Tuesday, April 2, 2019

伊神『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』ほか

もう少し読書メモ.
  • 伊神満 (2018) 『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』日経BP社. [ Amazon ]
2018年のベスト経済書らしく,とてもおもしろい.ジャーゴンを徹底的に噛みくだいて説明,ユーモアにあふれて例も豊富,入門書としてこれ以上の本はなかなかないと思う.

さすがは五大誌で,問いの設定が単に面白いだけでなく,分析の細部まで丹念に検討されている.原論文読んでない(弊学ではJPEの最新分は購読していない…)のでディテールはわからないが,Cournotを仮定(仮定を正当化しやすいカテゴリに注目)し,需要関数を推定できるIVを持ってきて(exclusion restrictionってそういう解釈でいいの?),FOCから限界費用を楽々バックアウトし(新製品の限界費用かなり低いけど現実的?),扱いやすくフィットもよいモデルができた,計算コストが大きい推定も突破できた,そして経営学的なストーリーを経済学的な方法論で批判的に検証できた,あたりが売りなのだと思う.

 クリステンセン(私は未読)のもやもやとしたストーリーのもやもやとした部分をたびたび批判しているが,時間不整合性を許容した(双極割引など)動学モデルを推定して,その効果よりカニバリゼーションがでかいことを示したようには見えなかったが….それほど差別化されておらずカニバリゼーションを内部化する効果が大きい新製品をリリースしているからには,状態を遷移するコストkappa (定数?) が低いはず,という話だが,kappaは時間不整合性のコストを測っているのだろうか? (時間不整合性を許容したモデルの挙動をそうでないモデルのkappaで表すことができるのだろうか?) (あとkappaは流動性制約と不確実性・不可逆性からくる,既存企業ほど様子見をする便益が高いというオプション価格分や,イノベーションのエフォートコストもひっくるめて捉えているように読める.)
kappaは市場構造にも大きく依存していると思われるので,定性的な議論を定量的に論駁したといってもHDD以外の世界については未解決(だしそれは論文の射程外)にとどまっているかなと.たとえば,昔の研究手法でがんばり続ける老教授(偉いと思う)は,自分の過去の論文を否定することになるから,というより新しい分析技術に能力的にキャッチアップできない(kappaが加齢とともに上昇)から,だと思われる.

  • 根井雅弘 (2009) 『経済学はこう考える』筑摩書房.  [ Amazon ]
  • 根井雅弘 (2011) 『20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ』筑摩書房. [ Amazon ]
ALLミクロことAcemoglu-Laibson-Listを読みながら講義資料を作っていて,経済思想史の話がほとんどない(スミスとハイエクがちょっと出てくるぐらい.もちろんパレートやピグーの名前はあるけど)ことが気になっている.
ALLミクロでは経済学的な問いとして「大学を出るのはペイするのか?」と大卒プレミアムの推定を挙げており,たしかにそれも大事な話で私も別の授業で毎年話をするのだが,経済学ってお金儲けの世知辛い話ばかりしている…と早合点されてしまいそうでなんだかなぁという感じである.

そんなわけで,入門講義ではスミスやマルクスやケインズやハイエクみたいなところも紹介するだけしようと思っている.そこで,変なことを教えないように,経済思想史のハンディな新書2冊をぱらぱら見た.2冊は連作で,『経済学はこう考える』はケインズとそれにつらなる人々を中心にし,『20世紀をつくった経済学』はシュムペーター・ハイエク・ケインズの3人に絞ったものである.いずれも,いかに自分がケインズなどの偉人を単純化し定形化し誤解していたかがわかって恥ずかしい限りである.

この2冊はジュニア向けということで,本当にハンディで,短時間でさらっと読めるところがよい.これが猪木『経済思想』や間宮『市場社会の思想史』だととてもいい本ではあるがうちの学生にはお勧めしにくい.

『20世紀をつくった経済学』のほうでは,シュムペーターが哲学者アンリ・ベルクソンからイノベーションの着想を得ていることが指摘されている.『経済学はこう考える』のほうでは,ケインズやマーシャルが狭い意味での経済理論ばかりでなく,歴史学や社会学などに深い教養を持ち,スケールの大きい思索をしていたことが指摘されている.精緻な数理モデリングや丹念なデータ分析はもちろん大事なのだが,それだけではいかんのだ.ALLやその他最近の入門書(神取除く)みたいに,経済学の歴史的な背景や哲学や問いをすっ飛ばしてしまうのもどうなのかなと思う.



