Monday, April 25, 2022

2022都市経済学講義メモ2

講義メモの続き.

 3. 都市の定義

「都市」が市町村のような行政区分と一致する保証はない.「市町村」は国際比較可能な単位でもなく,国・地域によってサイズや統治機構はさまざま.都市雇用圏など適当な定義で画定していく必要がある.都市雇用圏はCBSAのように国際比較可能な単位であることがうれしい.


理論上は,労働市場や非貿易財の市場が清算される範囲,を都市とみなすと自然だと考えられる.同じ都市の中で需給が一致する.名護市民が那覇で野菜買わないみたいな話で,日々の消費生活は都市の中で完結する.土地市場も,労働市場が完結する範囲で閉じると推察される.そういうわけで都市雇用圏や通勤圏は,通勤フローを使って郊外を特定し,一つの都市圏とみなす.

  • 市場が単一・統合されているかの視点から都市を定義することもできるかもしれない.グローバル化・市場統合を地域間価格差から分析するような話 (Williamson & O'Rourkeなど) もあるし,通勤や貿易のフローではなく価格の情報を使って都市を画定してみたい気持ちを昔から持っている.
    • 国と地域の違いは,人口移動のしやすさ (国際経済だとRicardo-HOなど人口移動や資本移動がないモデルが標準),という解釈が一般的だと思う.価格でなく人流で定義すること自体が問題だとは思わない.


DIDは,密度,隣接,総人口の3条件で検出する.密度を見るのは農村や山林を落としたいため,隣接や総人口を見るのはゲーテッド・コミュニティやマンションなど局所的な高密度を落としたいため,と考えられる(はず).

金武町金武は密度4400人/km2, 人口5300人でDIDの条件をギリギリ満たしている例になる.ついでに金武町は2015年にはうるま市の郊外として沖縄市都市雇用圏に加わるなど,変化が見られる場所である.


都市雇用圏では満足できないので独自の定義・アルゴリズム・データで画定していくような研究 (足立ほか,Fujishima et al.) も紹介した.


都市の定義を考えることで,「東京」って何だろう,という引っかかりができるとよい.シンガポール(や香港)のような都市国家は周辺も含めて都市なのでは,という応用例も.


Reference

Adachi, Daisuke, et al. "Commuting zones in Japan." Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI) (2020).

Fujishima, Shota, et al. "The size distribution of ‘cities’ delineated with a network theory‐based method and mobile phone GPS data." International Journal of Economic Theory 16.1 (2020): 38-50.


Sunday, April 24, 2022

2022都市経済学講義メモ1

 新しく「都市経済学」という半期の専門科目を持つことになり,講義資料をいちから作成している.講義のストラクチャーを独り言のようにしてメモに残す.


1. 特色

都市経済学の既存の定番テキストは,すぐれた理論家たちが書いていることもあり,理論の比重が大きい.講義では実証研究(結果というよりデザイン)を紹介し,実証マインドも育てていく.

学生はラグランジュ乗数法あたりまで知っていて統計学は必修のようなので(経済学以外の専攻だとだめそうだが),難易度は佐藤先生の『招待状』と高橋先生の間ぐらいを目指す.


2. ガイダンス

都市は学際的な分野である.今どきの経済学的なアプローチは,最適化・均衡・経験主義が他分野との違いである.本講義も今どきの流れに乗る.


伝統的な都市経済学 (AMMも当時はNew Urban Economicsと呼んだそうな) は,土地利用の秩序を簡素なモデルで表現することに大きな関心があった.Von Thunen『孤立国』が元祖で,Fujita and Ogawa (1982) はこの流れの金字塔的作品である.


AMMのような枠組みでは,アクセシビリティが鍵である.不動産の価格は土地や住宅という希少で異質な資源を配分するシグナルである.アクセスの良い場所は高まる効用を打ち消すように (∵ 空間均衡) して住宅価格が高まり,高い住宅価格を支払ってもよいという人が住むようになる,など.そういう次第で,アクセスと家賃にトレードオフが生じる.


同時に,「アクセスも悪いし家賃も高い」「アクセスがよく家賃も低い」ようなものは均衡にならない,という予測も立つ.そうした住民は最適化に失敗している (ように分析者が見える) からだ.

Hamilton (1982) は,AMMの理論から予測される通勤距離が,実際の通勤距離の1/8程度しかないことを日米のデータで指摘した.8倍は誤差というには大きいだろうということで,過剰通勤パズル (wasteful (excess) commuting) と呼ばれる.

