Monday, November 7, 2016

沖縄の経済, 準備編4: 所得格差

国際学会の大舞台を目前に控え,若干の現実逃避と授業準備を兼ねて少し前に売れていた本,
  • 大久保潤・篠原章 (2015) 『沖縄の不都合な真実』新潮社
をぱらぱらめくっている.経済学に関する記述は飛躍が多くマル経テイストなので読むと何かと不満が溜まる.この手の本を種に沖縄経済論を語るアマチュアたちが論壇を賑わせてもいるようだ.

今回は,読んでいてもやもやした部分から一つレプリケーションをしたよ,というエントリ.沖縄の格差についてデータを確認し,大久保・篠原の記述は不十分であり,沖縄の格差はフローではなくストックが特徴的であることを見ていく.講義で紹介する時間はないのでブログで放出.


所得格差は縮んでいる

沖縄の所得格差に関して,第4章の「日本一の階級社会の実態」という節に以下のような記述がある(電子版で読んでいるためページ数はわからない).
 格差社会の実態を直近の統計から拾ってみましょう。総務省の全国消費実態調査によると、高くなるほど貧富の差があることを示すジニ係数が、沖縄は二〇〇九年度に〇・三三九と全国一です。〇・三三を上回るのは大阪、徳島、長崎、沖縄の四府県だけで、ここ一〇年来最悪です。…[中略]…平均所得は最低レベルなのに地方都市では最も金持ちが多い、すさまじい格差社会です。日本一高い失業率と日本一低い労働分配率が格差の象徴です。
短くまとめると
  • 沖縄はジニ係数で見る所得格差はワースト.
  • 全国消費実態調査が出典.
とのことだ.全国消費実態調査は5年に1度実施される統計で,家計調査と同じく家計の収支を把握するものだが,家計調査よりもサンプルサイズが大きく調査項目も詳しい.沖縄の二人以上世帯の場合n=715である.

折良くつい先月末に全国消費実態調査で最新(2014年)のジニ係数が公表された.私は格差を全国消費実態調査から読み取ろうとすること自体に少し違和感を覚えるが,見るだけ見てみよう.

二人以上世帯について直近15年分の所得のジニ係数の推移をプロットしたのが以下のグラフである.47都道府県+全国を一気にプロットしているのでどれがどれかわかりにくいが,やや太くて赤いものが沖縄,青いものが全国,その他都道府県がその他灰色である.
フローのジニ係数の推移.
  • 従来は大久保・篠原の指摘通り沖縄のジニ係数(赤線)はワーストであった.ところが最新のデータでは,沖縄のジニ係数は全国並に低下している.
  • 二人以上世帯のうち勤労者世帯に絞って見ても同様の傾向である.(水準はまだ高いが)
すなわち,大久保・篠原の言う沖縄の「格差社会」は直近5年間のうちに終止符を打っているように見える.彼らのロジックはもう賞味期限切れのようだ.


資産格差は大きい

所得格差が縮まったとはいえ,私は沖縄は格差社会ではない,と主張したいわけではない.私の認識では,沖縄は所得ではなく富について格差が大きい.これは最新のデータで見ても変わらない.
なお資産格差については大久保・篠原の第5章にも言及があり,私オリジナルの指摘ではもちろんない.

同じく全国消費実態調査には,所得についてだけでなく,資産(3種類)についてのジニ係数もまとめられている.さっそく見てみよう(以下すべて純資産についてのデータ).
貯蓄のジニ係数.

不動産のジニ係数.
耐久消費財のジニ係数.

  • どの資産を見ても,沖縄は資産格差が全国と比べ悪い.貯蓄と住宅については全国ワーストで,貯蓄格差はぶっちぎりである.不動産でのジニ係数は軒並み低下傾向にある全国と違い横ばいである.
  • 所得格差と違い,最新の状況は前回調査時点よりも悪化している.
2009年から2014年の間に所得格差は縮まったけれど富の格差が拡大している状況はどう理解すればよいだろうか.たとえば,次のような説明がありえる.
  1. デモグラフィ
    • 団塊の世代が退職する時期を迎え,高所得層は減ったが資産格差は持続している,という説明はありえる.貯蓄額の格差拡大は退職金が出たとすれば納得だ.
  2. 景気
    • アベノミクス当初は株高になったので,有価証券を保有する層にキャピタル・ゲインが転がり込んできたであろうことが考えられる.
    • いままで失業していたボトムの層が景気拡大に伴って就職でき所得格差は縮まったが,所詮は低賃金の非正規が多く資産格差を縮めるには至らない,のかもしれない.


公務員による支配?について

大久保・篠原第5章では,就業構造基本調査(注: 本文中には労働力調査(厚生労働省)とあるが誤記であろう.同じデータであろうものを用いてもコンマ以下の数字がなぜか合わないが…)も併用して所得分布を見て,高所得層が少なく低所得層が分厚いことを問題にしている.また,公務員の賃金所得を独自に推計し,少数の高所得者を代表するのは公務員だと主張している.

公務員は民間に比べて大卒が多い(2010年国勢調査だと,就業者に占める大卒以上シェアは全産業で17%,公務員で40%)わけで,学歴プレミアムや正規・非正規格差があれば官民に賃金格差があるのはある程度当然だ.官民格差は誇張され扇動的であるように感じる.
公務員の場合受験資格も緩く,機会の平等はそれなりに担保されている.棚ぼたやレントシーキングで不当に得た所得というわけではないだろう.収入源はがっつり捕捉されており脱税・節税も難しい.

行政職の平均年間給与は560万円程度(2015年4月, 新卒除く, 沖縄県人事委員会勧告より)で,ヒエラルキー的には公務員は中の上ぐらいではないだろうか.フリンジ・ベネフィットを含めても,おそらく公務員より電力会社のほうが安泰で高所得だ.公務員の給与程度では,一世代のうちに大きな資産を築き上げることは難しいであろう.
ちなみに就業構造基本調査(2012年度)では,雇用者のうち所得が900万円台あたり以上,世帯所得だと1250万円~1499万円以上が沖縄のtop 1%になる.夫婦ともに公務員でいい役職,というほどでないと上流階級とは言えない気がする.top 1%は主に医者,弁護士,経営者,内地大企業の支店管理職,一部の地主や投資家,タレント,あたりで構成されている気がする.


沖縄の公的部門が大きく,高度人材を(おそらく過剰に)集めている,というセクター間でのmisallocationは私は問題だと思っている.しかし「公が支配する社会経済体制」は言いすぎだと思う.公務員が低賃金の民間人を搾取しているかのようにも書かれているが,公務員の人件費は元を辿れば国からの財政移転から主に出ているし….
大久保・篠原のように観察される所得分布をながめるだけでは格差の原因や非効率性の源泉を(専門家が納得できる形で)突き止めることはできないだろう.



最後に付言しておくと,そもそも論になってしまうが,格差を地域内で捉える意味は私は勉強不足でよくわからない.
社会保障や税制を通じた制度的な再分配は国レベルで行われており地域単位でなすべきことと手段は限られている.(固定資産税は地方が課すものだけどおおむね全国と横並びだ.)
仮に沖縄が格差是正に熱心に取り組んだとすると,地域間で居住移転は自由なのだから(コストはかかるが),沖縄に低所得者が集中し,高い教育を受けた高所得者は県外に逃げ出してしまうだろう.結果的に同質的な低所得者が集まりジニ係数は低下しそうなものだ.でもそれは望ましい変化なのだろうか.
資産格差があると信用制約にひっかかる貧しい層が多く経済に悪影響を及ぼす予感もするが,金融市場は県内で閉じているわけではないので地域内格差が信用制約に与える影響は自明ではないかもしれない.(これは研究ネタにつながる話だろうか?)
人が格差を観察してから何らかのbeliefを形成し何らかの経済変数に影響する,その格差は身近な範囲しか見えない,といった議論はありそうだが,かなり難しい話になりそうである…


まとめ?

公務員の報酬体系に連動している私の所得をあげてくださいーー!!!(切実)

Tuesday, September 27, 2016

沖縄の経済, 準備編3: ボラティリティ

他の講義とは違い,沖縄経済論の講義資料はパスワードを設定せずに私のウェブサイト上で公開することにした.今年からスタートすることもありまるで練られていないが,適宜利用いただきたい.