以下は単なる思い出話.ちなみに,私自身が経済学に入門した頃に読んだ初めの一冊は(単なる歴史オタクだった高校生の頃眺めたワルラスや野呂栄太郎を除くと),
  • 酒井泰弘 (1995) 『はじめての経済学』有斐閣. [ Amazon ]
である.親父ギャグ満載でそれこそ親父世代の本で,読んだ当初はお子様扱いするんじゃねーという気持ちもあったが,ここで学んだものがミクロを理解する基盤になっているのは今でも感じるし,教える立場になって再読するととてもよい「入門の入門書」だと思った.経済学史上の偉人もたびたび紹介されている.「マルクスが死んだ年に,ケインズとシュンペーターと高田保馬が生まれた」みたいなコラムがあるぐらいだ.

あと大学に入った当初は,あまり知られていないタイトルだが
  • Susan J. Grant (2000) Stanlake's Introductory Economics. Longman. [ Amazon ]
を読んだ.こちらは無駄に分厚く読むのはしんどかったが,経済学者の偉人がたびたび紹介されている他,簡潔でいて悪くない練習問題が豊富だったりする.

 大学1年生の頃は講義の教科書以外に,学部向けVarianを読んでいた(マクロだとSamuelson-NordhausBaumol-Blinder (最近の版はSolowも加わっているらしい)).
Varianは,和訳でちゃんと伝わるかわからないが,文章の切れ味がすさまじい.ALLミクロは,対象読者が違うので比較するのはフェアでないが,Varianに比べるとかなり「だらしない」印象を受ける.
Varianには思想や哲学の話はまったく出てこないし,「エビデンス」もあまり出てこない(顕示選好はしっかりあるけど).18歳の頃はVarianが何を言っているのかよくわからないままページをめくっていたものの,中途半端なやさしい入門書ばかり読んでいたら博士課程まで行ってなかったと思う.
若いうちに,Varianぐらいガチなものと,酒井のような柔らかいものと,両方通っておいてよかったなと.

Saturday, March 23, 2019

安里『未来経済都市 沖縄』ほか

カリキュラムに振り回されて,次年度は授業準備でひどく忙しくなる予定.

忘れないうちに最近の読書記録を残しておく.
  • Richard Baldwin (2019)  "The Globotics Upheaval: Globalisation, Robotics and the Future of Work" Weidenfeld & Nicolson [ Amazon ]
 技術変化+グローバル化 ("globotics"と呼んでいる) というよくある話の一般人向け読み物.今起こっていることは変化のスピードが急速で,また不公平なものであり,社会を揺るがしている.この新たな産業構造変化を,フェアでequitableでinclusiveなものにしなければならない.AIに簡単に代替されない仕事は対人コミュニケーションが必要なものなのであろうから,フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取りやすい都市こそがいっそう経済の中心となる..というよくある話をつらつらと.
前著The Great Divergenceとスケール感は似ているが,前著に比べて理論・実証とも薄まった印象.

  • 安里昌利 (2018) 『未来経済都市 沖縄』日本経済新聞出版社. [Amazon]
県内のビジネスマンなら誰でも知ってる沖銀元会長が書いたコラム集.県内のビジネスマンなら誰でもどこかで小耳に挟んだことがあるような話をまとめたミニコラム集.こうした生きた話は象牙の塔の住人には書けない.沖縄に新たに転勤してきた県外人が読むとちょうどよいのではないだろうか.

ただ,個人的には話が薄すぎてそれほどおもしろいものではなかった.「おわりに」で筆者自身のキャリアが語られているが,沖縄経済時事の話よりもこちらのほうがよっぽどおもしろい.

おもしろくないのは,議論が浅く緩いためである.たとえば,シンガポールは資源のない小国だが「戦略的に国家運営を行ってきたことが背景に」あり,「「地の利」を活かして」「ヨーロッパへのゲートウェイ」となることができたため豊かである,そして沖縄は「同じように,さまざまな試作を実施することで,世界中の企業を誘致することができ」,「人口の流入によって国際都市を目指すことができ」,「シンガポール以上に大きな反映の可能性を秘めている」,とのことである.

シンガポールでうまくいった(ように見える)政策は本書で示唆されるように沖縄にも適用できるのだろうか.あまりリアリティを感じない.たまたまカンファレンスでシンガポールに行く途上の機内でゆるふわな文章を読んだのでとてもモヤモヤしてしまった.
  • 岩崎育夫 (2013) 『物語 シンガポールの歴史: エリート開発主義国家の200年』中央公論新社 . [Amazon]
ちなみにシンガポールの歴史についてはこの新書が読みやすくとてもおすすめ.中公新書の「物語○○の歴史」シリーズはだいたいハズレ無しだがその中でも出色の出来だと思う.