  • 学生には理論と実証の緊張関係を意識してほしい.
  • 個人的にはHamiltonの計算はあやふやで解釈が難しい (結局どういう仮定に依拠した数字なのかぱっと見わからないのも気になる) ように感じる.それでも,エクイティ・プレミアム・パズルなどのように,モデルの限界がわかればこそその後の発展につながるものである.
  • もうひとつ個人的には,AMMは均衡外の調整過程が非現実的すぎると昔から感じている.このあたりを利用してうまいことパズルを作れないだろうか…

過剰通勤パズルを説明する要素はいくつも考えられるが,ひとつは,人々は通勤経路を最適化できない,というものである.最短経路問題はそう簡単に人力では解けないし,Googleマップは,そのルートを実際通るときの安全性までは教えてくれない.

Larcom et al. (2018) は,ストライキによる駅閉鎖を外生的な変動にして,通勤経路を見直さざるを得なかった人とそうでない人を比較した.結果,人々(の5%ぐらい)が通勤経路を最適化できていなかったことを示した.つまり,通勤経路をたまたま見直したら,もっといい経路を見つけ,ストライキが終わった後も新しく開拓したルートを選び続けた,というストーリーである.

  • こうした最適化のエラーは,路線図が歪んでいる場所ほど大きい,とのことである.たしかに,路線図はデザインの都合で実際の地図とは対応していないものである(山手線が真円でも等間隔でもないのに路線図は…,など).
  • Larcomらの論文は,事前のパラレルトレンドがかなり説得的に見えることが一つの強みである.


Reference

Fujita, Masahisa, and Hideaki Ogawa. "Multiple equilibria and structural transition of non-monocentric urban configurations." Regional science and urban economics 12.2 (1982): 161-196.
Hamilton, Bruce W., and Ailsa Röell. "Wasteful commuting." Journal of political economy 90.5 (1982): 1035-1053.
Larcom, Shaun, Ferdinand Rauch, and Tim Willems. "The benefits of forced experimentation: striking evidence from the London underground network." The Quarterly Journal of Economics 132.4 (2017): 2019-2055.

Saturday, April 2, 2022

移籍しました

2022年4月1日より県内で異動することになりました.

前職には思い出と愛着が多々あり,離れるのが惜しいところです.27歳で着任してから9年間という,私のキャリアの重要な期間を,充実したものとすることができました.

新しい環境で気持ちを新たにし,研究・教育に尽くして参ります.今後とも変わらぬご指導ご鞭撻のほどお願いいたします.


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前職は優秀な若手を積極的に採用しており,楽しい快適な職場です.研究に専念しやすい希有な環境だと思います.沖縄は花粉もありません.jrecinより経済学の公募が出ていますので,ふるってご応募いただければ幸いです.


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メールアドレスは,既存のものとユーザー名は変わらず,ドメインがgrs.u-ryukyu.ac.jpに変わります.

個人用メモ:
Gmailで大学のウェブメールを送受信できるようにするには,WebMailの国別認証制限でUSを許可する必要あり.

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長期金利の雲行きが…という状況でいろいろ思うところはありますが,家を買いました.向こう数十年は沖縄にロックインされると思います.

ただいま引っ越しの準備中です.あいむ・こんぽーじんぐ!

Saturday, January 29, 2022

ザル経済? パート1

最近報道で「ザル経済」が一つのキーワードになっているらしく,私も意見を聞かれることがある (あった).自分のためにも,いくつかぱっと思いついた論点を整理しておきたい.