講義準備をしながら非常に憂慮しているのは,沖縄研究においては研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保する仕組みが機能していないことだ.多くの研究はプロが素直に想像するようなpeer reviewに支えられていない.そのため,そもそも「研究」とみなせるクオリティのものがほとんどない.経済学のトレーニングをまともに受けていない方々が地元の新聞やTV(や大学の教壇)で俺様経済学を披瀝しているのが現状だ.こうした方々を祭り上げる側の見識も疑う.

ところがあいにく私は沖縄の研究をしているわけではなくその予定もない.沖縄経済の講義をするとなると自らの批判が自分に突き刺さってしまう.これではなんとも情けないので,せめて講義資料は一般公開しておくことにする.



今回も講義で省略することにした没ネタを紹介.

一人当たり県民所得の成長率がどれだけvolatileかを眺めてみよう.データ出典は内閣府「県民経済計算」である.

47都道府県,1972-2013年度の名目一人当たり県民所得の成長率(年率)を計算すると次の通り:

これらの系列を$\lambda=100$のHP filterでトレンド除去し,標準偏差を計算した.結果が以下の通り.47都道府県のうち沖縄は16番目に低い.(沖縄は小さくてショックに弱い,みたいな印象論を振りかざす人も見かけられるがむしろボラティリティは低い方である.)

こうして求めた成長のボラティリティは,
  1. 2013年度の一人当たり県民所得とは弱く正の相関.
  2. 1972年度の 一人当たり県民所得とはかなり弱く正の相関.
  3. 41年間の平均成長率と無相関.
  4. 2013年度の産業構造を見ると,第一次・第三次産業のシェアとは弱く負の相関,第二次産業のシェアとは弱く正の相関.
といったことがわかった.

4番目の産業構造については, Moro (2012, 2015)の議論を想定している.サービス業のシェアが高いとTFPやGDPのボラティリティが下がるとのことだ.日本の都道府県レベルでもたしかにそうした兆候は見られる.
たとえば第三次産業産出のGDPに占めるシェアとの相関を図示すると次の通り:

沖縄についてインプリケーションがあるかと言えば,あまりないかな…


References
  • Alessio Moro (2012)The structural transformation between manufacturing and services and the decline in the US GDP volatility. Review of Economic Dynamics 15, 402–415.
  • Alessio Moro (2015) Structural Change, Growth, and Volatility. American Economic Journal: Macroeconomics 2015, 7(3): 259–294.

Saturday, September 24, 2016

沖縄の経済, 準備編2: 子供の肥満

引き続きゆるふわデータエッセイ.講義で紹介するほどうまくまとまらなかったのでブログでネタ放出.

沖縄の男性は全国屈指のメタボ,と言われている.そのルーツは何だろうか.

文部科学省の学校保健統計調査を見れば,子供の身長・体重などについて都道府県別のデータが手に入る.沖縄と全国平均を比較してみよう.今回はそういうエントリ.

1. 沖縄には太った子供が多い
痩身傾向児の割合について年齢別にプロットしたのが以下のグラフである(H27年度).

9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.沖縄は貧しいのですべての年齢で痩せた子供が多いかとおもいきや,そうではないようだ.(標準偏差が不明であり有意な差かどうかは不明である).
なお男女別に見ても,多少のばらつきはあるものの,小学校高学年以降に差があるように見える.

肥満傾向児については以下のとおりである.
痩身傾向児と呼応しているようだ.9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.10歳以降に肥満が多くなるようだ.

以上のグラフからは,小学校高学年頃を境に沖縄県民は全国平均から乖離を始めることがわかる.太る方向にシフトするようだ.

2. 特定世代だけが太っているわけではない
痩身が少なく肥満が多い,のは世代効果とは言えなさそうだ.つまり,H27年度に10-15歳になる世代だけに固有の特徴とは言えない.
世代効果の有無を確認すべく,世代別に,全国との痩身・肥満出現率格差(= 沖縄の出現率 - 全国の出現率.上のグラフの赤線と青線の縦軸方向の差に対応.)を時系列で並べたものが次のグラフである.



スパゲティ状のグラフになっていてどれが誰かわからなくて恐縮だが,それぞれの折れ線はH27年度における年齢で見た世代を表している.
世代によってばらつきはあるものの,おおむねどの世代でも,痩身出現率は全国より低く(負の領域にありがち),肥満出現率は全国より高い(正の領域にありがち)ように見える.
(適当な信頼区間を作ったらほとんどの世代は全国と差がない,という結論になってしまうかもしれないが.)


3. 差が付くのは分布の裾野だけ
痩身・肥満の出現率に差があると言っても,サンプルサイズが小さくて外れ値が目立つだけかもしれない.
外れ値ではなく,体重の平均を見るとどうだろうか.以下のグラフは男女別に平均体重とその1σ区間をプロットしたものである.1σ区間に限って見ればどの年齢でも沖縄(赤)と全国(青)にほとんど違いはないと言える.

全国とはあくまでも分布の裾野の方で差が付いているようだ.沖縄の子供が平均的に太めの体格を持っているわけではない.

これらのデータからは示しようがないが,おそらく,遺伝的に太りやすいわけでもないだろう.社会的な要因で後天的に肥満児が生み出されている予感がする.
とりわけ,ごく一部の貧困世帯において,物質的にも精神的にもストレスの大きい生活が営まれているのかもしれない.およそ10歳頃から物心が付き,家庭や学校の酷さに気づき始めるのかもしれない.






あっという間に夏休みが終わってしまう.研究も講義準備もまるで進まない…


Monday, August 8, 2016

社会経済統計学I, 講評, 2016

レポートの提出ありがとうございました.様々なテーマで創意工夫を凝らしているようで面白く拝読しました.中にはいい卒論につながりそうなものもありました.
メールで簡単なコメントを返信しておきましたのでご覧ください.

[重要] ファイルをうまく送信できておらず,レポートを確認できない人が2人います
成績登録期限までに返信に気づいてください….

レポートの内容面以外で,改善すべき気になるところを思いつくままに書き留めておきます.(というより愚痴を言って採点のストレス解消をします.)
  • 課題に応えていない.
    • 標本をExcelでいじってみよう,という趣旨の課題ですが,データもへったくれもない確率日記みたいなレポートが散見されました.こうした的外れなものは採点・評価しようがなくたいていは不可ないし可になっています.
    • 仮説を持て,とわざわざ指定しているのに,仮説がどこにも見当たらない人も多かったです.要求されていることから逃げては低い評価しか得られません.
  • 参考文献.
    • 参考文献は,先行研究を整理して自身のオリジナリティを明確にする上で不可欠なものです.また,研究成果の再現可能性を担保する意味でも重要です.ところが,参考文献自体がまったくない人や,URLだけ書くなど引用の作法が怪しい人がほとんどでした.引用の仕方はググれと言いましたが.
  • 孫引き.
    • 何らかのウェブサイトから取ってきたグラフを使っている人も多くいました.そのウェブサイト自身がどこからデータを取ってきたのかを見て,オリジナルの統計に直接アクセスするようにしてください.
    • テーマによって一次情報が二次情報よりも優れているとは限りませんが,より情報源に近い方から当たるのが望ましいと思います.
      • こうした情報の階層構造を理解していない学生がいる予感もするので,どこかでちゃんと情報ソースについて講義時間を割かねばならない気がしました.
  • 適切なグラフを選べていない.
    • クロスセクションのデータを折れ線グラフにして相関を読み取ろうとしている(しかも間違っている)ケースがけっこうありました.私も身に覚えがあるので大きな声ではいえませんが,散布図使いましょう.
  • 講義で学んだテクニックがまるで使われていない.
    • 記述統計もまとめろ,と念を押したのにほぼ全員が標準偏差すら書いてくれませんでした.半年かけて無駄な授業をした気さえします.
    • 一方で何人かは重回帰に取り組んでいろいろ考察を加えてくれました.よくがんばりました.
  • 時間を費やしていない.
    • 考えを巡らし試行錯誤する時間が不足しています.4月の最初の講義から課題を指定し,月1回程度リマインドし,分析には時間がかかることも周知し,締め切り1週間前ぐらいには出せるようにせよとも促しました.にもかかわらず,締め切り直前の数時間でしたやっつけ仕事のようなレポートが多く見られました.素人のにわか仕込みで通用するような生ぬるい授業はしていません.
    • 計画的に作業ができない人は学業でも仕事でも大成できないと思います.行動経済学の格好の研究対象というか…
  • 国語力が低い.
    • レポートは平均2ページ程度で,1ページしかないケースもけっこうありました.悲惨なものだとデータとグラフだけで文章さえありませんでした.とことん説明不足です.学術的なコミュニケーション能力が粗雑すぎます.
      • 私が普段読む学術論文は10~30ページが普通で,100ページ超えも珍しくありません.長いほど偉いわけではありませんが,問いや仮説の説明,その意義,先行研究のまとめ,用いるデータの説明,枠組みの説明,結果の説明と解釈,まとめ,など必要な項目を一通り書くだけで数ページはすぐ埋まるのではないでしょうか.
    • エコノメよりも先に国語を勉強した方がいいと思います.
  • 講義タイトルを間違えている.
    • 「社会経済統計学I」という長いタイトルではありますが,ここをあえて間違う不届き者がたくさんいました.曖昧なところを逐一調べる,という手間を惜しみすぎです.わからない言葉に出会ったら辞書をひく,という習慣さえない人なのだろう,と見下されてしまうことにもなるのでは.
今回悪質なコピペレポートが2件ありました.本人にメールで警告した上で不可としました.うんざりです.

