Saturday, March 7, 2020

新型コロナをめぐる雑感

いろいろ雑感.

連日ニュースを見て鬱々とするのは震災以来である.ストレス解消も兼ねてブログ更新.



新型コロナウィルスの影響で,MITでは海外出張が禁止されたらしい.沖縄のMITこと弊学でも海外渡航が当面禁止になり,私も海外出張がキャンセルになった.各方面にはご迷惑をおかけしました.(しかし代理店が問い合わせパンク中でまだ旅券がキャンセルできていない…)



先日プレジデントオンラインでどこかのコンサルが沖縄は観光収入が増えても観光関連産業の付加価値が増えないザル経済だ…という趣旨のザルな議論をしていたが,中国台湾韓国からの旅客が激減しても県経済への影響は軽微ということにならないかな.

しかし実際県経済への影響は軽微,というように見える試算はある.南西地域産業活性化センター (link: PDF) は詳細不明の構造モデル(NIAC計量経済モデル)を用いて,観光消費額-0.1兆円,名目県内総生産が-0.08兆円,と試算しており,県内総生産4兆円の2%程度しか打撃がない,という結論を導いている.
しかしこれは直近の日韓の入国制限うんぬんが入っていなさそうという以上に,学校の休校に伴う労働供給減少や,もろもろのイベント中止,県からの輸出への需要の落ち込み (たとえば電照菊みたいなところは今季は絶望的と思われる),雇用調整助成金など膨大な補償金をまかなう将来の税負担増,などもろもろの要因を加味していなさそうで,新型コロナのインパクトを過小評価しすぎている気はする.(実際「2~5月の入域観光客数、観光消費額の減少分のみが波及効果を含めて年間のGDPなどに及ぼす影響であること」と断り書きはある.)

一方沖縄県が公表している観光の波及効果では,観光消費額(0.8兆円)の約1.5倍の「経済波及効果」(1.2兆円)が生み出されているらしい.ざっくり言って沖縄経済の1/4は観光でできている.
仮に県外・国外の観光客が半減し観光消費額もほぼ半減すれば,0.6兆円が吹き飛ぶ計算になる.県内総生産4兆円の15%に相当する損失が観光だけで生じることになる.リーマンショックの比ではない.

個人的にはどちらも極端で現実は間ぐらいではないかと思っているが,しばらくは影響見極めモードである.



マスクやトイレット・ペーパーの買い占め・転売が「反社」と言われる風潮を見ると,少しもやもやするものがある.入門的な完備・完全競争のモデルだと裁定取引業者は需給のミスマッチを解消し,むしろいたほうがよい(が均衡では裁定取引する余地がなく業者は超過利潤を得ることができない)存在だと思われるからだ.

厚生上問題になりそうな点は,転売そのものというより買い占めのほうだろう.買い占めで供給量を絞るからこそ,独占的な高価格をつけられるようになる.独占価格はもちろん非効率なものだろう(そして妬みも買う).

では次の問題は,なぜ需要が高まったときに,本来の供給主体 (薬局など) でなく(往々にして匿名の)裁定取引業者がこうした行為を取るのか,であろう.
その答えは,薬局などは「評判」を気にしており機会主義的な行動ができない,というものになるだろう.一過性の需要ショックに便乗して「評判」を失うと,騒ぎが収まった後に損をする.匿名の裁定取引業者は個人で数十万円もうけたらラッキーで終わるが,薬局は数十万ぽっちのはした金のために消費者の信頼を失うことはできない.
薬局などは,評判を気にするからこそ,裁定取引業者が転売しているにも関わらず価格を据え置きにすることでかえって信頼を得ることができるので,それがまた裁定取引の余地を生み出してしまう.完全競争だと裁定取引は均衡から一時的に外れた状態だろうが,評判形成のメカニズムを考えると裁定取引が起こる均衡も出てくるかもしれない.