1. 基本的な考え方

  • ミクロレベルの「ザル」 (特定の公共事業で県外企業が受注) と,マクロレベルでの「ザル」 (貿易収支バランス) は区別して議論する必要がある.
    • 後者の場合,貯蓄・投資のバランスから決まるもの,という動学的なフレームワークが不可欠だと思う.というか,地域間財政移転に伴う双子の赤字的な状況ではないかと疑っている.
    • 後者については,沖縄の場合県外からの純要素所得は労働所得も資本所得もプラス,金融収支もプラス,ということと整合的になるか考える必要がある.集計レベルでは,県外に資本所得が流出どころか,資本を県外に輸出して資本所得を稼いでいるポジションだろう.
  • 域内の「循環」や「漏れバケツ (leaky bucket)」 みたいな話はどちらかと言えばマクロの議論であり,個別の事業が適正・透明に遂行されたかというミクロな評価とは分けて議論すべきであろう.
    • 域内循環を高めるために県内企業の受注割合を高める…といったことを乱暴にやると,入札談合の温床になると懸念される.安直な排外主義は腐敗を招く.
    • 経済学者の多くは,「循環」そのものではなく経済厚生を重視していると思う.ので,どういった歪み・失敗があるかを特定する必要がある.
    • 循環を高めることが経済厚生の改善につながるとは言えない.地元でインプットを調達できることが望ましいとしても,それは輸送費用の節約や集積の経済や競争が理由であり,お金が回るからではない(なくてもよい).
    • 受注する県外資本にも競争がある.「中抜き」で楽してレントを得ているとは限らない.(マークアップがあったとしても,沖縄だけで問題になるという理屈は自明ではない.) 県民の所得と雇用を生み出すために県外企業の力が必要で,県外企業が正当な対価を受け取っているだけならば,それを叩くのは難しい.
    • 特定の産業で自給率を高めて輸入を減らしても,そのせいで他の産業の輸出が減って,マクロレベルでの「漏れ」を減らすことにつながらない可能性は十分考えられる.
  • 県民の生活水準の向上が目的だったとして,公共事業が合目的な政策手段かは問われてしかるべきである.現場では予算を消化することばかりが優先されているかもしれない.
    • 所得や雇用や生産性にどれだけ結びついたのか費用対効果を検証すべきである.しかしこうした政策評価は産業連関分析やロジックモデルでは (今どきの研究者を納得させることは) 難しいと思う.
      • 産連によるよくある「経済効果」はルーカス批判を回避できないどころか,価格も資源制約も反実仮想も民間投資のクラウディングアウトもへったくれもないような・・.
    • ワイズ・スペンディングが難しいのはわかるが,県内経済のボトルネックや歪みを緩和するためにお金を使ってほしい…
  • 県内の受注割合は,県内に落ちるお金の割合,を意味しない.
    • 県外企業が県内で労働者や資材を調達するかもしれない.大手ゼネコンは受注の多くを占めるが,外注も多いものである.
      • イオンにも県産食品は売っているし県民が多数働いている,サンエーにも移入財・サービス・県外資本のテナントはたくさんある.イオンは避けてサンエーやりうぼうに行こう,という類いの話は直感的におかしい (無論,地元ブランドを選好すること自体はよい).
    • 結局誰が便益を受けているのか,は自明じゃない.県外大手ゼネコンじゃなくて,建設場所周辺の県内在住地主が一番儲かっているかもしれない.
  • 産業構造の視点.
    • 県内調達を増やし県内建設業がより儲かるようになったとして,建設業に資源がシフトすると他の産業が縮小することになるのでは.Dutch diseaseみたいな話はやはり産連では出てこない(はず).
  • ひも付き援助.
    • 対外援助が,ドナー国から調達するようになっているなど「ひも付き」になっているせいで,思うような効果を挙げていない,という話は開発経済学で古くからあると思われる.公共事業が県外からの調達につながっているとして,それにまつわる論点はすでに軒並み出尽くしている気がする.援助全額がホスト国で使われるわけでなく,ドナー側でのアドミンのコストや調達コストが高くついてしまい現地には予算規模ほどには届かない,みたいな実情は現代でもある(と思うが専門外なので文献は知らない).
  • 分配の問題など,そもそもの目的が自明ではない.
    • 誰がレントを取るべきか,は分配の問題.パイを増やす問題と比べて,何が最適解なのかは自明ではない.語り得ぬ物には沈黙…と言うか,経済学だけではたいしたことは言えない(政治的信念が必要)ので個人的にはあまり触れたくないトピックである.
    • domesticとnationalのどちらを見るべきか,というのも特に答えのない問題.だが,県外に「漏れ」た所得をただの無駄,とみなすのはいささか視野が狭いのではないだろうか.
      • 県外に「漏れ」た所得は,県外の所得を増やし県の輸出需要を増やす,みたいな効果もあるはず.
    • 生産要素の所有権がどのように決まっているか,は大事な問題だと思うけど,どのように決まっているべきか,はちょっと話が大きくなりすぎる気がする.
      • 資本の所有権がないなら,貯蓄して投資して資本所得を稼げばよいという話になりそう.現時点でも県民は建設業ETFやREITに自由に投資できるのだから.