個人的には今回初めてレポートによる成績評価を行いました.ソフトウェアを自分の手で動かす機会がないと統計学はまるで身につかないと思うからです(言うまでもなく講義に出席するだけで身につくわけがありません).ただ,レポートを書くという作業自体が学生には重荷のようでもありました.私が思うアカデミック・ライティングの常識がまったく通用せず,頭痛がしました.

学術論文はおろか論文に準ずるレポートもろくに読んだことがなければ,そもそもレポートを書きようがないのは仕方がない気もします.大学でレポートを書いてもろくにフィードバックはほとんどもらえず,どこがおかしくどうすれば改善できるのかもよくわからないのが普通です.たとえやる気があってもどうしていいかわからなければストレスが大きくうまく取り組めないのかもしれません.普通の大学生活を漫然と過ごしているだけではロジカルに書かれた小文を精読する機会がなさすぎるのではないでしょうか.夏休みを利用して,新書ぐらいは何冊か読んでいただきたいものです.

本来は大学がアカデミック・ライティングを教える機会を別に用意していればいいのでしょうが,そもそもまともな水準の学術論文を書いて(銃声)

Thursday, July 28, 2016

経済政策I, 第14回, 2016

夜間にひっそりと行っているこの講義については特に情報発信はしていなかったのですが,試験前なのと,最後の講義後にいただいた質問に回答するべく更新しておきます.

これまでの講義
  • ゲーム理論の入門的な知見を学びながら,ミクロ経済政策を考える練習をする講義であった.
  • 特に講義の中心となる問題が囚人のジレンマであった.重要な応用例をいくつか学び,それらを解決する方策はそう単純ではないことも学んだ.
    • 例: 公共財供給,共有地の悲劇,逆選択,投票によるモニタリング,入札談合.
    • 解決策: 課税,社会規範の形成,シグナリング,長期的関係,など.

前回講義でもらった質問:
  • 「談合で裏切れば相手を退出させられる場合,将来独占利潤が得られるようになる.このとき協調は維持できないのでは」
    • よいところに気がつきました.分析したい状況次第では,講義で紹介した例は当てはまりません.どういった状況を考えるにしても,一般論としては,協調するメリットに比べて裏切るメリットが大きくなれば,協調はより達成しにくくなると考えられます.
    • 相手を追い出すことに成功したとしても,市場を独占し続けられるかというとそう簡単にはいきません.別のプレイヤーが新規参入してくるかもしれないからです.

週末は出張のため,質問があっても回答できないかもしれませんがご了承ください.わからないことがあれば参考文献にあたってください.

社会経済統計学I, 15, 2016

面倒くさくなって途中で更新が止まりましたが,今週でこの講義は終わりです.参加してくださったみなさんありがとうございました.あとはレポートをお待ちしています.

やったこと:
  • 統計学・計量経済学の入門レベルの内容を学んだ.
    • 記述統計 … データはばらつきが大事.ばらつきの程度を捉える標準偏差,2変数間のばらつき方の関連性を捉える相関係数,などの概念は押さえておきたい.ヒストグラムを使って分布の全体像を眺めることも大事.
    • 確率論 … 確率分布・確率密度関数の読み取り方を押さえておきたい.代表的な分布として正規分布だけでなく,二項分布やポワソン分布も応用例とともに紹介した.
    • 漸近理論 … 大数の法則と中心極限定理.ランダム・サンプリングしたものをたくさん集めることが大事.
    • 仮説検定 … 仮説は観察されるデータと整合的かどうか判断する.p値を(あらかじめ定めておいた)有意水準と比較すると簡単.平均値の差の検定はExcelでできる.
    • 回帰分析 … 重回帰での推定・検定を修行してもらいたい.Excelだと手間はかかるが一応できる.
  • その他,いくつか経済学の論文も題材に取り上げた.Sen, Heckman, Kahnemanなどノーベル賞受賞者の他,Piketty, Levitt, Fryer, といったより若いスターたちの研究も紹介した.
  • この講義をやり抜けば,入門レベルの計量経済学の教科書なら自力で読み通せるようになり,学術的な議論も読める範囲が広がるのではないか.
できなかったこと:
  • シラバスに書いた計画のうち,回帰診断,DID,データビジュアライゼーション,は無理だった.データの見せ方については補足スライドをアップしたものの,送られてくるレポートを見る限りあまり伝わっていないようである….その他所々省略したところもあった(条件付き期待値,タイプ2エラー,など).
  • Excelによる実装例も紹介するよう努めたが,パソ室での実習もしたかった.
  • 他の講義(統計学入門など)とどれだけ差別化できたかよくわからない.
  • 正直なところ大半の学生には難しすぎる内容であった.もっと履修人数を絞りたかった.

 レポートについて
  • 講義中に注意した通り,剽窃・盗用に注意してください.アカデミアでは重罪です. 他人の分析と自分の分析を区別し,自分自身の手と頭で成し遂げたことは何か意識してください.
  • じっくり考え地道に試行錯誤した形跡が認められれば評価します.分析自体が拙くとも,トライしたことを評価します.一方,講義中寝てばかりいたような人が2, 3時間で仕上げたようなクオリティのものは不可にします.また,レポートの趣旨を誤解してまったく別の課題に取り組んだ場合も不可にします.もちろん悪質なコピペレポートには単位を認定しません.
  • 特別な事情(忌引きや入院など)がない限り締め切りを1分でも過ぎたら読まずに不可とします.事情で提出が遅れそうであればその旨連絡してください.
  • ファイルの送信ミスや,件名や本文がない無礼なメールが散見されます.メールの使い方やエチケットぐらい調べてください.
今週末は出張のため反応が遅れるかもしれませんがご了承ください.きめ細かいサポートも無理です.

Wednesday, July 20, 2016

Solitary City

宣伝.単著論文がManchester School誌にacceptされオンラインに出ました.これで院生時代に手がけたものはすべて捌けたことになります.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/manc.12170/abstract

ちょうど4年前の今頃に,博論が論文2本だけだと寂しいのであと一つ,とスタートした研究でした.あまりにも練られておらず分析はすぐ行き詰まり,科研にも落ち続け,査読では○○ヶ月待たされ,苦い思い出でいっぱいです.この論文の報告・査読に付き合わされた方々には恐縮至極に存じています.

それでもこのプロジェクトからは多くのことを学ぶことができました.最終的に公刊することができとりあえずは安心です.


肩の荷が下りたところで,これが私の遺作とならないよう引き続きがんばります.

(大学のウェブサイトでは私のcvが雑兵レベルのままでなのでそろそろ更新したいのですがどうしたものでしょうか…)

Sunday, July 17, 2016

沖縄の経済, 準備編1: 成長経路

今年度後期から新しく「沖縄経済論」という講義を担当する予定である.あいにく私は沖縄経済の専門家ではないので,適任ではない.それでも,私より不適切な人が自分勝手な沖縄経済論をまき散らすよりはマシだろうと思い引き受けた.

大学で教えて恥ずかしくないような授業はせねばならない.かといって沖縄経済について学術論文を書く気はない(業界地図は研究論文ではない).そこで,授業の準備がてら,沖縄の経済についていろいろ調べ考えていることをこのブログにアウトプットすることにした.

