Friday, December 26, 2014

国際経済学II, 第13回, 2014

クリスマスに限ったことではないが,プレゼントは無駄を伴う,とはWaldfogel (1993, 2005)やOffenberg (2007). 消費行動の深いところまで考えさせられるよい論文である.でもいざ贈与の研究についてAndreoni and Payne (2013) のサーベイをちらっと眺めると,この世界で研究するのは大変だと思う.

講義内容
  • 金利平価続き
    • 金利裁定を使って無限に儲けることはできない,という条件を満たす為替レートを考える.
    • 現実には数式には現れないリスクも踏まえて投資が行われているため,必ずしも数式通りに実際の為替レートが動くというわけではない.
      • クリスマス・プレゼントの話と似て,経済学のすぐれた理論には現実をよく説明するという理由ではなく,現実との乖離が無視できないほどありその残差を埋める営為に知的な喜びを保証してくれるからこそ支持されているものがある.一般均衡理論しかり,シカゴ学派しかりだ.誰もその現実的な妥当性そのものは信じても愛してもいない(にも関わらず,すべての経済学者が理論をナイーブに信じているという藁人形論法に依拠した「経済学批判」が後を絶たない).経済理論はデータで検証できてなんぼだ,と思っていた時期もあったが,最近は個人的なテイストが原点回帰しつつある.
    • かけ算・割り算ができれば,為替レートの動きが少しわかるようになる.算数は大事.
  • 為替と株の動き
    • 日本の場合,けっこう連動しているように見える.
      • ただし,因果関係は自明ではない.
    • 株価や配当については,金融論の授業や教科書で改めて勉強してほしい.配当から株価の本来あるべき水準(ファンダメンタルズ)が決まる,という議論自体は現実的な妥当性はともかくとしても標準的な話である.
次回
  • 1月9日にまたお会いしましょう.16日はセンター試験のため休講.良いお年を.
コメントより
  • 「$1\mbox{億} \div e$ドルを$\displaystyle \frac{1\mbox{億}}{e}$ドルと変形してもよいか?」
    • よいです.レジュメ1の脚注3(6ページ)も参照してください.
  • 「円安になったら必ずドル高になるのか? 互いに反比例をする,で正しいか?」「円安になればドル高ですね」
    • 1ドル = e円という式のみから「円安かつドル安」という状況を表現することは不可能です.ので,片方が安くなれば必ず片方は高くなります.為替レートはあくまでも2つの通貨間の交換「比率」であり,相対的なものなのです.
      • 1ドル = e 円,は自国通貨(日本円)で見た外国通貨(米ドル)の価格,ということで自国通貨建て(円建て)の為替レートと言います.
      • アメリカ人にとっての自国通貨建て(ドル建て)レートに直すと,e円 = 1ドル,言い換えれば1円 = (1/e)ドル,になります.(1/e)が上昇すればドル安となります.(1/e)が上昇するときには必ずeは低下,つまり円高になります.
    • しかし3国以上ある状況を考えると話は複雑になります.たとえばユーロが強くなった結果「円安ユーロ高」と「ドル安ユーロ高」が同時に起こることはあります.つまり(ユーロと比べて)円安とドル安が共存することはあります.
      • あくまで,(ドルと比べて)円安と,円と比べてドル安,は両立しないということです.
    • 要するに,りんごとみかんが両方とも安くなることはありますが,「りんごの値段÷みかんの値段」 と「みかんの値段÷りんごの値段」が同じ方向に動くことはありえないということです.
    • 「$x$と$y$が反比例」とは,「$x \times y$が一定」になることを意味します.たとえば$(1/x)$ドル$=y$円,とすると,為替レートは1ドル$=x \times y$円,と計算できます.「$x \times y$は常に一定($=1$)」なので,定義通りに反比例であると言うことはできます(少々わかりにくいですが).
  • 「プレゼントは何がどう無駄なのかもうちょっと詳しく」「ブログを最近見つけたのでそこで解説してほしい」
    • たとえば私がよかれと思ってあなたに1万円分経済学の教科書をプレゼントしたとします.これ,福沢先生1人よりもうれしいと感じるでしょうか?
      • もちろんあなたが彼女にあげたプレゼントが(もし存在するとすれば)完全に無駄である,というわけではありません.誤解なきよう.
      • 現実には情報の非対称性があるわけで,あえて無駄そうなコストをかけることが実は有益である(たとえばシグナリングになる)ことも十分ありえます.(そもそも経済学はお金で買えない人間関係も分析対象です.)
      • 無差別曲線が出てくるレベルのミクロ経済学を勉強すると,意味が通じると思います.しかし片手間のブログで解説するには厄介です.元ネタの論文は上述の通りですので,筆者の名前などで検索してみてください.
    • 現実には,現金給付のほうが本当によいかどうかは時と場合によります.これは政策的に重要な争点にもなります.たとえばBanerjee and Duflo (2011) 『貧乏人の経済学』 をご覧下さい.
  • 「円高のときにドルを日本円と交換すると儲けることが出来るのでは?」
    • そうですね,でも金利の動きにも注意しましょう.儲けるチャンスを手に入れる際にはリスクを背負っていることも忘れてはいけません.たとえば将来予想に反してさらに円高が進んでしまえば儲けるどころか損をしますね.
  • 「金利平価式で飛ばしたところがある」
    • 忘れてました.がちょっと難しい気もしますので飛ばしてもいい気がします.
    • たし算に式変形したほうがわかりやすい,とレジュメを作成した段階では思っていましたが,みなさんの計算能力だとかえって混乱を招く予感もします.
  • 「この講義はタメになるので楽しいです」
    • ありがとうございます.でも内心では役に立たないことばかり教えているんじゃないかといつもびくびくしています.
  • 「一年間ありがとうございました.来年もよろしくお願いします.」
    • よろしくお願いします.

