Sunday, December 13, 2015

国際経済学II, 第11回, 2015

教えるためにモダンな国際マクロを少しずつ独習しているが,様々なエージェントのBSが為替リスクにさらされているという事実をちゃんと考えることが大切なのだと感じる.

講義内容

  • 金利平価(カバー無し)
    • 金利差を利用して裁定取引できないように為替レートの動きが決まる.
    • 現実には裁定取引をするにはリスクが伴うし,そのリスクを許容できる能力にも限りがある.金利平価が厳密に成り立つわけではない.
コメントより
  • 「$i^*$が上がったときなぜ左辺の$i$も高くなるのかわからなかった」 
    • いえ,左辺$i$ (と$e'$) は動かないものとして考えてください.左辺を動かさずに等号を成り立たせるためには,右辺も変化しない必要があります.$1+i^*$が上がったときに同じ割合で$e$が上がれば右辺はトータルでみて変化せずに済みますね.
  • 「外国で運用する場合,金利だけでなく為替についても考える必要がある」 
    • 某同僚氏は為替リスクをヘッジせず外貨建て預金を持っていて大変なことになっていたそうです…
  • 「計算方法はわかったが少し難しかった.外国と裁定取引することが難しいこともわかった」
    • 難しいことをしなければ儲けることは難しいと思います.
  • 「計算は難しいがなんとなくメカニズムはわかった気がする」
    • 数式を頭に丸暗記するより,メカニズムを理解することのほうが大切です.
  • 「難しかったけどちゃんと理解できたのでよかった」「理解できた」
    • よかったです.
  • 「先生はどんな会社の株を持っているの?」
    • ラーメンのスープと同じく投資戦略はヒミツにするのがお約束ですが,特定の企業に執着しないようにはしています.
    • アカデミックな定石を知るには,バートン・マルキール (2011) 『ウォール街のランダム・ウォーカー (10th)』日本経済新聞出版社,が読みやすくておすすめです.


Thursday, December 10, 2015

経済政策II, 第9-11回, 2015

中間試験お疲れさまでした.得点分布は以下の通りです.

  • 71人受験, 平均80.18, 中央値81, 標準偏差17.6, となります.まぁまぁよかったのではないでしょうか.
  • 沖縄の経済成長について自由な論述を出しました.内容の出来不出来は問わずボーナス点を加える形にしていますが,めだった解答について思ったことを適当に述べます:
    • 「県内では内地企業ばっかりで沖縄に所得が残らない」
      • アネクドートとしてこうしたマル経タイプの議論が流布していますが,経済学的には論点設定の筋が悪いように感じます.プリミティブな原因を尋ねているのに,観察される実態を答えている,という点で適切な応答になっていません.(学生にそこまで求めていませんが.)
      • もし資本が流入しなければ賃金や就業はどうなっていたか,外資のテクノロジーをまねるチャンスになるのではないか,内地企業には県民を育てる誘因があるのではないか,交渉力が低い原因は何か,資本の所有権を持っていない理由は何か,などを子細に検討しないと功罪を問えないのでは.
    • 「基地があり土地が狭い.」「土地が広ければ農業が拡大して成長できるのでは」
      • 経済成長に関する研究で,土地の広さそのものこそが大事,という結論のものはきわめて少ないのではないでしょうか.基地の賛成・反対といった政治的思想・信条の議論は保留して,土地が広くなれば発展する,というのはロジックとしてはかなり弱いと思います.土地が広くなったら我々の知性や技術が高まるんですか? (人口密度や不動産価格や土地の所有権の分配が大事,という議論ならまだ理解する余地がありますが.)
      • 那覇市内の渋滞が深刻なのも土地が狭いと感じる一端かもしれません.ただ,渋滞は政策(交通・都市計画)の失敗ではないかとも思います.
      • 農業が発展しなければ成長できない,というのはろくに貯蓄していない未開の後進国などでは当てはまりそうですが,沖縄でも果たしてそう言えるのでしょうか?
    • 「やる気のある優秀な人が県外に出て行く」
      • スキルある人の活躍の場が乏しい,というのは私も憂慮するところであります.それと同時に,そういう人は出て行った方が本人のためにも社会のためにもなると思います.
        • 沖縄の場合unskilled laborの供給が多く,unskilled-biased technological changeが進んでいる,それがさらに技能蓄積を阻害しておりbrain drainも進行中,という印象があります.どこかでvicious cycleを断ち切らねばならないと思います.
    • 「輸送費用が高いのでハブを推進すればよい」
      • 日本は落ち目,という気持ちを持って東アジアの地図を眺めると,ハブというかただの辺境にしか見えないんですけどねぇ.
    • 「政府に頼りすぎ」
      • 政府が効果的にお金を使ってくれればよいのに,と思います.
ちなみに,個人的な直感では,教育と金融が二大ボトルネックだと思っています.突き詰めて科学的に検証したわけではないのであくまでも直感ですが.