この手の本を一冊読んでおくだけど,シンガポールを真似して我々も発展しよう,などという素朴な思いつきを書籍として堂々と公刊するようなことにならなくて済むと思うのだが.

あと安里(やその他県内でよく耳目にする言説)では,LCCの使うリージョナル・ジェットは4000km圏内での飛行が主である中で,那覇空港から4000km圏内のマーケット・サイズが大きい(かつ日本国内である)ことを強調している.
たしかに現状はそうなのだろうが中長期的にはどうなのだろうか.将来的に4000km以上飛べる廉価な機体が普及すれば航空業界のゲーム・チェンジャーになるだろうし開発・導入するインセンティブはあるだろう.現時点でもAirAsiaは4000km以上飛べる機材を運行している.
また,同じ同心円を描くなら沖縄よりも台湾や香港の方がカバレッジが広い(たとえばジャカルタは那覇からは届かないが台北からは届く)上,英語・中国語が使え言語の壁も低い.
そもそも,市場アクセスという観点からは東南アジア以上に大陸中国のほうが今も近い将来も重要なのだから,中国をスルーした議論はあまり意味がないと思う.本土からは,沿岸部はもとより内陸部までLCCはすでに就航している.中国向け輸送において沖縄に格別な優位性があるとは考えにくいのだが.
輸送上のアドバンテージは素朴に地図上で同心円を眺めるだけではよくわからず,実際のバリュー・チェーンに合わせて考える必要がある気がする.
ハブはたくさん必要ないからハブなのであって,香港上海台湾をしのぐ立ち位置でなければハブとしての成功は限定的なものにとどまるのではないだろうか.

  • 佐々木彈 (2017) 『統計は暴走する』中央公論新社 [Amazon]
統計リテラシーを磨く本.とても刺激的で面白い.第一線で活躍する研究者が実証のペーパーをセミナーで見聞きするときに,どういった観点から攻めているのか垣間見ることができる.

  • Daron Acemoglu, David Laibson, and John A. List (2016) "Economics"  東洋経済新報社  [Amazon]
「ALL」こと一流経済学者たちの新しい入門テキスト.ミクロの入門講義を新たに担当する予定なので入手.早く和訳してくれないと教科書には指定できない…

経済学の三大原理「optimization / equilibrium / empiricism」から始まる.従来のテキストに比べてempiricismに重きが置かれ,新しい実証研究が多数紹介されている.授業の元ネタによさそう.
しかし,私が教えるクラスでは,最適化もデータ分析も消化不良に終わりそうな気がしている.ラグランジュ乗数法でごりごり解かせるわけではないので,数学的なハードルはそこまで高くないかもしれないが.
あと,若干寄り道が多いので実際の授業では内容をかなり取捨選択する必要がありそう.

empiricismの例で,付け値地代の推定が紹介されていて,単一中心都市モデルおじさんとしてはspark joyしたけど,授業の素材としてはかなり使いにくいものであった…

  • 本橋 智光 (2018) 『前処理大全: データ分析のためのSQL/R/Python実践テクニック』技術評論社  [Amazon]
前処理をいいコードと悪いコードを対比しながらつまびらかにしてくれる,ありがたい本.おかげでデータ・ラングリング能力が目に見えて向上した.後半には空間情報の扱い方も少しだけ載っている.例題はビジネス実務向けだが,研究者にも有用だ.SQL,R,Pythonのうちどれか1つ知っていれば読めるはず.


  • John Yinger (2018) Lecture Notes in Urban Economics and Urban Policy. World Scientific Publishing Co. [ Amazon
大学院向け都市経済学の講義ノート.箇条書きのスライドをそのまま本にした感じ.AMMなど伝統的な都市経済モデルベースで,代表的なトピックの理論と実証がまとめられている.本人のウェブサイトにアップされている講義資料を見たほうがいいような…

  • きはしまさひろ (2016) 『イラスト図解式 この一冊で全部わかるサーバーの基本』SBクリエイティブ. [ Amazon ]
サーバーについてお勉強.この本は見開きの半分はイラストになっていて,横文字が苦手なド素人にはとてもありがたい.イラストといっても,マンガでわかるなんとかみたいなオタクっぽいのじゃなく,無駄な情報がないのがよい.
わかりやすいといっても,馴染みのない横文字のオンパレードなのでサクサク読めるわけではない.普段から使っているサービスと対応付けながら少しずつ理解を重ねていく必要がある.