参考文献:
  • James Andreoni and A. Abigail Payne (2013) Charitable Giving, in Handbook of Public Economics vol 5.,  eds. by Alan J. Auerbach, Raj Chetty, Martin Feldstein and Emmanuel Saez, Elsevier.
  • Abhijit Banerjee and Esther Duflo (2012) Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, PublicAffairs. 山形浩生訳『貧乏人の経済学: もういちど貧困問題を根っこから考える』みすず書房.
  • Jennifer Pate Offenberg (2007) Markets: gift cards, Journal of Economic Perspective 21, 227--238.
  • Joel Waldfogel (1993) The Deadweight Loss of Christmas, American Economic Review 83, 1328--1336.
  • Joel Waldfogel (2005) Does Consumer Irrationality Trump Consumer Sovereignty? Review of Economics and Statistics 87, 691--696.

Tuesday, December 23, 2014

学問と社会, 2014

昨年度と同じくオムニバス講義でしゃべってきた.機材トラブルで時間を大幅に削られたのが残念であった.

この講義では聴覚障害者支援のため学生ボランティアが話者の発言をリアルタイムで文字起こししていた(昨年度も).語り手としては緊張するが,ステキな取り組みだと思う.

経済学はお金の話ではない、と強調したが、ちょうど大竹先生も同様に述懐されていた: ダイヤモンド社書籍オンライン, なぜ、「経済学者」は嫌われるのか?――実は「利他的」な経済学者が伝えたい、経済学の「2つの醍醐味」

経済学に付随するお金のイメージはどこから来ているのだろうか.想像力の貧弱さとは別の原因があってしかるべきだろう.たとえば経済学は不都合なものだという信念を自他が抱くことが合理的な利益団体が一定数いて,一種のマッチ・ポンプとして経済学が進化的に発展してきた,なんてシナリオがありえるのかな.
(そういえば限定合理性から貨幣錯覚などが生じるというGabaixの論文はすごいね.)

そろそろ今年も仕事納めが近づいてきた.
年度末までは教育業務に忙殺される予感がしている.

Saturday, December 20, 2014

LaTeXでカレンダー自作

次年度用に以下のようなカレンダーを自炊した.