講義内容
  • 45度線分析
    • 短期的には,総需要がGDPを決める.
    • 現実経済を簡単な方程式を使った数学的システムに還元し,それを分析する,というのが経済学で広く行われるアプローチである.
  • 労働市場の指標
    • 完全失業率や労働力率の定義を正確に押さえよう.
    • 完全失業率は「完全」な指標というわけではなく,数字から漏れる人々の姿にも想像を巡らせたい.
    • M字カーブの変化は,多様な働き方が広まって女性が働きやすくなっているという事実を反映している.
      • 家電の発展が女性の労働参加を促した,ということについてはGreenwood, Seshadri, and Yorukoglu (2005) "Engines of Liberation"などの議論がある.

コメントより
  • 「乗数効果が失敗した事例などはないか?」
    • 90年代前半,バブル崩壊後の日本はどうでしょうか.不良債権処理など金融市場の機能不全に優先して対処すべきところ,ケインズ的な財政政策ばかりが先行し,財政赤字を積み残し生産性成長を低迷させた,という議論もあります.
      • たとえば福田慎一 (2015) 『「失われた20年」を超えて』NTT出版,に丁寧かつ平易にまとめられています.
  • 「乗数効果は短期的な解決しかしていないのか? 増えた所得を使ってしまうとまた失業者に戻ってしまうのでは? 長期的解決策はないのか?」
    • とてもよい洞察です,感動しました.
    • ここのモデルは,ある時点のGDPの水準をその時点だけ引き上げる,と言っているだけで,来年以降どうなるかについては何の説明もありません.もう少し洗練されたプロ向けのモデルでも,長期的なトレンドを伸ばすかどうかという議論とは断絶があります.
    • 長期的にどうすれば,というのは経済成長論の議論になりまして,少し分野が違います.ワイル(2010)『経済成長』桐原書店,や,ジョーンズ (1999) 『経済成長理論入門 : 新古典派から内生的成長理論へ』日本経済新聞社,その他マクロ経済学の教科書にあたるよいでしょう.
    • 技術や知識を積み重ねていくことや資源を無駄なく使うことが長期的な成長につながる,というのが一般的理解ですが,そのためにどうすればという手段については様々な考え方があります.市場メカニズムを利用しつつ,素朴な市場メカニズムではうまくいかない部分は政府が補完しつつ,というのが現代経済学における典型的な発想だと思います.
  • 「政府が1兆円増やしても,自分たちも1兆円分増えるという意味か?」
    • 分配面がどうなるかはこのモデルからはわかりません.経済全体で集計して見れば,自分たちの所得も1兆円分増えます.
  • 「一次方程式が出てきて難しいなと思った.財政政策も難しかった」「連立方程式で少しつまづいた」「よく理解できた」「難しかったがなんとなく理解できたと思う.だが忘れてしまいそう」
    • 数学はサボるとすぐ忘れますね.中学高校時代の記憶がある若いうちに,数式込みの一歩進んだ経済学に触れておいてほしいと思います.
  • 「産休中だと非労働力人口? メルカリやユーチューバーは労働力人口?」
    • 講義では紹介していませんがよく気づきましたね.
    • 仕事自体は辞めずに出産や育児で一時休む場合は,「休業者」扱いになります.休業者は労働力人口(就業者の一部)としてカウントします.
