Friday, March 13, 2015

石油・石炭製品と沖縄の実質GDP

学術論文になりそうにはないが政策的には意味のありそうな発見をしたので,社会貢献の一環として記しておく.誰かがすでに気づいていることなのかもしれないが,もっと知られて良いと思う.

概要
  • 沖縄県の実質県内総生産(以下,実質GDP)は,世界同時金融危機や東日本大震災にも関わらず好調に伸び続けている.
  • しかし,これは計算手続き上のイレギュラーなエラーによるものであり,実際は深刻な打撃を被っている可能性が高い.エラーは石油・石炭製品で生じている.
説明
  • 石油・石炭製品のアウトプットが2008年に急激に落ち込み,名目ではマイナスになっている(-373百万円).
  • これに応じて,デフレーターもマイナスになっている(-2.2).
  • 連鎖方式の妙というべきか,翌年2009年のデフレーターは2.7となっている.これは2007年(63.2)や2005年(91.7)と比べ数十分の一の水準である.
  • 物価が数十分の一に低下したため,石油・石炭製品の実質アウトプットが数十倍に跳ね上がり,1兆円のオーダーで実質アウトプットが増えた.(産業別のGDPデフレーターはインプリシットに求めていないのか?) .これは沖縄県の実質GDP約4兆円に比べあまりにも大きすぎる変動であり,リーマン・ショック(2008年)の影響をくらますのに十分であった.

関連するグラフを並べてみよう.出典は注記がない限り沖縄県「県民経済計算」である.

1. 石油・石炭製品の名目アウトプット

名目産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
 2008年度にマイナスになっている.元凶はこれか.

2.石油・石炭製品のデフレーター
デフレーター. H17暦年連鎖価格. 横軸は年度. ただし全国のデフレーターは暦年, 出典: 内閣府「県民経済計算」.

常識的には考えられない変動をしている.数字も並べておくと以下の通りだ.
  2005年 91.7
  2006年 65.6
  2007年 63.2
  2008年 -2.2
  2009年 2.7
  2010年 3.0
  2011年 2.6
変化率じゃなくて実数である.

3. 実質GDPと,実質GDPから石油・石炭製品を除いたもの
実質産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
石油・石炭製品の分をそっくりそのまま抜き去った分(赤線)と併せてプロットした.金融危機や大震災で大打撃を受けている様子が見て取れる.

前年比に直すと次の通りである.
実質産出の変化率. 単位: %. 横軸は年度.
石油・石炭製品を除いた系列だと,2009年度は-25.44%,2011年度は-33.51%のマイナス成長である.しゃれにならない.

4. 名目GDPと,名目GDPから石油・石炭製品を除いたもの

名目産出. 単位: 億円. 横軸は年度.
名目産出の変化率. 単位: %. 横軸は年度.

実質で見るとパニックが起こりかねないが,名目GDPだと緩やかに成長している様子がうかがえる.

5. 鉱工業生産指数における化学・石油製品
沖縄の鉱工業指数. H22基準. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」.
県民経済計算以外で石油製品部門の動向を見ておく.2008年から2011年にかけての間に極端な構造変化は生じていないように見える.


6. 販売電力量と実質GDP (2015年3月13日追記)
販売電力量合計 vs. 実質GDP. 出典: 電気事業連合会「電力統計情報」.

これは講義資料用に用意していたグラフである.沖縄電力の販売電力量をプロットし,実質GDPと比較している.もしエネルギー消費量が沖縄の経済活動と強く相関があれば,実質GDPの代理指標の一つとして使えるだろう.

グラフでは,金融危機以降沖縄の電力消費量が伸び悩んでいる様子が見て取れる.この間省エネが急速に進んだ可能性はあるものの,実質GDPを鵜呑みにするのは危険だと考えるのが自然だろう.


まとめ
  • エラーがありそうでかつ沖縄県経済にとってマイナーな部門を取り除くと,実質GDPのとてつもない落ち込みが観察された(図3).
  • 公式の実質GDPは,リーマン・ショック以降の沖縄マクロ経済の動きをまるで捉えられない.本来の姿を過大に評価している.



今からちょうど2年前沖縄に赴任したときから腑に落ちなかったものがやっと解消された.とはいえ,知的好奇心は満たされても,喜んではいられない.

ただのヒューマンエラーにしては奇妙だ.2007年11月に南西石油がPetrobrasに買収されたことが影響したのだろうか?