裁定取引業者は,情報の非対称性や不完備契約といった摩擦があるもとでも健全な市場取引を確保しようとする業界の努力を踏みにじっている,と考えられているのかもしれない.

Monday, January 27, 2020

資本減耗率の地域間格差と沖縄の経済成長


沖縄の成長がなぜいまいちか,は従来から様々な議論がある.本エントリは,資本減耗率がその一因ではないか,という話.(というかざっくばらんなアイディアメモ.)

私は以前から,沖縄は資本減耗率が他地域よりも高いのでは,という漠然とした予感を持っていた.台風は多く,湿気もひどい.町中の建物は那覇の都市部を除きボロボロだし,車は定期的に洗車しないと塩害でやられてしまう.沖縄は持ち家比率が低いが,所得・資産が少なく借入制約がキツいという理由もあろうが,メンテナンスのコストが高く耐用年数が短い,という事情もあるかもしれない.


Hsiang and Jina (2015 AER p&p)では,熱帯のサイクロン(台風含む)が資本減耗率に影響し,それが経済成長率に影響することを指摘している.

Hsiang & Jina 2015, Figure 1.
上図は論文の図1である.赤い部分ほどサイクロンの平均風速が高い地域になり,沖縄は赤い部分に含まれる.この図を見るとと,サイクロン・ドリブンで減耗率が高くなり,資本蓄積のスピードを遅らせそうな予感がしてくる.
雪国は雪国で資本減耗率が上がるというより資本稼働率が低くなりそうな気もするが,地理的条件が低成長に寄与する一つのチャンネルが何やら見えてくる.

地域レベルの資本ストックのデータを作るときには,減耗率の地域間格差は考慮されていない.たとえばRIETIのR-JIPデータベースだと,全国版と同じ(産業別)減耗率を仮定している模様(詳細未確認).
R-JIP 2017で,実質資本ストック/マンアワーをプロットすると,下図の通り.
都道府県別のK/L. 2012年,産業計.
全国が真ん中あたりにある黒棒で,沖縄は上から3番目のオレンジ色だ.
沖縄が全国3位の資本豊富地域とは考えにくいよね…

R-JIPを使って都道府県別に成長会計をやると,沖縄はTFP成長の寄与度が際だって低くなるらしい.
あまりに極端なので計測エラーではないかと受け止めていたが,エラーの源泉は資本減耗を過小評価し資本ストック成長を過大評価しているため,と考えるとある程度しっくりくるかもしれない.

Reference
  • Hsiang, Solomon M., and Amir S. Jina. 2015. "Geography, Depreciation, and Growth." American Economic Review, 105 (5): 252-56.
  • 徳井丞次他 (2013) 「都道府県別産業生産性(R-JIP)データベースの構築と地域間生産性格差の分析」RIETI Discussion Paper Series 13-J-037.

