Tuesday, November 24, 2015

経済政策II, 第8回, 2015

連休も何かと忙しく採点にも作問にも着手できない…

講義内容
  • 租税・公債の仕組み
  • リカードの中立命題
    • 公債を発行しても,将来の税負担に備えて我々は貯蓄しなければならない.
  • SNAにおける政府部門
    • 租税はただの所得移転.マクロ的な視点を持たない一般人は,間違った理解をしていることが多い.
コメントより
  • 「公債を発行して今は増税しなくても済むけど,増税したら返すお金や利息が増えて大変では?」
    • 今増税するか,後で増税するか(今は公債発行でしのぐ),の2つの選択肢を比較しています.後で増税する場合は利息が増えて,返済する総額が増えますね.
  • 「公債償還に伴う利払い費は誰に対してか?国民に対して行われると理解している.よって利払い費は日銀を介して国民・銀行に,税収(日銀が得た利益は税収として徴収される)する.したがって,国民,銀行,日銀・政府に分配されると思った.ある意味で利払い費により貨幣供給をうながすか?」
    • コメントが難解ですがいくつか気になった点を整理します.
      • 政府は通常国民に公債を売っていますので,利子を払う相手も基本的には国民です.
      • 国庫の管理は日銀ではなく財務省が行っています.(ただし公債を誰がどれだけ持っているか,という所有権の所在は振替機関である日銀が管理しています.)
      • 日銀が得た資産運用益は国庫納付金として政府に還元します.いわゆるシニョレッジというやつですね.
      • 利息を払うと貨幣供給が増えるか,については一般には違うと思います.1億円分の利息を払うのに1億円分の税金を徴収したら,市場に流通するマネーの変化はプラスマイナス0円ですね.
  • 「公債になるといろんな用語が出てきて難しかったけど勉強になった」
    • 公債って言葉自体がなじみないですからね.
  • 「少子高齢化の中で,高齢者は年金や生活保護をもらい,若者の負担が大きすぎるのではないか.一人っ子政策を行ってきた中国は大変なのでは」「歳出の内訳がわかってよかった」
    • たしかに中国も高齢化に備えねばなりませんね.世代間の人口バランスもさることながら,一人っ子政策は男女比も偏らせているようです(男子が女子よりも多い!).
  • 「どうして増税が必要なのか世の中の仕組みが少しわかってきた」
    • 世代間の負担の分かち合いという視点も大切ですね.
  • 「教室がとても暑く換気もしていなかったのでとてもきつかった.本当に暑いときはクーラーを利用したい」
    • 最高気温が30度あったようです…本当に11月なんでしょうか.

Thursday, November 19, 2015

国際経済学II, 第6-7回, 2015

これまで生きてきて様々な災害や暴挙を見聞きしてきたが,今回はとりわけつらく感じた.音楽やスポーツや食事といった,文化的なものが標的となったせいもある.

理性的な対話が望めない狂信的異常集団,とはどうも思えない.彼らのインセンティブや置かれた環境を理解しないことには何とも語り得ないだろう.そこで慌てて池内恵 (2015) 『イスラーム国の衝撃』文藝春秋,を読んだ.たしかに彼らの計算高さを伺うことができる.(知っておきたかったファクトが一通り簡潔に整理されており,全体的に端正でとてもよい本だった.一般に,テレビやネットでお勉強するよりも,プロの本や論文をひとつ読んだ方がよいと思う.)



締め切りラッシュで忙しいため少し間が空いた.時間の使い方を少し間違えたら詰む予感がするほどピンチではあるが,中間試験前なのでいったん更新.