日本語の解説があまりなかった上ヘルプも少し不親切なため,以下作り方をメモしておく.
  1. CTANからcalendarパッケージをダウンロード.コマンドプロンプトでallcal.insを実行しインストール.
  2. 必要に応じて作業用フォルダにstyファイルとcldファイルをコピー.
    • たとえば私の場合月次カレンダーを作りたかったので,demomont.tex, calendar.sty, dates.sty, monthly.sty, overword.sty, demo1997.cld, demoapt.cld, demoaptr.cld, demoevt.cld, demoevtr.cld, demolist.cld, を使用.
  3. いろいろ編集してtexファイルをコンパイル.以上.
編集するファイルは大きく3種類に分かれる.
  1. texファイル (e.g., demomont.tex)
  2. 日付のレンジを指定するファイル (e.g., demo1997.cld)
  3. 予定を書き込むファイル (e.g., demoaptr.cld, demoevtr.cld)

日付のレンジは,2015年度全体,2015年度前期,2015年度後期,と3種類ぐらい用意しておくと便利だ.たとえば
April 1 2015 to August 10 2015 {Spring}
とだけ書いたテキストファイルを,2015spring.cldなどと名付けてtexと同じディレクトリに入れておく.

春学期用の予定を書き込むファイルのほうでは,
range 2015spring {Spring}
every Friday 9:00-16:10 {lecture}
every Wednesday 10:30-14:30 {lecture}
every second Wednesday 15:00-16:00 {fac.meeting}

などと書く.一行目でレンジを指定,2行目以降は予定を適宜書き込む.

日本の祝日ファイルも別途作成した.たとえばこんな感じ:
range 2015range {all}
%fixed date
every January 1 {元日}
every February 11 {建国記念の日}
every April 29 {昭和の日}
every May 3 {憲法記念日}
every May 4 {みどりの日}
every May 5 {こどもの日}
%every August 11 {山の日}
every November 3 {文化の日}
every November 23 {勤労感謝の日}
every December 23 {天皇誕生日}

%2015 specific date:
January 12 2015 {成人の日}
March 21 2015 {春分の日}
May 6 2015 {振替休日}
July 20 2015 {海の日}
September 21 2015 {敬老の日}
September 22 2015 {国民の休日}
September 23 2015 {秋分の日}
September 24 2015 {振替休日}
October 12 2015 {体育の日}


texファイルでは,\begin{document}の後に
\begin{landscape}

\begin{monthly}

{texttype=\footnotesize}
{2015lecture1:BlueViolet,2015lecture2:BlueViolet, 2015evtr1:OliveGreen,2015evtr2:OliveGreen,2015holiday:Mahogany}
January 2015 to April 2016

\end{monthly}

\end{landscape}
などを挿入すれば良い.つまり,予定を書き込んだcldファイルをそれぞれ読み込ませればよい.ここでは予定の種類ごとにBlueVioletなどの色を付けている.その他レイアウトは好みで.私の場合,booktabsとcolortblを使いながらmonthly.styの180行目あたりを編集した.

現時点でよくわからないのは,第四週目の指定の仕方(first, second, thirdまでは使えるがfourthや4thが使えない)だ.若干不便である.あと,Google Calendarと連動させることができればよいんだけれどそんなテクニックは持っていない.

Friday, December 19, 2014

国際経済学II, 第12回, 2014

講義内容
  • 購買力平価続き
    • 一物一価が成り立つような為替レートが,購買力平価レート.
    • 現実の為替レートは,購買力平価レートから乖離することも珍しくない.
  • 金利裁定の考え方
    • どちらで買っても同じ値段,というのが購買力平価なら,どちらに投資しても同じ収益,が金利平価.
    • 外国に投資するときは為替変動リスクがあるので,それも考慮した上で投資を行う.
      • フォーワード取引を使えば変動リスク自体は消せるので,直先スプレッドに注目することになる(カバー付き金利平価).
次回

コメントより
  • 「投資家は細かく金利を見ていてすごい」
    • 業界では「ベーシス・ポイント」という単位がよく用いられます.パーセントが0.01であるのと似て,ベーシス・ポイントは0.01%,つまり0.0001を表します.何兆円ものお金が動く世界では,このぐらい細かく見てなんぼなのでしょう.
  • 「検定の講座を開いてください」
    • 研究時間をいかに確保するかに日々苦心しているところですので,実現可能性は低いです.挑戦したい検定と熱意があれば相談には乗りますよ.
  • 「結局裁定取引はできないんかい!」
    • コンピュータープログラムを使って自動的に取引をすることができる現代において,わかりやすい裁定取引の機会は1秒以内に消滅するかと思います.
      • わかりにくい裁定取引のチャンスを見つけることができれば一人前の投資家でしょう.実際にはある程度のリスクは引き受けねばリターンは得られないわけですが.
  • 「ビッグマックの例はわかりやすかった」
    • 実際のビッグマック指数はこちらで確認できます(英文).
      • 市場が地理的に分断されているようにも見えて興味深いですね.
  • 「金利平価難しい」「説明が早い」「もう一度説明を」
  • 「金利裁定で出てきた表がよくわからなかった」
    • もし金利差があれば,裁定取引をするチャンスが生じます.表は,その具体的なやり方を示しています.
    • 購買力平価のところでやった,安いところで購入して高いところに輸出すると楽して儲かりそう,という議論と対応しています.
    • 金利が安い方でお金を借りて,それをそっくりそのまま金利が高い方に貸す(たとえば貯金する)と儲かりそう,ということです.表記が若干奇妙かもしれませんが察してください.