Monday, March 9, 2015

15年2月沖縄県主要指標

とても久しぶりにこのシリーズ.四半期ごとでよい気もする.


前回のエントリ:  14年10月沖縄県主要指標

県内企業業況判断(14年Q4)は予想を下方修正した様子がうかがえる.総事局BSIと沖縄公庫DIだと,およそとんとんである.
沖縄県内企業の景況感. 点線は原系列, 実線は季節調整値. 黒線: 沖縄公庫のD.I., 青線: 内閣府沖縄総合事務局のB.S.I., 紫線: 日銀那覇支店のD.I., オレンジ線: おきぎん経済研究所.  出典: 沖縄振興開発金融公庫「県内企業景況調査」, 内閣府「法人企業景気予測調査」, 日本銀行「県内企業短期経済観測調査結果(短観)」, おきぎん経済研究所「おきぎん企業動向調査」.

鉱工業生産(12月分)は年末に躍進している.
沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. 薄灰色が原数値, 黒が季節調整値, 青がトレンド, 赤が全国. 出典: 沖縄県「鉱工業指数」, 経済産業省「鉱工業指数」.
  • 沖縄の鉱工業生産指数は,食料品工業のウェイトが4割強,窯業・土石製品工業のウェイトが2割弱を占めている.金秀グループを想像すればよいのだろうか.全国の鉱工業生産と違い,広い裾野の産業連関を捉える指数ではないと思う.
  • 食品加工と窯業土石を併せてプロットすると次の通りである.
産業別,沖縄の鉱工業生産, 2010年=100. いずれも季節調整値.出典: 沖縄県「鉱工業指数」.
  • 特に窯業・土石製品工業は鉱工業生産と近い動きをしているようだ.季調値のcross correlationを計算するとたしかに±約8ヶ月は正の相関があるようだ.(季節調整なしだと,窯業が4ヶ月程度先行する.) ガラスやセメントの生産 → 建設 → その他産業,と波及していくイメージだろうか.
  • 食料品加工は,2013年頃から鉱工業指数と水準的に乖離しているように見える.近年の景気拡大を引っ張るのはやはり建設業なのだろう.

消費者物価(1月分)は消費増税分を除けば0%近傍に向かっている.
那覇市のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」

沖縄県のCPI(灰色), コアCPI(赤), コアコアCPI(青)の前年同期比(単位: %). 点線は原数値, 実線は消費税を除いた値. 出典: 沖縄県 「消費者物価指数」
  • たしかに日々目にする小売価格は落ち着いている気がする.もちろんガソリンは安い.じきマイナス圏に突入するだろう.
  • 政治に関する報道の流れが変わってきている気がする.政治的な裏付けを失い,金融政策が着地点を失うと怖いなぁ.
    • 1月頃から少し各指標の雰囲気も変わっている気がする.

労働力調査(1月分)は,男性はポジティブで女性はややネガティブか.
沖縄県の完全失業率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の完全失業率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 男性 (単位: %). 青がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」
沖縄県の労働参加率, 女性 (単位: %). 赤がトレンド, 灰色太線が季調値, 薄い灰色が原数値. 出典: 沖縄県「労働力調査」

毎月勤労統計調査(12月分)から賃金率を計算した.ここでは便宜上,
名目賃金率 = きまって支給する給与 / 総実労働時間. (一般労働者)
と定義する. 前年同月比を見ると次の通りである.
沖縄の名目賃金率, 前年同期比(単位: %). 男性は青, 女性は赤. 出典: 沖縄県「毎月勤労統計調査」.
  • 男女とも14年下半期から名目賃金率は上昇している.13年半ば頃からの極端な落ち込みからは回復しつつあるようだ.
    • 直近だと新しい大型イオンモールができることもあってか,中部の労働市場が逼迫していると聞く.
  • しかし,冬のボーナス(12月の特別に支払われた給与)は例年よりも低調であった.
    • もちろんボーナスの動向は産業によって異なる.前年より顕著にプラスなのは次の通り.
      • 建設 +30.6%, 金融 +38.6%, 不動産 +58.0%
    • どこが低調なのかと思えば…つらすぎる.
      • 学術研究,専門・技術サービス業 -55.3%, 教育,学習支援業 -30.5%
  • 消費者物価指数は増税込みだと+3%弱で推移しているので,実質賃金だと11月を除きマイナス成長となりそうだ.

そろそろ次年度用の講義資料も作成しなければならない.春休み中にやらねばならないことが多すぎる.