Monday, August 5, 2019

経済学入門II・経済学I, 2019

諸事情で今年新しく持つことになったミクロの入門講義の雑多な振り返り.
  • 2つのクラスでAcemoglu-Laibson-Listのミクロ編を元ネタに使った.半年でカバーできたのは以下の部分.
    • Cahpter 1: 経済学の原則と実践
    • Chapter 3: 最適化
    • Chapter 4: 需要,供給,均衡
    • Chapter 7: 完全競争と見えざる手
    • Chapter 8: 貿易 [福祉のみ]
    • Chapter 9: 外部性と公共財 [法経のみ]
    • Chapter 13: ゲーム理論と戦略的振る舞い [福祉のみ]
  • 入門講義をスライドだけでやったのは個人的に初めての試みだった.レジュメ+板書よりカバーできる範囲が広まるものの,不正確な記述が増えるので教科書も合わせて読んでほしいという思いを強くした.ALLミクロは現時点では翻訳されていないので,学生が買って読める教科書ではないという点ではいまいちだったかも(訳されていても学生は買って読みそうにないが…).
  • ALLミクロはその他いくつかの理由で使いにくかった.まず,ネタがちょっと古い.たとえば「Facebookはタダか?」では今どきの学生はFacebookやってないので代わりにInstagramのデータを探してくる手間がかかるとか,「ベネズエラのガソリンは激安」ってハイパーインフレの真っ最中やんけとか.
  • 経験主義が大事,というわりに,エビデンスの例はわざわざ講義で時間使って紹介するほどじゃねーなというものが多かった気がする.ただ,結論めいたことを示す,というよりオープン・クエスチョンを挙げたり,自分でやったフィールド実験を紹介したりしており,学生が自分でコラムを読めば知的に刺激がありそうではあった.
  • 微妙に回りくどく,見通しが悪い.たとえば無差別曲線をスルーして予算制約だけで効用最大化問題を説明する,数学をすっ飛ばしてFOCを説明する,など,意図はわからないでもないがなんだか中途半端な印象がある.教える側がいろいろ補足する必要が,他の定番テキストに比べて大きい気がした.
  • とはいえ,Hotellingモデルでいう線分の真ん中あたりにある入門テキストの中では,行動経済学・実験経済学もよく組み入れられている点では随一であると思う(そりゃそうだ).今後改訂を重ねてもう少し使いやすくなることを期待.
  • コメントの中で,先生はAdam Smithが好きそう,みたいなのがあった.ALLミクロにはほとんどSmithは出てこない.私が勝手に何度もSmithを引き合いに出しただけなのだが,入門の題材にSmithはわりとハマりやすいと思った.とはいえ私はSmithの著作なんてまるで読んだこともなくたいして思い入れはないのだが….
  • 期末試験がひどいできだった…たくさんの恨みを買うことになりそう.
    • 教育の質を一定以上保証するためにも,ある程度譲れないラインがある(たとえば需要曲線を読解できる,など).そこに多くの人が到達できるようもう少しエクササイズをみっちりやってもよかった気はする.
  • 入門ミクロなんて誰がやっても同じでしょ,と思っていたけど,実際は教える側の力量がシビアに試される気がした.
  • 教職向けの科目を担当した都合で,教員採用試験の問題を初めて目にした.経済学に関しては悪問ばかりで眉をしかめた.素人が片手間に作っているのではないかと思われた.教採対策を意図した講義をするのはかえって不誠実な気がしたので,8割ぐらいは普通のミクロ入門を叩き込むことにした.

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年度末にメインで使っているパソコンが壊れ,予算の都合で買い換えられない状態が半年も続いてしまった.教育も研究も,特定のマシンと特定の予算に依存しすぎないように環境を考えねばならないと痛感.



Saturday, April 13, 2019

富川『アジアのダイナミズムと沖縄の発展: 新次元のビジネス展開』

読んでいてイライラした,という読書メモ.
  • 富川盛武  (2018) 『アジアのダイナミズムと沖縄の発展―新次元のビジネス展開』琉球新報社. [ Amazon ]
現役副知事が,県の立場から離れて研究者の視点から書いた,という沖縄経済本.研究者を名乗るなら相応の勉強をしてくれ,いっそのこと県政のプロパガンダだと開き直ってくれ・・と思った.