Wednesday, December 17, 2014

経済政策II, 第12回, 2014

体調を崩していて申し訳ありません.

講義内容
  • 乗数効果の数理と解釈
    • 需要を産み出すことで,余っている人たちに生産活動をする機会を産み出すことができる.これが乗数効果と呼ばれる好循環を生む.
      • 政府はその最初の一声を挙げる役割を果たすことが出来る.これが財政政策を積極的に評価する一つの理論的基礎になる.
      • ただし現代ではそのロジックは甘すぎてあまり通用しない.
  • 完全失業率とは
    • 定義を押さえよう.たとえば「我々が1年以内に失業する確率」(これは離職率と呼んだほうがよい)などではないので誤解しないように.また,「完全失業者」は我々が想像する失業者のイメージと食い違うところもある.
    • 労働する最低年齢を決めているのは子供の権利条約だと口が滑ったが,正しくは最低年齢条約と労働基準法.訂正&お詫び.
      • 今年のノーベル平和賞は,子供,特に女子の教育機会を訴える人が受賞した.『わたしはマララ』は未読だがよい本らしい.
      • 児童労働は,一時的にキャッシュが得られるという便益はあれど,将来の稼得能力が低下するという費用がかかる.(児童労働と競合する非技能労働者の賃金も下がるかもしれない.) アルバイトに大幅に時間を割いている・割かざるを得ない高校生・大学生を目にする機会が増えたこともあり,個人的には気になる問題である.
次回
  • 今年の本講義は今日で最後である.来週は土曜日日程である.次回は1月7日になるので間違えないように.
  • レジュメ4は半分までしかカバーしない予定.レジュメ5も近日中にアップロードするので,印刷するなどして用意してほしい.

コメントより
  • 「計算するところがとても大変だったけど少しわかりやすかった」「けっこう難しかった.次の復習で完璧にしたい」
    • 今回の講義の目的は,無理にでも背伸びをしたらどこまで見えるか,を示すことでした.現時点ですぐさま理解するのは難しいと思いますが,キャパシティ自体を伸ばすことにつながればと思います.
  • 「成人式は希望休2回しか取れなかった」
    • バイトはあまり交渉力を持たないのが普通ですね.次回講義では非正規雇用もちょっとだけ取り上げます.

国際経済学II, 第11回, 2014

ゼミナール大会お疲れさまでした.私のゼミは,skill-biased technological changeの実証,および輸出のextensive marginの事例研究,の二本立てで報告しました.勉強しました,ではなく研究しました,という数少ない報告だったのではないでしょうか.どちらも沖縄経済に対して重要な含意を持つ研究になったと思います.

講義内容
  • 購買力平価
    • $e = P / P^*$, で為替レートの理論値が計算できる.
    • これは貿易による裁定取引がこれ以上できない,という条件に相当する.

コメントより
  • 「最近インベスターZという本を読んだが,講義で習った言葉が出てくるのでとてもためになっている」
    • 私は未読ですが,お役に立てて光栄です.
  • 「以前実験するといっていたけどやるの?」
    • 忘れていました.準備が間に合いそうにないので次週はやりません.
  • 「テストで携帯の計算機使ってもよいか?」
    • カンニングと見分けが付かないため,携帯電話の使用は認めません.もし計算問題を出すとしても,2や5や10など,電卓がなくても計算しやすい数字に限定します.
  • 「購買力平価がわかった」「購買力平価の説明がわかりやすかった」「購買力平価は難しかった」「計算は苦手ではないんだけど難しかった」「例がほしい」
    • 購買力平価は深く考えるとけっこう難しい理論だなと感じています.