以下何かとデータが出てくるが,所詮は講義用なので,すべて"eye-ball econometrics"である.きっちりした分析をする予定はないのであしからず.



少し前にとあるインタビューを受けて,沖縄経済についてざっくばらんに話をする機会があった.このとき,沖縄が貧しい理由を聞かれ,「戦争と占領だろう.人的・物的資本が破壊された.」という趣旨の回答をした.基地の存在そのものとは言えない,という文脈で,である.
今回のエントリはこの回答がどれほどもっともらしいかについてである.

沖縄の一人当たり実質県民所得をプロットすると次の通りである.
なお,沖縄のデータについては異なる基準の系列は接続せず別個にプロットしてある(講義の都合上).村上・藤澤と書かれた系列は,同僚の紀要論文から取ってきたデータである.詳しいデータ処理は後述の補論にて説明する.
一人当たり所得,沖縄 vs. 全国.
全国平均との格差が年々開いていることが見て取れる.沖縄はバブル崩壊以後ゼロ成長で停滞している.

同じデータを常用対数表示したものが次のグラフである.対数目盛なので,傾きが成長率に対応している.
一人当たり所得(対数),沖縄 vs. 全国.

全国と沖縄の成長率はおおむねシンクロしている(傾きが等しい)ことが目視で確認できる.石油危機・バブル崩壊という2つの転換点を境に,成長率が落ちている.

戦後沖縄が全国と同じ経済成長率で成長してきたのは興味深い.沖縄は全国と比べて特別有利でも不利でもないのである.


成長率が等しいので,(絶対水準で見た)格差は初期値の違いに帰せられる.冒頭で沖縄が貧しい理由が「戦争と占領」と述べたのはまさにこれである.沖縄は全国よりも低い位置から遅れてスタートしただけで,成長する環境自体は全国と変わらない,というわけだ.
既存の沖縄経済研究では,基地や産業構造や島嶼の特性などにフォーカスが当たることが多かったが,そうした要因をまったく無視しても沖縄の貧しさは簡単に説明できてしまうのである.
沖縄だけが特別な艱難辛苦にあえぎ続けている,という類いの理屈では観察される成長経路を説明しづらいのではないだろうか.
かたや地上戦によるおびただしい損害,および米軍統治で高度成長期がすっぽり抜け落ちた(しかも本土は1ドル360円だったけど沖縄はドルだった)ことが今も尾を引いている,という説明はまんざら私の勝手な妄想ではないと思うのだが.
  • ここでの「格差」は所得の差(=y_{全国} - y_{沖縄})についての議論である.
  • 格差を所得の比(=y_{沖縄}/y_{全国})で見た場合,当然格差は縮まりも広がりもしない.復帰後も現在もおよそ全国の7割程度である.

ただし,初期値が違うだけ,という説明で十分とは私も思っていない.共通因子の影響力が強く(unconditional beta) convergenceが沖縄で起こっているように見えない理由を特定する必要があるからだ.
要するにこういうことだ: 後発の地域がフロンティアに追いつくのは簡単だ.技術や知識は模倣できるし,資本の限界生産性は逓減するからである.それにもかかわらず沖縄は後発のアドバンテージを活かせていないのである.

そこで,本来問うべきは,なぜ沖縄は全国にキャッチアップできていないのか,なぜ沖縄は先端的な技術や知識を学習し身につけることに苦慮しているのか,なぜ沖縄は貯蓄して資本蓄積につなげられないのか,であろうと思う.

  • これに対する答えとして私が今漠然と持っている仮説は,イノベーションを担うべき高技能人材が内地に流出してしまうから,また,貧しい初期状態のせいで貯蓄・資本蓄積が進まないトラップに陥っているから,というものだ.
    • 後者の場合big pushが有効だが,前者の場合必ずしもそうではない.
    • 後者については,金融仲介機能の弱さが悪さをしている予感がしている.
  • 前者は,低技能労働集約的な産業(観光や建設)が発展しそこに偏向した技術進歩が進んでいるせいで高技能労働者が活躍する場が乏しいから,と考えている.
  • 初期条件はそれでも大事である.Mark Ravallionのpoverty convergence論文のように,初期に貧困が深刻だと成長が遅れるし成長してもなかなか貧困を減らせない,という可能性がある.

全国と呼応した成長経路になっていることは,取りも直さず沖縄は孤立した存在ではなく,日本経済とすっかり経済統合されていることを示唆しているようにも思う.閉鎖経済思考には限界があるだろう.共通因子の役割が大きくなる理論的根拠を考えるのは,一筋縄ではいかない.

既存の沖縄研究では,米軍基地の存在が何かと大きい.ところが,基地が存在するせいで経済成長率が潜在的な水準より低くなっている,という論証はまともになされていないようである.産業連関分析を用いて,基地の経済効果が何億円,という具合のoutdatedな話に始終している.
しかしながら「経済効果」はあくまでstaticな効果であり,そもそも経済成長率に与える影響を分析する枠組みではない.私がざっと見た限り,米軍基地が沖縄の発展を阻害しているかどうか,を説得的に示した先行研究はなかった.(基地問題に関心がないし巻き込まれたくないので自分ではやりたくない.基地の有無自体は外生的変動がなさすぎて,分析困難に思われる.)

なお,戦前の時点でも沖縄の所得は低いので,戦争と占領がなかったとしてもやはり格差はあっただろう.格差のより根源的な原因を突き止めるにはもっと昔にさかのぼらねばならない.(薩摩のせい,のようにあれもこれも他所のせいにするのは健全ではない気もするが…)

用いたデータについての補論:
  • 県民所得は県内総支出のデフレーターで実質化した.
  • 村上・藤澤のペーパーには県外からの純要素所得のデータがなかったので,「県内所得」に相当するものとして県内総生産-固定資本減耗-(間接税-補助金),と計算した.
  • 全国のデータのデフレーターは平成12年度基準の固定基準年方式に合わせた.異なる基準のデフレーターは,重複する部分の平均が等しくなるようにリンク係数を計算し,接続した.
  • 沖縄のデフレーターは75-80年が欠損値となっている.この区間は消費者物価指数(総合)と同じインフレ率と仮定して補完した.また,74-75年にかけてのインフレ率は全国と等しいと仮定して補完した.
  • 出典: 内閣府「県民経済計算」「国民経済計算」.総務省「人口推計」「消費者物価指数」.村上敬進・藤澤宜広(2009)「沖縄県における県民経済計算の長期時系列データ」沖縄大学法経学部紀要12.

さて,授業準備はここまでにして,本業に戻ります(汗)

Tuesday, July 5, 2016

REW2016告知


さて,毎年恒例になりつつある沖縄ワークショップが7月9日に開催されます.遅くなりましたが一応告知.報告者以外の参加も歓迎しています.めんそーれ!
(非研究者が来てもあまり得られるものはありません.念のため.)
(直前ですがプログラムに近々変更があるかもしれません.)

こぢんまりとした前日祭も予定されていますので,前日入りされる方は私に一頃お声かけいただければ幸いです(できれば早めに).

沖縄は梅雨明けしてすっかり夏です.台風1号のためか週末の天気は悪そうですが,日焼け止めなど暑さ対策もお忘れなく.



国際経済学I, 第10回, 2016

五月病というか,ブログを書く時間とモチベーションを失っていたのでかなり久しぶりの更新.中間試験前にいったんまとめをするつもりでしたが間に合いませんでした,申し訳ありません.

中間試験の結果は以下の通りです.
  • 受験者93人,平均71.5, 中央値70, 標準偏差18.9. 
  • 得点分布は少しいびつです:

  • 受験したうち28人が60点未満でした.難易度は例年とさほど変わりませんが,3割程度の学生が不可になりそうな状況というのはワースト記録です.期末試験での奮闘を期待します.

期末は8月5日に予定しております.そろそろ他の科目と合わせて試験勉強を始めてはいかがでしょうか.

解答の返却・解説は行いません.気になる方は直接お尋ねください.

Tuesday, May 10, 2016

国際経済学I, 第2-3回, 2016

講義内容
  • グローバル化の進展
    • 陰謀論は疑ってかかるべし.
  • 琉球王国と貿易
    • 外交を交えた公的貿易だったことが今との大きな違い.
    • 貿易は単にモノ・カネを運ぶだけでなく,情報も運んでいく.
  • 数学の準備
    • 一次方程式$y=ax+b$は絵的には直線になるようなxとyの関係.
  • 入門ミクロ
    • 以後考えるモデルでは,登場人物はみなプライス・テイカーと仮定する.

