歴史学側から国際経済学を眺めた新書を読み終えた.Wallersteinあたりから歴史学も大きく流れが変わってきているようで(もとより大塚久雄などが「比較」を前面に出して歴史を叙述してきたのだが,もっと経済学者に参入の余地があるようなモダンな分析が主となっている),少しはフォローしておきたい.
秋田茂 (2012) 『イギリス帝国の歴史: アジアから考える』 中央公論
References:
秋田茂 (2012) 『イギリス帝国の歴史: アジアから考える』 中央公論
- インドや日本など,アジアとのつながりを明示しながら,パクス・ブリタニカを支える政治的・経済的ファクターを読み解く内容.
- ヘゲモニー国家としてのイギリスは様々な国際公共財を供給しながら,"rules of the game"を規定していた.その裏付けになるものが軍事力と経済力であり,この経済力を支えるキーがインドであった,とのこと.
- ただEichengreen and Flandreau (1997)は,中央銀行のLLR機能に注目して,イギリスの国際通貨システムにおけるヘゲモニー的立場に疑問を投げかけていたような…
- 20世紀には大恐慌とWWIIを経てアメリカに覇権が移っていったが,それでもイギリスは植民地などに政治的な影響力をすぐさま失ったわけではない.世界におけるイギリスの権力構造の推移とその多層性を簡潔に記したところが本書のおもしろいところだろうか.
- 既存の帝国史からすると野心的な試み?
- 読むにはbalance of paymentsなど学部中級程度の経済学や,80年代頃の国際政治学の知見が必要である.歴史学者に求められる資質もずいぶん様変わりしているようである.
- ただし経済学プロパーにはソフトすぎてかえって読みにくいかもしれない.因果関係には禁欲的にも踏み込まず,descriptiveな概観にとどまっているからだろうか.仮定が不明瞭で,未知数の数に比べて方程式が足りなさすぎるので,structuralに状況を理解することができない.かといって統計がinformativeに提示されておらず,読んでいて始終もやもやする.一般均衡理論家が閉じていないモデルを見たときの気分?
- 一般向けの通史という制約が効いているのかもしれない.「紙面制約」?
- もちろん私の前提知識不足によるところも大きい.
- 扱っているトピックはもとよりおもしろい.
- 在印英国人(EIC社員など)が本国に送金するための決済システムの展開が特に印象的.
- 奴隷の話がおもしろかったが,AcemogluやNunnやその周辺を読んでからのほうがより楽しめたかも.
- 関税や為替を巡るlobbyingの話が興味深い.が(Dixit-)Grossman-Helpmanのような理論モデルを想像しながら読むと肩すかしを食うことに.
- やんわりとWilliamson and O'Rourke (1999?) が批判されていた.
- もっとアカデミックなliteratureの流れを紹介してくれたほうが個人的には楽しめたかも.
- 書誌情報が果断にカットされている.のでプロは気になるところは結局自力で探索するしかない.
References:
- Barry Eichengreen and Marc Flandreau (eds.) (1997) The Gold Standard in Theory and History, 2nd ed., London: Routledge.
- Gene M. Grossman and Elhanan Helpman (1994) Protection for Sale, American Economic Review 84, 833-850.
- Kevin H. O'Rourke and Jeffery G. Williamson (1999) Globalization and History: The Evolution of a Nineteenth-Century Atlantic Economy, Cambridge: The MIT Press.
No comments:
Post a Comment