Sunday, June 12, 2022

2022都市経済学講義メモ4

最近,Consumer Cityは「趣都」と訳すといいのでは,と思いついた.

それはともかく,講義メモの続き. 15回の講義で,用意したものすべてできなさそうな予感がしてきた. 

5. segregation and urban poor

日本だとあまり意識しないけど,segregation (特に人種) は都市の重要な問題である(が個人的には詳しくない).

5.1. agent-based Schelling

昔QuantEconを見ながらSchellingのsegregationを計算したことがあったので,それをさらっと紹介した.

ちょっとした差別意識があると,数世代後には大きな断絶ができることがある,という話.

人は集団への帰属意識を見出しやすいことや (Hargreaves Heap and Zizzo 2009だと,自分と違う集団を信頼しない),差別意識にもtipping pointがあることも紹介した.


5.2. urban poor 

貧困層が都市内で固まりスラムができる,といった問題も紹介.スラムの問題は社会学に学ぶことも多いと思われる (白波瀬 2017など).

Matt Kahnが最近書いていた本で紹介されていたけど,貧困地域は物価も高いそうだ.万引のリスクがあるから (+空間価格差別) とのこと.そういえば県内某貧困層向けスーパーは品質の割に高いよなーと思い当たるフシがあった.

ただし,モビリティ低い貧困層向けに独占力を行使する,というストーリーはDellaVigna and Gentzkow (2019) を思い起こすとなんとなく合わない気がする.

講義ではHeblich et al. (2021) を紹介した.汚染地域に貧困層が集まって,汚染が解消された後もそれが続くとのこと.


5.3. affordable housing

公営住宅やレント・コントロールなど,福祉政策としての住宅政策があることを紹介.ただし日本だと公営住宅は乏しく,家賃補助もほぼ普及していない.

価格を歪めるような政策はそもそも正当化が容易ではないことも,よくある効用最大化モデルで見ておいた.もちろん,現実が完全競争市場ではないこと,効率性がすべてではないことも注意すべきである.


5.4. CMTO

Chettyらの一連の研究では,internegerational mobilityに地域間変動がかなりあることが指摘されている (Opportunity Atlas).さらにChettyはいい場所に移住させてどうなるか評価しようとしているようだ(CMTO).

そういうわけで,MTO, CMTOを簡単に紹介しておいた.貧困や格差に経済学ではこう取り組むことができる,という一例である.

恵まれない人は,好きで希望のない場所に住んでいるわけじゃない.いい場所に住居を確保する能力 (ケイパビリティの一種?) が欠けていてそれを比較的低コストで埋められるなら,いい政策になると思われる.

とはいえ,Opportunity Atlasで推定されるmobilityは,次世代にも外挿できるのかが気になった.いい場所にはいい学校があったのかもしれないけれど,現代の子どもを移住させてもいい先生やいい校長はとっくの昔にいなくなっていていい設備は陳腐化しているかもしれない.(論文読んでないので未確認)


貧困層を富裕地に移動させるCMTOとは逆に,「中の上」ぐらいを貧困地域に移動させる例が,Cummingsら (2002)で報告されている.いわく,移住してきた人は住居の周りに「フェンス」を張って,周りとはほぼ交流しなかったそうだ.砂漠にオアシスはできたけど緑化はしなかったという感じ.social networkが形成されるインセンティブもよく考えないと,CMTOは思い通りに機能しないかもしれない.


Haltiwangerら(2020)のHOPE VIプロジェクトだと,移住によるいい効果は雇用機会改善 (空間ミスマッチ緩和?) によるようである.子供の育つ環境も大事だけど,親の経済的な安定性を高めることも重要な気がする.


Reference

Cummings, Jean L., Denise DiPasquale, and Matthew E. Kahn. "Measuring the consequences of promoting inner city homeownership." Journal of Housing Economics 11.4 (2002): 330-359.

DellaVigna, Stefano, and Matthew Gentzkow. "Uniform pricing in us retail chains." The Quarterly Journal of Economics 134.4 (2019): 2011-2084.

Haltiwanger, John C., et al. The Children of HOPE VI Demolitions: National Evidence on Labor Market Outcomes. No. w28157. National Bureau of Economic Research, 2020.

Hargreaves Heap, Shaun P., and Daniel John Zizzo. "The value of groups." American Economic Review 99.1 (2009): 295-323.

Heblich, Stephan, Alex Trew, and Yanos Zylberberg. "East-side story: Historical pollution and persistent neighborhood sorting." Journal of Political Economy 129.5 (2021): 1508-1552.

白波瀬 達也 (2007) 『貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死』 中央公論新社


Tuesday, June 7, 2022

インタビューされました

先日インタビューを受け,記事にしていただきました.インタビューというよりゆるい雑談でとりとめもない感じではありますが.

HUB沖縄: これからの沖縄振興について今一度考えてみる 第6次計画を読み解く


沖縄振興政策はとくに専門でもなく,生半可な知識と考察で触れてやけどしているかもしれません.EBPMについて上から目線で偉そうに言ってますが地方政府には地方政府なりの事情があるとは思います.

インタビューを受けた後に西銘大臣ビジョンが出て,政府と県がバチバチやり合う政治イシューになっている感もありますが,私は政治に興味が薄くまた巻き込まれたくないという気持ちも強いですよろしくお願いします.