先月に引き続き,ロシアが揺れている.今後の政策対応やそれを織り込んだ投機,および波及効果が気になるところ.国際金融の講義まっただ中にこういった危機的局面が発生するとは.
ルーブル/円(左軸)と短期金利(右軸)の推移.出典: Oanda.com, Central Bank of Russia.

経済政策II, 第11回, 2014

更新し忘れていた.

講義内容
  • SNAにおける租税
    • 税金は支出ではなく所得移転.我々の可処分所得が減った分は政府のところに行く.
      • もし税金によって家計や企業が行動を変えたり,政府が使い道を誤ったりする場合は,税金によって資源が浪費されることになります.
  • SNAにおける政府支出
    • クラウディング・アウトの可能性が古来指摘されている.
    • しかし,不況期においては話が変わってくる.

次回
  • 乗数効果を学ぶ.
  • 終わったらレジュメ4に入る.しかしこのままいくと今年度は金融政策をまったく教えられない気がするので,レジュメ4は半分ぐらいしかカバーしない.レジュメ5は現在作り直し中である.年内にはアップロード予定.

コメントより
  • 「苦手な数学が多く出てきたので確かに大変だった気がする」
    • 次週はもっと難しいやつが出てきます.
    • 数学とはいっても,足し算・引き算しか使っていません.

Saturday, December 6, 2014

国際経済学II, 第10回, 2014

低血圧には朝起きるのが大変な季節がやってきました.

講義内容
  • 為替レートの換算補足
    • 方程式を使いこなそう.
  • 国際金融システムの歴史
    • 金本位制→ブレトン・ウッズ体制→変動相場制,という大きな流れを押さえよう.
    • 二度の大戦への反省を踏まえ,ヨーロッパでは経済面での統合が進んでいる.しかし必ずしもサクセス・ストーリーというわけではない.
次週
  • レジュメ5,為替の理論に入る.若干数学が登場するので心の準備を.

コメントより
  • 「世界共通の通貨にしたときのメリットとデメリットは?」「アジアなどで通貨を共通にしてしまえばとても便利だと感じた」
    • メリット・デメリットの両面を考えるという経済学的思考が身についている学生が複数いてとてもハッピーです.
    • まさに最適通貨圏という議論があります.この講義でも時間があれば紹介する予定です.(昨年度はやりましたが今年度はスケジュール的にギリギリです.)
    • 東アジアや東南アジアで共通通貨を導入する議論もありますが,私が生きている間に実現するかどうかはやや疑問です.
  • 「ニクソンはなぜBWをやめたのか?」
    • 「金1オンス=35ドル」と法的に為替レートが定められていましたが,この為替レートが本来あるべき水準である保証はありませんね.
      • たとえば本来はドルは「1オンス=70ドル」分の価値しかないなら,ドルを売って金と交換しようとするでしょう.が,こうした交換に応じられるだけのゴールドをアメリカ政府が用意するのは簡単ではありません.
  • 「めまぐるしい流れでおもしろかった.また新しい為替レートの仕組みができるのではないか」 
    • そうですね,金融市場や資本市場の変化とともに,外国為替市場にも変化が続くのではないでしょうか.
  • 「金本位制の意味がまだ分からない」
    • レジュメ4の脚注10もお読みください.我々が普段使っているお札は冷静に眺めるとただの紙切れでしかありませんが,なぜ価値があるのでしょうか? かつては,お札は金(ゴールド)と交換できるという保証があったからこそ価値を持ちました.
  • 「歴史の中で為替レートがどうなっているのかと思ったけど,意外と難しかった」
    • 情報量は多いかもしれませんが,一般教養として知っておくべきことに絞って話をしているつもりです.20世紀の歴史は1時間で振り返れるほど単純ではありません.
  • 「円高・円安がよく分からないので簡単に説明してほしい」 
    • 次週改めて補足します.為替レートが交換比率であることをしっかりと理解してください.レジュメを読み込むか,ネットで検索して自分なりに勉強してください.
  • 「ローマ字と片仮名が多すぎ」「いろいろな言葉が出てきたのでしっかり整理しておきたい」 
    • レジュメ1で予告してありますが,カタカナ語は頻発します.経済学自体がグローバルな学問領域なのです.
  • 「イギリスはポンドで,EU加盟国と間違えそうになった」
    •  イギリスはEU加盟国です.加盟国だがユーロは使っていない,というポジションです.大陸側の独仏とはやや距離があるからでしょうか.
  • 「半分世界史を受けているような感じ」
    • 経済学を一定以上理解している人から世界史・日本史の授業を受けてみたかったです.
  • 「歴史を細かくやってくれたのでわかりやすかった」
    • 本学に経済史のプロがいないのが悲しいところですね.