3D棒グラフにイライラしながらページをめくっていたが,次の記述でストレスがピークに達し,このブログを更新せざるを得なかった.
しかし,経済学は合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提しており,文化の異質性の概念が欠落し,同質性(ホモ)を前提に組み立てられている.唯一の物差しは貨幣タームである.人間の行動は,単に経済的要素のみによるのではなく,伝統,文化,宗教,風土という「エトス」によって決定される.それにもかかわらず,経済的合理性のみによって行動する「ホモエコノミスト」を前提に展開したところに,これまでの経済分析の問題があった.人間,文化,風土の視点から見ると,沖縄が発展する可能性は大なるものがあると思われる. (p.37)
学部生でもわかる初歩的な誤解をばらまくのは勘弁していただきたい.
  • homo economicusのhomoは,「同質性」(ギリシャ語のhomos) でなく,「人間 」(ラテン語のhomō) の意ではなかったか(?).現代経済学は同質性を前提にして組み立てられてはいない.同質性を仮定するどころか,観察できない異質性があることを前提に分析するのは珍しくない時代である.
  • 「合理性」にはいくつかの解釈があるが,「経済人は合理性のみによって行動する」ものではないし,「エトス」は合理性と矛盾するものではなくそれを加味した分析は少なくない.
  • 「唯一の物差しは貨幣ターム」ではない.貨幣や余剰で考えてよい状況を支える仮定と,合理性や文化の異質性を捨象することは関係ない.オーソドックスなモデルは任意の財を価値基準財に設定することができるどころか貨幣が存在しない.

ここだけではなく本書全体に渡って,専門用語を適当に散りばめ(その用法は間違っているか不明瞭である),論理の飛躍だらけでほとんど何も言っていない文章で,素人をなんとなくわかった気にさせている.詐欺師の手口と大差ないと思う.

おかしなところはたくさんあるが,もうひとつ異常すぎて笑った箇所を指摘しておきたい.
・・・マクロ的な技術進歩を示す生産変動要因分析(産業連関分析)を用いて分析したい.・・・1975--2000年の比較をしてみよう.・・・技術進歩による生産増加は,全体でマイナス1兆8791億7700万円(1975年価格)となっており,技術進歩が見られない. (p.238)

根本的に分析が間違っているような..R-JIPではたしかに沖縄のTFP成長の寄与は他地域より極端に少ないようだが少なくともマイナスではない.現在NGDPは4兆円程度であるのにそのマグニチュードは...2005--2011年で見ても「技術進歩」による効果はマイナス521億円らしい(p.16).

「若いときから沖縄の振興に関する国,県等の委員会等に参加してきた」筆者には,次の振興計画を考える前に,破滅的な「技術進歩」を食い止められなかった責任を取られてはと思うのだがどうだろう.


Tuesday, April 2, 2019

伊神『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』ほか

もう少し読書メモ.
  • 伊神満 (2018) 『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』日経BP社. [ Amazon ]
2018年のベスト経済書らしく,とてもおもしろい.ジャーゴンを徹底的に噛みくだいて説明,ユーモアにあふれて例も豊富,入門書としてこれ以上の本はなかなかないと思う.

さすがは五大誌で,問いの設定が単に面白いだけでなく,分析の細部まで丹念に検討されている.原論文読んでない(弊学ではJPEの最新分は購読していない…)のでディテールはわからないが,Cournotを仮定(仮定を正当化しやすいカテゴリに注目)し,需要関数を推定できるIVを持ってきて(exclusion restrictionってそういう解釈でいいの?),FOCから限界費用を楽々バックアウトし(新製品の限界費用かなり低いけど現実的?),扱いやすくフィットもよいモデルができた,計算コストが大きい推定も突破できた,そして経営学的なストーリーを経済学的な方法論で批判的に検証できた,あたりが売りなのだと思う.

 クリステンセン(私は未読)のもやもやとしたストーリーのもやもやとした部分をたびたび批判しているが,時間不整合性を許容した(双極割引など)動学モデルを推定して,その効果よりカニバリゼーションがでかいことを示したようには見えなかったが….それほど差別化されておらずカニバリゼーションを内部化する効果が大きい新製品をリリースしているからには,状態を遷移するコストkappa (定数?) が低いはず,という話だが,kappaは時間不整合性のコストを測っているのだろうか? (時間不整合性を許容したモデルの挙動をそうでないモデルのkappaで表すことができるのだろうか?) (あとkappaは流動性制約と不確実性・不可逆性からくる,既存企業ほど様子見をする便益が高いというオプション価格分や,イノベーションのエフォートコストもひっくるめて捉えているように読める.)
kappaは市場構造にも大きく依存していると思われるので,定性的な議論を定量的に論駁したといってもHDD以外の世界については未解決(だしそれは論文の射程外)にとどまっているかなと.たとえば,昔の研究手法でがんばり続ける老教授(偉いと思う)は,自分の過去の論文を否定することになるから,というより新しい分析技術に能力的にキャッチアップできない(kappaが加齢とともに上昇)から,だと思われる.