2. Brecher and Bhagwati 1981 JPE

域外からの所得移転が直感に反してネガティブになる,という議論はtransfer paradoxやcurse of foreign aidといった文脈と密接だと思う.専門外だが勉強も兼ねて,眺めた論文の簡単なメモを残しておく.この文脈は日本人経済学者 (八田先生や矢野先生など) も重要な貢献をしているので,そのうち気が向いたら引き続きメモをしたい.


BrecherとBhagwatiは,生産要素の所有権に注目してHOモデルを書いている.設定は単純で,国内にある$\bar{K}$のうち国民が持つ分が少ない(外資が国内で生産しているイメージ),といった状況を考えている.基本的にはただそれだけ.

この場合,「国内」でみれば援助で厚生改善したとしても「国民」でみれば援助が厚生悪化になる可能性が出てくる.TOTが変化したとき(Stolper-Samuelsonで)損する生産要素があるから (得する方の要素があってもその所有権がなければ…),というのがおおまかな直感.

  • 正確には論文9式.貿易の価格弾力性や変化前の貿易パターンに依存する.貿易パターンは要素賦存量で決まる.なお,「国民」の貿易パターンは,仮に「国民」の持つ要素だけで生産していれば,というものである.国内で見ればXを輸出してるかもしれないけど国民だけならXを輸入しYを輸出するはずだったということすらありえるよ,という感じ.


しかし現代の沖縄の文脈には直接援用できないモデルかもしれない.建設業は非貿易セクターなので.


Reference

  • Brecher, Richard A., and Jagdish N. Bhagwati. "Foreign ownership and the theory of trade and welfare." Journal of Political Economy 89.3 (1981): 497-511.


続く…かもしれない?

Wednesday, June 23, 2021

沖縄でShecession?

講義で使おうかと思ったが結局没にしたネタを投稿する.

コロナ禍における労働市場の動きについて,去年ゼミで学生から「She-cession」なる表現を教えてもらった.女性の方が男性よりも苦しみがち,とのこと.休校で育児負担が重たくなった,女性の多いセクター・タスクほど自粛による打撃が大きかった,などの理由が考えられる. 

She-cessionは沖縄でも生じてるのだろうか.労働力調査と毎月勤労統計調査をさっと眺めてみた.

結論は,女性に負担が集中している様子は思ったよりも見えない,という話である.

1. 労働力調査では男女差はよくわからない

ひとまず労働力調査から.

大きなショックのせいで季節調整がややこしくなりそうなところだが,ひとまず今回は2004/1から2019/12のデータを使って季節調整を施し,2019年の調整と同じように2020/1以降の季節調整を行った.

就業者数を見ると,女性より男性の方がショック後に低下しているように感じる.特に20年4月頃.

沖縄の就業者数, 男女別. 季調値.

非労働力人口を見ると,男性は変動が大きくよくわからないが,少なくとも女性が急増したようには見えない.失職し非労働力人口に移行する動きは(大きいと思っていたものの)観察できないようである.

沖縄の非労働力人口, 男女別. 季調値.

完全失業率では,女性ではなく男性のほうが上昇しているようである.

沖縄の完全失業率, 男女別. 季調値. (図では2020/1=100に基準化していると書いているがこれは間違い.)


労働力調査を眺めていると,ジョブが破壊されたのは,男性の自営業という印象を受ける(図は省略).長引く自粛で零細な飲食店や土産物屋,レンタカー事業者などが店じまいした,というイメージだ.

一方,被用者なら,男女問わず,(私の印象では)思いの外,雇用は守られているのではないだろうか(時短などはあろうが).飲食店のシャッターと張り紙を見るととても悲しい気持ちになるし「沖縄経済厳しいな…」と感じることもあるが,みんながみんな飲食業で働いているわけではないのだ.シャッターのような目に見えやすい情報だけからマクロ的な動きを推測するのは難しいものである.

労働力調査は産業・年齢・職種などいろいろなブレイクダウンがわかるが,サンプルサイズが小さくノイズが大きいので,これ以上細かい何かは見えそうにない,という気もした.


2. 毎勤では男女差が見られなくもない

毎勤でも確認してみた.以下すべて2018/1--2021/3, 5人以上事業所のデータである.季節調整は行っていない.

なお,調査対象事業所の入れ替えのためか,年始などに大きなジャンプがしばしば見られる.どういった標本調査の設計か知らないが,額面通りに捉えないほうがよい気はする.

さっそく労働者数をプロット.男女で異なるトレンドをしていた.

