Saturday, June 3, 2017

沖縄の業界地図2017 forthcoming

すでにテレビで取り上げていただきましたが,もうじき『沖縄の業界地図2017』が出ます.
    Qプラスリポート 大学生が作った“沖縄の業界地図”とは

明日から県内の書店に並び始めるようです.近日中にAmazonや楽天Booksなどオンラインでも買えるようになるようです.


こういう表紙です:

本の販促用ウェブサイトも用意しました.どういう本かチラ見できます.
    『沖縄の業界地図』特設ページ 
まだところどころ工事中ですが,時間のあるときにテコ入れします.学生がfacebookやtwitterでも広報活動をしているようですが温かく見守ってあげてください.

基本的に前著『沖縄の業界地図』(Link 特設ページ) のアップグレード版です.2年間の準備期間を経て,今回はところどころパワーアップしています.
  • ボリュームup… 掲載企業数が800社程度から約1300社へ,ページ数が118ページが160ページへと増えています.
    • ページ数が増えたせいで限界費用が高まり,価格もわずかばかり値上げいたしました.ご迷惑おかけします.
  • インタビューも充実… 前著に比べて企業に突撃インタビューした分が増えています.象牙の塔からはわからない企業の生の声をお楽しみください.
コンセプトは前著を踏襲しています.前著と重複するところも多々あり目新しさは霞んでいるかもしれませんが,前著を手に入れた方もぜひ手にとってご覧ください.


一方で,前著には載っていたけど今回は載っていない業界・企業もあります.何らかの恨みや含むところがあるわけではなく,単にこちらの能力の限界で調査し載せる余裕がなかっただけです.申し訳ありません.

本書は2015年度から2016年度にかけてのゼミ活動の成果であり,およそ2017年2月頃までに入手できた情報に基づいて書かれています.財務情報は主に15年度のものです.16年度の決算も次々発表されている時期ですが,最新のものというわけではないのでご注意ください.この冬・春は研究に時間を割いていたこともあってリリースが予定より若干遅くなりました.
(最後のページに執筆者一覧がありますが,年度が1年ずつ間違っていました…学生諸君,すみません.)

前著よりも教員の介入が減っています.学生にかなりの程度任せっぱなしにできたので助かりました.先行研究があるってすばらしい.プロの分析に期待している方には少し物足りないかもしれませんがご容赦ください.前著よりは都市経済学色が控えめになっています.

今回インタビューした中にとあるIT企業の社長がいます.彼のほうが私よりも正確にeconomicsの核心を語ってくれています.これにはとても驚きました.学生が書いてきた原稿はだいたい朱筆で埋め尽くされるのですが,このインタビューは私のほうではほとんど何も触っていません.教員の出る幕なしです.詳しくは直接手にとってご確認ください.


いったいどういう本なのか改めてちゃんと紹介したほうがいいようにも思いますが,前著と同じ路線なので,前著が出た頃の記事を参照ください.
    沖縄の業界地図forthcoming

今やたらめったら忙しくてちゃんと紹介する暇がないので,前著が出た直後に,我がゼミの紹介文として弊学の広報誌(15年の夏頃)に寄稿した文章をそのまま以下に載せます.


沖縄ビジネス界に旋風を起こす
多くの大学教員は「夏休みは仕事がなくていいはずよー」と言われた経験を持っている。たしかに、長期休暇がやってくると教員たちの淀んだ目が輝きを取り戻す。でもそれは暇を満喫できるからではなく、研究を専らにできるかけがえのない時間だからだ。研究者にとっては仕事がないどころかむしろ「かき入れ時」なのである。

夏休みほどではないにしても、ゴールデン・ウィークもワックワクな瞬間だ。毎日研究室に缶詰、ムフフ。でも、今年は研究以外にも楽しみがあった。五月四日、ゼミで作った書籍『沖縄の業界地図』が県内の書店やコンビニに並び始めたのである。