  • 根井雅弘 (2009) 『経済学はこう考える』筑摩書房.  [ Amazon ]
  • 根井雅弘 (2011) 『20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ』筑摩書房. [ Amazon ]
ALLミクロことAcemoglu-Laibson-Listを読みながら講義資料を作っていて,経済思想史の話がほとんどない(スミスとハイエクがちょっと出てくるぐらい.もちろんパレートやピグーの名前はあるけど)ことが気になっている.
ALLミクロでは経済学的な問いとして「大学を出るのはペイするのか?」と大卒プレミアムの推定を挙げており,たしかにそれも大事な話で私も別の授業で毎年話をするのだが,経済学ってお金儲けの世知辛い話ばかりしている…と早合点されてしまいそうでなんだかなぁという感じである.

そんなわけで,入門講義ではスミスやマルクスやケインズやハイエクみたいなところも紹介するだけしようと思っている.そこで,変なことを教えないように,経済思想史のハンディな新書2冊をぱらぱら見た.2冊は連作で,『経済学はこう考える』はケインズとそれにつらなる人々を中心にし,『20世紀をつくった経済学』はシュムペーター・ハイエク・ケインズの3人に絞ったものである.いずれも,いかに自分がケインズなどの偉人を単純化し定形化し誤解していたかがわかって恥ずかしい限りである.

この2冊はジュニア向けということで,本当にハンディで,短時間でさらっと読めるところがよい.これが猪木『経済思想』や間宮『市場社会の思想史』だととてもいい本ではあるがうちの学生にはお勧めしにくい.

『20世紀をつくった経済学』のほうでは,シュムペーターが哲学者アンリ・ベルクソンからイノベーションの着想を得ていることが指摘されている.『経済学はこう考える』のほうでは,ケインズやマーシャルが狭い意味での経済理論ばかりでなく,歴史学や社会学などに深い教養を持ち,スケールの大きい思索をしていたことが指摘されている.精緻な数理モデリングや丹念なデータ分析はもちろん大事なのだが,それだけではいかんのだ.ALLやその他最近の入門書(神取除く)みたいに,経済学の歴史的な背景や哲学や問いをすっ飛ばしてしまうのもどうなのかなと思う.



以下は単なる思い出話.ちなみに,私自身が経済学に入門した頃に読んだ初めの一冊は(単なる歴史オタクだった高校生の頃眺めたワルラスや野呂栄太郎を除くと),
  • 酒井泰弘 (1995) 『はじめての経済学』有斐閣. [ Amazon ]
である.親父ギャグ満載でそれこそ親父世代の本で,読んだ当初はお子様扱いするんじゃねーという気持ちもあったが,ここで学んだものがミクロを理解する基盤になっているのは今でも感じるし,教える立場になって再読するととてもよい「入門の入門書」だと思った.経済学史上の偉人もたびたび紹介されている.「マルクスが死んだ年に,ケインズとシュンペーターと高田保馬が生まれた」みたいなコラムがあるぐらいだ.

あと大学に入った当初は,あまり知られていないタイトルだが
  • Susan J. Grant (2000) Stanlake's Introductory Economics. Longman. [ Amazon ]
を読んだ.こちらは無駄に分厚く読むのはしんどかったが,経済学者の偉人がたびたび紹介されている他,簡潔でいて悪くない練習問題が豊富だったりする.

 大学1年生の頃は講義の教科書以外に,学部向けVarianを読んでいた(マクロだとSamuelson-NordhausBaumol-Blinder (最近の版はSolowも加わっているらしい)).
Varianは,和訳でちゃんと伝わるかわからないが,文章の切れ味がすさまじい.ALLミクロは,対象読者が違うので比較するのはフェアでないが,Varianに比べるとかなり「だらしない」印象を受ける.
Varianには思想や哲学の話はまったく出てこないし,「エビデンス」もあまり出てこない(顕示選好はしっかりあるけど).18歳の頃はVarianが何を言っているのかよくわからないままページをめくっていたものの,中途半端なやさしい入門書ばかり読んでいたら博士課程まで行ってなかったと思う.
若いうちに,Varianぐらいガチなものと,酒井のような柔らかいものと,両方通っておいてよかったなと.