講義内容
  • 国際収支の実態
    • 経常収支の主な構成要素は貿易・サービス収支.ただ近年は所得収支も大きくなっている.
    • 原油の輸入動向は経常収支の動きに影響を強く持っている.
  • SNAと国際収支
    • 国際収支統計はSNAと整合的にデザインされている.
    • 経常収支の黒字・赤字は国際的なお金の貸し借りの問題であることがうかがえる.
  • 外国為替市場の基本
    • あまたの市場参加者が絶え間なく膨大な取引を繰り広げている.
    • 為替レートは外国通貨の(相対)価格,と考えると混乱しにくいはず.
    • フォーワード取引を使えば,為替変動リスクに対処できる.
    • 資産や負債を外貨建てで保有すると,為替変動リスクにさらされることになる.こうしたリスクは,資産・負債をマッチングさせることでリスクをバランスさせることで回避できる.

 コメントより
  • 「基軸通貨のメリット・デメリットは?」
    • よい質問でした.教室でお答えしたときは,(非ランダム)ネットワークの中心として基軸通貨が存在することとしないことの違いでもって説明しました.質問に答えたことにならなかった気もするので少し補足します.
    • 基軸通貨を持つ国にとってのメリットは,自国の通貨のままで国際取引が可能なことでしょう.為替変動リスクに直面せず済みます.貨幣の取引手段としての役割が強く発揮されます.
      • いわゆる通貨発行益も生じます.講義後にちらっと言った法外な特権(exorbitant privilege)について詳しくは,B. Eichengreen (2012) 『とてつもない特権: 君臨する基軸通貨ドルの不安』をご覧ください.
    • 参考書の橋本・小川・熊本『国際金融論をつかむ』の第7章にも詳細な議論がありますのでご参考に.
      • (私は専門でないので,P. Krugman (1995) "Currencies and Crises"に出てくる整理で理解が止まっています…)
  • 「ドルは基軸通貨で,英語も全国共通語とアメリカが中心に経済が動いていることがわかった」
    • たしかにそうなので英語で発信されている情報を理解できるよう勉強しましょう.
  • 「ヘッジファンドについてもっと知りたい」
    • オーソドックスな金融理論の勉強からしてみては.
  • 「日本にもヘッジファンドは存在するか?」
    • もちろん.ただ実態は私もよく知りません.
  • 「将来活用していけたらいいなと思った」 
    • 県内の企業に就職したとして,輸出入・為替と関わるチャンスはたくさんありますよ.
  • 「為替レートの意味がわかった」「計算は理解できた」
    • いいね!
  • 「為替レートはどのように決まるのか?」
    • それがわかれば苦労しません.が基本的な理論はレジュメ5で学びます.もっと詳しく,という場合は国際金融の教科書を読みましょう.
  • 「円高のときにいろいろ買ったことを爆買いの話で思い出した」
    • 円安になった今は,CDや洋書を買うのがためらわれます.
  • 「近いうちに台湾に行きますがどうですか?」 
    • 4, 5回行ったことがありますがおすすめです.都会も田舎も見所たくさん,コミュニケーションも取りやすく治安も良いです.日中台の国際関係史も勉強してからいきましょう.
  • 「テストでは高い点数をとれるように復習をしていきたい」「テストがんばります」
    • がんばってください.講義内容をマスターしていればなんとかなるような問題を作ります.

Wednesday, November 11, 2015

経済政策II, 第7回, 2015

講義内容
  • 総需要・総供給モデルつづき
    • 政府が財政政策や金融政策を通じて総需要を調整し,景気をコントロールすることを総需要管理政策と呼ぶこともある.
    • 総需要曲線や総供給曲線の傾きによっては,政策効果が期待通りに発揮されないこともある.
    • 成長の基盤となる経済制度を整えることも前提として大切.
    • コストプッシュ中に総需要を増やすとけっこうなインフレになることも.
  • 財政
    • 政府にも予算制約がある.
    • 返せない,あるいは返さない方がまし,となったらデフォルトとなることもある.