インタビューで話題にならなかったものの,言っておくべきことはもっとあったような気がするので以下思いつくままに私の感じ方を挙げておきます.専門じゃなく,無責任な思いつきレベルですが.

  • そもそも,沖振計の取りまとめに関わった関係者には敬意を持っています.計画を外野からバカにする意図はありません.あしからず.
  • 現職知事のイニシアティブはあまり見えない気がする.
    • SDGsや普天間基地の県外・国外移設が盛り込まれたあたりは政治家の声を感じるが.辺野古移設を食い止めたかったら北部の経済振興にもっと本腰入れたほうがいいんじゃないですかという印象もある.
    • 県の場合,長期計画を策定する企画部がガバナンスの軸になっていると勝手に思っている.しかし知事も企画部もそれほど強くはなく,いろいろな業界の有識者の意見を総花的にまとめるにとどまっているような印象 (ので前回計画よりページ数が大幅増量).草の根のボトムアップな計画とも言えるが,トップのマネジメント能力の不足とも…
      • 政府の仕事は公共財供給など市場失敗の是正…みたいな,大枠の政策思想があまり見えない.いろんな人の話を聞いて,各課で最近やってることをまとめました,という印象を受けた.
    • 「誰一人取り残さない」はもちろん大事な理念だけど,政治家は誰かは損するけれど社会全体のためになるので対立する利害を調整する,といった役目も担うべきではなかろうか.
  • EBPMを推進する資源は確保困難:
    • EBPMは河野太郎の影響と思われる.しかし,そういうあなたも性教育で貧困対策を,みたいな発言をしていて,それはエビデンスがある政策なんかいなとは思った (あるかもしれないけど).
    • 中央省庁でさえEBPMはなかなか進まない.地方政府には,せいぜいどこかのコンサルに投げてロジックモデルを作ってもらうぐらいしかできないかも.エビデンスをチェリーピックしたPBEMも横行しそう.
    • 修士号以上を持つ公務員・県議がいっぱいいれば違うのだろうけど,そういう人はもっといいjob opportunitiesが溢れていると思われるし,そういう人が県庁職員をやるのはミスマッチで資源の無駄遣いでさえある恐れも.
    • 公務員の人事制度も,専門的な評価と相性が悪そう.県庁職員はジェネラリストとしての資質も必要 (中央省庁よりはスペシャリスト色があるが).また,過去の政策がいまいちだった…なんて評価が下る可能性があることは嫌がるに決まっている.
    • そんなわけで,「地方政府の身の丈にあったEBPM」が必要だと思われるが,それは難題だと思われる.気合でなんとかなる問題ではないので,大臣がやれといってもすぐにはできないものである.
      • 記事だと公務員はエコノメを知らないバカと言ってるように聞こえるかもしれませんが,現存のリソースで少しずつ改善していけばいいのではぐらいの感覚でいます.
  • DX:
    • 振興計画にDXがんばるってたくさん書いてあるけど,Solowパラドックスを想起せざるを得ない.組織改革や有形無形の投資が不可欠だと思う.
    • 県だけがDXをがんばっていくわけじゃないので,全国平均以上の成長率をDXで達成するのは,それなりの戦略が必要であろう.オードリー・タン率いるデジタル庁相当の部署を県に創設してやるぜーぐらいのやる気と資源がないと掛け声倒れになるのでは.
    • もちろん,中小企業はPOS使っていてもろくにデータを整理すらできず会計情報を読めず意思決定に役立てていないところも多いかも.デジタルで生産性を高める余地はたくさんありそう.記録があれば地銀側で分析することもできるかもしれないけど,地銀マンに修士号以上を持つデータ分析人材は…
  • 成長率:
    • 毎年3%成長はちょっとねー?というのが第一印象.だが,インフレが来たり,Covid-19での落ち込みを基準にしたり,インバウンドがリバウンドすれば,名目成長率の目標自体はあっさり達成できるかもしれない.
    • それはそうと,県民経済計算のリリース日が年々遅くなっている気がする.企画部統計課がんばってください.
  • 東海岸サンライズ構想:
    • コンパクト+ネットワークという今どきの国土計画に真っ向から立ち向かうかのような,Eraihito-based Policy Makingという印象..
  • 西銘大臣ビジョン:
    • 予算の使途は (国と対立するような首長がいる) 県の自由にさせないよ,というところだろうか.歴史の教科書に載る場面を見ている気持ち.
    • 県の計画は県庁職員がまとめている(と思われる)のに対して,大臣ビジョンは聡明なキャリア官僚がまとめているように見える (霞が関パワポがきれいで印象的).
    • 「強い沖縄経済」にこれまで具体的な定義がなかった (と思う) ところ,ようやく域外競争力が強く,外部変化に強く,民間主導,という3要件が示された.しかし,移輸出できるけど外部の状況に左右されにくいってどうするんだろうか.でかすぎてaverage outできないほど強い企業が生まれないようにする,みたいな話じゃないといいけど笑
      • 「強い沖縄経済」は「Make America Great Again」感がすごいフレーズで,何を目指しているのか見えなかったけど,あえて示さなかったとすると私の想像以上に首相とその周囲は周到だなという気がした.