Saturday, March 23, 2019

安里『未来経済都市 沖縄』ほか

カリキュラムに振り回されて,次年度は授業準備でひどく忙しくなる予定.

忘れないうちに最近の読書記録を残しておく.
  • Richard Baldwin (2019)  "The Globotics Upheaval: Globalisation, Robotics and the Future of Work" Weidenfeld & Nicolson [ Amazon ]
 技術変化+グローバル化 ("globotics"と呼んでいる) というよくある話の一般人向け読み物.今起こっていることは変化のスピードが急速で,また不公平なものであり,社会を揺るがしている.この新たな産業構造変化を,フェアでequitableでinclusiveなものにしなければならない.AIに簡単に代替されない仕事は対人コミュニケーションが必要なものなのであろうから,フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取りやすい都市こそがいっそう経済の中心となる..というよくある話をつらつらと.
前著The Great Divergenceとスケール感は似ているが,前著に比べて理論・実証とも薄まった印象.

  • 安里昌利 (2018) 『未来経済都市 沖縄』日本経済新聞出版社. [Amazon]
県内のビジネスマンなら誰でも知ってる沖銀元会長が書いたコラム集.県内のビジネスマンなら誰でもどこかで小耳に挟んだことがあるような話をまとめたミニコラム集.こうした生きた話は象牙の塔の住人には書けない.沖縄に新たに転勤してきた県外人が読むとちょうどよいのではないだろうか.

ただ,個人的には話が薄すぎてそれほどおもしろいものではなかった.「おわりに」で筆者自身のキャリアが語られているが,沖縄経済時事の話よりもこちらのほうがよっぽどおもしろい.

おもしろくないのは,議論が浅く緩いためである.たとえば,シンガポールは資源のない小国だが「戦略的に国家運営を行ってきたことが背景に」あり,「「地の利」を活かして」「ヨーロッパへのゲートウェイ」となることができたため豊かである,そして沖縄は「同じように,さまざまな試作を実施することで,世界中の企業を誘致することができ」,「人口の流入によって国際都市を目指すことができ」,「シンガポール以上に大きな反映の可能性を秘めている」,とのことである.

シンガポールでうまくいった(ように見える)政策は本書で示唆されるように沖縄にも適用できるのだろうか.あまりリアリティを感じない.たまたまカンファレンスでシンガポールに行く途上の機内でゆるふわな文章を読んだのでとてもモヤモヤしてしまった.
  • 岩崎育夫 (2013) 『物語 シンガポールの歴史: エリート開発主義国家の200年』中央公論新社 . [Amazon]
ちなみにシンガポールの歴史についてはこの新書が読みやすくとてもおすすめ.中公新書の「物語○○の歴史」シリーズはだいたいハズレ無しだがその中でも出色の出来だと思う.

この手の本を一冊読んでおくだけど,シンガポールを真似して我々も発展しよう,などという素朴な思いつきを書籍として堂々と公刊するようなことにならなくて済むと思うのだが.

あと安里(やその他県内でよく耳目にする言説)では,LCCの使うリージョナル・ジェットは4000km圏内での飛行が主である中で,那覇空港から4000km圏内のマーケット・サイズが大きい(かつ日本国内である)ことを強調している.
たしかに現状はそうなのだろうが中長期的にはどうなのだろうか.将来的に4000km以上飛べる廉価な機体が普及すれば航空業界のゲーム・チェンジャーになるだろうし開発・導入するインセンティブはあるだろう.現時点でもAirAsiaは4000km以上飛べる機材を運行している.
また,同じ同心円を描くなら沖縄よりも台湾や香港の方がカバレッジが広い(たとえばジャカルタは那覇からは届かないが台北からは届く)上,英語・中国語が使え言語の壁も低い.
そもそも,市場アクセスという観点からは東南アジア以上に大陸中国のほうが今も近い将来も重要なのだから,中国をスルーした議論はあまり意味がないと思う.本土からは,沿岸部はもとより内陸部までLCCはすでに就航している.中国向け輸送において沖縄に格別な優位性があるとは考えにくいのだが.
輸送上のアドバンテージは素朴に地図上で同心円を眺めるだけではよくわからず,実際のバリュー・チェーンに合わせて考える必要がある気がする.
ハブはたくさん必要ないからハブなのであって,香港上海台湾をしのぐ立ち位置でなければハブとしての成功は限定的なものにとどまるのではないだろうか.