  • John D. Kelleher, Brendan Tierney (2018) "Data Science" MIT Press.
竹村先生の岩波新書赤と合わせて,この手の入門講義をするときには役立ちそう.勉強不足なビジネスマン向けの煽り本ではないところがよい.テクニカルな話はほとんどなく(NNを説明するためにちょっと一次方程式が出てくるぐらい),フィールドの空気感やエッセンスをほどよく広く浅くカバーしている.
(機械学習勉強するならこういう入門書はすっ飛ばして,Hastie, Tibshirani and Friedman (無理ならJames他)に目を通してから,DNNや強化学習を追加で学ぶのが早いと思われる.)
  • 西水美恵子 (2009) 『国をつくるという仕事』英治出版
開発の啓蒙書って意外に選びにくいのだが,これはかなりよい.学生に読んでほしい.

  • 小林多喜二 (1929) 『不在地主』 中央公論. [ Amazon ]
都市経済学者はタイトルだけで買いたくなる.が途中で飽きた…
プロレタリア文学.北海道を舞台に,不在地主という資本家(とそのエージェント)と労働争議で戦う小作農の話.

  • 濱下武志 (1996) 『香港: アジアのネットワーク都市』 筑摩書房. [ Amazon ]
これも途中で飽きた…返還前に書かれたもので古い.香港の「位置づけ」「枠づけ」をし直してばかりで,その新しい視点から具体的に何を発見できるのか,既存のliteratureにどういう形で貢献したのかが,回りくどくて全然頭に入ってこない.
remittanceの歴史を追いかけてきたという話はワクワクしたのだが…

Monday, March 11, 2019

Mathematica用の効果音

Mathematicaは音を鳴らすことができる.
たとえばコードの最後の行に次のコマンドを入れておくだけで,計算終了時にピーッという音が鳴る.

EmitSound@Play[Sin[2 Pi 880 t], {t, 0, 0.5}]  (* finish *)

Sachiko Mみたいに淡々と正弦波を鳴らすのも好きなので私はこれを何年も使っているのだが,味気ないので計算の待ち時間を利用して別のものも作ってみた.

sn[list_, length_: 1] := SoundNote[list, length length4 ] 
(* define *)
sound1 := Block[{length4 = 0.2}, EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"D3", "F", "C5"}], sn[{"F", "C5"}], 
   sn[{"A3", "F", "C5"}], sn[{"D"}, 1/2], sn[{"D", "F", "C5"}],
   sn[{"F", "C5"}],  sn[{"D"}, 1/2], sn[{"A3", "F", "C5"}, 1/2],  
   sn[{"D"}, 1/2], sn[{ "F", "C5"}],
   sn[{"C3", "E", "B"}], sn[{"E", "B"}], sn[{"G3", "E", "B"}], 
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{"C", "E", "B"}], 
   sn[{"E", "B"}], sn[{"C"}, 1/2], sn[{"G3", "E", "B"}, 1/2],  
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{ "E", "B"}]
   }] ]
(* run *)
sound1

無敵になれた気がしますね.
エレピの音を読み込むのに初回実行時のみ少々時間がかかるので注意("ElectricPiano"を単に"Piano"とすればおそらく読み込み不要).

もう少し短いのだと,

sound2 := Block[{length4 = 0.225},EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"G3", "G4", "B4"}, 1/ 2],  
   sn[{"D5", "F5"}] , sn[{"G3", "D5", "F5"}, 1/2] ,
   sn[{"G3", "D5", "F5"},  2/3] , sn[{"A3", "C5", "E5"},  2/3] ,
   sn[{"B3", "B4", "D5"},  2/3] ,
   sn[{"C4", "G4", "C5"}, 1/ 2], sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{"G3"}, 1/ 2], 
   sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{ "C3", "C4"}]
   }] ]
(* run *)
sound2

もちろん著作権は私のものではない.

Saturday, February 9, 2019

沖縄経済論2018 アップデート

沖縄経済論という個人的に気に入っている講義がある.講義と成績評価を終えて一段落したところで,振り返りのポストをしておく.
今年度の講義資料は私のウェブサイトにしばらく置いておく.前回からあまり変更はない.今回は受講者数に比べて教室が大きすぎて,若干やりにくかった.想定よりも2コマ分ほど時間が足りなかった…

近年は沖縄経済のことについて熟考する時間もないのだが,2年前の講義から微妙に変わったことについて雑多にメモをしておく.

