Saturday, August 15, 2020

新型コロナをめぐる雑感4

引き続きとりとめもなくデータを眺める.時間のかかる計算をやっていて少し手持ち無沙汰なので.

沖縄はついに警戒レベル4に移行した.7月の第二波が来たばかりのときと,直近では,検査の方策が異なっていることもあり,「新規感染者数」の内訳に変化が見られる.

7月は「夜の町」らしく20代女性の感染者が目立っていたが,8月に入ってから(下の図1の一番上)はそうした極端な傾向が見られなくなった(とはいえ第一波に比べると若年層に多いように見えるが).

図1: 沖縄の新規感染者の年齢構成.男女別.8/14までのデータ.
 

いくつかの小学校で感染があり,10代未満の検査・陽性も増えているようである.

直近では,先月と異なり,中部・北部・離島にも広がっているとのことだ.そこで,都市雇用圏に似た地域区分で区切って,感染者数の地理的分布の時系列変化を見た.

図2: 沖縄の新規感染者数の地理的内訳.8/14までのデータ.

なお,宜野湾は中部保健所管内だと思われるがここでは那覇都市圏(那覇浦添都市圏)に入れた.中城も那覇都市圏だが,「中部保健所管内」に含まれており,ここでは沖縄都市圏に含まれていると思われる.otherwise (図右端の薄緑) は他府県や調査確認中.ここでの離島 (islands) は宮古・八重山のこと.久米島や慶良間などは南部保健所管内なので那覇都市圏に,伊江島などは北部にカウントしている.

 図にしてみると,7月と8月で微妙な変化が見て取れる.

  • 依然として感染の中心は那覇を中心とした南部エリアである (3/4程度).このエリアには沖縄の人口の約6割が住んでいるので,那覇界隈は人口比以上に感染が広がっていることがわかる.
  • 中部(オレンジ色)は第一波に比べるとまだ割合としては少ない方である (15%程度).7月頃は米軍経由の感染拡大が懸念されていたが,中部で脅威的な広がりを見せているわけではない.
  • 8月以降は宮古・八重山(左の青緑)や北部 (ピンク) にも広まっていることがわかる.
  • 7→8月で減ったのは,その他 (右端の薄緑) である.

 

月初Rtが高いと指摘したが,現在東洋経済のダッシュボードによると1.24 (8月13日時点) と,落ち着きを見せている (1以上なのだけど).まぁ足下の数字で一喜一憂するべきではないのだろうが.

Monday, August 10, 2020

Industrial Structure in Urban Accounting

国際学術雑誌への採録が決まりました.私の経歴の中では一番いい憧れのジャーナルなので喜ばしいです.なにかとお世話になった共著者にはここでも深く感謝を述べておきたいと思います.

Jun Oshiro and Yasuhiro Sato, Industrial Structure in Urban Accounting, Regional Science and Urban Economics.
https://doi.org/10.1016/j.regsciurbeco.2020.103576

そういえばレプリケーション用のファイルも送ったはずなんですけどElsevierのページに見当たらないです..

大学院生の頃に企画してからこうして載せるまでかれこれ約8年かかりました.大変.
サクラダファミリア化する前に行き場が決まってよかったです.

この間様々な人にコメントや励ましをいただきました.ありがとうございました.

8年といっても,最初の数年のうちにほとんど内容は固まり,残り数年はひたすら頑健性のチェックをやっていました.
得るものも多かったですけど,消耗の多い長旅だったように感じます.


Main points:
  • We try to sophisticate an urban accounting method in terms of (1) incorporating sectoral variation, (2) external validity (by using Japanese data), (3) internal validity (by correcting computational errors), and (4) understanding what causes the post-war population movement in Japan.
  • We find that `wedge' in local labor markets plays a major role in accounting for the spatial variation in regional population in Japan.
    • Labor wedge can be interpreted in several ways. Instead of interpreting what that represents, we stress which channel explains obs variation.
    • Changes in manufacturing sector seem important.
    • Regional variation in labor market distortion leads to concentration, rather than dispersion, of population.
  • It has an implication for policy making for designing urban system.

Thursday, August 6, 2020

新型コロナをめぐる雑感3

前回ポスト新型コロナをめぐる雑感2の補足.
若年が多い理由の一つに
5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
と言及したが,たしかにこれがけっこう効いているようである. 検査の戦略・検査のキャパシティが第一波と大きく異なっている.
 なので,今のnew cases = 100人は,かつての100人と意味が違うのである.足下では,まだあわてるような時間じゃない,という感じ.
新規感染者が何人以上でレベル何,みたいな活動制限ガイドラインの閾値は,見直しが必要な気がする.あと,感染症の研究って,門外漢が片手間にやるもんじゃねーなという気がした.

検査の戦略は,多腕バンディット問題で言うところのexploitationを中心にやっていたようである.特に米軍周りを積極的に潰していったようだ.しかしexplorationに手が回らず,那覇の「夜の町」の発見が遅れた,という様子.
町丁目レベルなど高い空間解像度で感染場所を特定し, ベイズ最適化的な疫学調査をすると役に立つかもしれないとは思った.
(後知恵にすぎないが,「夜の町」は予測が不確実な場所というよりは新宿などの例を思えばexploitationしておくべき場所だった気も.)

