度先行する.) ガラスやセメントの生産 → 建設 → その他産業,と波及していくイメージだろうか.
  • 食料品加工は,2013年頃から鉱工業指数と水準的に乖離しているように見える.近年の景気拡大を引っ張るのはやはり建設業なのだろう.

消費者物価(1月分)は消費増税分を除けば0%近傍に向かっている.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
  • たしかに日々目にする小売価格は落ち着いている気がする.もちろんガソリンは安い.じきマイナス圏に突入するだろう.
  • 政治に関する報道の流れが変わってきている気がする.政治的な裏付けを失い,金融政策が着地点を失うと怖いなぁ.
    • 1月頃から少し各指標の雰囲気も変わっている気がする.

労働力調査(1月分)は,男性はポジティブで女性はややネガティブか.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

毎月勤労統計調査(12月分)から賃金率を計算した.ここでは便宜上,
名目賃金率 = きまって支給する給与 / 総実労働時間. (一般労働者)
と定義する. 前年同月比を見ると次の通りである.
沖縄の名目賃金率, 前年同期比(単位: %). 男性は青, 女性は赤. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 男女とも14年下半期から名目賃金率は上昇している.13年半ば頃からの極端な落ち込みからは回復しつつあるようだ.
    • 直近だと新しい大型イオンモールができることもあってか,中部の労働市場が逼迫していると聞く.
  • しかし,冬のボーナス(12月の特別に支払われた給与)は例年よりも低調であった.
    • もちろんボーナスの動向は産業によって異なる.前年より顕著にプラスなのは次の通り.
      • 建設 +30.6%, 金融 +38.6%, 不動産 +58.0%
    • どこが低調なのかと思えば…つらすぎる.
      • 学術研究,専門・技術サービス業 -55.3%, 教育,学習支援業 -30.5%
  • 消費者物価指数は増税込みだと+3%弱で推移しているので,実質賃金だと11月を除きマイナス成長となりそうだ.

そろそろ次年度用の講義資料も作成しなければならない.春休み中にやらねばならないことが多すぎる.