講義メモの続き.
3. 都市の定義
「都市」が市町村のような行政区分と一致する保証はない.「市町村」は国際比較可能な単位でもなく,国・地域によってサイズや統治機構はさまざま.都市雇用圏など適当な定義で画定していく必要がある.都市雇用圏はCBSAのように国際比較可能な単位であることがうれしい.
理論上は,労働市場や非貿易財の市場が清算される範囲,を都市とみなすと自然だと考えられる.同じ都市の中で需給が一致する.名護市民が那覇で野菜買わないみたいな話で,日々の消費生活は都市の中で完結する.土地市場も,労働市場が完結する範囲で閉じると推察される.そういうわけで都市雇用圏や通勤圏は,通勤フローを使って郊外を特定し,一つの都市圏とみなす.
- 市場が単一・統合されているかの視点から都市を定義することもできるかもしれない.グローバル化・市場統合を地域間価格差から分析するような話 (Williamson & O'Rourkeなど) もあるし,通勤や貿易のフローではなく価格の情報を使って都市を画定してみたい気持ちを昔から持っている.
- 国と地域の違いは,人口移動のしやすさ (国際経済だとRicardo-HOなど人口移動や資本移動がないモデルが標準),という解釈が一般的だと思う.価格でなく人流で定義すること自体が問題だとは思わない.
DIDは,密度,隣接,総人口の3条件で検出する.密度を見るのは農村や山林を落としたいため,隣接や総人口を見るのはゲーテッド・コミュニティやマンションなど局所的な高密度を落としたいため,と考えられる(はず).
金武町金武は密度4400人/km2, 人口5300人でDIDの条件をギリギリ満たしている例になる.ついでに金武町は2015年にはうるま市の郊外として沖縄市都市雇用圏に加わるなど,変化が見られる場所である.
都市雇用圏では満足できないので独自の定義・アルゴリズム・データで画定していくような研究 (足立ほか,Fujishima et al.) も紹介した.
都市の定義を考えることで,「東京」って何だろう,という引っかかりができるとよい.シンガポール(や香港)のような都市国家は周辺も含めて都市なのでは,という応用例も.
Reference
Adachi, Daisuke, et al. "Commuting zones in Japan." Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI) (2020).
Fujishima, Shota, et al. "The size distribution of ‘cities’ delineated with a network theory‐based method and mobile phone GPS data." International Journal of Economic Theory 16.1 (2020): 38-50.
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