    • ユーチューバーなども,一定以上稼いでいる場合は確定申告が必要で,働いているものと見なされるのではないでしょうか.ただ実際に統計データを集める時点では,うやむやになってしまいがちな予感はします.統計データには反映されないような,インフォーマルでアンダーグラウンドな世界があることには数字を見る上で注意が必要ですね.
  • 「完全失業者の条件「やる気」はどうやって調べるの?」
    • 自己申告になります.就活をしている,あるいはその結果待ち, という状況かどうかを尋ねます.ぼんやり就職したいなーと夢見ているだけではダメで,ハローワークに申し込んだとか,求人サイト経由で応募したとか,実際に行動した事実があるかどうかがポイントとなります.
  • 「就活はしていて仕事はあるが,企業側に断られた場合,この人は完全失業者? 仕事があるので完全失業者とは言えないと思った」
    • 講義で言う「仕事がある」とは,職業に就いている,という意味です.求人がある,という意味では使っていません.あいまいな表現ですみません.求人自体は失業者でも労働者でもありません.
    • 就活中で断られて未だに就職できていない人,は典型的な完全失業者になります.
    • 定義に照らし合わせながら,条件を満たすか考える,という思考実験は大切で,よいコメントだと思いました.
  • 「なぜ沖縄の失業者は多く全国は多いのか?このグラフから経済の関係はあるのか?」
    • 失業とマクロ経済政策はかなり密接です.これは今後の講義で出てきます.
    • 沖縄の失業率が高い理由はいろいろありそうですし大切な疑問だと思います.仕事の機会や情報にアクセスしづらい,他府県に移住するコストが高い,などもありますし,生産性が低く沖縄で操業しても儲からないので企業がおらず労働需要が少ない,という見方もできるかもしれません.複雑骨折みたいなものですね.
  • 「完全失業者とそうでない人の区別がわかった」「景気分析の要素の一つだと捉えた」「データが多くあってわかりやすかった」
    • データは自分の勝手な思い込みから自由になる手がかりとなるでしょう.
  • 「自分探しを早めに終え,早めの就職を心がけようと思う」
    • そうだね. 
  • 「男性は結婚が遅くてもいいと思う」
    • そうだね(涙)

Monday, December 7, 2015

国際経済学II, 第8-10回, 2015

やっと中間試験の採点が終わりました.得点分布は以下の通り.

  • 98人受験して,平均72.4, 中央値74, 標準偏差16.7, であった.
  • 満点が2人.すばらしい.
 悪くはないけど,ちょっと油断しすぎですね.せめてGDPや国際収支の恒等関係ぐらい覚えましょう.手応えなかった人は期末で挽回してください.

カンニング濃厚な答案が少なくとも2組(4人)見つかりましたが,普通に採点しても全員60点未満だったのでそのまま滅びるといいと思います.



講義ノート作成が追いつかない…

講義内容
  • 為替制度の歴史
    • 金本位制→ブレトン・ウッズ→変動為替相場制,という流れは最低限押さえておきたい.
    • ヨーロッパはハイレベルな統合に向かっている.通貨も一部を除き共通化.
      • EECをECCと間違って板書したかも? レジュメが正しいです.
  • 購買力平価
    • 為替レートは一物一価の法則が成立するような水準に落ち着くはず.だが,短期的にはあまり成り立たない.