一年前の四月、春粧のみぎり、最初のゼミ。私は黒板にでかでかと「本」とだけ書き殴り、「今年の目標はこれ。本を作ろう。売れる本を作ろう。売ろう。」と昂然と宣言した。戸惑いを隠せない学生たちを尻目に、担当範囲やプレゼンテーション(と懇親会)のスケジュールを決めて、プロジェクトは動き出した。人手が必要なこともあり、豊川明佳先生のゼミと共同で進めることとした。

『沖縄の業界地図』は名前の通り、毎年書店を賑わす「業界地図」のローカル版だ。県内の様々な業界の勢力図が一望できるようになっている。企業人や就職活動中の学生を中心に、需要は間違いなくある。だが供給がなかった。全国的にもユニークな取り組みに挑む好機だ。

教員が果たすべき使命は、沖縄の未来を切り拓く人材を育むことだ。何か新しいアイディアを産み出し形にできるよう、創造力と実行力を鍛えねばならない。我々のゼミは、アイディアを実現するというイノベーティブな知的営為を学生が実体験する場になった。試行錯誤を繰り返すことを厭わず、未知の事態に慌てず、チームと歩調を合わせ、前向きに仕事に取り組む、新聞にも日々目を通す。こうした技能を楽しみながら伸ばす機会を提供することができたと自負している。

我々はただの思い出作りではなく、リスクを背負って市場に価値を問うという真剣勝負を仕掛けた。二千部を完売するのに一ヶ月とかからなかった。美栄橋ジュンク堂では三週連続ランキング一位を記録した。ありがたやー。売れるものを作ろうという目標は見事達成されたのである。



1stアルバムは初期衝動に溢れた伝説の激レア名盤,だけど2ndでいろいろ見失ってコケた,みたいなよくある若いバンドみたいにならないことを祈ります.
1stは沖縄に対する「新感覚」さが一つの魅力になっていました.今回は1stを踏襲しているので「新感覚」さは薄れているかもしれません.さしずめKing Crimsonの「ポセイドンのめざめ」でしょうか…?
(ちなみに今回音楽ネタがところどころ紛れてますが,全部学生の仕業です.本当です.)

なお,3rdは出しません.そろそろ別のイノベーティブなことに取り組みたいと思っています.何より研究にもっとエフォートを割きます.

Saturday, April 8, 2017

後期の読書2016

いろいろ忙しく各所で不義理にしています申し訳ありません.生存報告も兼ねて学期が変わる前にblogをいったん更新.

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教科書をご恵投いただきました,ありがとうございます.
  • 小川光,家森信善 (2016) 『ミクロ経済学の基礎 【ベーシック+】』中央経済社. [Amazon]
入門ミクロのテキストはいろいろと目を通していますが,これは私好みどんぴしゃりの内容です.例も練られており,使いやすさ抜群です.他の「ベーシック+」シリーズと違ってカラー印刷なので読みやすさも抜群です.学生におすすめしておきます.

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更新のついでに,ここ約半年の読書メモを記しておく.普段は論文の読み書きが主なので所詮はゆるふわ読書にとどまっている.

もともと営利目的のblogではないが,今回試験的にAmazonのアフィリエイト付きにしてみた.定期的に更新する金銭的インセンティブになるかもしれない.アフィリエイトが嫌いな方もいるだろうから,画像抜きのリンクのみにしてある.私にコーヒー代ぐらい恵んでもいいよという奇特な方は[Amazon]と書かれたリンクをクリックしてお買い物をお願いします.

  • Thomas Gray (1751) An Elegy Wrote in a Country Church Yard and The Eton College Manuscript. [Amazon]
墓場派なる18世紀イギリスの詩人の代表作エレジー.名もないちっぽけな人生の中にある尊厳を端正に描きあげる.Fair science frown'd not on his humble birthとのことだ.
(まったく関係ないけど,大阪堀江にあった暗黒音楽専門店graveが昨年閉店してしまったようですね.お疲れさまでした.)