コメントより
  • 「沖縄は各自治体で県産品を作っていると思うが,どうして輸出が少ないのか疑問に思った.もっと沖縄ブランドを発信すべき」
    • 県産品に対する需要が少ない,移輸出するコストが高い,という2点が主なハードルになっているのではないでしょうか.特産品はライバルが多く市場が小さいですから.
  • 「琉球王国時代の経済の中心はどこだったか」
    • 那覇港とその周辺には当時交易で栄えた形跡がありますよ.阿麻和利のいた勝連も,貿易で発展したと聞いたことがあります.
  • 「海外の貿易=発展のための材料だと考える.貿易がなければ琉球は発展できなかったし,日本も海外との貿易がなければ今より豊かではないと思った」「貿易の大切さがわかった」
    • (市場の歪みがあるので)必ず発展するとは限りませんが,発展の足がかりになるでしょうね. 
  • 「現在でも波及効果があるんじゃないか」
    • そうですね.それどころか先端的な産業ほど情報が伝わりやすくそのメリットも大きいかもしれません.
  • 「中国の影響はやっぱりでかい」
    • 首里城なんかはまるで和式じゃないですしね.
  • 「貿易はお金やものの取引の事という固定観念があった」
    • 取引の副産物も大事ですね.
  • 「命がけで商売をしていた昔の人たちってすごい!!!」
    • そうですね.でも現代であっても命がけの覚悟でやらないと!
  • 「沖縄の産業は観光がメインで移出入はとても多くなっていると思ったが,移出が移入を大きく下回っている上減っているというのが正直ショックだった」
    • データで補足されていない観光収入は少なくないような気もしますが,
  • 「沖縄の地の利を活かして貿易がもう一度盛んになればいいな」
    • 地の利(market potential)が他の地域よりも高いかどうかはあまり確信が持てないところではあります.
  • 「別の講義で倭寇が貿易に関わっていると聴いており,結びついた」
    • 中世の海は面白い話がいっぱいありますねぇ.
  • 「日本経済だけでなく世界のことにも興味があるので,少しでも自分で考えられるようにしたい」
    • 興味に従って本をたくさん読みましょう.
  • 「リーマンショック以後輸入額が輸出額を上回っているのは円高の影響か」
    • 為替レートも大切ですが原油の動向の方が大きい気がします.
  • 「意外と興味がわいた」「いろいろ知りたいと思えるような授業だった」「勉強になった」「わかりやすかった」「ありがとうございました」
    • こちらこそ.
  • 「クーラーをつけてほしい」
    • 指摘ありがとうございます.前にいると気づかないので助かります.
  • 「すみません寝ちゃいましたm(_ _)m次から気をつけます」
    • 今の若者が古典的な顔文字を使っていることに驚きました. 
    • 理解できなくて寝てしまう,でないことを祈ります.
  • 「グローバル化は教育でも進んでいて,経済や教育にも影響を及ぼしていると感じた」
    • この講義では狭い意味で用いますが,グローバル化という現象はとても複雑で多面的なものですね.我々はそのまっただ中に生きています.
  • 「自分は台湾人なので初めて聞いた.面白かったと思う」
    • せっかくですから沖縄の歴史や文化も学んでいってください.
  • 「ミクロを取ってないのでとてもがんばらないとなって思った」「数学を復習しようと思った」「わかりやすかったがこれからレベルが上がっていくと思うので遅れないようにがんばる」
    • この講義では難しいミクロ・数学の知識は必要ありませんが,講義の範囲を超えた内容も各自勉強しておくべきだと思います.
  • 「沖縄関連のクイズを出します!北谷町アラハ公園は巨大な船の遊具があるということで有名です.その船は何の船でしょうか?」 
    • それは間違いなくうわなにをするqあwせdrftgyふじこ…これぞせんさーしっぷ,なんつって.
  • 「正解はイギリスの船でしたー.ではなぜイギリス?」
    • 全然わかりませんが,よもやあなたの指導教員が関係してません?
  • 「一次方程式を覚えていてよかった」「経済学で使うので基礎を押さえておきたい」
    • 忘れないようにしましょう.
  • 「試験でグラフの問題を出すなら何問?」 
    • 中間試験ではたくさん出る気がします.
  • 「台風が来ると野菜の値段が上がるとよく聞くが,そのシステムが市場システムだということを改めて理解した」
    • 私は逆に,台風のとき思ったより価格は動かないなという印象を持っていますが,台風に限らず農産物や海洋資源の価格は気候に大きく左右されるようですね.
  • 「自分で価格を決められる人はなんていうのか」 
    • プライス・メイカーと呼ばれることもありますが,他の表現(「価格支配力を持つ企業」など)のほうをよく目にします. 
  • 「嫌われてると言っていましたが,私は先生の授業のやり方は好きですよ.わかりやすくて楽しい」 
    • ありがとうございます.みなさんの愛がほしくて仕事しているわけでもないので多少は仕方ないと思っています. 
  • 「意味はわかるが国経でも必要か?」
    • 必要ないことをやるほど講義計画に余裕はありませんよ.
  • 「英語だけでもイメージで何かを理解できた」 
    • 経済学用語には堅苦しい訳語が多く,最初は取っつきにくいと思います.英語の方がストレートでわかりやすいこともありますね.
  • 「二次方程式などグラフなど出てきて難しいと思った」 
    • 二次方程式は出てませんね. 
  • 「グラフが書けなかった」「難しく大変だった」「覚えていなくて勉強不足を実感した」 
    • かなりの学生が自力で書けなかったように見えました.勉強不足だと感じたらすぐ勉強しましょう.


Thursday, April 21, 2016

国際経済学I, 第1回, 2016

今年度もよろしくお願いします.

このblogでは講義のフォローなどを行っています.オープンにしても恥ずかしくない内容を教えるという意味もあります.(blogに書いていない講義もありますがそちらで恥ずかしい内容をやっているというわけではありません.)

講義内容
  • 講義の概要
    • グラフの読解や一次方程式の理解といった簡単な数学の知識は使う.
  • 大卒プレミアム
    • 大学生活の中で何かを掴もう.
    • 能力を高めるメリットは大きくなっている.という一方,分業や特化を通じて,誰にでも社会に建設的に貢献できることを国際経済学は教えてくれる(予定).
本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中に取り上げることもあります.ご了承ください.教員の話を鵜呑みにせず批判的に聞くことは大切だと思います.どんどん疑問を持ちましょう.