1. 統計の信頼性

大学院を出たばかりの頃は,データorientedでない論文はいまどき見向きもされないよねと時代の空気を漠然と反映してイキっていたが,毎勤を中心に基幹統計の信頼性が大きく揺らいでいる昨今,集計データでなにかわかったようなことを言うむなしさも感じている.

私の講義は煎じ詰めれば,データをぼんやりながめるとこういうことが言えそうだよね,という話でしかない.データそのものがおかしいのであれば,ただの徒労にすぎない.最近のニュースはとても残念である.

2. 産業構造

昨年末に日銀那覇支店が「沖縄県の所得⽔準はなぜ低いのか(現状・背景・処⽅箋)」というレポートを公表し,私はそれを講義中にこき下ろしたw 最近続編も出てこちらも機会があればなにかコメントしたいと思う.

ともあれ,日銀の見解では,第三次産業のシェアの高さが,所得水準の低さや労働所得の低さと相関があるように見える,とのことである.
  1. 産業間の賃金・成長率格差
    1. 因果関係はいったんおいたとしても,製造業のほうが他の産業よりも賃金率や成長率が高い,というなら日銀の見解は理解できる.しかし,IT革命以後は製造業が唯一のリーディング産業というわけでなく,産業間の賃金格差も以前に比べるとずっと縮まっているように思う.単純に産業のシェアだけをみてどうこう言うのは(入門レベルの授業では私もやるけど)無理があると思う.
  2. 内生性
    1. 産業構造はpersistentながら,givenなものではないと思う.初歩的なリカード・モデルでは生産性が産業構造を規定するわけで,産業構造が何らかの原因とでも言いたいかのような日銀の議論は学部入門レベルさえすっ飛ばしたアマチュア向けのアマチュア理論だと思う.ちまたの評論家がそれをやるのは勝手だし,因果関係にまでは踏み込まない知的慎重さと無責任さはわかるのだが,高い給与と社会的地位をもらっている日銀マンがそれをやるのは正直どうかなと思う.
  3. 基地の影響
    1. 米軍基地のせいで第三次産業が「固定化」「肥大化」という議論をしばしば目にするが,これは論理の飛躍がありすぎると思う.昨今では医療福祉系の雇用・産出が伸びているが,これは本当に基地のせいなのだろうか?デモグラフィ要因が大きいと思うが.また,セクター間の移動が何十年単位でpersistentというエビデンスは多くないと思うのだが.


3. 中世沖縄のabsorptive capacity

琉球王国は交易で栄えたというのが世間一般の共通理解だと思うが,交易に不可欠な資本(遠洋航海可能な船舶)やスキル(語学)・信用(契約履行)はどこから来たのか,が2年前からの疑問である.
講義では,absorptive capacityやadoptionのインセンティブが低い&鉄や材木が取れないため,船舶を自給することが難しかった,というストーリーで話をした.

講義後,17世紀末には中国からの支援や優遇策が途絶えていたという議論を目にした.単に県民が学ばないアホだったというわけではないのかもしれない.

4. 沖縄の自立

以前と基本的なスタンスは変わっていない.古い世代の学者たちは,モラル・ハザードやソフトな予算制約式という概念を薄々わかってはいるがうまく言語化することができなかった,そのため「自立」というゆるふわワードに頼ったのではないか,と思う.


5. 米軍基地への依存

講義資料を作っていて気づいたのだが,「基地関係収入」と「基地関連収入」は行政・政治的には明確に区別がされている.こうした区別は馬鹿らしいと思われないのだろうか. (また,こうしたいかがわしい区別を明確にし批判した議論はこれまでに真摯になされてきただろうか?)

県がいう「基地関連収入」は軍用地料・軍雇用者所得・米軍等への財・サービスの提供を指す.いわば米軍基地向けの「貿易サービス収支 + 第一次所得収支」である.
一方,県の資料「沖縄の米軍及び自衛隊基地」における「市町村基地関係収入」は,軍用地からの地代収入 + 国からの補助金,という第二次所得収支(+α)に相当するものであろう.

県が基地への依存は5%ほどしかない,と主張する根拠は基地関係収入/県民総所得が5%
程度,というところにあるが,ここには沖縄振興予算や環境整備法・基地交付金に基づく所得移転はカウントされていない.現実的には内閣府の沖縄振興予算の増減が注目されているというのに.「基地関連収入」は政治的に偏ったアンフェアな(運用をされてしまっている)指標だと思う.
「自立」を標榜する人たちが沖縄振興政策のもとで予算を必要としない優遇措置(税率の減免)に明確に反対している姿は見ない.闇が深い.