Monday, August 5, 2019

経済学入門II・経済学I, 2019

諸事情で今年新しく持つことになったミクロの入門講義の雑多な振り返り.
  • 2つのクラスでAcemoglu-Laibson-Listのミクロ編を元ネタに使った.半年でカバーできたのは以下の部分.
    • Cahpter 1: 経済学の原則と実践
    • Chapter 3: 最適化
    • Chapter 4: 需要,供給,均衡
    • Chapter 7: 完全競争と見えざる手
    • Chapter 8: 貿易 [福祉のみ]
    • Chapter 9: 外部性と公共財 [法経のみ]
    • Chapter 13: ゲーム理論と戦略的振る舞い [福祉のみ]
  • 入門講義をスライドだけでやったのは個人的に初めての試みだった.レジュメ+板書よりカバーできる範囲が広まるものの,不正確な記述が増えるので教科書も合わせて読んでほしいという思いを強くした.ALLミクロは現時点では翻訳されていないので,学生が買って読める教科書ではないという点ではいまいちだったかも(訳されていても学生は買って読みそうにないが…).
  • ALLミクロはその他いくつかの理由で使いにくかった.まず,ネタがちょっと古い.たとえば「Facebookはタダか?」では今どきの学生はFacebookやってないので代わりにInstagramのデータを探してくる手間がかかるとか,「ベネズエラのガソリンは激安」ってハイパーインフレの真っ最中やんけとか.
  • 経験主義が大事,というわりに,エビデンスの例はわざわざ講義で時間使って紹介するほどじゃねーなというものが多かった気がする.ただ,結論めいたことを示す,というよりオープン・クエスチョンを挙げたり,自分でやったフィールド実験を紹介したりしており,学生が自分でコラムを読めば知的に刺激がありそうではあった.
  • 微妙に回りくどく,見通しが悪い.たとえば無差別曲線をスルーして予算制約だけで効用最大化問題を説明する,数学をすっ飛ばしてFOCを説明する,など,意図はわからないでもないがなんだか中途半端な印象がある.教える側がいろいろ補足する必要が,他の定番テキストに比べて大きい気がした.
  • とはいえ,Hotellingモデルでいう線分の真ん中あたりにある入門テキストの中では,行動経済学・実験経済学もよく組み入れられている点では随一であると思う(そりゃそうだ).今後改訂を重ねてもう少し使いやすくなることを期待.
  • コメントの中で,先生はAdam Smithが好きそう,みたいなのがあった.ALLミクロにはほとんどSmithは出てこない.私が勝手に何度もSmithを引き合いに出しただけなのだが,入門の題材にSmithはわりとハマりやすいと思った.とはいえ私はSmithの著作なんてまるで読んだこともなくたいして思い入れはないのだが….
  • 期末試験がひどいできだった…たくさんの恨みを買うことになりそう.
    • 教育の質を一定以上保証するためにも,ある程度譲れないラインがある(たとえば需要曲線を読解できる,など).そこに多くの人が到達できるようもう少しエクササイズをみっちりやってもよかった気はする.
  • 入門ミクロなんて誰がやっても同じでしょ,と思っていたけど,実際は教える側の力量がシビアに試される気がした.
  • 教職向けの科目を担当した都合で,教員採用試験の問題を初めて目にした.経済学に関しては悪問ばかりで眉をしかめた.素人が片手間に作っているのではないかと思われた.教採対策を意図した講義をするのはかえって不誠実な気がしたので,8割ぐらいは普通のミクロ入門を叩き込むことにした.

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年度末にメインで使っているパソコンが壊れ,予算の都合で買い換えられない状態が半年も続いてしまった.教育も研究も,特定のマシンと特定の予算に依存しすぎないように環境を考えねばならないと痛感.



Saturday, April 13, 2019

富川『アジアのダイナミズムと沖縄の発展: 新次元のビジネス展開』

読んでいてイライラした,という読書メモ.
  • 富川盛武  (2018) 『アジアのダイナミズムと沖縄の発展―新次元のビジネス展開』琉球新報社. [ Amazon ]
現役副知事が,県の立場から離れて研究者の視点から書いた,という沖縄経済本.研究者を名乗るなら相応の勉強をしてくれ,いっそのこと県政のプロパガンダだと開き直ってくれ・・と思った.