  • 金子智朗(2009)『「管理会計の基本」がすべてわかる本』秀和システム. [Amazon]
管理会計をまったく知らないので流し読みしてみた.本自体は初学者にとってとてもわかりやすいと思うけど,経済学畑の者にとってはもっと数学でゴリゴリ一般化した議論をしてくれたほうが見通しが良い.

  • Robert C. Feenstra (2015) Advanced International Trade: Theory and Evidence 2nd ed. [Amazon]
大学院向け定番教科書の改訂版.2003年の初版に比べ,比較的最近の主要なモデル(の簡易バージョン)の解説が増強されており,初版をそこそこ読んだ人でも買い直すのはありだと思う.

  • Alain de Janvry and Elisabeth Sadoulet (2015) Development Economics: Theory and practice. [Amazon]
開発経済学のわりと新しい学部向けテキスト.包括的で読みやすくいい感じ.前年度担当した沖縄経済論はこのテキストに随所で影響を受けている.

  • 曽道智, 高塚創 (2016)『空間経済学』東洋経済新報社. [Amazon]
理論NEGのコンパニオンとして,本書は10年以上マストアイテムの地位を占め続けると思う.
  • 清田耕造 (2016) 『日本の比較優位: 国際貿易の変遷と源泉』慶應義塾大学出版会. [Amazon]
伝統的な貿易理論の実証.プロでなくても読めるように構成されている.見習って私も大きなテーマに挑戦したい.

  • 原田隆之 (2015) 『入門 犯罪心理学』筑摩書房. [Amazon]
犯罪心理学の胸躍るサーベイになっている.心理学は経済学とエビデンス重視の姿勢を共有しており,話が早い.重回帰あたりまで理解していれば一般学生でも楽しく読めるはず.典拠となる論文で使用しているであろうデータがしばしリッチすぎる気がする.

  • 永田靖 (2003) 『サンプルサイズの決め方』朝倉書店. [Amazon]
書名通り検出力に絞った教科書.説明がとても丁寧.手元に置いておきたい.

  • 津田博史, 吉野貴晶 (2016)『株式の計量分析入門 ―バリュエーションとファクターモデル』朝倉書店. [Amazon]
かなり微妙.実務家との距離を感じる.

  • 半澤誠司, 武者忠彦, 近藤章夫, 濱田博之(2015) 『地域分析ハンドブック: Excel による図表づくりの道具箱』ナカニシヤ出版. [Amazon]
地方公務員が使いそうなグラフが作れるようになる.講義で使えるような使えないような微妙な感じ.

  • 旦部幸博 (2016) 『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』講談社. [Amazon]
コーヒーを取り巻く科学が幅広くかつ簡潔にまとめられている.家庭焙煎の下りなど,筆者の知的探求が微笑ましい.

  • ロバート・L. ウォルク (2012) 『料理の科学(1): 素朴な疑問に答えます』楽工社. [Amaozn]
The Washington Post誌に連載されて人気を博した食品科学のコラム集.目からウロコが出まくる.つい誰かに教えたくなるサイエンス小ネタが目白押しだ.専門家が社会にフィードバックする際,こういうコミュニケーションのやり方は参考になると思う.

  • 森川正之 (2016) 『サービス立国論』日本経済新聞出版社. [Amazon]
一般向けに書かれているのですらすら読める.何より森川先生ご自身の生産性の高さを見習わないと…

新年度は学生を使ってもっと教養的な読書がしたいところ.

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私が赴任してきて最初の年に担当した世代の学生はまっすぐいけば先月卒業を迎えました.出張のため卒業式には出られませんでしたが,ご卒業おめでとうございます.今後の活躍を期待します.