6. キャッチアップ不在

沖縄と全国平均は,成長率が同じで初期値が違う,という性質がある.2年前はこうしたファクトを手軽にreconcileできる枠組みに思い当たらなかったが,単にAKモデルでよいと気づいた.

ただ,AKモデルのような素朴な世界がデータにぴったり当てはまる世界というのは,かえってデータのほうに問題があるのではないか,県民経済計算の作成プロセスに根本的な問題があるのではないか,という気にさせられる.

講義では教育的な配慮からSolowモデルを中心に教えているが,現実を描写する上でAKモデルのほうがよいとなるとそれはそれで教えにくいし困ったことになる.

7. 北谷

基地返還のポジティブな効果として北谷の発展が挙げられることがよくある.が,データをふんわりながめると,北谷は基地返還後に発展したというより,返還前から発展していた,というほうが正確な予感がする.要は逆因果であり,平行トレンドではないのである.発展しそうな地域だから返還したのであって,返還したから発展したとは言えない.ましてや他の基地を返還しても北谷のように発展する保証はない.

実質賃金が上がった下がったと,学部向け教科書に乗っている同時方程式の識別の問題をすっ飛ばして好き放題言っている人たちがたくさんいる世の中で,内生性を議論しても無力感があるが,県内で「知識人」や「学識者」や「経済界重鎮」として発言してる人でさえ独りよがりの議論をしてしまいがちなのは残念である.


Wednesday, February 6, 2019

SSD交換

Google Sitesのレイアウトが変わり,私のウェブサイトからこのブログへのリンクが外れてしまった。元に戻し方がよくわからない。

今使っているマシンのCドライブは128GBのSSDなのだが、容量と寿命的な限界を感じていたので、新しいSSDに入れ替えた。その際いくつかのトラブルに見舞われた。覚えているうちにメモ。特にオチはない。
  • 環境:
    • Windows 10
    • HPのデスクトップ(Elitedesk)
      • ハードディスクを設置できるスペースが潤沢にあり、SATAの電源ケーブルが1つ余っていて、SATAの信号ケーブルの空きスロットが2つある。
  • 新SSD:
    • SanDiskのSSD Plus, Solid State Driveというものを購入。1.5万円程度で960GB。一昔前と比べてずいぶん安くなったものである。
  • その他準備: 
    • クローン用のEaseUS Todo Backupとパーティション変更用のEaseUs Partition Masterをインストール。どちらも無料版。
    • SATA信号ケーブル1本。他のマシンについていたものを拝借した。
  • やったこと:
    • 新たなSSDを接続。
    • 間違ってはじめは「ディスクの管理」でMBRにフォーマットしてしまった。もともとのCドライブがGPTなのでGPTにする必要あり。→ EaseUS Partition MasterでGPTに変更。
      • ドライブレターはなんでもよいが、デフォルトのままやると弊社の学内LANとかぶってしまった。ドライブレターを再度変更し、特に問題は起こらなかった(クローンした後はCドライブになる)。
    • EaseUS Todo Backupでクローンしようとすると、未割り当て領域がないからなんとかしろと言われる。→ 「ディスクの管理」で新ドライブを「ボリュームの削除」する。
    • EaseUS Todo Backupでクローンする(システムクローンではないらしい)。SSDに最適化、という高度なオプションもつけておいた。 
    • 古SSDを外す。
      • ねじはT15の星型ドライバーが必要。マイドラでも大丈夫。
      • ハードディスクは緑色のロックを軽く引っ張りながら引き抜けばよい。
これで一応交換は終わり、Windowsも動くようになる。しかしいくつかの問題が発生した。
  • 問題1
    • Cドライブの空き容量が、交換前と変わらず少ない。
    • → パーティションをいじっておらず、未割り当て領域がたくさん残っているのが問題。
  • やったこと:
    • EaseUS Partition Masterで未割り当て領域をCドライブに割り当てる。
      • 「サイズ調整/移動」でリカバリイメージなどを未割り当ての右側に移動させていく。
  • 問題2
    • ATOKが辞書を読み込めず変換できなくなった。
    • → アンインストールして再インストールを試みた。
    • → しかし、インストールディスクのautoplay.exeが実行できない。
    • 未解決。現在IMEをしぶしぶ使っているところ。
  • 問題3
    • 起動するたび、新しいデバイスを刺したときの「テッテレレッ」という音が2回鳴る。
    • Bootマネージャーでエラー0xc000000eが発生。
    • また、スタートアップ修復もできなくなっていた。
      • 「設定」→「更新とセキュリティ」→「回復」→「PCの起動をカスタマイズする」→「トラブルシューティング」で出てくる項目がおかしい。
    • これまでWindows 10 Professionalを使っていたような気がするが、いつの間にかWindows 10 Homeエディションになっていた。
  • やったこと:
    • Windowsごと再インストールした。 MSのウェブサイトからインストールメディアをUSBメモリに作成し、使用。 → たいていのエラーは解決。
      • インストールメディアは空きが最低8GB必要と言っているが、容量8GBのUSBメモリを入れてもインストールできた。しかも4GBぐらいしか使用されていなかった。
    • しかしWindows 10 Professionalには戻らなかった…
  • 問題4
    • エクスプローラのクイックアクセスなど、ところどころ微妙におかしい。 → 適宜修正。