コメントより
  • 「なぜ2つのグラフの形はこんなにいびつなのか?そして,このグラフから不況を見抜くのか?」
    • 直線のグラフは直感的にはわかりやすいですが,あくまでも現実を近似したもので,現実そのものではありません.
    • 理論上は,各曲線が垂直になる状況を表現することができます.ただ,こうした理論的基礎はちょっと難しいので講義ではカバーできません.マクロの教科書で理論的な背景を学べば,もう少し経済状況を豊かに想像できるようになると思います.
      • たとえば労働力や資本をフル稼働させていてこれ以上生産するのは容量オーバー,という状況では総供給曲線は垂直だと解釈できます.また,流動性の罠と呼ばれる状況(後半の講義でやります)(+かなりアドホックな仮定をおけば)では物価が動いても総需要は動かず,総需要曲線が垂直な状況を導出できます.
  • 「アベノミクスと言った政策の分析も個人見解という形でも導き出すことのできる要因になるのではないかと思った」
    • 文意がよくわかりませんが,いろいろ分析できる便利な道具ですので身につけておくとよいと思います.
  • 「シンガポールなど現在経済成長中の国は総需要・総供給をうまく使いインフレを起こしているということですよね?」
    • 多くの国では多くの政治家・官僚が総需要・総供給モデル的な考え方を理解しているのではないかと思います.
    • ついでにシンガポールでインフレが起こっているかどうかデータを見てみました(下図).インフレを起こしているというよりは,落ち着いた状態で制御できている,という印象です.
      日本とシンガポールのインフレ率比較. 出典: World Bank, World Bank national accounts data.
  • 「社会主義で経済がうまくいっている国ってあるんですか?」 
    • 日本(笑)
  • 「がんばったら報われる社会の方が人生が充実すると思います」
    • そうですね,若いうちはぜひがんばっていろんなものに挑戦してください.同時に,挑戦したけどあえなく失敗した人にもやさしくできるといいんですね.



経済政策II, 第6回, 2015

講義内容
  • 需要と供給,市場均衡
    • 不明な点は遠慮なく質問してください.
  • 総需要と総供給
    • インフレにも2種類ある.
    • このフレームワークだと,インフレ・デフレはあくまでも結果.より本源的な原因がどこかにある.
      • 「デフレが不況の原因」は,筋の悪い政治的宣伝文句だと感じる.(もちろんzero lower boundの脅威は知られているが…)

コメントより
  • 「シフトはどういうときにわかるのか?」
    • 価格以外の何らかの要因で需要・供給が動いた場合にシフトします. 需要や供給が増えたり減ったりする要因自体は山ほどあり,ケースバイケースで考えていくしかないと思います.
      • プロの場合,消費者や生産者がどういう状況に直面しているかを整理して,どういう制約の下でどういうインセンティブを持って意思決定しているか,定量的にはどうなのか,を考えます.
  • 「調べたみるとキャッチアップインフレもあり,それだけ経済は複雑なのだと思った」 
    • インフレと一口に言っても,様々な要因があります.世の中にはなんでもかんでもインフレ・デフレに還元しようとする人もいますが…
    • 日本のwikipediaは,経済学については偏った記述が多い気がします.
  • 「景気と物価の上下は必ずしも同じ方向にならないとわかった」 「よくわかった」
    • 単純なモデルなりに示唆するものは多いです.
  • 「習ったことがないところにきたのでしっかりと覚えたい」「去年国際経済学でやっていたが忘れていた」
    • 総需要・総供給モデルは初登場ですよ.
  • 「均衡は前期習ったのでもっと応用して」
    • 国際経済学Iではやりましたが経済政策Iではやっておりません…余裕がある方はマンキューでも読んでください.講義スピードが遅いなぁとは思っていますが…
  • 「ディマンド・プルやコスト・プッシュは初めて聞いた」「マクロの本に載っているのかなあ」
    • 政策論争の際にこの手の用語を目にすることがあります.もちろんマクロの教科書にもよく載っていますよ.高度な教科書にはあまり載っていませんが.