Tuesday, February 28, 2017

Mathematica入門ガイド

研究真っ盛りの春休みなのだが,いかんせん今の研究,計算時間が長すぎる.
手持ちぶさたな時間を利用してプログラミングになじみの薄い経済学者向けにMathematicaのチュートリアルを作成し公開することにした.

  • Mathematica tutorial for young economic theorists: 応用経済理論屋のためのMathematica ガイド [view] [download]

今の研究で使っている様々なテクニックなんて少し時間が経てばすっかり忘れてしまうだろうからと,去年あたりから個人用備忘録として作成していた.今回公開するのはそれを初学者向けという体で加筆修正したものである.


コメントやアドバイスがあればお寄せください.

Tuesday, February 7, 2017

沖縄の経済, 準備編5: 参考文献

タイトルがまだ「準備編」だけど成績評価を終えたところである.新規開設講義だったがなんとか終えることができた.本書いてとリクエストされたが,さすがにそれは遠慮したい.講義資料は,間違っているところもところどころあるけど,しばらく公開したままにしておく.

本講義では様々な学術論文を下敷きにして,沖縄の経済について考える視座を紹介してきた.今回のエントリでは講義の流れを振り返りながら元となりそうな論文を紹介し,私の想定している枠組みの種明かしをしておく.
来年度この講義を不開講とするため,個人的な備忘録が必要だという事情もある.海外の大学ではシラバスに参考論文リストがどさっと並んでいることがよくあるが,それに近い役割も兼ねている.
ちょっと長い雑多なエントリになる.

Monday, November 7, 2016

沖縄の経済, 準備編4: 所得格差

国際学会の大舞台を目前に控え,若干の現実逃避と授業準備を兼ねて少し前に売れていた本,
  • 大久保潤・篠原章 (2015) 『沖縄の不都合な真実』新潮社
をぱらぱらめくっている.経済学に関する記述は飛躍が多くマル経テイストなので読むと何かと不満が溜まる.この手の本を種に沖縄経済論を語るアマチュアたちが論壇を賑わせてもいるようだ.

今回は,読んでいてもやもやした部分から一つレプリケーションをしたよ,というエントリ.沖縄の格差についてデータを確認し,大久保・篠原の記述は不十分であり,沖縄の格差はフローではなくストックが特徴的であることを見ていく.講義で紹介する時間はないのでブログで放出.


所得格差は縮んでいる

沖縄の所得格差に関して,第4章の「日本一の階級社会の実態」という節に以下のような記述がある(電子版で読んでいるためページ数はわからない).
 格差社会の実態を直近の統計から拾ってみましょう。総務省の全国消費実態調査によると、高くなるほど貧富の差があることを示すジニ係数が、沖縄は二〇〇九年度に〇・三三九と全国一です。〇・三三を上回るのは大阪、徳島、長崎、沖縄の四府県だけで、ここ一〇年来最悪です。…[中略]…平均所得は最低レベルなのに地方都市では最も金持ちが多い、すさまじい格差社会です。日本一高い失業率と日本一低い労働分配率が格差の象徴です。
短くまとめると
  • 沖縄はジニ係数で見る所得格差はワースト.
  • 全国消費実態調査が出典.
とのことだ.全国消費実態調査は5年に1度実施される統計で,家計調査と同じく家計の収支を把握するものだが,家計調査よりもサンプルサイズが大きく調査項目も詳しい.沖縄の二人以上世帯の場合n=715である.

折良くつい先月末に全国消費実態調査で最新(2014年)のジニ係数が公表された.私は格差を全国消費実態調査から読み取ろうとすること自体に少し違和感を覚えるが,見るだけ見てみよう.

