Monday, February 8, 2016

マイナス金利と白川氏

地元の新聞に,マイナス金利とは「手数料がかかる」こと,などと解説されていて,あながち間違ってはいないけれどまるで意味がわからないだろうと思った.かくいう自分もまだ消化出来ておらず(専門外だし),思考整理用の雑多なメモを残す.

白川前総裁は退任する少し前の記者会見(2012年11月21日)でマイナス金利について次のように4つの論点を挙げている.
第 1 は、金利をゼロないしマイナスまで引き下げていった場合に、市場参加者がいざ必要というときに市場から資金調達ができるという安心感が なくなってしまうわけです。そうすると、経済に何かショックが加わった場合に、流動性調達に不安が生じるという問題があると思います。
第 2 に、金融機関からの預け金である中央銀行の当座預金に大幅なマイナス金利を適用すると、額面価値が保証され、かつマイナス金利が付かない銀行券に大規模なシフトが生じることになります。
第 3 に、金融機関がマイナス金利のコストを貸出金利に上乗せすることになり、結果的に企業が直面する金融環境が引き締まるという指摘もなされています。
第 4 に、金融機関は、中央銀行のオペに応じて資金を調達して当座預金に置くとコストがかかるわけですから、むしろオペに応じなくなるということになってくると思います。
論点2については今回の措置では銀行券で持ちすぎるとマクロ加算残高から控除することで対処しているようだ.しかしそれ以外の論点については未解決のように思われる.

論点4から,貨幣量ルールから金利ルール?への大きな変更と考えるのが自然だろう.量的拡大で十分だとした当初の目論見が順当に外れてなお引っ込みがつかなくなっている状況で,量の軸で名誉ある撤退の道を探らねばならない時期だったのかもしれない.たしかに非線形な付利スキームのほうが裁量の余地が大きそうではある.

昨年夏に思ったが,ふとしたショックに柔軟に対応できる政策手段を持たないと脆弱だ.論点1は,輪をかけてダウンサイドリスクを意識させることにもなりそうだ.

論点3については,貸出金利に上乗せできず銀行のリスクテイキング能力を弱めるほうがかえって金融仲介機能を弱め経済を傷めつけることになるような気もする.

マイナス金利と言っても,原油安による期待インフレ率押し下げ(による実質金利上昇)効果を打ち消すほど大きくはできない気がする.政策のベネフィットは短期的にも限定的かもしれない.

先月は,期待のコントロールやコミュニケーション政策に関してECBとの違いが浮き彫りになった.もともと期待形成についてどういう確率過程を想定しているのか判然としない政策ロジックであるが,現日銀は市場との対話を放棄したようでもある.

先月は都心で過熱気味な不動産市場を意識した政策変更を予想していたが,むしろ不動産に資本移動が起こっているようだ.沈んだイールドカーブを見ると次何が起こるか不安である.

引用した記者会見から3年強,結局出口は見えないままである.

Tuesday, February 2, 2016

経済政策II, 第15回, 2015

試験お疲れさまでした.こちらの採点結果も以下に示します.
平均71.2, 中央値70.5, 標準偏差15.2でした.まぁまぁですね.

財政政策の問題は,乗数効果とクラウディング・アウトについて記述してほしかったのですが,金融政策と混同したような解答が散見されました.

労働力率については,講義中に学んだM字カーブについて明確に記述してほしかったです.
男性との違いを意識すれば,M字が生じること,20代前半までを除き労働参加率自体が低いこと,の2点を書くことができるはずです.

グラフではM字のへこみそのものはそれほど大きくないようにも見えます.しかし,非正規雇用率のようなジョブの中身に一歩踏み込んで見ると,性差が歴然とあることがわかります.正社員として働き続けるのはまだまだ難しいのです.



次年度はこの講義はいったん不開講として,代わりに「社会経済統計学I」と「沖縄経済論」を持つ予定です.