検査するにしても,全員調べるのは大変だが,グループ検査 (wikipedia) などのアルゴリズムを使えばすばやく異常検知できるかもしれない.数学は,実装できれば,新型コロナ対策にも役立つと思われる.

性別については
なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).
と述べた.しかし,年齢別x性別で見ると,男女差が見える.

年齢構成は男女計だと
沖縄の感染者の年齢構成.8月5日分まで.
一方,男女を分けると,女性は特に20代に集中していることがわかる.男性は20--40代.
男女別.左が男性,右が女性.8月5日分まで.
「夜の町」でのアウトブレイクを反映していると考えられる.

が,男性の20--40代って店員?客?というあたりはあまりよくわからない.20代はホストかなという感じがするけど,30--40代のホストは多くないよね?でも夜の町でお金を落とせるほど稼いでるのかな?…と,実態がイメージできないでいる.




Monday, August 3, 2020

新型コロナをめぐる雑感2

ひとまず生存報告をば.
沖縄では緊急事態宣言が出て,弊学も閉鎖中です.私は今のところ無事ですが,県経済の見通しが悪すぎて胸が痛いです.
感染人数はまだ絶対数では少ないですが,医療機関や保健所はすでにキャパオーバーという感じのようです.



沖縄を襲っているCovid-19のうち,5月頃までのを第一波,7月以降のを第二波として,第二波はそれ以前と性質が異なっている.特に次の三点が気になっている.
  1. Rtが高い.
    • 東洋経済のダッシュボードによると,直近(8月1日時点)でRt=4.1.
    • 4連休・GoToの影響は出るならこれから.これまでの分は,東京などで働けなくなった水商売の人たちが沖縄に持ち込んだ側面が強い模様.
  2. 市中感染している模様.
  3. 若年層の感染が多い.
    • 沖縄のstopcovid19からデータを取得し,年齢の内訳をプロットした.
    • 図の上側("wave02") は下側("wave01")と比べて,00--30代の感染が大幅に増えている.
沖縄の感染者の年齢構成.7月27日分まで.

感染者が若くなったことには,いくつかの説明が考えられる (実態を知らないのでただの思いつき):
  1. 第二波では「夜の町」の中でも若年が集うエリア・店舗でクラスターが発生した.
  2. 第二波では高齢者の防疫対策が進んだ.
  3. 第二波では,第一波で経済苦に陥り,感染リスクを取って働かざるを得なくなった若年が増えた. 
  4. 第二波では,重症化しにくい若年ほど行動変容するインセンティブが弱かった.
  5. 第一波では若年の感染ほど捕捉できていなかった.あるいは第二波では若年を中心に検査している.
若年に広がっているのは沖縄だけでなく全国でもそうなので,米軍からの(パリピ経由での)伝播,対面が避けられない仕事に就く若年低技能労働者が多い,などのように,沖縄固有の要因で説明するのは難しいと思われる.

10代以下の感染は多いが10代の感染はまだ少ないまま,であるのは興味深い.10代の子供がいるシングルマザーは「夜の町」で働けない…というわけではないと思うが.

なお,性別の構成は第一・第二波でほとんど変わらない(男性が多い).

そもそも,人と人との接触ってどうしてもスケールフリーでべきになりそうなものなので,足下の数字の解釈はかなり難しいと感じている.





 あと,第一波と違って,第二波はもういい加減耐えられない企業が急増するのではないだろうか.
観光立県の沖縄では,県内で感染抑制するだけでなく,内地・東アジア・基地内でも感染抑制に成功しない限り,Covid-19に対しては脆弱なままだ.
経済的打撃は目先だけのことでなく,中長期的にも悪化していると思われる.リスクを均すような保険も成立しなさそう….そろそろ廃業ラッシュが来そう.

感染爆発・医療崩壊は(たまにしか)しないけど終息もせずだらだら長期化する,というパスに乗っているような気がする.

ただ,これはこれで持続可能かというと微妙で,遠からず大きな変化(というか不満の爆発)があるような…?




先日ゼミ生と雑談中に,(1) 大学に着いてから手洗い・手指消毒したか,(2) COCOAインストールしたか,(3) 日々検温してるか,聞いてみたところ,ほぼ全員が全部ノーという悲惨な状況であった.そもそもCOCOAは知ってすらいない人が多い.


マスク手洗いなど行動変容でRtをもっと下げ,最悪強めの処置をすれば2ヶ月ぐらいで落ち着きを見せるだろうと思ってはいるが,県は2週間ぽっちでなんとかなると思っているようであった..

政治家は,集団免疫は目指さないとコミットするなど,将来の政策不確実性を減らすようにコミュニケーションしてほしい…



ところで,沖縄の貧困をダシにした,あやしげなオンラインサロン商法みたいな本がベストセラーになっているらしい.読んでないけど.

ちなみに若手のスターBalboniらの最近のペーパー"Why Do People Stay Poor?"は似たような問いに取り組んでいる.
彼女らは(1) obsやunobsによってpoor,(2) poorだからpoor (古典的な貧困の罠),という2つの仮説について,よく設計されたRCTで後者の可能性を検討し,たしかにそうした可能性がある(資産PPP表示USD504が境目)ことを示している.
「心の問題」のようなunobsの一つで貧困を説明できるとするのは無理があるんじゃないすかね.
学問のフロンティアは何周も先を行っている.