二人以上世帯について直近15年分の所得のジニ係数の推移をプロットしたのが以下のグラフである.47都道府県+全国を一気にプロットしているのでどれがどれかわかりにくいが,やや太くて赤いものが沖縄,青いものが全国,その他都道府県がその他灰色である.
フローのジニ係数の推移.
  • 従来は大久保・篠原の指摘通り沖縄のジニ係数(赤線)はワーストであった.ところが最新のデータでは,沖縄のジニ係数は全国並に低下している.
  • 二人以上世帯のうち勤労者世帯に絞って見ても同様の傾向である.(水準はまだ高いが)
すなわち,大久保・篠原の言う沖縄の「格差社会」は直近5年間のうちに終止符を打っているように見える.彼らのロジックはもう賞味期限切れのようだ.


資産格差は大きい

所得格差が縮まったとはいえ,私は沖縄は格差社会ではない,と主張したいわけではない.私の認識では,沖縄は所得ではなく富について格差が大きい.これは最新のデータで見ても変わらない.
なお資産格差については大久保・篠原の第5章にも言及があり,私オリジナルの指摘ではもちろんない.

同じく全国消費実態調査には,所得についてだけでなく,資産(3種類)についてのジニ係数もまとめられている.さっそく見てみよう(以下すべて純資産についてのデータ).
貯蓄のジニ係数.

不動産のジニ係数.
耐久消費財のジニ係数.

  • どの資産を見ても,沖縄は資産格差が全国と比べ悪い.貯蓄と住宅については全国ワーストで,貯蓄格差はぶっちぎりである.不動産でのジニ係数は軒並み低下傾向にある全国と違い横ばいである.
  • 所得格差と違い,最新の状況は前回調査時点よりも悪化している.
2009年から2014年の間に所得格差は縮まったけれど富の格差が拡大している状況はどう理解すればよいだろうか.たとえば,次のような説明がありえる.
  1. デモグラフィ
    • 団塊の世代が退職する時期を迎え,高所得層は減ったが資産格差は持続している,という説明はありえる.貯蓄額の格差拡大は退職金が出たとすれば納得だ.
  2. 景気
    • アベノミクス当初は株高になったので,有価証券を保有する層にキャピタル・ゲインが転がり込んできたであろうことが考えられる.
    • いままで失業していたボトムの層が景気拡大に伴って就職でき所得格差は縮まったが,所詮は低賃金の非正規が多く資産格差を縮めるには至らない,のかもしれない.


公務員による支配?について

大久保・篠原第5章では,就業構造基本調査(注: 本文中には労働力調査(厚生労働省)とあるが誤記であろう.同じデータであろうものを用いてもコンマ以下の数字がなぜか合わないが…)も併用して所得分布を見て,高所得層が少なく低所得層が分厚いことを問題にしている.また,公務員の賃金所得を独自に推計し,少数の高所得者を代表するのは公務員だと主張している.

公務員は民間に比べて大卒が多い(2010年国勢調査だと,就業者に占める大卒以上シェアは全産業で17%,公務員で40%)わけで,学歴プレミアムや正規・非正規格差があれば官民に賃金格差があるのはある程度当然だ.官民格差は誇張され扇動的であるように感じる.
公務員の場合受験資格も緩く,機会の平等はそれなりに担保されている.棚ぼたやレントシーキングで不当に得た所得というわけではないだろう.収入源はがっつり捕捉されており脱税・節税も難しい.

行政職の平均年間給与は560万円程度(2015年4月, 新卒除く, 沖縄県人事委員会勧告より)で,ヒエラルキー的には公務員は中の上ぐらいではないだろうか.フリンジ・ベネフィットを含めても,おそらく公務員より電力会社のほうが安泰で高所得だ.公務員の給与程度では,一世代のうちに大きな資産を築き上げることは難しいであろう.
ちなみに就業構造基本調査(2012年度)では,雇用者のうち所得が900万円台あたり以上,世帯所得だと1250万円~1499万円以上が沖縄のtop 1%になる.夫婦ともに公務員でいい役職,というほどでないと上流階級とは言えない気がする.top 1%は主に医者,弁護士,経営者,内地大企業の支店管理職,一部の地主や投資家,タレント,あたりで構成されている気がする.