  • 佐々木彈 (2017) 『統計は暴走する』中央公論新社 [Amazon]
統計リテラシーを磨く本.とても刺激的で面白い.第一線で活躍する研究者が実証のペーパーをセミナーで見聞きするときに,どういった観点から攻めているのか垣間見ることができる.

  • Daron Acemoglu, David Laibson, and John A. List (2016) "Economics"  東洋経済新報社  [Amazon]
「ALL」こと一流経済学者たちの新しい入門テキスト.ミクロの入門講義を新たに担当する予定なので入手.早く和訳してくれないと教科書には指定できない…

経済学の三大原理「optimization / equilibrium / empiricism」から始まる.従来のテキストに比べてempiricismに重きが置かれ,新しい実証研究が多数紹介されている.授業の元ネタによさそう.
しかし,私が教えるクラスでは,最適化もデータ分析も消化不良に終わりそうな気がしている.ラグランジュ乗数法でごりごり解かせるわけではないので,数学的なハードルはそこまで高くないかもしれないが.
あと,若干寄り道が多いので実際の授業では内容をかなり取捨選択する必要がありそう.

empiricismの例で,付け値地代の推定が紹介されていて,単一中心都市モデルおじさんとしてはspark joyしたけど,授業の素材としてはかなり使いにくいものであった…

  • 本橋 智光 (2018) 『前処理大全: データ分析のためのSQL/R/Python実践テクニック』技術評論社  [Amazon]
前処理をいいコードと悪いコードを対比しながらつまびらかにしてくれる,ありがたい本.おかげでデータ・ラングリング能力が目に見えて向上した.後半には空間情報の扱い方も少しだけ載っている.例題はビジネス実務向けだが,研究者にも有用だ.SQL,R,Pythonのうちどれか1つ知っていれば読めるはず.


  • John Yinger (2018) Lecture Notes in Urban Economics and Urban Policy. World Scientific Publishing Co. [ Amazon
大学院向け都市経済学の講義ノート.箇条書きのスライドをそのまま本にした感じ.AMMなど伝統的な都市経済モデルベースで,代表的なトピックの理論と実証がまとめられている.本人のウェブサイトにアップされている講義資料を見たほうがいいような…

  • きはしまさひろ (2016) 『イラスト図解式 この一冊で全部わかるサーバーの基本』SBクリエイティブ. [ Amazon ]
サーバーについてお勉強.この本は見開きの半分はイラストになっていて,横文字が苦手なド素人にはとてもありがたい.イラストといっても,マンガでわかるなんとかみたいなオタクっぽいのじゃなく,無駄な情報がないのがよい.
わかりやすいといっても,馴染みのない横文字のオンパレードなのでサクサク読めるわけではない.普段から使っているサービスと対応付けながら少しずつ理解を重ねていく必要がある.

  • John D. Kelleher, Brendan Tierney (2018) "Data Science" MIT Press.
竹村先生の岩波新書赤と合わせて,この手の入門講義をするときには役立ちそう.勉強不足なビジネスマン向けの煽り本ではないところがよい.テクニカルな話はほとんどなく(NNを説明するためにちょっと一次方程式が出てくるぐらい),フィールドの空気感やエッセンスをほどよく広く浅くカバーしている.
(機械学習勉強するならこういう入門書はすっ飛ばして,Hastie, Tibshirani and Friedman (無理ならJames他)に目を通してから,DNNや強化学習を追加で学ぶのが早いと思われる.)
  • 西水美恵子 (2009) 『国をつくるという仕事』英治出版
開発の啓蒙書って意外に選びにくいのだが,これはかなりよい.学生に読んでほしい.

  • 小林多喜二 (1929) 『不在地主』 中央公論. [ Amazon ]
都市経済学者はタイトルだけで買いたくなる.が途中で飽きた…
プロレタリア文学.北海道を舞台に,不在地主という資本家(とそのエージェント)と労働争議で戦う小作農の話.