3D棒グラフにイライラしながらページをめくっていたが,次の記述でストレスがピークに達し,このブログを更新せざるを得なかった.
しかし,経済学は合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提しており,文化の異質性の概念が欠落し,同質性(ホモ)を前提に組み立てられている.唯一の物差しは貨幣タームである.人間の行動は,単に経済的要素のみによるのではなく,伝統,文化,宗教,風土という「エトス」によって決定される.それにもかかわらず,経済的合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提に展開したところに,これまでの経済分析の問題があった.人間,文化,風土の視点から見ると,沖縄が発展する可能性は大なるものがあると思われる. (p.37)
学部生でもわかる初歩的な誤解をばらまくのは勘弁していただきたい.
  • homo economicusのhomoは,「同質性」(ギリシャ語のhomos) でなく,「人間 」(ラテン語のhomō) の意ではなかったか(?).現代経済学は同質性を前提にして組み立てられてはいない.同質性を仮定するどころか,観察できない異質性があることを前提に分析するのは珍しくない時代である.
  • 「合理性」にはいくつかの解釈があるが,「経済人は合理性のみによって行動する」ものではないし,「エトス」は合理性と矛盾するものではなくそれを加味した分析は少なくない.
  • 「唯一の物差しは貨幣ターム」ではない.貨幣や余剰で考えてよい状況を支える仮定と,合理性や文化の異質性を捨象することは関係ない.オーソドックスなモデルは任意の財を価値基準財に設定することができるどころか貨幣が存在しない.

ここだけではなく本書全体に渡って,専門用語を適当に散りばめ(その用法は間違っているか不明瞭である),論理の飛躍だらけでほとんど何も言っていない文章で,素人をなんとなくわかった気にさせている.詐欺師の手口と大差ないと思う.

おかしなところはたくさんあるが,もうひとつ異常すぎて笑った箇所を指摘しておきたい.
・・・マクロ的な技術進歩を示す生産変動要因分析(産業連関分析)を用いて分析したい.・・・1975--2000年の比較をしてみよう.・・・技術進歩による生産増加は,全体でマイナス1兆8791億7700万円(1975年価格)となっており,技術進歩が見られない. (p.238)

根本的に分析が間違っているような..R-JIPではたしかに沖縄のTFP成長の寄与は他地域より極端に少ないようだが少なくともマイナスではない.現在NGDPは4兆円程度であるのにそのマグニチュードは...2005--2011年で見ても「技術進歩」による効果はマイナス521億円らしい(p.16).

「若いときから沖縄の振興に関する国,県等の委員会等に参加してきた」筆者には,次の振興計画を考える前に,破滅的な「技術進歩」を食い止められなかった責任を取られてはと思うのだがどうだろう.


Tuesday, April 2, 2019

伊神『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』ほか

もう少し読書メモ.
  • 伊神満 (2018) 『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』日経BP社. [ Amazon ]
2018年のベスト経済書らしく,とてもおもしろい.ジャーゴンを徹底的に噛みくだいて説明,ユーモアにあふれて例も豊富,入門書としてこれ以上の本はなかなかないと思う.

さすがは五大誌で,問いの設定が単に面白いだけでなく,分析の細部まで丹念に検討されている.原論文読んでない(弊学ではJPEの最新分は購読していない…)のでディテールはわからないが,Cournotを仮定(仮定を正当化しやすいカテゴリに注目)し,需要関数を推定できるIVを持ってきて(exclusion restrictionってそういう解釈でいいの?),FOCから限界費用を楽々バックアウトし(新製品の限界費用かなり低いけど現実的?),扱いやすくフィットもよいモデルができた,計算コストが大きい推定も突破できた,そして経営学的なストーリーを経済学的な方法論で批判的に検証できた,あたりが売りなのだと思う.

 クリステンセン(私は未読)のもやもやとしたストーリーのもやもやとした部分をたびたび批判しているが,時間不整合性を許容した(双極割引など)動学モデルを推定して,その効果よりカニバリゼーションがでかいことを示したようには見えなかったが….それほど差別化されておらずカニバリゼーションを内部化する効果が大きい新製品をリリースしているからには,状態を遷移するコストkappa (定数?) が低いはず,という話だが,kappaは時間不整合性のコストを測っているのだろうか? (時間不整合性を許容したモデルの挙動をそうでないモデルのkappaで表すことができるのだろうか?) (あとkappaは流動性制約と不確実性・不可逆性からくる,既存企業ほど様子見をする便益が高いというオプション価格分や,イノベーションのエフォートコストもひっくるめて捉えているように読める.)
kappaは市場構造にも大きく依存していると思われるので,定性的な議論を定量的に論駁したといってもHDD以外の世界については未解決(だしそれは論文の射程外)にとどまっているかなと.たとえば,昔の研究手法でがんばり続ける老教授(偉いと思う)は,自分の過去の論文を否定することになるから,というより新しい分析技術に能力的にキャッチアップできない(kappaが加齢とともに上昇)から,だと思われる.