沖縄の公的部門が大きく,高度人材を(おそらく過剰に)集めている,というセクター間でのmisallocationは私は問題だと思っている.しかし「公が支配する社会経済体制」は言いすぎだと思う.公務員が低賃金の民間人を搾取しているかのようにも書かれているが,公務員の人件費は元を辿れば国からの財政移転から主に出ているし….
大久保・篠原のように観察される所得分布をながめるだけでは格差の原因や非効率性の源泉を(専門家が納得できる形で)突き止めることはできないだろう.



最後に付言しておくと,そもそも論になってしまうが,格差を地域内で捉える意味は私は勉強不足でよくわからない.
社会保障や税制を通じた制度的な再分配は国レベルで行われており地域単位でなすべきことと手段は限られている.(固定資産税は地方が課すものだけどおおむね全国と横並びだ.)
仮に沖縄が格差是正に熱心に取り組んだとすると,地域間で居住移転は自由なのだから(コストはかかるが),沖縄に低所得者が集中し,高い教育を受けた高所得者は県外に逃げ出してしまうだろう.結果的に同質的な低所得者が集まりジニ係数は低下しそうなものだ.でもそれは望ましい変化なのだろうか.
資産格差があると信用制約にひっかかる貧しい層が多く経済に悪影響を及ぼす予感もするが,金融市場は県内で閉じているわけではないので地域内格差が信用制約に与える影響は自明ではないかもしれない.(これは研究ネタにつながる話だろうか?)
人が格差を観察してから何らかのbeliefを形成し何らかの経済変数に影響する,その格差は身近な範囲しか見えない,といった議論はありそうだが,かなり難しい話になりそうである…


まとめ?

公務員の報酬体系に連動している私の所得をあげてくださいーー!!!(切実)

Tuesday, September 27, 2016

沖縄の経済, 準備編3: ボラティリティ

他の講義とは違い,沖縄経済論の講義資料はパスワードを設定せずに私のウェブサイト上で公開することにした.今年からスタートすることもありまるで練られていないが,適宜利用いただきたい.

講義準備をしながら非常に憂慮しているのは,沖縄研究においては研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保する仕組みが機能していないことだ.多くの研究はプロが素直に想像するようなpeer reviewに支えられていない.そのため,そもそも「研究」とみなせるクオリティのものがほとんどない.経済学のトレーニングをまともに受けていない方々が地元の新聞やTV(や大学の教壇)で俺様経済学を披瀝しているのが現状だ.こうした方々を祭り上げる側の見識も疑う.

ところがあいにく私は沖縄の研究をしているわけではなくその予定もない.沖縄経済の講義をするとなると自らの批判が自分に突き刺さってしまう.これではなんとも情けないので,せめて講義資料は一般公開しておくことにする.



今回も講義で省略することにした没ネタを紹介.

一人当たり県民所得の成長率がどれだけvolatileかを眺めてみよう.データ出典は内閣府「県民経済計算」である.

47都道府県,1972-2013年度の名目一人当たり県民所得の成長率(年率)を計算すると次の通り:

これらの系列を$\lambda=100$のHP filterでトレンド除去し,標準偏差を計算した.結果が以下の通り.47都道府県のうち沖縄は16番目に低い.(沖縄は小さくてショックに弱い,みたいな印象論を振りかざす人も見かけられるがむしろボラティリティは低い方である.)

こうして求めた成長のボラティリティは,
  1. 2013年度の一人当たり県民所得とは弱く正の相関.
  2. 1972年度の 一人当たり県民所得とはかなり弱く正の相関.
  3. 41年間の平均成長率と無相関.
  4. 2013年度の産業構造を見ると,第一次・第三次産業のシェアとは弱く負の相関,第二次産業のシェアとは弱く正の相関.
といったことがわかった.

