Saturday, June 21, 2014

国際経済学I, 第10回, 2014

講義内容
  • インターンシップに参加すると報われる,という論文の簡単な解説記事(英文).よりフルタイムの仕事に就きやすくなるとのこと.
  • 関税
    • 関税には消費者と生産者の行動を歪めてしまう効果がある.
  • 貿易協定
    • GATT/WTOの多角的交渉から,個別にRTAを結ぶ流れになりつつある.
コメントより
  • 「国際価格が元々高ければ,関税による社会的余剰の減少は少なくなる?」
    • どれだけ社会的余剰が変化するかは,(1) 需要曲線と供給曲線の形状, (2) 国際価格の水準, (3) 関税率, の3つに依存します.
    • 講義で見ているような,傾き一定の需要曲線・供給曲線の場合,社会的余剰が減少する分は国際価格の水準と無関係に決まる気がします.作図して確かめてみましょう.
    • したがって,需要と供給が直線ではなくより一般的な形状をしている場合,社会余剰の変化が大きくなることもあれば小さくなることもありそうですね.
  • 「国際価格って目安だよね? どのようにして決まるの? 先進国の平均?」
    • 分析したい品目や国によります.たとえば衣類品の国際価格を知りたい場合,中国やバングラデシュやスリランカを無視できないかもしれませんね.
    • モデルで出てくる国際価格はあくまでも仮想的な存在で,現実にどうやってそれに対応する価格指数を作ったらよいのかに正解はありませんし思いの外簡単ではありません.現実には輸送に費用がかかりますし,商品は差別化されています.
  • 「関税で,なぜ,誰に,たくさん売れるのか? 」
    • 一物一価の法則が成り立っている(自由貿易)とすれば,国内市場で売買される価格は,いくらで輸入できるか,によって決まります.関税によって輸入できる価格が上がり,国内市場で売買する際の相場が上がります.
    • 供給曲線に注目すると,価格が上がると企業は生産を増やすことがわかります.高くなった分採算が取りやすくなるのです.
    • このモデルの設定では,消費するのは国内消費者しかいません.ので国内消費者に売る分が増えます.現実には商社のような輸入業者を経由して国内消費者の手元に届きます.外国に輸出することはありません.
    • ご質問のポイントは,生産を増やすのはいいけど,それがそのまま売れるようになる理由がよくわからない,ということでしょうか? たしかにそこは痒いところだと思います.
      • 関税を課して新たな均衡に至るまでのプロセスはやや不透明なところもあります(静学的なモデルなので)
      • 仮に生産が均衡水準まで増えていない状態にあった場合,生産者は輸入できる価格よりもちょっとだけ安く販売することで,財を売りさばきかつ利潤を増やすことができます(コスト的に,そうした安売りを行うことが可能な状況です). 国内企業がより高い利潤を求めてこうした安売りをすれば,輸入品を追い出し国内企業の市場シェアを均衡の水準まで高めることが可能です.
      • ここで考える均衡では,供給曲線上で生産・販売がちゃんと行われるものとしています.また,関税を課しても供給曲線自体はまったく動かない,と暗黙に仮定しています.
  • 「そもそもなぜ関税ってできたんですか?」 
    • 歴史をさかのぼってみれば,古代からあったようです.経済学的な議論は,少なくともアダム・スミスの時代から活発になされてきました.
    • 現代だと,所得税や消費税でまともに税収を確保できない発展途上国などで,貴重な財源として用いられているなどの理由もあります.先進国からの輸入で国内の成長産業が破壊されてしまわないように,などという理由もあるようです.
  • 「関税を課した方が社会がよくなると思っていたけど,図にして見えるようになったら社会全体で損失があるのだと知った.現実はこんな単純ではないと思うが政府はもっと経済学を学んだ方がいいと思う」 
    • 目に見えなかったモノが見えるようになると,数理モデルを学んだ甲斐がありますね.
    • たしかに講義で学ぶ単純なモデルでは抜け落ちている要素がたくさんあります.性急な自由貿易推進に疑問を呈する有名経済学者もいます.たとえばスティグリッツ・チャールトン『フェアトレード』など(チャリティ的コーヒーの話ではありません).
    • まともな学術的知見が政策に反映されればいいのにと思うことはあります.
  • 「関税で消費者だけ損をすると,どうなるの?」
    • 消費者の幸せを願い価格メカニズムに重きを置く経済学者が自由化を叫ぶことになります.
  • 「RTAで残された国は不利だと感じた」
    • そう政府が認識していれば,RTAが一つできたら連鎖的に別のRTAが結ばれていくかもしれませんね.たとえばBaldwin and Jaimovich (2012).
  • 「WTOはみんなで会議するんだ」
    • 加盟国だけでなく,非加盟国や様々な国際機関も集まります.「WTO round meeting」などというキーワードで画像検索してみると視覚的イメージが掴めるかもしれません.
  • 「グラフから損失分が分かってすごくおもしろい」 「この講義はためになるしやりがいがある」
    • ありがとうございます.
  • 「グラフがごちゃごちゃして難しかった」
    • たしかにかなりややこしくなってきましたね.たいていの国際貿易の教科書に載っている話ですので,適当な参考図書で補完してください.レジュメに沿って焦らず順序よく考えていけば理解できるはずです.

参考文献
  • Richard Baldwin and Dany Jaimovich (2012) Are Free Trade Agreements contagious?, Journal of International Economics 88, 1--16.
  • Nils Saniter and Thomas Siedler (2014) Door Opener or Waste of Time? The Effects of Student Internships on Labor Market Outcomes. IZA Discussion Paper Series no. 8141.
  • Joseph E. Stiglitz and Andrew Charlton (2005) Fair Trade for All: How Trade Can Promote Development, Oxford University Press. (浦田秀次郎・高遠裕子訳『フェアトレード: 格差を生まない経済システム』日本経済新聞出版社, 2007)

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