  • 濱下武志 (1996) 『香港: アジアのネットワーク都市』 筑摩書房. [ Amazon ]
これも途中で飽きた…返還前に書かれたもので古い.香港の「位置づけ」「枠づけ」をし直してばかりで,その新しい視点から具体的に何を発見できるのか,既存のliteratureにどういう形で貢献したのかが,回りくどくて全然頭に入ってこない.
remittanceの歴史を追いかけてきたという話はワクワクしたのだが…

Monday, March 11, 2019

Mathematica用の効果音

Mathematicaは音を鳴らすことができる.
たとえばコードの最後の行に次のコマンドを入れておくだけで,計算終了時にピーッという音が鳴る.

EmitSound@Play[Sin[2 Pi 880 t], {t, 0, 0.5}]  (* finish *)

Sachiko Mみたいに淡々と正弦波を鳴らすのも好きなので私はこれを何年も使っているのだが,味気ないので計算の待ち時間を利用して別のものも作ってみた.

sn[list_, length_: 1] := SoundNote[list, length length4 ] 
(* define *)
sound1 := Block[{length4 = 0.2}, EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"D3", "F", "C5"}], sn[{"F", "C5"}], 
   sn[{"A3", "F", "C5"}], sn[{"D"}, 1/2], sn[{"D", "F", "C5"}],
   sn[{"F", "C5"}],  sn[{"D"}, 1/2], sn[{"A3", "F", "C5"}, 1/2],  
   sn[{"D"}, 1/2], sn[{ "F", "C5"}],
   sn[{"C3", "E", "B"}], sn[{"E", "B"}], sn[{"G3", "E", "B"}], 
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{"C", "E", "B"}], 
   sn[{"E", "B"}], sn[{"C"}, 1/2], sn[{"G3", "E", "B"}, 1/2],  
   sn[{"C"}, 1/2], sn[{ "E", "B"}]
   }] ]
(* run *)
sound1

無敵になれた気がしますね.
エレピの音を読み込むのに初回実行時のみ少々時間がかかるので注意("ElectricPiano"を単に"Piano"とすればおそらく読み込み不要).

もう少し短いのだと,

sound2 := Block[{length4 = 0.225},EmitSound@
 Sound[{"ElectricPiano", sn[{"G3", "G4", "B4"}, 1/ 2],  
   sn[{"D5", "F5"}] , sn[{"G3", "D5", "F5"}, 1/2] ,
   sn[{"G3", "D5", "F5"},  2/3] , sn[{"A3", "C5", "E5"},  2/3] ,
   sn[{"B3", "B4", "D5"},  2/3] ,
   sn[{"C4", "G4", "C5"}, 1/ 2], sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{"G3"}, 1/ 2], 
   sn[{ "E"}, 1/ 2], sn[{ "C3", "C4"}]
   }] ]
(* run *)
sound2

もちろん著作権は私のものではない.

Saturday, February 9, 2019

沖縄経済論2018 アップデート

沖縄経済論という個人的に気に入っている講義がある.講義と成績評価を終えて一段落したところで,振り返りのポストをしておく.
今年度の講義資料は私のウェブサイトにしばらく置いておく.前回からあまり変更はない.今回は受講者数に比べて教室が大きすぎて,若干やりにくかった.想定よりも2コマ分ほど時間が足りなかった…

近年は沖縄経済のことについて熟考する時間もないのだが,2年前の講義から微妙に変わったことについて雑多にメモをしておく.

1. 統計の信頼性

大学院を出たばかりの頃は,データorientedでない論文はいまどき見向きもされないよねと時代の空気を漠然と反映してイキっていたが,毎勤を中心に基幹統計の信頼性が大きく揺らいでいる昨今,集計データでなにかわかったようなことを言うむなしさも感じている.

私の講義は煎じ詰めれば,データをぼんやりながめるとこういうことが言えそうだよね,という話でしかない.データそのものがおかしいのであれば,ただの徒労にすぎない.最近のニュースはとても残念である.

2. 産業構造

昨年末に日銀那覇支店が「沖縄県の所得⽔準はなぜ低いのか(現状・背景・処⽅箋)」というレポートを公表し,私はそれを講義中にこき下ろしたw 最近続編も出てこちらも機会があればなにかコメントしたいと思う.

