Wednesday, January 22, 2014

経済政策II, 第15回

講義内容:
  • ゼロ下限制約
    • 日本では長らく通常の金融政策がうまく力を発揮できない状況にある.ではどうすればよいか,議論が喧しくなされている.
      • 10年前私が初めてマクロ経済学を学んだときにも,量的緩和の話が出てきた記憶がある.英語での講義だったこともありまったくついて行けなかったけど,流動性の罠の図による説明だけはとても印象的であった.
    • こうした状況を脱出した暁に何が起こるかにも注意しなければならない.現行の金融政策の学術的評価が定まるには,しばらく時間を要する.
  • 通貨発行の利益
    • インフレは税としての側面を持っている.再分配の問題が関わってくるので,政治的イシューも大いに絡んでくる.
    • 徴税手段に乏しく財政赤字に苦しむ国は過剰なインフレになりがち.
    • マクロ経済政策運営に失敗するとハイパーインフレになる危険性もある. 
  • 全体のまとめ
    • マクロ経済学は様々な市場が相互に関係し合う厄介な分野.マクロ経済政策運営も当然大変な作業であり,多くの優れた研究者達が頭を悩ませてきた.
    • 勉強してすぐに役立てることができるという代物ではないけれど,社会を大局的かつ体系的に眺めることができるようになるのは,学問をする愉しみであると思う.
      • 個人的には,やはり10年前は,男ならマクロだろう,と変なロマンを感じて勉強していました.あのときの興奮を伝えられたかどうか不安ですが,教えている側はけっこう楽しい講義でした.おつきあいいただきありがとうございます.

期末試験お疲れさまでした.授業評価アンケートもご協力ありがとうございました.以下,結果の概要と,間違いの多かった設問について簡単な解説を行います.


結果:
  • 受験者数19人
  • 平均82.0, 中央値88, 標準偏差14.8.
  • 得点分布は以下の通り.中間試験と似た傾向.
  • 最終的な成績でSまたはAの人が15人.よくがんばりました.ちょっと甘過ぎ?
  • やはり,出席回数と得点には強い関係が見られる.

その他:
  • テストの題材を求めて地元の新聞で「フィリップス曲線」などで検索したものの,リアルタイムの金融政策ネタはほとんど引っかからなかった.情報ソースが県内で閉じているであろうほとんどの学生にとって,マクロ経済政策はそれこそ異次元の話題だったかもしれない・・・
  • 時間不整合性の話もやりたかった.動学ゲームは来年度の経済政策Iでカバーする予定.
    • Bellman方程式を使えば四則演算の延長でフォーク定理を理解できるはず.無限等比級数を使わなくても,数学が苦手な学生相手にゲームの講義ができる気がしてきた.
  • テストの題材探しで黒田総裁のインタビューを読んでいたところ,日銀広報へのメッセージとして次のようなくだりを発見した:
  • …プロフェッショナルな組織だからこそ注意する必要があるのは、専門用語を頻繁に使ったり、自分の狭いロジックだけで話さないようにするということです。世界のあらゆる中央銀行にとって、プロフェッショナリズムが極めて重要であることに議論の余地はありません。そのうえで広報の観点からいうと、そこから一歩前に出て、いろいろな人とオープンに議論するということが必要だと思います。実態をよく理解してもらうためには、プロフェッショナリズムの鎧を脱ぐことも必要です。 (日本銀行 「にちぎん」No.36 2013年冬号, より)
  • プロフェッショナリズムの鎧を脱げ,とは言い得て妙だ.日々の講義にも当てはまるかもしれない.
(追記: 試験の解説はその役目を終えたため削除しました.)

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