沖縄の労働者数,男女別, 調査産業計 (本月末).

  • 労働者数で見ると,男性は増加トレンドにある一方,女性は2020年以降減少トレンドにある.一見すると"Shecession"のようである.
セクター別に見ると,異質性があるようだ.次の図は,女性の労働者数が多いセクターを適当に選んで労働者数をプロットしたものだ.
沖縄の女性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性の中でも,増加トレンドにあるように見える産業 (D 建設業) もあれば,横ばいの産業 (O 学習支援業) もある.
  • 打撃が大きそうな宿泊業(M75, 図右下)では,コロナ禍前まで増加し,コロナ禍で減少に転じた様子が見て取れる.
  • 一方,宿泊・飲食サービスというより広いくくりでみた場合(M, 2列目右)は逆に,コロナ前が底で,コロナ期に増加へ向かっている.
  • 小売業 (I-2 4列目真ん中) は,コロナ禍前は横ばい,コロナ禍で急減したのち回復中,という様子.
  • 意外と減っていたのは金融・保険業(J, 2列目真ん中)である.
  • セクター間の労働移動でショックを吸収している動きもありそう.だがこのデータではシリアスな分析はできない気がする.
  • 女性雇用の約3割を占める医療・福祉 (P 3列目右) は,コロナ禍前は減少,コロナ期に増加,という動きになっている.産業計 (TL 左上) でコロナ期に減っている分は,医療・福祉以外での減少が積み重なったものになろう.
こうしたセクター間の異質性は,男性と女性で異なる.
次の図は男性についてセクター別にプロットしたものだ.
沖縄の男性の労働者数, 産業別 (本月末).

  • 女性と違って,金融・保険業 (J) や小売業 (I2),サービス業(他に分類されないもの) (R) は増加傾向に見える.
  • 女性と違って,建設業 (D) はコロナ禍前は減少ぎみだったが,コロナ期には増加しているように見える.他で失職した男性が流れてくるような,という一種のセーフティネット産業になっているかもしれない.
なお,労働時間やマンアワーを見ると,男女差はあまり見えなくなる.
沖縄のマンアワー, 男女別, 調査産業計.
  • どこかで変なことが起こっているような…? あまり額面通りに受け取れない.


次の図はパートタイム労働者比率である.男女ともコロナ期に低下している.男女問わず,非正規雇用が不況の調整弁になっていたように見える.
沖縄のパートタイム労働者比率, 男女別. 調査産業計.


3. まとめ的な話

丁寧な統計的分析を行ったわけではないが,目で追える範囲では,She-cessionの顕著な証拠はなく,あるともないとも判断できない.データによって異なり,労働力調査だとなし,毎勤だとありそう,という感じ.
Shecessionというよりは,男性の自営業や,男女問わず非正規雇用が悲惨な目に遭っているように感じる.
また,女性といっても,産業によって動向は様々である.

結局わかんない,という結論ならこの記事はなんだったんだ…と思われるかもしれないが,冒頭に書いたようにこれは「没ネタ」なのである (すみません).
今回わかったのは(前から知ってたが),県が集めているデータではたいしたことはわからないということである.

もちろん,就業者数が思いの外男性以上に減ってないからといって,女性が楽だ,といったことを言いたいわけではないので注意してほしい.同じ離職でも,セーフティネットからこぼれ落ちてがちなシングルマザーは男性よりも苦境に陥りやすい,といったことは考えられる.

コロナ禍で離職ショックが起こったら,それに続き労使の交渉力が変わり,賃金にも影響しそうな予感はする.が面倒なので賃金については今回はスルーで.


かれこれ1年半コロナ禍を耐え生き延びた飲食店は,かえって地元の常連客の信頼が厚い,おいしい優良店というシグナルになるような気がしている(金策だけうまいゾンビ企業かもしれないが).ワクチン接種が進むまでもう少しがんばってほしい.

Friday, March 19, 2021

『沖縄経済と業界発展 ー歴史と展望ー』

 沖縄の経済・経営史をまとめた本の1章を担当しました.どうぞご笑覧ください.

1950倶楽部編, 大城肇・與那原建・山内昌斗・大城淳 (2021) 『沖縄経済と業界発展ー歴史と展望ー』光文堂コミュニケーションズ

さっそく新聞でも紹介いただきました.