ともあれ,日銀の見解では,第三次産業のシェアの高さが,所得水準の低さや労働所得の低さと相関があるように見える,とのことである.
  1. 産業間の賃金・成長率格差
    1. 因果関係はいったんおいたとしても,製造業のほうが他の産業よりも賃金率や成長率が高い,というなら日銀の見解は理解できる.しかし,IT革命以後は製造業が唯一のリーディング産業というわけでなく,産業間の賃金格差も以前に比べるとずっと縮まっているように思う.単純に産業のシェアだけをみてどうこう言うのは(入門レベルの授業では私もやるけど)無理があると思う.
  2. 内生性
    1. 産業構造はpersistentながら,givenなものではないと思う.初歩的なリカード・モデルでは生産性が産業構造を規定するわけで,産業構造が何らかの原因とでも言いたいかのような日銀の議論は学部入門レベルさえすっ飛ばしたアマチュア向けのアマチュア理論だと思う.ちまたの評論家がそれをやるのは勝手だし,因果関係にまでは踏み込まない知的慎重さと無責任さはわかるのだが,高い給与と社会的地位をもらっている日銀マンがそれをやるのは正直どうかなと思う.
  3. 基地の影響
    1. 米軍基地のせいで第三次産業が「固定化」「肥大化」という議論をしばしば目にするが,これは論理の飛躍がありすぎると思う.昨今では医療福祉系の雇用・産出が伸びているが,これは本当に基地のせいなのだろうか?デモグラフィ要因が大きいと思うが.また,セクター間の移動が何十年単位でpersistentというエビデンスは多くないと思うのだが.


3. 中世沖縄のabsorptive capacity

琉球王国は交易で栄えたというのが世間一般の共通理解だと思うが,交易に不可欠な資本(遠洋航海可能な船舶)やスキル(語学)・信用(契約履行)はどこから来たのか,が2年前からの疑問である.
講義では,absorptive capacityやadoptionのインセンティブが低い&鉄や材木が取れないため,船舶を自給することが難しかった,というストーリーで話をした.

講義後,17世紀末には中国からの支援や優遇策が途絶えていたという議論を目にした.単に県民が学ばないアホだったというわけではないのかもしれない.

4. 沖縄の自立

以前と基本的なスタンスは変わっていない.古い世代の学者たちは,モラル・ハザードやソフトな予算制約式という概念を薄々わかってはいるがうまく言語化することができなかった,そのため「自立」というゆるふわワードに頼ったのではないか,と思う.


5. 米軍基地への依存

講義資料を作っていて気づいたのだが,「基地関係収入」と「基地関連収入」は行政・政治的には明確に区別がされている.こうした区別は馬鹿らしいと思われないのだろうか. (また,こうしたいかがわしい区別を明確にし批判した議論はこれまでに真摯になされてきただろうか?)

県がいう「基地関連収入」は軍用地料・軍雇用者所得・米軍等への財・サービスの提供を指す.いわば米軍基地向けの「貿易サービス収支 + 第一次所得収支」である.
一方,県の資料「沖縄の米軍及び自衛隊基地」における「市町村基地関係収入」は,軍用地からの地代収入 + 国からの補助金,という第二次所得収支(+α)に相当するものであろう.

県が基地への依存は5%ほどしかない,と主張する根拠は基地関係収入/県民総所得が5%
程度,というところにあるが,ここには沖縄振興予算や環境整備法・基地交付金に基づく所得移転はカウントされていない.現実的には内閣府の沖縄振興予算の増減が注目されているというのに.「基地関連収入」は政治的に偏ったアンフェアな(運用をされてしまっている)指標だと思う.
「自立」を標榜する人たちが沖縄振興政策のもとで予算を必要としない優遇措置(税率の減免)に明確に反対している姿は見ない.闇が深い.

6. キャッチアップ不在

沖縄と全国平均は,成長率が同じで初期値が違う,という性質がある.2年前はこうしたファクトを手軽にreconcileできる枠組みに思い当たらなかったが,単にAKモデルでよいと気づいた.

ただ,AKモデルのような素朴な世界がデータにぴったり当てはまる世界というのは,かえってデータのほうに問題があるのではないか,県民経済計算の作成プロセスに根本的な問題があるのではないか,という気にさせられる.

講義では教育的な配慮からSolowモデルを中心に教えているが,現実を描写する上でAKモデルのほうがよいとなるとそれはそれで教えにくいし困ったことになる.

7. 北谷

基地返還のポジティブな効果として北谷の発展が挙げられることがよくある.が,データをふんわりながめると,北谷は基地返還後に発展したというより,返還前から発展していた,というほうが正確な予感がする.要は逆因果であり,平行トレンドではないのである.発展しそうな地域だから返還したのであって,返還したから発展したとは言えない.ましてや他の基地を返還しても北谷のように発展する保証はない.

