最近,Consumer Cityは「趣都」と訳すといいのでは,と思いついた.
それはともかく,講義メモの続き. 15回の講義で,用意したものすべてできなさそうな予感がしてきた.
5. segregation and urban poor
日本だとあまり意識しないけど,segregation (特に人種) は都市の重要な問題である(が個人的には詳しくない).
5.1. agent-based Schelling
昔QuantEconを見ながらSchellingのsegregationを計算したことがあったので,それをさらっと紹介した.
ちょっとした差別意識があると,数世代後には大きな断絶ができることがある,という話.
人は集団への帰属意識を見出しやすいことや (Hargreaves Heap and Zizzo 2009だと,自分と違う集団を信頼しない),差別意識にもtipping pointがあることも紹介した.
5.2. urban poor
貧困層が都市内で固まりスラムができる,といった問題も紹介.スラムの問題は社会学に学ぶことも多いと思われる (白波瀬 2017など).
Matt Kahnが最近書いていた本で紹介されていたけど,貧困地域は物価も高いそうだ.万引のリスクがあるから (+空間価格差別) とのこと.そういえば県内某貧困層向けスーパーは品質の割に高いよなーと思い当たるフシがあった.
ただし,モビリティ低い貧困層向けに独占力を行使する,というストーリーはDellaVigna and Gentzkow (2019) を思い起こすとなんとなく合わない気がする.
講義ではHeblich et al. (2021) を紹介した.汚染地域に貧困層が集まって,汚染が解消された後もそれが続くとのこと.
5.3. affordable housing
公営住宅やレント・コントロールなど,福祉政策としての住宅政策があることを紹介.ただし日本だと公営住宅は乏しく,家賃補助もほぼ普及していない.
価格を歪めるような政策はそもそも正当化が容易ではないことも,よくある効用最大化モデルで見ておいた.もちろん,現実が完全競争市場ではないこと,効率性がすべてではないことも注意すべきである.
5.4. CMTO
Chettyらの一連の研究では,internegerational mobilityに地域間変動がかなりあることが指摘されている (Opportunity Atlas).さらにChettyはいい場所に移住させてどうなるか評価しようとしているようだ(CMTO).
そういうわけで,MTO, CMTOを簡単に紹介しておいた.貧困や格差に経済学ではこう取り組むことができる,という一例である.
恵まれない人は,好きで希望のない場所に住んでいるわけじゃない.いい場所に住居を確保する能力 (ケイパビリティの一種?) が欠けていてそれを比較的低コストで埋められるなら,いい政策になると思われる.
とはいえ,Opportunity Atlasで推定されるmobilityは,次世代にも外挿できるのかが気になった.いい場所にはいい学校があったのかもしれないけれど,現代の子どもを移住させてもいい先生やいい校長はとっくの昔にいなくなっていていい設備は陳腐化しているかもしれない.(論文読んでないので未確認)
貧困層を富裕地に移動させるCMTOとは逆に,「中の上」ぐらいを貧困地域に移動させる例が,Cummingsら (2002)で報告されている.いわく,移住してきた人は住居の周りに「フェンス」を張って,周りとはほぼ交流しなかったそうだ.砂漠にオアシスはできたけど緑化はしなかったという感じ.social networkが形成されるインセンティブもよく考えないと,CMTOは思い通りに機能しないかもしれない.
Haltiwangerら(2020)のHOPE VIプロジェクトだと,移住によるいい効果は雇用機会改善 (空間ミスマッチ緩和?) によるようである.子供の育つ環境も大事だけど,親の経済的な安定性を高めることも重要な気がする.
Reference
Cummings, Jean L., Denise DiPasquale, and Matthew E. Kahn. "Measuring the consequences of promoting inner city homeownership." Journal of Housing Economics 11.4 (2002): 330-359.
DellaVigna, Stefano, and Matthew Gentzkow. "Uniform pricing in us retail chains." The Quarterly Journal of Economics 134.4 (2019): 2011-2084.
Haltiwanger, John C., et al. The Children of HOPE VI Demolitions: National Evidence on Labor Market Outcomes. No. w28157. National Bureau of Economic Research, 2020.
Hargreaves Heap, Shaun P., and Daniel John Zizzo. "The value of groups." American Economic Review 99.1 (2009): 295-323.
Heblich, Stephan, Alex Trew, and Yanos Zylberberg. "East-side story: Historical pollution and persistent neighborhood sorting." Journal of Political Economy 129.5 (2021): 1508-1552.
白波瀬 達也 (2007) 『貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死』 中央公論新社