  • 根井雅弘 (2009) 『経済学はこう考える』筑摩書房.  [ Amazon ]
  • 根井雅弘 (2011) 『20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ』筑摩書房. [ Amazon ]
ALLミクロことAcemoglu-Laibson-Listを読みながら講義資料を作っていて,経済思想史の話がほとんどない(スミスとハイエクがちょっと出てくるぐらい.もちろんパレートやピグーの名前はあるけど)ことが気になっている.
ALLミクロでは経済学的な問いとして「大学を出るのはペイするのか?」と大卒プレミアムの推定を挙げており,たしかにそれも大事な話で私も別の授業で毎年話をするのだが,経済学ってお金儲けの世知辛い話ばかりしている…と早合点されてしまいそうでなんだかなぁという感じである.

そんなわけで,入門講義ではスミスやマルクスやケインズやハイエクみたいなところも紹介するだけしようと思っている.そこで,変なことを教えないように,経済思想史のハンディな新書2冊をぱらぱら見た.2冊は連作で,『経済学はこう考える』はケインズとそれにつらなる人々を中心にし,『20世紀をつくった経済学』はシュムペーター・ハイエク・ケインズの3人に絞ったものである.いずれも,いかに自分がケインズなどの偉人を単純化し定形化し誤解していたかがわかって恥ずかしい限りである.

この2冊はジュニア向けということで,本当にハンディで,短時間でさらっと読めるところがよい.これが猪木『経済思想』や間宮『市場社会の思想史』だととてもいい本ではあるがうちの学生にはお勧めしにくい.

『20世紀をつくった経済学』のほうでは,シュムペーターが哲学者アンリ・ベルクソンからイノベーションの着想を得ていることが指摘されている.『経済学はこう考える』のほうでは,ケインズやマーシャルが狭い意味での経済理論ばかりでなく,歴史学や社会学などに深い教養を持ち,スケールの大きい思索をしていたことが指摘されている.精緻な数理モデリングや丹念なデータ分析はもちろん大事なのだが,それだけではいかんのだ.ALLやその他最近の入門書(神取除く)みたいに,経済学の歴史的な背景や哲学や問いをすっ飛ばしてしまうのもどうなのかなと思う.



以下は単なる思い出話.ちなみに,私自身が経済学に入門した頃に読んだ初めの一冊は(単なる歴史オタクだった高校生の頃眺めたワルラスや野呂栄太郎を除くと),
  • 酒井泰弘 (1995) 『はじめての経済学』有斐閣. [ Amazon ]
である.親父ギャグ満載でそれこそ親父世代の本で,読んだ当初はお子様扱いするんじゃねーという気持ちもあったが,ここで学んだものがミクロを理解する基盤になっているのは今でも感じるし,教える立場になって再読するととてもよい「入門の入門書」だと思った.経済学史上の偉人もたびたび紹介されている.「マルクスが死んだ年に,ケインズとシュンペーターと高田保馬が生まれた」みたいなコラムがあるぐらいだ.

あと大学に入った当初は,あまり知られていないタイトルだが
  • Susan J. Grant (2000) Stanlake's Introductory Economics. Longman. [ Amazon ]
を読んだ.こちらは無駄に分厚く読むのはしんどかったが,経済学者の偉人がたびたび紹介されている他,簡潔でいて悪くない練習問題が豊富だったりする.

