Sunday, October 18, 2015

沖縄の安定所別求人倍率: ライカム効果のゆくえ?

折に触れよく聞かれるのが,イオン琉球の大型ショッピングモール沖縄ライカムができた影響だ.3000人ほど新たに労働需要が生まれ,何かいい影響があると県民の多くに期待されているらしい.アンケートだと,人を雇うのも大変になった,とのことである(link: 琉球新報2015年9月26日 「求人難しく」64% ライカム影響飲食店調査).

残念ながら,出店が外生的なものと見なせない以上,その因果効果を評価するのは原理的に困難である.このブログエントリでは,因果推論の困難さはわきまえた上で,地域間のバリエーションを眺めてみたい.(現実逃避をしている.)

地域別に雇用情勢を把握すべく,一般職業紹介状況を使う.安定所別(那覇・沖縄・名護・宮古・八重山の5つ)に数字がわかるからだ.

ライカムが何かしら中部地区の労働市場にエクストラな影響を与えているのであれば,ライカムが着工された2014年2月28日,オープンした2015年4月25日,あたりを目印に沖縄安定所で何らかの特徴的な動きが観察できるはずだ.ただし今回は私のデータ整備能力の都合上,2014年4月以降のみに着目する.

次のグラフは,有効求人倍率の前年同月差の推移である.縦棒が,ライカム開業時期(4月)に対応する.沖縄安定所は赤い太線で,他の安定所は凡例の通りである.
沖縄の有効求人倍率の前年同月差. 出典: 沖縄労働局「一般職業紹介状況」.

  • 開業時期前後で,沖縄安定所で目立った変化は見られない.
  • 着工後,那覇安定所(青線)と比べて目立った成長は見られない.
という2点が見て取れる.ライカムが中部地区で逼迫度を高めた様子はまったく見当たらない.

充足率(= 充足数 / 有効求人数),つまり求人を出したうちどれだけマッチできたか,の前年同月差が次のグラフである:
沖縄の充足率の前年同月差. 出典: 沖縄労働局「一般職業紹介状況」.
  • 開業直前の3月は,沖縄安定所・那覇安定所ともに充足率が急落している.しかし,4月以降は元のトレンドに戻っているように見える.
    • もちろん,変動が大きいためあまり多くのことは言えない.
オープニング・スタッフを中部で集めても足りず,那覇エリアからも急遽雇った,という可能性はある.一方,中南部全体にライカムとは別の一時的なショックが生じた,という可能性もある.充足率で見ても,開業の影響はとても微妙であることがわかる.

まとめると,ライカム開業が沖縄の労働市場に目に見える変化をもたらしてはいないことがわかった.せいぜいオープニング時に雇いにくくなっただけのようである.開業後に持続的な影響を与えているとも考えにくい.センセーショナルな開業で県民のマインドを好転させたのかもしれないが,実体経済への影響は現時点では限定的であるように思う.

ありえる解釈として,ライカムが他企業の雇用をクラウドアウトしたのかもしれない.ちまたの「経済効果」には注意が必要だ.
(私のここまでの考察もまったくシリアスなものではないので,話半分に受け取ってほしい.)

No comments:

Post a Comment