クリスマスに限ったことではないが,プレゼントは無駄を伴う,とはWaldfogel (1993, 2005)やOffenberg (2007). 消費行動の深いところまで考えさせられるよい論文である.でもいざ贈与の研究についてAndreoni and Payne (2013) のサーベイをちらっと眺めると,この世界で研究するのは大変だと思う.
講義内容
参考文献:
講義内容
- 金利平価続き
- 金利裁定を使って無限に儲けることはできない,という条件を満たす為替レートを考える.
- 現実には数式には現れないリスクも踏まえて投資が行われているため,必ずしも数式通りに実際の為替レートが動くというわけではない.
- クリスマス・プレゼントの話と似て,経済学のすぐれた理論には現実をよく説明するという理由ではなく,現実との乖離が無視できないほどありその残差を埋める営為に知的な喜びを保証してくれるからこそ支持されているものがある.一般均衡理論しかり,シカゴ学派しかりだ.誰もその現実的な妥当性そのものは信じても愛してもいない(にも関わらず,すべての経済学者が理論をナイーブに信じているという藁人形論法に依拠した「経済学批判」が後を絶たない).経済理論はデータで検証できてなんぼだ,と思っていた時期もあったが,最近は個人的なテイストが原点回帰しつつある.
- かけ算・割り算ができれば,為替レートの動きが少しわかるようになる.算数は大事.
- 為替と株の動き
- 日本の場合,けっこう連動しているように見える.
- ただし,因果関係は自明ではない.
- 株価や配当については,金融論の授業や教科書で改めて勉強してほしい.配当から株価の本来あるべき水準(ファンダメンタルズ)が決まる,という議論自体は現実的な妥当性はともかくとしても標準的な話である.
- 1月9日にまたお会いしましょう.16日はセンター試験のため休講.良いお年を.
- 「$1\mbox{億} \div e$ドルを$\displaystyle \frac{1\mbox{億}}{e}$ドルと変形してもよいか?」
- よいです.レジュメ1の脚注3(6ページ)も参照してください.
- 「円安になったら必ずドル高になるのか? 互いに反比例をする,で正しいか?」「円安になればドル高ですね」
- 1ドル = e円という式のみから「円安かつドル安」という状況を表現することは不可能です.ので,片方が安くなれば必ず片方は高くなります.為替レートはあくまでも2つの通貨間の交換「比率」であり,相対的なものなのです.
- 1ドル = e 円,は自国通貨(日本円)で見た外国通貨(米ドル)の価格,ということで自国通貨建て(円建て)の為替レートと言います.
- アメリカ人にとっての自国通貨建て(ドル建て)レートに直すと,e円 = 1ドル,言い換えれば1円 = (1/e)ドル,になります.(1/e)が上昇すればドル安となります.(1/e)が上昇するときには必ずeは低下,つまり円高になります.
- しかし3国以上ある状況を考えると話は複雑になります.たとえばユーロが強くなった結果「円安ユーロ高」と「ドル安ユーロ高」が同時に起こることはあります.つまり(ユーロと比べて)円安とドル安が共存することはあります.
- あくまで,(ドルと比べて)円安と,円と比べてドル安,は両立しないということです.
- 要するに,りんごとみかんが両方とも安くなることはありますが,「りんごの値段÷みかんの値段」 と「みかんの値段÷りんごの値段」が同じ方向に動くことはありえないということです.
- 「$x$と$y$が反比例」とは,「$x \times y$が一定」になることを意味します.たとえば$(1/x)$ドル$=y$円,とすると,為替レートは1ドル$=x \times y$円,と計算できます.「$x \times y$は常に一定($=1$)」なので,定義通りに反比例であると言うことはできます(少々わかりにくいですが).
- 「プレゼントは何がどう無駄なのかもうちょっと詳しく」「ブログを最近見つけたのでそこで解説してほしい」
- たとえば私がよかれと思ってあなたに1万円分経済学の教科書をプレゼントしたとします.これ,福沢先生1人よりもうれしいと感じるでしょうか?
- もちろんあなたが彼女にあげたプレゼントが(もし存在するとすれば)完全に無駄である,というわけではありません.誤解なきよう.
- 現実には情報の非対称性があるわけで,あえて無駄そうなコストをかけることが実は有益である(たとえばシグナリングになる)ことも十分ありえます.(そもそも経済学はお金で買えない人間関係も分析対象です.)
- 無差別曲線が出てくるレベルのミクロ経済学を勉強すると,意味が通じると思います.しかし片手間のブログで解説するには厄介です.元ネタの論文は上述の通りですので,筆者の名前などで検索してみてください.
- 現実には,現金給付のほうが本当によいかどうかは時と場合によります.これは政策的に重要な争点にもなります.たとえばBanerjee and Duflo (2011) 『貧乏人の経済学』 をご覧下さい.
- 「円高のときにドルを日本円と交換すると儲けることが出来るのでは?」
- そうですね,でも金利の動きにも注意しましょう.儲けるチャンスを手に入れる際にはリスクを背負っていることも忘れてはいけません.たとえば将来予想に反してさらに円高が進んでしまえば儲けるどころか損をしますね.
- 「金利平価式で飛ばしたところがある」
- 忘れてました.がちょっと難しい気もしますので飛ばしてもいい気がします.
- たし算に式変形したほうがわかりやすい,とレジュメを作成した段階では思っていましたが,みなさんの計算能力だとかえって混乱を招く予感もします.
- 「この講義はタメになるので楽しいです」
- ありがとうございます.でも内心では役に立たないことばかり教えているんじゃないかといつもびくびくしています.
- 「一年間ありがとうございました.来年もよろしくお願いします.」
- よろしくお願いします.
参考文献:
- James Andreoni and A. Abigail Payne (2013) Charitable Giving, in Handbook of Public Economics vol 5., eds. by Alan J. Auerbach, Raj Chetty, Martin Feldstein and Emmanuel Saez, Elsevier.
- Abhijit Banerjee and Esther Duflo (2012) Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, PublicAffairs. 山形浩生訳『貧乏人の経済学: もういちど貧困問題を根っこから考える』みすず書房.
- Jennifer Pate Offenberg (2007) Markets: gift cards, Journal of Economic Perspective 21, 227--238.
- Joel Waldfogel (1993) The Deadweight Loss of Christmas, American Economic Review 83, 1328--1336.
- Joel Waldfogel (2005) Does Consumer Irrationality Trump Consumer Sovereignty? Review of Economics and Statistics 87, 691--696.
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