沖縄タイムス「県経済の歴史 「一冊」に凝縮 1950倶楽部 20日から発売」 2021年3月16日

琉球新報「沖縄の新社会人と就活生に必携の1冊 「1950倶楽部」が新刊を発行」2021年3月18日

 

概要

経済学者2名と経営学者2名が沖縄の過去を振り返る内容です.沖縄の企業がどこから生まれてどこへ行くのか,歴史的な展望を描きます.高校生や大学生向けの,非テクニカルな文章です.新聞2紙による歴史コラムも各所にあります.

この本は1950年創業の企業が集まった「1950倶楽部」の70周年記念として企画されました.ちなみに書籍の売上は全額寄付されるようで,私に印税は入りません.

 

執筆の経緯

弊学で担当している講義「沖縄経済論」の内容をどこかにアウトプットしておきたいと思っていたところに,執筆のお誘いをいただきました.

私は歴史能力検定1級日本史を持っている程度には歴史好きなのですが (高校生の頃は経済史の研究者になるつもりでした),経済史の研究者としてトレーニングしてきたわけではなく,アマチュアです.それでも,講義を通じていろいろ調べて考えたことは,英文査読誌でなくとも何らかの形にしておいたほうがよいだろうということで,恥を忍んで執筆することにしました.

当初は本の後ろの方にこっそり1章おまけで載せるようなつもりで引き受けましたが,いつの間にか第1章になってしまいました.


私の担当箇所

私は,個々の企業の歴史には触れず,よりマクロ的な視点から沖縄経済の歩みをたどっています. (本書自体は,個々の企業史をまとめた第2章が一番のウリです.)

淡々と歴史的事実を並べるというより,現代の経済学者 (の駆け出し) がどういった視点でものを見ているのかを伝えるような文章にしています.たとえば,逆因果や欠落変数バイアスをネチネチと潰していくところや,比較対象に目配りすること,インセンティブや人的資本に注目して説明しようとするところなどです.

当初は講義ノートと論文の間ぐらいの堅い,大部な原稿でしたが,編集を経てアカデミックな作法や厳密さを控えめにし,一般向けに寄せていきました.参考文献や脚註や専門用語をがっつり削ってあるため,読者によっては歯がゆいかもしれません.他方,余談もほぼすべて削ったので,本を読み慣れていない人にはまだ堅苦しいかもしれません.

経済学の理論を解説して沖縄での事例を紹介する,といった大学の講義っぽい構成 (たとえば横山『日本史で学ぶ経済学』みたいな) にしたかったのですが,時間と私の能力の都合で,だらだらとした編年体風の構成になってしまいました.次回作で構成を改善したいと思いますが30年後ぐらいになるかもしれません.

執筆していたのは去年の春頃で,感染症のせいで図書館も古書店もなかなか利用できず,いろいろ不自由しました.目を通したいものが増えるばかりで,積むことすらできていない積ん読が進みました.

 

私の章の内容

(1) 戦後のRGDPを見ると成長率のパスは驚くほど本土と似ている.この観察から,今貧しい最大の理由は,初期値の違い,ラフに言い換えれば歴史の違い,と言える.

(2) 琉球王国の中継貿易の様子を記述する.当時の貿易は沖縄県民を広く潤し育てるようなinclusiveなものではなかったのではという問題提起をする.

(3) 薩摩侵入後は,財政赤字に苦しむ,マルサスの罠に陥る,と散々である.士族 (血縁重視) と農民 (地縁重視) で,日本風なものと中国風なものとが混在するようになる.

(4) 明治維新後は,旧慣温存により日本式の近代化が遅れる.旧慣の善し悪しは論争があり,初期値の違いの一因と考えられるが,他方で平和的に制度移行をするための必要経費という側面もあったと考えられる.

(5) 戦後はアメリカの傘下で,基地依存輸入経済として復興を果たす.B円や米ドルを使った固定相場制を経験する.アメリカはシーツ善政のように,日中よりも沖縄を発展させる努力を払ったように見える部分もある.しかし復帰後・冷戦終結後も米軍基地の多くは残ったままで,政治的な軋轢を生んでいる.

なお,元ネタになった講義の資料は公開しています.

 

 既存の沖縄の歴史研究は他の日本経済史と似て,マルクス主義ならではの議論・問題意識が多く見られます.植民地は黒字か赤字か (西里・安良城論争) なんてボルシェヴィキかよ…みたいな.マル経だからだめだというわけではありませんが,私のような近代経済学の人が歴史を整理し直すのも新鮮で有用かと思います.