 大学1年生の頃は講義の教科書以外に,学部向けVarianを読んでいた(マクロだとSamuelson-NordhausやBaumol-Blinder (最近の版はSolowも加わっているらしい)).
Varianは,和訳でちゃんと伝わるかわからないが,文章の切れ味がすさまじい.ALLミクロは,対象読者が違うので比較するのはフェアでないが,Varianに比べるとかなり「だらしない」印象を受ける.
Varianには思想や哲学の話はまったく出てこないし,「エビデンス」もあまり出てこない(顕示選好はしっかりあるけど).18歳の頃はVarianが何を言っているのかよくわからないままページをめくっていたものの,中途半端なやさしい入門書ばかり読んでいたら博士課程まで行ってなかったと思う.
若いうちに,Varianぐらいガチなものと,酒井のような柔らかいものと,両方通っておいてよかったなと.

Saturday, March 23, 2019

安里『未来経済都市 沖縄』ほか

カリキュラムに振り回されて,次年度は授業準備でひどく忙しくなる予定.

忘れないうちに最近の読書記録を残しておく.
  • Richard Baldwin (2019)  "The Globotics Upheaval: Globalisation, Robotics and the Future of Work" Weidenfeld & Nicolson [ Amazon ]
 技術変化+グローバル化 ("globotics"と呼んでいる) というよくある話の一般人向け読み物.今起こっていることは変化のスピードが急速で,また不公平なものであり,社会を揺るがしている.この新たな産業構造変化を,フェアでequitableでinclusiveなものにしなければならない.AIに簡単に代替されない仕事は対人コミュニケーションが必要なものなのであろうから,フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取りやすい都市こそがいっそう経済の中心となる..というよくある話をつらつらと.
前著The Great Divergenceとスケール感は似ているが,前著に比べて理論・実証とも薄まった印象.

  • 安里昌利 (2018) 『未来経済都市 沖縄』日本経済新聞出版社. [Amazon]
県内のビジネスマンなら誰でも知ってる沖銀元会長が書いたコラム集.県内のビジネスマンなら誰でもどこかで小耳に挟んだことがあるような話をまとめたミニコラム集.こうした生きた話は象牙の塔の住人には書けない.沖縄に新たに転勤してきた県外人が読むとちょうどよいのではないだろうか.

ただ,個人的には話が薄すぎてそれほどおもしろいものではなかった.「おわりに」で筆者自身のキャリアが語られているが,沖縄経済時事の話よりもこちらのほうがよっぽどおもしろい.

おもしろくないのは,議論が浅く緩いためである.たとえば,シンガポールは資源のない小国だが「戦略的に国家運営を行ってきたことが背景に」あり,「「地の利」を活かして」「ヨーロッパへのゲートウェイ」となることができたため豊かである,そして沖縄は「同じように,さまざまな試作を実施することで,世界中の企業を誘致することができ」,「人口の流入によって国際都市を目指すことができ」,「シンガポール以上に大きな反映の可能性を秘めている」,とのことである.

シンガポールでうまくいった(ように見える)政策は本書で示唆されるように沖縄にも適用できるのだろうか.あまりリアリティを感じない.たまたまカンファレンスでシンガポールに行く途上の機内でゆるふわな文章を読んだのでとてもモヤモヤしてしまった.
  • 岩崎育夫 (2013) 『物語 シンガポールの歴史: エリート開発主義国家の200年』中央公論新社 . [Amazon]
ちなみにシンガポールの歴史についてはこの新書が読みやすくとてもおすすめ.中公新書の「物語○○の歴史」シリーズはだいたいハズレ無しだがその中でも出色の出来だと思う.

この手の本を一冊読んでおくだけど,シンガポールを真似して我々も発展しよう,などという素朴な思いつきを書籍として堂々と公刊するようなことにならなくて済むと思うのだが.