コメントより
  • 「自動運転ができるようになればいいと思っていたが失業するかもしれないなどと考えたことは今までできなかった.様々な角度から見られるようにしたい」 
    • 時事ネタを見聞きするときも,その背景や含意を豊かに想像できるようになりたいものですね.
  • 「いずれ人間が働かなくなる時代がくるのかもしれないと思った」
    • 今でもろくに働かないおっさんはたくさんいますが…
    • いわゆる「シンギュラリティ」はいつか来るかもしれませんね.
  • 「日本のホテルでロボットが導入されたのを見て変化を感じた.グローバル化は,夏休みにアジアの方々とバイトして低賃金長時間労働を見ていた.」
    • 雇い主が法律に引っかかっていないことを祈ります.
  • 「自分の価値を高めて供給の少ない貴重な人材になり,高い需要に応えられるようになれたらいい」「使える人材になりたい」「これからもたくさん勉強したい」「たくさん本を読んだり資格を取ったりしたい」「特別何かしたいというわけでもなく迷っているがとりあえず行動して卒業したい」「自分は能力があるわけじゃないのでせめて大学に通ったことで大きく成長できたらいいなと思った」「英語など自分の武器がほしい」「絶対卒業したい」
    • 需要と供給の考え方が身についている方もいるようでなによりです.
    • おのおののペースで焦らずこつこつとがんばってください.
  • 「肩書きに頼らず,それに見合った能力を身につけないといけないと思った」
    • 肩書き以上の能力を身につけましょう. 弊学卒という肩書きの価値をもっと高められるようにしてください.
  • 「大卒でもデメリットが大きければ今やめたほうがいいんだなとちょっと悩んだ」 「改めて考えさせられた」
    • 熟慮した上で,後々後悔しない選択をしてください.
  • 「社会に出るのが遅れているという不安があった.だが今日の話を聞いて自信が付いた.がんばった甲斐があったと思う」
    • 就活でこけないように気を抜かずがんばってください.
  • 「高卒の友人からおごってもらったりして正直就職すれば良かったかなと思うが,今日の話を聞いて大学をがんばって卒業して自分の能力も高めたいと思った」
    • 無事卒業・就職できたら恩返しをしましょう.
  • 「一回しかインターンシップに参加してないのでもっといろいろ挑戦したい」 
    • インターンに参加した経験から何が自分に足りないのかがわかっていれば,それを埋められるようにしてはいかがでしょうか.
  • 「ミクロは取ってないが来年取る」
    • 授業を取らなくても教科書を買えばいつでも勉強できますよ.
  • 「国際経済学に強くなりたい」
    • その意気や良し,です.教科書を読みましょう.
  • 「他国の経済活動に興味があって,それを学んで自分に取り込んでいきたいと考えている」
    • あまり海外ビジネスの事例を紹介することはありません.図書館で「ジェトロセンサー」「ハーバードビジネスレビュー」などを探して読んでみるといいかもしれません.
  • 「わかりやすくて興味ある」「丁寧」「楽しい」
    • 次回以降はあまり楽しい内容ではありません.
  • 「テストの形式は?」
    • 例年は記号の選択,作図,短めの論述,などを出しています.計算問題はほぼありません.
  • 「出席点は感想を書いて出せばいいの?」
    • そうです.感想や質問などを自由に書いていただければと.
    • 講義中に受講者のみなさんの意見や質問を聞く機会は少ないので,出席カードと本ブログを通じてコミュニケーションを図りたいと思います.
  • 「留学生なので文法に間違いがあるかもしれない.申し訳ない」
    • この講義では言語能力は不問です.文法ミスで減点することはありません.ミスを恐れないでください.
    • 話を聴き取りきれない場合,参考書を読むなどして補うようにしてください.質問も歓迎です.
  • 「本学も今年からコンピュータで休講案内を出すようになったのはグローバル化の影響」
    • 休講通知はもっと前からウェブで確認できましたしグローバル化の議論は直接関係ないですね.
  • 「もう何回目の受講かわかりませんけど今度こそがんばります」
    • 早く卒業してください.

社会経済統計学I, 1-2, 2016

新年度何かと慌ただしいですが,とりあえず更新.


今期から新しくこの講義を担当することになりました.私は統計の専門家ではありませんが,一定以上のスキルは持っているかと思いますのでご安心ください.前任者が何をやっていたかわかりませんが,私なりに大切だと思うことを教えます.

この講義はデータを使った議論について行けるようなリテラシーを身につけることが主眼です.また,統計学を使って経済問題に取り組む際に注意すべきポイントを学んでいきます.ちまたで流行のデータサイエンティストを養成するわけではありませんし,この講義を履修してもただちに就職に有利になるわけではありません.プログラムをどっさり書くような人でなくても有用な知見を伝授したいと思います.
高校までに学ぶ数学もふんだんに使いますので,履修する際は注意してください.講義では壺からボールを取り出したりします.MS Excelもある程度使う覚悟をしていてください.簡単ではありませんがこつこつ勉強しましょう.

講義では,記述統計,推測統計 ,といった統計学・エコノメのベーシックをざっくり学びます.単に数学的事実を確認するだけでなく,できるだけ経済学での応用例も紹介していきたいと思います.
ただし,講義でカバーできる範囲はそれほど多くありませんので,自分で別途教科書を読み進めることを強く勧めます.単位を取るためというより,自分の知性を磨くためにです.
ただし,学生に合ったレベルで面白くて信頼できるテキストはなかなかないので,背伸びして挑む必要があるかもしれません.

個人的には初めてパワポを使った講義をします.グラフはうまく板書できないし,板書だとペースが遅くなりがちだからです.しばらくこのスタイルを試します.

社会経済統計学IIは今年度不開講です.次年度開講するかどうかも未定です.さしあたり半期で完結する内容で講義計画を構想しています.(もし通年開講するなら,前期は理論中心,後期はExcelなどでの実践を中心にしたいと思います.)

現時点では,重回帰を卒論などで実戦投入できるようにすることを到達目標に据えています.ところがいざ教えるとなってようやく気づきましたが,OLSを理解するには高度な前提知識が必要です.急ぎ足ながらこうした知識を一つずつ乗り越えていく予定です.15回の講義でここまで行けるかあまり自信はありません.
もちろん単にExcelで近似線を引いたり,p値を見て最もらしいことを言ったりするだけならそれほど難しくはありません.しかしそうした表層的な理解は無意味どころかかえって有害にも思います.富士山の山頂にヘリコプターで行くよりも,8合目までで引き返したとしても自力で一歩ずつ登ろうとする経験の方が人生の糧になるのではないでしょうか.

教えることこそたくさんありますが,定義,定理,証明,を繰り返すような講義だと全滅するかと思いますので,適宜有名な論文を紹介して脱線したいと思います.さじ加減は実際講義を進めながら調整していきます.

講義内容
  • 概要
    • 数学を当たり前のように使うので注意.
    • ここ数十年で統計スキルへの需要は大きく変わっている.今のうちに学んでおくべき.
    • 成績はレポートの出来次第.
  • 統計学の仕事
    • スープの味見,に相当することを丁寧に考えていく.
  • missing women
    • 簡単な数字を用意するだけでも,説得力と含蓄がある議論ができる.
  • 数学の基本
    • 集合はベン図でイメージしよう.
    • Σはたし算.

本ブログでは,ありがたくも出席カードにいただいたコメントに対して,すべてではありませんが返答をします.コメントによっては講義中に取り上げることもあります.ご了承ください.教員の話を鵜呑みにせず批判的に聞くことは大切だと思います.どんどん疑問を持ちましょう.

コメントより
  • 「統計学は経済だけだと思っていたがいろいろな科目に使われていて驚き」
    • 使った者勝ちみたいなところもあります.
  • 「村上先生の統計学取っといてよかったーーーーーーー」
    • せやな.
  • 「とても難しいと思うが将来使えることだと思うので一生懸命ついて行けるよう努力したい」「数学は得意ではないがチャレンジしてみようと思う」
    • やる気に応えられるように私もがんばります.
  • 「データを使ったレポートや議論ができるようになりたい」「大切さがわかった」
    • 一生使える強みにできればいいですね.
  • 「久しぶりに数学やって楽しかった.丁寧に教えてくれてありがとう」
    • 楽しんで勉強していただければ私も嬉しいです.
  • 「とても数学が苦手なのでとても不安であるがついていきたい」
    • 現時点では7番目の講義資料までアップロードしています.軽く眺めてみて履修するかどうか決断されてはいかがでしょうか.講義内容の性格上,数学は避けて通れません.
    • どうにも乗り越えられない壁がある場合,図書館でなるべく簡単な数学の本を探して通読してみてください.
  • 「黒板ちょっと見づらい」「暗くて字が見えにくかった」
    • やはり.板書時は電気をつけるようにします. 

Thursday, March 31, 2016

春休みの読書2016

転勤の季節,沖縄の業界地図に関する問い合わせが増えているようですが,増刷の予定はありませんし新しい版も出す予定は現時点ではありません.私の手元にももう残っていません.県内の主要な図書館には寄贈してありますので,図書館もご利用ください.