4番目の産業構造については, Moro (2012, 2015)の議論を想定している.サービス業のシェアが高いとTFPやGDPのボラティリティが下がるとのことだ.日本の都道府県レベルでもたしかにそうした兆候は見られる.
たとえば第三次産業産出のGDPに占めるシェアとの相関を図示すると次の通り:

沖縄についてインプリケーションがあるかと言えば,あまりないかな…


References
  • Alessio Moro (2012)The structural transformation between manufacturing and services and the decline in the US GDP volatility. Review of Economic Dynamics 15, 402–415.
  • Alessio Moro (2015) Structural Change, Growth, and Volatility. American Economic Journal: Macroeconomics 2015, 7(3): 259–294.

Saturday, September 24, 2016

沖縄の経済, 準備編2: 子供の肥満

引き続きゆるふわデータエッセイ.講義で紹介するほどうまくまとまらなかったのでブログでネタ放出.

沖縄の男性は全国屈指のメタボ,と言われている.そのルーツは何だろうか.

文部科学省の学校保健統計調査を見れば,子供の身長・体重などについて都道府県別のデータが手に入る.沖縄と全国平均を比較してみよう.今回はそういうエントリ.

1. 沖縄には太った子供が多い
痩身傾向児の割合について年齢別にプロットしたのが以下のグラフである(H27年度).

9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.沖縄は貧しいのですべての年齢で痩せた子供が多いかとおもいきや,そうではないようだ.(標準偏差が不明であり有意な差かどうかは不明である).
なお男女別に見ても,多少のばらつきはあるものの,小学校高学年以降に差があるように見える.

肥満傾向児については以下のとおりである.
痩身傾向児と呼応しているようだ.9歳までは全国と大きな差はないが,10歳(小5)あたりから乖離が生じてくる.10歳以降に肥満が多くなるようだ.

以上のグラフからは,小学校高学年頃を境に沖縄県民は全国平均から乖離を始めることがわかる.太る方向にシフトするようだ.

2. 特定世代だけが太っているわけではない
痩身が少なく肥満が多い,のは世代効果とは言えなさそうだ.つまり,H27年度に10-15歳になる世代だけに固有の特徴とは言えない.
世代効果の有無を確認すべく,世代別に,全国との痩身・肥満出現率格差(= 沖縄の出現率 - 全国の出現率.上のグラフの赤線と青線の縦軸方向の差に対応.)を時系列で並べたものが次のグラフである.



スパゲティ状のグラフになっていてどれが誰かわからなくて恐縮だが,それぞれの折れ線はH27年度における年齢で見た世代を表している.
世代によってばらつきはあるものの,おおむねどの世代でも,痩身出現率は全国より低く(負の領域にありがち),肥満出現率は全国より高い(正の領域にありがち)ように見える.
(適当な信頼区間を作ったらほとんどの世代は全国と差がない,という結論になってしまうかもしれないが.)


3. 差が付くのは分布の裾野だけ
痩身・肥満の出現率に差があると言っても,サンプルサイズが小さくて外れ値が目立つだけかもしれない.
外れ値ではなく,体重の平均を見るとどうだろうか.以下のグラフは男女別に平均体重とその1σ区間をプロットしたものである.1σ区間に限って見ればどの年齢でも沖縄(赤)と全国(青)にほとんど違いはないと言える.

全国とはあくまでも分布の裾野の方で差が付いているようだ.沖縄の子供が平均的に太めの体格を持っているわけではない.

これらのデータからは示しようがないが,おそらく,遺伝的に太りやすいわけでもないだろう.社会的な要因で後天的に肥満児が生み出されている予感がする.
とりわけ,ごく一部の貧困世帯において,物質的にも精神的にもストレスの大きい生活が営まれているのかもしれない.およそ10歳頃から物心が付き,家庭や学校の酷さに気づき始めるのかもしれない.






あっという間に夏休みが終わってしまう.研究も講義準備もまるで進まない…