あと安里(やその他県内でよく耳目にする言説)では,LCCの使うリージョナル・ジェットは4000km圏内での飛行が主である中で,那覇空港から4000km圏内のマーケット・サイズが大きい(かつ日本国内である)ことを強調している.
たしかに現状はそうなのだろうが中長期的にはどうなのだろうか.将来的に4000km以上飛べる廉価な機体が普及すれば航空業界のゲーム・チェンジャーになるだろうし開発・導入するインセンティブはあるだろう.現時点でもAirAsiaは4000km以上飛べる機材を運行している.
また,同じ同心円を描くなら沖縄よりも台湾や香港の方がカバレッジが広い(たとえばジャカルタは那覇からは届かないが台北からは届く)上,英語・中国語が使え言語の壁も低い.
そもそも,市場アクセスという観点からは東南アジア以上に大陸中国のほうが今も近い将来も重要なのだから,中国をスルーした議論はあまり意味がないと思う.本土からは,沿岸部はもとより内陸部までLCCはすでに就航している.中国向け輸送において沖縄に格別な優位性があるとは考えにくいのだが.
輸送上のアドバンテージは素朴に地図上で同心円を眺めるだけではよくわからず,実際のバリュー・チェーンに合わせて考える必要がある気がする.
ハブはたくさん必要ないからハブなのであって,香港上海台湾をしのぐ立ち位置でなければハブとしての成功は限定的なものにとどまるのではないだろうか.

  • 佐々木彈 (2017) 『統計は暴走する』中央公論新社 [Amazon]
統計リテラシーを磨く本.とても刺激的で面白い.第一線で活躍する研究者が実証のペーパーをセミナーで見聞きするときに,どういった観点から攻めているのか垣間見ることができる.

  • Daron Acemoglu, David Laibson, and John A. List (2016) "Economics"  東洋経済新報社  [Amazon]
「ALL」こと一流経済学者たちの新しい入門テキスト.ミクロの入門講義を新たに担当する予定なので入手.早く和訳してくれないと教科書には指定できない…

経済学の三大原理「optimization / equilibrium / empiricism」から始まる.従来のテキストに比べてempiricismに重きが置かれ,新しい実証研究が多数紹介されている.授業の元ネタによさそう.
しかし,私が教えるクラスでは,最適化もデータ分析も消化不良に終わりそうな気がしている.ラグランジュ乗数法でごりごり解かせるわけではないので,数学的なハードルはそこまで高くないかもしれないが.
あと,若干寄り道が多いので実際の授業では内容をかなり取捨選択する必要がありそう.

empiricismの例で,付け値地代の推定が紹介されていて,単一中心都市モデルおじさんとしてはspark joyしたけど,授業の素材としてはかなり使いにくいものであった…

  • 本橋 智光 (2018) 『前処理大全: データ分析のためのSQL/R/Python実践テクニック』技術評論社  [Amazon]
前処理をいいコードと悪いコードを対比しながらつまびらかにしてくれる,ありがたい本.おかげでデータ・ラングリング能力が目に見えて向上した.後半には空間情報の扱い方も少しだけ載っている.例題はビジネス実務向けだが,研究者にも有用だ.SQL,R,Pythonのうちどれか1つ知っていれば読めるはず.


  • John Yinger (2018) Lecture Notes in Urban Economics and Urban Policy. World Scientific Publishing Co. [ Amazon ] 
大学院向け都市経済学の講義ノート.箇条書きのスライドをそのまま本にした感じ.AMMなど伝統的な都市経済モデルベースで,代表的なトピックの理論と実証がまとめられている.本人のウェブサイトにアップされている講義資料を見たほうがいいような…

  • きはしまさひろ (2016) 『イラスト図解式 この一冊で全部わかるサーバーの基本』SBクリエイティブ. [ Amazon ]
サーバーについてお勉強.この本は見開きの半分はイラストになっていて,横文字が苦手なド素人にはとてもありがたい.イラストといっても,マンガでわかるなんとかみたいなオタクっぽいのじゃなく,無駄な情報がないのがよい.
わかりやすいといっても,馴染みのない横文字のオンパレードなのでサクサク読めるわけではない.普段から使っているサービスと対応付けながら少しずつ理解を重ねていく必要がある.