ここ数ヶ月の間に読んだ本のメモ.
研究者であることを辞めた単なる読書家だと思われてしまいそうだが,読書さえもせず老いさらばえるわけにもいかないので.(進捗は思わしくないですが研究が本業です汗)
  • 吉田伸生 (2006) 『ルベーグ積分入門』 遊星社
    • 測度論やフーリエ変換について,ヘタレ文系でもなんとかついていける程度にわかりやすくまとまっている.練習問題は自力ではまるで解けないが,略解があるのでじっくり読むとコンセプトを掴む助けになる.
  • JianJun Miao (2014) "Economic Dynamics in Discrete Time" MIT Press.
    • Stokey-LucasやLjungqvist-Sargentよりもこちらのほうが動学マクロの研究をフォローできるようになる気がするし読んでいて面白い.序盤は線形合理的期待モデル,マルコフ過程,DP,など動学システムの解法がエレガントにまとめられておりここ(あとAppendix)だけでも読んでおきたい(というか主にここしか読んでいない).Dynareってすごいなあ(押韻).
    • 計算ミスを確認しようと検索したら,古いバージョンのドラフトがPDFで落ちているのを見つけてしまった…
  • Michael Storper, Thomas Kemeny, Naji P. Mararem, and Taner Osman (2015) "The Rise and Fall of Urban Economies" Stanford University Press.
    • SFベイエリアとLAは初期条件が似てるのに違った成長経路をたどっている.これはなぜか,に経済地理学の視点から挑む.起業家の信念の部分が一番違うのではとのこと.
    • 経済学ベースの都市・地域科学の議論も綿密に検討されているものの,評価は少しフェアじゃない気もした.
  • James W. Hardin and Joseph M. Hilbe (2012) "Generalized Linear Models and Extensions" STATA Press.
    • StataでGLMを回す用.GLMの理論や運用上のかゆいところが知りたかったのだが,個人的にはあまり使い道がなかった.
  • 国友直人 (2011) 『構造方程式モデルと計量経済学』朝倉書店
    • 私では歯が立たなかった.
  • 小島寛之 (2006) 『完全独習統計学入門』 ダイヤモンド社
    • 売れてるみたいだけど,弊社の学生にとって学習しやすいマテリアルだとは思わなかった.類書に比べると手に取りやすい,という程度だ. 不偏性のない標本分散や変なコラムなど,わざとやっているのかもしれないが,違和感がある.(あと数式が汚い.)
  • 永井龍男 (1991) 『一個・秋・その他』 講談社
    • 老いをテーマにした,端正で渋い短編集.作中で筆者があっけらかんと種明かししてしまうので読んでいて調子が狂う.しかしとても面白かった. 主題とは関係ないところで,淡々と(鎌倉の?)町並みを描写するくだりがすばらしい.
  • 岡倉天心 (1906) 『茶の本』
    • 歴史的名著.元々は英文だが,和文の格調高さに心洗われる. 冒頭に,茶は衛生学であり経済学であり精神幾何学である,という旨の文章がある.ほんまかいな.
  • 折口信夫 (1923) 『琉球の宗教』
    • 短い論文.沖縄ではXという風習があるのでYではないか,みたいな根拠の薄い分析の積み重ねに見えるのは私が沖縄のインサイダーだからだろうか.
  • 井上達夫 (2015) 『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください: 井上達夫の法哲学入門』 毎日新聞出版
    • 法学の本を初めておもしろいと思った.本棚に並んでいるとダサいと思って電子書籍で購入したが,紙で読めばよかったと後悔した.
      • 私は正直なところ「右翼は幼稚,左翼はお花畑」という認識を持っていてどちらに対しても鼻白む思いで距離を置いているのだが,まさに私のような人に向けて書かれたかのように感じた.
    • 序盤からsocial choiceのにおいがすると思いながら読んでいたが,においどころか議論の核をなしていた.
      • 視点の反転可能性条件は,もっと仮定が必要だと思った.プレイヤー集合がより明確に定義されていたほうが読みやすかったかな.政党のように比較的少数で戦略的相互依存関係がある場合や,世代間で重複的対立がある場合,もう少し丹念な条件付けが必要ではないだろうか. 

数学,統計学,プログラミングはもともと勉強不足のため,休みが明けても鍛錬は続けねばならない.ただ,机上の独学だけでなく,実証のセミナーにもっと参加して達人たちの視点を直接学ばねばとも思う.たまには沖縄から外に出ねば.

Monday, February 8, 2016

マイナス金利と白川氏

地元の新聞に,マイナス金利とは「手数料がかかる」こと,などと解説されていて,あながち間違ってはいないけれどまるで意味がわからないだろうと思った.かくいう自分もまだ消化出来ておらず(専門外だし),思考整理用の雑多なメモを残す.

白川前総裁は退任する少し前の記者会見(2012年11月21日)でマイナス金利について次のように4つの論点を挙げている.
第 1 は、金利をゼロないしマイナスまで引き下げていった場合に、市場参加者がいざ必要というときに市場から資金調達ができるという安心感が なくなってしまうわけです。そうすると、経済に何かショックが加わった場合に、流動性調達に不安が生じるという問題があると思います。
第 2 に、金融機関からの預け金である中央銀行の当座預金に大幅なマイナス金利を適用すると、額面価値が保証され、かつマイナス金利が付かない銀行券に大規模なシフトが生じることになります。
第 3 に、金融機関がマイナス金利のコストを貸出金利に上乗せすることになり、結果的に企業が直面する金融環境が引き締まるという指摘もなされています。
第 4 に、金融機関は、中央銀行のオペに応じて資金を調達して当座預金に置くとコストがかかるわけですから、むしろオペに応じなくなるということになってくると思います。
論点2については今回の措置では銀行券で持ちすぎるとマクロ加算残高から控除することで対処しているようだ.しかしそれ以外の論点については未解決のように思われる.

論点4から,貨幣量ルールから金利ルール?への大きな変更と考えるのが自然だろう.量的拡大で十分だとした当初の目論見が順当に外れてなお引っ込みがつかなくなっている状況で,量の軸で名誉ある撤退の道を探らねばならない時期だったのかもしれない.たしかに非線形な付利スキームのほうが裁量の余地が大きそうではある.

昨年夏に思ったが,ふとしたショックに柔軟に対応できる政策手段を持たないと脆弱だ.論点1は,輪をかけてダウンサイドリスクを意識させることにもなりそうだ.

論点3については,貸出金利に上乗せできず銀行のリスクテイキング能力を弱めるほうがかえって金融仲介機能を弱め経済を傷めつけることになるような気もする.

マイナス金利と言っても,原油安による期待インフレ率押し下げ(による実質金利上昇)効果を打ち消すほど大きくはできない気がする.政策のベネフィットは短期的にも限定的かもしれない.

先月は,期待のコントロールやコミュニケーション政策に関してECBとの違いが浮き彫りになった.もともと期待形成についてどういう確率過程を想定しているのか判然としない政策ロジックであるが,現日銀は市場との対話を放棄したようでもある.

先月は都心で過熱気味な不動産市場を意識した政策変更を予想していたが,むしろ不動産に資本移動が起こっているようだ.沈んだイールドカーブを見ると次何が起こるか不安である.

引用した記者会見から3年強,結局出口は見えないままである.

Tuesday, February 2, 2016

経済政策II, 第15回, 2015

試験お疲れさまでした.こちらの採点結果も以下に示します.
平均71.2, 中央値70.5, 標準偏差15.2でした.まぁまぁですね.

財政政策の問題は,乗数効果とクラウディング・アウトについて記述してほしかったのですが,金融政策と混同したような解答が散見されました.

労働力率については,講義中に学んだM字カーブについて明確に記述してほしかったです.
男性との違いを意識すれば,M字が生じること,20代前半までを除き労働参加率自体が低いこと,の2点を書くことができるはずです.

グラフではM字のへこみそのものはそれほど大きくないようにも見えます.しかし,非正規雇用率のようなジョブの中身に一歩踏み込んで見ると,性差が歴然とあることがわかります.正社員として働き続けるのはまだまだ難しいのです.



次年度はこの講義はいったん不開講として,代わりに「社会経済統計学I」と「沖縄経済論」を持つ予定です.

社会経済統計学Iではいわゆるエコノメの基礎を学びます.少し羊頭狗肉ですが,みなさんがばりばり統計解析用のソフトウェアを回すことは想定しておらず,経済学の実証研究を紹介しながらデータ・リテラシーを磨くことを予定しています.概念としては,ランダム化,大数の法則,仮説検定,あたりを押さえたいところです.行動経済学で明らかにされてきたような,確率に対する認知の歪みなどもついでに紹介できれば.

沖縄経済論は具体的に何をするか未定ですが,開発経済学や空間経済学といった学問分野で積み重ねられてきた知見を紹介する予定です.沖縄経済の独自性や歴史的経緯などはそれほど集中的に取り上げないかもしれません.残念ながら私は沖縄経済の専門家ではありませんし,沖縄経済をめぐる先行研究を探しても自信を持って教えられるようなものがなかなか見つからないためです.

沖縄研究における最大の問題点は,研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保するような,peer reviewベースの仕組みが機能していないことだと思っています.沖縄経済研究を自称するものはいくつもありますが,我々プロが素直に受け入れられるような議論にはなっていないようです.経済学の最先端から50年は遅れているのではないでしょうか.アマチュアには経済学者や大学教員という肩書きにフリーライドしないでいただきたいものです.