個人的には(1)がもっとも重要な指摘だと思っていて,initial valueをコントロールするのとしないのとで大きく違う,fixed effectの中身はそう簡単にわからない (外生的な変動に注目する必要),といった統計的事実を理解しないと,やすやすと偏見と短慮にまみれた感想文レベルの俺様沖縄経済論に陥ってしまうだろうと思います.沖縄の貧困は○の問題…みたいな血液型占いレベルの俗論が流行るぐらいですし.

ページ数と私の能力の都合で近現代が手薄になっていますが,そこは今後の課題にしたいと思います.とくに,米軍基地については私の定見のなさ・ノンポリさが目立つ気がします.すみません (私の文章を早合点した人に,基地賛成だの反対だの,政治的ななにかに利用されることは本意ではありません).その他論じたりない部分も多く残っていますがご容赦ください.

 

参考文献

岩波新書ほどではないですが,参考文献はかなり削りました.すべてではないですが,削ったもののうち影響されたものをここに載せておきます.

  • Galor, Oded, Omer Moav, and Dietrich Vollrath (2009) Inequality in landownership, the emergence of human-capital promoting institutions, and the great divergence. The Review of Economic Studies 76: 812 143̶179. 
    • 農民をエリートが搾取しているような社会では,エリートには人的資本を広く普及させるインセンティブが乏しい.これはわりと沖縄が明治維新後に工業化に遅れた理由としてしっくりくる説明な気がする.
  • 小野塚 知二 (2018) 『経済史 -- いまを知り,未来を生きるために』有斐閣
    • 評判がいいのでよく知らずに買ってみたらマル経でびっくりした.勉強不足で近経しか知らないので,マル経ベースの先行研究を読んでいく上で役立った.
  • 来間泰男 (2014) 『琉球王国の成⽴ 下: ⽇本の中世後期と琉球中世前期』⽇本経済評論社
    • 琉球王国は国というより商社,という発見はこの本で得た.
  • 高良倉吉ほか (2017) 『沖縄問題: リアリズムの視点から』中央公論新社
    • 本書執筆中に参照することはほぼなかったが,変な本が多い沖縄経済論壇では数少ないまともっぽい本 (ポジショントークは割り引く必要があるが).
    • 高良本は,「辺境性」がハンディ (自立経済構築の阻害要因) になっている,という地理ビューを持っている.
    • 私の場合,沖縄の地理的優位性についても言及してとリクエストがあり,最後に(ようやく自分の専門分野の)地理の話を付け加えた.私の考え方は,(1) Acemoglu-Robinsonみたいに,地理そのものは交絡がありすぎて経済成長への影響はわかりにくく,また一番大事な要因とは考えにくい,(2) 集積によるイノベーション促進は経済成長のエンジンになるはず(Kuznets, Bairochほかあまたの都市経済学) (だがFay-Opalなど成長なき都市化もあるかもしれない),(3) 重力モデルみたいに,貿易フローや賃金にも直接間接に影響する (文中では,Redding-Venablesを想定した説明をしている),といったものである.「地理的優位性」は市場ポテンシャルみたいに定量化できるとは思っているけど(実際計算したことはないものの),「辺境性」という固定効果でのお気持ち表明を試みているわけではない.
  •  武田晴人 (2019) 『日本経済史』有斐閣
    • 秩禄処分のくだりは,沖縄の旧士族層の解体周りの記述に役立った.
  • 真栄平房昭 (2003) 「琉球貿易の構造と流通ネットワーク」 豊⾒⼭和⾏ (編) (2003) 『⽇本の時代史18: 琉球・沖縄市の世界』吉川弘⽂館
    • 国際貿易にはエージェンシー問題がある,とアブナー・グライフやらの議論が先取りされていた.
  • 與那覇潤 (2011) 『中国化する⽇本: ⽇中「⽂明の衝突」⼀千年史』⽂藝春秋
    • 執筆当初は,この本のような中国化・日本化の視点で沖縄経済史を整理し直そうと考えていた.があまり真似しようとしても真似できず,中途半端なオマージュになってしまった.歴史系の先行研究は緻密な実証が主で,本書のような大きな話はなかなか語られてこず,適切な参考文献がなかった.
    • 私と同じような本を読んでいても,私よりずっと本質を読み取っていて,読解力の差を思い知らされる本.
  • 有間しのぶ 『その女、ジルバ』小学館
    • 校了後に読んだマンガ.執筆前に読めばよかったと思った.
    • 沖縄移民史については学術論文をいくつか読んだことがあったけど,移民についての知識と想像力がまだ足りておらず,しょーもない記述になってしまったのではと思わされた.
    • 以下ネタバレあり.このマンガは移民以外の部分も,学術的なバックグラウンドがあるようで (おそらく社会学) おもしろかった.主人公の同僚3人の描かれ方は印象的だ.3人とも会社・家族・近隣コミュニティといった中間集団からこぼれ落ちた存在であったが,1人は円満に結婚を決め (→家族),1人は地元に帰り (→近隣),伝統的なコミュニティに再び埋め込まれることになる.一方で残された主人公は(フォーマルな)会社とは決別し,非定型的な居場所と使命を見いだすことになる.社会学でいう後期近代?高齢化・未婚化・晩婚化が進む現代日本らしいテーマ.