Sunday, May 27, 2018

沖縄の県民経済計算の改訂 2018

先月県民経済計算の最新版が公表された.
        [link] 沖縄県統計資料ウェブサイト 県民経済計算
FAQが新たに追加されており,中の人達の苦労が忍ばれる.

今回のエントリでは,新しい県民経済計算では去年までと比べてどう変わったかを眺めていく.昨年度の分(平成26年度県民経済計算, 以下H26版と呼ぶ)のデータと新しいデータ(H27版)とを比較していきたい.全体的には,思ったよりも変わっていた,という印象を受けた.

1. 2008SNAへの移行

国民経済計算が2008SNAに移行したことに合わせて,県民経済計算も2008SNAに準拠するべく標準方式が新しくなった.たとえばR&Dを投資に計上する,産業分類が変わる,など,の変更がある.また,支出サイドのGDPデフレーターはH26版では固定基準年方式であったが,H27年版では連鎖方式に変更されている.

基準が変わったことを受けて,H27版では,2006年度まで遡及して改訂されている.

2. 実質GDPが大きく変わった

目を引くのは実質GDPの改訂だ.次のグラフは改訂前後の実質GDP水準を並べたものである.青い方が新しいH27版.
実質GDP(支出サイド, 市場価格)の改定前後比較. 単位: 兆円.

  • 水準も成長率も,改定前と大きく違った印象を受ける.
    • 念のため,GDPデフレーターの基準年がそもそも違う(H17年とH23年)ので,水準が変わること自体に大きな意味はない.
  • ここでは支出サイドで見ているが,生産サイドで見てもそれほど変わらない(後掲).

成長率(対数差分, 以下同様)で見ると次の通り.
実質GDP(支出サイド, 市場価格)成長率の改定前後比較. 

  • 2011年度以前の成長率が下方修正されている
    • 最も下げ幅が大きいのは2010年.実に-3.7%も下方修正された.
    • 2012年はマイナス成長になっている(+1.1%から-0.8%).
  • しかし直近(13--14年)ではほとんど差がない.足元では連鎖価格と固定価格の違いが出にくいのかも.

支出側は固定価格から連鎖価格に移ったという大きな変化がある.一方で生産側のGDPはH26版でも連鎖価格を採用していた.生産側から実質GDPの比較も確認しておこう.
実質GDP(生産サイド, 市場価格)の改定前後比較. 単位: 兆円.
実質GDP(生産サイド, 市場価格)成長率の改定前後比較. 

  • 生産サイドから見ても,概ね下方修正されているように感じる.
    • ただし2011, 2013年の成長率は若干の上方修正となっている.


3. 石油・石炭産業が大きく変化

以前このブログで沖縄の県民経済計算は怪しい,特に石油・石炭製品の実質生産が怪しい,という議論をした.
        [link] 石油・石炭製品と沖縄の実質GDP
改めてこの産業のreal outputを見てみる.
石油・石炭製品の実質GDPの改定前後比較. 単位 億円.

  • H27版では笑えるぐらい大胆な下方修正がなされている.というより,昨年度までの石油・石炭製品の総生産が異常であり,それがまともになった,という印象を受ける.
    • そもそも4兆円のGDPに対して石油製品が4千億円を占める,という状況がおかしかった.いつから沖縄は石油化学大国になったのかしら.

成長率に直してみる(なお,負の値を取る時期はlog(x)でなく-log(-x)で計算した).
石油・石炭製品の成長率の改定前後比較.