コメントより
  • 「歴史でおすすめの本はある?」
    • ジャンルにもよります.経済史だと,猪木武徳 (2009) 『戦後世界経済史: 自由と平等の視点から』中央公論, あるいは,ジャレド・ダイアモンド (2000) 『銃・病原菌・鉄』草思社, アブナー・グライフ (2009) 『比較歴史制度分析』NTT出版,です.難解ですが(数式こそ出てこないですけど),最近亡くなったノーベル賞受賞者のダグラス・ノース (1994) 『制度・制度変化・経済成果』晃洋書房,あたりも.
    • 経済学から離れると,いろいろありますが以下の通りです.
      • 日本史:
        • 網野善彦の一連の著作,
        • 東京大学史料編纂所(2014) 『日本史の森をゆく: 史料が語るとっておきの42話』中央公論新社,
        • 服部英雄 (2014) 『蒙古襲来』山川出版社,
      • 西洋史:
        • 近藤和彦 (2014) 『民のモラル: ホーガースと18世紀イギリス』筑摩書房,
        • 角山栄 (1980) 『茶の世界史: 緑茶の文化と紅茶の社会』中央公論新社
        • 森田安一 (1998) 『スイス・ベネルクス史』山川出版社
      • 東洋史:
        • 歴史小説の部類に入りそうですが,三国志や史記列伝は教養として押さえておくとよいと思います.たくさんありますが誰が書いたものでもよいです.
  • 「固定相場の時代があったとは知らなかった」「世界の仕組みが第二次世界大戦以降に作られたものであることがわかった」
    • 固定相場ってのはこれまた不思議な制度なんですよね.
    • ブレトン・ウッズ会議はまだ戦時中(44年) ですけどね.
  • 「とてもよい知識となった」「歴史を学べた」「EMSやECははじめて聞くことで勉強になった」
    • よかったですね.
  • 「なぜイギリスはユーロを使用していないのだろう」「固定相場のメリットはあるのか」
    • 最適通貨圏の議論はレジュメ6で学びます.他のユーロ圏とは景気の動きが少し異なるようで.イギリスと一口に言っても,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドといった異質な地域を含んでいることもあるかもしれません.
  • 「金本位制の頃のレートはどう決めたのか気になった.なんとなくで決めると,物価の違いで貿易などがおかしくなりそうなので」
    • とてもいい線を突いたコメントです.レートは法律で定めてしまうので,政治家・官僚が決めていたわけですが,こうして決まるレートが市場で決まるレートと一致するとは限りません.貿易(経常収支)や物価・マネーストックを通じておかしくなるわけですが,このあたりのロジックを適当な経済モデル(マンデル・フレミング・モデルなど)抜きに説明するのは私には難しそうです.
  • 「大恐慌とリーマンショックは何が違うのか?」
    • 専門外なのでよくわかりませんが,原因も帰結も市場環境(特に金融市場と労働市場)も大きく異なるのではないでしょうか.
  • 「スーツ似合ってる!」
    • 普段もですよ!
  • 「スーパーとコンビニでは,同じ物を売っているけど値段が違うので,一物一価の法則が成り立っていないのではないか」
    • 一物一価が厳密に成り立つ世界というのはあくまでも高度に抽象化された理論上の話だと思っていただければ. 単純な理論にはスキマがあり,そこを埋めるのはとても大切です.よいコメントですね.
    • 同じ商品でも,購入までの所要時間などを加味すると「同じ物」とは言えないかもしれません.スーパーとコンビニの価格差は,輸送費用などによる裁定可能性の限界だけでなく,付随するサービスの違いも反映しているかもしれません.
  • 「基地の中と外とでは物の値段って違いますか?」
    • 売ってるメニュー自体にけっこう差がありますし,競争環境が異なるので比較は簡単ではないですね.私はあまり進入したことがないので実態はわかりません.
    • 購買力平価を愚直に解釈すると,基地の内外で価格差がないような水準に為替レートが決まっているはずです.
  • 「円の過小評価→爆買い,がわかった」
    • 安売りしているわけですな.
  • 「ビッグマックが他国より安いことは初めて知った.地元のマックにも外人が多いので納得した」
    • そうなんですね.
  • 「ビッグマックの例がとてもわかりやすかった」「レートでどれだけの差があるのかも非常に興味深かった」「聞いたことがある言葉の意味を改めて勉強できてよかった」
  • 「アベノミクスが始まり日本はインフレーションになってきていることがわかった.でもそれは日本が好況と言えるのか?」
    • 現段階では日本は期待されたほどインフレにはなっていません.また,好況らしい好況は消費増税前まででした.
  • 「復習しないとごちゃごちゃになってしまいそう」
    • 教科書も読むとよいですよ.