 

謝辞

編集の意向で謝辞も本文から削りましたが,本章を執筆するにあたり,金城敬太氏に多くのコメント・示唆いただきました.ここに謝意を表します.講義でコメントや質問をいただいた学生たちにも感謝します.また,執筆の機会をいただき,上間優氏ら1950倶楽部のみなさまには深く感謝いたします.

もとより,私の文章は個人的見解であって,1950倶楽部各社とは無関係です.

Wednesday, March 10, 2021

新型コロナをめぐる雑感5

 1月に東洋経済のダッシュボード(のGitHubリポジトリ)が更新停止したようなので,自分で沖縄の実効再生産数を計算するようにしている.といっても逆計算もMCMCもせず,事実上週次の変化率を見ているにすぎないのだが.

特にオチはないが,足下での感染状況を記録しておく.

1. 感染者数が減っても宣言を続行していた

沖縄県の新規感染者数とその7日移動平均. 3月9日分まで.

2度の緊急事態宣言(赤いところ)を比較すると,2度目は感染者数が低い状態でも宣言をしばらく解除せずにいたことがわかる(実際2月28日まで3週間延長した).

延長の理由は医療提供体制の逼迫が挙げられていたが,春の観光シーズンが来る前に感染ゼロを目指していたような予感はする.

 

2. Rtは宣言延長中にリバウンド

しかし,緊急事態宣言の延長期間中には実効再生産数はリバウンドを始め,いまや1を再び超えるようになっている.

沖縄県の実効再生産数 (報告日ベースの簡易版).3月9日分まで.
多くの人が免疫を持たない状況では,油断すると指数関数的に拡大してしまうことは今までと変わらない.梅雨時期には再び1日100人を超える新規感染者数となり慌てることになるのかもしれない.ワクチンも医療体制も算術級数的にしか増えないので.

 

3. 移動は宣言中の2月から増加トレンドへ

Appleの移動傾向レポートで沖縄のモビリティを確認すると,2月に入った頃から交通モードを問わず上昇傾向にある.

沖縄県の移動傾向指数.20年1月13=100.

県と那覇市とで大きな差はないがついでなので那覇市の分もプロットする.

那覇市の移動傾向指数.20年1月13=100.

2月上旬に緊急事態宣言が延長される方向であることが報道されていたが,だいたいその頃から県民は徐々に緊急事態宣言に従わなくなったのかもしれない.2週間ほど遅れて実効再生産数のリバウンドがやってきて,解除した今足下で微増が続いている,と理解できそうである.

緊急事態宣言を再延長するらしい東京では,沖縄と同じく2月上旬頃に上昇したものの,2月後半から3月まで横ばい,という印象.

特別区の移動傾向指数.20年1月13=100.

東京に比べて沖縄は宣言を遵守しない傾向があるのだろうか? (単に規範意識が低いと言いたいわけではないのであしからず)


4. 出口戦略

  藤井・仲田が指摘していてなるほどと思ったが,緊急事態宣言の解除は,金融政策の出口戦略と似た要素を持っていると思った.

金融政策と少し違うのは,宣言に強い拘束力がなく長期間持続可能でないことや,政策反応関数がよくわからないこと(や首長たちが期待形成を意識したコミュニケーション政策に長けていないこと)だろうか.

新型コロナウイルス感染症の場合,エージェントは近い将来すら見通しが立たない,という不確実性の高い状況である.緊急事態宣言の実施期間も感染動向も予見しにくい.簡単ではないにせよ,ショックの打撃を和らげるために,こうした不確実性を払拭できるよう努力できないだろうか.