  • 成長率で見れば,2014年を除き,ほとんど差がない
  • 上で見たような大胆な下方修正は,水準が5--10倍程度差があること(と,変化の振れ幅がやたら大きいこと)で生じていると言える.
    • 2008SNAで計算方法が若干変わったことで付加価値が若干変わったせいかもしれない.
    • H26版の「県民経済計算の推計方法」では,製造業の中間投入額を計算する際に,本来は間接費を足すべきところ逆に引いているように書かれている.単なるタイポかもしれないが,もし今回このミスを直したとすれば,間接費の分inputが増えoutputは減るので,水準が下方修正されることにつながる.


動きがおかしい石油・石炭製品セクターを無視した場合,集計の実質GDPはどうなるだろうか.単純に実質GDPから石油・石炭製品の実質GDPを差し引いてみた.(なお,連鎖方式の実質GDPでは加法整合性を満たさないのでこの引き算は厳密に言えば意味をなさない.)
石油・石炭製品を除く実質GDPの改定前後比較. 単位: 兆円.
  • 両系列からはかなり違った印象を受ける.
    • H26版では,リーマン・ショック以降に沖縄経済(石油・石炭製品除く)が大きな不況に陥っていたこと,2014年にようやくショック以前のトレンドに戻ったことが示唆される.他方でH27版では,石油・石炭製品のサイズが小さくなったため,こうした動きは見えなくなった.
    • H26版では東日本大震災で大きくショックを受けているが,H27版ではそこまでひどくはない.

これを成長率に直すと以下の通り.
石油・石炭製品を除く実質GDP成長率の改定前後比較.

  • H27版では分散が小さくなったように見える.
世界同時金融危機や東日本大震災のインパクトをどれだけと見積もるかにもよるかもしれないが,石油・石炭製品という異常値を除いて見たほうがなんとなく実感に合うような気はする.

4. 違いは物価にあり

実質では大きく下方修正がなされていることを見た.一方で名目変数には大きな修正はない(面倒くさいのでグラフは省略).変わったのは物価指数である.

GDPデフレーター(支出側)の違いを眺めよう.水準を合わせてプロットすると次の通りである.なお,前述の通りH26版はH17年基準の固定価格方式であるのに対して,H27版はH23年基準の連鎖方式である.

GDPデフレーター(支出サイド)の改定前後比較.

  • 古い方の基準では,がっつりデフレ傾向が見られた.ところがH27版ではそこまでひどくなさそうだ.
変化率に直してプロットすると次の通り:

インフレ率の改定前後比較.

  • 正の相関はありそうだが,水準と分散に違いがあるように見える.ざっくり見て,H27版のほうがインフレ率が高く,その分散は小さい.
  • 修正幅が目立つのは2010年である(-3.8%から-0.4%).インフレ率が大幅に上方改定されたことに呼応し,この時期の実質GDPやその成長率は下方修正されている(上述).
    • 2010年におけるインフレ率改定の内訳はどうか.C, I, GでいうとCが最も上方修正されている.Cの中では,「娯楽・レジャー・文化」が大きく上方修正(+13.3%)されており(実質消費の伸びがもともと高すぎた(+32.5%)ところ下方修正された),ここで差がついていると思われる.

5. まとめ

最新の県民経済計算が去年と比べてどう変わったか見てきた.主な変更点は,
  • インフレ率がやや上方修正され,実質GDP成長は下方修正された.
  • 外れ値が目立たなくなった(石油・石炭製品の生産や娯楽・レジャー・文化の消費).
  • こうした改定は微修正と言うには大きすぎる気がする.(成長率が-3.7%下方修正って…)
といったところだろうか.こうした改定となった原因が具体的に何であるか,は恥ずかしながら不明である.

Y以外の系列については時間があれば動向を眺めてみたい.ぱっと見た印象では,なんだか直感に合わない数字も少なくないなと感じた..

統計は知的なインフラである.県民経済計算はもう少し信頼できるようにならないものか.足元の成長率を見て一喜一憂したり県レベルで機動的なマクロ政策を打ったりすることはほとんどないにせよ,現状では政治・行政が経済動向をモニタリングしたり結果にコミットしたりすることもままらない気がする.

Saturday, May 26, 2018

公募: 経済学

弊学で公募が出ました.詳細はJREC-INでご確認ください.昨年度も同様の公募をかけました(当時の私のブログ記事: 公募: 計量経済学)が,あいにく不調に終わってしまいました.

昨年度に引き続き,実証分析に強い方を募集しています.標準的な経済学の範疇であれば,分野は特に問いません.

個人的には,当然のことですが,研究能力が高い人に来ていただきたいと思っています.弊学は凡百の教育大学と違い,研究活動を尊重していただけます.居心地はそれなりによいです.ご応募お待ちしております.