経済政策II, 第10回, 2014

講義内容
  • 経済政策と経済成長
    • 根本的なレベルで経済政策がうまくいっていないと,長期的には破滅的な結果を招くかもしれない.
    • どうすれば成長できるのかは依然として難問である.
  • 財政
    • プライマリー・バランス赤字が続いており,どこかで変化が不可欠.
  • 中立命題
    • 増税を延期しても借金が消えるわけではない.将来負担が降ってくるなら,それに備えて今のうちから節約する必要があるだろう.資金調達のタイミングをズラしても,我々の生涯所得が増えるとは限らないのである.
次週
  • 45度線モデルをやる予定.この授業の中では数学的にやや高度なトピックになるので覚悟を…

コメントより
  • 「(租税も公債も)理論上は変わらないということだが,今生活がかかっている国民からは増税の方が反発は強そうだなと思った」
    • そうなんですよね.ここは本当に悩ましく難しいポイントです.財政学の中心的な課題につながっています.
    • 我々の素直な感情としてはそうなのですが,政治家にはそうした国民感情を踏まえた上で増税を回避したり,負担があたかもないかのように「イリュージョン」を仕掛けるインセンティブがあるかもしれません.
    • 本来は中立命題がどういう仮定の下で成り立つものなのか,現実にはなぜ成り立たないのか,を丁寧に理解していく必要があります.
    • そしてまさに「今生活がかかっている」(借り入れ制約に服している)国民にとっては,中立命題は通常成り立ちません.とても鋭い洞察だと思います.
  • 「公債がどういうものかがなんとなく分かった」
    • 直接取引に携わることはほぼないかと思いますが,たとえば銀行に預金すれば,間接的に公債に投資することになります.公債の仕組みを知っておくと自分の資産がどうなっているのかもざっくり把握できるようになるかもしれません.
  • 「公債を減らすかどうかも中立命題で変わらないことが分かった」
    • もしかしたらやや誤解があるかもしれません.
      • 財政赤字は,これまでに発行してきた公債(フロー)が積み重なったストックの変数です.ストックとフローの区別に敏感になりましょう.
    • 中立命題が主張しているのは,仮に財政赤字を1兆円減らすとして,「1兆円税金で取る」選択肢と「1兆円新たに公債を発行すること(→財政赤字は結局減らない)」選択肢を比べると,負担は変わらない,ということです.公債で借り換えしても結局いつかは1兆円+利息の分だけ税金を取らねばならないのです.

Tuesday, December 2, 2014

国際経済学II, 第9回, 2014

 講義内容
  • 為替レートを読む
    • かけ算・割り算が自在にできないとちょっとキツイかも.
  • 為替リスクに対処する
    • フォーワード取引で今のうちにレートを確定させておくことができる.
    • 為替マリーで,純資産の変動を相殺することができる.
  • 為替制度の歴史
    • 金本位→固定→変動,という大きな流れを押さえよう.
次回
  • 制度史の話が終わったら,レジュメ5(為替理論編)に入ります.

アンケートについて
  • ご協力ありがとうございました.回答者82人のうち,60人が練習問題を解き,期末でもほしい,とのこと.
    • 解いてないけどほしい,という人のロジックが気になる.
    • もう少し試験を練習問題に近づけてほしい,という要望もあった.今のところ,練習問題はやや難しく,本番はそれを理解していれば簡単,という設定を狙っている.
  • 経済学を効率よくマスターするには,本を読んだり話を聞いたりするだけではなく,実際に紙とペンを使う必要があると思う.
    • 私自身も練習問題を解くことがある.たとえば最近では,以下のようなシミュレーションを走らせるプログラミング技術を身につけた.(MathematicaでもRBCは計算できる.やる必要はないのだが.)