Tuesday, November 24, 2015

経済政策II, 第8回, 2015

連休も何かと忙しく採点にも作問にも着手できない…

講義内容
  • 租税・公債の仕組み
  • リカードの中立命題
    • 公債を発行しても,将来の税負担に備えて我々は貯蓄しなければならない.
  • SNAにおける政府部門
    • 租税はただの所得移転.マクロ的な視点を持たない一般人は,間違った理解をしていることが多い.
コメントより
  • 「公債を発行して今は増税しなくても済むけど,増税したら返すお金や利息が増えて大変では?」
    • 今増税するか,後で増税するか(今は公債発行でしのぐ),の2つの選択肢を比較しています.後で増税する場合は利息が増えて,返済する総額が増えますね.
  • 「公債償還に伴う利払い費は誰に対してか?国民に対して行われると理解している.よって利払い費は日銀を介して国民・銀行に,税収(日銀が得た利益は税収として徴収される)する.したがって,国民,銀行,日銀・政府に分配されると思った.ある意味で利払い費により貨幣供給をうながすか?」
    • コメントが難解ですがいくつか気になった点を整理します.
      • 政府は通常国民に公債を売っていますので,利子を払う相手も基本的には国民です.
      • 国庫の管理は日銀ではなく財務省が行っています.(ただし公債を誰がどれだけ持っているか,という所有権の所在は振替機関である日銀が管理しています.)
      • 日銀が得た資産運用益は国庫納付金として政府に還元します.いわゆるシニョレッジというやつですね.
      • 利息を払うと貨幣供給が増えるか,については一般には違うと思います.1億円分の利息を払うのに1億円分の税金を徴収したら,市場に流通するマネーの変化はプラスマイナス0円ですね.
  • 「公債になるといろんな用語が出てきて難しかったけど勉強になった」
    • 公債って言葉自体がなじみないですからね.
  • 「少子高齢化の中で,高齢者は年金や生活保護をもらい,若者の負担が大きすぎるのではないか.一人っ子政策を行ってきた中国は大変なのでは」「歳出の内訳がわかってよかった」
    • たしかに中国も高齢化に備えねばなりませんね.世代間の人口バランスもさることながら,一人っ子政策は男女比も偏らせているようです(男子が女子よりも多い!).
  • 「どうして増税が必要なのか世の中の仕組みが少しわかってきた」
    • 世代間の負担の分かち合いという視点も大切ですね.
  • 「教室がとても暑く換気もしていなかったのでとてもきつかった.本当に暑いときはクーラーを利用したい」
    • 最高気温が30度あったようです…本当に11月なんでしょうか.

Thursday, November 19, 2015

国際経済学II, 第6-7回, 2015

これまで生きてきて様々な災害や暴挙を見聞きしてきたが,今回はとりわけつらく感じた.音楽やスポーツや食事といった,文化的なものが標的となったせいもある.

理性的な対話が望めない狂信的異常集団,とはどうも思えない.彼らのインセンティブや置かれた環境を理解しないことには何とも語り得ないだろう.そこで慌てて池内恵 (2015) 『イスラーム国の衝撃』文藝春秋,を読んだ.たしかに彼らの計算高さを伺うことができる.(知っておきたかったファクトが一通り簡潔に整理されており,全体的に端正でとてもよい本だった.一般に,テレビやネットでお勉強するよりも,プロの本や論文をひとつ読んだ方がよいと思う.)



締め切りラッシュで忙しいため少し間が空いた.時間の使い方を少し間違えたら詰む予感がするほどピンチではあるが,中間試験前なのでいったん更新.