Monday, February 1, 2016

国際経済学II, 第14-15回, 2015

結局更新は期末試験に間に合いませんでした.試験日程で混乱があったことも改めてお詫び申し上げます.

今回は採点に秘密兵器を投入したこともあり,例年よりカンニングが多く検出されました(言い逃れできないやつだけで5組11人検出しました).中には中間でも私の他の科目でもチートしていた常習犯もいます.最終的な成績は,見た側も見せた側もFにしています.不服があれば申し立ててください.

学問の世界では,一般社会以上に正直さと誠実さが求められます.人を欺くのは簡単ですが,真理を探究する場を破壊することにつながります.いかなる事情があっても不正は許されない行為だと思います.最近妙な手記を出版した人に対するアカデミアの怒りを思い起こしてください.

得点分布は次の通りで, 0点にある塊はカンニング組です.

平均が71.4で中央値が78点でした.十分ではないにせよけっこうよいと思います.中間でいまいちだったけど期末でがんばったような人も多かったようです.
最後の問題(金利平価から予測される為替レートの動き)は設問に曖昧なところがあり,曖昧な解答が多く採点できませんでした.「為替レートが増える/減る」といったまるで伝わらない表現を取る人がこんなに多いとは思いませんでした.

この講義では国際マクロの基礎知識を足早にカバーしてきました.あまり多くのトピックはカバーできませんでしたが,さらに深い学習をする土台を作れたら幸いです.
一歩進んだ勉強をしたい場合,さしあたりIS-LMやマンデル・フレミングが出てくるマクロの教科書を読むとよいと思います.応用分野に挑む前にベーシックなマクロの知識を体得しておくべきです.


少し前の講義のコメントより
  • 「単純に考えると円安は自国にポジティブだが,他国に打撃なのであまりできないとわかった」
  • 「金融政策によって世の中成り立っていることがわかった」
    • 我々が貨幣を使って生活している以上,金融政策は大事ですね.この講義では趣旨がずれるのであまり深く議論できませんが.
  • 「EUみたいに通貨が決まっていた方が他の国に行きやすくていいなと思った」
    • 独自通貨を持つことの費用便益を考えねばなりませんねぇ.
  • 「知識として自分自身で理解することができた」
    • 考える力を高められるといいですね.
  • 「ゼミでよろしくお願いします」 
    • どういう方が来るか楽しみです.応募者が定員より多かったので,適当に乱数を生成して一番高かった人から選びました.
  • 「先生の話は聞きやすくわかりやすいので来年も受講します」
    • 水曜の3限に新しい講義を開講予定ですが,かなり難しい内容を扱うので履修は注意してください.
  • 「あけましておめでとうございます.大城先生も良い年であるようにお祈り申し上げます.」
    • あけましておめでとうございます.
  • 「成人祝いはいつでも受け付けますよ!」
    • 大人をたかってはいけません.

Wednesday, January 20, 2016

経済政策II, 第13-14回, 2015

めっきりblogの存在を忘れていた.テスト前日なので更新.

講義内容
  • 労働市場のモデル
    • インフレ・デフレが労働の需給そのものに影響しなければ,均衡も結局動かない.
  • インフレーション
    • フィリップス曲線という経験則がある.通常は中央銀行はフィリップス曲線を所与として景気をコントロールしようとしている.
    • インフレは貨幣の持つ実質的な価値を下げることになる.ただし,それがどう経済に影響するかは,素朴な庶民感覚で判断していけない.
      • 教科書的には靴底コストやメニュー・コストといった煩雑さがインフレ・デフレのコストの代表例である.
      • ただし近年のデフレを巡る論争で特に焦点になっているのはそこではなく,名目金利の非負制約により実質金利を自然率と一致させられない,という点にあるようです.
    • 貨幣の役割
      • 欲望の二重の一致を回避し,取引決済を円滑にするためのかけがえのないインフラになっている.
      • 貨幣は預金も含む.取引決済に使えるのは現金だけではない.
      • 日銀の仕事について詳しくは,『日本銀行の機能と業務』やその他日銀の広報パンフレットによくまとまっているのでご覧あれ.かなり手強いが,白川前総裁の『現代の金融政策: 理論と実際』日本経済新聞出版社,も手元に置いておきたい.
    • 金融政策による景気の制御
      • 金利を動かし投資に働きかけることで,総需要を動かし景気を動かしている.ここでの議論はIS-LMモデルに基づいている.IS-LMは別途勉強してほしい.

コメントより
  • 「失業者がいないときはインフレでも人手不足で実質賃金は元に戻りそうだが,失業者がいるときは下がったままになりそう」
    • 非常に勘が良いですね.名目変数が市場メカニズムが想定するように動かないようなときには,インフレは実体経済にも影響が及びます.
  • 「インフレはよいと思っていたけど,実質的に貧しくなるので嫌いな人が多いのを初めて知った.でも市場メカニズムがうまく働けば,実質賃金は元に戻るので結局同じで,そんなに変わらないのかなと思った」
    • インフレ・デフレがなぜよい・悪いと言えるのか,多岐にわたる論点を丁寧に考える必要があると思います.一概にいいか悪いかの二者択一で判断しようとしないことが何より大切ではないでしょうか.
  • 「インフレの時は社会的にお金が回るので景気は良くなるのではないか?それともデフレのほうよいのか?」
    • 講義ではインフレは労働需要曲線にも労働供給曲線にも影響を及ぼさない,と暗黙に仮定していました.もしインフレで景気が良くなり,労働需要曲線が右方向 にシフトすれば,雇用・賃金におっしゃるようなポジティブな影響があると考えられますね.よいところに気がついたと思います.
    • ただ,インフレになるとお金が回るようになるかと言えば,私にはそれを正当化する理論がすぐには想像できないです.
      • (貨幣の流通速度が内生的に決まるモデルをよく知りません…)
    • 総需要・総供給モデルを学んだときにも注意喚起しましたが,「景気が良い→インフレになる」と「インフレになる→景気が良くなる」は意味が異なります.
    • デフレのほうがよいか,というとそうだという理論(フリードマン・ルール)がプロの間では一つのベンチマークだと思います.現在の日本にとってデフレのほうがよいか,については様々な議論があります.私自身はこれといって特定の信念や専門性を持っていないので何とも言えません.
  • 「インフレは経済でも財政でも上昇していることを表しているが,なぜそれが失業につながっていくのか?」
    • フィリップス曲線を頑健な関係だと認めれば,失業がインフレ率と密接な関係にあること想像が付きそうではないでしょうか.フィリップス曲線自体がどこから来ているのかを説明するのは少し厄介なので迂回させてください(たとえば価格を自在に変えられるわけではない企業の価格戦略が背後にあると考えられます).質問前半の意味はよくわかりませんでした.
  • 「インフレになると失業率はどうなるのか」
    • 下がるといいんですけどね.「失業→デフレ」という逆の因果関係もありえますし,データで検証するのは簡単ではないと思います.
  • 「M1などはものの取引以外にも使えるのか?」
    • 貨幣は単に取引決済をする以外にも使い道があります.価値を将来まで保存すること(価値保存機能)や性質の異なる財・サービスの価値を一つのモノサシで計れるようにすること(価値尺度機能)があると考えられています.
  • 「政府が赤字の場合,日銀はどこからお金を借りてくるのか?」
    • 政府が赤字をファイナンスする見込みがなくなった場合,お金を借りるというか,インフレが生じて貨幣を保有する主体から富を奪う,という形になるのではないかと思います.
  • 「紙幣などは年間いくらまで作ることができるのか?」
    • 実際のマネーの変化は,毎月日銀が公表しています(リンク: マネーストック統計, マネタリーベースと日本銀行の取引).M1からM3で見ると,およそ年率2~5%で増えているようです.
    • 限界でどのぐらいできるかというと,所詮はお札なので限界などなく,いくらでも刷ってばらまくことができる,とは言えます.ただし貨幣は貨幣でなくなるでしょうけど.
  • 「話が早すぎて難しかった」
    • 申し訳ないです.用意していた分をまるで消化できず焦ってしまいました.
  • 「あけましておめでとうございます.」「今年もよろしくお願いします」「テストに向けてがんばりたいと思います」
    • 今年度はあとわずかですがよろしくお願いします.