最新の国勢調査で,人口移動に関するデータを眺めている.今回のエントリは,沖縄には「不詳」に分類されている輩が多すぎる,という話.
総務省国勢調査では5年前の居住地についての情報が集められている.ところが,5年前の居住地が「不詳」となっている人も少なくない.「不詳」の正体は何なのだろうか.
小池・山内 (2014) では, 2010年の国勢調査で「不詳」についてレポートしている.
以下2015年の国勢調査で不詳について見ていく.特に何を明らかにするわけでもなく,どこに不詳が集まっているかを眺めるだけ.
1. 都道府県レベル
47都道府県別に不詳割合を計算する.
現住地による5年前の常住地について,
計算結果が以下の図である.
総務省国勢調査では5年前の居住地についての情報が集められている.ところが,5年前の居住地が「不詳」となっている人も少なくない.「不詳」の正体は何なのだろうか.
小池・山内 (2014) では, 2010年の国勢調査で「不詳」についてレポートしている.
- 2005年以前と比べて「不詳」が急増している.
- 地域,年齢,就業状態によって「不詳」の割合が異なる.
- 大都市圏で高い.沖縄や高知も高い.
- 若者は高い.
- 分類不能の産業,分類不能の職業,で高い.
以下2015年の国勢調査で不詳について見ていく.特に何を明らかにするわけでもなく,どこに不詳が集まっているかを眺めるだけ.
1. 都道府県レベル
47都道府県別に不詳割合を計算する.
現住地による5年前の常住地について,
総数(常住者) = 現住所 + 自県内 + 転入 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」,という関係が成り立つ.ここでは右辺にある2つの「不詳」の合計が,左辺に占める割合を「不詳のシェア」と呼ぼう.なおサイズ的には,後者の移動状況自体が不詳な者が多い.
計算結果が以下の図である.
- 沖縄は東京大阪に次ぐ全国3位の13.7%である. なお,全国平均は8.8%である.
2. 市町村レベル
市町村レベルのデータでも同様に不詳シェアを計算する.市町村の場合,現住地による5年前の常住地について,
総数(常住者) = 現住所 + 自市区町村内 + 自市内他区 + 県内他市区町村 + 他県 + 国外 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」,が成り立つ.ここでも,不詳2つの和が左辺の常住者総数に占める割合を不詳シェアとして計算した.
= 5年前の常住地による人口総数 + 転入 - 転出 + 5年前の常住市区町村「不詳」 + 移動状況「不詳」 ,
全国の市区町村でヒストグラムを作ると以下の通り.
薄くて見えにくいやつが沖縄県内41市町村の分布.全国と極端に変わった気配はないようにも見えるが,全国よりもシェアが高い地域が多いようにも見える.
沖縄県内の各市町村について見る(下図)と,都市部に不詳が集中していることがわかる.
- トップは那覇市でなく沖縄市であった.実に4人に1人(24.7%)が不詳.
- 島嶼部はおおむね低い傾向にあるが,竹富町がけっこう高い.
図2 県内市町村別の不詳のシェア. |
図3 不詳シェアの地図(やっつけ) |
3. 外国人?
不詳というと,外国人が多いせいではないか,と疑う人がいるかもしれない.沖縄市,宜野湾市,北谷町など米軍基地が近そうな場所で不詳が多いように見えるのも気になる.
そこで,「推計人口」から2015年10月1日時点での総人口のうち,外国人が占めるシェアを計算し,不詳との相関を見た(下図).
図4 外国人が多くても不詳は増えないかも. |
不法入国がどれだけあるかは知りようがないものの,外国人が多いコミュニティでは国勢調査の精度が落ちる,とは少なくとも県内に限っては言えない.
4. 人口の流動性?
小池・山内(2014)によると,人口移動の活発な地域ほど不詳割合が高くなることが知られているそうだ.東京大阪のような都市部で不詳が急増するのはそのせいかもしれない.沖縄ではどうだろうか.
次のように人口のモビリティの指標を定義する.
モビリティ =(転入 + 転出) / (常住者 - 不詳)分子は純転入でなく,グロスの人口移動を捉えている.
作成したモビリティの指標と不詳シェアの相関を見たのが次の図.
図5 人口の流動性と不詳は関係なさそう. |
むしろ負相関に見えるのは,沖縄の場合,不詳が少ない島嶼部でモビリティが高い傾向があるからである.しかし島嶼部を除いたサンプルで見ても,依然として人口移動のボリュームと不詳にはあまり関係がなさそうであった.
5. まとめ
沖縄は全国と比べて5年前の居住地が不詳の人たちが多いようである.不詳は県内都市部に広く分布しているようであるが,それ以上の特徴はすぐにはわからない.
不詳となる原因はいくつか考えられるが,外国人が多い地域,転入・転出が多く人の移動が流動的な地域,という説明だけでは不十分そうである.アンダーグラウンドに生きる人たちや,統計調査に非協力的な人たちが他府県よりも多めに存在しているのかもしれない.
なお,若年は不詳になりやすいこともあり,若年が多い地域は不詳シェアも高い.とはいえ,説明できる変動はそれほど大きくない.
結局謎のままだが,とりあえずこのへんで.
Reference
- 小池司朗・山内昌和 (2014) 「2010年の国勢調査における「不詳」の発生状況: 5年前の居住地を中心に」人口問題研究 70-3(2014.9)pp.325~338