  • John D. Kelleher, Brendan Tierney (2018) "Data Science" MIT Press.
竹村先生の岩波新書赤と合わせて,この手の入門講義をするときには役立ちそう.勉強不足なビジネスマン向けの煽り本ではないところがよい.テクニカルな話はほとんどなく(NNを説明するためにちょっと一次方程式が出てくるぐらい),フィールドの空気感やエッセンスをほどよく広く浅くカバーしている.
(機械学習勉強するならこういう入門書はすっ飛ばして,Hastie, Tibshirani and Friedman (無理ならJames他)に目を通してから,DNNや強化学習を追加で学ぶのが早いと思われる.)
  • 西水美恵子 (2009) 『国をつくるという仕事』英治出版
開発の啓蒙書って意外に選びにくいのだが,これはかなりよい.学生に読んでほしい.

  • 小林多喜二 (1929) 『不在地主』 中央公論. [ Amazon ]
都市経済学者はタイトルだけで買いたくなる.が途中で飽きた…
プロレタリア文学.北海道を舞台に,不在地主という資本家(とそのエージェント)と労働争議で戦う小作農の話.

  • 濱下武志 (1996) 『香港: アジアのネットワーク都市』 筑摩書房. [ Amazon ]
これも途中で飽きた…返還前に書かれたもので古い.香港の「位置づけ」「枠づけ」をし直してばかりで,その新しい視点から具体的に何を発見できるのか,既存のliteratureにどういう形で貢献したのかが,回りくどくて全然頭に入ってこない.
remittanceの歴史を追いかけてきたという話はワクワクしたのだが…

Monday, March 11, 2019

Mathematica用の効果音

Mathematicaは音を鳴らすことができる.
たとえばコードの最後の行に次のコマンドを入れておくだけで,計算終了時にピーッという音が鳴る.

EmitSound@Play[Sin[2 Pi 880 t], {t, 0, 0.5}]  (* finish *)

Sachiko Mみたいに淡々と正弦波を鳴らすのも好きなので私はこれを何年も使っているのだが,味気ないので計算の待ち時間を利用して別のものも作ってみた.

sn[list_, length_: 1] := SoundNote[list, length length4 ] 
(* define *)
sound1 := Block[{length4 = 0.2}, EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"D3", "F", "C5"}], sn[{"F", "C5"}], 
   sn[{"A3", "F", "C5"}], sn[{"D"}, 1/2], sn[{"D", "F", "C5"}],
   sn[{"F", "C5"}],  sn[{"D"}, 1/2], sn[{"A3", "F", "C5"}, 1/2],  
   sn[{"D"}, 1/2], sn[{ "F", "C5"}],
   sn[{"C3", "E", "B"}], sn[{"E", "B"}], sn[{"G3", "E", "B"}], 
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{"C", "E", "B"}], 
   sn[{"E", "B"}], sn[{"C"}, 1/2], sn[{"G3", "E", "B"}, 1/2],  
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{ "E", "B"}]
   }] ]
(* run *)
sound1

無敵になれた気がしますね.
エレピの音を読み込むのに初回実行時のみ少々時間がかかるので注意("ElectricPiano"を単に"Piano"とすればおそらく読み込み不要).

もう少し短いのだと,

sound2 := Block[{length4 = 0.225},EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"G3", "G4", "B4"}, 1/ 2],  
   sn[{"D5", "F5"}] , sn[{"G3", "D5", "F5"}, 1/2] ,
   sn[{"G3", "D5", "F5"},  2/3] , sn[{"A3", "C5", "E5"},  2/3] ,
   sn[{"B3", "B4", "D5"},  2/3] ,
   sn[{"C4", "G4", "C5"}, 1/ 2], sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{"G3"}, 1/ 2], 
   sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{ "C3", "C4"}]
   }] ]
(* run *)
sound2

もちろん著作権は私のものではない.