講義内容
  • 国際収支の実態
    • 経常収支の主な構成要素は貿易・サービス収支.ただ近年は所得収支も大きくなっている.
    • 原油の輸入動向は経常収支の動きに影響を強く持っている.
  • SNAと国際収支
    • 国際収支統計はSNAと整合的にデザインされている.
    • 経常収支の黒字・赤字は国際的なお金の貸し借りの問題であることがうかがえる.
  • 外国為替市場の基本
    • あまたの市場参加者が絶え間なく膨大な取引を繰り広げている.
    • 為替レートは外国通貨の(相対)価格,と考えると混乱しにくいはず.
    • フォーワード取引を使えば,為替変動リスクに対処できる.
    • 資産や負債を外貨建てで保有すると,為替変動リスクにさらされることになる.こうしたリスクは,資産・負債をマッチングさせることでリスクをバランスさせることで回避できる.

 コメントより
  • 「基軸通貨のメリット・デメリットは?」
    • よい質問でした.教室でお答えしたときは,(非ランダム)ネットワークの中心として基軸通貨が存在することとしないことの違いでもって説明しました.質問に答えたことにならなかった気もするので少し補足します.
    • 基軸通貨を持つ国にとってのメリットは,自国の通貨のままで国際取引が可能なことでしょう.為替変動リスクに直面せず済みます.貨幣の取引手段としての役割が強く発揮されます.
      • いわゆる通貨発行益も生じます.講義後にちらっと言った法外な特権(exorbitant privilege)について詳しくは,B. Eichengreen (2012) 『とてつもない特権: 君臨する基軸通貨ドルの不安』をご覧ください.
    • 参考書の橋本・小川・熊本『国際金融論をつかむ』の第7章にも詳細な議論がありますのでご参考に.
      • (私は専門でないので,P. Krugman (1995) "Currencies and Crises"に出てくる整理で理解が止まっています…)
  • 「ドルは基軸通貨で,英語も全国共通語とアメリカが中心に経済が動いていることがわかった」
    • たしかにそうなので英語で発信されている情報を理解できるよう勉強しましょう.
  • 「ヘッジファンドについてもっと知りたい」
    • オーソドックスな金融理論の勉強からしてみては.
  • 「日本にもヘッジファンドは存在するか?」
    • もちろん.ただ実態は私もよく知りません.
  • 「将来活用していけたらいいなと思った」 
    • 県内の企業に就職したとして,輸出入・為替と関わるチャンスはたくさんありますよ.
  • 「為替レートの意味がわかった」「計算は理解できた」
    • いいね!
  • 「為替レートはどのように決まるのか?」
    • それがわかれば苦労しません.が基本的な理論はレジュメ5で学びます.もっと詳しく,という場合は国際金融の教科書を読みましょう.
  • 「円高のときにいろいろ買ったことを爆買いの話で思い出した」
    • 円安になった今は,CDや洋書を買うのがためらわれます.
  • 「近いうちに台湾に行きますがどうですか?」 
    • 4, 5回行ったことがありますがおすすめです.都会も田舎も見所たくさん,コミュニケーションも取りやすく治安も良いです.日中台の国際関係史も勉強してからいきましょう.
  • 「テストでは高い点数をとれるように復習をしていきたい」「テストがんばります」
    • がんばってください.講義内容をマスターしていればなんとかなるような問題を作ります.

Wednesday, November 11, 2015

経済政策II, 第7回, 2015

講義内容
  • 総需要・総供給モデルつづき
    • 政府が財政政策や金融政策を通じて総需要を調整し,景気をコントロールすることを総需要管理政策と呼ぶこともある.
    • 総需要曲線や総供給曲線の傾きによっては,政策効果が期待通りに発揮されないこともある.
    • 成長の基盤となる経済制度を整えることも前提として大切.
    • コストプッシュ中に総需要を増やすとけっこうなインフレになることも.
  • 財政
    • 政府にも予算制約がある.
    • 返せない,あるいは返さない方がまし,となったらデフォルトとなることもある.