実質賃金が上がった下がったと,学部向け教科書に乗っている同時方程式の識別の問題をすっ飛ばして好き放題言っている人たちがたくさんいる世の中で,内生性を議論しても無力感があるが,県内で「知識人」や「学識者」や「経済界重鎮」として発言してる人でさえ独りよがりの議論をしてしまいがちなのは残念である.


Wednesday, February 6, 2019

SSD交換

Google Sitesのレイアウトが変わり,私のウェブサイトからこのブログへのリンクが外れてしまった。元に戻し方がよくわからない。

今使っているマシンのCドライブは128GBのSSDなのだが、容量と寿命的な限界を感じていたので、新しいSSDに入れ替えた。その際いくつかのトラブルに見舞われた。覚えているうちにメモ。特にオチはない。
  • 環境:
    • Windows 10
    • HPのデスクトップ(Elitedesk)
      • ハードディスクを設置できるスペースが潤沢にあり、SATAの電源ケーブルが1つ余っていて、SATAの信号ケーブルの空きスロットが2つある。
  • 新SSD:
    • SanDiskのSSD Plus, Solid State Driveというものを購入。1.5万円程度で960GB。一昔前と比べてずいぶん安くなったものである。
  • その他準備: 
    • クローン用のEaseUS Todo Backupとパーティション変更用のEaseUs Partition Masterをインストール。どちらも無料版。
    • SATA信号ケーブル1本。他のマシンについていたものを拝借した。
  • やったこと:
    • 新たなSSDを接続。
    • 間違ってはじめは「ディスクの管理」でMBRにフォーマットしてしまった。もともとのCドライブがGPTなのでGPTにする必要あり。→ EaseUS Partition MasterでGPTに変更。
      • ドライブレターはなんでもよいが、デフォルトのままやると弊社の学内LANとかぶってしまった。ドライブレターを再度変更し、特に問題は起こらなかった(クローンした後はCドライブになる)。
    • EaseUS Todo Backupでクローンしようとすると、未割り当て領域がないからなんとかしろと言われる。→ 「ディスクの管理」で新ドライブを「ボリュームの削除」する。
    • EaseUS Todo Backupでクローンする(システムクローンではないらしい)。SSDに最適化、という高度なオプションもつけておいた。 
    • 古SSDを外す。
      • ねじはT15の星型ドライバーが必要。マイドラでも大丈夫。
      • ハードディスクは緑色のロックを軽く引っ張りながら引き抜けばよい。
これで一応交換は終わり、Windowsも動くようになる。しかしいくつかの問題が発生した。
  • 問題1
    • Cドライブの空き容量が、交換前と変わらず少ない。
    • → パーティションをいじっておらず、未割り当て領域がたくさん残っているのが問題。
  • やったこと:
    • EaseUS Partition Masterで未割り当て領域をCドライブに割り当てる。
      • 「サイズ調整/移動」でリカバリイメージなどを未割り当ての右側に移動させていく。
  • 問題2
    • ATOKが辞書を読み込めず変換できなくなった。
    • → アンインストールして再インストールを試みた。
    • → しかし、インストールディスクのautoplay.exeが実行できない。
    • 未解決。現在IMEをしぶしぶ使っているところ。
  • 問題3
    • 起動するたび、新しいデバイスを刺したときの「テッテレレッ」という音が2回鳴る。
    • Bootマネージャーでエラー0xc000000eが発生。
    • また、スタートアップ修復もできなくなっていた。
      • 「設定」→「更新とセキュリティ」→「回復」→「PCの起動をカスタマイズする」→「トラブルシューティング」で出てくる項目がおかしい。
    • これまでWindows 10 Professionalを使っていたような気がするが、いつの間にかWindows 10 Homeエディションになっていた。
  • やったこと:
    • Windowsごと再インストールした。 MSのウェブサイトからインストールメディアをUSBメモリに作成し、使用。 → たいていのエラーは解決。
      • インストールメディアは空きが最低8GB必要と言っているが、容量8GBのUSBメモリを入れてもインストールできた。しかも4GBぐらいしか使用されていなかった。
    • しかしWindows 10 Professionalには戻らなかった…
  • 問題4
    • エクスプローラのクイックアクセスなど、ところどころ微妙におかしい。 → 適宜修正。