社会経済統計学Iではいわゆるエコノメの基礎を学びます.少し羊頭狗肉ですが,みなさんがばりばり統計解析用のソフトウェアを回すことは想定しておらず,経済学の実証研究を紹介しながらデータ・リテラシーを磨くことを予定しています.概念としては,ランダム化,大数の法則,仮説検定,あたりを押さえたいところです.行動経済学で明らかにされてきたような,確率に対する認知の歪みなどもついでに紹介できれば.

沖縄経済論は具体的に何をするか未定ですが,開発経済学や空間経済学といった学問分野で積み重ねられてきた知見を紹介する予定です.沖縄経済の独自性や歴史的経緯などはそれほど集中的に取り上げないかもしれません.残念ながら私は沖縄経済の専門家ではありませんし,沖縄経済をめぐる先行研究を探しても自信を持って教えられるようなものがなかなか見つからないためです.

沖縄研究における最大の問題点は,研究成果の妥当性や研究手法の健全性を担保するような,peer reviewベースの仕組みが機能していないことだと思っています.沖縄経済研究を自称するものはいくつもありますが,我々プロが素直に受け入れられるような議論にはなっていないようです.経済学の最先端から50年は遅れているのではないでしょうか.アマチュアには経済学者や大学教員という肩書きにフリーライドしないでいただきたいものです.

Monday, February 1, 2016

国際経済学II, 第14-15回, 2015

結局更新は期末試験に間に合いませんでした.試験日程で混乱があったことも改めてお詫び申し上げます.

今回は採点に秘密兵器を投入したこともあり,例年よりカンニングが多く検出されました(言い逃れできないやつだけで5組11人検出しました).中には中間でも私の他の科目でもチートしていた常習犯もいます.最終的な成績は,見た側も見せた側もFにしています.不服があれば申し立ててください.

学問の世界では,一般社会以上に正直さと誠実さが求められます.人を欺くのは簡単ですが,真理を探究する場を破壊することにつながります.いかなる事情があっても不正は許されない行為だと思います.最近妙な手記を出版した人に対するアカデミアの怒りを思い起こしてください.

得点分布は次の通りで, 0点にある塊はカンニング組です.

平均が71.4で中央値が78点でした.十分ではないにせよけっこうよいと思います.中間でいまいちだったけど期末でがんばったような人も多かったようです.
最後の問題(金利平価から予測される為替レートの動き)は設問に曖昧なところがあり,曖昧な解答が多く採点できませんでした.「為替レートが増える/減る」といったまるで伝わらない表現を取る人がこんなに多いとは思いませんでした.

この講義では国際マクロの基礎知識を足早にカバーしてきました.あまり多くのトピックはカバーできませんでしたが,さらに深い学習をする土台を作れたら幸いです.
一歩進んだ勉強をしたい場合,さしあたりIS-LMやマンデル・フレミングが出てくるマクロの教科書を読むとよいと思います.応用分野に挑む前にベーシックなマクロの知識を体得しておくべきです.


少し前の講義のコメントより
  • 「単純に考えると円安は自国にポジティブだが,他国に打撃なのであまりできないとわかった」
  • 「金融政策によって世の中成り立っていることがわかった」
    • 我々が貨幣を使って生活している以上,金融政策は大事ですね.この講義では趣旨がずれるのであまり深く議論できませんが.
  • 「EUみたいに通貨が決まっていた方が他の国に行きやすくていいなと思った」
    • 独自通貨を持つことの費用便益を考えねばなりませんねぇ.
  • 「知識として自分自身で理解することができた」
    • 考える力を高められるといいですね.
  • 「ゼミでよろしくお願いします」 
    • どういう方が来るか楽しみです.応募者が定員より多かったので,適当に乱数を生成して一番高かった人から選びました.
  • 「先生の話は聞きやすくわかりやすいので来年も受講します」
    • 水曜の3限に新しい講義を開講予定ですが,かなり難しい内容を扱うので履修は注意してください.
  • 「あけましておめでとうございます.大城先生も良い年であるようにお祈り申し上げます.」
    • あけましておめでとうございます.
  • 「成人祝いはいつでも受け付けますよ!」
    • 大人をたかってはいけません.