コメントより
  • 「なぜ2つのグラフの形はこんなにいびつなのか?そして,このグラフから不況を見抜くのか?」
    • 直線のグラフは直感的にはわかりやすいですが,あくまでも現実を近似したもので,現実そのものではありません.
    • 理論上は,各曲線が垂直になる状況を表現することができます.ただ,こうした理論的基礎はちょっと難しいので講義ではカバーできません.マクロの教科書で理論的な背景を学べば,もう少し経済状況を豊かに想像できるようになると思います.
      • たとえば労働力や資本をフル稼働させていてこれ以上生産するのは容量オーバー,という状況では総供給曲線は垂直だと解釈できます.また,流動性の罠と呼ばれる状況(後半の講義でやります)(+かなりアドホックな仮定をおけば)では物価が動いても総需要は動かず,総需要曲線が垂直な状況を導出できます.
  • 「アベノミクスと言った政策の分析も個人見解という形でも導き出すことのできる要因になるのではないかと思った」
    • 文意がよくわかりませんが,いろいろ分析できる便利な道具ですので身につけておくとよいと思います.
  • 「シンガポールなど現在経済成長中の国は総需要・総供給をうまく使いインフレを起こしているということですよね?」
    • 多くの国では多くの政治家・官僚が総需要・総供給モデル的な考え方を理解しているのではないかと思います.
    • ついでにシンガポールでインフレが起こっているかどうかデータを見てみました(下図).インフレを起こしているというよりは,落ち着いた状態で制御できている,という印象です.
      日本とシンガポールのインフレ率比較. 出典: World Bank, World Bank national accounts data.
  • 「社会主義で経済がうまくいっている国ってあるんですか?」 
    • 日本(笑)
  • 「がんばったら報われる社会の方が人生が充実すると思います」
    • そうですね,若いうちはぜひがんばっていろんなものに挑戦してください.同時に,挑戦したけどあえなく失敗した人にもやさしくできるといいんですね.



経済政策II, 第6回, 2015

講義内容
  • 需要と供給,市場均衡
    • 不明な点は遠慮なく質問してください.
  • 総需要と総供給
    • インフレにも2種類ある.
    • このフレームワークだと,インフレ・デフレはあくまでも結果.より本源的な原因がどこかにある.
      • 「デフレが不況の原因」は,筋の悪い政治的宣伝文句だと感じる.(もちろんzero lower boundの脅威は知られているが…)

コメントより
  • 「シフトはどういうときにわかるのか?」
    • 価格以外の何らかの要因で需要・供給が動いた場合にシフトします. 需要や供給が増えたり減ったりする要因自体は山ほどあり,ケースバイケースで考えていくしかないと思います.
      • プロの場合,消費者や生産者がどういう状況に直面しているかを整理して,どういう制約の下でどういうインセンティブを持って意思決定しているか,定量的にはどうなのか,を考えます.
  • 「調べたみるとキャッチアップインフレもあり,それだけ経済は複雑なのだと思った」 
    • インフレと一口に言っても,様々な要因があります.世の中にはなんでもかんでもインフレ・デフレに還元しようとする人もいますが…
    • 日本のwikipediaは,経済学については偏った記述が多い気がします.
  • 「景気と物価の上下は必ずしも同じ方向にならないとわかった」 「よくわかった」
    • 単純なモデルなりに示唆するものは多いです.
  • 「習ったことがないところにきたのでしっかりと覚えたい」「去年国際経済学でやっていたが忘れていた」
    • 総需要・総供給モデルは初登場ですよ.
  • 「均衡は前期習ったのでもっと応用して」
    • 国際経済学Iではやりましたが経済政策Iではやっておりません…余裕がある方はマンキューでも読んでください.講義スピードが遅いなぁとは思っていますが…
  • 「ディマンド・プルやコスト・プッシュは初めて聞いた」「マクロの本に載っているのかなあ」
    • 政策論争の際にこの手の用語を目にすることがあります.もちろんマクロの教科書にもよく載っていますよ.高度な教科書にはあまり載っていませんが.